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'''ヤスニ生物圏保護区'''(ヤスニせいぶつけんほごく、{{lang-es-short|Parque Nacional Yasuní}})は、[[エクアドル]]北部の[[ナポ州]]内、[[アマゾン熱帯雨林|アマゾン]]地域に位置している[[自然保護区]]である。エクアドルの国立公園に指定されている。
'''ヤスニ生物圏保護区'''(ヤスニせいぶつけんほごく、{{lang-es-short|Parque Nacional Yasuní}})は、[[エクアドル]]北部の[[ナポ州]]内、[[アマゾン熱帯雨林|アマゾン]]地域に位置している[[自然保護区]]である。エクアドルの[[国立公園]]に指定されている。


==基礎データ==
==基礎データ==
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==概要==
==概要==
アマゾンの平野部にありながら、地形は非常に曲がりくねったものになっている。[[アンデス山脈]]の丘陵地帯を源流とする[[ナポ川]]を除き、国立公園内を走る何本もの川は海抜300-600メートルの高さから流れ出ている。アンデス山脈の丘陵と交互に現れる平たんな低地が特徴的であり、ギアナ高地とブラジル高原に挟まれた盾状地のうち、[[コロンビア]]南部から[[ペルー]]にまたがる部分にあり、傾斜の緩やかな階段状地形をなしている。
アマゾンの平野部にありながら、地形は非常に曲がりくねったものになっている。[[アンデス山脈]]の丘陵地帯を源流とする[[ナポ川]]を除き、国立公園内を走る何本もの川は海抜300-600メートルの高さから流れ出ている。アンデス山脈の丘陵と交互に現れる平たんな低地が特徴的であり、[[ギアナ高地]][[ブラジル高原]]に挟まれた[[盾状地]]のうち、[[コロンビア]]南部から[[ペルー]]にまたがる部分にあり、傾斜の緩やかな階段状地形をなしている。


植生はおもに以下の3つに分けられる。起伏に富んだこの地域の頂点をなし、洪水によって浸水されることのない高台(テラ・フィルメ)、森林地帯でしばしば洪水に見舞われる氾濫原(バルア)、そしてほぼ常に水に浸っているイポー林である。
[[植生]]はおもに以下の3つに分けられる。起伏に富んだこの地域の頂点をなし、洪水によって浸水されることのない高台([[ィエラ・フィルメ]])、森林地帯でしばしば洪水に見舞われる[[氾濫原]](バルア)、そしてほぼ常に水に浸っている{{仮リンク|ポー|es|Igapó}}林である。


コノナコ川には古くから[[ワオラニ]]([[:en:Waorani|Waorani]])[[キチュア]]([[:en:Kichwa|Kichwa]])といった先住民の共同体が移住してきた。9,800人以上の人々が[[コーヒー]]、[[バナナ]]、[[キャッサバ|ユカ]]、[[ポーポー]]、[[柑橘類]]、[[トウモロコシ]]や[[アチョーテ]]などの[[栽培]]や[[漁撈]]を営んだり、森林のなかで狩猟や採集をして暮らしている。
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この保護区は毎年およそ150人の人々が訪れている。エクアドル石油公社による油田開発は、現地の人々の暮らしや自然生態系など、コミュニティのありかたに影響を及ぼしている。生物圏保護区は自然生態系を保護し法的正当性を与え、またありのままの状態をとどめさせること、地域計画や農村開発の振興、土地利用や環境教育における地域の参加を奨励することを目的としている。
この保護区は1989年に[[ユネスコ]]の[[生物圏保護区]]に指定され<ref name=":1">{{Cite web |title=Yasuní Biosphere Reserve, Ecuador |url=https://en.unesco.org/biosphere/lac/yasuni |website=UNESCO |date=2018-09-27 |access-date=2023-03-23 |language=en}}</ref><ref>{{Cite web |url=http://www.undp.or.jp/uploads/pdfs/133652577001.pdf |title=ヤスニITTイニシアティブ |access-date=2024-02-13 |publisher=UNDP |language=ja}}</ref>、毎年およそ150人の人々が訪れている。エクアドル石油公社による油田開発は、現地の人々の暮らしや自然生態系など、コミュニティのありかたに影響を及ぼしている。生物圏保護区は自然生態系を保護し法的正当性を与え、またありのままの状態をとどめさせること、地域計画や農村開発の振興、土地利用や環境教育における地域の参加を奨励することを目的としている。

また、保護区内の[[湿地]]は2017年に[[ラムサール条約]]登録地となった<ref name=":0">{{Cite web |title=Complejo de Humedales Cuyabeno Lagartococha Yasuní {{!}} Ramsar Sites Information Service |url=https://rsis.ramsar.org/ris/2332 |website=rsis.ramsar.org |access-date=2023-03-23 |date=2018-06-14}}</ref>。


==主要植物相==
==主要植物相==
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== 動物相 ==
保護区内には11目31科の204種の[[哺乳類]]がおり、うち80%は[[夜行性]]の大型哺乳類である。[[固有種]]は{{仮リンク|ヒメアメリカフルーツコウモリ|en|Gnome fruit-eating bat}}、{{仮リンク|ヨツバトゲネズミ|en|Napo spiny rat}}、{{仮リンク|ヘンディートゲネズミ|en|Simons's spiny rat}}の3種類しかおらず、そのほかに[[ナミチスイコウモリ]]を含む[[コウモリ]]、{{仮リンク|ハイイロアグーチ|en|Black agouti}}、{{仮リンク|クチジロペッカリー|en|White-lipped peccary}}、[[クビワペッカリー]]、[[マザマ属]]、{{仮リンク|パカ|en|Lowland paca|preserve=1}}、[[カピバラ]]、[[アメリカバク]]、[[ココノオビアルマジロ]]、[[ピューマ]]、{{仮リンク|ケナガクモザル|en|White-bellied spider monkey}}、[[アマゾンカワイルカ]]、[[オオカワウソ]]、[[アマゾンマナティー]]、[[コビトイルカ]]などが生息している<ref name=":1" /><ref name=":0" />。

保護区内には610種の鳥類が生息している。{{仮リンク|シャクケイ類|en|Guan (bird)}}、[[コンゴウインコ]]、[[オオハシ]]のほか、{{仮リンク|ホウカンチョウ属|en|Crax}}、{{仮リンク|チャバラホウカンチョウ属|en|Mitu (bird)}}、{{仮リンク|ラッパチョウ|en|Grey-winged trumpeter}}、[[ヒメシギダチョウ属]]、[[ハシボソシギダチョウ属]]、{{仮リンク|オナガヤシアマツバメ|en|Fork-tailed palm swift}}、{{仮リンク|ユミハシハチドリ属|en|Phaethornis}}、{{仮リンク|エメラルドハチドリ属|en|Amazilia}}、[[タチヨタカ属]]、[[ナンベイレンカク]]、{{仮リンク|ヤマセミ属|en|Megaceryle}}、[[ハチクイモドキ属]]、[[ツバメトビ]]、[[オウギワシ]]などが挙げられる<ref name=":1" />。

保護区内には139種の両生類と62種の[[ヘビ]]を含む121種の爬虫類が生息している。両生類としては[[アマガエル科]]の{{Snamei|en|Dendropsophus}}、{{Snamei|sv|Hypsiboas}}、{{Snamei|en|Osteocephalus}}、{{Snamei|en|Scinax}}4つの属、ヘビとしては{{仮リンク|サンゴヘビモドキ属|en|Atractus}}、{{仮リンク|マイマイヘビ属|en|Dipsas}}、{{仮リンク|キロニウスヘビ属|en|Chironius}}、{{仮リンク|アメリカツルヘビ属|en|Oxybelis}}、{{仮リンク|ムスラナ|en|Clelia clelia}}、{{仮リンク|マルガシラツルヘビ属|en|Imantodes}}、{{仮リンク|ネコメヘビ属|en|Leptodeira}}、[[サンゴヘビ属]]、[[ボア・コンストリクター]]、[[エメラルドツリーボア]]、{{仮リンク|アマゾンツリーボア|en|Corallus hortulana}}、{{仮リンク|ヤジリハブ属|en|Bothrops}}、[[ブッシュマスター]]、[[サンゴパイプヘビ]]が挙げられる<ref name=":1" />。

== 脚注 ==
{{Reflist}}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

2024年2月12日 (月) 15:39時点における最新版

ヤスニ生物圏保護区(ヤスニせいぶつけんほごく、西: Parque Nacional Yasuní)は、エクアドル北東部のナポ州内、アマゾン地域に位置している自然保護区である。エクアドルの国立公園に指定されている。

基礎データ

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  • 総面積:168万2,000ヘクタール
  • 核心地域:50万ヘクタール
  • 緩衝地帯:70万ヘクタール
  • 推定移行地域:48万2,000ヘクタール
  • 緯度:南緯00度10分 - 1度45分
  • 経度:西経75度20分 - 77度00分
  • 標高:200 - 300メートル

概要

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アマゾンの平野部にありながら、地形は非常に曲がりくねったものになっている。アンデス山脈の丘陵地帯を源流とするナポ川を除き、国立公園内を走る何本もの川は海抜300-600メートルの高さから流れ出ている。アンデス山脈の丘陵と交互に現れる平たんな低地が特徴的であり、ギアナ高地ブラジル高原に挟まれた盾状地のうち、コロンビア南部からペルーにまたがる部分にあり、傾斜の緩やかな階段状地形をなしている。

植生はおもに以下の3つに分けられる。起伏に富んだこの地域の頂点をなし、洪水によって浸水されることのない高台(ティエラ・フィルメ)、森林地帯でしばしば洪水に見舞われる氾濫原(バルセア)、そしてほぼ常に水に浸っているイガポースペイン語版林である。

コノナコ川英語版には古くからワオラニ英語版キチュア英語版コファン英語版シュアル英語版セコヤ英語版シオナ英語版といった先住民の共同体が移住してきた[1]。9,800人以上の人々がコーヒーバナナユカポーポー柑橘類トウモロコシベニノキなどの栽培漁撈を営んだり、森林のなかで狩猟や採集をして暮らしている。

この保護区は1989年にユネスコ生物圏保護区に指定され[2][3]、毎年およそ150人の人々が訪れている。エクアドル石油公社による油田開発は、現地の人々の暮らしや自然生態系など、コミュニティのありかたに影響を及ぼしている。生物圏保護区は自然生態系を保護し法的正当性を与え、またありのままの状態をとどめさせること、地域計画や農村開発の振興、土地利用や環境教育における地域の参加を奨励することを目的としている。

また、保護区内の湿地は2017年にラムサール条約登録地となった[1]

主要植物相

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主に Macrolobium acaciifoliumMyroxylon balsamumPlatymiscium stipulareインガ属英語版Inga)(マメ科)、Coussapoa trinerviaイラクサ科)、Reldia multifloraNautilocalyx glanduliferイワタバコ科)、クリソバラヌス科リカニア属英語版Licania)、フトモモ科エウゲニア属英語版Eugenia)、バンレイシ科クレマトスペルマ属英語版Cremastosperma)、グアッテリア属英語版Guatteria)、ポルチェリア属英語版Porcelia)、ローリニア属英語版Rollinia)、サトイモ科アンスリウム属オオミテングヤシなどのヤシ類ラン科シダ類などの熱帯林が自生する[2][1]。高台のティエラ・フィルメ、季節によって浸水するバルセア林、永久的湖もしくは半永久的湖内のイガポー林からなる。農業生態系はアラビアコーヒーノキCoffea arabica)、ユカManihot esculenta)、Oryza sativa)、サトウキビ(サトウキビ属)などである。

動物相

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保護区内には11目31科の204種の哺乳類がおり、うち80%は夜行性の大型哺乳類である。固有種ヒメアメリカフルーツコウモリ英語版ヨツバトゲネズミ英語版ヘンディートゲネズミ英語版の3種類しかおらず、そのほかにナミチスイコウモリを含むコウモリハイイロアグーチ英語版クチジロペッカリー英語版クビワペッカリーマザマ属パカ英語版カピバラアメリカバクココノオビアルマジロピューマケナガクモザル英語版アマゾンカワイルカオオカワウソアマゾンマナティーコビトイルカなどが生息している[2][1]

保護区内には610種の鳥類が生息している。シャクケイ類英語版コンゴウインコオオハシのほか、ホウカンチョウ属英語版チャバラホウカンチョウ属英語版ラッパチョウ英語版ヒメシギダチョウ属ハシボソシギダチョウ属オナガヤシアマツバメ英語版ユミハシハチドリ属英語版エメラルドハチドリ属英語版タチヨタカ属ナンベイレンカクヤマセミ属英語版ハチクイモドキ属ツバメトビオウギワシなどが挙げられる[2]

保護区内には139種の両生類と62種のヘビを含む121種の爬虫類が生息している。両生類としてはアマガエル科DendropsophusHypsiboasOsteocephalusScinax4つの属、ヘビとしてはサンゴヘビモドキ属英語版マイマイヘビ属英語版キロニウスヘビ属英語版アメリカツルヘビ属英語版ムスラナ英語版マルガシラツルヘビ属英語版ネコメヘビ属英語版サンゴヘビ属ボア・コンストリクターエメラルドツリーボアアマゾンツリーボア英語版ヤジリハブ属英語版ブッシュマスターサンゴパイプヘビが挙げられる[2]

脚注

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  1. ^ a b c d Complejo de Humedales Cuyabeno Lagartococha Yasuní | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2018年6月14日). 2023年3月23日閲覧。
  2. ^ a b c d e Yasuní Biosphere Reserve, Ecuador” (英語). UNESCO (2018年9月27日). 2023年3月23日閲覧。
  3. ^ ヤスニITTイニシアティブ”. UNDP. 2024年2月13日閲覧。

外部リンク

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