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「陽電子放出」の版間の差分

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'''陽電子放出'''(ようでんしほうしゅつ、{{lang-en-short|positron emission}})は[[ベータ崩壊]]の一種。この過程において、陽子は弱い力を通して[[中性子]]、[[陽電子]]、[[ニュートリノ]]に転換される。陽電子はベータプラス粒子として知られている[[電子]]の反物質である。このため、この放出過程は時に"ベータプラス"(β+)として言及される。
'''陽電子放出'''ようでんしほうしゅつ、{{lang-en-short|positron emission}})、また'''正のβ崩壊'''(せいのベータほうかい、{{lang-en-short|beta plus decay|links=no}})とは、[[ベータ崩壊]]の一種。この過程において、[[陽子]][[弱い相互作用|弱い力]]を通して[[中性子]]、[[陽電子]]、[[ニュートリノ]]に転換される。陽電子は[[ベータ粒子|ベータプラス粒子]]として知られている[[電子]]の[[粒子]]である。このため、この放出過程は時に'''ベータプラス''' (β+) として言及される。


この崩壊を行い、それに伴陽電子を放出する同位体には[[炭素の同位体|炭素11]]、[[カリウムの同位体|カリウム40]]、[[窒素の同位体|窒素13]]、[[酸素の同位体|酸素15]]、[[フッ素の同位体|フッ素18]]、[[ヨウ素の同位体|ヨウ素121]]などがげられる。例として、炭素11から[[ホウ素の同位体|ホウ素11]]の崩壊が上げられ、下記の式のように表すことができる。
この崩壊を行い、それに伴って陽電子を放出する[[同位体]]には[[炭素の同位体|炭素11]]、[[カリウムの同位体|カリウム40]]、[[窒素の同位体|窒素13]]、[[酸素の同位体|酸素15]]、[[フッ素18]]、[[ヨウ素の同位体|ヨウ素121]]などがげられる。例として、炭素11から[[ホウ素の同位体|ホウ素11]]の崩壊が上げられ、下記の式のように表すことができる。
: <chem>_6^{11}C -> _5^{11}B\ + \mathit{e}^+\ + \nu_{\mathit{e}}\ +</chem> <math>\rm 0.96\ MeV</math>


これらの同位体は[[ポジトロン断層法|陽電子断層法]](PET検査)に使われ、この手法は[[医用画像]]処理に使われている。特徴的であるのは放たれるエネルギーが崩壊する同位体に依存していることである。上記のように炭素11の1個の崩壊では0.96[[電子ボルト| MeV]]が発生し、これは炭素11にのみ当する。
<math> _6^{11}C \to _5^{11}B\;+\;{e^+}+\;\nu_e + 0.96 MeV</math>


中性子と陽子の中には、[[クォーク]]と[[ニュートリノ]]と呼ばれる[[素粒子]]が存在する。これらの粒子には[[アップクォーク]]と[[ダウンクォーク]]がある。ひとつの陽子、中性子に対してクォークは常に3つ入っており、これの組み合わせにより中性子か陽子かという特性を得る。アップクォークは3分の2の電荷で、ダウンクォークは-3分の1の電荷である。陽子ではアップクォーク2個、ダウンクォーク1個であり電荷は2/3 + 2/3 - 1/3 = 1となっている。中性子ではアップクォーク1個、ダウンクォーク2個であり電荷は2/3 - 1/3 - 1/3 = 0となっている。クォークはアップクォークからダウンクォークに変できる。ベータ線を発生させるのはこの変化であり、陽電子放出はアップクォークがダウンクォークに変化する際に起こる。
中性子と陽子の中には、[[クォーク]]と呼ばれる[[素粒子]]が存在する。中性と陽子の中にあるクォークには[[アップクォーク]]と[[ダウンクォーク]]がある。1つの陽子、中性子に対してクォークは常に3つ入っており、これの組み合わせにより中性子か陽子かという特性を得る。アップクォークは3分の2の電荷で、ダウンクォークは-3分の1の電荷である。陽子ではアップクォーク2個、ダウンクォーク1個であり電荷は2/3 + 2/3 - 1/3 = 1となっている。中性子ではアップクォーク1個、ダウンクォーク2個であり電荷は2/3 - 1/3 - 1/3 = 0となっている。クォークはダウンクォークからアップクォークに変でき、負β崩壊(β<sup>&minus;</sup>崩壊)はこの変化である。陽電子放出はアップクォークがダウンクォークに変化する際に起こる。


陽電子放出によって崩壊する核は[[電子捕獲]]によって崩壊することもあるかもしれない。低エネルギーでの崩壊に対しては、最終的な状態は陽電子を加えるよりも電子を取り除く方になる、2''m''<sub>e</sub>''c''<sup>2</sup> = 1.022&nbsp;MeV近辺では電子捕獲が優先される。崩壊のエネルギーが上昇すれば、分岐比も陽電子放に向かうが、エネルギー差が2''m''<sub>e</sub>''c''<sup>2</sup>よりも少なければ陽電子放は起こりえず、電子捕獲が唯一の崩壊方式となる。
これらの[[同位体]]は[[陽電子断層法]]に使われ、この手法は[[医用画像処理]]に使われている。特徴的であるのは放たれるエネルギーが崩壊する同位体に依存していることである。上記のように炭素11の個の崩壊では0.96[[電子ボルト| MeV]]が発生し、これは炭素11にのみ当てはまる。陽子から中性子への変化の元で体積が増減する同位体は自然には陽電子崩壊で崩壊しない


[[ベリリウムの同位体|ベリリウム7]]のように一定の同位体は[[宇宙線]]としては安定している。なぜなら電子が剥げており、陽電子放には崩壊エネルギーが小さすぎるからである。
陽電子放出によって崩壊する核はたいてい[[電子捕獲]]を経てさらに崩壊する。低エネルギーでの崩壊のため、2''m''<sub>e</sub>''c''<sup>2</sup> = 1.022&nbsp;MeVによって電子捕獲が優先され、以降では最終的な状態まで陽電子を加えよりも電子を取り除く方向に働く。崩壊のエネルギーが上昇すれば、分岐比も陽電子放に向かうが、エネルギー差が2''m''<sub>e</sub>''c''<sup>2</sup>よりも少なければ陽電子放は起こりえず、電子捕獲が唯一の崩壊方式となる。


陽子から中性子への変化の下で質量が増えるような、あるいは減少値が2''m''<sub>e</sub>より小さいような質量の減り方をする同位体は、自然には陽電子崩壊で崩壊しえない。
[[ベリリウムの同位体|ベリリウム7]]のように一定の同位体は宇宙線の中でも安定している。なぜなら電子が剥げており、陽電子放には崩壊エネルギーが小さすぎるからである。


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2022年12月18日 (日) 09:32時点における最新版

陽電子放出(ようでんしほうしゅつ、: positron emission)、または正のβ崩壊(せいのベータほうかい、英: beta plus decay)とは、ベータ崩壊の一種。この過程において、陽子弱い力を通して中性子陽電子ニュートリノに転換される。陽電子はベータプラス粒子として知られている電子反粒子である。このため、この放出過程は時にベータプラス (β+) として言及される。

この崩壊を行い、それに伴って陽電子を放出する同位体には炭素11カリウム40窒素13酸素15フッ素18ヨウ素121などが挙げられる。例として、炭素11からホウ素11への崩壊が上げられ、下記の式のように表すことができる。

これらの同位体は陽電子断層法(PET検査)に使われ、この手法は医用画像処理に使われている。特徴的であるのは放たれるエネルギーが崩壊する同位体に依存していることである。上記のように、炭素11の1個の崩壊では0.96 MeVが発生し、これは炭素11にのみ該当する。

中性子と陽子の中には、クォークと呼ばれる素粒子が存在する。中性子と陽子の中にあるクォークにはアップクォークダウンクォークがある。1つの陽子、中性子に対してクォークは常に3つ入っており、これの組み合わせにより、中性子か陽子かという特性を得る。アップクォークは3分の2の電荷で、ダウンクォークは-3分の1の電荷である。陽子ではアップクォーク2個、ダウンクォーク1個であり、電荷は2/3 + 2/3 - 1/3 = 1となっている。中性子ではアップクォーク1個、ダウンクォーク2個であり、電荷は2/3 - 1/3 - 1/3 = 0となっている。クォークはダウンクォークからアップクォークに変化でき、負のβ崩壊(β崩壊)はこの変化である。陽電子放出は、アップクォークがダウンクォークに変化する際に起こる。

陽電子放出によって崩壊する核は、電子捕獲によって崩壊することもあるかもしれない。低エネルギーでの崩壊に対しては、最終的な状態は陽電子を加えるよりも電子を取り除く方になるので、2mec2 = 1.022 MeV近辺では電子捕獲が優先される。崩壊のエネルギーが上昇すれば、分岐比も陽電子放出に向かうが、エネルギー差が2mec2よりも少なければ陽電子放出は起こりえず、電子捕獲が唯一の崩壊方式となる。

ベリリウム7のように、一定の同位体は宇宙線としては安定している。なぜなら電子が剥げており、陽電子放出には崩壊エネルギーが小さすぎるからである。

陽子から中性子への変化の下で質量が増えるような、あるいは減少値が2meより小さいような質量の減り方をする同位体は、自然には陽電子崩壊で崩壊しえない。