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{{参照方法|date=2016年10月}}{{単位|
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名称=電子ボルト<br />(エレクトロンボルト)|
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記号=eV|
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単位系=[[SI併用単位]](SI単位で表される数値が実験的に得られるもの)|
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定義=真空中において1 Vの電位差を通過することにより電子が得る運動エネルギー<ref> [https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/SI_9th_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88_r.pdf 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版] p.115 表8 注(g)、[[産業技術総合研究所]]、計量標準総合センター、2020年4月</ref>|
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'''電子ボルト'''(でんしボルト、{{lang-en-short|electron volt}}、記号: eV<ref>[https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/SI_9th_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88_r.pdf 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版] p.114 表8、[[産業技術総合研究所]]、計量標準総合センター、2020年4月</ref>)は[[エネルギー]]の[[単位]]のひとつである。[[非SI単位]]であるが[[SI併用単位]]となっている。ただし、[[計量法]]における[[計量法#法定計量単位|法定計量単位]]ではない。
[[物理学]]において、'''電子ボルト'''(エレクトロンボルト、{{lang-en-short|electron volt}}、記号: eV<ref>[[Unicode|ユニコード]]記号
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</ref>)とは[[エネルギー]]の[[単位]]のひとつ。


[[電気素量|素電荷]](そでんか)(すなわち、[[電子]]1個の[[電荷]]の符号を反転した値)をもつ[[荷電粒子]]が、{{Val|1|ul=V}} の[[電圧|電位差]]を抵抗なしに通過すると得るエネルギー {{Val|1|u=eV}}。
{{Val|1|u=eV}} は、[[電気素量]]([[電子]]1個の[[電荷]]の絶対値)をもつ[[荷電粒子]]が、真空中で{{Val|1|ul=V}} の[[電圧|電位差]]を抵抗なしに通過するときに得るエネルギーである。[[2019年]]の[[SI基本単位の再定義 (2019年)|SI基本単位の再定義]]により、{{Val|1|u=eV}} の値は正確に{{Val|1.602176634|e=-19|u=J}} である


== 概要 ==
== 概要 ==
[[自由空間]]内で[[電子]]一つが {{Val|1|u=V}} の[[電圧]]で加速されるときに得る[[エネルギー]] {{Val|1|u=eV}} と表記し、1 電子ボルト('''エレクトロンボルト'''、electron volt)と呼ぶ<ref>[[#近角(2013)|近角(2013)]] p.453</ref>。[[素粒子物理学]]をはじめ、[[原子核物理学]]、[[物性物理学]]、[[高エネルギー物理学]]、あるいは[[化学]]、[[半導体工学]]などの幅広い分野でも使用されるエネルギーの単位である。
[[自由空間]]内で[[電子]]一つが {{Val|1|u=V}} の[[電圧]]で加速されるときに得る[[エネルギー]]が1 電子ボルトである。単位記号は {{Val|1|u=eV}} である。[[素粒子物理学]]をはじめ、[[原子核物理学]]、[[物性物理学]]、[[高エネルギー物理学]]、あるいは[[化学]]、[[半導体工学]]などの分野でも幅広く使用されるエネルギーの単位である。'''エレクトロンボルト'''(electron volt)と呼称することが多い<ref>[[#近角(2013)|近角(2013)]] p.453</ref>


=== 倍量・分量単位 ===
eVを千倍するごとの単位は、keV(ケブ)、MeV(メブ)、GeV(ジェブ)(米 BeV; ベブ)、TeV(テブ)、PeV(ペブ)、EeV、ZeV である(カッコ内は習慣的な発音)。また、千分の1倍ごとに、meV、μeVとなる。
倍量・分量単位を、[[SI単位]]と同様に、単位記号「eV」に[[SI接頭語]]を付けて表現する([[SI併用単位#SI接頭語と組み合わせることができる単位]])。分量単位は、meV、μeV であり、倍量単位は、keV(ケブ)、MeV(メブ)、GeV(ジェブ)(米 BeV: ベヴ)、TeV(テブ)、PeV(ペブ)、EeV、ZeV である。倍量単位の後の括弧内の表記は慣習的な発音である。「ブ」の代わりに「ヴ」と発音する場合もある。


[[物性物理学]]分野では数 meV - 数 eV(もっと大きい場合もある)の範囲の議論が多く(1 meVが約10 [[ケルビン|K]]に相当する)、[[高エネルギー物理学]]の分野では数 MeV - 数 GeV(あるいはそれ以上)の範囲の議論が多い。
[[物性物理学]]分野では数 meV 数 eV(もっと大きい場合もある)の範囲の議論が多く(1 meVが約10 [[ケルビン|K]]に相当する)、[[高エネルギー物理学]]の分野では数 MeV 数 GeV(あるいはそれ以上)の範囲の議論が多い。


[[宇宙物理学]]では、[[超新星]]の爆発などにより[[銀河系]]の中からやってくる[[宇宙線]]がTeV - PeVオーダー。また、[[銀河系]]の外の未知の起源によりあらゆる方向からやってきている[[宇宙線]]は、1粒が毎秒[[電球]]1個のエネルギーという超強力なZeVオーダーという<ref>[http://slideshowjp.com/doc/1362298/%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%81%AE%E8%AC%8E%E3%82%92%E8%A7%A3%E3%81%8F%E4%B8%89%E3%81%A4%E3%81%AE%E6%89%8B%E6%B3%95 宇宙の謎を解く三つの手法] [http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/public_relation/brochure/20131001/ICRRBrochure2014_web_low_4.pdf 同、PDFファイル] - 東京大学宇宙線研究所</ref>。
[[宇宙物理学]]では、[[超新星]]の爆発などにより[[銀河系]]の中からやってくる[[宇宙線]]がTeV PeVオーダー。また、[[銀河系]]の外の未知の起源によりあらゆる方向からやってきている[[宇宙線]]は、1粒が毎秒[[電球]]1個のエネルギーという超強力なZeVオーダーという<ref>[http://slideshowjp.com/doc/1362298/%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%81%AE%E8%AC%8E%E3%82%92%E8%A7%A3%E3%81%8F%E4%B8%89%E3%81%A4%E3%81%AE%E6%89%8B%E6%B3%95 宇宙の謎を解く三つの手法] [http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/public_relation/brochure/20131001/ICRRBrochure2014_web_low_4.pdf 同、PDFファイル] - 東京大学宇宙線研究所</ref>。


=== エネルギー単位間の換算 ===
=== エネルギー単位間の換算 ===
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エネルギーと[[質量]]の単位は、互いに変換できる。これは、[[アルベルト・アインシュタイン]]による[[特殊相対性理論]]の帰結として有名な、質量とエネルギーの等価性の式「[[E=mc2|E=mc<sup>2</sup>]]」による(E:[[エネルギー]]、m:[[質量]]、c:真空中の[[光速度]])。
エネルギーと[[質量]]の単位は、互いに変換できる。これは、[[アルベルト・アインシュタイン]]による[[特殊相対性理論]]の帰結として有名な、質量とエネルギーの等価性の式「[[E=mc2|E=mc<sup>2</sup>]]」による(E:[[エネルギー]]、m:[[質量]]、c:真空中の[[光速度]])。


この関係から、[[素粒子]]の質量の単位として、eVを[[光速度]]の[[乗]]で割った「{{math|eV/c{{sup|2}}}}」が使われている(単位でありながら中に斜線が使われているのが一見紛らわしいが、慣れ親しんでいる[[km/h]]と同様と考えればよい)。[[発音]]例は「ee-vee per see-squared」「ee-vee over see-squared」など<ref>[https://physics.stackexchange.com/questions/112134/how-to-pronounce-textrmev-c2 How to pronounce eV/c2] -
この関係から、[[素粒子]]の質量の単位として、eVを[[光速度]]の[[乗]]で割った「{{math|eV/c{{sup|2}}}}」が使われている。[[発音]]例は「ee-vee per see-squared」「ee-vee over see-squared」など<ref>[https://physics.stackexchange.com/questions/112134/how-to-pronounce-textrmev-c2 How to pronounce eV/c2] -
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Physics Stack Exchange</ref>。
Physics Stack Exchange</ref>。


[[キログラム]]への換算は次のとおり。1 {{math|eV/c{{sup|2}}}} ≈ {{Val|1.782662|e=-36|ul=kg}} .<ref>[http://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?evkg CODATA(evkg)]</ref>(1eV = {{Val|1.60217662|e=-19|ul=J}} を[[光速度]] c = {{Val|2.99792458|e=8|ul=m/s}} の[[自乗]]で割って求められる。)
[[キログラム]] (kg)への換算は次のとおり。1 {{math|eV/c{{sup|2}}}} ≈ {{Val|1.782662|e=-36|ul=kg}} .<ref>[http://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?evkg CODATA(evkg)]</ref>(1eV = {{Val|1.602176634|e=-19|ul=J}} を[[光速度]] c = {{Val|2.99792458|e=8|ul=m/s}} の[[自乗]]で割って求められる。)


[[電子]]の質量は約 0.5109989461 M{{math|eV/c{{sup|2}}}}<ref>[https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?mec2mev CODATA (electron mass)]</ref>、[[陽子]]の質量は約 938.2720813 M{{math|eV/c{{sup|2}}}}<ref>[https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?mpc2mev CODATA (proton mass)]</ref>、[[統一原子質量単位]] {{Val|1|ul=u}} (ダルトンともいう)は陽子の質量に近く約 931.4940954 M{{math|eV/c{{sup|2}}}} <ref>[http://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?uev CODATA (uev)]</ref>に相当する。
[[電子]]の質量は約 0.5109989500 M{{math|eV/c{{sup|2}}}}<ref>[https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?mec2mev CODATA (electron mass)]</ref>、[[陽子]]の質量は約 938.2720882 M{{math|eV/c{{sup|2}}}}<ref>[https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?mpc2mev CODATA (proton mass)]</ref>、[[統一原子質量単位]] {{Val|1|ul=u}} (ダルトンともいう)は陽子の質量に近く約 931.4941024 M{{math|eV/c{{sup|2}}}} <ref>[http://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?uev CODATA (uev)]</ref>に相当する。


'''※'''[[自然単位系]]においてeVはエネルギーそのものの次元と解釈できることに注意。
'''※''' 往々にして、質量の単位 {{math|eV/c{{sup|2}}}} が {{math|eV}} のように略記されてしまっている記事、講義ノート、換算表、換算サービスページなどの文書があるので、当該の量をエネルギーと間違えたり大きさをひどく間違えたりしないよう、注意が必要である。粒子の[[運動量]]の単位の場合も、MeV/cなら正しいがMeVのように書かれることがある。理由は、[[物理学者]]も人間なので後ろまで書かなくなりがちなためという<ref name="FNALunits">{{cite web |url=http://quarknet.fnal.gov/toolkits/ati/whatgevs.html |title=Units in particle physics |publisher=Fermilab |date=22 March 2002 |work=Associate Teacher Institute Toolkit |accessdate=13 February 2011 }}</ref>。また、[[光速度]] c = 1 と置いた[[自然単位系]]のつもりというケースもあろう。


=== 温度との換算 ===
=== 温度との換算 ===
[[統計力学]]の[[ボルツマンの公式]]に基づき、電子ボルト単位で表された値は[[ボルツマン定数]]<span class="texhtml" xml:lang="en" lang="en">''k''<sub><small>B</small></sub></span>で割って[[温度]]([[ケルビン]]を単位とする[[熱力学温度]])に換算できる。
[[統計力学]]の[[ボルツマンの公式]]に基づき、電子ボルト単位で表された値は[[ボルツマン定数]] {{math|''k''{{sub|B}}}} (正確に{{Val|1.380649|e=-23|u=J/K}})で割って[[温度]]([[ケルビン]]を単位とする[[熱力学温度]])に換算できる。


:<math>{1 \over k_{\text{B}}} = {1.602\,176\,620\,8 \times 10^{-19} \text{ J/eV} \over 1.380\,648\,52 \times 10^{-23} \text{ J/K}} = 1.160\,452\,21 \times 10^{4} \text{ K/eV}</math> <ref>[http://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?evj CODATA(evj) ]</ref><ref>[http://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?kj CODATA(kj) ]</ref><ref>[http://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?evk CODATA(evk) ]</ref>
:<math>{1 \over k_{\text{B}}} = {1.602\,176\,634 \times 10^{-19} \text{ J/eV} \over 1.380\,649 \times 10^{-23} \text{ J/K}} = 1.160\,451\,81 \times 10^{4} \text{ K/eV}</math>


:<math>{k_{\text{B}}} = 8.617\,330\,3 \times 10^{-5} \text{ eV/K}</math> <ref>[http://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?tkev CODATA(tkev) ]</ref>
:<math>{k_{\text{B}}} = 8.617\,333\,3 \times 10^{-5} \text{ eV/K}</math>


したがって、{{Val|3|/|2|u=eV}} の平均[[運動エネルギー]]をもつ三次元[[単原子分子]]からなる[[理想気体]]の温度は {{Val|11604.5221|u=K}} となる。
したがって、{{Val|3|/|2|u=eV}} の平均[[運動エネルギー]]をもつ三次元[[単原子分子]]からなる[[理想気体]]の温度は {{Val|11604.5181|u=K}} となる。


典型的な[[磁場閉じ込め方式]][[核融合炉]]の[[プラズマ]]温度として15 keVを例にとり、1 / [[ボルツマン定数]] を掛けると、約170 MK(メガケルビン)(約1億7千万度)を得る。
典型的な[[磁場閉じ込め方式]][[核融合炉]]の[[プラズマ]]温度として15 keVを例にとり、[[ボルツマン定数]] で割ると、約170 MK(メガケルビン)(約1億7千万度)を得る。


[[プラズマ物理学]]では温度を電子ボルトで示す[[慣例]]がある。
[[プラズマ物理学]]では温度を電子ボルトで示す[[慣例]]がある。


== 主な利用場面 ==
== 主な利用場面 ==
電子ボルトeVという単位は、日常生活ではあまり用いられないが、[[巨視的]]な物質や現象を[[素粒子]]1個単位から記述するには便利である。このため学問や産業の現場において、[[光子]]や[[電子]]、[[原子]]などの持つエネルギーの大きさを表す際に広く利用されている。以下、代表的な例をいくつか挙げる。
電子ボルトという単位は、日常生活ではあまり用いられないが、[[巨視的]]な物質や現象を[[素粒子]]1個単位から記述するには便利である。このため学問や産業の現場において、[[光子]]や[[電子]]、[[原子]]などの持つエネルギーの大きさを表す際に広く利用されている。以下、代表的な例をいくつか挙げる。


*[[物質]]中の[[電子]]の持つエネルギーを表現する際に用いられる。たとえば外部から与えた[[電界]]によって全体の[[電位]]が {{Val|1|u=V}} 変化すると、電界中の電子の[[位置エネルギー]]がちょうど {{Val|1|u=eV}} 変化することになるため、計算上都合がよい。
*[[物質]]中の[[電子]]の持つエネルギーを表現する際に用いられる。たとえば外部から与えた[[電界]]によって全体の[[電位]]が {{Val|1|u=V}} 変化すると、電界中の電子の[[位置エネルギー]]がちょうど {{Val|1|u=eV}} 変化することになるため、計算上都合がよい。
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**[[高エネルギー物理学]]、[[放射線治療]]において、[[加速器]]から照射される[[荷電粒子]]のエネルギーの大きさを表すのに用いられる。
**[[高エネルギー物理学]]、[[放射線治療]]において、[[加速器]]から照射される[[荷電粒子]]のエネルギーの大きさを表すのに用いられる。


*[[可視光線]]域での[[光子]]1個のエネルギーは数eVなので、単位eVは[[光子]][[物質]]との[[相互作用]]の取り扱いに便利である。
*[[可視光線]]域での[[光子]]1個のエネルギーは数eVである(たとえば波長620 [[ナノメートル|nm]]の赤い光の[[光子]]1個のエネルギーは2 eV)。単位eVは、光子電子の[[相互作用]]の取り扱いに便利である。
<!--化学反応、素粒子物理、etc...-->
<!--化学反応、素粒子物理、etc...-->

== 符号位置 ==
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== 脚注 ==
== 脚注 ==
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<references />


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

2022年9月14日 (水) 12:51時点における最新版

電子ボルト
(electron volt)
記号 eV
非SI単位SI併用単位
エネルギー
SI 1.602176634×10−19 J(正確に)
定義 真空中において1 Vの電位差を通過することにより電子が得る運動エネルギー[1]
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電子ボルト(でんしボルト、: electron volt、記号: eV[2])はエネルギー単位のひとつである。非SI単位であるがSI併用単位となっている。ただし、計量法における法定計量単位ではない。

1 eV は、電気素量電子1個の電荷の絶対値)をもつ荷電粒子が、真空中でV電位差を抵抗なしに通過するときに得るエネルギーである。2019年SI基本単位の再定義により、1 eV の値は正確に1.602176634×10−19 J である。

概要

[編集]

自由空間内で電子一つが 1 V電圧で加速されるときに得るエネルギーが1 電子ボルトである。単位記号は 1 eV である。素粒子物理学をはじめ、原子核物理学物性物理学高エネルギー物理学、あるいは化学半導体工学などの分野でも幅広く使用されるエネルギーの単位である。エレクトロンボルト(electron volt)と呼称することが多い[3]

倍量・分量単位

[編集]

倍量・分量単位を、SI単位と同様に、単位記号「eV」にSI接頭語を付けて表現する(SI併用単位#SI接頭語と組み合わせることができる単位)。分量単位は、meV、μeV であり、倍量単位は、keV(ケブ)、MeV(メブ)、GeV(ジェブ)(米 BeV: ベヴ)、TeV(テブ)、PeV(ペブ)、EeV、ZeV である。倍量単位の後の括弧内の表記は慣習的な発音である。「ブ」の代わりに「ヴ」と発音する場合もある。

物性物理学分野では数 meV – 数 eV(もっと大きい場合もある)の範囲の議論が多く(1 meVが約10 Kに相当する)、高エネルギー物理学の分野では数 MeV – 数 GeV(あるいはそれ以上)の範囲の議論が多い。

宇宙物理学では、超新星の爆発などにより銀河系の中からやってくる宇宙線がTeV – PeVオーダー。また、銀河系の外の未知の起源によりあらゆる方向からやってきている宇宙線は、1粒が毎秒電球1個のエネルギーという超強力なZeVオーダーという[4]

エネルギー単位間の換算

[編集]

eVを含むエネルギー単位間の換算表を示す。

エネルギーの単位
ジュール
(J = kg·m2/s2)
キロワット時
(kW·h)
電子ボルト
(eV)
重量キログラムメートル
(kgf·m)
国際蒸気表カロリー
(calIT)
1 J = 1 2.778×10−7 6.242×1018 1.020×10−1 2.388×10−1
1 kW·h = 3.6×106 = 1 2.247×1025 3.671×105 8.598×105
1 eV = 1.602176634×10−19 4.450×10−26 = 1 1.634×10−20 3.827×10−20
1 kgf·m = 9.80665 2.724×10−6 6.121×1019 = 1 ≈ 2.342
1 calIT = 4.1868 1.163×10−6 2.613×1019 4.269×10−1 = 1


質量との換算

[編集]

エネルギーと質量の単位は、互いに変換できる。これは、アルベルト・アインシュタインによる特殊相対性理論の帰結として有名な、質量とエネルギーの等価性の式「E=mc2」による(E:エネルギー、m:質量、c:真空中の光速度)。

この関係から、素粒子の質量の単位として、eVを光速度二乗で割った「eV/c2」が使われている。発音例は「ee-vee per see-squared」「ee-vee over see-squared」など[5]

キログラム (kg)への換算は次のとおり。1 eV/c21.782662×10−36 kg .[6](1eV = 1.602176634×10−19 J光速度 c = 2.99792458×108 m/s自乗で割って求められる。)

電子の質量は約 0.5109989500 MeV/c2[7]陽子の質量は約 938.2720882 MeV/c2[8]統一原子質量単位 u (ダルトンともいう)は陽子の質量に近く約 931.4941024 MeV/c2 [9]に相当する。

自然単位系においてeVはエネルギーそのものの次元と解釈できることに注意。

温度との換算

[編集]

統計力学ボルツマンの公式に基づき、電子ボルト単位で表された値はボルツマン定数 kB (正確に1.380649×10−23 J/K)で割って温度ケルビンを単位とする熱力学温度)に換算できる。

したがって、3/2 eV の平均運動エネルギーをもつ三次元単原子分子からなる理想気体の温度は 11604.5181 K となる。

典型的な磁場閉じ込め方式核融合炉プラズマ温度として15 keVを例にとり、ボルツマン定数 で割ると、約170 MK(メガケルビン)(約1億7千万度)を得る。

プラズマ物理学では温度を電子ボルトで示す慣例がある。

主な利用場面

[編集]

電子ボルトという単位は、日常生活ではあまり用いられないが、巨視的な物質や現象を素粒子1個単位から記述するには便利である。このため学問や産業の現場において、光子電子原子などの持つエネルギーの大きさを表す際に広く利用されている。以下、代表的な例をいくつか挙げる。

  • 可視光線域での光子1個のエネルギーは数eVである(たとえば、波長620 nmの赤い光の光子1個のエネルギーは2 eV)。単位eVは、光子と電子の相互作用の取り扱いに便利である。

符号位置

[編集]

ユニコード記号

記号 Unicode JIS X 0213 文字参照 名称
U+32CE -
電子ボルト
electron volt

脚注

[編集]

関連項目

[編集]

参考文献

[編集]
  • 近角 聰信, 三浦 登(編) 編『理解しやすい物理 物理基礎収録版』文英堂、2013年。 
  • S.グラストン, M. C. エドランド 著、伏見康治, 大塚 益比古(共訳) 編『原子炉の理論』1955年。