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「綸言汗の如し」の版間の差分

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'''綸言汗の如し'''(りんげんあせのごとし)は、[[皇帝]]が一旦発した言葉(綸言)は取り消したり訂正することができないという[[中国]]歴史上の[[格言]]。
'''綸言汗の如し'''(りんげんあせのごとし)は、[[皇帝]]が一旦発した言葉(綸言)は取り消したり訂正することができないという[[中国]]歴史上の[[格言]]。


「綸言」の出典は[[孔子]]の[[礼記]]緇衣篇である。原文では「王言如絲,其出如綸;王言如綸,其出如綍」<ref>[http://chinese.dsturgeon.net/text.pl?node=10342&if=gb 中國哲學書電子化計劃]</ref>となっており、王のちょっとした言葉(=細い糸)が重い意味(=太い糸)を持つとの教訓である<ref>[http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?enc=UTF-8&p=%E7%B6%B8%E8%A8%80&stype=1&dtype=0 Yahoo!Japan辞書 大辞泉「綸言」]</ref>。
「綸言」の出典は[[孔子]]の[[礼記]]緇衣篇である。原文では「王言如絲,其出如綸;王言如綸,其出如綍」<ref>[http://ctext.org/liji/zi-yi/zh 中國哲學書電子化計劃]</ref>となっており、王のちょっとした言葉細い糸が重い意味太い糸を持つとの教訓である<ref>[http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?enc=UTF-8&p=%E7%B6%B8%E8%A8%80&stype=1&dtype=0 Yahoo!Japan辞書 大辞泉「綸言」]</ref>。


「汗の如し(如汗)」の出典は[[漢書]]劉向伝であり<ref>[http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?dtype=2&p=%E5%C5%B8%C0%B4%C0%A4%CE%C7%A1%A4%B7 Yahoo!Japan辞書 大辞泉「綸言汗の如し」]</ref>、原文は「言号令如汗,汗出而不反者也」である<ref>[http://www.hoolulu.com/zh/25shi/02qianhanshu/t-036.htm www.hoolulu.com]</ref>。
「汗の如し如汗」の出典は[[漢書]]』[[劉向]]伝であり<ref>[http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?dtype=2&p=%E5%C5%B8%C0%B4%C0%A4%CE%C7%A1%A4%B7 Yahoo!Japan辞書 大辞泉「綸言汗の如し」]</ref>、原文は「言号令如汗,汗出而不反者也」である<ref>[[s:zh:漢書/036|『漢書』巻36・楚元王伝]](ウィキソース中国語版)。</ref>。


== 概要 ==
== 概要 ==
古来、皇帝など国家の支配者の発言は神聖であり絶対無謬性を有するとされ、臣下が疑念や異議を差し挟むことは不敬とされた。

このため、一旦皇帝から発せられた言葉は仮に誤りがあっても、それを訂正することは皇帝が自らの絶対無誤謬性を否定することになり、皇帝の権威を貶めてしまうため[[タブー]]とされた。


古来より、皇帝など国家の支配者の発言は神聖であり絶対無謬性を有するとされ、臣下が疑念や異議を差し挟むことは不敬とされた。
このため、一旦皇帝より発せられた言葉は仮に誤りがあっても、それを訂正することは皇帝が自らの絶対無誤謬性を否定することになり、皇帝の権威を貶めてしまうため[[タブー]]とされた。
このため、「綸言汗の如し」(皇帝の発言は、かいてしまった[[汗]]のように体に戻すことができない)という古典典籍の言葉を引用、格言として軽率な発言やその訂正を戒めた。
このため、「綸言汗の如し」(皇帝の発言は、かいてしまった[[汗]]のように体に戻すことができない)という古典典籍の言葉を引用、格言として軽率な発言やその訂正を戒めた。


この慣例は発言のみならず文書にも適用され、[[清]]の[[乾隆帝]]が先に入手した[[黄公望]]の「[[富春山居図]]」模本に賛を記入してしまったため、後に入手した真本に賛を入れることが出来なかったという故事が残されている。
この慣例は発言のみならず文書にも適用され、[[清]]の[[乾隆帝]]が先に入手した[[黄公望]]の「[[富春山居図]]」模本に[[画|賛]]を記入してしまったため、後に入手した真本に賛を入れることができなかったという故事が残されている。


== 日本での受容 ==
== 日本での受容 ==
[[鎌倉時代]]に成立したとわれる『[[平家物語]]』の『頼豪(らいごう)』に、[[三井寺]]の僧、頼豪が[[白河天皇]]を評して「てんしには たはぶれの ことば なし。'''りんげん あせのごとし'''とこそ うけたまはつて さふらへ<ref>[http://www.j-texts.com/ 日本文学電子図書館]</ref>」(天子には戯れの言葉は無い。「綸言汗の如し」とうではないか)と言ったと書かれている。
[[鎌倉時代]]に成立したとわれる『[[平家物語]]』の『頼豪(らいごう)』に、[[三井寺]]の僧、[[頼豪]]が[[白河天皇]]を評して「てんしには たはぶれの ことば なし。'''りんげん あせのごとし'''とこそ うけたまはつて さふらへ<ref>[http://www.j-texts.com/ 日本文学電子図書館]</ref>」(天子には戯れの言葉は無い。「綸言汗の如し」とうではないか)と言ったと書かれている。


[[室町時代]]に成立した『[[太平記]]』巻第十四・『将軍御進発大渡・山崎等合戦事』には「かく計たらさせ給ふ'''綸言の汗の如く'''になどなかるらん去程に正月七日に、義貞内裏より退出して軍勢の手分あり」との記述がある<ref>[http://j-texts.com/sheet/thkm.html 太平記・国民文庫本・全巻]</ref>。
また、[[明治時代]]に編纂された事典『[[古事類苑]]』にも「綸言如汗」の項が作られている<ref>[http://base1.nijl.ac.jp/~kojiruien/ 電子化古事類苑]</ref>。


[[明治時代]]に編纂された事典『[[古事類苑]]』にも「綸言如汗」の項が作られている<ref>[http://base1.nijl.ac.jp/~kojiruien/ 電子化古事類苑]</ref>。
== 類似の事例 ==


== 拡大解釈 ==
なお、この格言の意図は中国の皇帝に限らず、君主の態度としてある程度普遍的な考えであり、[[ローマ法王]]にも同様の暗黙のルールが存在する。
現在では、この格言の対象は中国の皇帝に限らず、政治家、軍の指揮官、企業や公的機関の管理職など、責任ある立場の人物が発言する際従うべき模範として使用されている。


== 注釈、出典 ==
== 出典 ==
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2022年10月6日 (木) 16:39時点における最新版

綸言汗の如し(りんげんあせのごとし)は、皇帝が一旦発した言葉(綸言)は取り消したり訂正することができないという中国歴史上の格言

「綸言」の出典は孔子の『礼記』緇衣篇である。原文では「王言如絲,其出如綸;王言如綸,其出如綍」[1]となっており、王のちょっとした言葉(絲:細い糸)が重い意味(綸:太い糸)を持つとの教訓である[2]

「汗の如し(如汗)」の出典は『漢書劉向伝であり[3]、原文は「言号令如汗,汗出而不反者也」である[4]

概要

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古来、皇帝など国家の支配者の発言は神聖であり絶対無謬性を有するとされ、臣下が疑念や異議を差し挟むことは不敬とされた。

このため、一旦皇帝から発せられた言葉は仮に誤りがあっても、それを訂正することは皇帝が自らの絶対無誤謬性を否定することになり、皇帝の権威を貶めてしまうためタブーとされた。

このため、「綸言汗の如し」(皇帝の発言は、かいてしまったのように体に戻すことができない)という古典典籍の言葉を引用、格言として軽率な発言やその訂正を戒めた。

この慣例は発言のみならず文書にも適用され、乾隆帝が先に入手した黄公望の「富春山居図」模本にを記入してしまったため、後に入手した真本に賛を入れることができなかったという故事が残されている。

日本での受容

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鎌倉時代に成立したといわれる『平家物語』の『頼豪(らいごう)』に、三井寺の僧、頼豪白河天皇を評して、「てんしには たはぶれの ことば なし。りんげん あせのごとしとこそ うけたまはつて さふらへ[5]」(天子には戯れの言葉は無い。「綸言汗の如し」というではないか)と言ったと書かれている。

室町時代に成立した『太平記』巻第十四・『将軍御進発大渡・山崎等合戦事』には「かく計たらさせ給ふ綸言の汗の如くになどなかるらん去程に正月七日に、義貞内裏より退出して軍勢の手分あり」との記述がある[6]

明治時代に編纂された事典『古事類苑』にも、「綸言如汗」の項が作られている[7]

拡大解釈

[編集]

現在では、この格言の対象は中国の皇帝に限らず、政治家、軍の指揮官、企業や公的機関の管理職など、責任ある立場の人物が発言する際従うべき模範として使用されている。

脚注・出典

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  1. ^ 中國哲學書電子化計劃
  2. ^ Yahoo!Japan辞書 大辞泉「綸言」
  3. ^ Yahoo!Japan辞書 大辞泉「綸言汗の如し」
  4. ^ 『漢書』巻36・楚元王伝(ウィキソース中国語版)。
  5. ^ 日本文学電子図書館
  6. ^ 太平記・国民文庫本・全巻
  7. ^ 電子化古事類苑