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「ライ麦パン」の版間の差分

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[[ファイル:Mischbrot-1.jpg|thumb|オーストリアで焼かれたライ麦パン(ロッゲンミッシュブロート)]]
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'''ライ麦パン'''(ライむぎパン、{{lang-en-short|rye bread}})は、[[ライムギ]]から作った[[パン]]である。「ライ」(rye)から作った「パン」なので「'''ライパン'''」とも呼ばれ、また、通常作られるパン([[コムギ|小麦]]から作ったパン)より黒いので'''黒パン'''ともいう。ライ麦パン(黒パン)は、[[ドイツ]]、[[オーストリア]]、[[ロシア]]、[[東欧]]、[[北欧]]などで、多く食べられている。
'''ライ麦パン'''(ライむぎパン、{{lang-en-short|rye bread}})は、[[ライムギ]]から作った[[パン]]である。「ライ」(rye)から作った「パン」なので「'''ライパン'''」とも呼ばれ、また、通常作られるパン([[コムギ|小麦]]から作ったパン)より黒いので'''黒パン'''ともいう。ライ麦パン(黒パン)は、[[ドイツ]]、[[オーストリア]]、[[ロシア]]、[[東欧]]、[[北欧]]などで、多く食べられている。

寒さに強いライムギは[[ヨーロッパ大陸]]北部に居住している[[ゲルマン人]]、[[スラヴ人]]の間では重要な主食である。また[[七王国]]を建国したことで知られるゲルマン系の[[アングロ・サクソン人]]も[[グレートブリテン島]]にライ麦パンを持ち込んだ。


ライ麦パンと黒パンは同義ではない。黒くなる理由は全粒粉や、皮や胚芽を含む精製度の低い粉を使用するためである。そのため精製度の高い粉を使うあまり黒くないライ麦パンもある。しかし[[全粒粉]]や精製度の低い粉を使用すると、栄養価が高く、麦の旨みを味わえるパンができる。また、全てライ麦ではなく、小麦や[[エンバク|燕麦]]を混ぜたライ麦パンもある。小麦を混ぜたライ麦パン(ライ麦を混ぜた小麦パンともいえる)は色が薄く柔らかくなる。この混ぜる割合により様々なライ麦パンの種類がある。
ライ麦パンと黒パンは同義ではない。黒くなる理由は全粒粉や、皮や胚芽を含む精製度の低い粉を使用するためである。そのため精製度の高い粉を使うあまり黒くないライ麦パンもある。しかし[[全粒粉]]や精製度の低い粉を使用すると、栄養価が高く、麦の旨みを味わえるパンができる。また、全てライ麦ではなく、小麦や[[エンバク|燕麦]]を混ぜたライ麦パンもある。小麦を混ぜたライ麦パン(ライ麦を混ぜた小麦パンともいえる)は色が薄く柔らかくなる。この混ぜる割合により様々なライ麦パンの種類がある。
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== ドイツにおけるライ麦パンの定義 ==
== ドイツにおけるライ麦パンの定義 ==
[[File:フォルコルンブロート.jpg|thumb|フォルコルンブロートの一種]]
[[File:フォルコルンブロート.jpg|thumb|フォルコルンブロートの一種]]
ドイツパンの場合、ライ麦の配合率で呼び方が決まっている。小麦はヴァイツェン({{lang-de-short|Weizen}})、ライ麦はロッゲン({{lang-de-short|Roggen}})、混ぜるはミッシュ({{lang|de|misch}})、パンはブロート({{lang|de|Brot}})なので、「小麦またはライ麦({{lang|de|Weizen}}または{{lang|de|Roggen}})」+(「混ぜる」({{lang|de|misch}})+)「パン({{lang|de|Brot}})」という表記方法になる。ドイツで定められている名称は、以下の通りとなる<ref name="辻調グループ">{{Cite web |url = http://www.tsujicho.com/column/cat659/post-193.html |title = 「【独逸見聞録】ブロートの定義 〜大型パン(其の壱)〜」 |publisher = 辻調グループ総合情報サイト内 2011年6月15日 |accessdate = 2015-04-11 }}</ref>。
ドイツパンの場合、ライ麦の配合率で呼び方が決まっている。小麦はヴァイツェン({{lang-de-short|Weizen}})、ライ麦はロッゲン({{lang-de-short|Roggen}})、混ぜるはミッシュ({{lang|de|misch}})、パンはブロート({{lang|de|Brot}})なので、「小麦またはライ麦({{lang|de|Weizen}}または{{lang|de|Roggen}})」+(「混ぜる」({{lang|de|misch}})+)「パン({{lang|de|Brot}})」という表記方法になる。ドイツで定められている名称は、以下の通りとなる<ref name="辻調グループ">{{Cite web|和書|url = http://www.tsujicho.com/column/cat659/post-193.html |title = 「【独逸見聞録】ブロートの定義 〜大型パン(其の壱)〜」 |publisher = 辻調グループ総合情報サイト内 2011年6月15日 |accessdate = 2015-04-11 }}</ref>。


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「ドイツ食品便覧(Deutsches Lebensmittelbuch:ドイチェス・レーベンスミッテルブーフ)」の「大型と小型パンの指導原則(Leitsätze für Brot und Kleingebäck:ライトゼッツェ・フュァ・ブロート・ウント・クラインゲベック)」に収録されるライ麦を用いたパンには、このほか次のようなものが挙げられている<ref name="辻調グループ"/>。
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; ロッゲンフォルコルンブロート(Roggenvollkornbrot)
; ロッゲンフォルコルンブロート(Roggenvollkornbrot)
: 少なくともライ麦全粒粉を90%使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種(Sauerteig:ザウアータイク)に由来するものを使用したライ麦パン。
: 少なくともライ麦全粒粉を90%使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種(Sauerteig:ザウアータイク)に由来するものを使用したライ麦パン。
; フォルコルンブロート(Vollkornbrot)
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: ライ麦全粒製品と小麦全粒製品を任意の比率で合わせたものを少なくとも90%使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種に由来するものを使用したライ麦パン。
: ライ麦全粒製品と小麦全粒製品を任意の比率で合わせたものを少なくとも90%使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種に由来するものを使用したライ麦パン。
; ロッゲンヴァイツェンフォルコルンブロート(Roggenweizenvollkornbrot)
; ロッゲンヴァイツェンフォルコルンブロート(Roggenweizenvollkornbrot)
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; シュロートブロート(Schrotbrot)
; シュロートブロート(Schrotbrot)
: 粗挽きのライ麦粉と粗挽きの小麦粉を任意の比率で合わせた粉を90%以上使用するライ麦パン。
: 粗挽きのライ麦粉と粗挽きの小麦粉を任意の比率で合わせた粉を90%以上使用するライ麦パン。
; プンパーニッケル(Pumpernickel)
; [[プンパーニッケル]](Pumpernickel)
: 粗挽きライ麦粉とライ麦全粒粉を90%以上使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種に由来するものを使用し、焼成に16時間以上の時間をかけるライ麦パン。
: 粗挽きライ麦粉とライ麦全粒粉を90%以上使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種に由来するものを使用し、焼成に16時間以上の時間をかけるライ麦パン。


== 食感と栄養 ==
== 食感と栄養 ==
ライ麦パンは、[[小麦]]から作る一般的なパンと比較し食感が硬いため、「ハードパン」(対して、中間の硬さのパンは「セミハードパン」、柔らかいパンは「ソフトパン」)の一種に分類される。
ライ麦パンは、[[小麦]]から作る一般的な白いパンと比て食感が硬いため、「ハードパン」(対して、中間の硬さのパンは「セミハードパン」、柔らかいパンは「ソフトパン」)の一種に分類される。


小麦から作るパンでは[[発酵]]に[[イースト菌]]がよく使われるが、ライ麦パンでは主にイースト菌ではなく[[サワードウ]]が使われる。そのため生地に酸味がある。
小麦から作るパンでは[[発酵]]に[[イースト菌]]がよく使われるが、ライ麦パンでは主にイースト菌ではなく[[サワードウ]]が使われる。そのため生地に酸味がある。


ライ麦にはパンの発酵膨張に不可欠な[[グルテン]]が含まれておらず、([[燕麦]]と異なり、ライ麦はグルテンを構成する[[グリアジン]]は持っているので、全く膨らまないわけではない)、ライ麦パンは小麦のパンより膨らみが悪いので、硬くて密度が高い、目の詰まったパンになるが、麦の濃厚な旨みを味わえ、噛みごたえや食べごたえがあり、咀嚼回数が増え、腹持ちがいい。
ライ麦にはパンの発酵膨張に不可欠な[[グルテン]]が含まれておらず<ref>ただし[[燕麦]]と異なり、ライ麦はグルテンを構成する[[グリアジン]]を含むので、全く膨らまないわけではない)。</ref>膨らみにくいので、硬くて密度が高い、目の詰まったパンになる麦の濃厚な旨みを味わえ、噛みごたえや食べごたえがあり、咀嚼回数が増え、腹持ちがいい。


ライ麦パン、小麦のパンより、[[ビタミンB]]類を始め、ミネラル食物繊維が多く含まれて。また、小麦のパンより糖類が少ないために、食後の血糖値が緩やかに上昇する特徴を持つ「低GI食品」である。
ライ麦パンは[[ビタミンB]]類を始め、ミネラル食物繊維が多く栄養価が高い。また、小麦のパンより糖類が少ないために、食後の血糖値が緩やかに上昇する特徴を持つ「低GI食品」である。


長らくヨーロッパでは、[[小麦]]の柔らかい[[白パン]]は上等で、ライ麦パン・黒パンは下等という価値観が存在したが、近年では健康志向から栄養価の高いライ麦パン・黒パンが見直されている<ref>[https://minnakenko.jp/herushii-pan-ittai-donnamono/ みんなの健康:ヘルシーなパンって一体どんなもの?]</ref>。
長らく欧米では食感が硬いライ麦パン・黒パンは低級で口当たりの良い[[小麦]]の[[白パン]]が高級という価値観が存在した近年では健康志向から栄養豊富・低GIなライ麦パン・黒パンが見直されており<ref>[https://minnakenko.jp/herushii-pan-ittai-donnamono/ みんなの健康:ヘルシーなパンって一体どんなもの?]</ref>、日本における[[麦飯]]や[[雑穀]]と[[米飯]]の関係に似ている


== 食べ方 ==
== 食べ方 ==
硬いので薄切りにして[[バター]]や[[ラード]]や[[シュマルツ]]や[[サワークリーム]]などを塗って食べる。また、塩気のある食材と相性が良く、薄切りパンに[[イクラ]]や[[キャビア]]や[[オイルサーディン]]などをのせたり、薄切りパンで[[ハム]]や[[チーズ]]や[[スモークサーモン]]などを挟んで[[サンドイッチ]]にもする。薄切りにしてトーストしたライ麦パンに[[パストラミ]]や[[コンビーフ]]や[[ザワークラウト]]や[[スイスチーズ]]などを挟んだ[[ルーベンサンド]]が知られている。
硬いので薄切りにして[[バター]]や[[ラード]]や[[シュマルツ]]や[[サワークリーム]]などを塗って食べる。また、塩気のある食材と相性が良く、薄切りパンに[[イクラ]]や[[キャビア]]や[[オイルサーディン]]などをのせたり、薄切りパンで[[ハム]]や[[チーズ]]や[[スモークサーモン]]などを挟んで[[サンドイッチ]]にもする。薄切りにしてトーストしたライ麦パンに[[パストラミ]]や[[コンビーフ]]や[[ザワークラウト]]や[[スイスチーズ]]などを挟んだ[[ルーベンサンド]]が知られている。[[ラクレット]]などのチーズを焙って薄切りパンにのせて食べるのもよい


昔のヨーロッパでは、パンを1週間から数ヶ月おきにまとめて焼いて貯蔵しておく習慣があったので、古くなったライ麦パンはナイフも通らないほど硬くなった。そのため予め適当な大きさに切って保存した。ライ麦パンはその酸味のため日持ちがする。
昔のヨーロッパでは、パンを1週間から数ヶ月おきにまとめて焼いて貯蔵しておく習慣があったので、古くなったライ麦パンはナイフも通らないほど硬くなった。そのため予め適当な大きさに切って保存した。ライ麦パンはその酸味のため日持ちがする。


硬くなったパンは水や酒やスープに浸して柔らかくして食べる他、粥やスープにして食べる。また(硬くなった)ライ麦パン(黒パン)をお湯に溶かして麦芽や酵母によって発酵させ、1〜3%のアルコールを含む[[ビール]]のような清涼飲料水を作る。ロシアの[[クワス]]が有名である<ref>{{cite web|title=第92回あなたはまだ知らない?パンケーキの国|url= https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130731/360041/?ST=m_column&P=3|page=3|date=2013年8月2日|accessdate=2020年3月9日|publisher=ナショナルジオグラフィック}}</ref>。
硬くなったパンは水や酒やスープに浸して柔らかくして食べる他、粥やスープにして食べる。また(硬くなった)ライ麦パン(黒パン)をお湯に溶かして麦芽や酵母によって発酵させ、1〜3%のアルコールを含む[[ビール]]のような清涼飲料水を作る。ロシアの[[クワス]]が有名である<ref>{{Cite web|和書|title=第92回あなたはまだ知らない?パンケーキの国|url= https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130731/360041/?ST=m_column&P=3|page=3|date=2013年8月2日|accessdate=2020年3月9日|publisher=ナショナルジオグラフィック}}</ref>。

== シベリア抑留者が食べた黒パン ==
通常の黒パンはライ麦から作られるが、[[第二次世界大戦]]後、[[シベリア抑留]]で[[ラーゲリ]]に収容された元日本兵にはライ麦の使われていない黒パンが支給された。これは粗挽きの小麦粉に[[大麦]]粉か[[玉葱]]粉、[[フスマ]]などから作られる粗悪なもので、極めて酸味が強く水気の多い重いパンであった<ref>{{Cite book |和書 |author=長勢了治 |title=シベリア抑留全史 |publisher=原書房 |year=2013-08-08 |page=210 |isbn=9784562049318}}</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commonscat|Rye bread}}
{{Commonscat|Rye bread}}
*[[パン]] - 日本では黒糖の黒いパンを「黒(くろ)パン」と呼ぶことがある。勿論、ライ麦パンとは関係はない
*[[パン]] - 日本ではライムギの配合とは別に、黒糖を練こんで褐色に染まったパンを「黒(くろ)パン」と呼ぶことがある。
**[[白パン]]
**[[白パン]]
**[[茶色パン]]
**[[茶色パン]]
*[[ロシアパン]] - ロシアで食べられているライ麦パンを模した日本のパン。
*[[ロシアパン]] - ロシアで食べられているライ麦パンを模した日本のパン。
*[[コミスブロート]] - ドイツ軍の糧食である軍用パンの総称。ライ麦を含有する(=ライ麦パンである)ことが多い。

* [[ルイスレイパ]]([[:fi:Ruisleipä|Ruisleipä]])
{{Food-stub}}
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2024年7月15日 (月) 05:33時点における最新版

オーストリアで焼かれたライ麦パン(ロッゲンミッシュブロート)

ライ麦パン(ライむぎパン、: rye bread)は、ライムギから作ったパンである。「ライ」(rye)から作った「パン」なので「ライパン」とも呼ばれ、また、通常作られるパン(小麦から作ったパン)より黒いので黒パンともいう。ライ麦パン(黒パン)は、ドイツオーストリアロシア東欧北欧などで、多く食べられている。

寒さに強いライムギはヨーロッパ大陸北部に居住しているゲルマン人スラヴ人の間では重要な主食である。また七王国を建国したことで知られるゲルマン系のアングロ・サクソン人グレートブリテン島にライ麦パンを持ち込んだ。

ライ麦パンと黒パンは同義ではない。黒くなる理由は全粒粉や、皮や胚芽を含む精製度の低い粉を使用するためである。そのため精製度の高い粉を使うあまり黒くないライ麦パンもある。しかし全粒粉や精製度の低い粉を使用すると、栄養価が高く、麦の旨みを味わえるパンができる。また、全てライ麦ではなく、小麦や燕麦を混ぜたライ麦パンもある。小麦を混ぜたライ麦パン(ライ麦を混ぜた小麦パンともいえる)は色が薄く柔らかくなる。この混ぜる割合により様々なライ麦パンの種類がある。

ドイツにおけるライ麦パンの定義

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フォルコルンブロートの一種

ドイツパンの場合、ライ麦の配合率で呼び方が決まっている。小麦はヴァイツェン(: Weizen)、ライ麦はロッゲン(: Roggen)、混ぜるはミッシュ(misch)、パンはブロート(Brot)なので、「小麦またはライ麦(WeizenまたはRoggen)」+(「混ぜる」(misch)+)「パン(Brot)」という表記方法になる。ドイツで定められている名称は、以下の通りとなる[1]

ライ麦の割合 小麦の割合 名前
10%未満 90%以上 ヴァイツェンブロートまたはヴァイスブロート(Weizenbrot oder Weißbrot)
10%以上50%未満 50%以上90%未満 ヴァイツェンミッシュブロート(Weizenmischbrot)
50%以上90%未満 10%以上50%未満 ロッゲンミッシュブロート(Roggenmischbrot)
90%以上 10%未満 ロッゲンブロート(Roggenbrot)

「ドイツ食品便覧(Deutsches Lebensmittelbuch:ドイチェス・レーベンスミッテルブーフ)」の「大型と小型パンの指導原則(Leitsätze für Brot und Kleingebäck:ライトゼッツェ・フュァ・ブロート・ウント・クラインゲベック)」に収録されるライ麦を用いたパンには、このほか次のようなものが挙げられている[1]

ロッゲンフォルコルンブロート(Roggenvollkornbrot)
少なくともライ麦全粒粉を90%使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種(Sauerteig:ザウアータイク)に由来するものを使用したライ麦パン。
フォルコルンブロート(Vollkornbrot)
ライ麦全粒製品と小麦全粒製品を任意の比率で合わせたものを少なくとも90%使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種に由来するものを使用したライ麦パン。
ロッゲンヴァイツェンフォルコルンブロート(Roggenweizenvollkornbrot)
50%以上のライ麦全粒粉を使用したライ麦パン。
ロッゲンシュロートブロート(Roggenschrotbrot)
90%以上の粗挽きライ麦粉を使用したライ麦パン。
シュロートブロート(Schrotbrot)
粗挽きのライ麦粉と粗挽きの小麦粉を任意の比率で合わせた粉を90%以上使用するライ麦パン。
プンパーニッケル(Pumpernickel)
粗挽きライ麦粉とライ麦全粒粉を90%以上使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種に由来するものを使用し、焼成に16時間以上の時間をかけるライ麦パン。

食感と栄養

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ライ麦パンは、小麦から作る一般的な白いパンと比べて食感が硬いため、「ハードパン」(対して、中間の硬さのパンは「セミハードパン」、柔らかいパンは「ソフトパン」)の一種に分類される。

小麦から作るパンでは発酵イースト菌がよく使われるが、ライ麦パンでは主にイースト菌ではなくサワードウが使われる。そのため生地に酸味がある。

ライ麦にはパンの発酵膨張に不可欠なグルテンが含まれておらず[2]膨らみにくいので、硬くて密度が高い、目の詰まったパンになる。麦の濃厚な旨みを味わえ、噛みごたえや食べごたえがあり、咀嚼回数が増え、腹持ちがいい。

ライ麦パンはビタミンB類を始め、ミネラルや食物繊維が多く栄養価が高い。また、小麦のパンより糖類が少ないために、食後の血糖値が緩やかに上昇する特徴を持つ「低GI食品」である。

長らく欧米では食感が硬いライ麦パン・黒パンは低級で、口当たりの良い小麦白パンが高級という価値観が存在した。近年では健康志向から栄養豊富・低GIなライ麦パン・黒パンが見直されており[3]、日本における麦飯雑穀米飯の関係に似ている。

食べ方

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硬いので薄切りにしてバターラードシュマルツサワークリームなどを塗って食べる。また、塩気のある食材と相性が良く、薄切りパンにイクラキャビアオイルサーディンなどをのせたり、薄切りパンでハムチーズスモークサーモンなどを挟んでサンドイッチにもする。薄切りにしてトーストしたライ麦パンにパストラミコンビーフザワークラウトスイスチーズなどを挟んだルーベンサンドが知られている。ラクレットなどのチーズを焙って薄切りパンにのせて食べるのもよい。

昔のヨーロッパでは、パンを1週間から数ヶ月おきにまとめて焼いて貯蔵しておく習慣があったので、古くなったライ麦パンはナイフも通らないほど硬くなった。そのため予め適当な大きさに切って保存した。ライ麦パンはその酸味のため日持ちがする。

硬くなったパンは水や酒やスープに浸して柔らかくして食べる他、粥やスープにして食べる。また(硬くなった)ライ麦パン(黒パン)をお湯に溶かして麦芽や酵母によって発酵させ、1〜3%のアルコールを含むビールのような清涼飲料水を作る。ロシアのクワスが有名である[4]

シベリア抑留者が食べた黒パン

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通常の黒パンはライ麦から作られるが、第二次世界大戦後、シベリア抑留ラーゲリに収容された元日本兵にはライ麦の使われていない黒パンが支給された。これは粗挽きの小麦粉に大麦粉か玉葱粉、フスマなどから作られる粗悪なもので、極めて酸味が強く水気の多い重いパンであった[5]

脚注

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  1. ^ a b 「【独逸見聞録】ブロートの定義 〜大型パン(其の壱)〜」”. 辻調グループ総合情報サイト内 2011年6月15日. 2015年4月11日閲覧。
  2. ^ ただし燕麦と異なり、ライ麦はグルテンを構成するグリアジンを含むので、全く膨らまないわけではない)。
  3. ^ みんなの健康:ヘルシーなパンって一体どんなもの?
  4. ^ 第92回あなたはまだ知らない?パンケーキの国”. ナショナルジオグラフィック. p. 3 (2013年8月2日). 2020年3月9日閲覧。
  5. ^ 長勢了治『シベリア抑留全史』原書房、2013年8月8日、210頁。ISBN 9784562049318 

関連項目

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  • パン - 日本ではライムギの配合とは別に、黒糖を練りこんで褐色に染まったパンを「黒(くろ)パン」と呼ぶことがある。
  • ロシアパン - ロシアで食べられているライ麦パンを模した日本のパン。
  • コミスブロート - ドイツ軍の糧食である軍用パンの総称。ライ麦を含有する(=ライ麦パンである)ことが多い。
  • ルイスレイパ(Ruisleipä)