コンテンツにスキップ

「水平分枝」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
WikitanvirBot (会話 | 投稿記録)
m r2.7.1) (ロボットによる 追加: fa:شاخه افقی
m Bot作業依頼#Cite webの和書引数追加
 
(20人の利用者による、間の44版が非表示)
1行目: 1行目:
[[File:M5 colour magnitude diagram.png|thumb|right|upright=1.4|[[球状星団]][[M5 (天体)|M5]]の[[ヘルツシュプルング・ラッセル図]]。水平分枝 (HB) は黄色でプロットされており、グラフの中央部、B-V = -0.6 - 0.7、Mv=15付近に薄く水平に広がっている。]]'''水平分枝'''{{R|astro-dic|ox}}(すいへいぶんし{{R|astro-dic}}、horizontal branch{{R|astro-dic|ox}})は、[[ヘルツシュプルング・ラッセル図]](HR図)上に現れる星の系列の一つで、質量が{{solar mass|2|link=y}}([[太陽質量]])未満の[[恒星]]が[[赤色巨星分枝]]の後に経る進化の段階である。HR図上でおよそ水平な系列を示すため「水平分枝」と呼ばれる{{R|astro-dic}}。
'''水平分枝'''(Horizontal branch、HB)とは、[[恒星進化論]]の段階において、[[恒星]]の質量が[[太陽質量]]と同じくらいになる[[赤色巨星分枝]]の直後にくる段階である。水平分枝にある恒星は、核での[[トリプルアルファ反応]]による[[ヘリウム原子核]]の核融合と核の周りの外殻での[[陽子-陽子連鎖反応]]をエネルギー源とする。「水平分枝」という名前は、[[ヘルツシュプルング・ラッセル図]]においておおよそ水平線上に位置しているためである。多くの水平分枝の恒星は脈動し、[[こと座RR型変光星]]として知られている。


== 発見 ==
HB星が[[金属量 (天文)|種族II]]に属しているのに対して、比較的若い種族Iのカウンターパートを[[レッドクランプ]]という。
水平分枝星は、[[M3 (天体)|M3]]や[[M92 (天体)|M92]]などの球状星団に対する初期の深度写真測光観測によって発見され{{R|ArpBaum1952|Sandage1953}}、それまでに研究されてきた[[散開星団]]全てにおいて存在しないことで注目された。水平分枝は、球状星団のような金属欠乏星の集団において、HR図上でほぼ水平に並んでいることから名付けられた{{R|astro-dic}}。ある球状星団に属する星は皆、地球からほぼ同じ距離にあると見做せるため、[[見かけの等級]]は[[絶対等級]]と同一の関係にあり、その球状星団の星に限定したHR図では距離や等級の不確かさに惑わされることなく、絶対等級に関連した性質がはっきりと見て取ることができる。


==関連項目==
== 進化 ==
[[核 (天体)|中心核]]の[[水素]]を使い果たした恒星は、[[主系列星|主系列]]を離れ、ヘリウム中心核を取り囲む水素殻で核融合を始め、[[赤色巨星分枝]]の[[巨星]]となる。約2.3太陽質量未満の初期質量を持つ星では、ヘリウム中心核はエネルギー生成に寄与しない縮退物質の領域となる。水素殻での水素核融合で[[ヘリウム]]が増えると、ヘリウム中心核は成長し続け、温度も上昇していく。

約0.5太陽質量より重いの星の場合、中心核は最終的に[[トリプルアルファ反応]]によるヘリウムから[[炭素]]への核融合に必要な温度に達する。赤色巨星分枝星のヘリウム中心核の質量が約0.5太陽質量になると、中心付近の温度が上昇して[[ヘリウム燃焼過程|ヘリウム核融合]]が爆発的に始まる「[[ヘリウムフラッシュ#核でのヘリウムフラッシュ|ヘリウムフラッシュ]]」を起こす{{Sfn|斎尾英行|2009|p=174}}。温度の上昇によりヘリウム中心核の電子の縮退が緩むとフラッシュは終わり、中心核は膨張して温度が下がって安定したヘリウム核融合が始まる{{Sfn|斎尾英行|2009|p=175}}。これにより、星は新たな平衡状態に移行し、進化のトラックが赤色巨星分枝から水平分枝へと切り替わる。この段階にある星を水平分枝星または[[レッドクランプ|クランプ星]]である{{Sfn|斎尾英行|2009|p=175}}。

比較的古く金属に乏しい[[星の種族#種族II|種族II]]の恒星はHR図上を水平に近い向きに移動し、水平分枝星となる。一方、比較的新しく金属に富んだ種族Iの恒星は、クランプ星と呼ばれる、種族IIの星での水平分枝星に相当するグループに入ると考えられている{{Sfn|斎尾英行|2009|p=177}}。水平分枝星の光度は中心のヘリウム燃焼と水素燃焼殻で発生したエネルギーに依存するが、これはヘリウム中心核の質量で決まり、主系列段階で持っていた星全体の質量にはほとんど依存しない{{Sfn|斎尾英行|2009|pp=175-176}}。しかし表面温度と半径は、外層の質量と金属量によって敏感に変化する。金属量が多い星に水平分枝が見られないのはガスの不透明度が大きいため半径が大きく表面温度が低いためである。クランプ星は、中心でヘリウム核融合をしている金属量の多い星であり、HR図上でほぼ赤色巨星分枝の位置にある{{Sfn|斎尾英行|2009|pages=176-177}}。

HR図上で[[セファイド不安定帯]]が水平分枝を横切るところでは、恒星の外層が不安定となって脈動するため、[[こと座RR型変光星]]として観測される{{Sfn|斎尾英行|2009|page=177}}。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist|refs=
<ref name="ox">{{Cite book|和書
|date = 2003-11-28
|editor = Ian Ridpath
|title= オックスフォード天文学辞典
|translator = [[岡村定矩]] 監
|edition = 初版第1刷
|publisher = [[朝倉書店]]
|page = 208
|isbn = 978-4-254-15017-9}}</ref>
<ref name="astro-dic">{{Cite web|和書
|title=水平分枝
|url=http://astro-dic.jp/horizontal-branch/
|work=天文学辞典
|publisher=[[日本天文学会]]
|date=2018-08-17|accessdate=2019-4-1}}</ref>

<ref name="ArpBaum1952">{{cite journal
|last1=Arp|first1=H. C.|last2=Baum|first2=W. A.|last3=Sandage|first3=A. R.|authorlink=ホルトン・アープ|authorlink3=アラン・サンデージ
|title=The HR diagrams for the globular clusters M92 and M3.
|journal=The Astronomical Journal|volume=57|year=1952|pages=4|issn=0004-6256
|doi=10.1086/106674|bibcode=1952AJ.....57....4A}}</ref>

<ref name="Sandage1953">{{cite journal
|last1=Sandage|first1=A. R.
|title=The color-magnitude diagram for the globular cluster M 3.
|journal=The Astronomical Journal|volume=58|year=1953|pages=61|issn=0004-6256
|doi=10.1086/106822|bibcode=1953AJ.....58...61S}}</ref>
}}

== 参考文献 ==
* {{cite book|和書
|title=恒星
|series=シリーズ現代の天文学 第7巻|publisher=[[日本評論社]]|date=2009-7-25
|editor=[[野本憲一]]、[[定金晃三]]、[[佐藤勝彦 (物理学者) |佐藤勝彦]]|edition=第1版第1刷
|author=斎尾英行|chapter=第4章 中小質量星の進化
|isbn=978-4535607279|ref=harv}}

== 関連項目 ==
*[[漸近巨星分枝]]
*[[漸近巨星分枝]]
*[[レッドクランプ]]
*[[レッドクランプ]]
{{恒星}}

{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:すいへいふんし}}
{{デフォルトソート:すいへいふんし}}
[[Category:天文学]]
[[Category:天文学]]
[[Category:天文学に関する記事]]
[[Category:天文学に関する記事]]

[[ca:Branca horitzontal]]
[[cs:Horizontální větev]]
[[en:Horizontal branch]]
[[es:Rama horizontal]]
[[fa:شاخه افقی]]
[[fi:Horisontaalihaara]]
[[it:Ramo orizzontale]]
[[ko:수평가지]]
[[lt:Horizontalioji seka]]
[[sk:Horizontálna vetva]]
[[sv:Horisontella jättegrenen]]
[[zh:水平分支]]

2023年11月26日 (日) 11:13時点における最新版

球状星団M5ヘルツシュプルング・ラッセル図。水平分枝 (HB) は黄色でプロットされており、グラフの中央部、B-V = -0.6 - 0.7、Mv=15付近に薄く水平に広がっている。

水平分枝[1][2](すいへいぶんし[1]、horizontal branch[1][2])は、ヘルツシュプルング・ラッセル図(HR図)上に現れる星の系列の一つで、質量が2 M太陽質量)未満の恒星赤色巨星分枝の後に経る進化の段階である。HR図上でおよそ水平な系列を示すため「水平分枝」と呼ばれる[1]

発見

[編集]

水平分枝星は、M3M92などの球状星団に対する初期の深度写真測光観測によって発見され[3][4]、それまでに研究されてきた散開星団全てにおいて存在しないことで注目された。水平分枝は、球状星団のような金属欠乏星の集団において、HR図上でほぼ水平に並んでいることから名付けられた[1]。ある球状星団に属する星は皆、地球からほぼ同じ距離にあると見做せるため、見かけの等級絶対等級と同一の関係にあり、その球状星団の星に限定したHR図では距離や等級の不確かさに惑わされることなく、絶対等級に関連した性質がはっきりと見て取ることができる。

進化

[編集]

中心核水素を使い果たした恒星は、主系列を離れ、ヘリウム中心核を取り囲む水素殻で核融合を始め、赤色巨星分枝巨星となる。約2.3太陽質量未満の初期質量を持つ星では、ヘリウム中心核はエネルギー生成に寄与しない縮退物質の領域となる。水素殻での水素核融合でヘリウムが増えると、ヘリウム中心核は成長し続け、温度も上昇していく。

約0.5太陽質量より重いの星の場合、中心核は最終的にトリプルアルファ反応によるヘリウムから炭素への核融合に必要な温度に達する。赤色巨星分枝星のヘリウム中心核の質量が約0.5太陽質量になると、中心付近の温度が上昇してヘリウム核融合が爆発的に始まる「ヘリウムフラッシュ」を起こす[5]。温度の上昇によりヘリウム中心核の電子の縮退が緩むとフラッシュは終わり、中心核は膨張して温度が下がって安定したヘリウム核融合が始まる[6]。これにより、星は新たな平衡状態に移行し、進化のトラックが赤色巨星分枝から水平分枝へと切り替わる。この段階にある星を水平分枝星またはクランプ星である[6]

比較的古く金属に乏しい種族IIの恒星はHR図上を水平に近い向きに移動し、水平分枝星となる。一方、比較的新しく金属に富んだ種族Iの恒星は、クランプ星と呼ばれる、種族IIの星での水平分枝星に相当するグループに入ると考えられている[7]。水平分枝星の光度は中心のヘリウム燃焼と水素燃焼殻で発生したエネルギーに依存するが、これはヘリウム中心核の質量で決まり、主系列段階で持っていた星全体の質量にはほとんど依存しない[8]。しかし表面温度と半径は、外層の質量と金属量によって敏感に変化する。金属量が多い星に水平分枝が見られないのはガスの不透明度が大きいため半径が大きく表面温度が低いためである。クランプ星は、中心でヘリウム核融合をしている金属量の多い星であり、HR図上でほぼ赤色巨星分枝の位置にある[9]

HR図上でセファイド不安定帯が水平分枝を横切るところでは、恒星の外層が不安定となって脈動するため、こと座RR型変光星として観測される[7]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d e 水平分枝”. 天文学辞典. 日本天文学会 (2018年8月17日). 2019年4月1日閲覧。
  2. ^ a b Ian Ridpath 編、岡村定矩 監 訳『オックスフォード天文学辞典』(初版第1刷)朝倉書店、2003年11月28日、208頁。ISBN 978-4-254-15017-9 
  3. ^ Arp, H. C.; Baum, W. A.; Sandage, A. R. (1952). “The HR diagrams for the globular clusters M92 and M3.”. The Astronomical Journal 57: 4. Bibcode1952AJ.....57....4A. doi:10.1086/106674. ISSN 0004-6256. 
  4. ^ Sandage, A. R. (1953). “The color-magnitude diagram for the globular cluster M 3.”. The Astronomical Journal 58: 61. Bibcode1953AJ.....58...61S. doi:10.1086/106822. ISSN 0004-6256. 
  5. ^ 斎尾英行 2009, p. 174.
  6. ^ a b 斎尾英行 2009, p. 175.
  7. ^ a b 斎尾英行 2009, p. 177.
  8. ^ 斎尾英行 2009, pp. 175–176.
  9. ^ 斎尾英行 2009, pp. 176–177.

参考文献

[編集]

関連項目

[編集]