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「疎水効果」の版間の差分

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'''疎水効果'''(そすいこうか、''hydrophobic effect'')は、[[水]]などの[[極性]][[溶媒]]中で非極性分子が溶媒と分離し凝集する性質のことである。疎水効果は、タンパク質の折り畳み、タンパク質タンパク質相互作用、脂質二重膜の形成などの駆動力であると考えられている。
'''疎水効果'''(そすいこうか、''hydrophobic effect'')は、[[水]]などの[[極性]][[溶媒]]中で非極性分子(あるいは非極性基)が溶媒と分離し凝集する性質のことである。疎水性相互作用は、疎水効果によって非極性分子間に働く引力的相互作用をあらわす。疎水効果は、[[タンパク質]][[フォールディング]]<ref name="Pace">{{cite journal |author=Pace C, Shirley B, McNutt M, Gajiwala K |title=Forces contributing to the conformational stability of proteins |journal=FASEB J. |volume=10 |issue=1 |pages=75-83 |year=1996 |url=http://www.fasebj.org/cgi/reprint/10/1/75 |pmid=8566551}}</ref>[[タンパク質-タンパク質相互作用]][[脂質二重層|脂質二重膜]]の形成などの駆動力であると考えられている。

簡単に言えば、疎水性分子同士が水にはじかれ、集合する現象である。疎水結合とも呼ばれるが、疎水性分子間に結合が形成されるわけではなく、疎水性分子間に直接引力が働かなくても疎水効果は生じる。


==原理==
==原理==
熱・[[統計力学]]的には、非極性分子が水中で孤立した状態(溶けた状態)にあるよりも、非極性分子同士が[[凝集]]した方が安定であるため、疎水効果が生じるといえる。疎水効果の大きさは疎水分子が水中で孤立した状態から凝集した状態になるのに伴う[[自由エルギー]]変化で評価される。なお温度依存性を考える場合疎水効果の大きさは<math>\exp(-\Delta G/kT)</math>で評価される場合もある。


室温付近の温度で非極性分子の凝集に伴う自由エネルギー変化 (<math>\Delta G</math>) は負である。自由エネルギー変化は熱力学関係式<math>G=H-TS</math>から、[[エンタルピー]]効果と[[エントロピー]]効果の和で表されるが室温近傍でエンタルピー変化 (<math>\Delta H</math>) はほぼ零エントロピー変化 (<math>\Delta S</math>) は正であり疎水効果はエントロピー駆動であるといわれる。また温度が変化すると、エントロピーとエンタルピーはそれぞれ大きく変化するが、それらのほとんどは相殺して自由エネルギーの温度変化は小さい。
熱・統計力学的には、非極性分子が水中で孤立した状態(溶けた状態)にあるよりも、非極性分子同士が凝集した方が安定であるため、疎水効果が生じるといえる。疎水効果の大きさは疎水分子が水中で孤立した状態から凝集した状態になるのに伴う自由エルギー変化で評価される。なお温度依存性を考える場合疎水効果の大きさは<math>exp(-\Delta G/kT)</math>で評価される場合もある。


疎水性相互作用は、クーロン相互作用などの相互作用のような[[重ね合わせの原理]]がなりたたないことが知られている。すなわち、二体の相互作用だけでなく三体以上の相互作用がある。
室温付近の温度で非極性分子の凝集に伴う自由エネルギー変化 (<math>\Delta G</math>) は負である。自由エネルギー変化は熱力学関係式<math>G=H-TS</math>からエンタルピー効果とエントロピー効果の和で表されるが室温近傍でエンタルピー変化 (<math>\Delta H</math>) はほぼ零エントロピー変化 (<math>\Delta S</math>) は正であり疎水効果はエントロピー駆動であるといわれる。また温度が変化すると、エントロピーとエンタルピーはそれぞれ大きく変化するが、それらのほとんどは相殺して自由エネルギーの温度変化は小さい。


疎水性分子が水に溶けると、疎水性分子の表面に接する水分子は、水素結合の切断によるエネルギー損失を最小にするために再配向する。このため、水分子のとりうる[[配置エントロピー|配置]]が制限され、エントロピー損失をもたらす。疎水性分子同士が会合することで、疎水性分子表面に接する水分子数を減らし、エントロピー損失を最小化することができる<ref name="Chalikian">{{cite journal |author= Chalikian, T. V. |title=Structural Thermodynamics of Hydration |journal= J. Phys. Chem. B. |volume=105 |issue=50 |pages= 12566-12578 |year=2001 |doi=10.1021/jp0115244}}</ref>。
これらの熱力学から,疎水効果の分子論に関して,以下に示すいくつかの説がある。


なお、溶媒分子間の相互作用に比べ、溶媒と溶質の間の相互作用が相対的に弱い場合には、溶媒が水でなくても同様の現象は生じる。このような現象を一般に[[疎溶媒効果]]、[[疎溶媒性相互作用]]と呼ぶ。
===水の構造化によるエントロピー減少説===
水中に非極性分子が存在すると、その周りの水の空間分布(構造)は純水とは異なり、純水よりもより秩序性の高い(結晶性の高い)構造をとると考えられている。この秩序性の高い構造 (iceberg構造と呼ばれることもある) の形成には、負のエントロピー変化を伴い、これが疎水性を生む原因である。

===エンタルピー説===
一般に、異種粒子の混合は正のエンタルピー変化を伴う。このことから、非極性分子液体と水の混合は、正のエンタルピー変化を引き起こす。正のエンタルピーを引き起こす過程は、エンタルピー(エネルギー)的にみれば損である。従って、非極性分子は水に溶けにくい。水同士の間の相互作用にはファン・デル・ワールス相互作用とクーロン相互作用があり、後者の方が圧倒的に大きい。非極性分子が水中にあると、水とそれとの間にファン・デル・ワールス相互作用は働くので、その損失はほとんどない。しかし、非極性分子は水分子とクーロン相互作用できないため、その損失がある。

微量に溶けた非極性分子の周りは秩序性の高い構造をとり、純水よりも強い水素結合をもつ。この構造の形成は、負のエンタルピー変化とエントロピー変化を伴う。すなわち、この秩序性の高い構造を形成する過程は、エネルギー的には、非極性分子を溶けにくくする効果ではなく溶けやすくする効果をもつ。


==参考文献==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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* [[]]
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* [[疎水性]]・[[親水性]]
* [[配置エントロピー]]
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* [[表面張力]]
* [[界面化学]]
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2024年7月1日 (月) 04:57時点における最新版

疎水効果(そすいこうか、hydrophobic effect)は、などの極性溶媒中で非極性分子(あるいは非極性基)が溶媒と分離し凝集する性質のことである。疎水性相互作用は、疎水効果によって非極性分子間に働く引力的相互作用をあらわす。疎水効果は、タンパク質フォールディング[1]タンパク質-タンパク質相互作用脂質二重膜の形成などの駆動力であると考えられている。

簡単に言えば、疎水性分子同士が水にはじかれ、集合する現象である。疎水結合とも呼ばれるが、疎水性分子間に結合が形成されるわけではなく、疎水性分子間に直接引力が働かなくても疎水効果は生じる。

原理

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熱・統計力学的には、非極性分子が水中で孤立した状態(溶けた状態)にあるよりも、非極性分子同士が凝集した方が安定であるため、疎水効果が生じるといえる。疎水効果の大きさは、疎水分子が水中で孤立した状態から凝集した状態になるのに伴う自由エネルギー変化で評価される。なお、温度依存性を考える場合、疎水効果の大きさは、で評価される場合もある。

室温付近の温度で、非極性分子の凝集に伴う自由エネルギー変化 () は負である。自由エネルギー変化は熱力学関係式から、エンタルピー効果とエントロピー効果の和で表されるが、室温近傍で、エンタルピー変化 () はほぼ零、エントロピー変化 () は正であり、疎水効果はエントロピー駆動であるといわれる。また、温度が変化すると、エントロピーとエンタルピーはそれぞれ大きく変化するが、それらのほとんどは相殺して自由エネルギーの温度変化は小さい。

疎水性相互作用は、クーロン相互作用などの相互作用のような重ね合わせの原理がなりたたないことが知られている。すなわち、二体の相互作用だけでなく三体以上の相互作用がある。

疎水性分子が水に溶けると、疎水性分子の表面に接する水分子は、水素結合の切断によるエネルギー損失を最小にするために再配向する。このため、水分子のとりうる配置が制限され、エントロピー損失をもたらす。疎水性分子同士が会合することで、疎水性分子表面に接する水分子数を減らし、エントロピー損失を最小化することができる[2]

なお、溶媒分子間の相互作用に比べ、溶媒と溶質の間の相互作用が相対的に弱い場合には、溶媒が水でなくても同様の現象は生じる。このような現象を一般に疎溶媒効果疎溶媒性相互作用と呼ぶ。

参考文献

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  1. ^ Pace C, Shirley B, McNutt M, Gajiwala K (1996). “Forces contributing to the conformational stability of proteins”. FASEB J. 10 (1): 75-83. PMID 8566551. http://www.fasebj.org/cgi/reprint/10/1/75. 
  2. ^ Chalikian, T. V. (2001). “Structural Thermodynamics of Hydration”. J. Phys. Chem. B. 105 (50): 12566-12578. doi:10.1021/jp0115244. 

関連項目

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