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「対称双線型形式」の版間の差分

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[[線型代数学]]における'''対称双線型形式'''(たいしょうそうせんけいけいしき、{{lang-en-short|symmetric bilinear form, symmetric bilinear functional}})は、[[ベクトル空間]]上の対称な[[双線型形式]]を言う。平たくば、ベクトル空間の[[標準内積]]を一般化した概念である。対称双線型形式は、直交極性や[[二次曲面 (射影幾何学)|二次曲面]]の研究に非常に重要である。
{{複数の問題<!-- |technical = September 2011 -->|参照方法 = September 2011|出典の明記 = February 2010}}
[[線型代数学]]における'''対称双線型形式'''(たいしょうそうせんけいけいしき、{{lang-en-short|symmetric bilinear form}})は、[[ベクトル空間]]上の対称な[[双線型形式]]を言う。より簡単ない方をすれば、ベクトル空間の元の対をその[[係数体]]の元へ写すような写像であって、その対の成分並べる順番がその対がどの元へ写るかに影響を及ぼさないようなものである。対称双線型形式は、直交極性や[[二次曲面 (射影幾何学)|二次曲面]]の研究に非常に重要である。


文脈上、双線型形式について述べていると明らかな場合は、単に短く'''対称形式'''と呼ぶこともある。対称双線型形式は[[二次形式]]と近しい関係にあり、この両者の差異に関する詳細は{{仮リンク|ε-二次形式|en|ε-quadratic form}}の項目を参照。
文脈上、双線型形式について述べていると明らかな場合は、単に短く'''対称形式'''と呼ぶこともある。対称双線型形式は[[二次形式]]と近しい関係にあり、この両者の差異に関する詳細は{{仮リンク|ε-二次形式|en|ε-quadratic form}}の項目を参照。


== 定義 ==
== 定義 ==
{{math|''V''}} を体 {{math|''K''}} 上の {{math|''n''}}-次元ベクトル空間とする。[[写像]] {{math|''B'': ''V'' &times; ''V'' &rarr; ''K''; (''u'',''v'') ↦ ''B''(''u'',''v'')}} が、{{math|''V''}} 上で称双線型形式とは、次の条件を満たすことである。
{{mvar|V}} を体 {{mvar|K}} 上の有限次元[[ベクトル空間]]とする。[[写像]] {{math|''b'' : ''V'' &times; ''V'' &rarr; ''K''}} が、{{mvar|V}} 上の[[双線型形式]]であるとは、すべての[[ベクトル]]{{要曖昧さ回避|date=2021年7月}} {{math|''u'', ''v'', ''w'' &isin; ''V''}} と[[スカラー (数学)|スカラー]] {{math|''&lambda;'' &isin; ''K''}} して次の3条件を満たすことである。
* [[対称函数|対称性]]: <math>B(u,v)=B(v,u) \quad(\forall u,v \in V)</math>
* <math>b(u + v, w) = b(u, w) + b(v, w)</math>
* 第一引数に関する[[加法的函数|加法性]]: <math>B(u+v,w)=B(u,w)+B(v,w)\quad (\forall u,v,w \in V)</math>
* <math>b(u, v + w) = b(u, v) + b(u, w) </math>
* 第一引数に関する[[斉次函数|斉次性]]: <math>B(\lambda v,w)=\lambda B(v,w)\quad (\forall \lambda \in K,\forall v,w \in V)</math>
* <math>b(\lambda u, v) = \lambda b(u, v) = b(u, \lambda v)</math>
これらの3条件に加えて条件
* <math>b(u, v) = b(v, u)</math>
を満たすとき {{math|''b'' : ''V'' &times; ''V'' &rarr; ''K''}} を'''対称双線型形式'''という{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=1|1}}|loc=Definition 1.1}}。


== 具体例 ==
後ろ二つの条件は、{{math|''B''}} が第一引数に関して[[線型性|線型]]であることを言うものでしかないが、最初の条件より直ちに第二引数に関する線型性も従う。すなわち、対称双線型形式 {{math|''B''}} は[[双線型写像]](特に[[双線型形式]])である。
平面 {{math|'''''R'''''<sup>2</sup>}} のベクトル {{math|''x'' {{=}} (''x''<sub>1</sub>, ''x''<sub>2</sub>)}} と {{math|''y'' {{=}} (''y''<sub>1</sub>, ''y''<sub>2</sub>)}} に対して
: <math> b(x, y) = x_1 y_1 + x_2 y_2 </math>
で定まる[[標準内積]] {{math|''b'' : '''''R'''''<sup>2</sup> &times; '''''R'''''<sup>2</sup> &rarr; '''''R'''''}} は対称双線型形式である。また
: <math> b'(x, y) = x_1 y_1 - x_2 y_2 </math>
で定まる写像 {{math|''b&prime;'' : '''''R'''''<sup>2</sup> &times; '''''R'''''<sup>2</sup> &rarr; '''''R'''''}} や
: <math> b_0(x, y) = 0 </math>
で定まる自明な写像 {{math|''b''<sub>0</sub> : '''''R'''''<sup>2</sup> &times; '''''R'''''<sup>2</sup> &rarr; '''''R'''''}} なども対称双線型形式である。


== 行列表現 ==
== 表現行列 ==
{{math|''C'' {{=}} {''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}} を {{math|''V''}} の基底とし、対称双線型形式 {{math|''B''}} に対して {{math|''n'' × ''n''}} 行列 {{math|''A'' {{=}} (''a''<sub>''ij''</sub>)}} を
有限次元ベクトル空間 {{math|''V''}} の[[基底 (線型代数学)|基底]] {{math|''E'' {{=}} {{mset|''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}}} をひとつ固定する。このとき {{mvar|V}} の双線型形式 {{math|''b''}} に対して {{mvar|n}} 次正方行列 {{math|''B'' {{=}} (''b''<sub>''ij''</sub>)}} を
: <math>a_{ij} = B(e_{i},e_{j})</math>
: <math>b_{ij} = b(e_i, e_j)</math>
で定義するとき、{{math|''A''}} 基底 {{math|''C''}} に関して双線型形式 {{math|''B''}} を'''表現する行列'''という。この行列 {{math|''A''}} は、双線型形式 {{math|''B''}} が対称であるというまさにそのを以って、[[対称行列]]である。{{math|''n'' × 1}} 行列 {{math|''x''}} がこの基底に関してベクトル {{math|''v''}} を表し、同じく {{math|''y''}} {{math|''w''}} を表すならば、{{math|''B''(''v'',''w'')}} は
で定義する。これを双線型形式 {{mvar|b}} 基底 {{mvar|E}} に関する'''表現行列'''という。表現行列 {{mvar|B}} は、双線型形式 {{mvar|b}} が対称であるとき、かつそのときに限り[[対称行列]]である{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=4|4}}}}ベクトル {{math|''u'' {{=}} {{subsup|&sum;|''i'' {{=}} 1|''n''}} ''u<sub>i</sub> e<sub>i</sub>'', ''v'' {{=}} {{subsup|&sum;|''j'' {{=}} 1|''n''}} ''v<sub>j</sub> e<sub>j</sub>'' &isin; ''V''}} に対して値 {{math|''b''(''u'', ''v'')}} は表現行列 {{mvar|B}} を用いて
: <math>x^{\top}\!A y=y^{\top}\!A x</math>
: <math>b(u, v) = [u_1, \dotsc, u_n] B \begin{bmatrix}v_1\\ \vdots\\ v_n\end{bmatrix}</math>
と表される。逆に(対称)行列 {{mvar|B}} が与えられると(対称)双線型形式 {{mvar|b}} が上の関係式から定まる。
により与えられる。{{math|''C'''}} を {{math|''V''}} の別な基底として、正則行列 {{math|''S''}} は {{math|(''e''<sub>1</sub>' … ''e''<sub>''n''</sub>') {{=}} (''e''<sub>1</sub> … ''e''<sub>''n''</sub>)''S''}} を満たすもの([[基底変換]])とすれば、対称双線型形式 {{math|''B''}} のこの新たな基底 {{math|''C''&prime;}} に関する行列表現は

: <math>A' =S^{\top}\!A S</math>
新たな基底 {{math|''E&prime;'' {{=}} {{mset|''e&prime;''<sub>1</sub>, …, ''e&prime;''<sub>''n''</sub>}}}} をとり、基底の変換行列 {{math|''S'' {{=}} (''s<sub>ij</sub>'')}} が {{math|''e&prime;''<sub>''j''</sub> {{=}} {{subsup|&sum;|''i'' {{=}} 1|''n''}} ''s<sub>ij</sub> e<sub>i</sub>''}} で与えられているとする。このとき、 双線型形式 {{mvar|b}} の基底 {{mvar|E&prime;}} に関する表現行列 {{mvar|B&prime;}} は
で与えられる。
: <math>B' =S^{\top}\!B S</math>
で与えられる{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=5|5}}|loc=Lemma 2.1}}。

== 二次形式 ==
{{mvar|V}} 上の対称双線型形式 {{math|''b''}} に対して {{math|''q'' : ''V'' &rarr; ''K''}} を
: <math> q(v) = b(v, v) \qquad (v \in V)</math>
で定める。これを {{mvar|V}} 上の[[二次形式]]という。
{{節スタブ}}


== 直交性と特異性 ==
== 直交性と特異性 ==
対称双線型形式は、常に{{仮リンク|反射的双線型形式|label=反射的|en|bilinear form#Reflexive bilinear form}}である。つのベクトル {{math|''v''}} {{math|''w''}} が双線型形式 {{math|''B''}} に関して直交するとは{{math|1=''B''(''v'', ''w'') = 0}} となること(反射性よりこれは {{math|1=''B''(''w'', ''v'') = 0}} と同値)と定義さ
双線型形式は対称ならば[[反射的双線型形式|反射的]]である。ふたつのベクトル {{math|''v'', ''w'' &isin; ''V''}} が {{mvar|V}} 上の対称双線型形式 {{mvar|b}} に関して'''直交する'''とは {{math|1=''b''(''v'', ''w'') = 0}} が成り立つことをいう。(反射性よりこれは {{math|1=''b''(''w'', ''v'') = 0}} と同値を記号 {{math|''v'' &perp; ''w''}} で表す{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=2|2}}|loc=Definition 1.2}}


双線型形式 {{math|''B''}} の'''根基''' (''radical'') とは、{{math|''V''}} に属る全てのベクトルと({{math|''B''}} に関して)直交するベクトル全体の成す集合を言う。これが {{math|''V''}} の部分空間となることは、{{math|''B''}} がその各引数に関して線型であるこから従う。適当な基底関する行列表現 {{math|''A''}} を用いて述べれば、ベクトル {{math|''v''}} 根基に属するための必要十分条件は、{{math|''v''}} をこの基底に関して表現す行列を {{math|''x''}} として
部分集合 {{math|''X'' &sube; ''V''}} に対して {{mvar|X}} てのベクトルと直交するベクトル全体からなる集合を {{math|''X''<sup>&perp;</sup>}} と表す{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=2|2}}|loc=Definition 1.2}}。これは {{mvar|V}} の部分空間となる{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=2|2}}|loc=Lemma 1.3}}。に {{math|''V''<sup>&perp;</sup>}} は対称双線型形式 {{math|''b''}} の'''根基''' (''radical'') と呼ばれる{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=7|7}}}}。
ベクトル {{mvar|v}} が根基に属するための必要十分条件は、適当な基底 {{mvar|E}} に関する表現行列 {{mvar|B}} を用いて述べれば、{{mvar|v}} を {{mvar|E}} に関して列ベクトルと同一視したとき <math>Bv = 0</math> が成り立つことである。これは <math>v^{\top} B = 0</math> とも同値である。
: <math>A x = 0 \implies x^{\top} A = 0</math>
が成り立つことである。
行列 {{math|''A''}} が'''特異''' (''singular'') であるとは、その根基が非自明であることを言う。


対称双線型形式 {{mvar|b}} が'''特異''' (''singular'') であるとは、その根基が非自明なことをいう。また対称双線型形式 {{mvar|b}} が[[非退化双線型形式|'''非退化''']]あるいは非特異 (''non-degenerate'', ''non-singular'') であるとは、特異でないことをいう。これは随伴写像
{{math|''V''}} の部分集合 {{math|''W''}} に対し、その'''[[直交補空間]]''' {{math|''W''<sup>⊥</sup>}} は {{math|''W''}} の全てのベクトルと直交する {{math|''V''}} のベクトル全てからなる集合である(これは {{math|''V''}} の部分空間になる)。{{math|''B''}} が非退化ならば {{math|''B''}} の根基は自明である。また {{math|''W''<sup>⊥</sup>}} の次元は {{math|1=dim(''W''<sup>⊥</sup>) = dim(''V'') − dim(''W'')}} である。
:<math> \hat b \colon V \to V^\ast,\ v \mapsto b(v, {-}) </math>
が同型写像であることと同値である{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=7|7}}|loc=Corollary 3.2}}。ただし {{math|''V''*}} は {{mvar|V}} の[[双対空間]] {{math|Hom(''V'', ''K'')}} である。対称双線型形式 {{mvar|b}} が非退化ならば {{mvar|V}} の部分空間 {{mvar|W}} に対し {{math|''W''<sup>⊥</sup>}} の次元は {{math|1=dim ''W''<sup>⊥</sup> = dim ''V'' − dim ''W''}} である{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=9|9}}|loc=Lemma 3.11}}。


== 直交基底 ==
== 直交基底 ==
基底 {{math|''C'' {{=}} {''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}} が {{math|''B''}} に関して直交するとは、
{{mvar|V}} の基底 {{math|''E'' {{=}} {{mset|''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}}} が {{mvar|V}} 上の対称双線型形式 {{mvar|b}} に関して直交するとは、
: <math>B(e_{i},e_{j}) = 0\quad (\forall i \neq j)</math>
: <math>b(e_i, e_j) = 0\quad (\forall i \neq j)</math>
が成り立つことを言う。基礎体の[[標数]]が {{math|2}} でないとき、{{math|''V''}} は常に直交基底を持つ。このことの証明は[[数学的帰納法]]による。
が成り立つことを言う。基礎体の[[標数]]が {{math|2}} でないとき、{{mvar|V}} は常に直交基底を持つ{{sfn|Milnor|Husemoller|1973|p={{google books quote|id=vGPyCAAAQBAJ|page=6|6}}|loc=Corollary 3.4}}{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=7|7}}|loc=Theorem 3.5}}。このことの証明は[[数学的帰納法]]による。


基底 {{math|''C''}} が直交であるための必要十分条件は、その行列表現 {{math|''A''}} が[[対角行列]]となることである。
基底 {{mvar|E}} が {{mvar|b}} に関して直交るための必要十分条件は、その表現行列 {{mvar|B}} が[[対角行列]]となることである。


=== 符号数とシルベスターの慣性法則 ===
=== 符号数とシルベスターの慣性法則 ===
最も一般の場合に{{仮リンク|シルベスターの慣性法則|en|Sylvester's law of inertia}}の主張は[[順序体]] ''K'' 上で意味を持ち、表現行列の対角成分の {{math|0}} である個数、正である個数、負である個数が、直交基底の選択には依存しないことを主張する。これらの 3つの数値は、双線型形式の[[二次形式#実二次形式|符号数]]と呼ばれる。
最も一般の場合に[[シルベスターの慣性法則]]の主張は[[順序体]] ''K'' 上で意味を持ち、表現行列の対角成分の {{math|0}} である個数、正である個数、負である個数が、直交基底の選択には依存しないことを主張する。これらの 3つの数値は、双線型形式の[[二次形式#実二次形式|符号数]]と呼ばれる。


=== 実係数の場合===
=== 実係数の場合===
実数体上の空間を考える場合には、もう少し詳しく述べることができる。{{math|''C'' {{=}} {''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}} を直交基底とする。
実数体上の空間を考える場合には、もう少し詳しく述べることができる。{{math|{{mset|''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}}} を直交基底とする。


新たな直交基底 {{math|(''e''<sub>1</sub>', …, ''e''<sub>''n''</sub>')}} を
新たな直交基底 {{math|{{mset|''e&prime;''<sub>1</sub>, …, ''e&prime;''<sub>''n''</sub>}}}} を
:<math>
:<math>
e'_i = \begin{cases}
e'_i = \begin{cases}
e_i & \text{if } B(e_i,e_i)=0 \\[5pt]
e_i & \text{if } b(e_i,e_i)=0 \\
\frac{e_i}{\sqrt{B(e_i,e_i)}} & \text{if } B(e_i,e_i) >0\\[5pt]
e_i/\sqrt{+b(e_i,e_i)} & \text{if } b(e_i,e_i) >0\\
\frac{e_i}{\sqrt{-B(e_i,e_i)}}& \text{if } B(e_i,e_i) <0
e_i/\sqrt{-b(e_i,e_i)} & \text{if } b(e_i,e_i) <0
\end{cases}
\end{cases}
</math>
</math>
で定義すると、新たな行列表現 {{math|''A''}} は対角線上に {{math|0, 1, −1}} のみを成分に持つ対角行列になる。{{math|0}} が現れるのは、根基が非自明となるときであり、かつそのときに限る。
で定義すると、新たな表現行列 {{math|''B''}} は対角線上に {{math|0, +1, −1}} のみを成分に持つ対角行列になる。{{math|0}} が現れるのは、根基が非自明となるときであり、かつそのときに限る。


=== 複素係数の場合 ===
=== 複素係数の場合 ===
複素数体上の空間を扱う場合も、同様に詳しくしかもより平易な形に述べることができる。{{math|''C'' {{=}} {''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}} を直交基底とする。
複素数体上の空間を扱う場合も、同様に詳しくしかもより平易な形に述べることができる。{{math|{{mset|''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}}} を直交基底とする。


新たな基底 {{math|(''e''<sub>1</sub>', …, ''e''<sub>''n''</sub>')}} を
新たな基底 {{math|{{mset|''e&prime;''<sub>1</sub>, …, ''e&prime;''<sub>''n''</sub>}}}} を
:<math>
:<math>
e'_i = \begin{cases}
e'_i = \begin{cases}
e_i & \text{if }\; B(e_i,e_i)=0 \\
e_i & \text{if }\; b(e_i,e_i)=0 \\
e_i/\sqrt{B(e_i,e_i)} & \text{if }\; B(e_i,e_i) \neq 0\\
e_i/\sqrt{b(e_i,e_i)} & \text{if }\; b(e_i,e_i) \neq 0
\end{cases}
\end{cases}
</math>
</math>
で定義すると、新たな行列表現 {{math|''A''}} は対角線上に {{math|0}} と {{math|1}} のみを成分に持つ対角行列となる。{{math|0}} が現れるのは根基が非自明なときであり、かつそのときに限る。
で定義すると、新たな表現行列 {{math|''B''}} は対角線上に {{math|0}} と {{math|1}} のみを成分に持つ対角行列となる。{{math|0}} が現れるのは根基が非自明なときであり、かつそのときに限る。


== 直交偏極 ==
== 直交偏極 ==
{{出典の明記|date=2017年7月|section=1}}
[[標数]]が {{math|2}} でない体 {{math|''K''}} の上のベクトル空間 {{math|''V''}} 上で定義される、自明な根基を持つ対称双線型形式 {{math|''B''}} に対し、{{math|''V''}} の部分空間全体の成す集合 {{math|D(''V'')}} からそれ自身への写像
[[標数]]が {{math|2}} でない体 {{math|''K''}} の上のベクトル空間 {{math|''V''}} 上で定義される、自明な根基を持つ対称双線型形式 {{math|''b''}} に対し、{{math|''V''}} の部分空間全体の成す集合 {{math|''D''(''V'')}} からそれ自身への写像
: <math>\alpha\colon D(V)\to D(V) ;\; W\mapsto W^{\perp}</math>
: <math>\alpha\colon D(V)\to D(V) ,\; W\mapsto W^{\perp}</math>
を定義することができる。この写像は[[射影空間]] {{math|PG(''W'')}} 上の'''直交極性''' (orthogonal polarity) である。逆に、ての直交極性はこの方法により得られる、自明な根基を持つ二つの対称双線型形式が同じ極性を持つための必要十分条件は、それらがスカラー倍の違いを除いて一致することである。
を定義することができる。この写像は[[射影空間]] {{math|PG(''W'')}} 上の'''直交極性''' (orthogonal polarity) である。逆に、すべての直交極性はこの方法により得られる、自明な根基を持つ二つの対称双線型形式が同じ極性を持つための必要十分条件は、それらがスカラー倍の違いを除いて一致することである。

== 出典 ==
{{reflist|2}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{cite book | last1=Adkins | first1=William A. | last2=Weintraub | first2=Steven H. | title=Algebra: An Approach via Module Theory | series=[[Graduate Texts in Mathematics]] | volume=136 | publisher=[[Springer-Verlag]] | year=1992 | isbn=3-540-97839-9 | zbl=0768.00003 }}
* {{cite book | first1=J. | last1=Milnor | author1-link=John Milnor| first2=D. | last2=Husemoller | title=Symmetric Bilinear Forms | url={{google books|vGPyCAAAQBAJ|plainurl=yes}} | series=Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete | volume=73 | publisher=[[Springer-Verlag]] | year=1973 | isbn=3-540-06009-X | doi=10.1007/978-3-642-88330-9 | mr=0506372 | zbl=0292.10016 | ref = harv }}
* {{cite book
* {{cite book | first1=J. | last1=Milnor | author1-link=John Milnor| first2=D. | last2=Husemoller | title=Symmetric Bilinear Forms | series=[[Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete]] | volume=73 | publisher=[[Springer-Verlag]] | year=1973 | isbn=3-540-06009-X | zbl=0292.10016 }}
|last1 = Scharlau
|first1 = W.
|year = 1985
|title = Quadratic and Hermitian Forms
|series = Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften
|volume = 270
|url = {{google books|c27pCAAAQBAJ|plainurl=yes}}
|publisher = Springer-Verlag
|isbn = 3-540-13724-6
|mr = 0770063
|zbl = 0584.10010
|doi = 10.1007/978-3-642-69971-9
|ref = harv
}}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* {{MathWorld|title=Symmetric Bilinear Form|urlname=SymmetricBilinearForm}}
* {{MathWorld|title=Symmetric Bilinear Form|urlname=SymmetricBilinearForm}}
* {{PlanetMath|title=symmetric bilinear form|urlname=SymmetricBilinearForm}}
* {{nlab|title=bilinear form|urlname=symmetric+bilinear+form}}
* {{ProofWiki|title=Definition:Symmetric Bilinear Form|urlname=Definition:Symmetric_Bilinear_Form}}


{{DEFAULTSORT:たいしようそうせんけいけいしき}}
{{DEFAULTSORT:たいしようそうせんけいけいしき}}

2023年6月22日 (木) 16:01時点における最新版

線型代数学における対称双線型形式(たいしょうそうせんけいけいしき、: symmetric bilinear form, symmetric bilinear functional)は、ベクトル空間上の対称な双線型形式を言う。平たく言えば、実ベクトル空間上の標準内積を一般化した概念である。対称双線型形式は、直交極性や二次曲面の研究に非常に重要である。

文脈上、双線型形式について述べていると明らかな場合は、単に短く対称形式と呼ぶこともある。対称双線型形式は二次形式と近しい関係にあり、この両者の差異に関する詳細はε-二次形式英語版の項目を参照。

定義[編集]

V を体 K 上の有限次元ベクトル空間とする。写像 b : V × VK が、V 上の双線型形式であるとは、すべてのベクトル[要曖昧さ回避] u, v, wVスカラー λK に対して次の3条件を満たすことである。

これらの3条件に加えて条件

を満たすとき b : V × VK対称双線型形式という[1]

具体例[編集]

平面 R2 のベクトル x = (x1, x2)y = (y1, y2) に対して

で定まる標準内積 b : R2 × R2R は対称双線型形式である。また

で定まる写像 b′ : R2 × R2R

で定まる自明な写像 b0 : R2 × R2R なども対称双線型形式である。

表現行列[編集]

有限次元ベクトル空間 V基底 E = {e1, …, en} をひとつ固定する。このとき V 上の双線型形式 b に対して n 次正方行列 B = (bij)

で定義する。これを双線型形式 b の基底 E に関する表現行列という。表現行列 B は、双線型形式 b が対称であるとき、かつそのときに限り対称行列である[2]。ベクトル u =  n
i = 1
 
ui ei, v =  n
j = 1
 
vj ejV
に対して値 b(u, v) は表現行列 B を用いて

と表される。逆に(対称)行列 B が与えられると(対称)双線型形式 b が上の関係式から定まる。

新たな基底 E′ = {e′1, …, e′n} をとり、基底の変換行列 S = (sij)e′j =  n
i = 1
 
sij ei
で与えられているとする。このとき、 双線型形式 b の基底 E′ に関する表現行列 B′

で与えられる[3]

二次形式[編集]

V 上の対称双線型形式 b に対して q : VK

で定める。これを V 上の二次形式という。

直交性と特異性[編集]

双線型形式は対称ならば反射的である。ふたつのベクトル v, wVV 上の対称双線型形式 b に関して直交するとは b(v, w) = 0 が成り立つことをいう。(反射性より、これは b(w, v) = 0 と同値。)これを記号 vw で表す[4]

部分集合 XV に対して X のすべてのベクトルと直交するベクトル全体からなる集合を X と表す[4]。これは V の部分空間となる[5]。とくに V は対称双線型形式 b根基 (radical) と呼ばれる[6]。 ベクトル v が根基に属するための必要十分条件は、適当な基底 E に関する表現行列 B を用いて述べれば、vE に関して列ベクトルと同一視したとき が成り立つことである。これは とも同値である。

対称双線型形式 b特異 (singular) であるとは、その根基が非自明なことをいう。また対称双線型形式 b非退化あるいは非特異 (non-degenerate, non-singular) であるとは、特異でないことをいう。これは随伴写像

が同型写像であることと同値である[7]。ただし V*V双対空間 Hom(V, K) である。対称双線型形式 b が非退化ならば V の部分空間 W に対し W の次元は dim W = dim V − dim W である[8]

直交基底[編集]

V の基底 E = {e1, …, en}V 上の対称双線型形式 b に関して直交するとは、

が成り立つことを言う。基礎体の標数2 でないとき、V は常に直交基底を持つ[9][10]。このことの証明は数学的帰納法による。

基底 Eb に関して直交するための必要十分条件は、その表現行列 B対角行列となることである。

符号数とシルベスターの慣性法則[編集]

最も一般の場合にシルベスターの慣性法則の主張は順序体 K 上で意味を持ち、表現行列の対角成分の 0 である個数、正である個数、負である個数が、直交基底の選択には依存しないことを主張する。これらの 3つの数値は、双線型形式の符号数と呼ばれる。

実係数の場合[編集]

実数体上の空間を考える場合には、もう少し詳しく述べることができる。{e1, …, en} を直交基底とする。

新たな直交基底 {e′1, …, e′n}

で定義すると、新たな表現行列 B は対角線上に 0, +1, −1 のみを成分に持つ対角行列になる。0 が現れるのは、根基が非自明となるときであり、かつそのときに限る。

複素係数の場合[編集]

複素数体上の空間を扱う場合も、同様に詳しくしかもより平易な形に述べることができる。{e1, …, en} を直交基底とする。

新たな基底 {e′1, …, e′n}

で定義すると、新たな表現行列 B は対角線上に 01 のみを成分に持つ対角行列となる。0 が現れるのは根基が非自明なときであり、かつそのときに限る。

直交偏極[編集]

標数2 でない体 K の上のベクトル空間 V 上で定義される、自明な根基を持つ対称双線型形式 b に対し、V の部分空間全体の成す集合 D(V) からそれ自身への写像

を定義することができる。この写像は射影空間 PG(W) 上の直交極性 (orthogonal polarity) である。逆に、すべての直交極性はこの方法により得られる、自明な根基を持つ二つの対称双線型形式が同じ極性を持つための必要十分条件は、それらがスカラー倍の違いを除いて一致することである。

出典[編集]

  1. ^ Scharlau 1985, p. 1, Definition 1.1.
  2. ^ Scharlau 1985, p. 4.
  3. ^ Scharlau 1985, p. 5, Lemma 2.1.
  4. ^ a b Scharlau 1985, p. 2, Definition 1.2.
  5. ^ Scharlau 1985, p. 2, Lemma 1.3.
  6. ^ Scharlau 1985, p. 7.
  7. ^ Scharlau 1985, p. 7, Corollary 3.2.
  8. ^ Scharlau 1985, p. 9, Lemma 3.11.
  9. ^ Milnor & Husemoller 1973, p. 6, Corollary 3.4.
  10. ^ Scharlau 1985, p. 7, Theorem 3.5.

参考文献[編集]

  • Milnor, J.; Husemoller, D. (1973). Symmetric Bilinear Forms. Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete. 73. Springer-Verlag. doi:10.1007/978-3-642-88330-9. ISBN 3-540-06009-X. MR0506372. Zbl 0292.10016. https://books.google.co.jp/books?id=vGPyCAAAQBAJ 
  • Scharlau, W. (1985). Quadratic and Hermitian Forms. Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften. 270. Springer-Verlag. doi:10.1007/978-3-642-69971-9. ISBN 3-540-13724-6. MR0770063. Zbl 0584.10010. https://books.google.co.jp/books?id=c27pCAAAQBAJ 

外部リンク[編集]