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'''吸収線量'''(きゅうしゅうせんりょう、absorbed dose{{efn|またはTotal Ionizing Dose、略称: '''TID''' と表されることもある。}})とは、[[放射線]]の照射によって単位質量あたりの[[物質]]が吸収するエネルギー量を言う。吸収線量の単位は[[グレイ (単位)|グレイ]](Gray、記号:Gy)が用いられる。なお、1 Gy = 1 J/kgである。 |
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吸収線量は、その定義として物質の定めが無い。そのため取り扱う問題に応じて物質を定める必要がある。よく用いられるのは、'''臓器吸収線量'''(物質が人体の臓器)と'''空気吸収線量'''(物質が空気)である。 |
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吸収線量自体が[[放射線療法|生物学的効果]]を計る目安に直結しないことには注意を要する。たとえば1Gyの[[光子]]線吸収と比較すると1Gyの[[アルファ粒子|アルファ線]]吸収は生物に多大な悪影響を与える。そこであるレベルの影響を生物に与える[[等価線量]]の算定には、生物学的効果の差を反映する適切な因子([[放射線荷重係数]])を乗じる必要がある。 |
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== 概要 == |
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放射線[[被曝]]による確率的影響のリスクは、実効線量により数値化される。これは[[器官|臓器]]・[[組織 (生物学)|組織]]ごとに異なる[[放射線障害|放射線感受性]]を考慮した係数([[組織荷重係数]])により等価線量を加重平均したものである。 |
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物質が放射線の照射を受けると、放射線と物質との相互作用(主に電離・励起)により、物質は放射線のエネルギーを吸収する(放射線が物質にエネルギーを与える)。物質の種類を指定せず{{efn|同じ種類の放射線の照射であっても、物質によって付与されるエネルギーは異なるので、照射によりエネルギーを吸収する物質(吸収体)が空気である場合は空気吸収線量、人間の場合は臓器(組織)吸収線量というように使用目的用途に応じて物質を特定する必要がある{{sfn|草間|2005|p=19}}。}}、放射線の照射により単位質量あたりに物質が吸収するエネルギー量を'''吸収線量'''(absorbed dose)と呼ぶ。単位としては J/kg の代わりにグレイ Gy が使われる。 |
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放射線は人体にとって一般に有害であるが、放射線の健康影響を決定する最も大きな要素は、この放射線[[被曝]]によって人体の臓器に与えられた吸収線量(臓器吸収線量)である。ただし、吸収線量が同じ場合でも入射した放射線の種類(ガンマ線、アルファ線など)や中性子線の場合はそのエネルギーによって生体に与える影響は異なる。そのため、放射線防護の世界に置いては吸収線量ではなく吸収線量に補正係数である放射線荷重係数を掛け合わせた[[等価線量]]が用いられる。 |
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[[悪性腫瘍|ガン]]治療に電離放射線を用いるさい、医師は通常[[放射線療法|放射線治療]]をGy単位で処方する。電離放射線のリスクを議論する際には、その生物学的効果を考慮する因子を乗じた[[被曝|線量当量]](単位:[[シーベルト]] ''Sievert'' 、単位記号Sv)を用いる。 |
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吸収線量(臓器吸収線量)が主に用いられるのは、放射線防護の領域外である[[放射線障害#確定的影響(deterministic effects)|確定的影響]]を問題とする場合や医療分野における放射線診断・治療による医療被曝の線量を表す場合である。医師は通常[[放射線療法|放射線治療]]を Gy または mGy 単位で処方する{{efn|'''医療の領域において臓器吸収線量が用いられる主な理由'''{{sfn|草間|2005|p=22}} |
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なお、各係数は[[国際放射線防護委員会]]の勧告により変動する。 |
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* 医療で用いられる放射線は、基本的に放射線荷重係数が1.0の放射線(X線、ガンマ線、ベータ線)がほとんどである。 |
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* 医療の領域では、診断に用いられる 数 mGy の被曝から、放射線治療で用いられる 数十 Gy と幅広い線量領域の被曝が取り扱われる。この幅広い線量領域で共通して使える線量は、基本量としての吸収線量である(等価線量は放射線防護を目的とする単位であり、線量限度を超えない範囲で用いられる数値である。そのため、数 Gy を超える被曝の場合には等価線量を用いることはできない)。}}。 |
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== 定義 == |
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=== 吸収線量(absorbed dose) === |
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質量 ''m'' の物質{{efn|なお、吸収線量の定義においては、対象とする物質が具体的に何かという定めは無い{{sfn|森下|2007}}。}}が吸収する平均エネルギー量が <math>\bar{\epsilon}</math> であるとき、吸収線量 ''D'' は、 |
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== 参考文献 == |
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* {{cite book | 和書 | title=放射線健康科学 | author=草間 朋子、甲斐 倫明、[[伴信彦|伴 信彦]] | publisher=杏林書院 | year=1995 | ref={{SfnRef|草間|1995}} }} |
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* {{cite book | 和書 | title=あなたと患者のための放射線防護 Q&A | author=草間 朋子 | publisher=医療科学社 | year=2005 | edition=改訂新版 | url=https://books.google.co.jp/books?id=hqmojLoKQ_QC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false | ref={{SfnRef|草間|2005}} }} |
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* {{cite book | 和書 | title=看護実践に役立つ放射線の基礎知識―患者と自分をまもる15章 | year=2007 | editor=草間 朋子(編) | publisher=医学書院 | ref={{SfnRef|草間|2007}} }} |
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* {{Cite journal|和書 |author = 森下雄一郎 |date = 2007-12 |title = 周辺および個人線量当量標準の設定に向けた調査研究 |journal = 産総研計量標準報告 |issue = 6 |volume = 4 |publisher = 計量標準総合センター |ref = {{SfnRef|草間|2007}} }} |
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* {{cite book | 和書 | title=放射線・アイソトープ 講義と実習 | editor=日本アイソトープ協会(編) | publisher=丸善 | year=1992 | ref=アイソトープ協会 }} |
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== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
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* [http://www. |
* {{PDFlink|[http://www.medicalview.co.jp/download/blue_yellow/2007ICRP.pdf ICRP勧告1990年-2007年の主要変更点について]}} |
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* [http://www.ornl.gov/info/reports/1982/3445603573381.pdf ''Specific Gamma-Ray Dose Constants for Nuclides Important to Dosimetry and Radiological Assessment'', Laurie M. Unger and D. K . Trubey, Oak Ridge National Laboratory, May 1982] - (約500種の放射性核種の(組織細胞に対する)ガンマ線量定数表、1982年の報告書…英文) |
* {{PDFlink|[https://web.archive.org/web/20070816024810/http://www.ornl.gov/info/reports/1982/3445603573381.pdf ''Specific Gamma-Ray Dose Constants for Nuclides Important to Dosimetry and Radiological Assessment'', Laurie M. Unger and D. K . Trubey, Oak Ridge National Laboratory, May 1982]}}(2007年8月16日時点の[[インターネットアーカイブ|アーカイブ]]) - (約500種の放射性核種の(組織細胞に対する)ガンマ線量定数表、1982年の報告書…英文) |
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2024年6月22日 (土) 12:39時点における最新版
吸収線量(きゅうしゅうせんりょう、absorbed dose[注釈 1])とは、放射線の照射によって単位質量あたりの物質が吸収するエネルギー量を言う。吸収線量の単位はグレイ(Gray、記号:Gy)が用いられる。なお、1 Gy = 1 J/kgである。
吸収線量は、その定義として物質の定めが無い。そのため取り扱う問題に応じて物質を定める必要がある。よく用いられるのは、臓器吸収線量(物質が人体の臓器)と空気吸収線量(物質が空気)である。
概要
[編集]物質が放射線の照射を受けると、放射線と物質との相互作用(主に電離・励起)により、物質は放射線のエネルギーを吸収する(放射線が物質にエネルギーを与える)。物質の種類を指定せず[注釈 2]、放射線の照射により単位質量あたりに物質が吸収するエネルギー量を吸収線量(absorbed dose)と呼ぶ。単位としては J/kg の代わりにグレイ Gy が使われる。
放射線は人体にとって一般に有害であるが、放射線の健康影響を決定する最も大きな要素は、この放射線被曝によって人体の臓器に与えられた吸収線量(臓器吸収線量)である。ただし、吸収線量が同じ場合でも入射した放射線の種類(ガンマ線、アルファ線など)や中性子線の場合はそのエネルギーによって生体に与える影響は異なる。そのため、放射線防護の世界に置いては吸収線量ではなく吸収線量に補正係数である放射線荷重係数を掛け合わせた等価線量が用いられる。
吸収線量(臓器吸収線量)が主に用いられるのは、放射線防護の領域外である確定的影響を問題とする場合や医療分野における放射線診断・治療による医療被曝の線量を表す場合である。医師は通常放射線治療を Gy または mGy 単位で処方する[注釈 3]。
定義
[編集]吸収線量(absorbed dose)
[編集]質量 m の物質[注釈 4]が吸収する平均エネルギー量が であるとき、吸収線量 D は、
(吸収線量)
と定義される。微分形で定義されているのは、物質の一定の体積ではなく、点で定義できることを示している。また、平均エネルギー としているのは、放射線一本一本[注釈 5]の挙動はランダムであり、平均エネルギーとしてしか考えられないものであるからである。
注釈
[編集]- ^ またはTotal Ionizing Dose、略称: TID と表されることもある。
- ^ 同じ種類の放射線の照射であっても、物質によって付与されるエネルギーは異なるので、照射によりエネルギーを吸収する物質(吸収体)が空気である場合は空気吸収線量、人間の場合は臓器(組織)吸収線量というように使用目的用途に応じて物質を特定する必要がある[1]。
- ^ 医療の領域において臓器吸収線量が用いられる主な理由[2]
- 医療で用いられる放射線は、基本的に放射線荷重係数が1.0の放射線(X線、ガンマ線、ベータ線)がほとんどである。
- 医療の領域では、診断に用いられる 数 mGy の被曝から、放射線治療で用いられる 数十 Gy と幅広い線量領域の被曝が取り扱われる。この幅広い線量領域で共通して使える線量は、基本量としての吸収線量である(等価線量は放射線防護を目的とする単位であり、線量限度を超えない範囲で用いられる数値である。そのため、数 Gy を超える被曝の場合には等価線量を用いることはできない)。
- ^ なお、吸収線量の定義においては、対象とする物質が具体的に何かという定めは無い[3]。
- ^ 電磁波(ガンマ線、X線)については光子として扱うと考えて[本]と数えている。
出典
[編集]関連項目
[編集]参考文献
[編集]- 草間 朋子、甲斐 倫明、伴 信彦『放射線健康科学』杏林書院、1995年。
- 草間 朋子『あなたと患者のための放射線防護 Q&A』(改訂新版)医療科学社、2005年 。
- 草間 朋子(編) 編『看護実践に役立つ放射線の基礎知識―患者と自分をまもる15章』医学書院、2007年。
- 森下雄一郎「周辺および個人線量当量標準の設定に向けた調査研究」『産総研計量標準報告』第4巻第6号、計量標準総合センター、2007年12月。
- 日本アイソトープ協会(編) 編『放射線・アイソトープ 講義と実習』丸善、1992年。
外部リンク
[編集]- ICRP勧告1990年-2007年の主要変更点について (PDF)
- Specific Gamma-Ray Dose Constants for Nuclides Important to Dosimetry and Radiological Assessment, Laurie M. Unger and D. K . Trubey, Oak Ridge National Laboratory, May 1982 (PDF) (2007年8月16日時点のアーカイブ) - (約500種の放射性核種の(組織細胞に対する)ガンマ線量定数表、1982年の報告書…英文)