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「巨大数」の版間の差分

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{{Expand English|Large numbers|date=2024年5月}}
'''巨大数'''(きょだいすう、large numbers)とは、日常生活において使用される数よりも巨大な[[数]]([[実数]])のことである。非常に巨大な数は、[[数学]]、[[天文学]]、[[宇宙論]]、[[暗号理論]]、[[インターネット]]や[[コンピュータ]]などの分野でしばしば登場する。'''天文学的数字'''(てんもんがくてきすうじ)と呼ばれることもある。
'''巨大数'''(きょだいすう、large numbers)とは、日常生活において使用される数よりも巨大な[[数]]([[実数]])のことである。非常に巨大な数は、[[数学]]、[[天文学]]、[[宇宙論]]、[[暗号理論]]、[[インターネット]]や[[コンピュータ]]などの分野でしばしば登場する。'''天文学的数字'''(てんもんがくてきすうじ)と呼ばれることもある。


主にインターネット上で、巨大数やその定義、およびそれを支える理論等を研究する数学のコミュニティがあり、その理論は'''巨大数論'''(きょだいすうろん)、あるいは[[グーゴル]]にちなんで<ref name=":0" />グーゴロジー(googology)と呼ばれる。
主にインターネット上で、巨大数やその定義、およびそれを支える理論等を研究する数学のコミュニティがあり、その理論は'''巨大数論'''(きょだいすうろん)、あるいは[[グーゴル]]にちなんで<ref name=":0" />グーゴロジー (googology) と呼ばれる。
<!-- なお、巨大数に対して、0ではないが0に限りなく近い正の実数のことを[[微小数]](びしょうすう)という。 -->
<!-- [[#巨大数を表現するための表記法及び関数|後述]]のように、巨大な数(や微小な数)を処理するために特殊な[[数学記号の表|数学記号]]が使われている。-->


== 例 ==
== 例 ==
身近な事物にまつわる数字の中で特に大きいものを挙げる。
身近な事物にまつわる数字の中で特に大きいものを挙げる。
* 人間の[[血管]]を全て合わせた長さ - 約 100億cm = 10<sup>10</sup> cm
* 人間の[[血管]]を全て合わせた長さ - 約100億 cm = 10<sup>8</sup> m
* 人間の脳の[[シナプス]]の数 - 約10兆本 = 10<sup>14</sup> 本
* 人間の脳の[[シナプス]]の数 - 約10兆本 = 10<sup>14</sup> 本
* 人間の体の[[細胞]]の数 - 100兆個 = 10<sup>14</sup> 個以上
* 人間の体の[[細胞]]の数 - 100兆個 = 10<sup>14</sup> 個以上
* 一般的なコンピュータの[[ハードディスクドライブ]]の容量 - 10<sup>14</sup> ~ 10<sup>16</sup> ビット
* 一般的なコンピュータの[[ハードディスクドライブ]]の容量 - 10<sup>13</sup> ~ 10<sup>15</sup> [[ビット]] ※参考:1TB([[テラ]][[バイト (情報)|バイト]])= 10<sup>12</sup> バイト = 8 × 10<sup>12</sup> ビット
* [[日本]]の[[2007年]]の[[国内総生産]] - 561兆円 = 5.61×10<sup>14</sup> 円
* [[日本]]の[[2007年]]の[[国内総生産]] - 561兆円 = 5.61 × 10<sup>14</sup> 円
* [[国際連合加盟国]]の20世紀のGDP合計 - 30[[京 (数)|京]]円 = 3 × 10<sup>17</sup> 円
* [[国際連合加盟国]]の20世紀のGDP合計 - 30[[京 (数)|京]]円 = 3 × 10<sup>17</sup> 円
* [[アボガドロ定数]] - 6.02214076 × 10<sup>23</sup>(定義値)
* [[アボガドロ定数]] - 6.022 140 76 × 10<sup>23</sup> mol<sup>-1</sup>(定義値)
* [[プランク単位系#基本プランク単位|プランク温度]] - 1.416784(16)×10<sup>32</sup> [[ケルビン|K]]
* [[プランク単位系#基本プランク単位|プランク温度]] - 1.416784(16) × 10<sup>32</sup> [[ケルビン|K]]
* [[MD5]]のハッシュ値の数 - 2<sup>128</sup> (約 3.402&times;10<sup>38</sup> )通り<ref>RFC 1321</ref>
* [[MD5]]のハッシュ値の数 - 2<sup>128</sup>約 3.402 × 10<sup>38</sup>通り<ref>{{IETF RFC|1321}}</ref>
* [[IPv6]]の[[IPアドレス]]の数 - 上記のMD5のハッシュ値の数と同じ
* [[ジンバブエ・ドル]]の[[インフレーション]]率(2009年1月)- 6.5×10<sup>108</sup> パーセント<ref>[http://www.irinnews.org/Report.aspx?ReportId=82500 ZIMBABWE: Inflation at 6.5 quindecillion novemdecillion percent] 2009年1月21日、Forbes ASIA、2019年1月26日閲覧</ref>
* [[無量大数]] - 10<sup>68</sup>
* [[ジンバブエ・ドル]]の[[インフレーション]]率(2009年1月)- 6.5 × 10<sup>108</sup> パーセント<ref>[http://www.irinnews.org/Report.aspx?ReportId=82500 ZIMBABWE: Inflation at 6.5 quindecillion novemdecillion percent] 2009年1月21日、Forbes ASIA、2019年1月26日閲覧</ref>


==天文学の巨大数 ==
==天文学の巨大数 ==
億や兆を大きく超えた数字のことを「天文学的」と形容するように、宇宙および天文学に関連する話題では巨大数が登場することが多い。
億や兆を大きく超えた数字のことを「天文学的」と形容するように、宇宙および天文学に関連する話題では巨大数が登場することが多い。
* 1[[光年]] ≒ 9.46×10<sup>15</sup>
* 1[[光年]] ≒ 9.46 × 10<sup>15</sup> m
* [[地球]]の質量 ≒ 5.972×10<sup>24</sup>kg
* [[地球]]の質量 ≒ 5.972 × 10<sup>24</sup> kg
* [[太陽]]の質量 ≒ 1.9891×10<sup>30</sup>kg
* [[太陽]]の質量 ≒ 1.9891 × 10<sup>30</sup> kg
* エディントン数 = 136×2<sup>256</sup> ≒ 1.575×10<sup>79</sup>([[観測可能な宇宙]]に存在する[[陽子]]の数として[[アーサー・エディントン]]が予想した数<ref>{{Cite web|title=Eddington Number|url=https://mathworld.wolfram.com/EddingtonNumber.html|website=mathworld.wolfram.com|accessdate=2021-09-17|language=en|first=Eric W.|last=Weisstein}}</ref>)
* エディントン数 = 136 × 2<sup>256</sup> ≒ 1.575 × 10<sup>79</sup>([[観測可能な宇宙]]に存在する[[陽子]]の数として[[アーサー・エディントン]]が予想した数<ref>{{Cite web|title=Eddington Number|url=https://mathworld.wolfram.com/EddingtonNumber.html|website=mathworld.wolfram.com|accessdate=2021-09-17|language=en|first=Eric W.|last=Weisstein}}</ref>)
* 観測可能な宇宙の体積 ≒ 1.6×10<sup>81</sup>m<sup>3</sup>
* 観測可能な宇宙の体積 ≒ 1.6 × 10<sup>81</sup> m<sup>3</sup>
以下の数値は数があまりにも巨大であるため、単位をどのように取っても無視できる範囲で近似する。
以下の数値は数があまりにも巨大であるため、単位をどのように取っても(すなわち長さの場合は「[[メートル]]」でも「[[光年]]」でも、時間の場合は「[[秒]]」でも「[[年]]」でも)無視できる範囲で近似する。
* 全ての物質が[[鉄56]]に変換するまでにかかる時間([[陽子崩壊]]が起こらない場合) - 10<sup>1500</sup>
* 全ての物質が[[鉄56]]に変換するまでにかかる時間([[陽子崩壊]]が起こらない場合) - 10<sup>1500</sup>([[鉄の星]]も参照)
* [[宇宙のインフレーション|インフレーション]]後の[[宇宙]]の大きさとして出された物理学者[[レオナルド・サスキンド]]による解の一つ - <math>10^{10^{10^{122}}}</math><ref>[http://arxiv.org/abs/hep-th/0610199 "Susskind's Challenge to the Hartle-Hawking No-Boundary Proposal and Possible Resolutions"]</ref>
* [[宇宙のインフレーション|インフレーション]]後の[[宇宙]]の大きさとして出された物理学者[[レオナルド・サスキンド]]による解の一つ - <math>10^{10^{10^{122}}}</math><ref>[http://arxiv.org/abs/hep-th/0610199 "Susskind's Challenge to the Hartle-Hawking No-Boundary Proposal and Possible Resolutions"]</ref>
* 複数の[[宇宙]]の全質量を1個の[[ブラックホール]]に圧縮しそれが蒸発した後に、[[ポアンカレの回帰定理]]に従い再びブラックホールができる時間の近似値(宇宙論で使われた最大の数)- <math>10^{10^{10^{10^{10^{1.1}}}}}</math>
* 複数の[[宇宙]]の全質量を1個の[[ブラックホール]]に圧縮しそれが蒸発した後に、[[ポアンカレの回帰定理]]に従い再びブラックホールができる時間の近似値(宇宙論で使われた最大の数)- <math>10^{10^{10^{10^{10^{1.1}}}}}</math>
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[[組合せ数学]]において、組合せの場合の数などは急激に大きくなる数で、[[組合せ爆発]]といった語もある。
[[組合せ数学]]において、組合せの場合の数などは急激に大きくなる数で、[[組合せ爆発]]といった語もある。


* {{Math|16 × 16}}マスに区切られた格子状の道路を、同じ交差点を2度通らずに左上から右下まで向かう道順の数 - 約{{Math|6.87 × 10<sup>61</sup>}}通り<ref>{{Cite web|url=https://www.youtube.com/watch?v=ge8vy4tc_kQ|title=「フカシギの数え方」 同じところを2度通らない道順の数|accessdate=2021-03-24}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://oeis.org/A007764|title=A007764 - OEIS|accessdate=2021-03-24|publisher=The OEIS Foundation Inc.}}</ref>
* {{Math|16 × 16}}マスに区切られた格子状の道路を、同じ交差点を2度通らずに左上から右下まで向かう道順の数 - 約{{Math|6.87 × 10<sup>61</sup>}}通り<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.youtube.com/watch?v=ge8vy4tc_kQ|title=「フカシギの数え方」 同じところを2度通らない道順の数|accessdate=2021-03-24}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://oeis.org/A007764|title=A007764 - OEIS|accessdate=2021-03-24|publisher=The OEIS Foundation Inc.}}</ref>
* トランプ52枚を一列に並べる並べ方 - {{Math|52! ≈}} 約{{Math|8.066 × 10<sup>67</sup>}}通り
* トランプ52枚を一列に並べる並べ方 - {{Math|52! ≈}} 約{{Math|8.066 × 10<sup>67</sup>}}通り
* [[囲碁]]で[[碁盤|19路盤]]の着点の総数は19<sup>2</sup> (361目)、ここに黒石、白石、空点をランダムに配置する組合せの総数は3<sup>361</sup>、この中からルール上合法な局面の総数は約2.1×10<sup>170</sup>となる<ref name=":02">{{Cite journal|author1=John Tromp|year=2007|title=Combinatorics of Go|url=https://tromp.github.io/go/gostate.pdf|volume=4630|publisher=Springer|doi=10.1007/978-3-540-75538-8_8|author2=Gunnar Farnebäck|series=Lecture Notes in Computer Science}}</ref>。
* [[グラハム数]]
* [[グラハム数]]

{{要検証|組合せ関数は、統計力学で扱われる巨大数を生成するために使われることがある。統計力学の分野で使用される数は、一般に対数を用いて表される。|date=2021年3月}}


== 歴史 ==
== 歴史 ==
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* 日本では『[[塵劫記]]』にて纏められた、[[命数法]]のための記述([[西洋の命数法]]も参照)。
* 日本では『[[塵劫記]]』にて纏められた、[[命数法]]のための記述([[西洋の命数法]]も参照)。


アルキメデスが『砂粒を数えるもの』で想定した最大の数である「第億期の数」の10<sup>8×10<sup>16</sup></sup>や、仏教の経典の[[華厳経]]における「[[不可説不可説転]]」(八十華厳の10<sup>7×2<sup>122</sup></sup>≒10<sup>3.7×10<sup>37</sup></sup>の値が有名)などは、古代において[[テトレーション]]レベルに接近するほどの巨大な数を想定した数少ない例である。
[[1976年]]に[[ドナルド・クヌース]]は、「巨大な数量をどれほど上手く取り扱えるか」ということを論じる「Mathematics and Computer Science: Coping with Finiteness」という記事<ref>{{Cite journal|last=Knuth|first=Donald E.|date=1976-12-17|title=Mathematics and Computer Science: Coping with Finiteness|url=https://science.sciencemag.org/content/194/4271/1235|journal=Science|volume=194|issue=4271|pages=1235–1242|language=en|doi=10.1126/science.194.4271.1235|issn=0036-8075|pmid=17797067}}</ref>を発表し、この本文中で[[クヌースの矢印表記]]を提案した。翌[[1977年|77年]]にはこの矢印表記を用いて、[[マーティン・ガードナー]]が自身の連載「数学ゲーム」で[[グラハム数]]を紹介しており、以降も[[スタインハウスのメガ|レオ・スタインハウス]]、[[コンウェイのチェーン表記|ジョン・ホートン・コンウェイ]]といった人々が巨大数にまつわる記事を執筆している。


[[1976年]]に[[ドナルド・クヌース]]は、「巨大な数量をどれほど上手く取り扱えるか」ということを論じる「Mathematics and Computer Science: Coping with Finiteness」という記事<ref>{{Cite journal|last=Knuth|first=Donald E.|date=1976-12-17|title=Mathematics and Computer Science: Coping with Finiteness|url=https://science.sciencemag.org/content/194/4271/1235|journal=Science|volume=194|issue=4271|pages=1235–1242|language=en|doi=10.1126/science.194.4271.1235|issn=0036-8075|pmid=17797067}}</ref>を発表し、この本文中で[[クヌースの矢印表記]]を提案した。翌[[1977年]]にはこの矢印表記を用いて、[[マーティン・ガードナー]]が自身の連載「数学ゲーム」で[[グラハム数]]を紹介しており、以降も[[スタインハウスのメガ|レオ・スタインハウス]]、[[コンウェイのチェーン表記|ジョン・ホートン・コンウェイ]]といった人々が巨大数にまつわる記事を執筆している。
インターネットにおける巨大数の活動としては、[[1996年]]にロバート・ムナフォが『Large Numbers』というページを開設している<ref>https://mrob.com/pub/math/largenum.html</ref><ref name=":0">{{Cite journal|和書|author=フィッシュ|editor=樫田祐一郎|date=2019-12-01|title=巨大数論発展の軌跡|journal=現代思想|pages=19-28|publisher=青土社|ISBN=978-4-7917-1389-9}}</ref>。以来、アマチュアの(しばしばプロの)数学者たちによるコミュニティが活動を続けている<ref name=":0" />。


インターネットにおける巨大数の活動としては、[[1996年]]にロバート・ムナフォが『Large Numbers』というページを開設している<ref>https://mrob.com/pub/math/largenum.html</ref><ref name=":0">{{Cite journal|和書|author=フィッシュ|editor=樫田祐一郎|date=2019-12-01|title=巨大数論発展の軌跡|journal=現代思想|pages=19-28|publisher=青土社|ISBN=978-4-7917-1389-9}}</ref>。以来、アマチュアの(しばしばプロの)数学者たちによるコミュニティが活動を続けている<ref name=":0" />。
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== 名前の付いた・あるいは有名な巨大数の例 ==
== 名前の付いた・あるいは有名な巨大数の例 ==
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== 計算不可能な手続による巨大数の構成 ==
== 計算不可能な手続による巨大数の構成 ==
[[ビジービーバー関数]] &Sigma; は、あらゆる[[計算可能関数]]よりも速く増大する関数の一例である。ビジービーバー関数自身は計算不可能である。引数が比較的小さな値であっても巨大な値を返す。''n'' = 1, 2, 3, 4 に対して、&Sigma;(''n'') の値はそれぞれ 1, 4, 6, 13 である。&Sigma;(5) は未知であるが、4098以上の値をとる。&Sigma;(6) は少なくとも 1.29&times;10<sup>865</sup> である。また解析によるとΣ(23)が[[グラハム数]]を超えることが分かっている。
[[ビジービーバー関数]] &Sigma; は、あらゆる[[計算可能関数]]よりも速く増大する関数の一例である。ビジービーバー関数自身は計算不可能である。引数が比較的小さな値であっても巨大な値を返す。''n'' = 1, 2, 3, 4 に対して、&Sigma;(''n'') の値はそれぞれ 1, 4, 6, 13 である。&Sigma;(5) は未知であるが、4098以上の値をとる。&Sigma;(6) は少なくとも 1.29&times;10<sup>865</sup> である。また解析によるとΣ(23)が[[グラハム数]]を超えることが分かっている。-->
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== 巨大数の表記法 ==
== 巨大数の表記法 ==
科学技術分野において大きな数量を表す際には[[指数表記]]が使われるが、非常に巨大な数(例えば[[スキューズ数]])はもはや指数で表記しても巨大な数量となってしまい、[[二重指数関数]]やそれ以上の関数を用いた表記が必要となる。巨大数の表現が可能である表記法については、例えば以下のような事例がある:
科学技術分野において大きな数量を表す際には[[指数表記]]が使われるが、非常に巨大な数(例えば[[スキューズ数]])はもはや指数で表記しても巨大な数量となってしまい、[[二重指数関数]]やそれ以上の関数を用いた表記が必要となる。特に現実世界の事物で例えることが不可能なほどの巨大数の表現が可能である表記法については、例えば以下のような事例がある:
*[[ルーディ・ラッカー]]は{{Math|10<sup>''N''</sup>}}を「{{Mvar|N}}-plex」と呼ぶことを提案した<ref>{{Cite book|title=Mind tools : the five levels of mathematical reality|url=https://www.worldcat.org/oclc/867771556|date=2013|location=Mineola, New York|isbn=978-0-486-78219-5|oclc=867771556|first=Rudy v. B.|last=Rucker}}</ref>。
* [[ルーディ・ラッカー]]は{{Math|10<sup>''N''</sup>}}を「{{Mvar|N}}-plex」と呼ぶことを提案した<ref>{{Cite book|title=Mind tools : the five levels of mathematical reality|url=https://www.worldcat.org/oclc/867771556|date=2013|location=Mineola, New York|isbn=978-0-486-78219-5|oclc=867771556|first=Rudy v. B.|last=Rucker}}</ref>。
*[[クヌースの矢印表記]]は、指数の積み重なりである[[指数タワー]]を記述するための、非常に単純な表記法である。
* [[クヌースの矢印表記]]は、指数の積み重なりである[[指数タワー]]を記述するための、非常に単純な表記法である。
* [[ハイパー演算子]]は、[[加法]]の繰り返しで[[乗法]]、乗法の繰り返しで[[冪乗]]を作ることを発展し、新たな演算を作っていくものであり、本質的にはクヌースの矢印表記の別表記である。
* [[ハイパー演算子]]は、[[加法]]の繰り返しで[[乗法]]、乗法の繰り返しで[[冪乗]]を作ることを発展し、新たな演算を作っていくものであり、本質的にはクヌースの矢印表記の別表記である。
* [[コンウェイのチェーン表記]]は、クヌースの矢印表記の「矢印の増加」そのものの繰り返し、『「矢印の増加」に繰り返しを入れること』の繰り返しなどを表現できるようにし、さらに巨大な数を表せるようにしたものである。
* [[コンウェイのチェーン表記]]は、クヌースの矢印表記の「矢印の増加」そのものの繰り返し、『「矢印の増加」に繰り返しを入れること』の繰り返しなどを表現できるようにし、さらに巨大な数を表せるようにしたものである。
* [[多角形表記|スタインハウス・モーザーの多角形表記]]は、巨大数を示すために[[多角形]]を使用している。
* [[多角形表記|スタインハウス・モーザーの多角形表記]]は、巨大数を示すために[[多角形]]を使用している。
* [[超階乗]]は[[階乗]]を拡張したものである。
* [[超階乗]]および[[階冪]]は[[階乗]]を拡張したものである。
* [[アッカーマン関数]]は、どのような[[原始再帰関数]]よりも早く増大する帰納的関数の例である。すなわち、どのような原始再帰関数であっても、その引数が十分大きいならば、アッカーマン関数の方が値が大きくなる。
* [[アッカーマン関数]]は、どのような[[原始再帰関数]]よりも早く増大する帰納的関数の例である。すなわち、どのような原始再帰関数であっても、その引数が十分大きいならば、アッカーマン関数の方が値が大きくなる。
* [[配列表記]]はコンウェイのチェーン表記および[[コンウェイのチェーン表記#拡張チェーン系の表記|その拡張表記]]よりも効率的に数の大きさを爆発させることができるようにした記法であり、アッカーマン関数の拡張である[[アッカーマン関数#多変数アッカーマン関数|多変数アッカーマン関数]]と同程度の増加速度である。
* [[配列表記]]はコンウェイのチェーン表記および[[コンウェイのチェーン表記#拡張チェーン系の表記|その拡張表記]]よりも効率的に数の大きさを爆発させることができるようにした記法であり、アッカーマン関数の拡張である[[アッカーマン関数#多変数アッカーマン関数|多変数アッカーマン関数]]と同程度の増加速度である。
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* [[急成長階層]]は、[[順序数]]でパラメータ付けられた自然数関数の階層であり、最初の{{Math|ω}}層の合併が[[PR (計算複雑性理論)|原始再帰関数のクラス]]に一致することと、より大きい順序数で添え字づけられた関数は小さいものを最終的に支配する(eventually majorize)という性質を持つために巨大数およびそれを生み出す関数の大小評価に用いられる。
* [[急成長階層]]は、[[順序数]]でパラメータ付けられた自然数関数の階層であり、最初の{{Math|ω}}層の合併が[[PR (計算複雑性理論)|原始再帰関数のクラス]]に一致することと、より大きい順序数で添え字づけられた関数は小さいものを最終的に支配する(eventually majorize)という性質を持つために巨大数およびそれを生み出す関数の大小評価に用いられる。


== 出典 ==
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== 現実的な計算が不可能な巨大数の取り扱いについて ==

通常の十進表記で現実的に(整数部分が)正確に計算可能、あるいはA×10<sup>B</sup>のような[[指数表記|指数・仮数表記]]による十進表記の下位桁の省略による近似で現実的に計算可能な数の限界は、現在[[円周率]]がコンピュータによって数十兆桁まで計算されていることも考えると、前者は10<sup>10<sup>14</sup></sup>、後者は<math>10^{10^{10^{14}}}</math>程度となるであろう。ちなみにA×10<sup>B</sup>のような指数・仮数表記を行う場合、どんなに巨大な数であっても、指数Bが一の位まで全ての桁が明らかにならない限り、仮数Aは意味がないことになる。

ここでは上に示した<math>10^{10^{10^{14}}}</math>程度の限界を超えた巨大数を便宜的に「現実的計算不可能レベル」([[計算可能性理論]]における「計算可能」「計算不可能」とは異なる)、その限界以内の数を「現実的計算可能レベル」(日常的な数や天文学で頻出するレベルの巨大数などがこれに当たる)と称し、現実的計算不可能レベルの巨大数の特徴や取り扱いについて以下に示す。

* 上に示したように、計算によって十進展開による全ての桁を求めることはもちろん、指数・仮数表記をしようとしても、A×10<sup>B</sup>のBの全ての桁を求めることも現実的に不可能である。
* 理論的には可能な十進展開における下位桁は数学的な考え方から求められる場合も多いが、上位桁を求めることは大抵の場合事実上不可能であり、それが現実的に可能なのは特殊な場合しかない。
* 2つの数による計算では、一方または両方が現実的計算不可能レベルであった場合、大抵の加減乗除では小さい方の数が巨大数的近似に吸収されてしまう。加減乗除によって厳密に示すことに意味があるのも特殊な場合に限られる。
** すなわち、AとBがいずれも正で、A>Bで少なくともAが現実的計算不可能レベルであった場合は、大抵の場合はA+B≒A、A-B≒A、A×B≒A、A÷B≒Aとなる。
** AとBがいずれも正で、A<Bで少なくともBが現実的計算不可能レベルであった場合は、大抵の場合はA-B≒-B、A÷B≒1/Bとなる。
** 指数タワーオーダー同士の数の冪乗の場合は、指数タワーが1段増える程度の効果はあるにせよ、それを超えるオーダー([[クヌースの矢印表記]]で↑が3本以上のオーダー、あるいは[[チェーン表記]]のオーダーなど)の巨大数になると、冪乗も近似に吸収されてしまう。
* 現実的計算不可能レベルの巨大数における計算や大小比較、本質的に大きくする方法などは、現実的計算可能レベルの数とは全く異なり、そのオーダーに適する表記法の特徴や、定義に用いる関数の性質などに従って行うことになる。
* 現実的計算不可能レベルの巨大数における近似の取り扱いも、現実的計算可能レベルの数とは異なり、必ずしも差が0に近いことを意味するわけではなく、巨大数の表記的に限りなく近くなることを意味する。
** (例)<math>\left( 256^{256^{256^{257}}} \right) ^{256^{256^{256^{257}}}}=256^{ 256^{256^{257}}\times 256^{256^{256^{257}}} }=256^{256^{{256^{257}} + 256^{256^{257}}}}</math>
** このケースにおいては、256<sup>257</sup><<256<sup>256<sup>257</sup></sup>と、この2つの数の大きさに圧倒的な違いがあるので、次のように大雑把に近似できる。
** <math>\left( 256^{256^{256^{257}}} \right) ^{256^{256^{256^{257}}}}=256^{256^{{256^{257}} + 256^{256^{257}}}} \fallingdotseq 256^{256^{256^{256^{257}}}}</math>
** しかし実際には下の式から明らかなように、絶対的な差は非常に大きい。
** <math> 256^{256^{{256^{257}} + 256^{256^{257}}}} = \left( 256^{256^{256^{256^{257}}}} \right) ^ {256^{256^{257}}} \gg 256^{256^{256^{256^{257}}}} </math>
** 現実的計算不可能レベルの巨大数における近似では、このように通常の感覚だと近いどころか雲泥の差であるような違いまでもが、表記的に近似に吸収されてしまい、巨大数論的な近似として成立する例が多い。指数タワーオーダーの数の場合、このような現象を「指数タワーパラドックス」と呼ぶ。
* 長さや時間などの単位付きの値に関しても、それが現実的計算不可能レベル(現実的計算可能レベルであっても数千桁以上)の場合、単位間の違いも無視できる、すなわち単位も近似に吸収されてしまう。その場合、例えば長さではプランク長・メートル・光年などいずれでも近似するし、時間ではプランク時間・秒・年などいずれでも近似する。
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== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
{{Reflist|2}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[記数法]]
* [[命数法]]
* [[命数法]]
** [[無量大数]]
* [[無量大数]]
** [[センティリオン]]
* [[指数表記]]
* [[センティリオン]]
* [[グーゴル]]
* [[グーゴル]]
* [[シャノン数]]
* [[不可説不可説転]]
* [[不可説不可説転]]
* [[指数タワー]]
* [[グーゴルプレックス]]
* [[グーゴルプレックス]]
* [[モーザー数]]
* [[スキューズ数]]
* [[スキューズ数]]
* [[テトレーション]]
* [[ペンテーション]]
* [[アッカーマン関数]]
* [[クヌースの矢印表記]]
* [[多角形表記]]
* [[スタインハウスのメガ]]
* [[スタインハウスのメガ]]
* [[グラハム数]]
* [[グラハム数]]
* [[超階乗]]
* [[配列表記]]
* [[BEAF]]
* [[コンウェイのチェーン表記]]
* [[クラスカルの木定理|TREE(3)]]
* [[フリードマンのSSCG関数|SSCG(3)]]
* [[ブーフホルツのヒドラ|BH(3)]]
* [[ラヨ数]]
* [[急増加関数]]
* [[グラハム数を超える巨大数の一覧]]
* [[巨大な素数の一覧]]
* [[巨大な素数の一覧]]
* [[数に関する記事の一覧]]
* [[数に関する記事の一覧]]
* [[巨大素数]]
* [[メガ素数]]
* [[数学定数]]
* [[数学定数]]
* [[数の比較]]
* [[数の比較]]
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== 外部リンク ==
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* {{Wayback|url=http://www.geocities.jp/ooooxxxx00/ |title=巨大数研究室 |date=20190101000000}}{{リンク切れ|date=2019年1月}}
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* [http://ja.googology.wikia.com/wiki/%E6%95%B0%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7 巨大数の一覧] - 巨大数研究 Wiki
* [https://googology.fandom.com/ja/wiki/%E6%95%B0%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7 巨大数の一覧] - 巨大数研究 Wiki

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2024年7月18日 (木) 06:27時点における版

巨大数(きょだいすう、large numbers)とは、日常生活において使用される数よりも巨大な実数)のことである。非常に巨大な数は、数学天文学宇宙論暗号理論インターネットコンピュータなどの分野でしばしば登場する。天文学的数字(てんもんがくてきすうじ)と呼ばれることもある。

主にインターネット上で、巨大数やその定義、およびそれを支える理論等を研究する数学のコミュニティがあり、その理論は巨大数論(きょだいすうろん)、あるいはグーゴルにちなんで[1]グーゴロジー (googology) と呼ばれる。

身近な事物にまつわる数字の中で特に大きいものを挙げる。

天文学の巨大数

億や兆を大きく超えた数字のことを「天文学的」と形容するように、宇宙および天文学に関連する話題では巨大数が登場することが多い。

以下の数値は数があまりにも巨大であるため、単位をどのように取っても(すなわち長さの場合は「メートル」でも「光年」でも、時間の場合は「」でも「」でも)無視できる範囲で近似する。

組合せ論の巨大数

組合せ数学において、組合せの場合の数などは急激に大きくなる数で、組合せ爆発といった語もある。

  • 16 × 16マスに区切られた格子状の道路を、同じ交差点を2度通らずに左上から右下まで向かう道順の数 - 約6.87 × 1061通り[6][7]
  • トランプ52枚を一列に並べる並べ方 - 52! ≈8.066 × 1067通り
  • 囲碁19路盤の着点の総数は192 (361目)、ここに黒石、白石、空点をランダムに配置する組合せの総数は3361、この中からルール上合法な局面の総数は約2.1×10170となる[8]
  • グラハム数

歴史

19世紀以前で見られる巨大な数への言及は例えば以下のようなものがある:

アルキメデスが『砂粒を数えるもの』で想定した最大の数である「第億期の数」の108×1016や、仏教の経典の華厳経における「不可説不可説転」(八十華厳の107×2122≒103.7×1037の値が有名)などは、古代においてテトレーションレベルに接近するほどの巨大な数を想定した数少ない例である。

1976年ドナルド・クヌースは、「巨大な数量をどれほど上手く取り扱えるか」ということを論じる「Mathematics and Computer Science: Coping with Finiteness」という記事[9]を発表し、この本文中でクヌースの矢印表記を提案した。翌1977年にはこの矢印表記を用いて、マーティン・ガードナーが自身の連載「数学ゲーム」でグラハム数を紹介しており、以降もレオ・スタインハウスジョン・ホートン・コンウェイといった人々が巨大数にまつわる記事を執筆している。

インターネットにおける巨大数の活動としては、1996年にロバート・ムナフォが『Large Numbers』というページを開設している[10][1]。以来、アマチュアの(しばしばプロの)数学者たちによるコミュニティが活動を続けている[1]

巨大数の表記法

科学技術分野において大きな数量を表す際には指数表記が使われるが、非常に巨大な数(例えばスキューズ数)はもはや指数で表記しても巨大な数量となってしまい、二重指数関数やそれ以上の関数を用いた表記が必要となる。特に現実世界の事物で例えることが不可能なほどの巨大数の表現が可能である表記法については、例えば以下のような事例がある:

  • ルーディ・ラッカー10Nを「N-plex」と呼ぶことを提案した[11]
  • クヌースの矢印表記は、指数の積み重なりである指数タワーを記述するための、非常に単純な表記法である。
  • ハイパー演算子は、加法の繰り返しで乗法、乗法の繰り返しで冪乗を作ることを発展し、新たな演算を作っていくものであり、本質的にはクヌースの矢印表記の別表記である。
  • コンウェイのチェーン表記は、クヌースの矢印表記の「矢印の増加」そのものの繰り返し、『「矢印の増加」に繰り返しを入れること』の繰り返しなどを表現できるようにし、さらに巨大な数を表せるようにしたものである。
  • スタインハウス・モーザーの多角形表記は、巨大数を示すために多角形を使用している。
  • 超階乗および階冪階乗を拡張したものである。
  • アッカーマン関数は、どのような原始再帰関数よりも早く増大する帰納的関数の例である。すなわち、どのような原始再帰関数であっても、その引数が十分大きいならば、アッカーマン関数の方が値が大きくなる。
  • 配列表記はコンウェイのチェーン表記およびその拡張表記よりも効率的に数の大きさを爆発させることができるようにした記法であり、アッカーマン関数の拡張である多変数アッカーマン関数と同程度の増加速度である。
  • BEAFは配列表記の拡張の最終形態の一つである。
  • 急成長階層は、順序数でパラメータ付けられた自然数関数の階層であり、最初のω層の合併が原始再帰関数のクラスに一致することと、より大きい順序数で添え字づけられた関数は小さいものを最終的に支配する(eventually majorize)という性質を持つために巨大数およびそれを生み出す関数の大小評価に用いられる。

出典

  1. ^ a b c フィッシュ(著)、樫田祐一郎(編)「巨大数論発展の軌跡」『現代思想』、青土社、2019年12月1日、19-28頁、ISBN 978-4-7917-1389-9 
  2. ^ RFC 1321
  3. ^ ZIMBABWE: Inflation at 6.5 quindecillion novemdecillion percent 2009年1月21日、Forbes ASIA、2019年1月26日閲覧
  4. ^ Weisstein, Eric W.. “Eddington Number” (英語). mathworld.wolfram.com. 2021年9月17日閲覧。
  5. ^ "Susskind's Challenge to the Hartle-Hawking No-Boundary Proposal and Possible Resolutions"
  6. ^ 「フカシギの数え方」 同じところを2度通らない道順の数”. 2021年3月24日閲覧。
  7. ^ A007764 - OEIS”. The OEIS Foundation Inc.. 2021年3月24日閲覧。
  8. ^ John Tromp; Gunnar Farnebäck (2007). Combinatorics of Go. Lecture Notes in Computer Science. 4630. Springer. doi:10.1007/978-3-540-75538-8_8. https://tromp.github.io/go/gostate.pdf. 
  9. ^ Knuth, Donald E. (1976-12-17). “Mathematics and Computer Science: Coping with Finiteness” (英語). Science 194 (4271): 1235–1242. doi:10.1126/science.194.4271.1235. ISSN 0036-8075. PMID 17797067. https://science.sciencemag.org/content/194/4271/1235. 
  10. ^ https://mrob.com/pub/math/largenum.html
  11. ^ Rucker, Rudy v. B. (2013). Mind tools : the five levels of mathematical reality. Mineola, New York. ISBN 978-0-486-78219-5. OCLC 867771556. https://www.worldcat.org/oclc/867771556 

関連項目

外部リンク