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「武器輸出三原則」の版間の差分

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'''武器輸出三原則'''(ぶきゆしゅつさんげんそく)とは、1976年から2014年までの間、[[日本国政府]]が採っていた武器[[輸出]]規制および運用面の原則のことである。「'''武器輸出禁止三原則'''」と呼ばれることもある<ref>{{Cite|和書|title=新課程 4ステージ演習ノート 現代社会 解答編|page=18|year=2012|author=数研出版編集部|publisher=[[数研出版]]|ISBN=9784410301032}}</ref>。政府答弁などで明らかにされていたものの、直接法律で規定されたものではなく、[[政令]]運用基準にとどまっていた<ref name="tomita"/>。また、「[[武器]]」の定義等を含めて議論があった<ref name="tomita"/>。
'''武器輸出三原則'''(ぶきゆしゅつさんげんそく)は[[日本]][[政府]]による[[武器]][[輸出]]規制の原則のことである。


[[2014年]]([[平成]]26年)4月1日に、武器輸出三原則に代わる新たな政府方針として『[[防衛装備移転三原則]]』が閣議決定された<ref name="nikkei20140401">{{Cite news |title=武器輸出、包括容認へ 政府が新原則を閣議決定 |newspaper= 日本経済新聞|date= 2014-04-01|url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS01003_R00C14A4000000/|accessdate=2014-04-01}}</ref>。
== 経緯 ==
=== 佐藤首相の三原則提議 ===
[[1967年]]([[昭和]]42年)[[4月21日]]に行われた[[佐藤栄作]][[内閣総理大臣|首相]]の[[衆議院]]決算委員会における答弁<ref>[http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/055/0106/05504210106005a.html 衆議院決算委員会1967年4月21日議事録]</ref>により、以下のような国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないこととした。
* [[東側諸国|共産圏]]諸国向けの場合
* [[国際連合決議|国連決議]]により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
* 国際[[紛争]]の当事国又はそのおそれのある国向けの場合


== 内容==
=== 三木首相による項目追加 ===
武器輸出三原則は、[[東側諸国|共産圏]]と[[国際連合決議]]による武器禁輸措置をとられた国、及び[[紛争]]地域への武器輸出を禁止したものであり、他の地域への武器輸出は「慎む」とされ、武器輸出そのものを禁止していたわけではない。しかし、日本は他の地域への武器輸出は「慎む」ようになってからは、原則として武器および武器製造技術、武器への転用可能な物品の輸出が禁じられていた。
[[1976年]](昭和51年)[[2月27日]]に行われた[[三木武夫]]首相の衆議院予算委員会における答弁<ref>[http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/077/0380/07702270380018a.html 衆議院予算委員会1976年2月27日議事録]</ref>により、佐藤首相の三原則にいくつかの項目が加えられた。
* 三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。
* 三原則対象地域以外の地域については[[日本国憲法|憲法]]及び外国為替法及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
* 武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。


武器輸出三原則の内容そのものを直接的に規定した法律は設けられなかった。ただし、[[外国為替及び外国貿易法]]と[[輸出貿易管理令]]によって、輸出の許可を司り、輸出貿易管理令別表第1が輸出許可品目名<ref group="注釈">輸出許可品目名は輸出に際して経済産業大臣の許可を必要とする品物を定めたもので、武器のみならず軍需転用可能な原子力、電子工学、通信、素材、加工技術等多岐にわたる。</ref>を規定しており、この規制対象品目は[[核拡散防止条約|核不拡散条約]]、[[生物兵器禁止条約]]、[[化学兵器禁止条約]]や[[ワッセナー・アレンジメント]](前身の[[対共産圏輸出統制委員会]])における規制対象とリンクしており、対象となる品目は適時追加され、武器の不正輸出における罰則は外為法に設けられた(3〜5年以下の懲役と科料)。また、輸出貿易管理令では「武器製造関連設備」も対象項目となっている<ref>輸出貿易管理令別表第一の第百九の項</ref><ref name="miki"/>。
また、武器輸出三原則における「武器」の定義を以下のようにした。
* 軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの
* 本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する[[護衛艦]]、[[戦闘機]]、[[戦車]]のようなもの


ただし、当初は外為法の不備があったため、[[日工展訴訟]]が発生し、1980年に外為法改正が行われた。
=== 後藤田官房長官の談話 ===
[[1983年]](昭和58年)[[1月14日]]に発せられた[[第1次中曽根内閣|中曽根内閣]]の[[後藤田正晴]][[内閣官房長官|官房長官]]による談話では以下の解釈が付け加えられた。
* [[日米安全保障条約]]の観点から[[アメリカ軍|米軍]]向けの武器技術供与を緩和することを武器輸出三原則の例外とする。


=== 政府答弁 ===
1983年11月8日。対米武器技術供与を日米相互防衛援助協定の関連規定の下で行うという基本的枠組みを定めた「日本国とアメリカ合衆国との間の相互援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器技術の供与に関する交換公文」が締結。
日本国政府は、1967年の[[佐藤栄作]][[内閣総理大臣]]の答弁で[[東側諸国|共産圏]]諸国・[[紛争]]当事国{{efn|name="toujikoku"|「紛争当事国」の定義としては「それぞれのその時の諸情勢を見て、通商産業省(現:経済産業省)が常に外務省と緊密な連絡を保ちながら協議をして判断する」<ref>衆議院商工委員会1969年7月8日通商産業省重工局長答弁及び衆議院予算委員会1982年6月25日通商産業省貿易局長答弁</ref>としている。政府が具体的な紛争当事国として国会で答弁した例としては「ベトナム戦争参戦国(南ベトナム、アメリカ、韓国、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド、タイ)」<ref>衆議院商工委員会1969年7月8日通商産業省重工局長答弁</ref>や「フォークランド紛争当時のイギリスとアルゼンチン」<ref>衆議院予算委員会1982年6月25日通商産業省貿易局長答弁</ref>がある。}}などへの輸出禁止確認にはじまり、とりわけ1976年の[[三木武夫]]総理大臣の答弁<ref name="miki"/>を歴代内閣が堅持してきた。三木答弁では、「武器輸出を'''慎む'''」と表現し「武器輸出の禁止」または「一切しない」という表現ではなかった<ref name="tomita">[http://ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/pdf/0726.pdf 冨田圭一郎「武器輸出三原則―その現況と見直し論議― 」][[国立国会図書館]]外交防衛課調査と情報726号(ISSUE BRIEF NUMBER 726)[[2011年]][[11月1日]]。 </ref>。またこの「慎む」という表現には、国際紛争を助長させない場合は、「慎む必要がない」ということも含意されていた<ref name="tomita"/>。しかしのちに[[田中六助]][[経済産業大臣|通産大臣(当時)]]は「原則としてだめだということ」と答弁した<ref>第94 回国会衆議院予算委員会議録第8号 昭和 56 年2 月14 日 p.30.(田中六助通産大臣)</ref><ref name="tomita"/>。


=== 対米武器技術供与 ===
=== 例外規定 ===
1983年の「対米武器技術供与についての内閣官房長官談話」<ref name="mod">[http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2004/2004/html/16s31.html 資料31 対米武器技術供与についての内閣官房長官談話]</ref>以降、[[アメリカ合衆国]]への武器技術供与は例外とされ、武器輸出が認められていた<ref name="tomita"/>。また、[[ミサイル防衛]]システム構築のための「武器」輸出もアメリカ合衆国に限定して認められていた<ref name="tomita"/>。このアメリカ例外規定については、アメリカ合衆国が「紛争当事国」であっても、例外規定は論理的には適用された<ref name="tomita"/>。
1984年11月。日米両国政府の協議機関として武器技術共同委員会(JMTC)が発足


このほか、アメリカ限定ではない例外規定として、テロ・海賊対策の場合は例外とされた<ref name="tomita"/>。
1985年12月27日。対米武器技術供与を実施するための細目取り決めが締結。


== 歴史 ==
日米間では武器技術供与は、技術ならびに技術の供与を実行あらしめるため必要な物品であって武器に該当するもの(試作品)に限定されており、その技術を用いてアメリカが生産した兵器を輸出することは許されていない。
=== 提議 ===
==== 前史 ====
1962年3月16日の[[衆議院]]商工委員会で[[経済産業省|通商産業省(当時)]]通商局長が「共産圏への武器輸出については、[[対共産圏輸出統制委員会|ココム]]の制度に基づいて輸出の可否を判断している」と答弁し、1965年5月7日に参議院決算委員会で外務省アジア局外務審議官が「直接戦争に関係のある武器や軍需物資は、輸出承認していない」と答弁していた。


また、1965年8月5日に衆議院科学技術振興対策特別委員会で通産省重工業局次長が「通産省の武器輸出の方針は、第一は、ココムの制限に従う、第二は、国連決議に基づく武器輸出禁止国には輸出ができない。第三は、国際紛争助長の恐れがある国に対する輸出については認めない」と答弁していた。
== 概略 ==
武器輸出三原則は、共産圏と国連決議による武器禁輸措置をとられた国、及び紛争地域への武器輸出を禁止したものであり、他の地域への武器輸出は「慎む」とされているため、武器輸出そのものを禁止しているわけではない。しかし、日本政府は三木首相の答弁を歴代内閣が堅持しており、基本的に武器および武器製造技術、武器への転用可能な物品の輸出をしていない。


==== 佐藤首相の三原則提議 ====
しかしながら、近年では民生のエレクトロニクス技術向上によって汎用品が容易に軍需用途をみたすことから、汎用品と軍用品の境界が曖昧になっている。また、発展途上国では、民生品として輸出されたピックアップトラックや4WD車両、トラックなどの車輌が軍需物資輸送の[[兵站]]を支えるのに使用されたり、機関銃などを搭載して[[テクニカル]]と呼ばれる即席戦闘車輌に改造されたりするなど軍民両用が可能な民生品が輸出先で軍事目的に利用された[[チャド内戦]]での[[トヨタ戦争]]の例もある。
[[輸出貿易管理令]]における事実上の「武器輸出禁止規定」については[[1967年]]([[昭和]]42年)[[4月21日]]に行われた[[佐藤栄作]][[内閣総理大臣|首相]]の[[衆議院]]決算委員会における答弁<ref name="sato">[https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=105504103X00519670421 衆議院決算委員会1967年4月21日議事録]</ref>により、以下のような国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないこととした。これが狭義の武器輸出三原則とされる<ref name="mofa">[https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/mine/sanngen.html 武器輸出三原則等]、外務省。全文:{{quotation| いま申しますように、防衛のために、また自国の自衛力整備のために使われるものならば差しつかえないのではないか、かように私は申しておるのであります。輸出貿易管理令で特に制限をして、こういう場合は送ってはならぬという場合があります。それはいま申し上げましたように、戦争をしている国、あるいはまた'''共産国向けの場合'''、あるいは'''国連決議により武器等の輸出の禁止がされている国向けの場合'''、それと'''ただいま国際紛争中の当事国またはそのおそれのある国向け'''、こういうのは輸出してはならない。こういうことになっております。これは厳に慎んでそのとおりやるつもりであります。|1967年(昭和42年)4月21日衆議院決算委員会、佐藤栄作内閣総理大臣答弁}}</ref>。
* 共産圏諸国向けの場合
* 国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
* 国際[[紛争]]の当事国{{efn|name="toujikoku"}}又はそのおそれのある国向けの場合
なお、佐藤栄作首相は「武器輸出を目的には製造しないが、輸出貿易管理令の運用上差し支えない範囲においては輸出することができる」と答弁しており、武器輸出を禁止したものではなかった<ref>衆議院予算委員会1967年4月26日議事録</ref>。


==== 三木首相による項目追加 ====
また、三原則は国際紛争に日本の技術が使用されないためとしているが、アメリカは[[湾岸戦争]]や[[イラク戦争]]などで『国際紛争の当事国』となっており、後藤田長官談話の「米軍への武器技術供与」によって、日本の技術が軍事利用で戦争に使われている可能性があることは当時から問題になっている。
[[1976年]](昭和51年)[[2月27日]]に行われた[[三木武夫]]首相の衆議院予算委員会における2日前の公明党の正木良勝議員の質問に対する答弁<ref name="miki">[https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=107705261X01819760227 衆議院予算委員会1976年2月27日議事録]。全文:{{quotation|一、政府の方針<br />「武器」の輸出については、平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するものとし、その輸出を促進することはしない。<br />(一) 三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない。<br />(二) 三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。<br />(三) 武器製造関連設備(輸出貿易管理令別表第一の第百九の項など)の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。<br/>二、武器の定義<br />「武器」という用語は、種々の法令又は行政運用の上において用いられており、その定義については、それぞれの法令等の趣旨によって解釈すべきものであるが、<br />(一) 武器輸出三原則における「武器」とは、「軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」をいい、具体的には、輸出貿易管理令別表第一の第百九十七の項から第二百五の項までに掲げるもののうちこの定義に相当するものが「武器」である。<br />(二) 自衛隊法上の「武器」については、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置等」であると解している。なお、本来的に、火器等をとう載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段としての物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなものは、右の武器に当たると考える。<br/><br />これが武器輸出についての政府の統一見解であります。|1976年(昭和51年)2月27日衆議院予算委員会、三木武夫内閣総理大臣答弁}}</ref>において、佐藤首相の三原則の厳重な履行を約したほかいくつかの項目が加えられた。政府は1967年の「武器輸出三原則」とこの「武器輸出に関する政府統一見解」をあわせ「武器輸出三原則等」と呼称された<ref name="mofa"/>。
* 三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。
* 三原則対象地域以外の地域については[[日本国憲法|憲法]]及び[[外国為替及び外国貿易法|外国為替及び外国貿易管理法]]の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
* 武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。


武器輸出三原則における「武器」は次のように定義した。
日本国内の防衛産業については、日本は[[自衛隊]]装備の大半を国内開発あるいはライセンス生産品でまかなう方針を採っているが、アメリカを除いて国際共同開発が行えなず、また生産数が限られている。今後の兵器開発において主流となると考えられる国際共同開発については集団的自衛権の否定とも絡み、出資、共同開発、生産分担などクリアすべき問題が山積している<ref>[http://sankei.jp.msn.com/world/america/100320/amr1003202106007-n2.htm 暗礁に乗り上げるF35整備計画 日本の選定作業にも影響 産経新聞2010年3月20日]</ref>。
* 軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの
* 本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する[[護衛艦]]、[[戦闘機]]、[[戦車]]のようなもの


=== 緩和(例外規定の運用) ===
2007年10月18日に発足した「総合取得改革推進プロジェクトチーム」は、「効果的・効率的な研究開発に資する国際協力を推進するため、各国との技術交流をより活性化するとともに、国際共同研究・開発に係る背景や利点・問題点などについて一層の検討を深める必要がある」としており、これには[[日本経済団体連合会]]も賛成の意を表した提言を発表した。


==== 後藤田官房長官談話と対米武器技術供与の例外規定 ====
[[2010年]](平成22年)[[1月12日]]、鳩山内閣の[[北沢俊美]][[防衛相]]が東京都内で行われた軍需企業の大多数が参加する[[日本防衛装備工業会]]主催の会合で「そろそろ基本的な考え方を見直すこともあってしかるべきだと思う。2010年末に取りまとめられる[[防衛計画の大綱]](新防衛大綱)において武器輸出三原則の改定を検討する」と発言し、
[[1983年]](昭和58年)[[1月14日]]に発せられた[[第1次中曽根内閣|中曽根内閣]]の[[後藤田正晴]][[内閣官房長官|官房長官]]による「対米武器技術供与についての内閣官房長官談話」<ref name="mod" />では、 [[日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約|日米安全保障条約]]の観点から[[アメリカ軍]]向けの武器技術供与を緩和することを武器輸出三原則の例外とされた。
見直しの内容としては「日本でライセンス生産した米国製装備品の部品の米国への輸出」や「[[発展途上国|途上国]]向けに武器を売却」をあげた。


同1983年11月8日には対米武器技術供与を日米相互防衛援助協定の関連規定の下で行うという基本的枠組みを定めた「日本国とアメリカ合衆国との間の相互援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器技術の供与に関する交換公文」<ref>[https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/18/rls_0623d.html 日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器及び武器技術の供与に関する書簡の交換について]</ref>が締結された。1984年11月には日米両国政府の協議機関として[[武器技術共同委員会]](JMTC)が発足し、翌1985年12月27日に対米武器技術供与を実施するための細目取り決めが締結された。
2010年2月18日、鳩山首相が主催する「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の初会合が首相官邸で行われ、鳩山首相が冒頭の挨拶で「防衛体制の見直しには、継続と変化の両方が必要だ。タブーのない議論をしてほしい」と述べた。北沢防衛相は懇談会で「装備産業の基盤整備をどう図るか議論してほしいとお願いした」と述べ、武器輸出三原則の見直しを議題とするよう公式に求めたことを明らかにした。武器輸出三原則の見直しは新防衛大綱に反映される<ref>[http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100218-OYT1T01247.htm 中国・北の脅威対処、新防衛大綱へ議論開始 2010年2月19日読売新聞]</ref>。


ただ、日本からの技術供与が行われているアメリカは、[[湾岸戦争]]や[[イラク戦争]]などで「国際紛争の当事国」となっていることから三原則は有名無実化しているとの指摘もあった<ref name="tomita"/>。一方、アメリカは、個々に交換公文を交わし協議を行うことを煩雑であるとみなしていた<ref name="tomita"/>。
== 実際の運用 ==
=== 法について ===
武器輸出三原則によって原則に当てはまる武器輸出が禁止されているが、このことを直接規定した日本の法律は存在しない。[[外国為替及び外国貿易法]]と輸出貿易管理令が輸出の許可を司り、輸出貿易管理令別表第1が輸出許可品目名を規定している。輸出許可品目名は輸出に際して経済産業大臣の許可を必要とする品物を定めたもので、武器のみならず軍需転用可能な原子力、電子工学、通信、素材、加工技術等多岐にわたる。


==== 小泉内閣での官房長官談話とミサイル防衛 ====
別表の規制対象品目はワッセナーアレンジメントにおける規制対象とリンクしており、対象となる品目は適時追加されている。[http://www.meti.go.jp/policy/anpo/kanri/sinsa-unyo/gaihihanntei-tejyun/yusyutsu-betsu1/y1-3.htm 輸出貿易管理令別表第1]
{{See|ミサイル防衛}}
2005年(平成17年)には、[[小泉内閣]]の官房長官談話として、アメリカとの[[弾道ミサイル防衛システム]]の共同開発・生産は三原則の対象外とすることが発表された<ref name="koizumi">[http://www.kantei.go.jp/jp/tyokan/koizumi/2005/1224danwa.html 「弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発」に関する内閣官房長官談話]、2005年(平成17年)12月24日、首相官邸。全文:{{quotation|
#政府は、本日の安全保障会議決定及び閣議決定を経て、弾道ミサイル防衛(BMD)用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発に着手することを決定いたしました。
#政府としては、大量破壊兵器及び弾道ミサイルの拡散が進展している状況において、BMDシステムが弾道ミサイル攻撃に対して、我が国国民の生命・財産を守るための純粋に防御的な、かつ、他に代替手段のない唯一の手段であり、専守防衛を旨とする我が国の防衛政策にふさわしいものであることから、平成11年度から海上配備型上層システムの共同技術研究に着手し、推進してきたところです。これは、平成16年度から整備に着手したBMDシステムを対象としたものでなく、より将来的な迎撃ミサイルの能力向上を念頭においたものであり、我が国の防衛に万全を期すために推進してきたものであります。
#「中期防衛力整備計画(平成17年度~平成21年度)について」(平成16年12月10日安全保障会議及び閣議決定)においては、「その開発段階への移行について検討の上、必要な措置を講ずる」とされておりますが、これまで実施してきた日米共同技術研究の結果、当初の技術的課題を解決する見通しを得たところであり、現在の国際情勢等において、今後の弾道ミサイルの脅威への対処能力を確保するためには、依然として厳しい財政事情を踏まえつつ、BMD用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発を効率的に推進することが適切であると考えております。なお、同ミサイルの配備段階への移行については、日米共同開発の成果等を踏まえ、判断することとします。
#武器輸出三原則等との関係では、「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱について」(平成16年12月10日安全保障会議及び閣議決定)の内閣官房長官談話において、「弾道ミサイル防衛システムに関する案件については、日米安全保障体制の効果的な運用に寄与し、我が国の安全保障に資するとの観点から、共同で開発・生産を行うこととなった場合には、厳格な管理を行う前提で武器輸出三原則等によらないこと」としております。また、武器の輸出管理については、武器輸出三原則等のよって立つ平和国家としての基本理念にかんがみ、今後とも引き続き慎重に対処するとの方針を堅持します。これらを踏まえ、本件日米共同開発において米国への供与が必要となる武器については、武器の供与のための枠組みを今後米国と調整し、厳格な管理の下に供与することとします。
#我が国としては、BMDについて、今後とも透明性を確保しつつ国際的な認識を広げていくとともに、米国とも政策面、運用面、装備・技術面における協力を一層推進させ、我が国の防衛と大量破壊兵器及び弾道ミサイルの拡散の防止に万全を期すべく努めていく所存です。|2005年(平成17年)12月24日、「弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発」に関する内閣官房長官談話}}</ref>。


[[2007年]]10月18日に発足した「総合取得改革推進プロジェクトチーム」は「効果的・効率的な研究開発に資する国際協力を推進するため、各国との技術交流をより活性化するとともに、国際共同研究・開発に係る背景や利点・問題点などについて一層の検討を深める必要がある」とし、[[日本経済団体連合会]]も賛成の意を表した提言を発表した。
武器の不正輸出における罰則は外為法によって規程されていたが、その内容は5年以下、あるいは3年以下の懲役と科料で、それは取引額が40億円を超える東芝ココム事件においても同様で、法人への200万円の罰金と逮捕された社員への執行猶予付きの判決となった。罰則が軽いという指摘はなされ、現在ではとくに武器、大量破壊兵器、核関連設備の不正輸出に対しての罰則が強化されている。


==== インドネシアへの巡視艇供与 ====
アメリカとの技術協力以外にも例外的に[[インドネシア]]に「武器」輸出を認めた例がある。ただし、これは[[巡視艇]]であり、[[防弾ガラス]]などの装備により武器に分類されていたもので、[[巡視船]]のような機関銃などの通常の意味での武器は装備していなかった。


2006年6月に[[マラッカ海峡の海賊]]対策に手をやいているインドネシアの[[スシロ・バンバン・ユドヨノ|ユドヨノ]]大統領の依頼を受けた日本政府は閣議決定をおこない、2007年に[[インドネシア]]国家警察本部に小型巡視艇が[[政府開発援助|ODA]]を用いて無償供与された。引き渡されたのは27メートル型巡視艇3隻で最大速度は30ノット、建造総額は19億円。[[海上保安庁]]の同クラスの艦船を製造している[[墨田川造船]]で建造されそれぞれ「KP.HAYABUSA」、「KP.ANIS MADU」、「KP.TAKA」と命名され<ref>[http://www.sumidagawa.co.jp/newpagessy.htm] 墨田川造船{{リンク切れ|date=2022-01}}</ref>インドネシアまで輸送された。インドネシア政府とは転売および軍事利用の禁止を確認している。


==== 韓国軍への弾薬供与 ====
'''外国為替及び外国貿易法 第六十九条の六'''
{{Main|自衛隊南スーダン派遣#内戦の発生と韓国軍部隊への銃弾提供}}


[[2013年]][[12月23日]]、[[第2次安倍内閣]]において陸上自衛隊のの弾薬が[[南スーダン]]でPKO活動中の韓国軍へ無償譲渡された。
次の各号のいずれかに該当する者は、七年以下の懲役若しくは七百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該違反行為の目的物の価格の五倍が七百万円を超えるときは、罰金は、当該価格の五倍以下とする。


==== 小型武器の輸出 ====
一  第二十五条第一項又は第四項の規定による許可を受けないでこれらの項の規定に基づく命令の規定で定める取引をした者
[[スイス]]のジュネーブ高等国際問題研究所によると、[[日本]]は[[猟銃]]、[[弾薬]]など民間向けの[[小型武器]]を[[アメリカ合衆国|アメリカ]]、[[ベルギー]]、[[フランス]]に輸出しており、その規模は世界第9位となっている<ref>2004年版の「小型武器概観」</ref>。2012年度の調査でも、日本は[[アメリカ合衆国|アメリカ]]、[[ロシア]]、[[ドイツ]]などと共に、トップ12カ国の1つに含まれており、輸出額の合計は2億4900万[[アメリカ合衆国ドル|ドル]]になる<ref>{{Cite news | url = https://web.archive.org/web/20120828141946/http://sankei.jp.msn.com/world/news/120828/erp12082812190003-n1.htm | title = 日本は小型武器上位輸出国 世界の総取引額は6年で倍 | newspaper = 産経新聞 | date = 2012-8-28}}</ref>。


=== 見直し ===
二  第四十八条第一項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める貨物の輸出をした者


==== 議論 ====
2  次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該違反行為の目的物の価格の五倍が千万円を超えるときは、罰金は、当該価格の五倍以下とする。


===== 国際共同開発 =====
一  特定技術であつて、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機のうち政令で定めるもの(以下この項において「核兵器等」という。)の設計、製造若しくは使用に係る技術又は核兵器等の開発、製造、使用若しくは貯蔵(次号において「開発等」という。)のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術として政令で定める技術について、第二十五条第一項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める取引をした者
武器輸出三原則は個別の例外規定によって緩和が図られてきた。しかし、個々に例外化する方法では臨機応変な対応ができず、国際共同開発参加への障害とみなす見解も出され、個別の例外規定を増やすのではなく、三原則を根本から見直しすことが必要という指摘もあった<ref name="tomita"/>。


日本国内の防衛産業については、日本は[[自衛隊]]装備の大半を国内開発あるいは[[ライセンス生産|ライセンス生産品]]でまかなう方針を採っているが、アメリカを除いて国際共同開発を行なっておらず、生産数が限られていた。そのため、2000年代にはアメリカに限定されない国際共同開発や生産環境の整備が提言された<ref name="tomita"/>。
二  第四十八条第一項の特定の種類の貨物であつて、核兵器等又はその開発等のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物として政令で定める貨物について、第二十五条第四項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める取引をした者又は第四十八条第一項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める輸出をした者


世界には[[軍需産業]]を持つ国にアメリカ、[[イギリス]]、[[フランス]]、[[ドイツ]]、[[イタリア]]、[[スイス]]、[[中華人民共和国|中国]]、[[イスラエル]]などがあるが、日本の防衛・軍需産業は三原則によって世界の兵器開発の流れから切り離されており、全面的な輸出禁止ではなく、国益に沿った[[輸出管理]]等のあり方を再検討すべきことも提言された<ref name="tomita"/>。
3  第一項第二号及び前項第二号(貨物の輸出に係る部分に限る。)の未遂罪は、罰する。


[[読売新聞]]は今後の兵器開発において国際共同開発が主流となるとし、日本にとってアメリカ、[[オーストラリア]]、[[北大西洋条約機構|NATO]]加盟国との協力関係強化が課題となったとしている<ref>武器輸出3原則、転換点…装備面で米欧と協力 読売新聞 2011年12月28日</ref>。
=== 小型武器について ===
日本が軍事目的によらない武器を輸出していることはよく知られている。1972年にIRAがテロに使用した豊和工業製AR-180ライフルも、[[猟銃]]として輸出されたものである。[[スイス]]の[[ジュネーブ高等国際問題研究所]]が発表した2004年版の「小型武器概観」において、日本の小型武器輸出は世界第9位とされた。


===== 調達価格 =====
=== 進展実業ココム違反事件 ===
三原則により日本の兵器生産企業は輸出が行えず結果的に生産数が少なくなる。このために調達価格が高くなる傾向がある。冷戦後に防衛予算は減少される中で調達数も削減されている。そのため中小企業の中には生産体制を維持できなくなり撤退するものも現れていた<ref>[http://www.asagumo-news.com/news/200906/090611/09061103.html 防衛産業 中小企業の撤退相次ぐ調達の減少が直撃 技術基盤の衰退に拍車]、朝雲新聞</ref>。そのため、企業の撤退による技術、生産基盤の喪失によって防衛に支障をきたすことが問題視されていた<ref>[https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/materials/kaihatsukokuki/index.html 防衛省開発航空機の民間転用に関する検討会]、防衛省</ref>。このような日本の現状についてウォール・ストリート・ジャーナルは、「自国防衛企業の利益粉砕する日本政府」と報道した<ref>[http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Heard-on-the-Street/node_95860 自国防衛企業の利益粉砕する日本政府] ウォール・ストリート・ジャーナル 日本版</ref>。
ココム規制対象品であるゲルマニウムトランジスター製造設備一式をソビエトに不正に輸出したとして1966年10月に進展実業の専務取締役と第一事業部長が逮捕された。


===== 防衛装備技術 =====
=== 兵庫県貿易ココム違反事件 ===
自衛隊の装備品については、当然ながら危険な地域で使用されることを前提に作られている。土木作業などに使われる[[重機]]なども、暴徒や敵の残存兵に襲われた時に対処できるよう、防衛用の銃などを取り付けるための銃座が備え付けられている。このため自衛隊の装備品は、ほとんどが法令上「武器」の扱いとなり、輸出規制に該当してしまうため、国外に販売して生産数を延ばすことができない<ref>{{Cite news
ココム規制対象品である振動試験装置振動台付駆動コイルを中国に不正に輸出しようとしたとして、1969年7月に兵庫県貿易株式会社の輸出担当営業部長と株式会社国際機械振動研究所の取締役大阪製造部長が逮捕された。
| url = http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121218/k10014259081000.html
| title = 自衛隊の“武器”装備品 海外初供与へ
| newspaper = [[日本放送協会|NHK]]
| date = 2012-12-18
}}</ref>。絶対的な生産数の少なさは、それ自体が装備の信頼性の低さに直結する。このため、国策により防衛産業を保護しなくてはならなくなるが、過度の保護がかえって装備の改善をしなくなるという悪循環に陥っているという指摘もあった。


==== 鳩山内閣と菅内閣の動き ====
=== 堀田ハガネ事件 ===
[[2010年]]1月12日、[[鳩山由紀夫内閣|鳩山内閣]]の[[北沢俊美]][[防衛大臣]]が東京都内で行われた軍需企業の大多数が参加する[[日本防衛装備工業会]]主催の会合で「そろそろ基本的な考え方を見直すこともあってしかるべきだと思う。2010年末に取りまとめられる[[防衛計画の大綱]](新防衛大綱)において武器輸出三原則の改定を検討する」と発言し、見直しの内容としては「日本でライセンス生産した米国製装備品の部品の米国への輸出」や「[[発展途上国|途上国]]向けに武器を売却」をあげた。
1981年に堀田ハガネが韓国の大韓重機工に砲身用鋼材を輸出し、輸出貿易管理令違反に問われた事件。関係者は不起訴。


2010年2月18日、[[鳩山由紀夫]]首相が主催する「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の初会合が首相官邸で行われ、鳩山首相が冒頭の挨拶で「防衛体制の見直しには、継続と変化の両方が必要だ。タブーのない議論をしてほしい」と述べた。北沢防衛相は懇談会で「装備産業の基盤整備をどう図るか議論してほしいとお願いした」と述べ、武器輸出三原則の見直しを議題とするよう公式に求めたことを明らかにした。武器輸出三原則の見直しは新防衛大綱に反映されるとされ<ref>[https://web.archive.org/web/20100221133905/http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100218-OYT1T01247.htm 中国・北の脅威対処、新防衛大綱へ議論開始 2010年2月19日読売新聞]</ref>、鳩山由紀夫首相の後任である[[菅直人]]首相も一旦は了承した<ref>[https://web.archive.org/web/20101203070740/http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101128/plc1011280131000-n1.htm 首相が安保会議で見直し了承]MSN産経ニュース・2010/12/11閲覧。</ref>ものの、国会での連携を目指す[[社会民主党 (日本 1996-)|社民党]]の反発が障害となり、新防衛大綱への盛り込みについては先送りされた<ref>[https://web.archive.org/web/20101209083257/http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101206/plc1012062342030-n1.htm 懲りぬ「鬼門」頼み…首相、社民と連立も視野 即、武器輸出三原則「あっさり先送り」]MSN産経ニュース・2010/12/11閲覧。</ref>。
=== 国際交易ココム違反事件 ===
ココム規制対象品である数値制御装置付工作機械用自動プログラミング装置のコンピュータ等をソ連に輸出したとして、1985年11月に国際交易株式会社の営業第一部長と営業第一部長代理が横浜税関に告発された。


2010年5月19日、[[日豪物品役務相互提供協定]]に基づく物品・役務の相互提供が約束された<ref name="tomita"/>。
=== 東明貿易ココム違反事件 ===
ココム規制対象品であるシグナル・ジェネレーター(信号発信機)等を中国に不正に輸出したとして、1987年3月に東明貿易株式会社の営業部長が逮捕された。


==== 野田内閣での官房長官談話 ====
=== 東明商事ココム違反事件 ===
武器輸出三原則の見直しは[[菅直人内閣|菅内閣]]で頓挫したが、菅首相の後任の[[野田佳彦]]首相は就任当初から武器輸出三原則の緩和に意欲を見せ、国際共同開発・共同生産への参加と人道目的での装備品供与を解禁するとして[[2011年]](平成23年)12月27日に[[野田内閣]]は[[藤村修]][[内閣官房長官|官房長官]]による談話を発表した<ref>[http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201112270094.html 武器輸出三原則を緩和=欧米と共同開発可能に―藤村官房長官談] - ウォール・ストリート・ジャーナル 2011年12月27日</ref><ref name="noda">[https://www.kantei.go.jp/jp/tyokan/noda/20111227DANWA.pdf 「防衛装備品等の海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話](PDF) 首相官邸 2011年12月27日。全文:{{quotation|政府は、「平成二十三年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成二十二年十二月十七日閣議決定。以下「新大綱」という。)を踏まえ、防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策について慎重に検討を重ねた結果、次の結論に達し、本日の安全保障会議における審議を経て閣議において報告を行った。今後、防衛装備品等の海外への移転については、以下の基準によることとする。
ココム規制対象品であるシンクロ・スコープ等を北朝鮮に不正に輸出したとして、1987年5月に東明商事株式会社東京支店の営業部長と穂高電子株式会社の営業部長が逮捕された。
:一.  政府は、これまで武器等の輸出については武器輸出三原則等によって慎重に対処してきたところである。
:二.  他方、これまでも、国際紛争等を助長することを回避するという武器輸出三原則等のよって立つ平和国家としての基本理念を堅持しつつ、我が国が行う国際平和協力、国際緊急援助、人道支援、国際テロ・海賊問題への対処といった平和への貢献や国際的な協力(以下「平和貢献・国際協力」という。)、弾道ミサイル防衛(BMD)に関する日米共同開発等の案件については、内閣官房長官談話の発出等により、武器輸出三原則等によらないこととする措置(以下「例外化措置」という。)を個別に講じてきた。
:三.  新大綱においては、近年の防衛装備品をめぐる国際的な環境変化について、「平和への貢献や国際的な協力において、自衛隊が携行する重機等の装備品の活用や被災国等への装備品の供与を通じて、より効果的な協力ができる機会が増加している。また、国際共同開発・生産に参加することで、装備品の高性能化を実現しつつ、コストの高騰に対応することが先進諸国で主流になっている。」としており、政府は、こうした認識の下、平和国家としての基本理念を堅持しつつこのような大きな変化に対応するための方策について検討を行ってきた。
:四.  今日の国際社会においては、国際平和協力、国際緊急援助、人道支援、国際テロ・海賊問題への対処等を効果的に行うことが各国に求められており、我が国は、平和国家として、国際紛争等を助長することを回避するとの基本理念を堅持しつつ、こうした平和貢献・国際協力への取組に、より積極的・効果的に取り組んでいく必要がある。
: 同時に、国際社会の平和と安定を損なうおそれがある防衛装備品等の不正な流通及び拡散を防止するため、途上国等の輸出管理能力の強化に向けた支援などにも積極的に取り組んでいくべきである。
: また、我が国は、これまで米国との間で安全保障に資する防衛装備品等の共同研究・開発を行ってきたところであるが、国際社会が大きく変化しつつある中で、我が国の平和と安全や国際的な安全保障を確保していくためには、米国との連携を一層強化するとともに、我が国と安全保障面で協力関係にある米国以外の諸国とも連携していく必要があり、これらの国との間で防衛装備品等の国際共同開発・生産を進めていくことで、最新の防衛技術の獲得等を通じ、我が国防衛産業の生産・技術基盤を維持・高度化するとともに、コストの削減を図っていくべきである。
:五.  こうした観点から、政府としては、防衛装備品等の海外への移転については、平和貢献・国際協力に伴う案件及び我が国の安全保障に資する防衛装備品等の国際共同開発・生産に関する案件は、従来個別に行ってきた例外化措置における考え方を踏まえ、包括的に例外化措置を講じることとし、今後は、次の基準により処理するものとする。
::(1) 平和貢献・国際協力に伴う案件については、防衛装備品等の海外への移転を可能とすることとし、その際、相手国政府への防衛装備品等の供与は、我が国政府と相手国政府との間で取り決める枠組みにおいて、我が国政府による事前同意なく、①当該防衛装備品等が当該枠組みで定められた事業の実施以外の目的に使用されること(以下「目的外使用」という。)及び②当該防衛装備品等が第三国に移転されること(以下「第三国移転」という。)がないことが担保されるなど厳格な管理が行われることを前提として行うこととする。
::(2) 我が国の安全保障に資する防衛装備品等の国際共同開発・生産に関する案件については、我が国との間で安全保障面での協力関係がありその国との共同開発・生産が我が国の安全保障に資する場合に実施することとし、当該案件への参加国による目的外使用や第三国移転について我が国政府による事前同意を義務付けるなど厳格な管理が行われることを前提として、防衛装備品等の海外への移転を可能とすることとする。なお、我が国政府による事前同意は、当該移転が我が国の安全保障に資する場合や国際の平和及び安定に資する場合又は国際共同開発・生産における我が国の貢献が相対的に小さい場合であって、かつ、当該第三国が更なる移転を防ぐための十分な制度を有している場合でない限り、付与しないこととする。
::(3) もとより、武器輸出三原則等については、国際紛争等を助長することを回避するという平和国家としての基本理念に基づくものであり、上記以外の輸出については、引き続きこれに基づき慎重に対処する。|2011年(平成23年)12月27日、「防衛装備品等の海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話}}
</ref>。内容は、以下の通り<ref>[http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011122700335 官房長官談話要旨=武器輸出三原則緩和] - 時事通信 2011年12月27日</ref>。
* 平和貢献・国際協力に伴う案件は、防衛装備品の海外移転を可能とする。
* 目的外使用、第三国移転がないことが担保されるなど厳格な管理を前提とする(目的外使用、第三国移転を行う場合は、日本への事前同意を義務付ける)。
* わが国と安全保障面で協力関係があり、その国との共同開発・生産がわが国の安全保障に資する場合に実施する。


==== 第2次安倍内閣による防衛装備移転三原則への移行 ====
=== 東芝機械ココム違反事件 ===
[[第2次安倍内閣]]において[[安倍晋三]]首相は、三原則の撤廃を含めた根本的な見直しに着手<ref>{{Cite news |title=禁輸三原則「撤廃」も/武器輸出に新指針検討/安倍首相前向き/歯止めの議論不可欠 |newspaper=共同通信 |date= 2013-07-24|author= |url=http://www.47news.jp/47topics/e/244065.php |accessdate=2013-12-25}}</ref><ref>{{Cite news |title=武器輸出、禁止から管理へ 政府、新原則原案で方針転換 |newspaper= 朝日新聞|date= 2013-12-05|author= |url= http://www.asahi.com/articles/TKY201312050329.html|accessdate=2013-12-25}}</ref>。[[2013年]][[9月28日]]に[[小野寺五典]][[防衛大臣]]は、最先端の兵器は国際開発が主流であり、日本はその流れから取り残されているとして、武器輸出三原則を抜本的に見直す考えを示した<ref>{{cite news |title=小野寺防衛相“武器輸出三原則見直すべき” |newspaper=[[日本放送協会|NHK]] |date=2013-9-28|url=http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130928/k10014885991000.html|accessdate=2013-9-28}}</ref>。
ココム規制対象品である、同時九軸制御プロペラ加工機である大型金属工作機械とその付属品をソ連向けに不正輸出するとともに、同工作機械の使用に係る技術の役務提供を行っていたとして、1987年5月に東芝機械株式会社の鋳造部長と第二技術部専任次長が逮捕された。


2014年3月、武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」の原案が与党のプロジェクトチームに示され<ref>{{Cite news |title=武器輸出の新原則、政府が原案示す 与党PT |newspaper= 朝日新聞|date= 2014-03-13|author= |url=http://www.asahi.com/articles/ASG3D5FLDG3DUTFK00C.html|accessdate=2014-03-13}}</ref>、同年4月1日に武器輸出三原則に代わる[[防衛装備移転三原則]]が閣議決定された<ref name="nikkei20140401"/>。それまでの個別の官房長官談話による例外的承認にかえて、一定の条件を設けたうえで日本の安保に資する輸出を認めることとなった<ref>{{Cite web |url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA159JK0V10C24A3000000/ |title=防衛装備移転三原則とは 装備品輸出に一定の制約 きょうのことば - 日本経済新聞 |access-date=2024-5-17 |publisher=日経新聞}}</ref>。
=== 極東商会等ココム違反事件 ===
ココム規制対象品であるサンプリング・オシロスコープ等を中国に不正に輸出したとして、1988年5月に株式会社極東商会の常務取締役と輸入特貨課長、新生交易株式会社の取締役貿易部長が逮捕された。


武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則の決定についてアメリカのハーフ副報道官は会見で歓迎を表明した<ref>{{Cite news |title=武器輸出三原則の見直し、米側「歓迎する」 |newspaper= 朝日新聞|date= 2014-04-03|url=http://www.asahi.com/articles/ASG4326CWG43UHBI00C.html|accessdate=2014-05-21}}</ref>。
=== 商工連幹部に係るココム違反事件 ===
ココム規制対象品であるパーソナルコンピュータ、IC等を北朝鮮に不正に輸出したとして、1989年2月に在日朝鮮人の商工連幹部が逮捕された。


==== 岸田政権による第三国輸出解禁方針の決定 ====
=== ダイキンエ業ココム違反事件 ===
2024年3月英・伊と共同開発中の次期戦闘機の第三国への輸出解禁を決定した。
ココム規制対象品であるフロン液体の純度を偽ってソ連に不正に輸出したとして、1989年2月にダイキンエ業株式会社の営業企画部課長が逮捕された。


== 民生品への影響==
=== プロメトロンテクエクスココム違反事件 ===
[[File:NAMC YS-11A, Greece - Air Force AN0192354.jpg|thumb|[[ギリシャ空軍]]所属の[[YS-11]](1993年)]]{{脚注の不足|date=2024年3月|section=1}}
ココム規制対象品である半導体製造装置 「マスクアライナー」を東ドイツに不正に輸出したとして、1989年7月に株式会社プロメトロンテクエクスの代表取締役社長が逮捕された。


民生用の[[観測ロケット]]である[[カッパロケット]]は[[1960年代]]に本体と関連機材が[[ユーゴスラビア]]に輸出され、ユーゴスラビアが独自開発していた[[地対空ミサイル]][[R-25 ヴルカン]]の技術として軍事転用された。また1965年には[[インドネシア]]へ[[伊藤忠商事]]によって輸出されたことで、軍事転用を懸念した[[マレーシア]]が日本に抗議し、1967年に佐藤栄作により三原則提議が表明された。
=== 日本航空電子工業に係る武器部分品不正輸出事件 ===
外国為替及び外国貿易管理法で輸出が規制されている空対空ミサイルの部分品であるローレロンを、シンガポール経由でイランに不正輸出していたとして、1991年8月に日本航空電子工業株式会社の代表取締役社長、相談役、専務取締役、取締役支配人が逮捕された。


1981年に[[堀田ハガネ事件]]が発生し、国会で問題となった。
=== トレーターズココム違反事件 ===
ココム規制対象品である微量の光を増幅して画像処理する電子機器であるイメージ増強管を中国に不正輸出したとして、1994年3月に株式会社トレーターズの代表取締役と社員が逮捕された。


1987年には[[東芝機械]]が[[ソビエト連邦]]へ不正に輸出した工作機械が技術向上に繋がったとして、[[東芝機械ココム違反事件]]として問題となった。
=== 東亜技術工業外為法違反事件 ===
外国為替及び外国貿易管理法で化学製剤として輸出規制されているフッ化水素酸及びフッ化ナトリウムを北朝鮮に不正輸出していたとして、1996年4月に東亜技術工業株式会社の社員が逮捕された。


[[オリンピック航空]]が購入した[[YS-11]]が[[ギリシャ空軍]]に売却された例がある。
=== 菱光社等外為法違反事件 ===
外同為替及び外国貿易管理法で核兵器の開発又は製造に用いられ得る工作機械その他の装置として全地域に対する輸出が規制されている測定装置を中国に不正輸出したとして、1999年2月に株式会社菱光社の代表取締役専務が逮捕された。


[[東洋航空工業]]は1952年に地上攻撃機である[[フレッチャー FD-25]]の練習機型の製造権を取得し、カンボジア、ベトナム、タイに輸出している。
=== サンビームに係る武器部分品不正輸出事件 ===
対戦車ロケット砲専用光学照準器の部分品である鏡内目盛板「レチクル」を複製製造し、イランに不正輸出したとして、2000年1月に株式会社サンビームの代表取締役2名が逮捕された。


[[ヤマハ発動機|ヤマハ]]製の[[農業用無人航空機]]が海外へ[[ヤマハ発動機#軍事転用可能な無人ヘリコプターの不正輸出事件|不正に輸出されて社会問題となった事例]]がある。
=== ヤマハ発動機ヘリ不正輸出事件 ===

外国為替及び外国貿易管理法で輸出が規制されている農薬などの噴霧や20リットル以上の液体の運搬などが可能な無人ヘリを中国に不正輸出したとして、2007年1月に社員3名が逮捕された。
2000年代には[[川崎重工]]と[[メッサーシュミット・ベルコウ・ブローム]](後に[[エアバス・グループ]]に買収されユーロコプターと統合)が共同開発した[[BK117 (航空機)|BK117]]は武器輸出三原則を考慮して、軍隊向けには救難・救命用を除き販売を控えてきた。しかし派生型である[[ユーロコプター EC 145]]の軍用版である[[UH-72 ラコタ]]が2006年からアメリカ陸軍で運用されているが、BK117で川崎重工が担当したトランスミッションなどは原型機と同じで日本製であるものの、特に問題視されなかった。

この他にも正規軍、[[民間軍事会社]]、ゲリラ問わず日本製の[[ピックアップトラック]]が[[テクニカル]]やパトロールカーとして利用されている。特に交戦する双方が[[トヨタ]]のピックアップトラックを活用した[[チャドの歴史#内戦|チャド内戦]]は[[トヨタ戦争]]と呼ばれた。

== 戦前 ==
第二次世界大戦前の日本は、艦艇([[永翔級砲艦]]、[[トンブリ級海防戦艦]]、[[寧海 (巡洋艦)|寧海]]、[[アラブ級駆逐艦]]、[[マッチャーヌ級潜水艦]]など)、戦車([[九五式軽戦車]])、銃砲([[有坂銃]]、[[三八式歩兵銃]]、[[十四年式拳銃]]、[[軽迫撃砲 (日本軍)|軽迫撃砲]]、[[四一式山砲]]など)、弾薬([[三八年式実包|三八式実包]])といった武器を各国に輸出している。また陸軍の主導で武器輸出を行なう[[昭和通商]]という会社が設立された。

== ドイツとイタリア ==
同じ枢軸国であったドイツ、イタリアは復興とともに輸出を再開し、現在、世界的にも主要な兵器輸出国で、輸出額の国別順位は2018年時点でドイツが世界第4位、イタリアも第10位である。ドイツでは伝統の戦車([[レオパルト1]]、[[レオパルト2]])や潜水艦([[209型潜水艦]]など)、[[ヘッケラー&コッホ|H&K]]の銃器、イタリアでは[[ベレッタ]]の銃器、[[オート・メラーラ]]の艦砲などが輸出品として有名である。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{Reflist}}
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書|author=森本正崇|year=2011|title=武器輸出三原則|publisher=信山社|page=|isbn=9784797258653|ref=harv}}
*[https://megalodon.jp/2013-0218-2107-48/www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/pdf/0726.pdf 冨田圭一郎「武器輸出三原則―その現況と見直し論議― 」][[国立国会図書館]]外交防衛課調査と情報726号(ISSUE BRIEF NUMBER 726)[[2011年]][[11月1日]]。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[世界の軍事企業の売上高ランキング]]
* [[軍需産業]]
* [[軍需産業]]
* [[平和主義]]
* [[平和主義]]
* [[非核三原則]]
* [[対共産圏輸出統制委員会]]
* [[対共産圏輸出統制委員会]]
* [[ワッセナー・アレンジメント]]
* [[ワッセナー・アレンジメント]]
* [[中期防衛力整備計画 (2011)]]
* [[東芝機械ココム違反事件]]
* [[武器貿易条約]]
* [[武器輸出問題等に関する決議]]
* [[武器輸出禁止法案]]


== 外部リンク ==
{{DEFAULTSORT:ふきゆしゆつさんけんそく}}
* {{Kotobank}}
[[Category:兵器の歴史]]

[[Category:軍縮]]
{{日本の防衛力整備計画}}
{{日本の安全保障法制}}
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[[Category:佐藤栄作]]
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2024年7月6日 (土) 19:54時点における最新版

武器輸出三原則(ぶきゆしゅつさんげんそく)とは、1976年から2014年までの間、日本国政府が採っていた武器輸出規制および運用面の原則のことである。「武器輸出禁止三原則」と呼ばれることもある[1]。政府答弁などで明らかにされていたものの、直接法律で規定されたものではなく、政令運用基準にとどまっていた[2]。また、「武器」の定義等を含めて議論があった[2]

2014年平成26年)4月1日に、武器輸出三原則に代わる新たな政府方針として『防衛装備移転三原則』が閣議決定された[3]

内容

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武器輸出三原則は、共産圏国際連合決議による武器禁輸措置をとられた国、及び紛争地域への武器輸出を禁止したものであり、他の地域への武器輸出は「慎む」とされ、武器輸出そのものを禁止していたわけではない。しかし、日本は他の地域への武器輸出は「慎む」ようになってからは、原則として武器および武器製造技術、武器への転用可能な物品の輸出が禁じられていた。

武器輸出三原則の内容そのものを直接的に規定した法律は設けられなかった。ただし、外国為替及び外国貿易法輸出貿易管理令によって、輸出の許可を司り、輸出貿易管理令別表第1が輸出許可品目名[注釈 1]を規定しており、この規制対象品目は核不拡散条約生物兵器禁止条約化学兵器禁止条約ワッセナー・アレンジメント(前身の対共産圏輸出統制委員会)における規制対象とリンクしており、対象となる品目は適時追加され、武器の不正輸出における罰則は外為法に設けられた(3〜5年以下の懲役と科料)。また、輸出貿易管理令では「武器製造関連設備」も対象項目となっている[4][5]

ただし、当初は外為法の不備があったため、日工展訴訟が発生し、1980年に外為法改正が行われた。

政府答弁

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日本国政府は、1967年の佐藤栄作内閣総理大臣の答弁で共産圏諸国・紛争当事国[注釈 2]などへの輸出禁止確認にはじまり、とりわけ1976年の三木武夫総理大臣の答弁[5]を歴代内閣が堅持してきた。三木答弁では、「武器輸出を慎む」と表現し「武器輸出の禁止」または「一切しない」という表現ではなかった[2]。またこの「慎む」という表現には、国際紛争を助長させない場合は、「慎む必要がない」ということも含意されていた[2]。しかしのちに田中六助通産大臣(当時)は「原則としてだめだということ」と答弁した[9][2]

例外規定

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1983年の「対米武器技術供与についての内閣官房長官談話」[10]以降、アメリカ合衆国への武器技術供与は例外とされ、武器輸出が認められていた[2]。また、ミサイル防衛システム構築のための「武器」輸出もアメリカ合衆国に限定して認められていた[2]。このアメリカ例外規定については、アメリカ合衆国が「紛争当事国」であっても、例外規定は論理的には適用された[2]

このほか、アメリカ限定ではない例外規定として、テロ・海賊対策の場合は例外とされた[2]

歴史

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提議

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前史

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1962年3月16日の衆議院商工委員会で通商産業省(当時)通商局長が「共産圏への武器輸出については、ココムの制度に基づいて輸出の可否を判断している」と答弁し、1965年5月7日に参議院決算委員会で外務省アジア局外務審議官が「直接戦争に関係のある武器や軍需物資は、輸出承認していない」と答弁していた。

また、1965年8月5日に衆議院科学技術振興対策特別委員会で通産省重工業局次長が「通産省の武器輸出の方針は、第一は、ココムの制限に従う、第二は、国連決議に基づく武器輸出禁止国には輸出ができない。第三は、国際紛争助長の恐れがある国に対する輸出については認めない」と答弁していた。

佐藤首相の三原則提議

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輸出貿易管理令における事実上の「武器輸出禁止規定」については1967年昭和42年)4月21日に行われた佐藤栄作首相衆議院決算委員会における答弁[11]により、以下のような国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないこととした。これが狭義の武器輸出三原則とされる[12]

  • 共産圏諸国向けの場合
  • 国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
  • 国際紛争の当事国[注釈 2]又はそのおそれのある国向けの場合

なお、佐藤栄作首相は「武器輸出を目的には製造しないが、輸出貿易管理令の運用上差し支えない範囲においては輸出することができる」と答弁しており、武器輸出を禁止したものではなかった[13]

三木首相による項目追加

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1976年(昭和51年)2月27日に行われた三木武夫首相の衆議院予算委員会における2日前の公明党の正木良勝議員の質問に対する答弁[5]において、佐藤首相の三原則の厳重な履行を約したほかいくつかの項目が加えられた。政府は1967年の「武器輸出三原則」とこの「武器輸出に関する政府統一見解」をあわせ「武器輸出三原則等」と呼称された[12]

  • 三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。
  • 三原則対象地域以外の地域については憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
  • 武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。

武器輸出三原則における「武器」は次のように定義した。

  • 軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの
  • 本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦戦闘機戦車のようなもの

緩和(例外規定の運用)

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後藤田官房長官談話と対米武器技術供与の例外規定

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1983年(昭和58年)1月14日に発せられた中曽根内閣後藤田正晴官房長官による「対米武器技術供与についての内閣官房長官談話」[10]では、 日米安全保障条約の観点からアメリカ軍向けの武器技術供与を緩和することを武器輸出三原則の例外とされた。

同1983年11月8日には対米武器技術供与を日米相互防衛援助協定の関連規定の下で行うという基本的枠組みを定めた「日本国とアメリカ合衆国との間の相互援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器技術の供与に関する交換公文」[14]が締結された。1984年11月には日米両国政府の協議機関として武器技術共同委員会(JMTC)が発足し、翌1985年12月27日に対米武器技術供与を実施するための細目取り決めが締結された。

ただ、日本からの技術供与が行われているアメリカは、湾岸戦争イラク戦争などで「国際紛争の当事国」となっていることから三原則は有名無実化しているとの指摘もあった[2]。一方、アメリカは、個々に交換公文を交わし協議を行うことを煩雑であるとみなしていた[2]

小泉内閣での官房長官談話とミサイル防衛

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2005年(平成17年)には、小泉内閣の官房長官談話として、アメリカとの弾道ミサイル防衛システムの共同開発・生産は三原則の対象外とすることが発表された[15]

2007年10月18日に発足した「総合取得改革推進プロジェクトチーム」は「効果的・効率的な研究開発に資する国際協力を推進するため、各国との技術交流をより活性化するとともに、国際共同研究・開発に係る背景や利点・問題点などについて一層の検討を深める必要がある」とし、日本経済団体連合会も賛成の意を表した提言を発表した。

インドネシアへの巡視艇供与

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アメリカとの技術協力以外にも例外的にインドネシアに「武器」輸出を認めた例がある。ただし、これは巡視艇であり、防弾ガラスなどの装備により武器に分類されていたもので、巡視船のような機関銃などの通常の意味での武器は装備していなかった。

2006年6月にマラッカ海峡の海賊対策に手をやいているインドネシアのユドヨノ大統領の依頼を受けた日本政府は閣議決定をおこない、2007年にインドネシア国家警察本部に小型巡視艇がODAを用いて無償供与された。引き渡されたのは27メートル型巡視艇3隻で最大速度は30ノット、建造総額は19億円。海上保安庁の同クラスの艦船を製造している墨田川造船で建造されそれぞれ「KP.HAYABUSA」、「KP.ANIS MADU」、「KP.TAKA」と命名され[16]インドネシアまで輸送された。インドネシア政府とは転売および軍事利用の禁止を確認している。

韓国軍への弾薬供与

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2013年12月23日第2次安倍内閣において陸上自衛隊のの弾薬が南スーダンでPKO活動中の韓国軍へ無償譲渡された。

小型武器の輸出

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スイスのジュネーブ高等国際問題研究所によると、日本猟銃弾薬など民間向けの小型武器アメリカベルギーフランスに輸出しており、その規模は世界第9位となっている[17]。2012年度の調査でも、日本はアメリカロシアドイツなどと共に、トップ12カ国の1つに含まれており、輸出額の合計は2億4900万ドルになる[18]

見直し

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議論

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国際共同開発
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武器輸出三原則は個別の例外規定によって緩和が図られてきた。しかし、個々に例外化する方法では臨機応変な対応ができず、国際共同開発参加への障害とみなす見解も出され、個別の例外規定を増やすのではなく、三原則を根本から見直しすことが必要という指摘もあった[2]

日本国内の防衛産業については、日本は自衛隊装備の大半を国内開発あるいはライセンス生産品でまかなう方針を採っているが、アメリカを除いて国際共同開発を行なっておらず、生産数が限られていた。そのため、2000年代にはアメリカに限定されない国際共同開発や生産環境の整備が提言された[2]

世界には軍需産業を持つ国にアメリカ、イギリスフランスドイツイタリアスイス中国イスラエルなどがあるが、日本の防衛・軍需産業は三原則によって世界の兵器開発の流れから切り離されており、全面的な輸出禁止ではなく、国益に沿った輸出管理等のあり方を再検討すべきことも提言された[2]

読売新聞は今後の兵器開発において国際共同開発が主流となるとし、日本にとってアメリカ、オーストラリアNATO加盟国との協力関係強化が課題となったとしている[19]

調達価格
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三原則により日本の兵器生産企業は輸出が行えず結果的に生産数が少なくなる。このために調達価格が高くなる傾向がある。冷戦後に防衛予算は減少される中で調達数も削減されている。そのため中小企業の中には生産体制を維持できなくなり撤退するものも現れていた[20]。そのため、企業の撤退による技術、生産基盤の喪失によって防衛に支障をきたすことが問題視されていた[21]。このような日本の現状についてウォール・ストリート・ジャーナルは、「自国防衛企業の利益粉砕する日本政府」と報道した[22]

防衛装備技術
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自衛隊の装備品については、当然ながら危険な地域で使用されることを前提に作られている。土木作業などに使われる重機なども、暴徒や敵の残存兵に襲われた時に対処できるよう、防衛用の銃などを取り付けるための銃座が備え付けられている。このため自衛隊の装備品は、ほとんどが法令上「武器」の扱いとなり、輸出規制に該当してしまうため、国外に販売して生産数を延ばすことができない[23]。絶対的な生産数の少なさは、それ自体が装備の信頼性の低さに直結する。このため、国策により防衛産業を保護しなくてはならなくなるが、過度の保護がかえって装備の改善をしなくなるという悪循環に陥っているという指摘もあった。

鳩山内閣と菅内閣の動き

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2010年1月12日、鳩山内閣北沢俊美防衛大臣が東京都内で行われた軍需企業の大多数が参加する日本防衛装備工業会主催の会合で「そろそろ基本的な考え方を見直すこともあってしかるべきだと思う。2010年末に取りまとめられる防衛計画の大綱(新防衛大綱)において武器輸出三原則の改定を検討する」と発言し、見直しの内容としては「日本でライセンス生産した米国製装備品の部品の米国への輸出」や「途上国向けに武器を売却」をあげた。

2010年2月18日、鳩山由紀夫首相が主催する「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の初会合が首相官邸で行われ、鳩山首相が冒頭の挨拶で「防衛体制の見直しには、継続と変化の両方が必要だ。タブーのない議論をしてほしい」と述べた。北沢防衛相は懇談会で「装備産業の基盤整備をどう図るか議論してほしいとお願いした」と述べ、武器輸出三原則の見直しを議題とするよう公式に求めたことを明らかにした。武器輸出三原則の見直しは新防衛大綱に反映されるとされ[24]、鳩山由紀夫首相の後任である菅直人首相も一旦は了承した[25]ものの、国会での連携を目指す社民党の反発が障害となり、新防衛大綱への盛り込みについては先送りされた[26]

2010年5月19日、日豪物品役務相互提供協定に基づく物品・役務の相互提供が約束された[2]

野田内閣での官房長官談話

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武器輸出三原則の見直しは菅内閣で頓挫したが、菅首相の後任の野田佳彦首相は就任当初から武器輸出三原則の緩和に意欲を見せ、国際共同開発・共同生産への参加と人道目的での装備品供与を解禁するとして2011年(平成23年)12月27日に野田内閣藤村修官房長官による談話を発表した[27][28]。内容は、以下の通り[29]

  • 平和貢献・国際協力に伴う案件は、防衛装備品の海外移転を可能とする。
  • 目的外使用、第三国移転がないことが担保されるなど厳格な管理を前提とする(目的外使用、第三国移転を行う場合は、日本への事前同意を義務付ける)。
  • わが国と安全保障面で協力関係があり、その国との共同開発・生産がわが国の安全保障に資する場合に実施する。

第2次安倍内閣による防衛装備移転三原則への移行

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第2次安倍内閣において安倍晋三首相は、三原則の撤廃を含めた根本的な見直しに着手[30][31]2013年9月28日小野寺五典防衛大臣は、最先端の兵器は国際開発が主流であり、日本はその流れから取り残されているとして、武器輸出三原則を抜本的に見直す考えを示した[32]

2014年3月、武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」の原案が与党のプロジェクトチームに示され[33]、同年4月1日に武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則が閣議決定された[3]。それまでの個別の官房長官談話による例外的承認にかえて、一定の条件を設けたうえで日本の安保に資する輸出を認めることとなった[34]

武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則の決定についてアメリカのハーフ副報道官は会見で歓迎を表明した[35]

岸田政権による第三国輸出解禁方針の決定

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2024年3月英・伊と共同開発中の次期戦闘機の第三国への輸出解禁を決定した。

民生品への影響

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ギリシャ空軍所属のYS-11(1993年)

民生用の観測ロケットであるカッパロケット1960年代に本体と関連機材がユーゴスラビアに輸出され、ユーゴスラビアが独自開発していた地対空ミサイルR-25 ヴルカンの技術として軍事転用された。また1965年にはインドネシア伊藤忠商事によって輸出されたことで、軍事転用を懸念したマレーシアが日本に抗議し、1967年に佐藤栄作により三原則提議が表明された。

1981年に堀田ハガネ事件が発生し、国会で問題となった。

1987年には東芝機械ソビエト連邦へ不正に輸出した工作機械が技術向上に繋がったとして、東芝機械ココム違反事件として問題となった。

オリンピック航空が購入したYS-11ギリシャ空軍に売却された例がある。

東洋航空工業は1952年に地上攻撃機であるフレッチャー FD-25の練習機型の製造権を取得し、カンボジア、ベトナム、タイに輸出している。

ヤマハ製の農業用無人航空機が海外へ不正に輸出されて社会問題となった事例がある。

2000年代には川崎重工メッサーシュミット・ベルコウ・ブローム(後にエアバス・グループに買収されユーロコプターと統合)が共同開発したBK117は武器輸出三原則を考慮して、軍隊向けには救難・救命用を除き販売を控えてきた。しかし派生型であるユーロコプター EC 145の軍用版であるUH-72 ラコタが2006年からアメリカ陸軍で運用されているが、BK117で川崎重工が担当したトランスミッションなどは原型機と同じで日本製であるものの、特に問題視されなかった。

この他にも正規軍、民間軍事会社、ゲリラ問わず日本製のピックアップトラックテクニカルやパトロールカーとして利用されている。特に交戦する双方がトヨタのピックアップトラックを活用したチャド内戦トヨタ戦争と呼ばれた。

戦前

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第二次世界大戦前の日本は、艦艇(永翔級砲艦トンブリ級海防戦艦寧海アラブ級駆逐艦マッチャーヌ級潜水艦など)、戦車(九五式軽戦車)、銃砲(有坂銃三八式歩兵銃十四年式拳銃軽迫撃砲四一式山砲など)、弾薬(三八式実包)といった武器を各国に輸出している。また陸軍の主導で武器輸出を行なう昭和通商という会社が設立された。

ドイツとイタリア

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同じ枢軸国であったドイツ、イタリアは復興とともに輸出を再開し、現在、世界的にも主要な兵器輸出国で、輸出額の国別順位は2018年時点でドイツが世界第4位、イタリアも第10位である。ドイツでは伝統の戦車(レオパルト1レオパルト2)や潜水艦(209型潜水艦など)、H&Kの銃器、イタリアではベレッタの銃器、オート・メラーラの艦砲などが輸出品として有名である。

脚注

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注釈

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  1. ^ 輸出許可品目名は輸出に際して経済産業大臣の許可を必要とする品物を定めたもので、武器のみならず軍需転用可能な原子力、電子工学、通信、素材、加工技術等多岐にわたる。
  2. ^ a b 「紛争当事国」の定義としては「それぞれのその時の諸情勢を見て、通商産業省(現:経済産業省)が常に外務省と緊密な連絡を保ちながら協議をして判断する」[6]としている。政府が具体的な紛争当事国として国会で答弁した例としては「ベトナム戦争参戦国(南ベトナム、アメリカ、韓国、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド、タイ)」[7]や「フォークランド紛争当時のイギリスとアルゼンチン」[8]がある。

出典

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  1. ^ 数研出版編集部『新課程 4ステージ演習ノート 現代社会 解答編』数研出版、2012年、18頁。ISBN 9784410301032 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 冨田圭一郎「武器輸出三原則―その現況と見直し論議― 」国立国会図書館外交防衛課調査と情報726号(ISSUE BRIEF NUMBER 726)2011年11月1日
  3. ^ a b “武器輸出、包括容認へ 政府が新原則を閣議決定”. 日本経済新聞. (2014年4月1日). https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS01003_R00C14A4000000/ 2014年4月1日閲覧。 
  4. ^ 輸出貿易管理令別表第一の第百九の項
  5. ^ a b c 衆議院予算委員会1976年2月27日議事録。全文:
    一、政府の方針
    「武器」の輸出については、平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するものとし、その輸出を促進することはしない。
    (一) 三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない。
    (二) 三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
    (三) 武器製造関連設備(輸出貿易管理令別表第一の第百九の項など)の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。
    二、武器の定義
    「武器」という用語は、種々の法令又は行政運用の上において用いられており、その定義については、それぞれの法令等の趣旨によって解釈すべきものであるが、
    (一) 武器輸出三原則における「武器」とは、「軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」をいい、具体的には、輸出貿易管理令別表第一の第百九十七の項から第二百五の項までに掲げるもののうちこの定義に相当するものが「武器」である。
    (二) 自衛隊法上の「武器」については、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置等」であると解している。なお、本来的に、火器等をとう載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段としての物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなものは、右の武器に当たると考える。

    これが武器輸出についての政府の統一見解であります。 — 1976年(昭和51年)2月27日衆議院予算委員会、三木武夫内閣総理大臣答弁
  6. ^ 衆議院商工委員会1969年7月8日通商産業省重工局長答弁及び衆議院予算委員会1982年6月25日通商産業省貿易局長答弁
  7. ^ 衆議院商工委員会1969年7月8日通商産業省重工局長答弁
  8. ^ 衆議院予算委員会1982年6月25日通商産業省貿易局長答弁
  9. ^ 第94 回国会衆議院予算委員会議録第8号 昭和 56 年2 月14 日 p.30.(田中六助通産大臣)
  10. ^ a b 資料31 対米武器技術供与についての内閣官房長官談話
  11. ^ 衆議院決算委員会1967年4月21日議事録
  12. ^ a b 武器輸出三原則等、外務省。全文:
     いま申しますように、防衛のために、また自国の自衛力整備のために使われるものならば差しつかえないのではないか、かように私は申しておるのであります。輸出貿易管理令で特に制限をして、こういう場合は送ってはならぬという場合があります。それはいま申し上げましたように、戦争をしている国、あるいはまた共産国向けの場合、あるいは国連決議により武器等の輸出の禁止がされている国向けの場合、それとただいま国際紛争中の当事国またはそのおそれのある国向け、こういうのは輸出してはならない。こういうことになっております。これは厳に慎んでそのとおりやるつもりであります。 — 1967年(昭和42年)4月21日衆議院決算委員会、佐藤栄作内閣総理大臣答弁
  13. ^ 衆議院予算委員会1967年4月26日議事録
  14. ^ 日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器及び武器技術の供与に関する書簡の交換について
  15. ^ 「弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発」に関する内閣官房長官談話、2005年(平成17年)12月24日、首相官邸。全文:
    1. 政府は、本日の安全保障会議決定及び閣議決定を経て、弾道ミサイル防衛(BMD)用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発に着手することを決定いたしました。
    2. 政府としては、大量破壊兵器及び弾道ミサイルの拡散が進展している状況において、BMDシステムが弾道ミサイル攻撃に対して、我が国国民の生命・財産を守るための純粋に防御的な、かつ、他に代替手段のない唯一の手段であり、専守防衛を旨とする我が国の防衛政策にふさわしいものであることから、平成11年度から海上配備型上層システムの共同技術研究に着手し、推進してきたところです。これは、平成16年度から整備に着手したBMDシステムを対象としたものでなく、より将来的な迎撃ミサイルの能力向上を念頭においたものであり、我が国の防衛に万全を期すために推進してきたものであります。
    3. 「中期防衛力整備計画(平成17年度~平成21年度)について」(平成16年12月10日安全保障会議及び閣議決定)においては、「その開発段階への移行について検討の上、必要な措置を講ずる」とされておりますが、これまで実施してきた日米共同技術研究の結果、当初の技術的課題を解決する見通しを得たところであり、現在の国際情勢等において、今後の弾道ミサイルの脅威への対処能力を確保するためには、依然として厳しい財政事情を踏まえつつ、BMD用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発を効率的に推進することが適切であると考えております。なお、同ミサイルの配備段階への移行については、日米共同開発の成果等を踏まえ、判断することとします。
    4. 武器輸出三原則等との関係では、「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱について」(平成16年12月10日安全保障会議及び閣議決定)の内閣官房長官談話において、「弾道ミサイル防衛システムに関する案件については、日米安全保障体制の効果的な運用に寄与し、我が国の安全保障に資するとの観点から、共同で開発・生産を行うこととなった場合には、厳格な管理を行う前提で武器輸出三原則等によらないこと」としております。また、武器の輸出管理については、武器輸出三原則等のよって立つ平和国家としての基本理念にかんがみ、今後とも引き続き慎重に対処するとの方針を堅持します。これらを踏まえ、本件日米共同開発において米国への供与が必要となる武器については、武器の供与のための枠組みを今後米国と調整し、厳格な管理の下に供与することとします。
    5. 我が国としては、BMDについて、今後とも透明性を確保しつつ国際的な認識を広げていくとともに、米国とも政策面、運用面、装備・技術面における協力を一層推進させ、我が国の防衛と大量破壊兵器及び弾道ミサイルの拡散の防止に万全を期すべく努めていく所存です。 — 2005年(平成17年)12月24日、「弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発」に関する内閣官房長官談話
  • ^ [1] 墨田川造船[リンク切れ]
  • ^ 2004年版の「小型武器概観」
  • ^ “日本は小型武器上位輸出国 世界の総取引額は6年で倍”. 産経新聞. (2012年8月28日). https://web.archive.org/web/20120828141946/http://sankei.jp.msn.com/world/news/120828/erp12082812190003-n1.htm 
  • ^ 武器輸出3原則、転換点…装備面で米欧と協力 読売新聞 2011年12月28日
  • ^ 防衛産業 中小企業の撤退相次ぐ調達の減少が直撃 技術基盤の衰退に拍車、朝雲新聞
  • ^ 防衛省開発航空機の民間転用に関する検討会、防衛省
  • ^ 自国防衛企業の利益粉砕する日本政府 ウォール・ストリート・ジャーナル 日本版
  • ^ “自衛隊の“武器”装備品 海外初供与へ”. NHK. (2012年12月18日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121218/k10014259081000.html 
  • ^ 中国・北の脅威対処、新防衛大綱へ議論開始 2010年2月19日読売新聞
  • ^ 首相が安保会議で見直し了承MSN産経ニュース・2010/12/11閲覧。
  • ^ 懲りぬ「鬼門」頼み…首相、社民と連立も視野 即、武器輸出三原則「あっさり先送り」MSN産経ニュース・2010/12/11閲覧。
  • ^ 武器輸出三原則を緩和=欧米と共同開発可能に―藤村官房長官談 - ウォール・ストリート・ジャーナル 2011年12月27日
  • ^ 「防衛装備品等の海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話(PDF) 首相官邸 2011年12月27日。全文:
    政府は、「平成二十三年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成二十二年十二月十七日閣議決定。以下「新大綱」という。)を踏まえ、防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策について慎重に検討を重ねた結果、次の結論に達し、本日の安全保障会議における審議を経て閣議において報告を行った。今後、防衛装備品等の海外への移転については、以下の基準によることとする。
    一.  政府は、これまで武器等の輸出については武器輸出三原則等によって慎重に対処してきたところである。
    二.  他方、これまでも、国際紛争等を助長することを回避するという武器輸出三原則等のよって立つ平和国家としての基本理念を堅持しつつ、我が国が行う国際平和協力、国際緊急援助、人道支援、国際テロ・海賊問題への対処といった平和への貢献や国際的な協力(以下「平和貢献・国際協力」という。)、弾道ミサイル防衛(BMD)に関する日米共同開発等の案件については、内閣官房長官談話の発出等により、武器輸出三原則等によらないこととする措置(以下「例外化措置」という。)を個別に講じてきた。
    三.  新大綱においては、近年の防衛装備品をめぐる国際的な環境変化について、「平和への貢献や国際的な協力において、自衛隊が携行する重機等の装備品の活用や被災国等への装備品の供与を通じて、より効果的な協力ができる機会が増加している。また、国際共同開発・生産に参加することで、装備品の高性能化を実現しつつ、コストの高騰に対応することが先進諸国で主流になっている。」としており、政府は、こうした認識の下、平和国家としての基本理念を堅持しつつこのような大きな変化に対応するための方策について検討を行ってきた。
    四.  今日の国際社会においては、国際平和協力、国際緊急援助、人道支援、国際テロ・海賊問題への対処等を効果的に行うことが各国に求められており、我が国は、平和国家として、国際紛争等を助長することを回避するとの基本理念を堅持しつつ、こうした平和貢献・国際協力への取組に、より積極的・効果的に取り組んでいく必要がある。
     同時に、国際社会の平和と安定を損なうおそれがある防衛装備品等の不正な流通及び拡散を防止するため、途上国等の輸出管理能力の強化に向けた支援などにも積極的に取り組んでいくべきである。
     また、我が国は、これまで米国との間で安全保障に資する防衛装備品等の共同研究・開発を行ってきたところであるが、国際社会が大きく変化しつつある中で、我が国の平和と安全や国際的な安全保障を確保していくためには、米国との連携を一層強化するとともに、我が国と安全保障面で協力関係にある米国以外の諸国とも連携していく必要があり、これらの国との間で防衛装備品等の国際共同開発・生産を進めていくことで、最新の防衛技術の獲得等を通じ、我が国防衛産業の生産・技術基盤を維持・高度化するとともに、コストの削減を図っていくべきである。
    五.  こうした観点から、政府としては、防衛装備品等の海外への移転については、平和貢献・国際協力に伴う案件及び我が国の安全保障に資する防衛装備品等の国際共同開発・生産に関する案件は、従来個別に行ってきた例外化措置における考え方を踏まえ、包括的に例外化措置を講じることとし、今後は、次の基準により処理するものとする。
    (1) 平和貢献・国際協力に伴う案件については、防衛装備品等の海外への移転を可能とすることとし、その際、相手国政府への防衛装備品等の供与は、我が国政府と相手国政府との間で取り決める枠組みにおいて、我が国政府による事前同意なく、①当該防衛装備品等が当該枠組みで定められた事業の実施以外の目的に使用されること(以下「目的外使用」という。)及び②当該防衛装備品等が第三国に移転されること(以下「第三国移転」という。)がないことが担保されるなど厳格な管理が行われることを前提として行うこととする。
    (2) 我が国の安全保障に資する防衛装備品等の国際共同開発・生産に関する案件については、我が国との間で安全保障面での協力関係がありその国との共同開発・生産が我が国の安全保障に資する場合に実施することとし、当該案件への参加国による目的外使用や第三国移転について我が国政府による事前同意を義務付けるなど厳格な管理が行われることを前提として、防衛装備品等の海外への移転を可能とすることとする。なお、我が国政府による事前同意は、当該移転が我が国の安全保障に資する場合や国際の平和及び安定に資する場合又は国際共同開発・生産における我が国の貢献が相対的に小さい場合であって、かつ、当該第三国が更なる移転を防ぐための十分な制度を有している場合でない限り、付与しないこととする。
    (3) もとより、武器輸出三原則等については、国際紛争等を助長することを回避するという平和国家としての基本理念に基づくものであり、上記以外の輸出については、引き続きこれに基づき慎重に対処する。 — 2011年(平成23年)12月27日、「防衛装備品等の海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話
  • ^ 官房長官談話要旨=武器輸出三原則緩和 - 時事通信 2011年12月27日
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  • ^ “武器輸出、禁止から管理へ 政府、新原則原案で方針転換”. 朝日新聞. (2013年12月5日). http://www.asahi.com/articles/TKY201312050329.html 2013年12月25日閲覧。 
  • ^ “小野寺防衛相“武器輸出三原則見直すべき””. NHK. (2013年9月28日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130928/k10014885991000.html 2013年9月28日閲覧。 
  • ^ “武器輸出の新原則、政府が原案示す 与党PT”. 朝日新聞. (2014年3月13日). http://www.asahi.com/articles/ASG3D5FLDG3DUTFK00C.html 2014年3月13日閲覧。 
  • ^ 防衛装備移転三原則とは 装備品輸出に一定の制約 きょうのことば - 日本経済新聞”. 日経新聞. 2024年5月17日閲覧。
  • ^ “武器輸出三原則の見直し、米側「歓迎する」”. 朝日新聞. (2014年4月3日). http://www.asahi.com/articles/ASG4326CWG43UHBI00C.html 2014年5月21日閲覧。 
  • 参考文献

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    関連項目

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    外部リンク

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