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|和名 = ウシガエル<ref name="matsui2016">松井正文 「アメリカアカガエル属」「ウシガエル」『ネイチャーウォッチングガイドブック 日本のカエル 分類と生活史 全種の生態、卵、オタマジャクシ』、[[誠文堂新光社]]、[[2016年]]、137-141頁。</ref>
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[[Image:Juvenile bullfrog.JPG|200px|thumb|right|ウシガエルの若い個体]]
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'''ウシガエル''' (''Lithobates catesbeianus'') は、[[無尾目]][[アカガエル科]][[アメリカアカガエル属]]に分類されるカエル。北米原産。
'''ウシガエル''' (牛蛙、''Lithobates catesbeianus'') は、[[無尾目]][[アカガエル科]][[アメリカアカガエル属]]に分類される[[カエル]][[北米]]原産。


== 分布 ==
== 分布 ==
[[アメリカ合衆国]]東部・中部、[[カナダ]]南東部、[[メキシコ]]北東部に自然分布する<ref name="Bkng">{{cite book | 和書 | author = 多紀保彦(監修) 財団法人[[自然環境研究センター]](編著) | title = 決定版 日本の外来生物 | publisher = [[平凡社]] | date = 2008-04-21 | isbn = 978-4-582-54241-7 }}</ref>。
[[アメリカ合衆国]]東部・中部、[[カナダ]]南東部、[[メキシコ]]北東部に自然分布する<ref name="Bkng">{{cite book | 和書 | author = 多紀保彦(監修) 財団法人[[自然環境研究センター]](編著) | title = 決定版 日本の外来生物 | publisher = [[平凡社]] | date = 2008-04-21 | isbn = 978-4-582-54241-7 }}</ref>。


模式標本の産地はチャールストン周辺(サウスカロライナ州)<ref name="asw" />。日本([[北海道]]、[[本州]]、[[四国]]、[[九州]]、[[南西諸島]])、[[大韓民国]]、[[台湾]]、アメリカ合衆国[[プエルトリコ]]、ヨーロッパ([[イタリア]]、[[オランダ]]、[[フランス]]など)、[[キューバ]]、[[メキシコ]]、[[タイ王国|タイ]]、[[マレーシア]]に外来種として定着している<ref name="Idb">[http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/40020.html ウシガエル] [[国立環境研究所]] 侵入生物DB</ref>。
模式標本の産地は[[チャールストン (サウスカロライナ州)|チャールストン]]周辺([[サウスカロライナ州]])<ref name="asw" />。[[日本]]([[北海道]]、[[本州]]、[[四国]]、[[九州]]、[[南西諸島]])、[[大韓民国]]、[[台湾]]、アメリカ合衆国[[プエルトリコ]]、[[ヨーロッパ]]([[イタリア]]、[[オランダ]]、[[フランス]]など)、[[キューバ]]、メキシコ、[[タイ王国|タイ]]、[[マレーシア]]に外来種として定着している<ref name="Idb">[https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/40020.html ウシガエル] [[国立環境研究所]] 侵入生物DB</ref>。


== 形態 ==
== 形態 ==
[[体長]]11 - 18センチメートル<ref name="matsui2016" />。体重500-600グラムほど。
[[体長]]11 - 18[[センチメートル]]<ref name="matsui2016" />。体重500-600[[グラム]]ほど。


頭部の幅は、頭長よりも長い<ref name="matsui2016" />。後肢の水かきは非常に発達する<ref name="matsui2016" />。
頭部の幅は、頭長よりも長い<ref name="matsui2016" />。後肢の水かきは非常に発達する<ref name="matsui2016" />。
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== 分類 ==
== 分類 ==
以前はアカガエル属に分類されていたが、分子系統解析からアメリカ産の他種と共に単系統群を形成することからアメリカアカガエル属''Lithobates''に分割する説もある<ref name="matsui2016" />。一方、アメリカアカガエル属は形態の差異が大きく、鼓膜が眼の直径と同程度かより大きい・後肢外側にある隆起(外蹠隆起)がないといった他属とも共通する共有形態しかもたない<ref name="matsui2016" />。
以前はアカガエル属に分類されていたが、分子系統解析からアメリカ産の他種と共に単系統群を形成することからアメリカアカガエル属''Lithobates''に分割する説もある<ref name="matsui2016" />。一方、アメリカアカガエル属は形態の差異が大きく、鼓膜が眼の直径と同程度かより大きい・後肢外側にある隆起(外蹠隆起)がないといった他属とも共通する共有形態しかもたない<ref name="matsui2016" />。


== 生態 ==
== 生態 ==
水草の繁茂する流れの緩やかな[[川|河川]]、[[池]][[沼]]、[[湖]]、[[湿原|湿地]]などに生息する。
[[水草]]の繁茂する流れの緩やかな[[川|河川]]、[[池]][[沼]]、[[湖]]、[[湿原|湿地]]に生息する。


[[夜行性]]。強い警戒心により日中も暗所を好むため、しばしばアシの茂み、岸辺のオーバーハング、土管暗渠などに潜み、水中から目鼻のみ出している。外敵が近づくと跳躍して逃げる。夜間は上陸したり継続的に鳴など、活動がより活発となる。
[[夜行性]]。強い警戒心により日中も暗所を好むため、しばしば[[アシ]]の茂み、岸辺の[[土手]][[土管]]・[[暗渠]]などに潜み、水中から目鼻のみ出している。外敵が近づくと跳躍して逃げる。夜間は上陸したり継続的に鳴いたりするなど、活動がより活発となる。


鳴き声は「ブオー、ブオー」という[[ウシ]]に似たもので、和名の由来にもなっている声は非常に大きく数キロメートル離れていても聞こえることもあり、時に[[騒音]]として問題になるほどである。なお、まれに「ニャー」と鳴く個体も見られることが、2016年9月2日に[[朝日放送テレビ|朝日放送]]で放送されたバラエティ番組『[[探偵!ナイトスクープ]]』で確認されている<ref>{{Cite web |url=https://www.asahi.co.jp/knight-scoop/archive.html?datetime=20160900 |title=探偵!ナイトスクープ|過去の放送内容|朝日放送テレビ |work=2016年9月2日(金) 放送 |publisher=朝日放送 |accessdate=2018-04-24}}</ref><ref>[http://tvtopic.goo.ne.jp/kansai/program/abc/25305/520145/ 『探偵!ナイトスクープ』 【パパは林家たい平さん?▽ニャーと鳴くカエル▽亡き父の滝】 の番組概要ページ] - gooテレビ番組(関西版)</ref>。
鳴き声は「ブオー、ブオー」という[[ウシ]]に似たもので、[[和名]]の由来にもなっている声は非常に大きく[[キロメートル]]離れていても聞こえることもあり、[[騒音]]として問題視されるほどである。なお、まれに「ニャー」と鳴く個体も見られることが、2016年9月2日に[[朝日放送テレビ|朝日放送]]で放送されたバラエティ番組『[[探偵!ナイトスクープ]]』で確認されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.asahi.co.jp/knight-scoop/archive.html?datetime=20160900|title=探偵!ナイトスクープ|過去の放送内容|朝日放送テレビ|work=2016年9月2日(金) 放送|publisher=朝日放送|accessdate=2022-12-18}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://tvtopic.goo.ne.jp/kansai/program/abc/25305/520145/|title=『探偵!ナイトスクープ』 【パパは林家たい平さん?▽ニャーと鳴くカエル▽亡き父の滝】 の番組概要ページ|website=gooテレビ番組(関西版)|publisher=NTTレゾナント|date=2016-09-02|accessdate=2022-12-18|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160919153311/http://tvtopic.goo.ne.jp/kansai/program/abc/25305/520145/|archivedate=2016-09-19}}</ref>。


食性は[[肉食性]]。水中、水面、陸上、いずれでも捕食行動を行い、[[昆虫類]]、[[甲殻類]]などの[[節足動物]]、さらに[[魚類]]、両生類、小型[[爬虫類]]、[[鳥類]]、小型[[哺乳類]]、果ては自分より小さい同じウシガエルに至るまで、口に入るあらゆる動物が捕食対象となる。日本では[[カマキリ]]、[[バッタ]]、[[トンボ]]、[[ヤゴ]]などをよく食べている。15cm以上の成体になると、ウシガエルの幼体やオタマジャクシあるいは小型のカエルにとっては天敵となりうる[[ゴミムシ|アオゴミムシ]]、[[ゲンゴロウ]]、[[タガメ]]などをも捕食する<ref>市川憲平、[https://doi.org/10.11257/jjeez.19.47 里地の水生昆虫の現状と保全] 環動昆 2008年 19巻 1号 p.47-50, {{doi|10.11257/jjeez.19.47}}</ref><ref>平井利明 、「[http://id.nii.ac.jp/1504/00001044/ ウシガエルの胃内容から検出されたタガメについて]」 関西自然保護機構会報 2005年 27巻 1号 p.57-58, {{issn|0919-4657}}</ref><ref>西原昇吾 ほか、[http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/61/PB3-064.html 生物多様性の高いため池群に侵入した侵略的外来種ウシガエルの排除による水生生物の回復過程] 日本生態学会 第61回全国大会 2014年3月</ref>。水面に落下して動けなくなった昆虫なども餌となるため、死骸であっても目の前に落ちてくると摂食する。
食性は[[肉食性]]。水中、水面、陸上、いずれでも捕食行動を行い、[[昆虫類]]、[[甲殻類]]などの[[節足動物]]、さらに[[魚類]]、両生類、小型[[爬虫類]]、[[鳥類]]、小型[[哺乳類]]、果ては自分より小さい同じウシガエルに至るまで、口に入るあらゆる動物が捕食対象となる。日本では[[カマキリ]]、[[バッタ]]、[[トンボ]]、[[ヤゴ]]などをよく食べている。


15cm以上の成体になると、ウシガエルの幼体や[[オタマジャクシ]]あるいは小型のカエルにとっては、[[天敵]]となりうる[[ゴミムシ|アオゴミムシ]]、[[ゲンゴロウ]]、[[タガメ]]などをも捕食する<ref>市川憲平「[https://doi.org/10.11257/jjeez.19.47 里地の水生昆虫の現状と保全]」『環動昆』19巻1号、 2008年、 p.47-50, {{doi|10.11257/jjeez.19.47}}</ref><ref>平井利明「[http://id.nii.ac.jp/1504/00001044/ ウシガエルの胃内容から検出されたタガメについて]」『関西自然保護機構会報』27巻1号、 2005年、 p.57-58, {{issn|0919-4657}}</ref><ref>西原昇吾 ほか「[http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/61/PB3-064.html 生物多様性の高いため池群に侵入した侵略的外来種ウシガエルの排除による水生生物の回復過程]」日本生態学会 第61回全国大会 2014年3月</ref>。水面に落下して動けなくなった昆虫なども餌となるため、死骸であっても目の前に落ちてくると摂食する。
繁殖様式は卵生。5 - 9月上旬に4,000 - 60,000個の水面に浮かぶ卵を産む<ref name="matsui2016" />。日本では5-9月に寒天質に包まれた6,000-40,000個の卵を産む<ref name="Bkng"/>。幼生の状態で越冬し、翌年の夏に変態して幼体になる。幼体は水場をつたい、他の水場へ移動する。


繁殖様式は[[卵生]]。5 - 9月上旬に4,000 - 60,000個の水面に浮かぶ卵を産む<ref name="matsui2016" />。日本では5-9月に[[寒天]]質に包まれた6,000-40,000個の卵を産む<ref name="Bkng"/>。幼生の状態で越冬し、翌年の夏に[[変態]]して幼体になる。幼体は水場をい、他の水場へ移動する。
冬期の成体は水底の泥土に半ば潜り込み、冬眠する。

冬期の成体は水底の泥土に半ば潜り込み、[[冬眠]]する。


== 人間との関係 ==
== 人間との関係 ==
食用とされることもあるため、[[食用ガエル]]という別名を持つ<ref name="Bkng"/>。ただし食用ガエルという語は、食用にされるさまざまなカエルの総称としても使われ得るので、注意が必要。皮をむいた後ろ足を食用とし、世界各地で養殖されている。
食用とされることもあるため、[[食用ガエル]]という別名を持つ<ref name="Bkng"/>。ただし食用ガエルという語は、食用にされる様々なカエルの総称としても使われ得るので、注意が必要。皮をむいた後ろ足を食用とし、世界各地で[[養殖]]されている。


日本には[[1918年]]に、[[東京大学|東京帝国大学]]の教授であった動物学者の[[渡瀬庄三郎]]が食用としてアメリカ合衆国([[ルイジアナ州]][[ニューオリンズ]])から十数匹を導入した。その後1950から1970年にかけて輸出用とて年間数百トンウシガエル生産されたといわれている<ref name="Bkng"/>これに関連し、本種の養殖用のとし[[アメリカザリガニ]]が輸入された。
日本には、[[東京大学|東京帝国大学]]の教授であった動物学者の[[渡瀬庄三郎]]が食用として[[アメリカ合衆国]]([[ルイジアナ州]][[ニューオリンズ]])から<ref name="Bkng"/>輸入した17匹が[[1918]]([[1917]]説や[[1919年]]説もあり)、[[横浜港]]に到着のが初移入である<ref name="朝日20171129">[https://www.asahi.com/articles/DA3S13251367.html (あのとき・それから)1918年 ウシガエルの輸入 連れて狩られた一世紀]『[[朝日新聞]]』夕刊2017年11月29日4面(2020年9月6日閲覧){{リンク切れ|date=2024年8月}}</ref>。[[農商務省 (日本)|農商務省]](のち[[農林水産省|農林省]])は窮乏する農村に副業とて養殖を奨励したが[[投機]]目的の養殖が1923年から1930年頃までは行われたものの、日本ではカエルを食とする習慣は定着しなかった。1932年に冷凍肉対米輸出が始まり、1940年には165[[トン]]戦前のピークに達たものの[[太平洋戦争]]で途絶え、大半の養殖場は閉鎖された<ref name="朝日20171129"/>

敗戦直後の日本では[[アメリカ合衆国ドル|ドル]]を稼げる数少ない輸出品として、1947年に対米輸出が再開。閉鎖された養殖場から逃げて繁殖していたウシガエルの漁が盛んに行われ、1949年には[[水産庁]]が資源保護のため捕獲制限を通達するほどだった。1969年には輸出量が967.7トンと最高に達したものの、[[シアトル]]で日本産カエル肉から[[農薬]]が検出されて翌年に禁輸措置が採られ貿易量が激減。1989年には[[大蔵省]]の輸出統計資料からウシガエルの項目が削除され、捕獲対象にならなくなったウシガエルが繁殖するようになった<ref name="朝日20171129"/>。これに関連し、本種の養殖用の餌として[[アメリカザリガニ]]が輸入された。


[[画像:Bullfrog_Tadpole.jpg|240px|right|thumb|ウシガエルの[[オタマジャクシ|おたまじゃくし]]]]
[[画像:Bullfrog_Tadpole.jpg|240px|right|thumb|ウシガエルの[[オタマジャクシ|おたまじゃくし]]]]
味は[[鶏肉]]、特に[[鶏肉#ささみ|ササミ]]に似る。肉は脂がほとんど無いため、炒め物や[[フライ (料理)|フライ]]として食べることが多い。ただし、[[フランス料理]]店や[[中華料理]]店を除くと、平成以降の日本ではいわゆる「下手物料理」を出す居酒屋くらいでしか見られない。また、[[オタマジャクシ|おたまじゃくし]]を[[寿司]]のタネとした「おたま寿司」も存在する{{要出典|date=2019年3月}}。「食用蛙供養塔」が[[東京都]][[江戸川区]]の[[浄土宗]]法龍寺にある。
味は[[鶏肉]]、特に[[鶏肉#ささみ|ササミ]]に似る。肉は脂がほとんど無いため、炒め物や[[フライ (料理)|フライ]]として食べることが多い。1926年刊行の『実験食用蛙養殖法』では[[刺身]]、[[照り焼き]]、[[吸い物]]といった料理法も勧められている<ref name="朝日20171129"/>。ただし、[[フランス料理]]店や[[中華料理]]店を除くと、[[平成]]以降の日本ではいわゆる「[[ゲテモノ|ゲテ物料理]]」を出すでしか見られない。「食用蛙供養塔」が[[東京都]][[江戸川区]]の[[浄土宗]]法龍寺にある。


現在の日本では後述するように法律で流通が規制されたこともあり、本種が食用として利用されることはまずない。しかし、実験動物としての需要はなおも大きい<ref name="Bkng"/>。
現在の日本では後述するように法律で流通が規制されたこともあり、本種が食用として利用されることはまずない。しかし、[[動物実験|実験動物]]としての需要はなおも大きい<ref name="Bkng"/>。


食用として養殖された個体が逃げ出し、日本各地のみならず世界中に定着している。日本では水産試験場の主導のもと各地に放逐が繰り返されたが、食材としての価値が薄れると必要なくなった本種を処分しようと、さらなる放逐が横行した<ref name="Bghand">{{cite book | 和書 | author = 村上興正・鷲谷いづみ(監修) [[日本生態学会]](編著) | title = 外来種ハンドブック | publisher = [[地人書館]] | date = 2002-09-30 | isbn = 4-8052-0706-X }}</ref>。また、教育や実験目的で飼育されていた個体も遺棄された可能性がある。
食用として養殖された個体が逃げ出し、日本各地のみならず世界中に定着している。日本では水産試験場の主導のもと各地に放逐が繰り返されたが、食材としての価値が薄れると必要なくなった本種を処分しようと、さらなる放逐が横行した<ref name="Bghand">{{cite book | 和書 | author = 村上興正・鷲谷いづみ(監修) [[日本生態学会]](編著) | title = 外来種ハンドブック | publisher = [[地人書館]] | date = 2002-09-30 | isbn = 4-8052-0706-X }}</ref>。また、教育や実験目的で飼育されていた個体も遺棄された可能性がある。
[[File:ウシガエル オタマジャクシ 3Dモデル Bullfrog Lithobates catesbeianus Tadpole 3D model.jpg|代替文=ウシガエルのおたまじゃくしの3Dモデル|サムネイル|ウシガエルのおたまじゃくしの3Dモデル]]
大型かつ貪欲で環境の変化に強い本種は、[[在来種]]に対する殲滅的捕食が懸念されている。日本をはじめアメリカ合衆国国では在来カエルの減少が問題視されており、本種が生息している水域では他のカエルが見られなくなってしまった場所もある<ref name="Bghand"/>。[[国際自然保護連合]]によって[[世界の侵略的外来種ワースト100]]に指定されているほか、日本でも[[日本生態学会]]によって[[日本の侵略的外来種ワースト100]]に選ばれている。こうした悪影響から、ヨーロッパや韓国では輸入が禁止されている<ref name="Bkng"/>。


前述の問題から日本でも2005年12月に[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律|特定外来生物]]に指定(2006年2月施行)され、飼養・保管・運搬・放出・輸入などが規制された<ref name="env">[https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/L-ryo-04.html ウシガエル]・[https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html 特定外来生物等一覧]・{{PDFlink|[https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/files/siteisyu_list2.pdf 特定外来生物等一覧(指定日別)]}}・{{PDFlink|[https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/list.pdf 生態系被害防止外来種リスト]}}([https://www.env.go.jp/ 環境省]・2017年11月7日に利用)</ref>。2015年に[[環境省]]の生態系被害防止外来種リストにおける総合対策外来種のうち、重点対策外来種に指定されている<ref name="env" />。
大型かつ貪欲で環境の変化に強い本種は、[[在来種]]に対する殲滅的捕食が懸念されている。日本をはじめアメリカや韓国では在来カエルの減少が問題視されており、本種が生息している水域では他のカエルが見られなくなってしまった場所もある<ref name="Bghand"/>。[[国際自然保護連合]]によって[[世界の侵略的外来種ワースト100]]に指定されているほか、日本でも[[日本生態学会]]によって[[日本の侵略的外来種ワースト100]]に選ばれている。こうした悪影響から、ヨーロッパや韓国では輸入が禁止されている<ref name="Bkng"/>。


== 脚注 ==
前述の問題から日本でも2005年12月に[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律|特定外来生物]]に指定(2006年2月施行)され、飼養・保管・運搬・放出・輸入などが規制された<ref name="env">[http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/L-ryo-04.html ウシガエル]・[http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html 特定外来生物等一覧]・{{PDFlink|[http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/files/siteisyu_list2.pdf 特定外来生物等一覧(指定日別)]}}・{{PDFlink|[http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/list.pdf 生態系被害防止外来種リスト]}}([http://www.env.go.jp/ 環境省]・2017年11月7日に利用)</ref>。2015年に環境省の生態系被害防止外来種リストにおける総合対策外来種のうち、重点対策外来種に指定されている<ref name="env" />。

== 出典 ==
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=== 出典 ===
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* [[アメリカザリガニ]]
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2024年8月24日 (土) 15:51時点における最新版

ウシガエル
American bullfrog
ウシガエル
ウシガエル Lithobates catesbeianus
ウシガエルの3Dモデル
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 両生綱 Amphibia
: 無尾目 Anura
: アカガエル科 Ranidae
: アメリカアカガエル属 Lithobates
: ウシガエル L. catesbeianus
学名
Lithobates catesbeianus
(Shaw, 1802)[2]
和名
ウシガエル[3]
英名
American bullfrog[1][2][3]
Bull frog[2]
Common bullfrog[1][2]

ウシガエルの若い個体

ウシガエル (牛蛙、Lithobates catesbeianus) は、無尾目アカガエル科アメリカアカガエル属に分類されるカエル北米原産。

分布

[編集]

アメリカ合衆国東部・中部、カナダ南東部、メキシコ北東部に自然分布する[4]

模式標本の産地はチャールストン周辺(サウスカロライナ州[2]日本北海道本州四国九州南西諸島)、大韓民国台湾、アメリカ合衆国領プエルトリコヨーロッパイタリアオランダフランスなど)、キューバ、メキシコ、タイマレーシアに外来種として定着している[5]

形態

[編集]

体長11 - 18センチメートル[3]。体重500-600グラムほど。

頭部の幅は、頭長よりも長い[3]。後肢の水かきは非常に発達する[3]

オスの背面は暗緑色で、淡黒色の斑紋がまばらにある。メスの背面は褐色で、斑紋がオスよりも多い。雌雄ともに腹面は白いが、オスでは喉の部分が少々黄色みがかっている。鼓膜はオスで眼径の1.3 - 1.7倍、メスで0.9 - 1.2倍[3]。鼓膜は非常に大きく、メスでも眼の直径にほぼ等しいうえ、オスではその倍近くある。

分類

[編集]

以前はアカガエル属に分類されていたが、分子系統解析からアメリカ産の他種と共に単系統群を形成することから、アメリカアカガエル属Lithobatesに分割する説もある[3]。一方、アメリカアカガエル属は形態の差異が大きく、鼓膜が眼の直径と同程度かより大きい・後肢外側にある隆起(外蹠隆起)がないといった、他属とも共通する共有形態しかもたない[3]

生態

[編集]

水草の繁茂する流れの緩やかな河川湿地に生息する。

夜行性。強い警戒心により日中も暗所を好むため、しばしばアシの茂み、岸辺の土手土管暗渠などに潜み、水中から目鼻のみ出している。外敵が近づくと跳躍して逃げる。夜間は上陸したり継続的に鳴いたりするなど、活動がより活発となる。

鳴き声は「ブオー、ブオー」というウシに似たもので、和名の由来にもなっている声は非常に大きく、数キロメートル離れていても聞こえることもあり、騒音として問題視されるほどである。なお、まれに「ニャー」と鳴く個体も見られることが、2016年9月2日に朝日放送で放送されたバラエティ番組『探偵!ナイトスクープ』で確認されている[6][7]

食性は肉食性。水中、水面、陸上、いずれでも捕食行動を行い、昆虫類甲殻類などの節足動物、さらに魚類、両生類、小型爬虫類鳥類、小型哺乳類、果ては自分より小さい同じウシガエルに至るまで、口に入るあらゆる動物が捕食対象となる。日本ではカマキリバッタトンボヤゴなどをよく食べている。

15cm以上の成体になると、ウシガエルの幼体やオタマジャクシあるいは小型のカエルにとっては、天敵となりうるアオゴミムシゲンゴロウタガメなどをも捕食する[8][9][10]。水面に落下して動けなくなった昆虫なども餌となるため、死骸であっても目の前に落ちてくると摂食する。

繁殖様式は卵生。5 - 9月上旬に4,000 - 60,000個の水面に浮かぶ卵を産む[3]。日本では5-9月に寒天質に包まれた6,000-40,000個の卵を産む[4]。幼生の状態で越冬し、翌年の夏に変態して幼体になる。幼体は水場を伝い、他の水場へ移動する。

冬期の成体は水底の泥土に半ば潜り込み、冬眠する。

人間との関係

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食用とされることもあるため、「食用ガエル」という別名を持つ[4]。ただし食用ガエルという語は、食用にされる様々なカエルの総称としても使われ得るので、注意が必要。皮をむいた後ろ足を食用とし、世界各地で養殖されている。

日本には、東京帝国大学の教授であった、動物学者の渡瀬庄三郎が、食用としてアメリカ合衆国ルイジアナ州ニューオリンズ)から[4]輸入した17匹が、1918年1917年説や1919年説もあり)に、横浜港に到着したのが初移入である[11]農商務省(のちに農林省)は窮乏する農村に副業として養殖を奨励したが、投機目的の養殖が1923年から1930年頃までは行われたものの、日本ではカエルを食用とする習慣は定着しなかった。1932年に冷凍肉の対米輸出が始まり、1940年には165トンと戦前のピークに達したものの太平洋戦争で途絶え、大半の養殖場は閉鎖された[11]

敗戦直後の日本ではドルを稼げる数少ない輸出品として、1947年に対米輸出が再開。閉鎖された養殖場から逃げて繁殖していたウシガエルの漁が盛んに行われ、1949年には水産庁が資源保護のため捕獲制限を通達するほどだった。1969年には輸出量が967.7トンと最高に達したものの、シアトルで日本産カエル肉から農薬が検出されて翌年に禁輸措置が採られ貿易量が激減。1989年には大蔵省の輸出統計資料からウシガエルの項目が削除され、捕獲対象にならなくなったウシガエルが繁殖するようになった[11]。これに関連し、本種の養殖用の餌としてアメリカザリガニが輸入された。

ウシガエルのおたまじゃくし

味は鶏肉、特にササミに似る。肉は脂がほとんど無いため、炒め物やフライとして食べることが多い。1926年刊行の『実験食用蛙養殖法』では刺身照り焼き吸い物といった料理法も勧められている[11]。ただし、フランス料理店や中華料理店を除くと、平成以降の日本では、いわゆる「ゲテ物料理」を出す店でしか見られない。「食用蛙供養塔」が東京都江戸川区浄土宗法龍寺にある。

現在の日本では、後述するように法律で流通が規制されたこともあり、本種が食用として利用されることはまずない。しかし、実験動物としての需要は、なおも大きい[4]

食用として養殖された個体が逃げ出し、日本各地のみならず世界中に定着している。日本では水産試験場の主導のもと各地に放逐が繰り返されたが、食材としての価値が薄れると必要なくなった本種を処分しようと、さらなる放逐が横行した[12]。また、教育や実験目的で飼育されていた個体も遺棄された可能性がある。

ウシガエルのおたまじゃくしの3Dモデル
ウシガエルのおたまじゃくしの3Dモデル

大型かつ貪欲で環境の変化に強い本種は、在来種に対する殲滅的捕食が懸念されている。日本をはじめ、アメリカ合衆国や大韓民国では、在来カエルの減少が問題視されており、本種が生息している水域では他のカエルが見られなくなってしまった場所もある[12]国際自然保護連合によって世界の侵略的外来種ワースト100に指定されているほか、日本でも日本生態学会によって日本の侵略的外来種ワースト100に選ばれている。こうした悪影響から、ヨーロッパや韓国では輸入が禁止されている[4]

前述の問題から、日本でも2005年12月に特定外来生物に指定(2006年2月施行)され、飼養・保管・運搬・放出・輸入などが規制された[13]。2015年に環境省の生態系被害防止外来種リストにおける総合対策外来種のうち、重点対策外来種に指定されている[13]

脚注

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出典

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  1. ^ a b c IUCN SSC Amphibian Specialist Group. 2015. Lithobates catesbeianus. The IUCN Red List of Threatened Species 2015: e.T58565A53969770. doi:10.2305/IUCN.UK.2015-4.RLTS.T58565A53969770.en, Downloaded on 07 November 2017.
  2. ^ a b c d e Lithobates catesbeianus. Frost, Darrel R. 2017. Amphibian Species of the World: an Online Reference. Version 6.0 (Date of access). Electronic Database accessible at. American Museum of Natural History, New York, USA. (Accessed: 07/11/2017)
  3. ^ a b c d e f g h i 松井正文 「アメリカアカガエル属」「ウシガエル」『ネイチャーウォッチングガイドブック 日本のカエル 分類と生活史 全種の生態、卵、オタマジャクシ』、誠文堂新光社2016年、137-141頁。
  4. ^ a b c d e f 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著)『決定版 日本の外来生物』平凡社、2008年4月21日。ISBN 978-4-582-54241-7 
  5. ^ ウシガエル 国立環境研究所 侵入生物DB
  6. ^ 探偵!ナイトスクープ|過去の放送内容|朝日放送テレビ”. 2016年9月2日(金) 放送. 朝日放送. 2022年12月18日閲覧。
  7. ^ 『探偵!ナイトスクープ』 【パパは林家たい平さん?▽ニャーと鳴くカエル▽亡き父の滝】 の番組概要ページ”. gooテレビ番組(関西版). NTTレゾナント (2016年9月2日). 2016年9月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年12月18日閲覧。
  8. ^ 市川憲平「里地の水生昆虫の現状と保全」『環動昆』19巻1号、 2008年、 p.47-50, doi:10.11257/jjeez.19.47
  9. ^ 平井利明「ウシガエルの胃内容から検出されたタガメについて」『関西自然保護機構会報』27巻1号、 2005年、 p.57-58, ISSN 0919-4657
  10. ^ 西原昇吾 ほか「生物多様性の高いため池群に侵入した侵略的外来種ウシガエルの排除による水生生物の回復過程」日本生態学会 第61回全国大会 2014年3月
  11. ^ a b c d (あのとき・それから)1918年 ウシガエルの輸入 連れてこられ狩られた一世紀朝日新聞』夕刊2017年11月29日4面(2020年9月6日閲覧)[リンク切れ]
  12. ^ a b 村上興正・鷲谷いづみ(監修) 日本生態学会(編著)『外来種ハンドブック』地人書館、2002年9月30日。ISBN 4-8052-0706-X 
  13. ^ a b ウシガエル特定外来生物等一覧特定外来生物等一覧(指定日別) (PDF)生態系被害防止外来種リスト (PDF)環境省・2017年11月7日に利用)

関連項目

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