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「ハマナス」の版間の差分

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|節 = {{Snamei|Cinnamomeae}}<ref name="Bruun2005">{{Cite journal|author=Bruun, Hans Henrik|title=Rosa rugosa Thunb. ex Murray|journal=Journal of Ecology|volume=93|number=2|year=2005|pages=441-470|doi=10.1111/j.1365-2745.2005.01002.x}}</ref>
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|英名 = Ramanas rose<br>Rugosa rose<br>Japanese rose
|英名 = Ramanas rose<br>Rugosa rose<br>Japanese rose
}}
}}
'''ハマナス'''(浜茄子浜梨{{lang|zh|玫瑰}}、学名:''Rosa rugosa'')は、[[バラ科]][[バラ属]]の落葉低木。夏に赤い花(まれに白花)を咲かせる。根は染料などに、花はお茶などに、果実は[[ローズヒップ]]として食用になる。[[晩夏]]の[[季語]]。
'''ハマナス'''(浜茄子{{sfn|田中潔|2011|p=68}}・浜梨{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}、[[学名]]: {{Snamei||Rosa rugosa}})は、[[バラ科]][[バラ属]]の[[落葉低木]]。別名ハマナシ。海岸の砂地に生えて、群落を作ることもある。夏に赤い花(まれに白花)を咲かせる。根は染料などに、花はお茶などに、果実はビタミンCが豊富で、[[ローズヒップ]]として食用になる。[[晩夏]]の[[季語]]。


== 名称 ==
[[皇后雅子]]の[[お印]]である<ref>[http://www.kunaicho.go.jp/about/history/history02.html 皇太子同妃両殿下]、[[宮内庁]]、2016年3月11日閲覧。</ref>。
別名、'''ハマナシ'''とも呼ばれている{{sfn|貝津好孝|1995|p=167}}{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=209}}。和名'''ハマナス'''の語源は、浜(海岸の砂地)に生え、熟した果実が甘酸っぱいので、−[[ナシ]]に例えて「ハマナシ(浜梨)」という名が付けられ、それが転訛したとする説を[[武田久吉]]が唱えた<ref>{{Cite journal|date=1919|title=雜録|url=https://doi.org/10.15281/jplantres1887.33.387_54|journal=植物学雑誌|volume=33|issue=387|pages=54–61|doi=10.15281/jplantres1887.33.387_54}}</ref>。後に[[牧野富太郎]]が唱えた同様の説が通説になっている{{sfn|貝津好孝|1995|p=167}}{{sfn|深津正|2000|pp=292&ndash;294}}。


しかし、江戸時代の俳諧歳時記『滑稽雑談(こっけいぞうだん)』(1713年)には「初生の[[茄子]]の如し、また食に耐えたり、故にハマナスと云ふ」とあり、また幕末本草学者である[[小野蘭山]]の講義録『大和本草批正(やまとほんぞうひぜい)』には、「実は巾七、八分小茄子の如し、故にハマナスと云ふ」とあり、いずれも果実を初生もしくは小型の[[ナス]]に見立ててハマナスと名付けたとしている{{sfn|深津正|2000|p=293}}{{efn|深津は、現代流通しているナスの多くは長卵形を想像しがちだが、『本草綱目啓蒙』の解説をみると、昔は偏平な丸形のものを好んで栽培していたようであるので、常識ではおかしいという「浜茄子」説も、江戸時代当時としては至極当然な発想だったと解説している{{sfn|深津正|2000|pp=293–294}}。}}。しかし、漢字で「茄子」の字が使われているが、ハマナスはナスとはどこも似ていないという指摘もなされている{{sfn|辻井達一|2006|p=83}}。
== 名の由来 ==

「ハマナス」の名は、浜(海岸の砂地)に生え、果実が[[ナシ]]に似た形をしていることから「ハマナシ」という名が付けられ、それが訛ったものである。[[ナス]](茄子)に由来するものではない。[[アイヌ語]]では果実をマウ(maw)、木の部分をマウニ(mawni)と呼ぶ。
中国植物名([[漢名]])は、玫瑰(まいかい){{sfn|貝津好孝|1995|p=167}}。[[アイヌ語]]では果実をマウ(maw)、木の部分をマウニ(mawni)と呼ぶ。

学名はロサ・ルゴザ(Rosa rugosa)で、ルゴザとは皺々という意味である。葉が他のバラよりも葉脈が目立って皺々のように見える。また茎の棘も多めであるが、ロサ・スピノシシマ(Rosa spinosissima〈棘のとても多いバラの意味〉、[[シノニム]]:ロサ・ピンピネリフォリア〈Rosa pimpinellifolia〉)ほどではない{{要出典|date=2021年5月}}。

== 分布・生育地 ==
[[東アジア]]から[[東北アジア]]の[[温帯]]から[[亜寒帯|冷帯]]にかけて分布する<ref name="Bruun2005"/>{{sfn|田中潔|2011|p=68}}。[[サハリン]]、[[千島列島]]のほか{{sfn|辻井達一|2006|p=83}}、[[日本]]では[[北海道]]に多く、[[本州]]の太平洋側は[[茨城県]]、日本海側は[[鳥取県]]を南限として浜辺に分布する{{sfn|亀田龍吉|2014|p=108}}<ref name="ハマナス南限_鹿嶋市">{{Cite web|url=https://city.kashima.ibaraki.jp/site/bunkazai/50147.html|title=ハマナス南限地帯|publisher=鹿嶋市|website=鹿嶋市ホームページ|work=鹿嶋デジタル博物館|date=2022-09-29|accessdate=2023-12-13}}</ref>。石狩海岸、[[オホーツク]]の原生花園、[[野付半島]]に大群落が見られる{{sfn|田中潔|2011|p=68}}。主に海岸の砂地に自生する{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。本州の日本海岸よりも太平洋岸の分布域が狭いのは、主に砂浜・砂丘植物であるから、太平洋側に生える場所が少ないことがその理由とされる{{sfn|辻井達一|2006|p=83}}。

[[公園]]や[[庭]]、[[街路]]にも植えられ{{sfn|林将之|2011|p=177}}、観賞用に[[栽培]]もされている{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。現在では浜に自生する野生のものは少なくなり、園芸用に品種改良されたものが育てられている。


== 特徴 ==
== 特徴 ==
1 - 1.5[[メートル]] (m) に成長する[[落葉低木]]{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。[[地下茎]]や匍匐枝を延ばして繁殖し群生する{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2000|p=181}}{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}。海岸ではやや匍匐性で高さは1 mほどの低灌木であるが、内陸では高さ2 mになる{{sfn|辻井達一|2006|p=83}}。
[[東アジア]]の[[温帯]]から[[冷帯]]にかけて分布する<ref name="Bruun2005"/>。日本では[[北海道]]に多く、太平洋側は[[茨城県]]、日本海側は[[鳥取県]]を南限として分布する{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。主に海岸の砂地に自生する{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。観賞用に[[栽培]]もされている{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。現在では浜に自生する野生のものは少なくなり、園芸用に品種改良されたものが育てられている。


1 - 1.5メートル (m) に成長する落葉低木{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。幹は叢生して[[茎]]は枝分かれして立ち上がり、短い軟毛まっすぐな刺が密生する{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。[[葉]]は[[奇数羽状複葉]]で、[[小葉]]は通常3対、5枚から9枚つき、[[葉柄]]には半ば合着した大きな[[托葉]]がある<ref name="Bruun2005"/>{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。葉身楕円形、葉脈に沿って網状に凹みがつき、裏面に凸出しており、葉縁に[[鋸歯]]がある{{sfn|馬場篤|1996|p=96}}。
幹は叢生して[[茎]]は枝分かれして立ち上がり、[[樹皮]]は灰黒色から次第に灰色になり、全体に短い軟毛が多く、まっすぐな大小の鋭い刺が密生する{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=156}}。[[葉]]は長さ9 - 12[[センチメートル]] (cm) の[[奇数羽状複葉]]で[[互生]]し{{sfn|田中潔|2011|p=68}}、[[小葉]]は楕円形あるいは長楕円形などで長さ2 - 4&nbsp;cm{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2000|p=181}}、通常3対、5枚から9枚つき、[[葉柄]]には半ば合着した大きな[[托葉]]がある<ref name="Bruun2005"/>{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}。表面無毛で[[葉脈]]に沿って網状に凹みがつき、裏面に凸出しており、葉縁に[[鋸歯]]がある{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}。[[葉身]]は厚く、針がついている{{sfn|辻井達一|2006|p=83}}。全体に細かい毛や棘が多い理由は、潮風による塩分の付着を防いで生きていくための進化だと考えられている{{sfn|辻井達一|2006|p=83}}。秋、寒い地方では黄色に色づいて[[紅葉]]する{{sfn|亀田龍吉|2014|p=108}}。葉が散るときは、小葉がバラバラに散るときもあれば、葉柄ごと散ることもある{{sfn|亀田龍吉|2014|p=108}}。


花期は夏(6 - 8月)枝先に1 -3個ほど紅色の5弁花を咲かせ、芳香がある{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。8 - 10結実する。果実は扁球形2 - 3[[センチメートル]] (cm)黄赤色、通常は無毛でまに小さな刺があり、弱い甘みと酸味がある{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。芳香は乏しい
花期は初夏から夏(6 - 8月ごろ{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=156}}。枝先に1 - 3個ほど紅色の5弁花を咲かせ、強く甘い芳香がある{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}。花は野生のバラとしては大輪で直径5 - 10 cmあり、花びらの先端少し凹みがあり中心は[[雄しべ]]は多数つき、2 - 3日れる{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2000|p=181}}{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}{{sfn|辻井達一|2006|p=83}}{{sfn|田中潔|2011|p=68}}。


果期は8 - 10月に結実し{{sfn|田中潔|2011|p=68}}、[[果実]]([[偽果]])は、径は2 - 3 cmの偏球形で赤色に熟し、通常は無毛でまれに小さな刺があり、弱い甘みと酸味がある{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。果実の中には、[[種子]]が多く含まれている{{sfn|辻井達一|2006|p=85}}。実は葉が緑のうちから赤く熟しているが、紅葉のころ、完熟果が残っていることがある{{sfn|亀田龍吉|2014|p=108}}。
{{multiple image
| align = left
| image1=Rosa rugosa - hips - Flickr - S. Rae.jpg
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| caption1=果実
| image2=Rosa rugosa 15.jpg
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| caption2=葉
| image3=Rosa rugosa 24.jpg
| width3 = 210
| caption3=枝
}}{{clear}}


冬芽は互生し、茎の棘の間について赤く目立ち、頂芽は円錐型で大きく、側芽は卵形で、5 - 7枚の芽鱗に覆われている{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=156}}。落葉後の葉痕は、上を向いた浅いU字形で、[[維管束]]痕が3個みえる{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=156}}。
== 品種について ==
バラの一種であり、多くの品種が存在する。[[北米]]では観賞用に栽培される他、[[ニューイングランド]]地方沿岸に[[帰化]]している。'''イザヨイ'''と呼ばれる園芸品種は八重化(雄蕊、雌蕊ともに[[花弁]]化)したものである。中国産の八重咲で茎の刺がやや少ないのが'''マイカイ'''(玫瑰)で、栽培されている{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。


{{gallery
[[ノイバラ]]との[[自然交雑種]]に'''コハマナス'''がある。
|ファイル:Hamanasu.png|ハマナスの花と実
|File:Rosa rugosa - hips - Flickr - S. Rae.jpg|果実
|File:Rosa rugosa 15.jpg|葉
|File:Rosa rugosa 24.jpg|枝
}}


== 品種 ==
このほか'''シロバナハマナス'''、'''ヤエハマナス'''、'''シロバナヤエハマナス'''などの品種がある。
バラの一種であり、園芸バラの品種改良に用いられる{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2000|p=181}}。[[ヨーロッパ]]に渡ったハマナスから、多くの園芸品種が作出されている{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=209}}。[[北米]]では観賞用に栽培される他、[[ニューイングランド]]地方沿岸に[[帰化]]している。'''イザヨイ'''と呼ばれる園芸品種は八重化(雄蕊、雌蕊ともに[[花弁]]化)したものである。変種で、中国産の八重咲で茎の刺がやや少ないのが'''マイカイ'''(玫瑰)で、栽培されている{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。

[[ノイバラ]]との自然交雑種に'''コハマナス'''がある。

このほか'''シロバナハマナス'''{{sfn|辻井達一|2006|p=85}}、'''ヤエハマナス'''、'''シロバナヤエハマナス'''などの品種がある。


[[バラ]]の[[品種改良]]に使用された原種の一つで、ハマナスを交配の親に使用した品種群を「'''ルゴザ系'''」と謂う。
[[バラ]]の[[品種改良]]に使用された原種の一つで、ハマナスを交配の親に使用した品種群を「'''ルゴザ系'''」と謂う。

<gallery>
ファイル:Rosa rugosa0.jpg|ピンクのハマナスの花
ファイル:Rosa rugosa Bluete.jpg|白いハマナスの花
ファイル:海岸に咲く白いハマナスの花と果実.jpg|alt=海岸に咲く白いハマナスの花と果実|海岸に咲く白いハマナスの花と果実
ファイル:Rosa rugosa3.jpg|八重咲き種
</gallery>


== 利用 ==
== 利用 ==
繁殖は[[株分け]]によって行われ、秋に前年茎の地下根茎部を分割する{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。日本では庭に使われることはほとんどないが、ヨーロッパでは[[生け垣]]に使われている庭園がいくつも見られる{{sfn|辻井達一|2006|p=85}}。
[[ビタミンC]]が豊富に含まれることから、健康茶などの[[健康食品]]として市販される。[[のど飴]]など菓子に配合されることも多いが、どういう理由によるものかその場合、緑色の色付けがされることが多い。[[中国茶]]には、花のつぼみを乾燥させてお茶として飲む玫瑰茶もある。

花は香りが強く、[[香水]]の原料にする{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=209}}。花には[[精油]]を含み、主な成分は[[ゲラニオール]]で、その他[[シトロネロール]]、[[ノニルアルデヒド]]、[[シトラール]]、[[リナロール]]、[[フェニルエチルアルコール]]などである{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}。これらの精油は、延髄中枢を刺激して、血流を促し、血管拡張などの作用があるといわれている{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}。かつてハマナスの花から香油が採取され、北海道では八重咲きのハマナスを栽培して採取効率を高めることも行われてきたが、[[ブルガリア]]産の輸入が増えて、日本のハマナス香油の採取は廃れた{{sfn|辻井達一|2006|p=85}}。

=== 食用 ===
赤く熟した果実(偽果)は[[ローズヒップ]]ともよばれ、摘み取って食用にする{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}。甘酸っぱく[[ビタミンC]]を豊富に含み{{sfn|亀田龍吉|2014|p=108}}、色素のもとになっている[[カロテン]]、[[ピロガロール]]、[[タンニン]]を含み、カロテンは体内で[[ビタミンA]]に変化するため、果実の生食は[[滋養強壮]]にも役立つ{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}。甘いので生食もできるが、[[薬用酒]]、[[ジャム]]にもするほか{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}{{sfn|田中潔|2011|p=68}}、[[お茶]]([[ハーブティー|ローズヒップティー]])にする{{sfn|平野隆久監修 永岡書店編|1997|p=209}}。[[のど飴]]など菓子に配合されることも多いが、どういう理由によるものかその場合、緑色の色付けがされることが多い。花もジャムや花酒になる{{Sfn|高橋秀男監修|2003|p=90}}。[[中国茶]]には、花のつぼみを乾燥させてお茶として飲む玫瑰茶もある。


=== 薬効 ===
=== 薬効 ===
漢方では花蕾は{{lang|zh|&#29611;&#29808;&#33457;}}(まいかいか・メイグイファ)と呼ばれ、イライラを鎮めたり気の流れや血の流れを良くする作用があると言われる。ストレスによる痛や下痢、月経不順に良く使われ、通常はお茶として飲まれる。[[アイヌ]]の間では腎臓の薬として知られ、むくみの解消に根や実を煎じたものを飲んでいた<ref>{{Cite book|和書
咲いた花を摘み取り、風通しのよいところで陰干ししたものは[[生薬]]になり、'''玫瑰'''(まいかい)と称される{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。[[漢方]]では6 - 8月に採取して天日乾燥した花蕾は'''{{lang|zh|&#29611;&#29808;&#33457;}}'''(まいかいか・メイグイファ)と呼ばれ{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}{{sfn|貝津好孝|1995|p=167}}、八重咲きの種の花蕾も通常のハマナスと成分が同じで、同様に取り扱われている{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}。玫瑰花には、イライラを鎮めたり気の流れや血の流れを良くする作用があると言われる。[[ストレス (生体)|ストレス]]による痛や[[下痢]][[月経不順]]に良く使われ、通常は熱湯を注いでお茶として飲まれる{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}{{sfn|貝津好孝|1995|p=167}}。花びらから花弁酒をつくることができる{{sfn|亀田龍吉|2014|p=108}}。[[民間療法]]では、矯味、矯臭、抗炎症薬として月経不順、[[リウマチ]]、[[打撲]]にお茶にして飲まれたり{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}、完熟前の橙黄色の果実を使って35度の焼酎に3か月漬けて[[果実酒]]にして、[[暑気あたり]]、[[低血圧]]、[[不眠症]]、滋養保健、疲労回復、[[冷え症]]などに、就寝前に盃1杯程度を飲用に用いられる{{sfn|田中孝治|1995|p=156}}{{sfn|馬場篤|1996|p=93}}。[[アイヌ]]の間では腎臓の薬として知られ、むくみの解消に根や実を煎じたものを飲んでいた<ref>{{Cite book|和書
|year = 2004
|year = 2004
|title = アイヌと自然シリーズ■第4集 アイヌと植物<薬用編>
|title = アイヌと自然シリーズ■第4集 アイヌと植物<薬用編>
67行目: 86行目:


=== ハマナス油 ===
=== ハマナス油 ===
ハマナスの花を[[石油エーテル]]で抽出し、アルコール処理して得られる[[精油]]は[[フェネチルアルコール]]、[[ゲラニオール]][[シトロネロール]][[リナロール]]、[[ベンジルアルコール]]、[[シトラール]]などを含み、芳香を持つ<ref>{{Cite book|和書
ハマナスの花を[[石油エーテル]]で抽出し、アルコール処理して得られる[[精油]]は[[フェネチルアルコール]]、ゲラニオール、シトロネロール、リナロール、[[ベンジルアルコール]]、シトラールなどを含み、芳香を持つ<ref>{{Cite book|和書
|author = 鳥居鎮夫
|author = 鳥居鎮夫
|year = 2011
|year = 2011
74行目: 93行目:
|page = 215
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|isbn = 978-4-254-30109-0
|isbn = 978-4-254-30109-0
}}</ref>。ハマナス油は[[ダマスクローズ]][[ローズオイル|オイル]]の代用品として化粧品などに用いられるが、ハマナス自体から感じる芳香は、葉から生じる[[セスキテルペン]]アルコールも寄与する<ref>[http://www.j-tokkyo.com/1994/C07G/JP06184182.shtml 新規なセスキテルペンアルコール及びそれを主成分とする香料 特開平6-184182](j-tokkyo)</ref>。
}}</ref>。ハマナス油は[[ダマスクローズ]][[ローズオイル|オイル]]の代用品として化粧品などに用いられるが、ハマナス自体から感じる芳香は、葉から生じる[[セスキテルペン]]アルコールも寄与する<ref>[https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-H06-184182/73E0EAA6A6E6C40E986E17AEAE717E8B9BDA19E5CADEC58BD6B90AA35C1B1E86/11/ja 新規なセスキテルペンアルコール及びそれを主成分とする香料 特開平6-184182](j-platpat)</ref>。


== 名所 ==
== 名所 ==
日本においては、ハマナスは[[北海道]][[襟裳岬]]や[[東北地方]]の海岸部、[[天橋立]]などが名所として知られる。
日本においては、ハマナスは北海道[[襟裳岬]]や東北地方の海岸部、[[天橋立]]などが名所として知られる。


[[鳥取県]][[鳥取市]]<ref>{{Cite web |date= |url=http://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1217546996210/activesqr/common/other/5a862637011.pdf |title=ハマナス自生南限地帯 - 鳥取市 |format=PDF |publisher=[[鳥取市役所]] |accessdate=2018-04-05}}</ref>、[[西伯郡]][[大山町]]<ref>{{Cite web |url=http://www.nihon-kankou.or.jp/tottori/313866/detail/31388ac2100139541 |title=全国観るなび 鳥取県大山町 ハマナス自生南限地帯 |publisher=[[日本観光振興協会]] |accessdate=2018-04-05}}</ref>には「ハマナス自生南限地帯」がある。
[[茨城県]][[鹿嶋市]]大字大小志崎および、[[鳥取県]][[鳥取市]]白兎<ref>{{Cite web|和書|date= |url=http://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1217546996210/activesqr/common/other/5a862637011.pdf |title=ハマナス自生南限地帯 - 鳥取市 |format=PDF |publisher=[[鳥取市役所]] |accessdate=2018-04-05}}</ref>、[[西伯郡]][[大山町]]<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.nihon-kankou.or.jp/tottori/313866/detail/31388ac2100139541 |title=全国観るなび 鳥取県大山町 ハマナス自生南限地帯 |publisher=[[日本観光振興協会]] |accessdate=2018-04-05}}</ref>には「ハマナス自生南限地帯」があり、鹿嶋市と鳥取県の自生地は、1922年([[大正]]11年)3月8日に当時の[[内務省]]によって[[天然記念物|国の天然記念物]]に指定されてい<ref name="ハマナス南限_鹿嶋市"/>


茨城県に、[[潮騒はまなす公園]]がある。
茨城県鹿嶋市に、ハマナスの名を冠した潮騒はまなす公園がある。


== 都道府県の花に指定 ==
== 自治体の花 ==
=== 都道府県の花に指定 ===
*[[北海道]]
[[北海道]]の花に指定されている{{sfn|林将之|2011|p=177}}。北海道の海岸線はすべてハマナスで飾られており、分布の中心域であることが道花指定の理由だといわれている{{sfn|辻井達一|2006|p=83}}。


== 市町村の花に指定 ==
=== 市町村の花に指定 ===
* [[北海道]] - [[石狩市]]、[[紋別市]]、[[稚内市]]、[[浦幌町]]、[[江差町]]、[[雄武町]]、[[奥尻町]]、[[興部町]]、[[寿都町]]、[[斜里町]]、[[標津町]]、[[天塩町]]
{{Commons&cat|Rosa_rugosa|Rosa_rugosa}}
*[[北海道]] - [[石狩市]]、[[紋別市]]、[[稚内市]]、[[浦幌町]]、[[江差町]]、[[雄武町]]、[[奥尻町]]、[[興部町]]、[[寿都町]]、[[斜里町]]、[[標津町]]、[[天塩町]]
* [[青森県]] - [[青森市]]、[[鰺ヶ沢町]]、[[大間町]]、[[風間浦村]]、[[野辺地町]]
*[[岩手県]] - [[山田町]]、[[野田村]]
*[[岩手県]] - [[山田町]]、[[野田村]]
* [[宮城県]] - [[本吉町]]
*[[青森県]] - [[青森市]]、[[鰺ヶ沢町]]、[[大間町]]、[[風間浦村]]、[[野辺地町]]
*[[福島県]] - [[相馬市]]
* [[福島県]] - [[相馬市]]
*[[茨城県]] - [[鹿嶋市]]
* [[茨城県]] - [[鹿嶋市]]
*[[新潟県]] - [[村上市]]、[[聖籠町]]
* [[新潟県]] - [[村上市]]、[[聖籠町]]
*[[石川県]] - [[かほく市]]、[[内灘町]]
* [[石川県]] - [[かほく市]]、[[内灘町]]
*[[福井県]] - [[高浜町]]
* [[福井県]] - [[高浜町]]
*[[鳥取県]] - [[大山町]]
* [[鳥取県]] - [[大山町]]


== ギャラリー ==
== 文化 ==
日本の皇族が身の回りの品などに用いる徽章・シンボルマークとして、ハマナスは[[皇后雅子]]の[[お印]]に使われている<ref>[https://www.kunaicho.go.jp/about/history/history02.html 皇太子同妃両殿下]、[[宮内庁]]、2016年3月11日閲覧。</ref>。
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Image:Rosa rugosa0.jpg|ピンクのハマナスの花
ハマナスは6月5日の[[誕生花]]とされ<ref name="みんなの花図鑑">{{Cite web|和書|url=https://minhana.net/wiki/%E3%83%8F%E3%83%9E%E3%83%8A%E3%82%B9/|title=ハマナス [浜梨]|publisher=[[エヌ・ティ・ティレゾナント]]|website=みんなの花図鑑|accessdate=2022-09-19}}</ref>、[[花言葉]]は「旅の楽しさ」{{sfn|田中潔|2011|p=68}}、「幸せの誓い」<ref name="みんなの花図鑑"/>だと言われている。
Image:Rosa rugosa Bluete.jpg|白いハマナスの花
Image:Rosa rugosa3.jpg|八重咲き種
ファイル:Hamanasu.png|ハマナスの花と実
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
<references group="注釈"/>
=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author =貝津好孝|title = 日本の薬草|date=1995-07-20|publisher = [[小学館]]|series = 小学館のフィールド・ガイドシリーズ|isbn=4-09-208016-6|page =167|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =亀田龍吉|title =落ち葉の呼び名事典|date =2014-10-05|publisher =[[世界文化社]]|isbn =978-4-418-14424-2|pages=|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|title =樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種|date=2014-10-10|publisher =[[誠文堂新光社]]|series=ネイチャーウォチングガイドブック|isbn=978-4-416-61438-9|page =156|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著|title=日本の山菜|publisher=[[学習研究社]]|series=フィールドベスト図鑑13|date=2003-04-01|isbn=4-05-401881-5|page=90|ref={{SfnRef|高橋秀男監修|2003}} }}
* {{Cite book|和書|author =田中潔|title =知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち|date=2011-07-31|publisher =[[主婦の友社]]|series=主婦の友ベストBOOKS|isbn=978-4-07-278497-6|page =68|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =田中孝治|title ={{fontsize|small|効きめと使い方がひと目でわかる}} 薬草健康法|date=1995-02-15|publisher =[[講談社]]|series=ベストライフ|isbn=4-06-195372-9|page =156|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =[[辻井達一]]|title =続・日本の樹木|date =2006-02-25|publisher =[[中央公論新社]]|series =中公新書|isbn =4-12-101834-6|pages =82 - 85|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =西田尚道監修 学習研究社編|title =日本の樹木|date=2000-04-07|publisher =[[学習研究社]]|series=増補改訂ベストフィールド図鑑 5|isbn=978-4-05-403844-8|page =181|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author = 馬場篤|others = 大貫茂(写真)|title = 薬草500種-栽培から効用まで|date = 1996-09-27|publisher = [[誠文堂新光社]]|isbn = 4-416-49618-4|page = 93|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author = 馬場篤|others = 大貫茂(写真)|title = 薬草500種-栽培から効用まで|date = 1996-09-27|publisher = [[誠文堂新光社]]|isbn = 4-416-49618-4|page = 93|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =林将之|title =葉っぱで気になる木がわかる:Q&Aで見わける350種 樹木鑑定|date=2011-06-01|publisher =[[廣済堂あかつき]]|isbn=978-4-331-51543-3|page =177|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =平野隆久監修 永岡書店編|title =樹木ガイドブック|date=1997-05-10|publisher =[[永岡書店]]|isbn=4-522-21557-6|page =209|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author = 深津正|title = 植物和名の語源探究|date = 2000-04-25|publisher = [[八坂書房]]|isbn = 4-89694-452-6|page = 292 - 294|ref=harv}}

== 関連項目 ==
{{Commons&cat|Rosa_rugosa|Rosa_rugosa}}
* [[オオタカネバラ]]
<!--* [[カラフトイバラ]]--赤リンクのためコメントアウト-->
== 外部リンク ==


* [http://museum-database.shimane-u.ac.jp/marugoto/98 日本海岸におけるハマナス自生西限地] - [http://museum-database.shimane-u.ac.jp/marugoto 島根まるごとミュージアム]
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2024年6月24日 (月) 12:53時点における最新版

ハマナス
ハマナスの花
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: バラ目 Rosales
: バラ科 Rosaceae
: バラ属 Rosa
亜属 : Eurosa
: Cinnamomeae[1]
: ハマナス R. rugosa
学名
Rosa rugosa Thunb. (1784)[2]
英名
Ramanas rose
Rugosa rose
Japanese rose

ハマナス(浜茄子[3]・浜梨[4]学名: Rosa rugosa)は、バラ科バラ属落葉低木。別名ハマナシ。海岸の砂地に生えて、群落を作ることもある。夏に赤い花(まれに白花)を咲かせる。根は染料などに、花はお茶などに、果実はビタミンCが豊富で、ローズヒップとして食用になる。晩夏季語

名称

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別名、ハマナシとも呼ばれている[5][6][7]。和名ハマナスの語源は、浜(海岸の砂地)に生え、熟した果実が甘酸っぱいので、−ナシに例えて「ハマナシ(浜梨)」という名が付けられ、それが転訛したとする説を武田久吉が唱えた[8]。後に牧野富太郎が唱えた同様の説が通説になっている[5][9]

しかし、江戸時代の俳諧歳時記『滑稽雑談(こっけいぞうだん)』(1713年)には「初生の茄子の如し、また食に耐えたり、故にハマナスと云ふ」とあり、また幕末本草学者である小野蘭山の講義録『大和本草批正(やまとほんぞうひぜい)』には、「実は巾七、八分小茄子の如し、故にハマナスと云ふ」とあり、いずれも果実を初生もしくは小型のナスに見立ててハマナスと名付けたとしている[10][注釈 1]。しかし、漢字で「茄子」の字が使われているが、ハマナスはナスとはどこも似ていないという指摘もなされている[12]

中国植物名(漢名)は、玫瑰(まいかい)[5]アイヌ語では果実をマウ(maw)、木の部分をマウニ(mawni)と呼ぶ。

学名はロサ・ルゴザ(Rosa rugosa)で、ルゴザとは皺々という意味である。葉が他のバラよりも葉脈が目立って皺々のように見える。また茎の棘も多めであるが、ロサ・スピノシシマ(Rosa spinosissima〈棘のとても多いバラの意味〉、シノニム:ロサ・ピンピネリフォリア〈Rosa pimpinellifolia〉)ほどではない[要出典]

分布・生育地

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東アジアから東北アジア温帯から冷帯にかけて分布する[1][3]サハリン千島列島のほか[12]日本では北海道に多く、本州の太平洋側は茨城県、日本海側は鳥取県を南限として浜辺に分布する[13][14]。石狩海岸、オホーツクの原生花園、野付半島に大群落が見られる[3]。主に海岸の砂地に自生する[15]。本州の日本海岸よりも太平洋岸の分布域が狭いのは、主に砂浜・砂丘植物であるから、太平洋側に生える場所が少ないことがその理由とされる[12]

公園街路にも植えられ[16]、観賞用に栽培もされている[15]。現在では浜に自生する野生のものは少なくなり、園芸用に品種改良されたものが育てられている。

特徴

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1 - 1.5メートル (m) に成長する落葉低木[6][15]地下茎や匍匐枝を延ばして繁殖し群生する[17][4]。海岸ではやや匍匐性で高さは1 mほどの低灌木であるが、内陸では高さ2 mになる[12]

幹は叢生しては枝分かれして立ち上がり、樹皮は灰黒色から次第に灰色になり、全体に短い軟毛が多く、まっすぐな大小の鋭い刺が密生する[15][4][18]は長さ9 - 12センチメートル (cm) の奇数羽状複葉互生[3]小葉は楕円形あるいは長楕円形などで長さ2 - 4 cm[17]、通常3対、5枚から9枚つき、葉柄には半ば合着した大きな托葉がある[1][15][4]。表面は無毛で葉脈に沿って網状に凹みがつき、裏面に凸出しており、葉縁に鋸歯がある[15][4]葉身は厚く、針がついている[12]。全体に細かい毛や棘が多い理由は、潮風による塩分の付着を防いで生きていくための進化だと考えられている[12]。秋、寒い地方では黄色に色づいて紅葉する[13]。葉が散るときは、小葉がバラバラに散るときもあれば、葉柄ごと散ることもある[13]

花期は初夏から夏(6 - 8月ごろ)[18]。枝先に1 - 3個ほど紅紫色の5弁花を咲かせ、強く甘い芳香がある[6][15][4]。花は野生のバラとしては大輪で直径5 - 10 cmあり、花びらの先端に少し凹みがあり、中心は雄しべは多数つき、2 - 3日で枯れる[17][4][12][3]

果期は8 - 10月に結実し[3]果実偽果)は、径は2 - 3 cmの偏球形で赤色に熟し、通常は無毛でまれに小さな刺があり、弱い甘みと酸味がある[15]。果実の中には、種子が多く含まれている[19]。実は葉が緑のうちから赤く熟しているが、紅葉のころ、完熟果が残っていることがある[13]

冬芽は互生し、茎の棘の間について赤く目立ち、頂芽は円錐型で大きく、側芽は卵形で、5 - 7枚の芽鱗に覆われている[18]。落葉後の葉痕は、上を向いた浅いU字形で、維管束痕が3個みえる[18]

品種

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バラの一種であり、園芸バラの品種改良に用いられる[17]ヨーロッパに渡ったハマナスから、多くの園芸品種が作出されている[7]北米では観賞用に栽培される他、ニューイングランド地方沿岸に帰化している。イザヨイと呼ばれる園芸品種は八重化(雄蕊、雌蕊ともに花弁化)したものである。変種で、中国産の八重咲で茎の刺がやや少ないのがマイカイ(玫瑰)で、栽培されている[6][15]

ノイバラとの自然交雑種にコハマナスがある。

このほかシロバナハマナス[19]ヤエハマナスシロバナヤエハマナスなどの品種がある。

バラ品種改良に使用された原種の一つで、ハマナスを交配の親に使用した品種群を「ルゴザ系」と謂う。

利用

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繁殖は株分けによって行われ、秋に前年茎の地下根茎部を分割する[15]。日本では庭に使われることはほとんどないが、ヨーロッパでは生け垣に使われている庭園がいくつも見られる[19]

花は香りが強く、香水の原料にする[7]。花には精油を含み、主な成分はゲラニオールで、その他シトロネロールノニルアルデヒドシトラールリナロールフェニルエチルアルコールなどである[6]。これらの精油は、延髄中枢を刺激して、血流を促し、血管拡張などの作用があるといわれている[6]。かつてハマナスの花から香油が採取され、北海道では八重咲きのハマナスを栽培して採取効率を高めることも行われてきたが、ブルガリア産の輸入が増えて、日本のハマナス香油の採取は廃れた[19]

食用

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赤く熟した果実(偽果)はローズヒップともよばれ、摘み取って食用にする[4]。甘酸っぱくビタミンCを豊富に含み[13]、色素のもとになっているカロテンピロガロールタンニンを含み、カロテンは体内でビタミンAに変化するため、果実の生食は滋養強壮にも役立つ[6][4]。甘いので生食もできるが、薬用酒ジャムにもするほか[4][3]お茶ローズヒップティー)にする[7]のど飴など菓子に配合されることも多いが、どういう理由によるものかその場合、緑色の色付けがされることが多い。花もジャムや花酒になる[4]中国茶には、花のつぼみを乾燥させてお茶として飲む玫瑰茶もある。

薬効

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咲いた花を摘み取り、風通しのよいところで陰干ししたものは生薬になり、玫瑰(まいかい)と称される[15]漢方では6 - 8月に採取して天日乾燥した花蕾は玫瑰花(まいかいか・メイグイファ)と呼ばれ[6][5]、八重咲きの種の花蕾も通常のハマナスと成分が同じで、同様に取り扱われている[6]。玫瑰花には、イライラを鎮めたり気の流れや血の流れを良くする作用があると言われる。ストレスによる胃痛や下痢月経不順に良く使われ、通常は熱湯を注いでお茶として飲まれる[6][5]。花びらから花弁酒をつくることができる[13]民間療法では、矯味、矯臭、抗炎症薬として月経不順、リウマチ打撲にお茶にして飲まれたり[15]、完熟前の橙黄色の果実を使って35度の焼酎に3か月漬けて果実酒にして、暑気あたり低血圧不眠症、滋養保健、疲労回復、冷え症などに、就寝前に盃1杯程度を飲用に用いられる[6][15]アイヌの間では腎臓の薬として知られ、むくみの解消に根や実を煎じたものを飲んでいた[20]

また、ビタミンCの豊富さから、美容面での効果も期待される。

ハマナス油

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ハマナスの花を石油エーテルで抽出し、アルコール処理して得られる精油フェネチルアルコール、ゲラニオール、シトロネロール、リナロール、ベンジルアルコール、シトラールなどを含み、芳香を持つ[21]。ハマナス油はダマスクローズオイルの代用品として化粧品などに用いられるが、ハマナス自体から感じる芳香は、葉から生じるセスキテルペンアルコールも寄与する[22]

名所

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日本においては、ハマナスは北海道襟裳岬や東北地方の海岸部、天橋立などが名所として知られる。

茨城県鹿嶋市大字大小志崎および、鳥取県鳥取市白兎[23]西伯郡大山町[24]には「ハマナス自生南限地帯」があり、鹿嶋市と鳥取県の自生地は、1922年(大正11年)3月8日に当時の内務省によって国の天然記念物に指定されている[14]

茨城県鹿嶋市に、ハマナスの名を冠した潮騒はまなす公園がある。

自治体の花

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都道府県の花に指定

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北海道の花に指定されている[16]。北海道の海岸線はすべてハマナスで飾られており、分布の中心域であることが道花指定の理由だといわれている[12]

市町村の花に指定

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文化

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日本の皇族が身の回りの品などに用いる徽章・シンボルマークとして、ハマナスは皇后雅子お印に使われている[25]

ハマナスは6月5日の誕生花とされ[26]花言葉は「旅の楽しさ」[3]、「幸せの誓い」[26]だと言われている。

脚注

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注釈

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  1. ^ 深津は、現代流通しているナスの多くは長卵形を想像しがちだが、『本草綱目啓蒙』の解説をみると、昔は偏平な丸形のものを好んで栽培していたようであるので、常識ではおかしいという「浜茄子」説も、江戸時代当時としては至極当然な発想だったと解説している[11]

出典

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  1. ^ a b c Bruun, Hans Henrik (2005). “Rosa rugosa Thunb. ex Murray”. Journal of Ecology 93 (2): 441-470. doi:10.1111/j.1365-2745.2005.01002.x. 
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rosa rugosa Thunb. ハマナス(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月20日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h 田中潔 2011, p. 68.
  4. ^ a b c d e f g h i j k 高橋秀男監修 2003, p. 90.
  5. ^ a b c d e 貝津好孝 1995, p. 167.
  6. ^ a b c d e f g h i j k 田中孝治 1995, p. 156.
  7. ^ a b c d 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 209.
  8. ^ “雜録”. 植物学雑誌 33 (387): 54–61. (1919). doi:10.15281/jplantres1887.33.387_54. https://doi.org/10.15281/jplantres1887.33.387_54. 
  9. ^ 深津正 2000, pp. 292–294.
  10. ^ 深津正 2000, p. 293.
  11. ^ 深津正 2000, pp. 293–294.
  12. ^ a b c d e f g h 辻井達一 2006, p. 83.
  13. ^ a b c d e f 亀田龍吉 2014, p. 108.
  14. ^ a b ハマナス南限地帯”. 鹿嶋市ホームページ. 鹿嶋デジタル博物館. 鹿嶋市 (2022年9月29日). 2023年12月13日閲覧。
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m 馬場篤 1996, p. 93.
  16. ^ a b 林将之 2011, p. 177.
  17. ^ a b c d 西田尚道監修 学習研究社編 2000, p. 181.
  18. ^ a b c d 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 156.
  19. ^ a b c d 辻井達一 2006, p. 85.
  20. ^ 『アイヌと自然シリーズ■第4集 アイヌと植物<薬用編>』財団法人アイヌ民族博物館、2004年、27頁。 
  21. ^ 鳥居鎮夫『アロマテラピーの科学 普及版』朝倉書店、2011年、215頁。ISBN 978-4-254-30109-0 
  22. ^ 新規なセスキテルペンアルコール及びそれを主成分とする香料 特開平6-184182(j-platpat)
  23. ^ ハマナス自生南限地帯 - 鳥取市” (PDF). 鳥取市役所. 2018年4月5日閲覧。
  24. ^ 全国観るなび 鳥取県大山町 ハマナス自生南限地帯”. 日本観光振興協会. 2018年4月5日閲覧。
  25. ^ 皇太子同妃両殿下宮内庁、2016年3月11日閲覧。
  26. ^ a b ハマナス [浜梨]”. みんなの花図鑑. エヌ・ティ・ティレゾナント. 2022年9月19日閲覧。

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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