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'''退廃音楽'''(たいはいおんがく、[[ドイツ語|独]] {{de|Entartete Musik}})は[[1930年代]]に[[ナチス・ドイツ]]が「有害または退廃的である」とみなした音楽である。[[国家社会主義ドイツ労働者党|ナチス]]が「[[退廃芸術]]」を排除しようとしたことは有名であるが、退廃音楽はその音楽版である。
'''退廃音楽'''(たいはいおんがく、{{Lang-de-short|Entartete Musik}})は[[1930年代]]に[[ナチス・ドイツ]]が「有害または退廃的である」とみなした[[音楽]]である。[[国家社会主義ドイツ労働者党|ナチス]]が「[[退廃芸術]]」を排除しようとしたことは有名であるが、退廃音楽はその音楽版である。


==実例==
== 実例 ==
ナチスが退廃音楽とみなした音楽には以下のものがげられる。
ナチスが退廃音楽とみなした音楽には以下のものがげられる。
*[[フェリックス・メデルゾーン]]、[[アルノルト・シェーンベルク]][[フランツ・シュレーカー]]、[[クワイル]]、[[スタフ・マーラー]]、[[ベルトルト・ゴルトシュミット]]のような[[ユダヤ人]]の[[作曲家]]の作品。
*[[エルンスト・クルシェク]], [[ヴィヘルム・グシュ]]のような[[アフリカ系アメリカ人]]起源の[[ジャズ]]や[[ブルース]]を取り入れた作曲家の作品。
*[[エルンスト・クルシェネク]]のような[[アフリカ系アメリカ人]]起源の[[ジャズ]]を取り入れた作曲家の作品。
*[[ハンス・アイスラー]]のような[[社会主義者]]の作曲家の作品。
*[[ハンス・アイスラー]]のような[[社会主義者]]の作曲家の作品。
*[[パウル・ヒンデミット]]や[[アルバン・ベルク]]のような[[現代音楽]]の作品。[[アントン・ヴェーベルン]]は穏健な[[アドルフ・ヒトラー|ヒトラー]]の支持者だったにもかかわらず迫害を受けた。ナチスはモダニズムはドイツ文化を破壊するものとして、[[ヴァイマル共和政]]時代の多様性を否定したのである。
*[[パウル・ヒンデミット]]や[[アルバン・ベルク]]のような[[現代音楽]]の作品。[[アントン・ヴェーベルン]]は穏健な[[アドルフ・ヒトラー|ヒトラー]]の支持者だったにもかかわらず迫害を受けた。ナチスはモダニズムはドイツ文化を破壊するものとして、[[ヴァイマル共和政]]時代の多様性を否定したのである。
*[[フェリックス・メンデルスゾーン]]、[[アルノルト・シェーンベルク]]、[[フランツ・シュレーカー]]、[[クルト・ヴァイル]]、[[グスタフ・マーラー]]、[[ベルトルト・ゴルトシュミット]]のような[[ユダヤ人]]作曲家の作品。


==排斥==
== 排斥 ==
これらの作品はナチスの圧力で上演が困難になったため、多数の音楽家が亡命、または[[カール・アマデウス・ハルトマン]]や[[ボリス・ブラッハー]]のように国内亡命を余儀なくされた。また[[ヴィクトル・ウルマン]]や[[エルヴィン・シュルホフ]]のように[[強制収容所 (ナチス)|強制収容所]]で命を落とした者もいた。
これらの作品はナチスの圧力で上演が困難になったため、多数の音楽家が亡命、または[[カール・アマデウス・ハルトマン]]や[[ボリス・ブラッハー]]のように国内亡命を余儀なくされた。[[バルトーク・ベーラ|バルトーク]]は、自ら退廃音楽を自称して抗議した<ref>Michael Chanan ''From Handel to Hendrix: The Composer in the Public Sphere'', Verso, 1999, p.230</ref>上、アメリカに亡命している。また[[ヴィクトル・ウルマン]]や[[エルヴィン・シュルホフ]]のように[[強制収容所 (ナチス)|強制収容所]]で命を落とした者もいた。


その一方で、[[カール・オルフ]]の『[[カルミナ・ブラーナ]]』(1937年)などの作品は称揚され、大いに人気を博した。
その一方で、[[カール・オルフ]]の『[[カルミナ・ブラーナ]]』(1937年)などの作品は称揚され、大いに人気を博した。


==退廃音楽展==
== 退廃音楽展 ==
[[File:Ausstellungsinsel Entartete Musik.jpg|thumb|left|退廃音楽弾圧の歴史を解説するパネル展示]]
[[File:Ausstellungsinsel Entartete Musik.jpg|thumb|退廃音楽弾圧の歴史を解説するパネル展示]]
[[1938年]]には退廃芸術展にならい、これら音楽に関する資料を集めて観衆の前に晒す「退廃音楽展」が[[デュッセルドルフ]]で開催された。主催者の一人であったヴァイマル国立劇場音楽監督の[[ハンス・ゼヴェルス・ツィーグラー]]は開催の式辞で「音楽の荒廃はユダヤ人と資本主義の影響によるものである」と述べた。ツィーグラーは展示を7つのセクションに分けた。それは(1)ユダヤ人の影響、(2)シェーンベルク、(3)ワイルとクルシェネク、(4)その他の文化ボリシェヴィキ(ベルク、[[フランツ・シュレーカー]]、[[エルンスト・トッホ]]など)、(5)レオ・ケステンベルク、(6)ヒンデミットの[[オペラ]]や[[オラトリオ]]、(7)[[イーゴリ・ストラヴィンスキー]]というものであった。
[[1938年]], 退廃芸術展にならい、これら音楽に関する資料を集めて観衆の前に晒す「退廃音楽展」が[[デュッセルドルフ]]で開催され, その後、各都市を巡回した。主催者の一人であったヴァイマル国立劇場音楽監督の[[ハンス・ゼヴェルス・ツィーグラー]]は開催の式辞で「音楽の荒廃はユダヤ人と資本主義の影響によるものである」と述べた。
[[ジャズ]]などの黒人音楽、社会主義者やユダヤ人の作る音楽、実験的な[[現代音楽]]も、ドイツ民族から浮き上がった病気を抱えた「'''退廃音楽'''」として弾圧された。



==文献==
ツィーグラーは、展示を7つのセクションに分けた。それは、
# ユダヤ人の影響
# [[シェーンベルク]]
# ヴァイルとクルシェネク
# その他の文化[[ボリシェヴィキ]](ベルク、[[フランツ・シュレーカー]]、[[エルンスト・トッホ]]など)
# [[レオ・ケステンベルク]]
# ヒンデミットの[[オペラ]]や[[オラトリオ]]
# [[イーゴリ・ストラヴィンスキー]]
というものであった。

== 文献 ==
*Anon. 1938. "Musical Notes from Abroad" ''Musical Times'' 79, no. 1146 (August): 629–30.
*Anon. 1938. "Musical Notes from Abroad" ''Musical Times'' 79, no. 1146 (August): 629–30.
* Theo Stengel ''Lexikon der Juden in der Musik : Mit e. Titelverz. jüd. Werke. Zusgest. im Auftr. d. Reichsleitg d. NSDAP. auf Grund Behördl., parteiamtl. geprüfter Unterlagen'' in Verbindung mit [[Herbert Gerigk]]. Berlin : Hahnefeld Verlag, 1943 (Reihentitel: Veröffentlichungen des [[Institut zur Erforschung der Judenfrage|Instituts der NSDAP. zur Erforschung der Judenfrage]], Frankfurt am Main ; [Bd. 2])
* Theo Stengel ''Lexikon der Juden in der Musik : Mit e. Titelverz. jüd. Werke. Zusgest. im Auftr. d. Reichsleitg d. NSDAP. auf Grund Behördl., parteiamtl. geprüfter Unterlagen'' in Verbindung mit [[Herbert Gerigk]]. Berlin : Hahnefeld Verlag, 1943 (Reihentitel: Veröffentlichungen des [[Institut zur Erforschung der Judenfrage|Instituts der NSDAP. zur Erforschung der Judenfrage]], Frankfurt am Main ; [Bd. 2])
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* Albrecht Dümling/Peter Girth (Hrsg.): Entartete Musik. Dokumentation und Kommentar zur Düsseldorfer Ausstellung von 1938, Düsseldorf: der kleine verlag, 1./2. Auflage 1988, 3. überarbeitete und erweiterte Auflage 1993. ISBN 3-924166-29-3
* Albrecht Dümling/Peter Girth (Hrsg.): Entartete Musik. Dokumentation und Kommentar zur Düsseldorfer Ausstellung von 1938, Düsseldorf: der kleine verlag, 1./2. Auflage 1988, 3. überarbeitete und erweiterte Auflage 1993. ISBN 3-924166-29-3


==関連項目==
== 脚注 ==
<references />

== 関連項目 ==
* [[帝国音楽院]]
* [[帝国音楽院]]
* [[ヒンデミット事件]]
* [[ヒンデミット事件]]
* [[シュレーゲムジーク]] - ドイツ語で「斜めの音楽」の意。ナチスによるジャズの蔑称。
* [[ニーガームジーク]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

* [https://www.discogs.com/Various-Entartete-Musik-Eine-Tondokumentation-Zur-D%C3%BCsseldorfer-Ausstellung-Von-1938/master/477083 Documentation 1988]
* [https://www.discogs.com/label/227727-Decca-Entartete-Musik  デッカ社退廃音楽シリーズ]
* [http://www.deccaclassics.com/music/entartete/ DECCA: Entartete Musik]
* [http://www.deccaclassics.com/music/entartete/ DECCA: Entartete Musik]
* [http://www.musica-reanimata.de/EM-Info.htm Ausstellung Entartete Musik]
* [http://www.musica-reanimata.de/EM-Info.htm Ausstellung Entartete Musik]
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2023年7月24日 (月) 14:39時点における最新版

退廃音楽(たいはいおんがく、: Entartete Musik)は、1930年代ナチス・ドイツが「有害または退廃的である」とみなした音楽である。ナチスが「退廃芸術」を排除しようとしたことは有名であるが、退廃音楽はその音楽版である。

実例

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ナチスが退廃音楽とみなした音楽には以下のものが挙げられる。

排斥

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これらの作品はナチスの圧力で上演が困難になったため、多数の音楽家が亡命、またはカール・アマデウス・ハルトマンボリス・ブラッハーのように国内亡命を余儀なくされた。バルトークは、自ら退廃音楽を自称して抗議した[1]上、アメリカに亡命している。またヴィクトル・ウルマンエルヴィン・シュルホフのように強制収容所で命を落とした者もいた。

その一方で、カール・オルフの『カルミナ・ブラーナ』(1937年)などの作品は称揚され、大いに人気を博した。

退廃音楽展

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退廃音楽弾圧の歴史を解説するパネル展示

1938年, 退廃芸術展にならい、これら音楽に関する資料を集めて観衆の前に晒す「退廃音楽展」がデュッセルドルフで開催され, その後、各都市を巡回した。主催者の一人であったヴァイマル国立劇場音楽監督のハンス・ゼヴェルス・ツィーグラーは、開催の式辞で「音楽の荒廃はユダヤ人と資本主義の影響によるものである」と述べた。 ジャズなどの黒人音楽、社会主義者やユダヤ人の作る音楽、実験的な現代音楽も、ドイツ民族から浮き上がった病気を抱えた「退廃音楽」として弾圧された。


ツィーグラーは、展示を7つのセクションに分けた。それは、

  1. ユダヤ人の影響
  2. シェーンベルク
  3. ヴァイルとクルシェネク
  4. その他の文化ボリシェヴィキ(ベルク、フランツ・シュレーカーエルンスト・トッホなど)
  5. レオ・ケステンベルク
  6. ヒンデミットのオペラオラトリオ
  7. イーゴリ・ストラヴィンスキー

というものであった。

文献

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  • Anon. 1938. "Musical Notes from Abroad" Musical Times 79, no. 1146 (August): 629–30.
  • Theo Stengel Lexikon der Juden in der Musik : Mit e. Titelverz. jüd. Werke. Zusgest. im Auftr. d. Reichsleitg d. NSDAP. auf Grund Behördl., parteiamtl. geprüfter Unterlagen in Verbindung mit Herbert Gerigk. Berlin : Hahnefeld Verlag, 1943 (Reihentitel: Veröffentlichungen des Instituts der NSDAP. zur Erforschung der Judenfrage, Frankfurt am Main ; [Bd. 2])
  • Das „Dritte Reich“ und die Musik, zur gleichnamigen Ausstellung im Schloss Neuhardenberg. Berlin : Nicolai, 2006 ISBN 3894793317.- Französische Ursprungsversion (Musée de la Musique, 2004): Übers. der Texte aus dem Dt. Bernard Banoun ISBN 2213621357
  • Bente-Helene van Lambalgen, Emanuel Overbeeke, Leo Samama: Entartete Musik: verboden muziek onder het nazi-bewind. Amsterdam University Press, 2004. ISBN 9053567151.
  • Albrecht Dümling/Peter Girth (Hrsg.): Entartete Musik. Dokumentation und Kommentar zur Düsseldorfer Ausstellung von 1938, Düsseldorf: der kleine verlag, 1./2. Auflage 1988, 3. überarbeitete und erweiterte Auflage 1993. ISBN 3-924166-29-3

脚注

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  1. ^ Michael Chanan From Handel to Hendrix: The Composer in the Public Sphere, Verso, 1999, p.230

関連項目

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外部リンク

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