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「後流」の版間の差分

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[[Image:Sketch of Magnus effect with streamlines and turbulent wake.svg|thumb|280px|回転する円筒の周りで流体が流れている様子。円筒の背後の小さな渦の集団が後流を示す。(ここでは[[乱流]]を前提としているため小さな渦の集団が描かれている。)]]
[[Image:Sketch of Magnus effect with streamlines and turbulent wake.svg|thumb|280px|回転する円筒の周りで流体が流れている様子。円筒の背後の小さな渦の集団が後流領域を示す。(ここでは[[乱流]]を前提としているため小さな渦の集団が描かれている。)]]
[[流体力学]]において、'''後流'''(こうりゅう)もしくは'''伴流'''(はんりゅう、{{lang-en-short|wake}})とは、[[流体]]中を動する、流れにさらされた物体の風下に現れる、流体が物体と一緒に動く領域<ref name=streeter>{{cite book|和書|title=世界科学大事典|volume=6|page=146|chapter=後流|author=V. L. Streeter|editor=講談社出版研究所|publisher=講談社|year=1977-1985}}</ref>ないしは物体が流体を通過した痕跡である流動や渦のこと。
[[流体力学]]において、'''後流'''(こうりゅう)もしくは'''伴流'''(はんりゅう、{{lang-en-short|wake}})とは、物体が[[流体]]中や水面近くなど動する際に、流れにさらされた物体の風下に現れる、


# 流体が、物体にひきずられて一緒に動く領域<ref name="streeter">{{cite book|和書|title=世界科学大事典|volume=6|page=146|chapter=後流|author=V. L. Streeter|editor=講談社出版研究所|publisher=講談社|year=1977-1985}}</ref> ないしは
流体の慣性[[粘性]]バランスによって生じる。[[境界層剥離]]を伴う。[[乱流]]や流速の低下<ref name="sugiyama">{{cite book|和書|title=明解入門流体力学|editor=杉山弘|year=2012|publisher=森北出版|isbn= 9784627674110}}</ref>を伴うことがある。鈍い物体([[流線#流線型|流線型]]ではない物体)では顕著である。
# 物体が通過した後の痕跡である渦集団や波といった流動 のこと。

1は[[境界層剥離]]を伴い、流体塊に働く慣性と[[粘性]]のバランスによって生じる。鈍い物体([[流線#流線型|流線型]]ではない物体)では顕著である。

12いずれも[[乱流]]遷移を伴うことがあるまた、流速の低下<ref name="sugiyama">{{cite book|和書|title=明解入門流体力学|editor=杉山弘|year=2012|publisher=森北出版|isbn= 9784627674110}}</ref>を伴うことがある。

== 剥離と後流領域 ==
物体表面に沿う流れ(主流)が物体から剥がれ、そのまま閉じずに流れ去る場合には顕著な後流領域が形成される。この領域の流体は物体にひきずられて移動し、さらに後方から流体を引き込むことになる。剥離した流れが物体の近くで合流して領域が閉じている場合は後流と呼ばれないことがある。

物体側にとっては流体をひっぱることになるため抗力が生じる。この抗力の規模はおおむね後流領域に触れている面積に依存する。

強風が吹いているときに建物の風下だけ静かな場合それが後流領域である。

領域の中は剥離した主流との摩擦により旋回流が生じ、物体表面上ででみると後方から前方へ向かう逆流となっている。


==粘性による後流の効果==
==粘性による後流の効果==
物体が周囲の流体に対して相対運動する際、物体の進行方向前側から後ろ側へ物体の表面に沿って流動が生じる。物体が通り過ぎた後には物体と流体との摩擦や物体に押しのけられた痕跡が多数の渦として現れる。背後下流側に生じる乱れた領域を指す。物体に沿った[[流体]]の流れから生じ、[[乱流]]となることもある。
物体が周囲の流体に対して相対運動する際、物体の進行方向前側から後ろ側へ物体の表面に沿って流動が生じる。物体が通り過ぎた後には物体と流体との摩擦や物体に押しのけられた痕跡が多数の渦として現れる。→カルマン渦列


この物体背後に生じる乱れも後流という。おもに物体後方のよどみ点から生じる。[[乱流]]となることもある。
==== 剥離と後流 ====
物体表面に沿う流れが物体から剥がれた場合には顕著な後流領域が形成される。この領域の流体はあたかも物体と一体化したかのように移動する。強風が吹いているときに建物の風下が静かな場合がありそれが後流である。


[[音速]]以下の流速を持つ外部流れの中に鈍い形の物体を置くと、大きく[[境界層#境界層剥離|境界層剥離]]が起こり、後流は物体に向けて流体が流れる逆流領域となる。そのような物体の例には[[アポロ宇宙船]]や[[オリオン (宇宙船)|オリオン宇宙船]]の降下・着陸用[[再突入カプセル|カプセル]]がある。この現象は航空機の[[風洞]]試験でもしばしば発生する。また[[パラシュート]]でも重要であり、ラインが短すぎてキャノピー(傘)を逆流領域の外に出すことができなれば、パラシュートは開かずに潰れてしまう可能性がある。後流の中へ展開されたパラシュートは、[[動圧]]が不足するため、本来受けるはずの[[抗力]]が減少する。
[[音速]]以下の流速を持つ外部流れの中に鈍い形の物体を置くと、大きく[[境界層#境界層剥離|境界層剥離]]が起こり。そのような物体の例には[[アポロ宇宙船]]や[[オリオン (宇宙船)|オリオン宇宙船]]の降下・着陸用[[再突入カプセル|カプセル]]がある。この現象は航空機の[[風洞]]試験でもしばしば発生する。また[[パラシュート]]でも重要であり、ラインが短すぎてキャノピー(傘)を逆流領域の外に出すことができなれば、パラシュートは開かずに潰れてしまう可能性がある。後流の中へ展開されたパラシュートは、[[動圧]]が不足するため、本来受けるはずの[[抗力]]が減少する。


[[計算流体力学]](数値シミュレーション)において後流のモデル化がしばしば企てられる。非定常性や、[[乱流モデル]]([[乱流モデル#RANS(レイノルズ平均モデル)|レイノルズ平均モデル]]([[:en:Reynolds-averaged Navier–Stokes equations|英語版]])と[[乱流モデル#LES(ラージエディシミュレーション)|ラージエディシミュレーション]]([[:en:Large eddy simulation|英語版]])など)による不確かさを避けられない。適用対象としては、多段ロケットの分離や、航空機からの懸架装備<!--原文aircraft store-->の分離などがある。
[[計算流体力学]](数値シミュレーション)において後流のモデル化がしばしば試みられる。非定常性や、[[乱流モデル]]([[乱流モデル#RANS(レイノルズ平均を施した方程式)|レイノルズ平均モデル]]([[:en:Reynolds-averaged Navier–Stokes equations|英語版]])と[[乱流モデル#LES(ラージエディシミュレーション)|ラージエディシミュレーション]]([[:en:Large eddy simulation|英語版]])など)による不確かさを避けられない。適用対象としては、多段ロケットの分離や、航空機からの懸架装備<!--原文aircraft store-->の分離などがある。


[[File:Karmansche Wirbelstr kleine Re.JPG|thumb|400px|left|空気中で円筒の後流に発生した[[カルマン渦]]。円筒の近くの空気にオイルミストを発生させることで{{仮リンク|流れの可視化|label=流れを可視化|en|Flow visualization}}したもの。]]
[[File:Karmansche Wirbelstr kleine Re.JPG|thumb|400px|left|空気中で円筒の後流に発生した[[カルマン渦]]。円筒の近くの空気にオイルミストを発生させることで{{仮リンク|流れの可視化|label=流れを可視化|en|Flow visualization}}したもの。]]

2022年9月20日 (火) 05:04時点における最新版

回転する円筒の周りで流体が流れている様子。円筒の背後の小さな渦の集団が後流領域を示す。(ここでは乱流を前提としているため小さな渦の集団が描かれている。)

流体力学において、後流(こうりゅう)もしくは伴流(はんりゅう、: wake)とは、物体が流体中や水面近くなどを移動する際に、流れにさらされた物体の風下に現れる、

  1. 流体が、物体にひきずられて一緒に動く領域[1] ないしは
  2. 物体が通過した後の痕跡である渦集団や波といった流動 のこと。

1は境界層剥離を伴い、流体塊に働く慣性と粘性のバランスによって生じる。鈍い物体(流線型ではない物体)では顕著である。

1と2のいずれも乱流遷移を伴うことがある。また、流速の低下[2]を伴うことがある。

剥離と後流領域[編集]

物体表面に沿う流れ(主流)が物体から剥がれ、そのまま閉じずに流れ去る場合には顕著な後流領域が形成される。この領域の流体は物体にひきずられて移動し、さらに後方から流体を引き込むことになる。剥離した流れが物体の近くで合流して領域が閉じている場合は後流と呼ばれないことがある。

物体側にとっては流体をひっぱることになるため抗力が生じる。この抗力の規模はおおむね後流領域に触れている面積に依存する。

強風が吹いているときに建物の風下だけ静かな場合それが後流領域である。

領域の中は剥離した主流との摩擦により旋回流が生じ、物体表面上ででみると後方から前方へ向かう逆流となっている。

粘性による後流の効果[編集]

物体が周囲の流体に対して相対運動する際、物体の進行方向前側から後ろ側へ物体の表面に沿って流動が生じる。物体が通り過ぎた後には物体と流体との摩擦や物体に押しのけられた痕跡が多数の渦として現れる。→カルマン渦列

この物体背後に生じる乱れも後流という。おもに物体後方のよどみ点から生じる。乱流となることもある。

音速以下の流速を持つ外部流れの中に鈍い形の物体を置くと、大きく境界層剥離が起こり。そのような物体の例にはアポロ宇宙船オリオン宇宙船の降下・着陸用カプセルがある。この現象は航空機の風洞試験でもしばしば発生する。またパラシュートでも重要であり、ラインが短すぎてキャノピー(傘)を逆流領域の外に出すことができなれば、パラシュートは開かずに潰れてしまう可能性がある。後流の中へ展開されたパラシュートは、動圧が不足するため、本来受けるはずの抗力が減少する。

計算流体力学(数値シミュレーション)において後流のモデル化がしばしば試みられる。非定常性や、乱流モデルレイノルズ平均モデル英語版)とラージエディシミュレーション英語版)など)による不確かさを避けられない。適用対象としては、多段ロケットの分離や、航空機からの懸架装備の分離などがある。

空気中で円筒の後流に発生したカルマン渦。円筒の近くの空気にオイルミストを発生させることで流れを可視化英語版したもの。

脚注[編集]

  1. ^ V. L. Streeter 著「後流」、講談社出版研究所 編『世界科学大事典』 6巻、講談社、1977-1985、146頁。 
  2. ^ 杉山弘 編『明解入門流体力学』森北出版、2012年。ISBN 9784627674110 

関連項目[編集]