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「ポリケチド合成酵素」の版間の差分

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'''ポリケチド合成酵素'''(Polyketide synthase:<span>PKS</span>)とは、[[ポリケチド]]を合成する多[[タンパク質ドメイン|ドメイン]]酵素または酵素複合体である。真正細菌や真菌、植物、少数の動物が持つ。ポリケチドの生合成経路は脂肪酸のそれと多くの点で類似する<ref>{{Cite journal|last1=Khosla|first1=C.|year=1999|title=Tolerance and Specificity of Polyketide Synthases|journal=Annual Review of Biochemistry|volume=68|pages=219–253|doi=10.1146/annurev.biochem.68.1.219|pmid=10872449|pmc=|last2=Gokhale|first2=R. S.|last3=Jacobsen|first3=J. R.|last4=Cane|first4=D. E.}}</ref><ref>{{Cite journal|last1=Jenke-Kodama|first1=H.|year=2005|title=Evolutionary Implications of Bacterial Polyketide Synthases|journal=Molecular Biology and Evolution|volume=22|issue=10|pages=2027–2039|doi=10.1093/molbev/msi193|pmid=15958783|pmc=|last2=Sandmann|first2=A.|last3=Müller|first3=R.|last4=Dittmann|first4=E.}}</ref>。

特定のポリケチド合成酵素の[[遺伝子]]は通常、細菌では一つのオペロン、真核生物では遺伝子集団に存在する{{要出典|date=2018年1月}}。

== 分類 ==
ポリケチド合成酵素は3つの群に分類される。
* I型 — 巨大なモジュールタンパク質
* II型 — 単機能タンパク質の集合
* III型 — ACPドメインを利用しない
I型ポリケチド合成酵素はさらに下記のように細分化される。
* 反復型ポリケチド合成酵素(Iterative PKS: IPKS) — 同一[[タンパク質ドメイン|ドメイン]]を繰り返し利用する。
* モジュール型ポリケチド合成酵素(Modular PKS) — 複数のモジュールから構成され、一つのモジュールが一回のポリケチド鎖伸長反応を触媒する(例外として独立したATドメイン(''trans''-AT)が繰り返し利用されることがある)。
さらに、反復型ポリケチド合成酵素は下記のように細分化される。
* 非還元型ポリケチド合成酵素(non-reducing PKS:NR-PKS) &#x2014; 文字通りのポリケチドを合成する。
* 部分的還元型ポリケチド合成酵素(partially reducing PKS:PR-PKS)
* 全還元型ポリケチド合成酵素(fully reducing PKS:FR-PKS) &#x2014; 脂肪酸誘導体を合成する。

== モジュールとドメイン ==
[[ファイル:Anthracycline_aglycone_biosyn1.png|サムネイル|537x537ピクセル|[[ドキソルビシン]]誘導体のє-[[ロドマイシノン]]の生合成経路。一番上の反応式がポリケチド合成酵素によるもの。]]
I型ポリケチド合成酵素の各[[モジュール]]はいくつかの[[タンパク質ドメイン|ドメイン]]によって構成されており、お互いにスペーサー領域によって分離している。ポリケチド合成酵素のモジュールとドメインの構成は下記の通りである(上から下へ[[N末端]]から[[C末端]]へと進む)。
* ''開始または積込みモジュール'': AT-ACP-
* ''伸長または拡大モジュール'': -KS-AT-[DH-ER-KR]-ACP-
* ''終止または放出ドメイン'': -TE
必須ドメイン:
* AT: [[アシルトランスフェラーゼ|アシル基転移酵素]]
* ACP: 翻訳後修飾により得られた[[補因子]]([[セリン]]に結合した4-ホスホ[[パンテテイン]])の[[チオール基]]を持つ[[アシル基運搬タンパク質]]
* KS: [[システイン]]側鎖のチオール基を持つ[[ケトン合成酵素]]
* TE: チオエステル加水分解酵素([[w:Cyclase|サイクラーゼ]]などが付加することもある)
主要な修飾ドメイン:
* KR: [[ケトン還元酵素]]
* DH: [[脱水酵素]]
* ER: [[エノイル還元酵素]]
その他のドメイン:
* MT: [[メチルトランスフェラーゼ|メチル基転移酵素]]O- またはC- (αまたはβ)
* SH: [[リアーゼ|システインリアーゼ]]
* PT: ポリケチドの大きさをコントロール

== 酵素反応の段階 ==
[[画像:I型.jpg|right|300px]]
ポリケチドの合成は、生成物の伸長を伴う[[重合反応]]である。

開始段階:
* スターター基質は通常アセチルCoA(またはその誘導体)であり、アセチル基が開始モジュールのATドメインの触媒により同モジュールのACPドメイン上に結合する。
伸長段階:
* 開始段階が終わると、ポリケチド(開始段階ではアセチル基)は開始モジュールのACPドメインから、次のモジュールのKSドメインの触媒によりこのKSドメインへと移動させられる。
* 伸長段階の基質は通常、[[マロニルCoA]]か[[メチルマロニルCoA]]であり、ATドメインの触媒によりACPドメインへと結合する。
* ACPドメインと結合した基質は、KSドメインに触媒されることで、KSドメインと結合したポリケチドと[[二酸化炭素]]の排出を伴う[[クライゼン縮合]]する。この縮合でポリケチド鎖は基質のケトン部分を付加され、伸長する。縮合反応は同一モジュールのKSドメインとATドメイン間で触媒され、新たに伸張したポリケチド鎖はATドメインへと移動する。移動したポリケチド鎖は、次のモジュールのKSドメインへ移動し上記と同様の反応が触媒されるため、ポリケチド鎖は鎖長を伸ばしながら場所を一つずらして移動する。
* 各モジュールでは必要に応じて修飾ドメインが働き、ポリケチド鎖の断片を変化させる。KRドメインはβ-ケト基をβ-ヒドロキシル基に還元し、DHドメインは断片を脱水することでα-β-不飽和[[アルケン]]にし、ERドメインはα-β-二重結合を単結合に還元する。これらの修飾ドメインが実際に作用するのは伸長部分ではなく、その直前に伸長部分だった部分(直前の伸長反応の現場となったモジュールと結合していたときの伸長基質)であることに注意が必要。
* 以上の工程は各伸長モジュールで繰り返される。
* 注意:この工程はI型のモジュール型のものであり、反復型では単一モジュール上で繰り返し触媒される。
終止段階
* ACPドメインからTEドメインへとポリケチドが移動する。
* TEドメイン上で加水分解、または環化反応が触媒され最終生成物が放出される。

== 薬理学 ==
ポリケチド合成酵素は、化学療法に用いられる天然低分子を合成することができる<ref>{{Cite journal|last1=Koehn|first1=F. E.|year=2005|title=The evolving role of natural products in drug discovery|journal=Nature Reviews Drug Discovery|volume=4|issue=3|pages=206–220|doi=10.1038/nrd1657|pmid=15729362|pmc=|last2=Carter|first2=G. T.}}</ref> 。例えば、[[テトラサイクリン]]や[[マクロライド]]といった多くの一般的な[[抗生物質]]である。重要なポリケチドは他に[[シロリムス]]([[免疫抑制剤]])、[[エリスロマイシン]](抗生物質)、[[ロバスタチン]](抗コレステロール薬)、[[エポチロン]]B(抗がん剤)がある<ref>{{Cite journal|last1=Wawrik|first1=B.|year=2005|title=Identification of Unique Type II Polyketide Synthase Genes in Soil|journal=Applied and Environmental Microbiology|volume=71|issue=5|pages=2232–2238|doi=10.1128/AEM.71.5.2232-2238.2005|pmid=15870305|pmc=1087561|last2=Kerkhof|first2=L.|last3=Zylstra|first3=G. J.|last4=Kukor|first4=J. J.}}</ref>。

== 重要性 ==
ポリケチド合成酵素の産物には抗生物質や抗真菌物質、抗腫瘍物質、捕食者に対する防御物質などが含まれる。細菌や真菌、植物では未発見のポリケチド合成経路が多いとみられている<ref>{{Cite journal|last1=Castoe|first1=T. A.|year=2007|title=A novel group of type I polyketide synthases (PKS) in animals and the complex phylogenomics of PKSs|journal=Gene|volume=392|issue=1–2|pages=47–58|doi=10.1016/j.gene.2006.11.005|pmid=17207587|pmc=|last2=Stephens|first2=T.|last3=Noonan|first3=B. P.|last4=Calestani|first4=C.}}</ref><ref>{{Cite journal|last1=Ridley|first1=C. P.|year=2008|title=Chemical Ecology Special Feature: Evolution of polyketide synthases in bacteria|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=105|issue=12|pages=4595–4600|doi=10.1073/pnas.0710107105|pmid=18250311|pmc=2290765|last2=Lee|first2=H. Y.|last3=Khosla|first3=C.}}</ref> 。未知のポリケチドの多くは細菌に存在することが示唆されている<ref>{{Cite journal|last1=Metsä-Ketelä|first1=M.|year=1999|title=An efficient approach for screening minimal PKS genes from Streptomyces|journal=FEMS microbiology letters|volume=180|issue=1|pages=1–6|doi=10.1016/S0378-1097(99)00453-X|pmid=10547437|last2=Salo|first2=V.|last3=Halo|first3=L.|last4=Hautala|first4=A.|last5=Hakala|first5=J.|last6=Mäntsälä|first6=P.|last7=Ylihonko|first7=K.}}</ref><ref>{{Cite journal|last1=Wawrik|first1=B.|year=2007|title=Biogeography of Actinomycete Communities and Type II Polyketide Synthase Genes in Soils Collected in New Jersey and Central Asia|journal=Applied and Environmental Microbiology|volume=73|issue=9|pages=2982–2989|doi=10.1128/AEM.02611-06|pmid=17337547|pmc=1892886|last2=Kutliev|first2=D.|last3=Abdivasievna|first3=U. A.|last4=Kukor|first4=J. J.|last5=Zylstra|first5=G. J.|last6=Kerkhof|first6=L.}}</ref>。

== 脚注 ==
{{reflist}}

== 外部リンク ==
* {{MeSH name|Polyketide+synthases}}
[[Category:EC 6.4]]
[[Category:EC 6.4]]
{{DEFAULTSORT:ほりけちどごうせいこうそ}}
{{DEFAULTSORT:ほりけちどごうせいこうそ}}

2021年9月8日 (水) 08:26時点における最新版

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