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'''酸化スカンジウム |
'''酸化スカンジウム(III)'''もしくは'''スカンジア'''は、[[組成式]]Sc<sub>2</sub>O<sub>3</sub>で表される[[希土類元素]]の[[酸化物]]である。酸化スカンジウムは他のスカンジウム化合物の前駆体として用いられるだけでなく、高温系における熱および熱衝撃への耐性付与を目的としてエレクトロセラミックスやガラスの焼結助剤にも用いられる。 |
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== 構造および物理的性質 == |
== 構造および物理的性質 == |
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酸化スカンジウムの[[結晶構造]]はスカンジウム元素の金属中心に酸素が6配位した[[立方晶]]構造を取り、[[点群]]は[[シェーンフリース記号]]でT<sub>h</sub>、[[空間群]]は[[ヘルマン・モーガン記号]]でIa3と表される<ref>Wells A.F. (1984) ''Structural Inorganic Chemistry'' 5th edition Oxford Science Publications [[:en:Special:BookSources/0198553706|ISBN 0-19-855370-6]]</ref>。Sc-Oの結合距離は{{仮リンク|粉末回折|en|Powder diffraction}}より2.159-2. |
酸化スカンジウムの[[結晶構造]]はスカンジウム元素の金属中心に酸素が6配位した[[立方晶]]構造を取り、[[点群]]は[[シェーンフリース記号]]でT<sub>h</sub>、[[空間群]]は[[ヘルマン・モーガン記号]]でIa3と表される<ref>Wells A.F. (1984) ''Structural Inorganic Chemistry'' 5th edition Oxford Science Publications [[:en:Special:BookSources/0198553706|ISBN 0-19-855370-6]]</ref>。Sc-Oの結合距離は{{仮リンク|粉末回折|en|Powder diffraction}}より2.159-2.071 Åであると示されている<ref>{{Cite journal|last = Knop|first = Osvald|author2 = Hartley, Jean M.|title = Refinement of the crystal structure of scandium oxide|journal = Canadian Journal of Chemistry|date = 15 April 1968|volume = 46|issue = 8|pages = 1446–1450|doi = 10.1139/v68-236}}</ref>。 |
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酸化スカンジウムは[[絶縁体]]であり、その[[バンドギャップ]]は6.0 eVである<ref>{{Cite journal|last = Emeline|first = A. V.|author2 = Kataeva, G. V.|author3 = Ryabchuk, V. K.|author4 = Serpone, N.|title = Photostimulated Generation of Defects and Surface Reactions on a Series of Wide Band Gap Metal-Oxide Solids|journal = The Journal of Physical Chemistry B|date = 1 October 1999|volume = 103|issue = 43|pages = 9190–9199|doi = 10.1021/jp990664z}}</ref>。 |
酸化スカンジウムは[[絶縁体]]であり、その[[バンドギャップ]]は6.0 eVである<ref>{{Cite journal|last = Emeline|first = A. V.|author2 = Kataeva, G. V.|author3 = Ryabchuk, V. K.|author4 = Serpone, N.|title = Photostimulated Generation of Defects and Surface Reactions on a Series of Wide Band Gap Metal-Oxide Solids|journal = The Journal of Physical Chemistry B|date = 1 October 1999|volume = 103|issue = 43|pages = 9190–9199|doi = 10.1021/jp990664z}}</ref>。 |
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== 生産 == |
== 生産 == |
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鉱山より産出されるスカンジウムは主に精製された酸化スカンジウムの形で生産される。 |
鉱山より産出されるスカンジウムは主に精製された酸化スカンジウムの形で生産される。[[ソーベタイト]](Sc,Y)<sub>2</sub>(Si<sub>2</sub>O<sub>7</sub>)や[[コルベカイト]]ScPO<sub>4</sub>·2H<sub>2</sub>Oのようなスカンジウムを豊富に含む鉱石は稀であるが、スカンジウムは他の多くの鉱石で痕跡量含まれている。そのため、酸化スカンジウムは他の元素を抽出する際の副産物として主に生産されている。 |
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== 反応 == |
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酸化スカンジウムは加温下で大部分の酸と反応して、[[水和物]]を生成する。例えば、加温下で過剰量の塩酸と反応させることで、{{仮リンク|塩化スカンジウム|en|Scandium chloride}}のn水和物が得られる。これを[[塩化アンモニウム]]の存在下で蒸発乾固させ、この混合物を300から500度で加熱して塩化アンモニウムを除去することによって、塩化スカンジウムの無水物を得ることができる<ref>{{Cite journal|last = Stotz|first = Robert W.|author2 = Melson, Gordon A.|title = Preparation and mechanism of formation of anhydrous scandium(III) chloride and bromide|journal = Inorganic Chemistry|date = 1 July 1972|volume = 11|issue = 7|pages = 1720–1721|doi = 10.1021/ic50113a058|url = http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ic50113a058}}</ref>。塩化スカンジウムの水和物は塩化アンモニウムなしに乾燥させると即座にオキシ塩化物が形成されるため、塩化スカンジウムの水和物を得るためには塩化アンモニウムの存在が必須である。 |
酸化スカンジウムは加温下で大部分の酸と反応して、[[水和物]]を生成する。例えば、加温下で過剰量の塩酸と反応させることで、{{仮リンク|塩化スカンジウム|en|Scandium chloride}}のn水和物が得られる。これを[[塩化アンモニウム]]の存在下で蒸発乾固させ、この混合物を300から500度で加熱して塩化アンモニウムを除去することによって、塩化スカンジウムの無水物を得ることができる<ref>{{Cite journal|last = Stotz|first = Robert W.|author2 = Melson, Gordon A.|title = Preparation and mechanism of formation of anhydrous scandium(III) chloride and bromide|journal = Inorganic Chemistry|date = 1 July 1972|volume = 11|issue = 7|pages = 1720–1721|doi = 10.1021/ic50113a058|url = http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ic50113a058}}</ref>。塩化スカンジウムの水和物は塩化アンモニウムなしに乾燥させると即座にオキシ塩化物が形成されるため、塩化スカンジウムの水和物を得るためには塩化アンモニウムの存在が必須である。 |
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: <chem>Sc2O3\ + 6 HCl\ + xH2O -> 2 ScCl3 \cdot nH2O\ + 3 H2O</chem> |
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同様に、酸化スカンジウムは[[トリフルオロメタンスルホン酸]]との反応によって、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムの水和物となる<ref>McCleverty, J.A. and Meyer, T.J., ''Comprehensive Coordination Chemistry II'', 2003, Elsevier Science, [[:en:Special:BookSources/0080437486|ISBN 0-08-043748-6]], Vol. 3, p. 99 ["Refluxing scandium oxide with triflic acid leads to the isolation of hydrated scandium triflate"]</ref>。 |
同様に、酸化スカンジウムは[[トリフルオロメタンスルホン酸]]との反応によって、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムの水和物となる<ref>McCleverty, J.A. and Meyer, T.J., ''Comprehensive Coordination Chemistry II'', 2003, Elsevier Science, [[:en:Special:BookSources/0080437486|ISBN 0-08-043748-6]], Vol. 3, p. 99 ["Refluxing scandium oxide with triflic acid leads to the isolation of hydrated scandium triflate"]</ref>。 |
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酸化スカンジウムは安定な物質であるため、酸化物を直接金属スカンジウムへと還元することは困難である。そのため、金属スカンジウムの工業生産では酸化スカンジウムを[[フッ化スカンジウム]]に転換し、それを金属[[カルシウム]]で還元することによって行われている<ref>{{Cite web|url=http://www.jfe-21st-cf.or.jp/jpn/hokoku_pdf_2008/17.pdf|title=「電気化学的な手法によるスカンジウムの新しい製造法に関する研究」|author=岡部徹|publisher=JFE21世紀財団 2008年度 技術研究報告書|accessdate=2016-09-29}}</ref>。この反応プロセスは金属[[チタン]]の生産法である[[クロール法]]といくつかの点で類似している。 |
酸化スカンジウムは安定な物質であるため、酸化物を直接金属スカンジウムへと還元することは困難である。そのため、金属スカンジウムの工業生産では酸化スカンジウムを[[フッ化スカンジウム]]に転換し、それを金属[[カルシウム]]で還元することによって行われている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.jfe-21st-cf.or.jp/jpn/hokoku_pdf_2008/17.pdf|title=「電気化学的な手法によるスカンジウムの新しい製造法に関する研究」|author=[[岡部徹 (材料学者)|岡部徹]]|publisher=JFE21世紀財団 2008年度 技術研究報告書|accessdate=2016-09-29}}</ref>。この反応プロセスは金属[[チタン]]の生産法である[[クロール法]]といくつかの点で類似している。 |
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酸化スカンジウムは、同族元素の酸化物である[[酸化イットリウム]]や酸化ランタン等と異なり、[[アルカリ]]と反応してスカンジウム塩類を形成する。例えば、酸化スカンジウムと[[水酸化カリウム]]との反応によってK<sub>3</sub>Sc(OH)<sub>6</sub>が得られる。酸化スカンジウムのこのような反応は、[[酸化アルミニウム]]との間で多くの類似性が見られる。 |
酸化スカンジウムは、同族元素の酸化物である[[酸化イットリウム]]や酸化ランタン等と異なり、[[アルカリ]]と反応してスカンジウム塩類を形成する。例えば、酸化スカンジウムと[[水酸化カリウム]]との反応によってK<sub>3</sub>Sc(OH)<sub>6</sub>が得られる。酸化スカンジウムのこのような反応は、[[酸化アルミニウム]]との間で多くの類似性が見られる。 |
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[[Category:酸化物]] |
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2023年12月3日 (日) 11:25時点における最新版
酸化スカンジウム(III) | |
---|---|
![]() | |
酸化スカンジウム(III) | |
別称 スカンジア、セスキ酸化スカンジウム | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 12060-08-1 ![]() |
PubChem | 4583683 |
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特性 | |
化学式 | Sc2O3 |
モル質量 | 137.910 g/mol |
密度 | 3.86 g/cm3 |
融点 |
2485 °C, 2758 K, 4505 °F |
水への溶解度 | 不溶 |
溶解度 | 加熱した酸に可溶(反応) |
危険性 | |
NFPA 704 | |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
酸化スカンジウム(III)もしくはスカンジアは、組成式Sc2O3で表される希土類元素の酸化物である。酸化スカンジウムは他のスカンジウム化合物の前駆体として用いられるだけでなく、高温系における熱および熱衝撃への耐性付与を目的としてエレクトロセラミックスやガラスの焼結助剤にも用いられる。
構造および物理的性質[編集]
酸化スカンジウムの結晶構造はスカンジウム元素の金属中心に酸素が6配位した立方晶構造を取り、点群はシェーンフリース記号でTh、空間群はヘルマン・モーガン記号でIa3と表される[1]。Sc-Oの結合距離は粉末回折より2.159-2.071 Åであると示されている[2]。
酸化スカンジウムは絶縁体であり、そのバンドギャップは6.0 eVである[3]。
生産[編集]
鉱山より産出されるスカンジウムは主に精製された酸化スカンジウムの形で生産される。ソーベタイト(Sc,Y)2(Si2O7)やコルベカイトScPO4·2H2Oのようなスカンジウムを豊富に含む鉱石は稀であるが、スカンジウムは他の多くの鉱石で痕跡量含まれている。そのため、酸化スカンジウムは他の元素を抽出する際の副産物として主に生産されている。
反応[編集]
鉱山より産出されるスカンジウムは主に精製された酸化スカンジウムの形で生産され、それは全てのスカンジウムの化学反応の出発物質となる。
酸化スカンジウムは加温下で大部分の酸と反応して、水和物を生成する。例えば、加温下で過剰量の塩酸と反応させることで、塩化スカンジウムのn水和物が得られる。これを塩化アンモニウムの存在下で蒸発乾固させ、この混合物を300から500度で加熱して塩化アンモニウムを除去することによって、塩化スカンジウムの無水物を得ることができる[4]。塩化スカンジウムの水和物は塩化アンモニウムなしに乾燥させると即座にオキシ塩化物が形成されるため、塩化スカンジウムの水和物を得るためには塩化アンモニウムの存在が必須である。
同様に、酸化スカンジウムはトリフルオロメタンスルホン酸との反応によって、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムの水和物となる[5]。
酸化スカンジウムは安定な物質であるため、酸化物を直接金属スカンジウムへと還元することは困難である。そのため、金属スカンジウムの工業生産では酸化スカンジウムをフッ化スカンジウムに転換し、それを金属カルシウムで還元することによって行われている[6]。この反応プロセスは金属チタンの生産法であるクロール法といくつかの点で類似している。
酸化スカンジウムは、同族元素の酸化物である酸化イットリウムや酸化ランタン等と異なり、アルカリと反応してスカンジウム塩類を形成する。例えば、酸化スカンジウムと水酸化カリウムとの反応によってK3Sc(OH)6が得られる。酸化スカンジウムのこのような反応は、酸化アルミニウムとの間で多くの類似性が見られる。
出典[編集]
- ^ Wells A.F. (1984) Structural Inorganic Chemistry 5th edition Oxford Science Publications ISBN 0-19-855370-6
- ^ Knop, Osvald; Hartley, Jean M. (15 April 1968). “Refinement of the crystal structure of scandium oxide”. Canadian Journal of Chemistry 46 (8): 1446–1450. doi:10.1139/v68-236.
- ^ Emeline, A. V.; Kataeva, G. V.; Ryabchuk, V. K.; Serpone, N. (1 October 1999). “Photostimulated Generation of Defects and Surface Reactions on a Series of Wide Band Gap Metal-Oxide Solids”. The Journal of Physical Chemistry B 103 (43): 9190–9199. doi:10.1021/jp990664z.
- ^ Stotz, Robert W.; Melson, Gordon A. (1 July 1972). “Preparation and mechanism of formation of anhydrous scandium(III) chloride and bromide”. Inorganic Chemistry 11 (7): 1720–1721. doi:10.1021/ic50113a058 .
- ^ McCleverty, J.A. and Meyer, T.J., Comprehensive Coordination Chemistry II, 2003, Elsevier Science, ISBN 0-08-043748-6, Vol. 3, p. 99 ["Refluxing scandium oxide with triflic acid leads to the isolation of hydrated scandium triflate"]
- ^ 岡部徹. “「電気化学的な手法によるスカンジウムの新しい製造法に関する研究」”. JFE21世紀財団 2008年度 技術研究報告書. 2016年9月29日閲覧。