「月経前症候群」の版間の差分
Amanatsu1001 (会話 | 投稿記録) →レビュー: 2024年のコクラン・レビューの内容を追加 |
|||
(22人の利用者による、間の31版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
'''月経前症候群'''(げっけいぜんしょうこうぐん、{{lang-en-short|'''PMS''' |
'''月経前症候群'''(げっけいぜんしょうこうぐん、{{lang-en-short|premenstrual syndrome}}、'''PMS''')は、数か月にわたって[[月経]]の周期に伴って、[[黄体期]]<ref>高橋俊文、渡邊憲和、倉智博久、「月経前症候群」 臨床婦人科産科 66巻5号 (2012年4月)p.53-56, {{doi|10.11477/mf.1409103015}} (有料閲覧)</ref>である月経の3日から10日位前からおこり、月経開始とともに消失する、一連の身体的、および精神的症状を示す[[症候群]](いろいろな症状の集まり)<ref name=jsog>[http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13 月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)] 日本産科婦人科学会</ref>。 |
||
<!--医学用語としての読みは「げっけいぜんしょうこうぐん」が正しいと思われるので、とりあえず修正します。-->'''月経前緊張症'''(げっけいぜんきんちょうしょう)とも。 |
<!--医学用語としての読みは「げっけいぜんしょうこうぐん」が正しいと思われるので、とりあえず修正します。-->'''月経前緊張症'''(げっけいぜんきんちょうしょう)とも呼ばれる。月経前症候群を経験した女性はより重篤な[[更年期障害]]になりうる可能性が有るとの報告がある<ref>佐野敬夫、[https://doi.org/10.15064/jjpm.39.5_341 「月経前症候群と更年期障害の関係」, Morse CA, Dudley E, Guthrie J, et al : Relationships between premenstrual complaints and perimenopausal experiences., J Psychosom Obstet Gynecol, 19 : 182-191,1998] 『心身医学』 1999年 39巻 5号 p.341-, {{doi|10.15064/jjpm.39.5_341}}</ref>。 |
||
診断基準に合致するものは、社会的または経済的な能力に明確に障害がある場合である{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。正確な原因は不明である{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。月経前症候群が5. |
診断基準に合致するものは、社会的または経済的な能力に明確に障害がある場合である{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。正確な原因は不明である{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。月経前症候群が5.4%、精神障害としての[[月経前不快気分障害]](PMDD)が 1.2%の有病率であり、欧米では2~4%とされる{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。 |
||
治療には、栄養改善と定期的な運動が推奨される{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。イギリスのガイドラインでは、薬物療法の前に、[[セイヨウニンジンボク|チェストツリー]]、[[大豆イソフラボン]]や[[セント・ジョーンズ・ワート]]による補完療法や、[[ビタミンB6]]・[[マグネシウム]]・[[カルシウム]]の補充が推奨されている{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。より症状が重い場合には、SSRI系抗うつ薬や[[認知行動療法]]、経口避妊薬やホルモンが推奨されている{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。 |
治療には、栄養改善と定期的な運動が推奨される{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。イギリスのガイドラインでは、薬物療法の前に、[[セイヨウニンジンボク|チェストツリー]]、[[大豆イソフラボン]]や[[セント・ジョーンズ・ワート]]による補完療法や、[[ビタミンB6]]・[[マグネシウム]]・[[カルシウム]]の補充が推奨されている{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。より症状が重い場合には、SSRI系抗うつ薬や[[認知行動療法]]、経口避妊薬やホルモンが推奨されている{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。[[婦人科学|婦人科]]([[産婦人科学|産婦人科]])での診察・治療が一般的となっている<ref>{{Cite journal|author=武田 卓|year=2011|title=月経前症候群の治療|journal=産科と婦人科|volume=78|page=1311-1314}}</ref>。詳しい治療法については、「[[月経前症候群#治療]]」を参照。 |
||
==小史:医学と精神医学== |
==小史:医学と精神医学== |
||
{{仮リンク|キャサリーナ・ダルトン|en|Katharina Dalton}}は、1953年にイギリスで最初の月経前症候群 |
{{仮リンク|キャサリーナ・ダルトン|en|Katharina Dalton}}は、1953年にイギリスで最初の月経前症候群(PMS)に関する医学論文を出し、1954年にロンドンのユニバーシティ・カレッジ病院に世界初のPMSの診療を設けた{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|p=x}}。その1953年の研究では、心理的な症状を訴えたのは33%であった{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=91-95}}。彼女が、1982年に[[プロゲステロン]]の安全性の審査のために呼ばれ、このホルモンが投与されている女性では55%が心理的な症状を訴えていた{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=91-95}}。 |
||
1987年に[[アメリカ精神医学会]] |
1987年に[[アメリカ精神医学会]](APA)の診断分類である『[[精神障害の診断と統計マニュアル]]』(DSM)に、後期黄体期不快気分障害(LLPDD)の案が掲載され、1994年にそれが現在の[[月経前不快気分障害]]に変わった{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=91-95}}。PMSの認識が公となるという大きな利点があった一方で、精神の専門家は身体を実際に診察する[[医学]]に長けていないという問題も生じた{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=91-95}}。医学的にはPMSは[[プロゲステロン]]の投与が有効なホルモンの異常であり、精神科医や心理学者は、そうとはみなさず[[抗うつ薬]]や[[心理療法]]で治療する傾向がある{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=91-95}}。 |
||
== 症状 == |
== 症状 == |
||
身体的症状と精神的症状に分けられ、 |
身体的症状と精神的症状に分けられ、症状の程度と出現する症状には個人差がある。下記に代表的な症状を挙げる<ref name=msd.pro />。 |
||
{| class="wikitable" |
{| class="wikitable" |
||
|+月経前症候群代表的症状 |
|+月経前症候群代表的症状 |
||
19行目: | 19行目: | ||
|- |
|- |
||
|style="vertical-align:top"| |
|style="vertical-align:top"| |
||
下腹部膨満感 |
|||
下腹痛 |
|||
[[頭痛]] |
|||
乳房痛、乳房が張る |
|||
[[腰痛]] |
|||
関節痛 |
|||
むくみ、体重増加、脚が重い |
|||
にきび |
|||
めまい |
|||
食欲亢進 |
|||
便秘あるいは下痢 |
|||
悪心、動悸 |
|||
過剰な睡眠欲 |
|||
不眠 |
|||
*吐き気 |
|||
|style="vertical-align:top"| |
|style="vertical-align:top"| |
||
怒りやすい、反感、闘争的 |
|||
憂鬱 |
|||
緊張 |
|||
判断力低下、不決断 |
|||
無気力 |
|||
孤独感 |
|||
疲れやすい |
|||
不眠 |
|||
パニック |
|||
妄想症 |
|||
集中力低下、気力が続かない |
|||
涙もろい |
|||
悪夢を見る |
|||
異性に対してのみ攻撃的になり暴力をふるう |
|||
|} |
|} |
||
上記症状は単独で出る事は少なく複合で現れる。その為月経前症候群と呼ばれる。また症状の現れ方は月によって変化する事がある。 |
上記症状は単独で出る事は少なく複合で現れる。その為月経前症候群と呼ばれる。また症状の現れ方は月によって変化する事がある。また個人によっても症状が異なる。 |
||
== |
==原因== |
||
月経前症候群の正確な原因は不明である{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。女性ホルモンのバランスが急激に変化することにより、脳内のホルモンや神経伝達物質の異常を引き起こすことが関係しているのではないかと言われている<ref>{{Cite web|和書|title=月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)|url=https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13 |website=公益社団法人 日本産科婦人科学会 |date=2018-06-16|accessdate=2023-02-24 |language=ja}}</ref>。 |
|||
月経前症候群の正確な原因は不明である{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
|||
*[[卵胞刺激ホルモン]]、[[エストロゲン]]、[[黄体化ホルモン]]、[[プロゲステロン]]関連しているホルモンの影響。 |
* [[卵胞刺激ホルモン]]、[[エストロゲン]]、[[黄体化ホルモン]]、[[プロゲステロン]]関連しているホルモンの影響。 |
||
** 卵巣[[ステロイドホルモン]]に対する[[ホルモン]]の影響を受ける器官の感受性の差 |
** 卵巣[[ステロイドホルモン]]に対する[[ホルモン]]の影響を受ける器官の感受性の差 |
||
* [[セロトニン]]などの[[神経伝達物質]]の異常。 |
* [[セロトニン]]などの[[神経伝達物質]]の異常。 |
||
63行目: | 61行目: | ||
==診断== |
==診断== |
||
身体診察および臨床検査は有用では無い<ref name=msd.pro />。 |
|||
研究者である{{仮リンク|キャサリーナ・ダルトン|en|Katharina Dalton}}は、1984年に著書で、月経前症候群は月経前に症状が出ることが反復され、月経後には症状が消失することであるとした{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=7, 12}}。2回以上の月経周期において反復されており、症状が出ている月経前は14日間を超えることはごく稀である{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=7, 12}}。さらに症状の消失は少なくとも7日は続く{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=7, 12}}。従って、診断を下すには2~3カ月の月経日誌が必要になる{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|p=22}}。 |
研究者である{{仮リンク|キャサリーナ・ダルトン|en|Katharina Dalton}}は、1984年に著書で、月経前症候群は月経前に症状が出ることが反復され、月経後には症状が消失することであるとした{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=7, 12}}。2回以上の月経周期において反復されており、症状が出ている月経前は14日間を超えることはごく稀である{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=7, 12}}。さらに症状の消失は少なくとも7日は続く{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|pp=7, 12}}。従って、診断を下すには2~3カ月の月経日誌が必要になる{{sfn|K・ダルトン、W・ホルトン|2007|p=22}}。 |
||
69行目: | 69行目: | ||
アメリカ産婦人科学会の診断基準は、症状が過去3カ月以上連続しており、また診療開始からも3カ月にわたっており、社会的または経済的な能力に明確に障害があり、月経前5日間に症状があり、月経開始後4日以内に症状が消失するものである{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。また症状は、薬物療法やアルコールが原因ではない{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。また重症の場合、[[月経前不快気分障害]]の診断基準を用いることも推奨度Cで推奨している{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。月経前不快気分障害は1年間のほぼ毎月の症状の診断基準を持つ。 |
アメリカ産婦人科学会の診断基準は、症状が過去3カ月以上連続しており、また診療開始からも3カ月にわたっており、社会的または経済的な能力に明確に障害があり、月経前5日間に症状があり、月経開始後4日以内に症状が消失するものである{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。また症状は、薬物療法やアルコールが原因ではない{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。また重症の場合、[[月経前不快気分障害]]の診断基準を用いることも推奨度Cで推奨している{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。月経前不快気分障害は1年間のほぼ毎月の症状の診断基準を持つ。 |
||
== |
== 治療 == |
||
対症療法が行われる<ref name=msd.pro>[https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/18-婦人科および産科/月経異常/月経前症候群-(pms) 月経前症候群 (PMS)] MSDマニュアル プロフェッショナル版</ref>。 |
|||
===イギリス月経前症候群協会(NAPS)のガイドライン=== |
===イギリス月経前症候群協会(NAPS)のガイドライン=== |
||
有効性の証拠を精査したイギリス月経前症候群協会(NAPS)のガイドラインは段階的な治療を推奨している{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
有効性の証拠を精査したイギリス月経前症候群協会(NAPS)のガイドラインは段階的な治療を推奨している{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
最初に栄養改善と定期的な運動が勧められる{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
最初に栄養改善と定期的な運動が勧められる{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
*でんぷん質の食品で、できれば食物繊維の多いものを頻繁にとる |
* でんぷん質の食品で、できれば食物繊維の多いものを頻繁にとる{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。つまり炭水化物を指す。 |
||
*より食物繊維を、果物、野菜など。 |
* より食物繊維を、果物、野菜など。 |
||
*脂質、砂糖、塩、カフェインとアルコールを減らす{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
* 脂質、砂糖、塩、カフェインとアルコールを減らす{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
第2段階として以下が挙げられ、推奨度AとなっているのはビタミンB6で他はBである{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。重症でもしばしばここまでで改善する{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
第2段階として以下が挙げられ、推奨度AとなっているのはビタミンB6で他はBである{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。重症でもしばしばここまでで改善する{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
*ストレス管理:[[ヨガ]]や[[瞑想]]など{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
* ストレス管理:[[ヨガ]]や[[瞑想]]など{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。詳しくは「[[ストレス管理]]」・「[[ストレス (生体)#ストレス対処|ストレス#対処]]」を参照。 |
||
*カウンセリングなどのサポート{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
* カウンセリングなどのサポート{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
*補完療法:[[セイヨウニンジンボク|チェストツリー]](agnus-castus)や[[ムラサキツメクサ#薬用|レッドクローバー]]イソフラボンや[[大豆イソフラボン]]や[[セント・ジョーンズ・ワート]]による{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。<!--Complementary Therapiesであり代替医療ではない-->チェストツリーについては、日本でも2014年よりプレフェミン |
* 補完療法:[[セイヨウニンジンボク|チェストツリー]](agnus-castus)や[[ムラサキツメクサ#薬用|レッドクローバー]]イソフラボンや[[大豆イソフラボン]]や[[セント・ジョーンズ・ワート]]による{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。<!--Complementary Therapiesであり代替医療ではない-->チェストツリーについては、日本でも2014年よりPMSの適応が承認され、商品名プレフェミンとして[[ゼリア新薬工業]]から販売されている。 |
||
*ビタミン・ミネラル |
* ビタミン・ミネラル |
||
**[[ビタミンB6]](1日最大50mg){{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
** [[ビタミンB6]](1日最大50mg){{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
**[[マグネシウム]](1日250mg){{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
** [[マグネシウム]](1日250mg){{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
**[[カルシウム]]1000mg、[[ビタミンD]]を10マイクログラムを1日に、特に片頭痛に{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
** [[カルシウム]]1000mg、[[ビタミンD]]を10マイクログラムを1日に、特に片頭痛に{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
重症のものでは次の段階が考えられる{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
重症のものでは次の段階が考えられる{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
*心理学的手法:[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬|SSRI系抗うつ薬]]、あるいは[[認知行動療法]]{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}} |
* 心理学的手法:[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬|SSRI系抗うつ薬]]、あるいは[[認知行動療法]]{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}} |
||
*月経周期抑制:[[経口避妊薬]]や、ホルモンの[[エストラジオール]]のパッチ{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
* 月経周期抑制:[[経口避妊薬]]や、ホルモンの[[エストラジオール]]のパッチ{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
===日本産科婦人科学会のガイドライン=== |
===日本産科婦人科学会のガイドライン=== |
||
2014年の日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会による婦人科外来のガイドラインが、月経前症候群に触れているが、中等症以上では、SSRIもしくはドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(ヤーズ配合錠剤)としている{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。上記イギリスのガイドラインが個々の成分の有効性の証拠を探索しているのに対して、簡易的なものである。 |
2014年の日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会による婦人科外来のガイドラインが、月経前症候群に触れているが、中等症以上では、SSRIもしくはドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(ヤーズ配合錠剤)としている{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。上記イギリスのガイドラインが個々の成分の有効性の証拠を探索しているのに対して、簡易的なものである。 |
||
なお2014年には、ヤーズ錠(経口避妊薬)に対する安全性速報が出されており、血栓症が疑われる、足の急な浮腫や痛み、息切れ、胸痛、頭痛、麻痺、言語障害、視力障害に注意するための警告表示が追加された<ref>{{Cite press release|和書|title=月経困難症治療剤ヤーズ配合錠による血栓症について |publisher=医薬品医療機器安全機構 |date=2014-1|url=https://www.pmda.go.jp/files/000147579.pdf|format=pdf|accessdate=2018-11-25}}</ref>。 |
|||
生活指導としては症状日誌により理解と頻度や時期や重症度を認識させ、規則正しい生活、規則正しい睡眠、定期的運動、たばこやコーヒーの制限を指導を行うとしている{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。 |
生活指導としては症状日誌により理解と頻度や時期や重症度を認識させ、規則正しい生活、規則正しい睡眠、定期的運動、たばこやコーヒーの制限を指導を行うとしている{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。 |
||
[[漢方薬]]にも触れている{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。 |
[[漢方薬]]にも触れ、症状に合わせ、[[当帰芍薬散]]、[[桂枝茯苓丸]]、[[加味逍遙散]]、[[桃核承気湯]]、[[女神散]]が挙げられているが、有効性を評価した研究は示されていない{{sfn|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}}。 |
||
===レビュー=== |
===レビュー=== |
||
[[コクラン共同計画]]によるレビューにより、SSRI抗うつ薬は、PMSの症状の軽減に有効だが、副作用が比較的頻繁であり、一般的に吐き気や無気力が生じやすく、また服用量に応じて副作用が生じやすいことも見出された<ref name="pmid23744611">{{cite journal|last1=Marjoribanks|first1=Jane|last2=Brown|first2=Julie|last3=O'Brien|first3=Patrick Michael Shaughn|last4=Wyatt|first4=Katrina|last5=Brown|first5=Julie|title=Selective serotonin reuptake inhibitors for premenstrual syndrome|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|pages=CD001396|year=2013|pmid=23744611|doi=10.1002/14651858.CD001396.pub3}}</ref>。 |
2013年の[[コクラン共同計画]]によるレビューにより、SSRI抗うつ薬([[パロキセチン]]、[[セルトラリン]]、[[エスシタロプラム]])は、PMSの症状の軽減に有効だが、副作用が比較的頻繁であり、一般的に吐き気や無気力が生じやすく、また服用量に応じて副作用が生じやすいことも見出された<ref name="pmid23744611">{{cite journal|last1=Marjoribanks|first1=Jane|last2=Brown|first2=Julie|last3=O'Brien|first3=Patrick Michael Shaughn|last4=Wyatt|first4=Katrina|last5=Brown|first5=Julie|title=Selective serotonin reuptake inhibitors for premenstrual syndrome|journal=The Cochrane Database of Systematic Reviews|pages=CD001396|year=2013|pmid=23744611|doi=10.1002/14651858.CD001396.pub3}}</ref>。 |
||
2024年のコクラン・レビューでもSSRI([[フルオキセチン]]、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、[[シタロプラム]])はPMSの症状の軽減に有効だとしたが、68%の文献は製薬企業から資金の援助を受けており、2024年のコクラン・レビューの解釈に疑問が残るとレビュー内で警告している<ref name="pmid39140320">{{cite journal|last1=Jespersen|first1=Cecilie|last2=Lauritsen|first2=Mette Petri|last3=Frokjaer|first3=Vibe G|last4=Schroll|first4=Jeppe B|title=Selective serotonin reuptake inhibitors for premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder|journal=Cochrane Database Syst Rev.|pages=CD001396|year=2024|pmid=39140320|doi=10.1002/14651858.CD001396.pub4.}}</ref>。 |
|||
2018年のコクランのレビューでは、鍼や指圧の効果を調べた5つのランダム化比較試験があり、身体と心理的な症状に効果がある可能性があるとした<ref name="pmid30105749">{{cite journal|author=Armour M, Ee CC, Hao J, Wilson TM, Yao SS, Smith CA|title=Acupuncture and acupressure for premenstrual syndrome|journal=Cochrane Database Syst Re|pages=CD005290|date=August 2018|pmid=30105749|doi=10.1002/14651858.CD005290.pub2|url=https://doi.org/10.1002/14651858.CD005290.pub2}}</ref>。 |
|||
===ほか=== |
|||
[[ブラックコホシュ]]等の[[ハーブ]]療法。 |
|||
2017年12月の[[システマティックレビュー]]では、月経前症候群や[[月経前不快気分障害]]への[[セイヨウニンジンボク|チェストツリー]]の効果を調査し、8つのランダム化比較試験があり、効果があり忍容性がよい(安全)ということを示していた<ref name="pmid29063202">{{cite journal|author=Cerqueira RO, Frey BN, Leclerc E, Brietzke E|title=Vitex agnus castus for premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder: a systematic review|journal=Arch Womens Ment Health|issue=6|pages=713–719|date=December 2017|pmid=29063202|doi=10.1007/s00737-017-0791-0}}</ref>。2017年8月のシステマティックレビューは月経前症候群に対する14件のランダム化試験から[[メタアナリシス]]し[[出版バイアス]]の可能性があるため、チェストツリーの効果を過大評価すべきではないとした<ref name="pmid28237870">{{cite journal|author=Verkaik S, Kamperman AM, van Westrhenen R, Schulte PFJ|title=The treatment of premenstrual syndrome with preparations of Vitex agnus castus: a systematic review and meta-analysis|journal=Am. J. Obstet. Gynecol.|issue=2|pages=150–166|date=August 2017|pmid=28237870|doi=10.1016/j.ajog.2017.02.028}}</ref>。 |
|||
===非推奨=== |
===非推奨=== |
||
NAPSのガイドラインは、[[マツヨイグサ |
NAPSのガイドラインは、[[メマツヨイグサ|月見草油]]は、PMSには無効であるため強く非推奨であり、乳房の痛みには有効であるとしている{{sfn|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}}。 |
||
==医薬品== |
|||
[[西洋ハーブ医薬品]]である[[プレフェミン]]が承認されている。 |
|||
[[チェストベリー]]を原料とする。 |
|||
[[漢方薬]]としては[[桂枝茯苓丸料]]、[[桃核承気湯]]、[[当帰建中湯]]、[[当帰芍薬散料]]、[[五苓散料]]、[[苓桂朮甘湯]]、[[半夏白朮天麻湯]]、[[当帰呉茱萸生姜湯]]、[[呉茱萸湯]]、[[加味逍遙散料]]、[[補中益気湯]]、[[半夏厚朴湯]]、[[香蘇散]]、[[抑肝散加陳皮半夏]]などを症状に合わせて使い分ける。<ref>[http://www.kampoyubi.jp/learn/practice/19.html 月経前症候群(PMS)の漢方治療 クラシエ]</ref> |
|||
日本においてPMSに対する適応はないが、[[パロキセチン]]、[[セルトラリン]]、[[エスシタロプラム]]など[[SSRI]]が有効との調査結果がある。<ref>[https://www.carenet.com/news/head/carenet/35346 SSRIは月経前症候群の治療に有用か?]</ref> |
|||
==出典== |
==出典== |
||
{{Reflist}} |
{{Reflist|2}} |
||
==参考文献== |
==参考文献== |
||
;ガイドライン |
;ガイドライン |
||
*{{Cite book|author=Nick Panay|title=Guidelines on Premenstrual Syndrome|url=http://www.pms.org.uk/assets/files/guidelinesfinal60210.pdf|format=pdf|publisher=The National Association for Premenstrual Syndrome (NAPS)|date=|ref={{sfnRef|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}} }}2011年という記載があり、少なくともそれ以降の文献。同じイギリス月経前症候群協会のガイドラインはGuidelines.co.ukにも取り上げられ、こちらはアクセス時点で同じ協会による2010年のガイドラインが示されている:{{cite web |author= |title=Treatment guidelines for premenstrual syndrome - National Association for Premenstrual Syndrome |url=http://www.guidelines.co.uk/obstetrics_gynaecology_urology_naps_pms |date= |publisher=Guidelines.co.uk |accessdate=2015-09-30}} |
*{{Cite book|author=Nick Panay|title=Guidelines on Premenstrual Syndrome|url=http://www.pms.org.uk/assets/files/guidelinesfinal60210.pdf|format=pdf|publisher=The National Association for Premenstrual Syndrome (NAPS)|date=|ref={{sfnRef|イギリス月経前症候群協会ガイドライン}} }}2011年という記載があり、少なくともそれ以降の文献。同じイギリス月経前症候群協会のガイドラインはGuidelines.co.ukにも取り上げられ、こちらはアクセス時点で同じ協会による2010年のガイドラインが示されている:{{cite web |author= |title=Treatment guidelines for premenstrual syndrome - National Association for Premenstrual Syndrome |url=http://www.guidelines.co.uk/obstetrics_gynaecology_urology_naps_pms |date= |publisher=Guidelines.co.uk |accessdate=2015-09-30}} |
||
*{{Cite book|和書| |
*{{Cite book|和書|chapter=Q419 月経前症候群の診断・管理は?|author=日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会 |title=産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014|publisher=日本産科婦人科学会|date=2014|isbn=978-4-907890-01-8|pages=224-227|ref={{sfnRef|産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014}} }} |
||
;ほか |
;ほか |
||
*{{Cite book|和書|author=K・ダルトン、W・ホルトン|translator=児玉憲典|url=https://books.google.co.jp/books?id=r-IDM7WVjK0C&pg|title=PMSバイブル―月経前症候群のすべて|publisher=学樹書院|date=2007|isbn=978-4-906502-31-8|ref=harv}}''Premenstrul Syndrome'', 1999. |
*{{Cite book|和書|author=K・ダルトン、W・ホルトン|translator=児玉憲典|url=https://books.google.co.jp/books?id=r-IDM7WVjK0C&pg|title=PMSバイブル―月経前症候群のすべて|publisher=学樹書院|date=2007|isbn=978-4-906502-31-8|ref=harv}}''Premenstrul Syndrome'', 1999. |
||
134行目: | 132行目: | ||
{{外部リンクの方針参照/追跡}}<!-- |
{{外部リンクの方針参照/追跡}}<!-- |
||
宣伝目的のサイトや、私的な考えを書いたに過ぎないようなサイトは削除されます。また、ウィキペディアはリンク集ではありません。ウィキペディアにおける適切な外部リンクの選び方は、[[Wikipedia:外部リンクの選び方]](ショートカット:[[WP:EL]])を参照して下さい。このメッセージは、2015年10月に貼り付けられました。{{外部リンクの方針参照}}を使って貼り付けることができます。--> |
宣伝目的のサイトや、私的な考えを書いたに過ぎないようなサイトは削除されます。また、ウィキペディアはリンク集ではありません。ウィキペディアにおける適切な外部リンクの選び方は、[[Wikipedia:外部リンクの選び方]](ショートカット:[[WP:EL]])を参照して下さい。このメッセージは、2015年10月に貼り付けられました。{{外部リンクの方針参照}}を使って貼り付けることができます。--> |
||
* [https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/22-女性の健康上の問題/月経異常と異常な性器出血(不正出血)/月経前症候群-pms 月経前症候群(PMS)] - [[MSDマニュアル]] |
|||
* [http://www.kampo-view.com/nayami/gekkeimae01.html PMS(月経前症候群)](漢方ビュー) |
|||
* [http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=64/9/06409N0117.pdf 鎌田泰彦、前田長正、よくわかる月経前症候群の診断と治療] 日本産科婦人科学会雑誌 2012年 第64巻 第9号 |
|||
* [http://health.goo.ne.jp/medical/search/10360700.html 月経前緊張症](goo ヘルスケア) |
|||
* 佐野敬夫、和田生穂、高野真穂 ほか、[https://doi.org/10.18977/jspog.5.2_161 月経前症候群に対する漢方療法] 『女性心身医学』 2000年 5巻 2号 p.161-166, {{doi|10.18977/jspog.5.2_161}} |
|||
{{Normdaten}} |
|||
{{DEFAULTSORT:けつけいせんしようこうくん}} |
{{DEFAULTSORT:けつけいせんしようこうくん}} |
||
[[Category: |
[[Category:月経]] |
||
[[Category:婦人科学]] |
|||
[[Category:婦人科疾患]] |
[[Category:婦人科疾患]] |
||
[[Category:産育]] |
2024年8月28日 (水) 09:47時点における最新版
月経前症候群(げっけいぜんしょうこうぐん、英: premenstrual syndrome、PMS)は、数か月にわたって月経の周期に伴って、黄体期[1]である月経の3日から10日位前からおこり、月経開始とともに消失する、一連の身体的、および精神的症状を示す症候群(いろいろな症状の集まり)[2]。 月経前緊張症(げっけいぜんきんちょうしょう)とも呼ばれる。月経前症候群を経験した女性はより重篤な更年期障害になりうる可能性が有るとの報告がある[3]。
診断基準に合致するものは、社会的または経済的な能力に明確に障害がある場合である[4]。正確な原因は不明である[5]。月経前症候群が5.4%、精神障害としての月経前不快気分障害(PMDD)が 1.2%の有病率であり、欧米では2~4%とされる[4]。
治療には、栄養改善と定期的な運動が推奨される[5][4]。イギリスのガイドラインでは、薬物療法の前に、チェストツリー、大豆イソフラボンやセント・ジョーンズ・ワートによる補完療法や、ビタミンB6・マグネシウム・カルシウムの補充が推奨されている[5]。より症状が重い場合には、SSRI系抗うつ薬や認知行動療法、経口避妊薬やホルモンが推奨されている[5][4]。婦人科(産婦人科)での診察・治療が一般的となっている[6]。詳しい治療法については、「月経前症候群#治療」を参照。
小史:医学と精神医学
[編集]キャサリーナ・ダルトンは、1953年にイギリスで最初の月経前症候群(PMS)に関する医学論文を出し、1954年にロンドンのユニバーシティ・カレッジ病院に世界初のPMSの診療を設けた[7]。その1953年の研究では、心理的な症状を訴えたのは33%であった[8]。彼女が、1982年にプロゲステロンの安全性の審査のために呼ばれ、このホルモンが投与されている女性では55%が心理的な症状を訴えていた[8]。
1987年にアメリカ精神医学会(APA)の診断分類である『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)に、後期黄体期不快気分障害(LLPDD)の案が掲載され、1994年にそれが現在の月経前不快気分障害に変わった[8]。PMSの認識が公となるという大きな利点があった一方で、精神の専門家は身体を実際に診察する医学に長けていないという問題も生じた[8]。医学的にはPMSはプロゲステロンの投与が有効なホルモンの異常であり、精神科医や心理学者は、そうとはみなさず抗うつ薬や心理療法で治療する傾向がある[8]。
症状
[編集]身体的症状と精神的症状に分けられ、症状の程度と出現する症状には個人差がある。下記に代表的な症状を挙げる[9]。
身体的症状 | 精神的症状 |
---|---|
下腹部膨満感 下腹痛 頭痛 乳房痛、乳房が張る 腰痛 関節痛 むくみ、体重増加、脚が重い にきび めまい 食欲亢進 便秘あるいは下痢 悪心、動悸 過剰な睡眠欲 不眠 |
怒りやすい、反感、闘争的 憂鬱 緊張 判断力低下、不決断 無気力 孤独感 疲れやすい 不眠 パニック 妄想症 集中力低下、気力が続かない 涙もろい 悪夢を見る 異性に対してのみ攻撃的になり暴力をふるう |
上記症状は単独で出る事は少なく複合で現れる。その為月経前症候群と呼ばれる。また症状の現れ方は月によって変化する事がある。また個人によっても症状が異なる。
原因
[編集]月経前症候群の正確な原因は不明である[5]。女性ホルモンのバランスが急激に変化することにより、脳内のホルモンや神経伝達物質の異常を引き起こすことが関係しているのではないかと言われている[10]。
診断
[編集]身体診察および臨床検査は有用では無い[9]。
研究者であるキャサリーナ・ダルトンは、1984年に著書で、月経前症候群は月経前に症状が出ることが反復され、月経後には症状が消失することであるとした[11]。2回以上の月経周期において反復されており、症状が出ている月経前は14日間を超えることはごく稀である[11]。さらに症状の消失は少なくとも7日は続く[11]。従って、診断を下すには2~3カ月の月経日誌が必要になる[12]。
日本の婦人科外来のガイドラインでは、診断は発症時期、身体症状、精神症状から行うことを推奨度Aで推奨し、推奨度Cでアメリカ産婦人科学会の診断基準を用いることを推奨している[4]。
アメリカ産婦人科学会の診断基準は、症状が過去3カ月以上連続しており、また診療開始からも3カ月にわたっており、社会的または経済的な能力に明確に障害があり、月経前5日間に症状があり、月経開始後4日以内に症状が消失するものである[4]。また症状は、薬物療法やアルコールが原因ではない[4]。また重症の場合、月経前不快気分障害の診断基準を用いることも推奨度Cで推奨している[4]。月経前不快気分障害は1年間のほぼ毎月の症状の診断基準を持つ。
治療
[編集]対症療法が行われる[9]。
イギリス月経前症候群協会(NAPS)のガイドライン
[編集]有効性の証拠を精査したイギリス月経前症候群協会(NAPS)のガイドラインは段階的な治療を推奨している[5]。
最初に栄養改善と定期的な運動が勧められる[5]。
第2段階として以下が挙げられ、推奨度AとなっているのはビタミンB6で他はBである[5]。重症でもしばしばここまでで改善する[5]。
- ストレス管理:ヨガや瞑想など[5]。詳しくは「ストレス管理」・「ストレス#対処」を参照。
- カウンセリングなどのサポート[5]。
- 補完療法:チェストツリー(agnus-castus)やレッドクローバーイソフラボンや大豆イソフラボンやセント・ジョーンズ・ワートによる[5]。チェストツリーについては、日本でも2014年よりPMSの適応が承認され、商品名プレフェミンとしてゼリア新薬工業から販売されている。
- ビタミン・ミネラル
重症のものでは次の段階が考えられる[5]。
日本産科婦人科学会のガイドライン
[編集]2014年の日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会による婦人科外来のガイドラインが、月経前症候群に触れているが、中等症以上では、SSRIもしくはドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(ヤーズ配合錠剤)としている[4]。上記イギリスのガイドラインが個々の成分の有効性の証拠を探索しているのに対して、簡易的なものである。
なお2014年には、ヤーズ錠(経口避妊薬)に対する安全性速報が出されており、血栓症が疑われる、足の急な浮腫や痛み、息切れ、胸痛、頭痛、麻痺、言語障害、視力障害に注意するための警告表示が追加された[13]。
生活指導としては症状日誌により理解と頻度や時期や重症度を認識させ、規則正しい生活、規則正しい睡眠、定期的運動、たばこやコーヒーの制限を指導を行うとしている[4]。
漢方薬にも触れ、症状に合わせ、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遙散、桃核承気湯、女神散が挙げられているが、有効性を評価した研究は示されていない[4]。
レビュー
[編集]2013年のコクラン共同計画によるレビューにより、SSRI抗うつ薬(パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム)は、PMSの症状の軽減に有効だが、副作用が比較的頻繁であり、一般的に吐き気や無気力が生じやすく、また服用量に応じて副作用が生じやすいことも見出された[14]。 2024年のコクラン・レビューでもSSRI(フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、シタロプラム)はPMSの症状の軽減に有効だとしたが、68%の文献は製薬企業から資金の援助を受けており、2024年のコクラン・レビューの解釈に疑問が残るとレビュー内で警告している[15]。
2018年のコクランのレビューでは、鍼や指圧の効果を調べた5つのランダム化比較試験があり、身体と心理的な症状に効果がある可能性があるとした[16]。
2017年12月のシステマティックレビューでは、月経前症候群や月経前不快気分障害へのチェストツリーの効果を調査し、8つのランダム化比較試験があり、効果があり忍容性がよい(安全)ということを示していた[17]。2017年8月のシステマティックレビューは月経前症候群に対する14件のランダム化試験からメタアナリシスし出版バイアスの可能性があるため、チェストツリーの効果を過大評価すべきではないとした[18]。
非推奨
[編集]NAPSのガイドラインは、月見草油は、PMSには無効であるため強く非推奨であり、乳房の痛みには有効であるとしている[5]。
出典
[編集]- ^ 高橋俊文、渡邊憲和、倉智博久、「月経前症候群」 臨床婦人科産科 66巻5号 (2012年4月)p.53-56, doi:10.11477/mf.1409103015 (有料閲覧)
- ^ 月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS) 日本産科婦人科学会
- ^ 佐野敬夫、「月経前症候群と更年期障害の関係」, Morse CA, Dudley E, Guthrie J, et al : Relationships between premenstrual complaints and perimenopausal experiences., J Psychosom Obstet Gynecol, 19 : 182-191,1998 『心身医学』 1999年 39巻 5号 p.341-, doi:10.15064/jjpm.39.5_341
- ^ a b c d e f g h i j k 産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u イギリス月経前症候群協会ガイドライン.
- ^ 武田 卓 (2011). “月経前症候群の治療”. 産科と婦人科 78: 1311-1314.
- ^ K・ダルトン、W・ホルトン 2007, p. x.
- ^ a b c d e K・ダルトン、W・ホルトン 2007, pp. 91–95.
- ^ a b c 月経前症候群 (PMS) MSDマニュアル プロフェッショナル版
- ^ “月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)”. 公益社団法人 日本産科婦人科学会 (2018年6月16日). 2023年2月24日閲覧。
- ^ a b c K・ダルトン、W・ホルトン 2007, pp. 7, 12.
- ^ K・ダルトン、W・ホルトン 2007, p. 22.
- ^ 『月経困難症治療剤ヤーズ配合錠による血栓症について』(pdf)(プレスリリース)医薬品医療機器安全機構、2014年1月 。2018年11月25日閲覧。
- ^ Marjoribanks, Jane; Brown, Julie; O'Brien, Patrick Michael Shaughn; Wyatt, Katrina; Brown, Julie (2013). “Selective serotonin reuptake inhibitors for premenstrual syndrome”. The Cochrane Database of Systematic Reviews: CD001396. doi:10.1002/14651858.CD001396.pub3. PMID 23744611.
- ^ Jespersen, Cecilie; Lauritsen, Mette Petri; Frokjaer, Vibe G; Schroll, Jeppe B (2024). “Selective serotonin reuptake inhibitors for premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder”. Cochrane Database Syst Rev.: CD001396. doi:10.1002/14651858.CD001396.pub4.. PMID 39140320.
- ^ Armour M, Ee CC, Hao J, Wilson TM, Yao SS, Smith CA (August 2018). “Acupuncture and acupressure for premenstrual syndrome”. Cochrane Database Syst Re: CD005290. doi:10.1002/14651858.CD005290.pub2. PMID 30105749 .
- ^ Cerqueira RO, Frey BN, Leclerc E, Brietzke E (December 2017). “Vitex agnus castus for premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder: a systematic review”. Arch Womens Ment Health (6): 713–719. doi:10.1007/s00737-017-0791-0. PMID 29063202.
- ^ Verkaik S, Kamperman AM, van Westrhenen R, Schulte PFJ (August 2017). “The treatment of premenstrual syndrome with preparations of Vitex agnus castus: a systematic review and meta-analysis”. Am. J. Obstet. Gynecol. (2): 150–166. doi:10.1016/j.ajog.2017.02.028. PMID 28237870.
参考文献
[編集]- ガイドライン
- Nick Panay (pdf). Guidelines on Premenstrual Syndrome. The National Association for Premenstrual Syndrome (NAPS)2011年という記載があり、少なくともそれ以降の文献。同じイギリス月経前症候群協会のガイドラインはGuidelines.co.ukにも取り上げられ、こちらはアクセス時点で同じ協会による2010年のガイドラインが示されている:“Treatment guidelines for premenstrual syndrome - National Association for Premenstrual Syndrome”. Guidelines.co.uk. 2015年9月30日閲覧。
- 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会「Q419 月経前症候群の診断・管理は?」『産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2014』日本産科婦人科学会、2014年、224-227頁。ISBN 978-4-907890-01-8。
- ほか
- K・ダルトン、W・ホルトン 著、児玉憲典 訳『PMSバイブル―月経前症候群のすべて』学樹書院、2007年。ISBN 978-4-906502-31-8 。Premenstrul Syndrome, 1999.
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 月経前症候群(PMS) - MSDマニュアル
- 鎌田泰彦、前田長正、よくわかる月経前症候群の診断と治療 日本産科婦人科学会雑誌 2012年 第64巻 第9号
- 佐野敬夫、和田生穂、高野真穂 ほか、月経前症候群に対する漢方療法 『女性心身医学』 2000年 5巻 2号 p.161-166, doi:10.18977/jspog.5.2_161