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[[ファイル:Claudius Ptolemy- The World.jpg|thumb|300px|エクメーネのイメージ。[[クラウディオス・プトレマイオス|プトレマイオス]]の地図より。]]
'''エクメーネ'''([[ドイツ語]]:Ökumene)とは人間が居住している地域を指す[[地理学]]の用語である。対義語として人間が居住していない地域を指す[[アネクメネ|アネクメーネ]]がある。'''エクメネ'''、'''オイクメネ'''とも。
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[[file:Ökumene-Subökumene-Anökumene.png|thumb|300px|{{legend|black|[[黒色|黒]]:[[アネクメーネ]]}}{{legend|#0cff33|[[緑色|緑]]: [[ズブエクメーネ]] ([[:de:Subökumene]])}}{{legend|#E50000|[[赤色|赤]]:'''エクメーネ'''}}]]


'''エクメーネ'''({{lang-de-short|Ökumene}})は、「地球の表面のうち人間が居住している地域」を指す[[地理学]]の用語である。厳密に定義すれば「地球上で人間が常に居住し、経済活動を営み、また規則的な交通を行っている空間」となる。生活空間{{Sfn|西川|1985}}、居住空間、居住地域などと訳される{{Sfn|藤田|1979|p=39-40}}。エクメーネには人が定住する恒常的なものと、一時的なものの2種がある。たとえば南極大陸はかつてはアネクメーネであったが、現在は一時的エクメーネの一種である。'''オイクメネー'''{{Sfn|中城|1927|p=64}}、'''エクメネー'''、'''エクメネ'''{{Sfn|日本大百科全書|1985c|p=433}}という表記もある。
== 語源 ==
[[Image:Claudius Ptolemy- The World.jpg|thumb|300px|エクメーネのイメージ。[[クラウディオス・プトレマイオス|プトレマイオス]]の地図より。]]
このエクメーネという語は、[[ギリシア語]]で「人のむ全地」を意味する語・エーネー({{Polytonic|οἰκουμένη γῆ}})に由来している。これは元々、[[古代ギリシア|古代ギリシア人]]が自分たちの住んでいる空間を指して用いていた語であった


対義語として人間が居住していない地域を指す[[アネクメーネ]]がある{{Sfn|織田et al.|1956|p=64}}。
[[キリスト教]]で用いられる語エキュメニカルも同語源であり、[[エキュメニズム]]の[[世界教会協議会]]はoikoumeneを名乗る。


== 概 ==
== 概 ==
=== 沿革 ===
[[アレクサンダー・フォン・フンボルト]]がこの概念を提唱し、[[フリードリヒ・ラッツェル]]が研究を進めた<ref>[[平凡社]]『[[世界大百科事典]]』「エクメーネ」の項。</ref>。
エクメーネという語は、ギリシア語で「住んでいる土地」を意味する語「オイクーネー({{lang-el-short|οἰκουμένη}}, oikouménē。英語に直訳すると''inhabited'')に由来る。これは元々、[[古代ギリシア|古代ギリシア人]]が自分たちの住んでいる空間(つまり既知の世界)を指して用いた語である{{Sfn|藤田|1979|p=39-40}}。[[キリスト教]]で用いられる語エキュメニカル、[[エキュメニズム]]も同語源である


[[アレクサンダー・フォン・フンボルト]]がこの概念を提唱し、近代地理学に導入する。[[フリードリヒ・ラッツェル]]が''Anthropogeographie - Die geographische Verbreitung des Menschen''(1891年。邦訳『人類地理学』ISBN 4-7722-8040-5)でその範囲や発展について論じる{{Sfn|大百科事典|1984b|p=503}}。
エクメーネは地球上の全陸地のうち、約88%を占めている。
=== 限界 ===
地球の表面のうち、海洋・湖沼などはエクメーネから除外される(少数の海上生活者は存在するが)。エクメーネは地球の陸地面積の約88%を占める{{Sfn|織田et al.|1956|p=70}}が、アネクメーネとの境界は食糧生産限界とほぼ一致する{{Sfn|山本et al.|1997|p=31}}。人間が住むことは可能だが農業には適さない地域を[[:de:Subökumene|Subökumene]]と呼ぶ。エクメーネとアネクメーネの境界は、大きく'''水平限界'''と'''高距限界'''(垂直限界)に分けられる。


水平限界はさらに対乾燥限界、対寒冷限界、対湿熱限界に分けられる{{Sfn|学芸百科事典|1973|p=430}}。
エクメーネの範囲は主に気象条件によって決定される。アネクメーネとエクメーネの境界を決定する限界として「極(寒冷)限界」「乾燥限界」「高距(垂直)限界」である。極限界は[[栽培限界]]の極限と一致し、垂直限界は低緯度地域ほど高度限界が高い。世界最北の人間の居住地域は[[ノルウェー]]の[[スバールバル諸島]][[ニーオーレスン]]、あるいは[[グリーンランド]]北西部の[[チューレ空軍基地]]といわれる。世界最高地の首都は[[ボリビア]]の首都[[ラパス]]。


1984年現在、恒常的エクメーネの北限は[[エルズミア島]]のアラート([[:en:Ellesmere Island|Alert]])<ref>82度31分</ref>、南限は[[ナバリノ島]]の[[プエルト・ウィリアムズ]]<ref>54度56分</ref>である。高距限界はインドのチベット近くのバシシ<ref>5988メートル</ref>である{{Sfn|大百科事典|1984b|p=503}}。
人間が居住できる地域の限界と、食料生産が可能な地域の限界はおおむね一致する<ref>日本地誌研究所『地理学辞典』</ref>。人間が住むことは可能だが農業には適さない地域を[[:de:Subökumene|Subökumene]]<!-- 訳語不明。「ズペクメーネ」か? -->と呼ぶ。


=== 拡大 ===
エクメーネの拡大は気候の変化による境界域の変化、技術の進歩による居住地域の拡大、人口増加による他地域への移住や入植などによって起こる。エクメーネには人が定住する恒常的なものと、一時的なものの2種がある。たとえば[[南極大陸]]や[[宇宙空間]]はかつてはアネクメーネであったが、現在は一時的エクメーネの一種である。
有史以前に今日のエクメーネの輪郭はほぼ完成していたが、気候の変化による水平限界・高距限界の変化、技術の進歩による居住地域の拡大、人口増加による他地域への移住や入植などによってエクメーネは拡大する{{Sfn|今井|2003|p=24-25}}。具体的には森林や低湿地、砂漠の開発などにより、アネクメーネがエクメーネに編入されてきた{{Sfn|藤田|1979|p=39-40}}。[[大航海時代]]には、それ以前からエクメーネに含まれていた新大陸と旧大陸は単一のエクメーネとして結合するに至った{{Sfn|織田et al.|1956|p=66}}。地下資源の発見などにより居住限界を超えて入植が行われることもある{{Sfn|金崎|1983|p=21}}。ソ連の自然改造もエクメーネ拡大の原因の一つである{{Sfn|学芸百科事典|1973|p=430}}。


== 脚注 ==
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|date=1985-04-20|title=日本大百科全書|volume=3|publisher=小学館|page=433|isbn=4-09-526003-3|ref={{SfnRef|日本大百科全書|1985c}} }}
{{脚注ヘルプ}}
* {{Cite book|和書|date=1984-11-2|title=大百科事典|volume=2|publisher=平凡社|page=503|ref={{SfnRef|大百科事典|1984b}} }}
{{Reflist}}
* {{Cite book|和書|date=1973-12-05|title=学芸百科事典|volume=2|publisher=旺文社|page=430|ref={{SfnRef|学芸百科事典|1973}} }}
* {{Cite book|和書|editor=藤田謙二郎|date=1979-10-06|title=最新地理学辞典―新訂版―|publisher=大明堂|pages=39-40|ref={{SfnRef|藤田|1979}} }}
* {{Cite book|和書|author=金崎肇|date=1983-07-15|title=地理用語の基礎知識|publisher=古今書院|page=21|isbn=4-7722-1193-4|ref={{SfnRef|金崎|1983}} }}
* {{Cite book|和書|editor=山本正三, 石井英也, 手塚章, 奥野隆史|ref={{SfnRef|山本et al.|1997}}|date=1997-01-25|title=人文地理学辞典|publisher=朝倉書店|page=31|isbn=4-254-16336-3}}
* {{Cite book|和書|author=今井清一|date=2003-05-10|title=改訂増補 人文地理学概論|volume=上巻|publisher=晃洋書房|ref={{SfnRef|今井|2003}} |isbn=4-7710-1459-0}}
* {{Cite book|和書|author1=織田武雄|author2=藤岡謙二郎|author3=西村睦男|date=1956-06-15|title=人文地理学概論|publisher=蘭書房|ref={{SfnRef|織田et al.|1956}} }}
* {{Cite book|和書|author=中城捗|date=1927-04-13|title=人文地理學|publisher=早稻田大學出版部|ref={{SfnRef|中城|1927}} }}
* {{Cite book|和書|author=西川治|date=1985-10-10|title=人文地理学入門――思想史的考察|publisher=(財)東京大学出版会|ref={{SfnRef|西川|1985}}|isbn=4-13-062097-5}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[アネクメーネ]]
* [[アネクメーネ]]
* [[人新世]]
* [[エキュメニズム]]
* [[エキュメニズム]]
* [[ハビタブルゾーン]] - [[プラネタリー・バウンダリー]] - [[惑星の居住可能性]]


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== 出典 ==
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<!-- == 外部リンク == -->

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2023年8月25日 (金) 02:02時点における版

エクメーネのイメージ。プトレマイオスの地図より。
  :エクメーネ

エクメーネ: Ökumene)は、「地球の表面のうち人間が居住している地域」を指す地理学の用語である。厳密に定義すれば「地球上で人間が常に居住し、経済活動を営み、また規則的な交通を行っている空間」となる。生活空間[1]、居住空間、居住地域などと訳される[2]。エクメーネには人が定住する恒常的なものと、一時的なものの2種がある。たとえば南極大陸はかつてはアネクメーネであったが、現在は一時的エクメーネの一種である。オイクメネー[3]エクメネーエクメネ[4]という表記もある。

対義語として人間が居住していない地域を指すアネクメーネがある[5]

概要

沿革

エクメーネという語は、ギリシア語で「住んでいる土地」を意味する語「オイクーメネー」(: οἰκουμένη, oikouménē。英語に直訳するとinhabited)に由来する。これは元々、古代ギリシア人が自分たちの住んでいる空間(つまり既知の世界)を指して用いた語である[2]キリスト教で用いられる語エキュメニカル、エキュメニズムも同語源である。

アレクサンダー・フォン・フンボルトがこの概念を提唱し、近代地理学に導入する。フリードリヒ・ラッツェルAnthropogeographie - Die geographische Verbreitung des Menschen(1891年。邦訳『人類地理学』ISBN 4-7722-8040-5)でその範囲や発展について論じる[6]

限界

地球の表面のうち、海洋・湖沼などはエクメーネから除外される(少数の海上生活者は存在するが)。エクメーネは地球の陸地面積の約88%を占める[7]が、アネクメーネとの境界は食糧生産限界とほぼ一致する[8]。人間が住むことは可能だが農業には適さない地域をSubökumeneと呼ぶ。エクメーネとアネクメーネの境界は、大きく水平限界高距限界(垂直限界)に分けられる。

水平限界はさらに対乾燥限界、対寒冷限界、対湿熱限界に分けられる[9]

1984年現在、恒常的エクメーネの北限はエルズミア島のアラート(Alert[10]、南限はナバリノ島プエルト・ウィリアムズ[11]である。高距限界はインドのチベット近くのバシシ[12]である[6]

拡大

有史以前に今日のエクメーネの輪郭はほぼ完成していたが、気候の変化による水平限界・高距限界の変化、技術の進歩による居住地域の拡大、人口増加による他地域への移住や入植などによってエクメーネは拡大する[13]。具体的には森林や低湿地、砂漠の開発などにより、アネクメーネがエクメーネに編入されてきた[2]大航海時代には、それ以前からエクメーネに含まれていた新大陸と旧大陸は単一のエクメーネとして結合するに至った[14]。地下資源の発見などにより居住限界を超えて入植が行われることもある[15]。ソ連の自然改造もエクメーネ拡大の原因の一つである[9]

参考文献

  • 『日本大百科全書』 3巻、小学館、1985年4月20日、433頁。ISBN 4-09-526003-3 
  • 『大百科事典』 2巻、平凡社、1984年11月2日、503頁。 
  • 『学芸百科事典』 2巻、旺文社、1973年12月5日、430頁。 
  • 藤田謙二郎 編『最新地理学辞典―新訂版―』大明堂、1979年10月6日、39-40頁。 
  • 金崎肇『地理用語の基礎知識』古今書院、1983年7月15日、21頁。ISBN 4-7722-1193-4 
  • 山本正三, 石井英也, 手塚章, 奥野隆史 編『人文地理学辞典』朝倉書店、1997年1月25日、31頁。ISBN 4-254-16336-3 
  • 今井清一『改訂増補 人文地理学概論』 上巻、晃洋書房、2003年5月10日。ISBN 4-7710-1459-0 
  • 織田武雄、藤岡謙二郎、西村睦男『人文地理学概論』蘭書房、1956年6月15日。 
  • 中城捗『人文地理學』早稻田大學出版部、1927年4月13日。 
  • 西川治『人文地理学入門――思想史的考察』(財)東京大学出版会、1985年10月10日。ISBN 4-13-062097-5 

関連項目

出典

  1. ^ 西川 1985.
  2. ^ a b c 藤田 1979, p. 39-40.
  3. ^ 中城 1927, p. 64.
  4. ^ 日本大百科全書 1985c, p. 433.
  5. ^ 織田et al. 1956, p. 64.
  6. ^ a b 大百科事典 1984b, p. 503.
  7. ^ 織田et al. 1956, p. 70.
  8. ^ 山本et al. 1997, p. 31.
  9. ^ a b 学芸百科事典 1973, p. 430.
  10. ^ 82度31分
  11. ^ 54度56分
  12. ^ 5988メートル
  13. ^ 今井 2003, p. 24-25.
  14. ^ 織田et al. 1956, p. 66.
  15. ^ 金崎 1983, p. 21.