コンテンツにスキップ

「上信電気鉄道デキ1形電気機関車」の版間の差分

リンクを追加
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』
履歴の双方向閲覧
← 古い編集
削除された内容 追加された内容
ビジュアルウィキテキスト
m 佐献図絵ぇ がページ「上信電鉄デキ1形電気機関車」を「上信電気鉄道デキ1形電気機関車」に移動しました: 改名提案に対して、異論がなかったため。
m Bot作業依頼#Cite conferenceのbooktitle引数の移行
 
(11人の利用者による、間の29版が非表示)
1行目: 1行目:
{{機関車概要表
{{改名提案|上信電気鉄道デキ1形電気機関車|date=2016年10月22日}}
|車両名 = 上信電気鉄道デキ1形電気機関車
|背景色 = #000000
|文字色 = #ffffff
|画像 = Jyoushin deki1+2.JPG|thumb|280px|right|
|画像幅 =
|画像説明 = デキ1とデキ3（下仁田駅　2007年10月20日)
|運用者 = [[上信電鉄]]
|製造所=シーメンス・シュッケルト (車体はM.A.N社製)
|製造年=1924年
|製造数=3両
|軸配置=B - B
|軌間=1,067 mm
|電気方式=[[直流電化|直流]]1,500V<br />（[[架空電車線方式]]）
|全長=9,180 mm<ref name="rpac33-41"/>
|全幅=2,657 mm<ref name="rpac33-41"/>
|全高=3,874 mm<ref name="rpac33-41"/>
|機関車重量=34.5 [[トン|t]]<ref name="rpac33-41"/>
|運転整備重量=
|軸重=
|主電動機=[[直巻整流子電動機|直流直巻電動機]] DJ11B<ref name="rpac33-41"/>×4基
|主電動機出力=50 kW（一時間定格）
|動力伝達方式 = 1段歯車減速[[吊り掛け駆動方式|吊り掛け式]]
|歯車比=77:16（4.813）<ref name="rpac33-41"/>
|台車=[[板台枠]]
|制御方式=[[電気車の速度制御#抵抗制御|抵抗制御・直並列2段組合せ制御]]
|制御装置=総括複式シーメンスCIB10064A<ref name="rpac33-41"/>
|制動方式=NAB-A形 ([[空気ブレーキ]]・[[手ブレーキ]])
|保安装置=[[自動列車停止装置|ATS]]（改造後）
|設計最高速度=
|定格速度=23.3 km/h<ref name="rpac33-41"/>
|定格出力=200 kW
|定格引張力=3,087 [[重量キログラム|kgf]]<ref name="rpac33-41"/>
|備考={{エバーグリーン賞|3|1986}}
}}


'''上信電気鉄道デキ1形電気機関車'''（じょうしんでんきてつどうデキ1がたでんききかんしゃ）は、[[1924年]]（[[大正]]13年）に上信電気鉄道（現 [[上信電鉄]]）が導入した[[電気機関車]]である。
[[ファイル:Jyoushin deki1+2.JPG|thumb|280px|right|デキ1とデキ3<br />（下仁田駅　2007年10月20日）]]
{{エバーグリーン賞|3|1986}}
'''上信電鉄デキ1形電気機関車'''（じょうしんでんてつデキ1がたでんききかんしゃ）は、[[上信電鉄]]に在籍する[[電気機関車]]である。


== 概要 ==
== 概要 ==
[[1924年]]（[[大正]]13年）、当時の上信電気鉄道が[[改軌]]・[[鉄道の電化|電化]]した際に、[[ドイツ]]の[[シーメンス|シーメンスシュケルト]]社から購入した。小型の凸型機で機械部分の製造者は[[マン (企業)|M.A.N社]]。価格は当時で36,990円。
[[1924年]]（[[大正]]13年）、[[上信電鉄上信線|上信線]]が[[改軌]]・[[鉄道の電化|電化]]した際に、3両（デキ1・デキ2・デキ3）を[[ドイツ]]の[[シーメンス|シーメンスシュケルト]]社から購入した。小型の凸型機で機械（車体）部分の製造者は[[MAN (企業)|M.A.N]]社。価格は当時の金額で36,990円。[[1986年]]（[[昭和]]61年）には[[エバーグリーン賞]]（[[鉄道友の会]]）を受賞。


外観に関しては砂箱の撤去と前照灯位置の変更、パンタグラフの交換、およびATS関連装備の搭載がなされているが、大正年間の輸入当時と比べても大きな改変はほとんどない。このことから、[[鉄道ファン]]の間では'''「上州の[[シーラカンス]]」'''の異名をとる<ref name="jomo-news20201006">{{Cite news|url=https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/culture/245279|title=《鉄路を彩った名車両》デキ2　独製の「シーラカンス」|newspaper =『上毛新聞』|date=2020-10-06|accessdate=2020-10-06}}</ref><ref name="jomo-news20211229">[https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/49821 「デキ」再び動く雄姿を　国内最古級の電気機関車　上信電鉄が動態保存へ] - 上毛新聞 2021年12月29日</ref>。
3両（デキ1・デキ2・デキ3）が導入され[[貨物列車]]牽引に長年使用されていた。貨物輸送全盛期には、石炭や薪炭、木材、繭、こんにゃく等々の輸送に用いられていた。昼時に運行することが多く、沿線住民からは「オメシレッシャ」と呼ばれて親しまれていたが、[[1994年]]（[[平成]]6年）[[9月23日]]の貨物輸送廃止に伴いデキ2が廃車された<ref group="注釈">デキ2は現在[[群馬県]][[富岡市]]の[[もみじ平公園]]に保存されている。</ref>。デキ1とデキ3は貨物輸送廃止後も車籍を有するが、定期運用はなく、[[特殊列車#工事列車|工事列車]]や[[臨時列車]]などに使用されることがある。


== 本形式導入の経緯について ==
砂箱の撤去と前照灯位置の変更、パンタグラフの交換、およびATS関連装備の搭載がなされているが、外観に関しては大正年間の輸入当時と比べても大きな改変はほとんどない。
大正から昭和初期にかけての日本の各鉄道会社では、英米製の電気機関車や設備が主流だったが、上信電鉄ではドイツ製が多かった。[[第一次大戦]]の戦時賠償として、ドイツから日本へ優秀な鉄道機材、設備が譲渡されることになったが、群馬県出身の政治家[[桜井伊兵衛 (5代)|桜井伊兵衛]]の運動により、上信電鉄はそれらの多くを譲り受けることができたからである。譲渡が円滑に進んだ裏には､当時滞独中であった[[井上工業]]の[[井上房一郎]]による仲介と、シーメンス社による日本市場開拓という目論見もあった｡こうした流れの中､福島変電所の回転変流機など主要電気機器はドイツに発注され､本形式もまた同様に輸入されることとなった<ref>『上信電鉄百年史』</ref>。


== 構造 ==
2007年（平成19年）3月12日、[[下仁田駅|下仁田]] - [[南蛇井駅|南蛇井]]間で線路沈下が原因と見られる脱線事故が発生し、その際に受けた損傷が原因でながらく補修待ちとなっていたが、2011年度の[[デスティネーションキャンペーン|群馬デスティネーションキャンペーン]]に向けた修復が2010年末から行われ、2011年4月に完了した。
=== 車体 ===
全長9.180mmの凸型車体を採用した。
多くの凸型機とは異なり、車体下部に露出した側梁は妻面も側面も同一の太さであり、横幅を狭められたデザインが多い機械室（前後[[ボンネット]]）部分も運転室部分と同様の幅であるため側面は基本的に平坦なデザインとなっている<ref name="rf169-49"/>。
屋根は単一の曲線を描いており、これも他社の凸型機と異なる<ref name="rf169-49"/>。これらの特徴は当時のシーメンス社製の電気機関車に共通のものとされ、本機と同じく1924年製でより小型のB型機である尾西鉄道（[[名古屋鉄道]][[名鉄尾西線|尾西線]]の前身事業者）が導入した[[尾西鉄道EL1形電気機関車|EL1形電気機関車]]にも通じる<ref name="rf169-49"/>。
また、左右片方の側面には6枚の機器点検蓋を備えるが、デキ1とデキ2・デキ3では付いている面が逆になっている。


=== 主要機器 ===
[[1986年]]（[[昭和]]61年）には[[エバーグリーン賞]]（[[鉄道友の会]]）を受賞、[[鉄道ファン]]の間では'''「上州の[[シーラカンス]]」'''の異名をとる。
[[ファイル:Jyoushin deki3 cockpit.JPG|thumb|200px|right|イベント時に公開されたデキ3の運転台。<br />（2009年11月8日） ]]
電装品にはいずれも同時に導入した旅客用[[電車]]の[[上信電気鉄道デハ1形電車|デハ1形]]と同一のものを用いている。

[[主電動機]]にはシーメンス製DJ11B電動機<ref group="注釈">端子電圧750 V・[[定格]]電流76 [[アンペア|A]]・一時間定格出力50 kW</ref>を4基搭載する。[[主制御器]]は[[総括制御]]が可能で間接式のシーメンス製CIB10064Aである。[[ブレーキ]]装置は空気ブレーキと[[手ブレーキ]]を備え、ドイツの[[クノールブレムゼ]]社製である<ref name="rf169-50"/>。[[鉄道車両の台車|台車]]は電車とは異なり、シーメンス製の[[板台枠]]のものを採用し、車輪径は電車用の27-MCB-2のもの（860 mm）よりも大きい900 mmとされた<ref name="rpac33-41"/>。
[[集電装置]]もやはりシーメンス製で一枚のカーボンスライダーを用いた大型の[[パンタグラフ]]を採用した。

== 運用 ==
当初より[[貨物列車]]の牽引に使用されたほか、[[1950年]]（昭和25年）からは[[日本国有鉄道]]（国鉄）[[高崎線]]から[[旧型客車]]を用いた臨時列車の直通運転が開始され、[[1961年]]（昭和36年）に[[国鉄80系電車]]によって置き換えられるまでこの列車の上信線内の牽引にも使用された<ref name="rpac33-36"/>。貨物輸送全盛期には、石炭や薪炭、木材、繭、こんにゃく等々の輸送に用いられた。これらの列車は昼時に運行することが多く、沿線住民からは[[お召し列車]]と（昼）御飯を掛けて「オメシレッシャ」と呼ばれて親しまれていたが<ref>[https://web.archive.org/web/20220422111528/https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20220422a.html “上州のシーラカンス”と呼ばれたデキ 98歳の電気機関車 再び動く姿を！]NHK首都圏ナビ Webリポート 2022年4月22日</ref>、[[1994年]]（[[平成]]6年）[[10月1日]]の貨物輸送廃止に伴い、翌[[1995年]]（平成7年）3月にデキ2が廃車された（後に富岡市に寄贈）<ref name="jomo-news20201006" />。残ったデキ1とデキ3は貨物輸送の廃止以降は[[特殊列車#工事列車|工事列車]]や電車を客車役にした[[臨時列車]]などに使用されていた。

[[2007年]]（平成19年）3月12日、[[下仁田駅|下仁田]] - [[赤津信号所]]間で線路沈下が原因と見られる脱線事故が発生<ref>[https://www.mlit.go.jp/jtsb/railway/rep-acci/RA2007-7-1.pdf RA2007-7 鉄道事故調査報告書]- 国土交通省　2007年10月26日</ref>し、その際に受けた損傷が原因で長らく補修待ちとなっていたが、2011年度の[[デスティネーションキャンペーン|群馬デスティネーションキャンペーン]]に向けた修復が[[2010年]]末から行われ、[[2011年]]4月に完了した。

[[2017年]]（平成29年）7月26日、高崎駅構内においてデキ1が出火事故を起こす。車体の腐食によって雨水が機関車内部に浸入して[[漏電]]したことが事故の原因であるとされ、再発防止も含めた修繕には多額の費用が掛かる見通しとされた<ref>{{cite conference |url=https://www.pref.gunma.jp/gikai/s07g_00220.html |title=群馬県議会　常任委員会平成29年第３回定例会 　産経土木常任委員会（産業経済部・労働委員会関係）|author= |authorlink= |date=2017-12-07 |accessdate=2019-05-19 |publisher= |book-title= |pages= |location= |id= }}</ref>。この事故以降、デキ1と無傷だったデキ3は運用に入ることもなく高崎駅構内に留置される状態が続いていたが<ref name="jomo-news20211229" />、[[2021年]]（令和3年）12月、デキ3については観光庁の既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業（交通連携型）約2700万円の交付を受けて動態保存に向けて整備されることが明らかになった<ref name="jomo-news20211229" />。


<gallery widths="180" style="font-size:90%;">
<gallery widths="180" style="font-size:90%;">
20行目: 70行目:
ファイル:Jyoushin deki3 side.JPG|デキ3の側面<br />（2009年11月8日）
ファイル:Jyoushin deki3 side.JPG|デキ3の側面<br />（2009年11月8日）
ファイル:Jyoushin deki3 side-2.JPG|デキ3の側面に取り付けられている製造銘板。シーメンス社の[[シリアルナンバー]]が記載されている<br />（2009年11月8日）
ファイル:Jyoushin deki3 side-2.JPG|デキ3の側面に取り付けられている製造銘板。シーメンス社の[[シリアルナンバー]]が記載されている<br />（2009年11月8日）
ファイル:Jyoushin deki1+2 side.JPG|デキ1と3の側面。ボンネット側面の点検扉の有無の違いがある。<br />（2006年12月2日）
ファイル:Jyoushin deki1+2 side.JPG|デキ1とデキ3の側面。ボンネット側面の点検扉の有無（デキ3のものは反対側側面にある）の違いがある。<br />（2006年12月2日）
</gallery>
</gallery>


== 保存 ==
== 本形式導入の経緯について ==
[[File:Tomioka DeKi2.jpg|thumb|200px|デキ2]]
大正から昭和初期にかけての日本の各鉄道会社では、英米製の電気機関車や設備が主流だったが、上信電鉄ではドイツ製が多かった。[[第一次大戦]]の戦時賠償として、ドイツから日本へ優秀な鉄道機材、設備が譲渡されることになったが、群馬県出身の政治家[[桜井伊兵衛 (5代)|桜井伊兵衛]]の運動により、上信電鉄はそれらの多くを譲り受けることができたからである。譲渡が円滑に進んだ裏には､当時滞独中であった[[井上工業]]の[[井上房一郎]]による仲介と、シーメンス社による日本市場開拓という目論見もあった｡こうした流れの中､福島変電所の回転変流機など主要電気機器はドイツに発注され､本形式もまた同様に輸入されることとなった<ref>『上信電鉄百年史』</ref>。
*デキ2 - [[富岡市]]の[[もみじ平総合公園]]において静態保存<ref name="jomo-news20201006" />。


== 主要諸元==
== 関連項目 ==
; 他社のシーメンス製輸入電気機関車
[[ファイル:Jyoushin deki3 cockpit.JPG|thumb|200px|right|イベント時に公開されたデキ3の運転台。<br />（2009年11月8日） ]]
* [[尾西鉄道EL1形電気機関車]]
*全長：9,180mm
* [[三池鉄道#車両|三池鉄道1号機]]
*全幅：2,657mm
* [[国鉄ED57形電気機関車]]
*全高：3,874mm
*運転整備重量：34.54t
*電気方式：[[直流電化|直流]]1,500V（[[架空電車線方式]]）
*軸配置：B-B
*[[鉄道車両の台車|台車]]形式：[[板台枠]]
*[[電動機|主電動機]]：DJ11B形 (50kW) ×4基
**歯車比：16:77=1:4.81
**1時間定格出力：200kW
**1時間定格引張力：3,084kg
**1時間定格速度：23.3km/h
*動力伝達方式：歯車1段減速、[[吊り掛け駆動方式|吊り掛け式]]
*制御方式：重連[[総括制御]]、[[電気車の速度制御#抵抗制御|抵抗制御、直並列2段組合せ制御]]
*制御装置：電磁接触器式
*ブレーキ方式：[[自動空気ブレーキ|空気ブレーキ]]、[[手ブレーキ]]


== 脚注 ==
== 脚注 ==
51行目: 89行目:
=== 出典 ===
=== 出典 ===
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2|refs=
{{reflist}}
<ref name="rf169-49">[[#RF169|『鉄道ファン』通巻169号 p.49]]</ref>
<ref name="rf169-50">[[#RF169|『鉄道ファン』通巻169号 p.50]]</ref>
<ref name="rpac33-36">[[#RPAC33|『鉄道ピクトリアル』別冊33号 p.36]]</ref>
<ref name="rpac33-41">[[#RPAC33|『鉄道ピクトリアル』別冊33号 p.41]]</ref>

}}

== 参考文献 ==
* {{Cite journal ja-jp |author = [[吉川文夫]]|title =上信のシーメンス |journal = 鉄道ファン |volume = |issue = 169 |serial = 1975年5月号 |publisher = 交友社 |pages =48-50 |ref= RF169 }}
* {{Cite journal ja-jp |author = 柴田 重利|title =上信電気鉄道 |journal = 鉄道ピクトリアルアーカイブスセレクション |volume = |issue = 33 |serial = 2016年3月別冊 |publisher = 鉄道図書刊行会 |pages =34-43 |ref= RPAC33 }}


{{Commonscat|Joshin Dentetsu Type Deki 1}}
{{Commonscat|Joshin Dentetsu Type Deki 1}}
{{上信電鉄の車両}}
{{上信電鉄の車両}}
{{鉄道趣味顕賞選定一覧}}
{{鉄道趣味顕賞選定一覧}}
{{rail-stub}}
{{デフォルトソート:しようしんてんてつてき1}}
{{デフォルトソート:しようしんてんてつてき1}}
[[Category:上信電鉄の鉄道車両|機デキ1]]
[[Category:上信電鉄の鉄道車両|機デキ1]]

2024年7月13日 (土) 14:30時点における最新版

上信電気鉄道デキ1形電気機関車
デキ1とデキ3（下仁田駅　2007年10月20日)
デキ1とデキ3（下仁田駅　2007年10月20日)
基本情報
運用者 上信電鉄
製造所 シーメンス・シュッケルト (車体はM.A.N社製)
製造年 1924年
製造数 3両
主要諸元
軸配置 B - B
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1,500V
（架空電車線方式）
全長 9,180 mm[1]
全幅 2,657 mm[1]
全高 3,874 mm[1]
機関車重量 34.5 t[1]
台車 板台枠
動力伝達方式 1段歯車減速吊り掛け式
主電動機 直流直巻電動機 DJ11B[1]×4基
主電動機出力 50 kW（一時間定格）
歯車比 77:16（4.813）[1]
制御方式 抵抗制御・直並列2段組合せ制御
制御装置 総括複式シーメンスCIB10064A[1]
制動装置 NAB-A形 (空気ブレーキ・手ブレーキ)
保安装置 ATS（改造後）
定格速度 23.3 km/h[1]
定格出力 200 kW
定格引張力 3,087 kgf[1]
備考
第3回（1986年）

■カテゴリ / ■テンプレート

テンプレートを表示

上信電気鉄道デキ1形電気機関車（じょうしんでんきてつどうデキ1がたでんききかんしゃ）は、1924年（大正13年）に上信電気鉄道（現 上信電鉄）が導入した電気機関車である。

概要

[編集]

1924年（大正13年）、上信線が改軌・電化した際に、3両（デキ1・デキ2・デキ3）をドイツのシーメンスシュケルト社から購入した。小型の凸型機で機械（車体）部分の製造者はM.A.N社。価格は当時の金額で36,990円。1986年（昭和61年）にはエバーグリーン賞（鉄道友の会）を受賞。

外観に関しては砂箱の撤去と前照灯位置の変更、パンタグラフの交換、およびATS関連装備の搭載がなされているが、大正年間の輸入当時と比べても大きな改変はほとんどない。このことから、鉄道ファンの間では「上州のシーラカンス」の異名をとる[2][3]。

本形式導入の経緯について

[編集]

大正から昭和初期にかけての日本の各鉄道会社では、英米製の電気機関車や設備が主流だったが、上信電鉄ではドイツ製が多かった。第一次大戦の戦時賠償として、ドイツから日本へ優秀な鉄道機材、設備が譲渡されることになったが、群馬県出身の政治家桜井伊兵衛の運動により、上信電鉄はそれらの多くを譲り受けることができたからである。譲渡が円滑に進んだ裏には､当時滞独中であった井上工業の井上房一郎による仲介と、シーメンス社による日本市場開拓という目論見もあった｡こうした流れの中､福島変電所の回転変流機など主要電気機器はドイツに発注され､本形式もまた同様に輸入されることとなった[4]。

構造

[編集]

車体

[編集]

全長9.180mmの凸型車体を採用した。 多くの凸型機とは異なり、車体下部に露出した側梁は妻面も側面も同一の太さであり、横幅を狭められたデザインが多い機械室（前後ボンネット）部分も運転室部分と同様の幅であるため側面は基本的に平坦なデザインとなっている[5]。 屋根は単一の曲線を描いており、これも他社の凸型機と異なる[5]。これらの特徴は当時のシーメンス社製の電気機関車に共通のものとされ、本機と同じく1924年製でより小型のB型機である尾西鉄道（名古屋鉄道尾西線の前身事業者）が導入したEL1形電気機関車にも通じる[5]。 また、左右片方の側面には6枚の機器点検蓋を備えるが、デキ1とデキ2・デキ3では付いている面が逆になっている。

主要機器

[編集]
イベント時に公開されたデキ3の運転台。
（2009年11月8日）

電装品にはいずれも同時に導入した旅客用電車のデハ1形と同一のものを用いている。

主電動機にはシーメンス製DJ11B電動機[注釈 1]を4基搭載する。主制御器は総括制御が可能で間接式のシーメンス製CIB10064Aである。ブレーキ装置は空気ブレーキと手ブレーキを備え、ドイツのクノールブレムゼ社製である[6]。台車は電車とは異なり、シーメンス製の板台枠のものを採用し、車輪径は電車用の27-MCB-2のもの（860 mm）よりも大きい900 mmとされた[1]。 集電装置もやはりシーメンス製で一枚のカーボンスライダーを用いた大型のパンタグラフを採用した。

運用

[編集]

当初より貨物列車の牽引に使用されたほか、1950年（昭和25年）からは日本国有鉄道（国鉄）高崎線から旧型客車を用いた臨時列車の直通運転が開始され、1961年（昭和36年）に国鉄80系電車によって置き換えられるまでこの列車の上信線内の牽引にも使用された[7]。貨物輸送全盛期には、石炭や薪炭、木材、繭、こんにゃく等々の輸送に用いられた。これらの列車は昼時に運行することが多く、沿線住民からはお召し列車と（昼）御飯を掛けて「オメシレッシャ」と呼ばれて親しまれていたが[8]、1994年（平成6年）10月1日の貨物輸送廃止に伴い、翌1995年（平成7年）3月にデキ2が廃車された（後に富岡市に寄贈）[2]。残ったデキ1とデキ3は貨物輸送の廃止以降は工事列車や電車を客車役にした臨時列車などに使用されていた。

2007年（平成19年）3月12日、下仁田 - 赤津信号所間で線路沈下が原因と見られる脱線事故が発生[9]し、その際に受けた損傷が原因で長らく補修待ちとなっていたが、2011年度の群馬デスティネーションキャンペーンに向けた修復が2010年末から行われ、2011年4月に完了した。

2017年（平成29年）7月26日、高崎駅構内においてデキ1が出火事故を起こす。車体の腐食によって雨水が機関車内部に浸入して漏電したことが事故の原因であるとされ、再発防止も含めた修繕には多額の費用が掛かる見通しとされた[10]。この事故以降、デキ1と無傷だったデキ3は運用に入ることもなく高崎駅構内に留置される状態が続いていたが[3]、2021年（令和3年）12月、デキ3については観光庁の既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業（交通連携型）約2700万円の交付を受けて動態保存に向けて整備されることが明らかになった[3]。

  • デキ1 （2006年12月2日）
    デキ1
    （2006年12月2日）
  • デキ3の側面 （2009年11月8日）
    デキ3の側面
    （2009年11月8日）
  • デキ3の側面に取り付けられている製造銘板。シーメンス社のシリアルナンバーが記載されている （2009年11月8日）
    デキ3の側面に取り付けられている製造銘板。シーメンス社のシリアルナンバーが記載されている
    （2009年11月8日）
  • デキ1とデキ3の側面。ボンネット側面の点検扉の有無（デキ3のものは反対側側面にある）の違いがある。 （2006年12月2日）
    デキ1とデキ3の側面。ボンネット側面の点検扉の有無（デキ3のものは反対側側面にある）の違いがある。
    （2006年12月2日）

保存

[編集]
デキ2

関連項目

[編集]
他社のシーメンス製輸入電気機関車

脚注

[編集]

注釈

[編集]
[脚注の使い方]
  1. ^ 端子電圧750 V・定格電流76 A・一時間定格出力50 kW

出典

[編集]
[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d e f g h i j 『鉄道ピクトリアル』別冊33号 p.41
  2. ^ a b c “《鉄路を彩った名車両》デキ2　独製の「シーラカンス」”. 『上毛新聞』. (2020年10月6日). https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/culture/245279 2020年10月6日閲覧。 
  3. ^ a b c 「デキ」再び動く雄姿を　国内最古級の電気機関車　上信電鉄が動態保存へ - 上毛新聞 2021年12月29日
  4. ^ 『上信電鉄百年史』
  5. ^ a b c 『鉄道ファン』通巻169号 p.49
  6. ^ 『鉄道ファン』通巻169号 p.50
  7. ^ 『鉄道ピクトリアル』別冊33号 p.36
  8. ^ “上州のシーラカンス”と呼ばれたデキ 98歳の電気機関車 再び動く姿を！NHK首都圏ナビ Webリポート 2022年4月22日
  9. ^ RA2007-7 鉄道事故調査報告書- 国土交通省　2007年10月26日
  10. ^ 群馬県議会　常任委員会平成29年第３回定例会 　産経土木常任委員会（産業経済部・労働委員会関係）. 7 December 2017. 2019年5月19日閲覧。

参考文献

[編集]
  • 吉川文夫「上信のシーメンス」、『鉄道ファン』169号（1975年5月号）、交友社 pp. 48-50
  • 柴田 重利「上信電気鉄道」、『鉄道ピクトリアルアーカイブスセレクション』33号（2016年3月別冊）、鉄道図書刊行会 pp. 34-43
ウィキメディア・コモンズには、上信電気鉄道デキ1形電気機関車に関連するカテゴリがあります。

現有車両

電車

150形（運用終了）・200形（運用終了）・250形・500形・700形・1000形・6000形・7000形

電気機関車
貨車

過去の車両

電車
貨車

ワフ1形・ワ1形・ト1形・チ1形・テ1形・テ20形・ワ101形・ワム1形・ワム200形・ワム500形・トム1形・トム50形

鉄道友の会 鉄道趣味顕賞 選定対象一覧
エバーグリーン賞
グローリア賞
シルバー賞
「https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=上信電気鉄道デキ1形電気機関車&oldid=101071905」から取得