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[[File:Forest products - US Forest Service - October 2017 03.jpg|thumb|最も一般的なバイオマスである木]]
{{出典の明記|date=2008年6月}}

{{再生可能エネルギー}}
{{再生可能エネルギー}}
'''バイオマス'''({{lang-en-short|biomass}})とは、[[生態学]]で、特定の時点においてある空間に存在する[[生物]](バイオ)の量を、物質(マス)の量として表現したものである。通常、[[質量]]あるいは[[エネルギー]]量で数値化する。[[日本語]]では'''生物体量'''や'''生物量'''の語が用いられる。[[植物]]生態学などの場合には現存量<ref>{{lang-en-short|standing crop}}</ref>の語が使われることも多い。転じて生物由来の[[資源]]を指すこともある。

バイオマスの利用法には[[燃料]]とするものがあり、その場合[[バイオ燃料]](Biofuel)またはエコ燃料<ref>{{lang-en-short|ecofuel}}</ref>、[[木質燃料]]といった言葉が使われる。
'''バイオマス'''({{lang-en-short|biomass}})とは、[[生態学]]で、特定の時点においてある空間に存在する生物(バイオ)の量を、物質(マス)の量として表現したものである。通常、[[質量]]あるいは[[エネルギー]]量で数値化する。[[日本語]]では'''生物体量'''や'''生物量'''の語が用いられる。[[植物]]生態学などの場合には現存量<ref>{{lang-en-short|standing crop}}</ref>の語が使われることも多い。転じて生物由来の[[資源]]を指すこともある。バイオマスを用いた[[燃料]]は、[[バイオ燃料]](biofuel)またはエコ燃料<ref>{{lang-en-short|ecofuel}}</ref>と呼ばれている。
またバイオマスを燃焼させて発電することを[[バイオマス発電]]という。


== 生態学におけるバイオマス ==
== 生態学におけるバイオマス ==
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== 産業資源としてのバイオマス ==
== 産業資源としてのバイオマス ==
[[File:Biomass By Fuel Category, Sweden.png|thumb|燃料として用いられるバイオマスの比率を表したグラフ]]
[[枯渇性資源]]ではない、現生[[生体物質|生物体構成物質]]起源の[[産業]][[資源]]をバイオマスと呼ぶ。新技術として[[乾留]][[合成ガス|ガス]]化[[発電]]を用いたエネルギー利用が脚光を浴びている。2002年(平成14年)12月に閣議決定した、バイオマスの利活用推進に関する具体的取組や行動計画「バイオマス・ニッポン総合戦略」では、「[[再生可能エネルギー|再生可能]]な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されている<ref>{{Wayback |url=http://www.maff.go.jp/j/biomass/index.html |title=「バイオマス・ニッポン総合戦略」本文 1ページ |date=20180504012724}} - 農林水産省</ref>。バイオマス資源活用促進事業では、「化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することにより、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスのひとつであるCO<sub>2</sub>の排出削減に大きく貢献することができる<ref name="riswme">[http://www.riswme.co.jp/biomass/about/index.html バイオマスとは?] 廃棄物工学研究所</ref>」、としている。
[[枯渇性資源]]ではない、現生[[生体物質|生物体構成物質]]起源の[[産業]][[資源]]をバイオマスと呼ぶ。

[[乾留]][[合成ガス|ガス]]化([[バイオガス]])、ペレット化([[木質ペレット]])して燃焼させる[[バイオマス発電]]が脚光を浴びている。2002年(平成14年)12月に閣議決定した、バイオマスの利活用推進に関する具体的取組や行動計画「バイオマス・ニッポン総合戦略」では、「[[再生可能エネルギー|再生可能]]な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されている<ref>{{Wayback |url=http://www.maff.go.jp/j/biomass/index.html |title=「バイオマス・ニッポン総合戦略」本文 1ページ |date=20180504012724}} - 農林水産省</ref>。[[再生可能エネルギー]]という性質を持つため、[[カーボンニュートラル]]や[[地球温暖化]]の文脈で言及される。バイオマス資源活用促進事業では、「化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することにより、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスのひとつであるCO<sub>2</sub>の排出削減に大きく貢献することができる<ref name="riswme">[http://www.riswme.co.jp/biomass/about/index.html バイオマスとは?] 廃棄物工学研究所</ref>」としているが、[[木質燃料]]([[木質ペレット]])の利用については批判の声が大きくなっている。
=== バイオマスの特徴 ===
; カーボンニュートラル
: バイオマスは[[有機物]]であるため、燃焼させると[[二酸化炭素]]が排出される。しかしこれに含まれる[[炭素]]は、そのバイオマスが成長過程で[[光合成]]により[[大気]]中から吸収した二酸化炭素に由来する。そのため、バイオマスを使用しても全体として見れば大気中の二酸化炭素量を増加させていないと考えてよいとされる。この性質を[[カーボンニュートラル]]と呼ぶ。
: [[石油]]などのいわゆる[[化石燃料]]に含まれる炭素もかつての大気中の二酸化炭素が固定されたものであると考えられているが、それらが生産されたのは数億年も昔のことであり、現在に限って言えばそれらを使用することは大気中の二酸化炭素を増加させている。従って、化石燃料についてはカーボンニュートラルであるとは言わない。
; 再生可能性
: バイオマスエネルギーの源は、元を辿れば[[植物]]によって取り込まれた[[太陽エネルギー]]である。このため、正味でエネルギーが獲得できれば[[再生可能エネルギー]]である。


=== 利用状況 ===
=== 利用状況 ===
[[1990年代]]以降、バイオマスは二酸化炭素削減([[地球温暖化]]対策)、[[循環型社会]]の構築などの取り組みを通じて脚光を浴び、旧来の[[薪]]や[[炭]]などの利用に加え、[[バイオマスエタノール]]、[[バイオディーゼル]]など各種[[バイオマス燃料]]の利用拡大している<ref name="NEDO_994BIOMASS">[http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/994/994-01.pdf NEDO海外レポート No.994、2007年2月7日]</ref>。しかしその一方で生産のための[[森林破壊]]や[[食料]]との競合などの問題も指摘されており、より弊害の少ない技術の開発が進められているほか、技術水準に応じた規制も検討が進んでいる<ref name="Technobahn_20080115">[http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200801150518 Technobahn、2008/1/15 05:18の記事]</ref>。
[[1990年代]]以降、バイオマスは二酸化炭素削減([[地球温暖化]]対策)、[[循環型社会]]の構築などの取り組みを通じて脚光を浴び、旧来の[[薪]]や[[炭]]などの[[木質燃料]]の利用に加え、化学処理を施して[[バイオマスエタノール]]、[[バイオディーゼル]]などの形にしての利用拡大している<ref name="NEDO_994BIOMASS">[http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/994/994-01.pdf NEDO海外レポート No.994、2007年2月7日]</ref>。しかしその一方で生産のための[[森林破壊]]や[[食料]]との競合などの問題も指摘されており、より弊害の少ない技術の開発が進められているほか、技術水準に応じた規制も検討が進んでいる<ref name="Technobahn_20080115">[http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200801150518 Technobahn、2008/1/15 05:18の記事]</ref>。


==== 日本での取り組み ====
日本では、[[地方自治体]]や[[環境保護団体]]などが注目している<ref name="BIOMASS_HQ">[http://www.biomass-hq.jp/ バイオマス情報ヘッドクォーター]</ref>。そもそも[[高度経済成長|高度成長期]]以前の日本では、[[葉|落葉]]や[[排泄物|糞尿]]を[[肥料]]として利用していたほか、[[里山]]から得られる薪炭が[[エネルギー]]として活用されてきた。石油起源の資材、[[燃料]]などへの置換により、顧みられることが少なくなったが、近年、[[廃棄物]]処理コストの高騰などから高度利用を模索する自治体が増えている。またRPS法([[電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法]])施行に伴い、各[[電力会社]]では[[火力発電所]]での[[石炭]]と[[間伐材]]等との混焼が進められており、実証試験の段階から本格実施へと移行している<ref>[http://www.asiabiomass.jp/topics/090302_02.html 資源エネルギー庁が木質バイオマス混焼発電を推進(新エネルギー財団)]</ref>。
[[File:220115 Night view of Handa Biomass Power Plant.jpg|thumb|250px|right|{{center|[[愛知県]]の半田バイオマス発電所<br/>木質系バイオマスを利用<ref name="サミット">{{Cite web|和書|url=https://www.summit-handa-power.co.jp/ |title=サミット半田パワー株式会社 |publisher=サミット半田パワー株式会社ホームページ |accessdate=2022-01-15}}</ref>}}]]
日本では、[[地方公共団体|地方自治体]]や[[環境保護団体]]などが注目している<ref name="BIOMASS_HQ">[http://www.biomass-hq.jp/ バイオマス情報ヘッドクォーター]</ref>。そもそも[[高度経済成長|高度成長期]]以前の日本では、[[葉|落葉]]や[[排泄物|糞尿]]を[[肥料]]として利用していたほか、[[里山]]から得られる薪炭が[[エネルギー]]として活用されてきた。石油起源の資材、[[燃料]]などへの置換により、顧みられることが少なくなったが、近年、[[廃棄物]]処理コストの高騰などから高度利用を模索する自治体が増えている。またRPS法([[電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法]])施行に伴い、各[[電力会社]]では[[火力発電所]]での[[石炭]]と[[間伐材]]等との混焼が進められており、実証試験の段階から本格実施へと移行している<ref>[http://www.asiabiomass.jp/topics/090302_02.html 資源エネルギー庁が木質バイオマス混焼発電を推進(新エネルギー財団)]</ref>。


2002年(平成14年)12月、[[循環型社会]]を目指す長期戦略「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定。[[農林水産業]]からの畜産廃棄物、[[木材]]や[[藁]]、[[工芸作物]]などの[[有機物]]からのエネルギーや[[生分解性プラスチック]]などの生産、[[食品産業]]から発生する廃棄物、副産物の活用を進めており、「[[バイオマスタウン]]」等の構想がある。
=== 日本政府の取り組み ===
2002年(平成14年)12月、[[循環型社会]]を目指す長期戦略「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定。[[農林水産業]]からの畜産廃棄物、[[木材]]や[[藁]]、[[工芸作物]]などの[[有機物]]からのエネルギーや[[生分解性プラスチック]]などの生産、食品産業から発生する廃棄物、副産物の活用を進めており、「[[バイオマスタウン]]」等の構想がある。


しかしながら、2003年度から2008年度までに214事業が実施されているものの、効果があると判断されたのは全体の16%の35事業であり、[[総務省]]は事業改善を求めている<ref>{{Cite web
しかしながら、2003年度から2008年度までに214事業が実施されているものの、効果があると判断されたのは全体の16%の35事業であり、[[総務省]]は事業改善を求めている<ref>{{Cite web|和書
|url=http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819481E3E7E2E2E68DE3E7E2E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;at=ALL
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|title=政府バイオマス関連事業、8割以上効果なし 総務省
|title=政府バイオマス関連事業、8割以上効果なし 総務省
|publisher=日本経済新聞
|publisher=日本経済新聞
|accessdate=2011-02-15
|accessdate=2011-02-15
}}</ref>。2011年3月には総務省の報告書においてこれまでの政策の評価が行われ、バイオマス関連施設の約7割が赤字であるなど、厳しい状況にあることが指摘されている<ref name="Soumu201103">[http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/39714.html バイオマスの利活用に関する政策評価<評価結果及び勧告>、総務省、2011年3月]</ref>。特に林地残材の98%、食品廃棄物や農作物非食用部の70%以上が活用されていないなどの課題が指摘されており、関係各省に対して利用促進の勧告が行われている<ref name="Soumu201103"/>。
}}</ref>。2011年3月には総務省の報告書においてこれまでの政策の評価が行われ、バイオマス関連施設の約7割が赤字であるなど、厳しい状況にあることが指摘されている<ref name="Soumu201103">[https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/39714.html バイオマスの利活用に関する政策評価<評価結果及び勧告>、総務省、2011年3月]</ref>。特に林地残材の98%、食品廃棄物や農作物非食用部の70%以上が活用されていないなどの課題が指摘されており、温暖化問題・廃棄物問題の両面から関係各省に対してバイオマスの利用促進の勧告が行われている<ref name="Soumu201103"/><ref name="riswme" />。


=== 主なバイオマス資源 ===
=== 主なバイオマス資源 ===
[[File:Rice chaffs.jpg|thumb|Rice_chaffs([[籾殻]])]]
温暖化問題・廃棄物問題の両面からバイオマス利活用の推進に取り組んでいる<ref name="riswme" />。
日本では廃棄物系、未利用系、資源作物系の3つに大別される<ref>[https://www.takeei.co.jp/gpw/biomass/chap01.html バイオマスってなに?-生きた資源「バイオマス」|市原グリーン電力株式会社 ]</ref><ref>[https://www.maff.go.jp/chushi/biomass/nanndarou/index.html バイオマスって何だろう?:中国四国農政局 ]</ref>が、[[木質ペレット]]を利用した大規模バイオマス発電の発展により、木質系バイオマス([[木質燃料]])の利用が拡大している。
* 廃棄物系バイオマス - 廃棄される[[紙]]、[[合成樹脂|プラスチック]]、[[家畜]][[排泄物|糞尿]]、[[生ごみ|食品廃棄物]]、[[産業廃棄物|建設廃材(ガラ)]]、製材工場残材、[[黒液]]、[[下水]][[汚泥]]、等

* 未利用バイオマス - [[稲]][[藁]]、[[麦]][[藁]]、[[籾殻]]、林地残材([[間伐材]]・被害木など)、[[工芸作物|資源作物]]、[[飼料]][[作物]]、[[デンプン]]系作物、等
* 廃棄物系バイオマス - 廃棄される[[紙]]、[[合成樹脂|プラスチック]]、[[家畜]][[排泄物|糞尿]]、[[生ごみ|食品廃棄物]]、[[産業廃棄物|建設廃材(ガラ)]]、製材工場残材、[[黒液]]、[[下水]][[汚泥]]等
* 未利用バイオマス - [[稲]][[藁]]、[[麦]][[藁]]、[[籾殻]]、林地残材([[間伐材]]・被害木など)等
* 資源作物 - エネルギーや製品の製造を目的に栽培される植物。[[さとうきび]]、[[トウモロコシ]]、産業用大麻等
* 資源作物 - エネルギーや製品の製造を目的に栽培される植物。[[さとうきび]]、[[トウモロコシ]]、産業用大麻等
バイオマスから得られるエネルギーのことをバイオエネルギー、またはバイオマスエネルギーとも言う。
バイオマスから得られるエネルギーのことをバイオエネルギー、またはバイオマスエネルギーとも言う。
<gallery>
Drva.JPG|木
Spitzenstein (SO).jpg|藁
</gallery>


=== 利用形態 ===
=== 利用形態 ===
[[File:Sandakan Sabah Seguntor-Bioenergy-Biomass-Power-Plant-02.jpg|thumb|バイオマス発電所]]
* 乾留ガス化発電方式による発電
* 燃焼させて[[汽力発電]]([[バイオマス発電]])
* [[ボイラー]]による[[蒸気]]回収
* [[バイオプラスチック]]( [[生分解性プラスチック]]を含む)
* [[アルコール]]を中心とした利用(利用形態・経済性については[[アルコール燃料]]の項も参照)
* [[堆肥]]


=== 供給形態 ===
=== 供給形態 ===
[[File:Biomass to liquid.jpg|thumb|[[バイオディーゼル]]]]
* バイオマスをそのまま利用([[薪]])
* 家畜等糞尿などからの[[メタン]]の[[精製]]([[バイオガス]])
* 家畜等糞尿などからの[[メタン]]の[[精製]]([[バイオガス]])
* [[木部|木質]]廃材など[[セルロース]]系からの[[エタノール]]の抽出
* [[木部|木質]]廃材など[[セルロース]]系からの[[バイオエタノール]]の抽出
* 廃[[食用油]]などの[[自動車]]燃料化
* 廃[[食用油]]などの[[自動車]]燃料化
* 生物起源の可燃廃棄物([[廃棄物固形燃料]]、[[木質ペレット]])などの直接[[燃焼]]
* 生物起源の可燃廃棄物([[廃棄物固形燃料]]、[[木質ペレット]])などの直接[[燃焼]]
* 木質バイオマス発電
* [[木質バイオマス]]を乾留しガス化、[[水素]]、[[合成ガス]]、[[メタノール]]の生成
* 木質バイオマスのガス化による[[水素]]、[[合成ガス]]、[[メタノール]]の生成
* [[製紙]][[パルプ]]製造工程での[[黒液]]バイオマス発電([[ソーダ回収ボイラー]])
* [[製紙]][[パルプ]]製造工程での[[黒液]]バイオマス発電([[ソーダ回収ボイラー]])


=== 利用上の留意点 ===
== 課題 ==
; 収集コスト
=== 収集コスト ===
: 地域内に広く分散していることが多く、収集・運搬・管理のコストがかかる。コストと[[温室効果ガス]]排出量を削減するためには効率的な収集が必要であり、大規模になるほどコストダウンが容易になるとされる<ref name="Biomass_Cost1">[http://www.civil.miyazaki-u.ac.jp/~dyken/ronbun/ronbun/01baba.pdf http://www.civil.miyazaki-u.ac.jp/~dyken/ronbun/ronbun/01baba.pdf]</ref>。
バイオマスは地域内に広く分散していることが多く、収集・運搬・管理のコストがかかる。コストと[[温室効果ガス]]排出量を削減するためには効率的な収集が必要であり、大規模になるほどコストダウンが容易になるとされる<ref name="Biomass_Cost1">[http://www.civil.miyazaki-u.ac.jp/~dyken/ronbun/ronbun/01baba.pdf http://www.civil.miyazaki-u.ac.jp/~dyken/ronbun/ronbun/01baba.pdf]</ref>。

; エネルギー(熱量)
=== エネルギー(熱量)の密度の低さ ===
: 下水汚泥([[脱水ケーキ]])・木質(乾燥)・食品残渣・[[茶]]かす・わら屑などは、乾燥状態で4.8[[カロリー|Mcal]]/[[キログラム|kg]](20[[ジュール#メガジュール|MJ]]/kg)前後と[[灯油]]の半分程度であるが、ガス化した際のエネルギー変換率は70%と高いため、[[燃焼ガス]]への利用に向いている{{要出典|date=2008年6月}}。
下水汚泥([[脱水ケーキ]])・木質(乾燥)・食品残渣・[[茶]]かす・わら屑などは、乾燥状態で4.8[[カロリー|Mcal]]/[[キログラム|kg]](20[[ジュール#メガジュール|MJ]]/kg)前後と[[灯油]]([[化石燃料]])の半分程度と低く、燃料として見た場合[[輸送]]の過程で多量のCO2を放出する。
; 含水比
そのため海外から輸入するなど長距離輸送する場合、熱量あたりのCO2放出量は化石燃料を上回ってしまう。
: 水を多く含む場合、乾燥させるのにかかるエネルギーと燃料として取り出せるエネルギーとの関係が問題視される。[[アオサ]]・[[コンブ|昆布]]・[[牛乳]]・[[おから]]・糞尿類・生ごみは[[含水比]]が80%以上であり、乾燥工程が不要な[[メタン生成経路|メタン発酵]]での利用に向いている。なお、[[バイオエタノール]]の製造においては、生産される以上のエネルギーを消費しているケースがあるとされる{{要出典|date=2008年6月}}。

; 食料とのトレードオフ{{main|食料 VS 燃料}}
=== 高含水率 ===
: 可食部を原料とするバイオマス利用は、食料生産と燃料生産との[[トレードオフ]]が懸念されている<ref>[http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20080504-OYT1T00232.htm バイオ燃料用作物、無秩序栽培は生態系破壊…国連報告書] 読売新聞、2008年(平成20年)5月4日。</ref>。これは主にバイオエタノールにおいて指摘されているが、既に[[2007年]]の時点で[[穀物]]の値上がりの原因となっている。日本では飼料作物である米国産[[トウモロコシ]]の値上げによる[[肉|肉類]]の値上げなどが心配されているが、世界的には耕作における[[水資源]]の不足から、貧しい国における[[食糧危機]]が懸念されている<ref name="フード・セキュリティー">{{Cite journal |和書|author=レスター ブラウン | author2=|title=フード・セキュリティー―だれが世界を養うのか| publisher=ワールドウォッチジャパン |journal=|asin= |isbn=978-4948754225 | date=2005年4月|pages=|url=}}</ref>。
[[File:Wood fire boxes drying in air and sun.jpg|thumb|木の乾燥]]
: 非可食部の[[セルロース]]等を利用すれば食料とのトレードオフは発生しないため、政策的な規制等も含め、今後はそのような方向が模索されることが期待される<ref name="MRI_BIOMASS">[http://www.mri.co.jp/COLUMN/TODAY/INOUET/2007/1225IT.html 三菱総合研究所、バイオ燃料とライフサイクルアセスメント〜良いバイオ燃料、悪いバイオ燃料の選別〜、2007.12.25]</ref>。各国で食料や[[飼料]]用の穀物の生産と競合しない資源的な制約の少ない原材料で製造する[[第二世代バイオ燃料]]に関する研究が進められ、セルロース系原料を効率的にエタノール等に変換する研究にも期待がもたれている<ref name="WiredVision_20060208">[http://wiredvision.jp/archives/200602/2006020804.html" WiredVision、2006年2月8日の記事]</ref><ref name="kuramae">[http://www.kuramae-bioenergy.jp/k_column/?p=41 セルロースを分解しディーゼル、アルコール等を作る新しい微生物]</ref><ref>[http://www.rs.jx-group.co.jp/library/files/20130215_write.pdf 正念場を迎えた米国の第二世代バイオエタノール(2)]</ref><ref>[http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/0627.pdf 食料と競合しないバイオ燃料]</ref>。また、[[シロアリ]]の[[消化器官]]内の[[共生菌]]によるセルロース分解プロセスが[[バイオマスエタノール]]の製造に役立つ事が期待され、[[琉球大学]]や[[理化学研究所]]等で研究が進められる<ref>[https://www.asiabiomass.jp/topics/1003_02.html シロアリによるバイオエタノール製造に弾み]</ref><ref>[http://wired.jp/2006/02/16/シロアリがエタノール生産の救世主に?-代替燃料/ シロアリがエタノール生産の救世主に? 代替燃料技術の現在]</ref><ref>[http://www.nedo.go.jp/content/100105249.pdf シロアリの腸からバイオ燃料生産効率を高める新酵素を発見]</ref><ref>[http://www.jgi.doe.gov/News/news_11_21_07.html 国エネルギー省(DOE: Department of Energy)の共同ゲノム研究所]</ref><ref>{{Cite news | last = | first = | coauthors = | title = 廃材をバイオ燃料に | newspaper =[[沖縄タイムス]] | location = 沖縄 | pages = 1面 | language = | publisher = 沖縄タイムス | date = 2008年7月3日 | url = | accessdate =}}</ref><ref>[http://www.kuramae-bioenergy.jp/column/?p=1336 シロアリの新しい利用法]</ref><ref>[http://www.riken.jp/pr/press/2010/20100120/ シロアリ腸内共生系の高効率木質バイオマス糖化酵素を網羅的に解析]</ref><ref>[http://www.naro.affrc.go.jp/brain/kisoken/files/h23013seika013.pdf バイオエネルギー生産のためのシロアリ共生系高度利用技術の基盤的研究]</ref>。
バイオマスは通常水を多く含む。燃料として使用する場合は乾燥させる必要があり、そのためのエネルギーや時間、場所が大きなコストとなる。
; 耕地の確保
[[アオサ]]・[[コンブ|昆布]]・[[牛乳]]・[[おから]]・糞尿類・生ごみは[[含水比]]が80%以上であり、乾燥工程が不要な[[メタン生成経路|メタン発酵]]での利用に向いているとされる。
: 現時点では[[農地]]の大部分は[[食糧]]を確保するために利用されているが、これに加えてバイオマス燃料を収穫するための耕地が必要となれば、さらなる耕地の拡大が求められ、たとえば[[熱帯雨林]]の[[伐採]]が進む恐れがある<ref name="MRI_BIOMASS2">[http://www.mri.co.jp/COLUMN/TODAY/INOUET/2008/0307IT.html 三菱総合研究所、バイオ燃料と[[ライフサイクルアセスメント]] ~良いバイオ燃料、悪いバイオ燃料の選別(2)~、2008.3.7]</ref>。また、耕地の拡大により、世界的に不足が懸念されている水資源が一層枯渇する可能性が指摘されている{{要出典|date=2008年6月}}。

; 加工コスト
=== 食料とのトレードオフ ===
: [[薪]]・[[ウッドチップ|木材チップ]]などはそのままエネルギーとして消費できるにもかかわらず、あえて加工して消費している例として、[[木質ペレット]]がある。山から切り出した[[材木]]や廃材は、比較的少ない手間で薪や木材チップに加工でき、[[薪ストーブ]]やチップボイラーなどの燃料として利用することができる。これに対して木質ペレットは、化石燃料や[[電力]]を消費するプラントにおいて製造され、[[ペレットストーブ]]の使用時には電気[[送風機|ファン]]による送風などのための補助的なエネルギーが必要ではないことがわかった。
[[File:YELLOW CORN.jpg|thumb|トウモロコシ]]
{{main|食料 VS 燃料}}
可食部を原料とするバイオマス利用は、食料生産と燃料生産との[[トレードオフ]]が懸念されている<ref>[http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20080504-OYT1T00232.htm バイオ燃料用作物、無秩序栽培は生態系破壊…国連報告書] 読売新聞、2008年(平成20年)5月4日。</ref>。
これは主にバイオエタノールにおいて指摘されているが、既に[[2007年]]の時点で[[穀物]]の値上がりの原因となっている。日本では飼料作物である米国産[[トウモロコシ]]の値上げによる[[食肉|肉類]]の値上げなどが心配されているが、世界的には耕作における[[水資源]]の不足から、貧しい国における[[食糧危機]]が懸念されている<ref name="フード・セキュリティー">{{Cite journal |和書|author=レスター ブラウン | author2=|title=フード・セキュリティー―だれが世界を養うのか| publisher=ワールドウォッチジャパン |journal=|asin= |isbn=978-4948754225 | date=2005年4月|pages=|url=}}</ref>。
非可食部の[[セルロース]]等を利用すれば食料とのトレードオフは発生しないため、政策的な規制等も含め、今後はそのような方向が模索されることが期待される<ref name="MRI_BIOMASS">[http://www.mri.co.jp/COLUMN/TODAY/INOUET/2007/1225IT.html 三菱総合研究所、バイオ燃料とライフサイクルアセスメント〜良いバイオ燃料、悪いバイオ燃料の選別〜、2007.12.25]</ref>。各国で食料や[[飼料]]用の穀物の生産と競合しない資源的な制約の少ない原材料で製造する[[第二世代バイオ燃料]]に関する研究が進められ、セルロース系原料を効率的にエタノール等に変換する研究にも期待がもたれている<ref name="WiredVision_20060208">[http://wiredvision.jp/archives/200602/2006020804.html" WiredVision、2006年2月8日の記事]</ref><ref name="kuramae">[http://www.kuramae-bioenergy.jp/k_column/?p=41 セルロースを分解しディーゼル、アルコール等を作る新しい微生物]</ref><ref>[http://www.rs.jx-group.co.jp/library/files/20130215_write.pdf 正念場を迎えた米国の第二世代バイオエタノール(2)]</ref><ref>[http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/0627.pdf 食料と競合しないバイオ燃料]</ref>。また、[[シロアリ]]の[[消化器官]]内の[[共生菌]]によるセルロース分解プロセスが[[バイオマスエタノール]]の製造に役立つ事が期待され、[[琉球大学]]や[[理化学研究所]]等で研究が進められる<ref>[https://www.asiabiomass.jp/topics/1003_02.html シロアリによるバイオエタノール製造に弾み]</ref><ref>[http://wired.jp/2006/02/16/シロアリがエタノール生産の救世主に?-代替燃料/ シロアリがエタノール生産の救世主に? 代替燃料技術の現在]</ref><ref>[http://www.nedo.go.jp/content/100105249.pdf シロアリの腸からバイオ燃料生産効率を高める新酵素を発見]</ref><ref>[http://www.jgi.doe.gov/News/news_11_21_07.html 国エネルギー省(DOE: Department of Energy)の共同ゲノム研究所]</ref><ref>{{Cite news | last = | first = | coauthors = | title = 廃材をバイオ燃料に | newspaper =[[沖縄タイムス]] | location = 沖縄 | pages = 1面 | language = | publisher = 沖縄タイムス | date = 2008年7月3日 | url = | accessdate =}}</ref><ref>[http://www.kuramae-bioenergy.jp/column/?p=1336 シロアリの新しい利用法]</ref><ref>[http://www.riken.jp/pr/press/2010/20100120/ シロアリ腸内共生系の高効率木質バイオマス糖化酵素を網羅的に解析]</ref><ref>[http://www.naro.affrc.go.jp/brain/kisoken/files/h23013seika013.pdf バイオエネルギー生産のためのシロアリ共生系高度利用技術の基盤的研究]</ref>。

=== 耕地の確保 ===
現時点では[[農地]]の大部分は[[食糧]]を確保するために利用されているが、これに加えてバイオマス燃料を収穫するための耕地が必要となれば、さらなる耕地の拡大が求められ、たとえば[[熱帯雨林]]の[[伐採]]が進む恐れがある<ref name="MRI_BIOMASS2">[http://www.mri.co.jp/COLUMN/TODAY/INOUET/2008/0307IT.html 三菱総合研究所、バイオ燃料と[[ライフサイクルアセスメント]] ~良いバイオ燃料、悪いバイオ燃料の選別(2)~、2008.3.7]</ref>。また、耕地の拡大により、世界的に不足が懸念されている水資源が一層枯渇する可能性が指摘されている{{要出典|date=2008年6月}}。

=== 森林破壊 ===
不要物を有効利用し燃料とするのではなく、燃料のために森林を伐採しバイオマス発電とする事に対し、非難の声が上がっている。
またこの場合森林面積は減少しているためカーボンニュートラルとはならない。

=== 加工コスト ===
[[File:Pelet ot Ukrajna BOR - st. zago 2 hroma.JPG|thumb|木質ペレット]]
[[薪]]・[[ウッドチップ|木材チップ]]などはそのまま燃料として使えるが、[[バイオマス発電]]では発電所の運転の効率化のために[[木質ペレット]]に加工した上で燃焼させている。
加工や輸送のためのエネルギーは通常化石燃料が用いられる。


=== 資材 ===
=== 悪臭 ===
[[File:Inside view of composter (with temperature gauge and mixing device) (3507772695).jpg|thumb|発酵コンポスター]]
* [[コーンスターチ|トウモロコシでんぷん]]など - [[生分解性プラスチック]]へ
バイオマスは汚物や発酵処理を扱うことがあり、その処理過程で[[悪臭]]を発する。またバイオマス発電所でエネルギーを取り出す際にも[[騒音]]や悪臭を伴う。京都府・福知山市ではパーム油を燃料とするバイオマス発電所が、稼働後に周辺住民からの苦情が殺到し、最終的に稼働停止となった<ref>[https://www.kyoto-minpo.net/archives/2020/12/28/post-26104.php 福知山市・パーム油発電所が廃止に 騒音・悪臭で近隣住民が健康被害訴え公害調停申し立て | 京都民報Web — Mozilla Firefox]</ref><ref>[https://www.ryoutan.co.jp/articles/2020/12/91075/ 両丹日日新聞:住民から苦情出たバイオマス発電所を廃止 地元自治会に通知 | ニュース — Mozilla Firefox]</ref>。
*: バイオマスの[[乳酸発酵]]によって生成された[[乳酸]]から生分解プラスチックが生産される。
{{main|バイオマス発電}}
* トウモロコシでんぷんなどの未利用バイオマス - [[バイオプラスチック]]へ
* 生物起源の廃棄物など - [[堆肥]]へ


== 脚注・参照資料 ==
== 脚注 ==
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* [[バイオプラスチック]]
* [[バイオプラスチック]]
** [[ポリ乳酸]]
** [[ポリ乳酸]]
* [[バイオマスタウン]]
* [[バイオマスタウン]]
* [[電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法]] - '''RPS制度'''について
* [[電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法]] - '''RPS制度'''について
*[[固定価格買い取り制度]](FIT認定制度)
* {{ill2|リグノセルロース系バイオマス|en|Lignocellulosic biomass}}


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2024年3月6日 (水) 19:25時点における最新版

最も一般的なバイオマスである木

バイオマス: biomass)とは、生態学で、特定の時点においてある空間に存在する生物(バイオ)の量を、物質(マス)の量として表現したものである。通常、質量あるいはエネルギー量で数値化する。日本語では生物体量生物量の語が用いられる。植物生態学などの場合には現存量[1]の語が使われることも多い。転じて生物由来の資源を指すこともある。 バイオマスの利用法には燃料とするものがあり、その場合バイオ燃料(Biofuel)またはエコ燃料[2]木質燃料といった言葉が使われる。 またバイオマスを燃焼させて発電することをバイオマス発電という。

生態学におけるバイオマス

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生態学、特に群集生態学生態系生態学において、バイオマスとは特定地域に生息する生物の総量、あるいはその中の群ごとの総量を指し、訳語としては生物量、あるいは現存量を使う。むしろ訳語を用いることの方が多い。

一般には単位面積あたりの該当生物の乾重量で表す。単位面積あたりの現存量を生物の栄養段階に分けて表すと、階層の低いものほど大きく、高いものほど小さくなる。これを生態ピラミッドという。

産業資源としてのバイオマス

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燃料として用いられるバイオマスの比率を表したグラフ

枯渇性資源ではない、現生生物体構成物質起源の産業資源をバイオマスと呼ぶ。 乾留ガス化(バイオガス)、ペレット化(木質ペレット)して燃焼させるバイオマス発電が脚光を浴びている。2002年(平成14年)12月に閣議決定した、バイオマスの利活用推進に関する具体的取組や行動計画「バイオマス・ニッポン総合戦略」では、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されている[3]再生可能エネルギーという性質を持つため、カーボンニュートラル地球温暖化の文脈で言及される。バイオマス資源活用促進事業では、「化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することにより、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスのひとつであるCO2の排出削減に大きく貢献することができる[4]」としているが、木質燃料(木質ペレット)の利用については批判の声が大きくなっている。

利用状況

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1990年代以降、バイオマスは二酸化炭素削減(地球温暖化対策)、循環型社会の構築などの取り組みを通じて脚光を浴び、旧来のなどの木質燃料の利用に加え、化学処理を施してバイオマスエタノールバイオディーゼルなどの形にしての利用が拡大している[5]。しかしその一方で生産のための森林破壊食料との競合などの問題も指摘されており、より弊害の少ない技術の開発が進められているほか、技術水準に応じた規制も検討が進んでいる[6]

日本での取り組み

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愛知県の半田バイオマス発電所
木質系バイオマスを利用[7]

日本では、地方自治体環境保護団体などが注目している[8]。そもそも高度成長期以前の日本では、落葉糞尿肥料として利用していたほか、里山から得られる薪炭がエネルギーとして活用されてきた。石油起源の資材、燃料などへの置換により、顧みられることが少なくなったが、近年、廃棄物処理コストの高騰などから高度利用を模索する自治体が増えている。またRPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)施行に伴い、各電力会社では火力発電所での石炭間伐材等との混焼が進められており、実証試験の段階から本格実施へと移行している[9]

2002年(平成14年)12月、循環型社会を目指す長期戦略「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定。農林水産業からの畜産廃棄物、木材工芸作物などの有機物からのエネルギーや生分解性プラスチックなどの生産、食品産業から発生する廃棄物、副産物の活用を進めており、「バイオマスタウン」等の構想がある。

しかしながら、2003年度から2008年度までに214事業が実施されているものの、効果があると判断されたのは全体の16%の35事業であり、総務省は事業改善を求めている[10]。2011年3月には総務省の報告書においてこれまでの政策の評価が行われ、バイオマス関連施設の約7割が赤字であるなど、厳しい状況にあることが指摘されている[11]。特に林地残材の98%、食品廃棄物や農作物非食用部の70%以上が活用されていないなどの課題が指摘されており、温暖化問題・廃棄物問題の両面から関係各省に対してバイオマスの利用促進の勧告が行われている[11][4]

主なバイオマス資源

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Rice_chaffs(籾殻)

日本では廃棄物系、未利用系、資源作物系の3つに大別される[12][13]が、木質ペレットを利用した大規模バイオマス発電の発展により、木質系バイオマス(木質燃料)の利用が拡大している。

バイオマスから得られるエネルギーのことをバイオエネルギー、またはバイオマスエネルギーとも言う。

利用形態

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バイオマス発電所

供給形態

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バイオディーゼル

課題

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収集コスト

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バイオマスは地域内に広く分散していることが多く、収集・運搬・管理のコストがかかる。コストと温室効果ガス排出量を削減するためには効率的な収集が必要であり、大規模になるほどコストダウンが容易になるとされる[14]

エネルギー(熱量)の密度の低さ

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下水汚泥(脱水ケーキ)・木質(乾燥)・食品残渣・かす・わら屑などは、乾燥状態で4.8Mcal/kg(20MJ/kg)前後と灯油(化石燃料)の半分程度と低く、燃料として見た場合輸送の過程で多量のCO2を放出する。 そのため海外から輸入するなど長距離輸送する場合、熱量あたりのCO2放出量は化石燃料を上回ってしまう。

高含水率

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木の乾燥

バイオマスは通常水を多く含む。燃料として使用する場合は乾燥させる必要があり、そのためのエネルギーや時間、場所が大きなコストとなる。 アオサ昆布牛乳おから・糞尿類・生ごみは含水比が80%以上であり、乾燥工程が不要なメタン発酵での利用に向いているとされる。

食料とのトレードオフ

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トウモロコシ

可食部を原料とするバイオマス利用は、食料生産と燃料生産とのトレードオフが懸念されている[15]。 これは主にバイオエタノールにおいて指摘されているが、既に2007年の時点で穀物の値上がりの原因となっている。日本では飼料作物である米国産トウモロコシの値上げによる肉類の値上げなどが心配されているが、世界的には耕作における水資源の不足から、貧しい国における食糧危機が懸念されている[16]。 非可食部のセルロース等を利用すれば食料とのトレードオフは発生しないため、政策的な規制等も含め、今後はそのような方向が模索されることが期待される[17]。各国で食料や飼料用の穀物の生産と競合しない資源的な制約の少ない原材料で製造する第二世代バイオ燃料に関する研究が進められ、セルロース系原料を効率的にエタノール等に変換する研究にも期待がもたれている[18][19][20][21]。また、シロアリ消化器官内の共生菌によるセルロース分解プロセスがバイオマスエタノールの製造に役立つ事が期待され、琉球大学理化学研究所等で研究が進められる[22][23][24][25][26][27][28][29]

耕地の確保

[編集]

現時点では農地の大部分は食糧を確保するために利用されているが、これに加えてバイオマス燃料を収穫するための耕地が必要となれば、さらなる耕地の拡大が求められ、たとえば熱帯雨林伐採が進む恐れがある[30]。また、耕地の拡大により、世界的に不足が懸念されている水資源が一層枯渇する可能性が指摘されている[要出典]

森林破壊

[編集]

不要物を有効利用し燃料とするのではなく、燃料のために森林を伐採しバイオマス発電とする事に対し、非難の声が上がっている。 またこの場合森林面積は減少しているためカーボンニュートラルとはならない。

加工コスト

[編集]
木質ペレット

木材チップなどはそのまま燃料として使えるが、バイオマス発電では発電所の運転の効率化のために木質ペレットに加工した上で燃焼させている。 加工や輸送のためのエネルギーは通常化石燃料が用いられる。

悪臭

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発酵コンポスター

バイオマスは汚物や発酵処理を扱うことがあり、その処理過程で悪臭を発する。またバイオマス発電所でエネルギーを取り出す際にも騒音や悪臭を伴う。京都府・福知山市ではパーム油を燃料とするバイオマス発電所が、稼働後に周辺住民からの苦情が殺到し、最終的に稼働停止となった[31][32]

脚注

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  1. ^ : standing crop
  2. ^ : ecofuel
  3. ^ 「バイオマス・ニッポン総合戦略」本文 1ページ - ウェイバックマシン(2018年5月4日アーカイブ分) - 農林水産省
  4. ^ a b バイオマスとは? 廃棄物工学研究所
  5. ^ NEDO海外レポート No.994、2007年2月7日
  6. ^ Technobahn、2008/1/15 05:18の記事
  7. ^ サミット半田パワー株式会社”. サミット半田パワー株式会社ホームページ. 2022年1月15日閲覧。
  8. ^ バイオマス情報ヘッドクォーター
  9. ^ 資源エネルギー庁が木質バイオマス混焼発電を推進(新エネルギー財団)
  10. ^ 政府バイオマス関連事業、8割以上効果なし 総務省”. 日本経済新聞. 2011年2月15日閲覧。
  11. ^ a b バイオマスの利活用に関する政策評価<評価結果及び勧告>、総務省、2011年3月
  12. ^ バイオマスってなに?-生きた資源「バイオマス」|市原グリーン電力株式会社
  13. ^ バイオマスって何だろう?:中国四国農政局
  14. ^ http://www.civil.miyazaki-u.ac.jp/~dyken/ronbun/ronbun/01baba.pdf
  15. ^ バイオ燃料用作物、無秩序栽培は生態系破壊…国連報告書 読売新聞、2008年(平成20年)5月4日。
  16. ^ レスター ブラウン「フード・セキュリティー―だれが世界を養うのか」、ワールドウォッチジャパン、2005年4月、ISBN 978-4948754225 
  17. ^ 三菱総合研究所、バイオ燃料とライフサイクルアセスメント〜良いバイオ燃料、悪いバイオ燃料の選別〜、2007.12.25
  18. ^ " WiredVision、2006年2月8日の記事
  19. ^ セルロースを分解しディーゼル、アルコール等を作る新しい微生物
  20. ^ 正念場を迎えた米国の第二世代バイオエタノール(2)
  21. ^ 食料と競合しないバイオ燃料
  22. ^ シロアリによるバイオエタノール製造に弾み
  23. ^ シロアリがエタノール生産の救世主に? 代替燃料技術の現在
  24. ^ シロアリの腸からバイオ燃料生産効率を高める新酵素を発見
  25. ^ 国エネルギー省(DOE: Department of Energy)の共同ゲノム研究所
  26. ^ “廃材をバイオ燃料に”. 沖縄タイムス (沖縄: 沖縄タイムス): pp. 1面. (2008年7月3日) 
  27. ^ シロアリの新しい利用法
  28. ^ シロアリ腸内共生系の高効率木質バイオマス糖化酵素を網羅的に解析
  29. ^ バイオエネルギー生産のためのシロアリ共生系高度利用技術の基盤的研究
  30. ^ 三菱総合研究所、バイオ燃料とライフサイクルアセスメント ~良いバイオ燃料、悪いバイオ燃料の選別(2)~、2008.3.7
  31. ^ 福知山市・パーム油発電所が廃止に 騒音・悪臭で近隣住民が健康被害訴え公害調停申し立て | 京都民報Web — Mozilla Firefox
  32. ^ 両丹日日新聞:住民から苦情出たバイオマス発電所を廃止 地元自治会に通知 | ニュース — Mozilla Firefox

関連項目

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外部リンク

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