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「旋光」の版間の差分

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<center>''円偏光''</center>
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光学活性は[[複屈折]]の一種である。直線偏光は右円偏光 (right-hand circularly, RHC) と左円偏光(left-hand circularly, LHC) の和<ref>平面偏光は電場の振幅が右回りの螺旋状に変化しながら進行する光(右円偏光)と、それと同じ振幅を有する左回りの螺旋状に進行する光(左円偏光)で構成されていると見て扱うことができる</ref>によって表わされる
光学活性は[[複屈折]]の一種である。直線偏光<ref>進行方向を時間に依存しない偏光</ref>は右円偏光 (right-hand circularly, RHC、このページでは右円偏光に属する物理量に、下付文字あるいは上付文字として<math>\,+</math>をおく) と左円偏光(left-hand circularly, LHC、このページでは左円偏光に属する物理量に下付文字あるいは上付文字として<math>\,-</math>をおく) の和<ref>平面偏光は電場の振幅が右回りの螺旋状に変化しながら進行する光(右円偏光)と、それと同じ振幅を有する左回りの螺旋状に進行する光(左円偏光)で構成されていると見て扱うことができる</ref>によって表わされる


:<math>\vec{E}_{\theta_0} = \vec{E}_{RHC} + e^{i2\theta_0}\vec{E}_{LHC}</math>
:<math>\vec{E}_{\theta_0} = \vec{E}_+ + e^{i2\theta_0}\vec{E}_-</math>


ここで<math>\vec{E}</math> は光の[[電場]]ベクトル<ref>光のベクトルは電場ベクトルと磁場ベクトルの外積であるが、偏光の方向は電場の方向で表現される。このページでは光の進行方向と磁場ベクトルを含む面を偏光面、電場ベクトルを含む面を振動面と呼ぶ</ref>、<math>\,\theta_0</math>は、xy平面内に電場ベクトルが存在するように互いに直行するx軸、y軸、z軸をおいたとき、x軸を始線としての電場ベクトルのなす角である。このとき、左右の円偏光の左右の屈折率を<math>n_-,\,n_+</math>として、左右の光の電場のx成分<math>E_x^-,\,E_y^+</math>、y成分<math>E_y^-,\,E_y^+</math>は
ここで <math>\vec{E}</math> は光の[[電場]]である。2つの円偏光の位相差<math>\,2\theta_0</math><ref>位相に差があるとき、偏光は[[入射面|入射]]前に比べて左右いずれかに傾く。2つの円偏光の位相が異になるとは、それぞれの進行速度に差があるということである。左右の円偏光が媒質中を等しい速度で進行するときは、2つの円偏光は(入射前の進行方向と重なる直線、円変更の図での上に向かって伸びる矢印上の任意の点から)等しい距離を進行する。その結果、媒質を通過後の2つの円偏光は位相が同じで、それらを合成して得られる平面偏光は媒質に入射する前の面と一致している</ref><ref>入射前の偏光において、測定媒質通過後に偏光が左または右に傾いたなら、その測定媒質をそれぞれ左旋光性、右旋光性と呼ぶ。左旋光性と右旋光性の化合物を区別するときは、右旋光性化合物名の前に(+)あるいはd、左旋光製化合物の前に(-)あるいはlをおく</ref>から、直線偏光の向きは<math>\,\theta_0</math>となる。光学活性な物質中では2つの円偏光の[[屈折率]]が異なり、この差が光学活性の強さとなって現れる
:<math>\,E_x^-=E_0\cos{(\omega t-k_0n_\mathrm{z}^-)}</math>
:<math>\,E_x^+=E_0\cos{(\omega t-k_0n_\mathrm{z}^+)}</math>
:<math>E_y^-=E_0\cos{(\omega t-k_0n_\mathrm{z}^--\tfrac{2}{\mathbf{\pi}})}</math>
:<math>E_y^+=E_0\cos{(\omega t-k_0n_\mathrm{z}^+-\tfrac{2}{\mathbf{\pi}})}</math>
とあらわせるから、合成電場のx成分<math>\,E_x</math>、y成分<math>\,E_y</math>は
:<math>E_x=2E_0\cos{\left( \frac{k_0(n_--n_+)}{2}z \right)}\cos{\omega t-\left( \frac{k_0(n_++n_-)}{2}z \right)}</math>
:<math>E_y=2E_0\sin{\left( \frac{k_0(n_--n_+)}{2}z \right)}\cos{\omega t-\left( \frac{k_0(n_++n_-)}{2}z \right)}</math>
2つの円偏光の位相差<math>\,2\theta_0</math><ref>位相に差があるとき、偏光は[[入射面|入射]]前に比べて左右いずれかに傾く。2つの円偏光の位相が異になるとは、それぞれの進行速度に差があるということである。左右の円偏光が媒質中を等しい速度で進行するときは、2つの円偏光は(入射前の進行方向と重なる直線、円変更の図での上に向かって伸びる矢印上の任意の点から)等しい距離を進行する。その結果、媒質を通過後の2つの円偏光は位相が同じで、それらを合成して得られる平面偏光は媒質に入射する前の面と一致している</ref><ref>入射前の偏光において、測定媒質通過後に偏光が左または右に傾いたなら、その測定媒質をそれぞれ左旋光性、右旋光性と呼ぶ。左旋光性と右旋光性の化合物を区別するときは、右旋光性化合物名の前に(+)あるいはd、左旋光製化合物の前に(-)あるいはlをおく</ref>から、直線偏光の向きは<math>\,\theta_0</math>となる。光学活性な物質中では2つの円偏光の[[屈折率]]が異なり、この差が光学活性の強さとなって現れる


:<math>\,\Delta n = n_{RHC} - n_{LHC}</math>
:<math>\,\Delta n = n_+ - n_-</math>


屈折率の差はその物質固有のものであり、溶液の場合は'''比旋光度''' (specific rotation) として定義される。距離 ''L'' の物質を通過したあと、2つの偏光の位相差は次のようになる
屈折率の差はその物質固有のものであり、溶液の場合は'''比旋光度''' (specific rotation) として定義される。距離 ''L'' の物質を通過したあと、2つの偏光の位相差は次のようになる

2009年10月2日 (金) 12:44時点における版

旋光(せんこう)とは、直線偏光がある物質中を通過した際に回転する現象である。この性質を示す物質や化合物は旋光性あるいは光学活性を持つ、と言われる。不斉な分子(など)の溶液や、偏極面を持つ結晶(水晶)などの固体、偏極したスピンをもつ気体原子・分子で起こる。糖化学ではシロップの濃度を求めるのに、光学では偏光[1]の操作に、化学では溶液中の基質の性質を検討するのに、医学においては糖尿病患者の血中糖濃度を測定するのに用いられる。

原理

Circular polarization diagram
Circular polarization diagram
円偏光

光学活性は複屈折の一種である。直線偏光[2]は右円偏光 (right-hand circularly, RHC、このページでは右円偏光に属する物理量に、下付文字あるいは上付文字としてをおく) と左円偏光(left-hand circularly, LHC、このページでは左円偏光に属する物理量に下付文字あるいは上付文字としてをおく) の和[3]によって表わされる

ここで は光の電場ベクトル[4]は、xy平面内に電場ベクトルが存在するように互いに直行するx軸、y軸、z軸をおいたとき、x軸を始線としての電場ベクトルのなす角である。このとき、左右の円偏光の左右の屈折率をとして、左右の光の電場のx成分、y成分

とあらわせるから、合成電場のx成分、y成分

2つの円偏光の位相差[5][6]から、直線偏光の向きはとなる。光学活性な物質中では2つの円偏光の屈折率が異なり、この差が光学活性の強さとなって現れる

屈折率の差はその物質固有のものであり、溶液の場合は比旋光度 (specific rotation) として定義される。距離 L の物質を通過したあと、2つの偏光の位相差は次のようになる

ここで は真空中での光の波長である。結局、偏光は角度 だけ回転する。

一般的に、屈折率は波長に依存する(分散を参照)。光の波長変化に伴う偏光の回転量変化は旋光分散 (optical rotatory dispersion, ORD) と呼ばれる。ORD スペクトルと円二色性 (CD) スペクトルはクラマース・クローニッヒの関係式 (Kramers-Kronig relation) によって関連付けられる。片方のスペクトルについて完全な情報が得られれば、もう一方は計算によって求めることができる。

まとめると、旋光度は光の色(ナトリウム D 線の波長 589 nm 付近の黄色い光が一般的な測定に用いられる)、経路長 L、および物質の性質(比旋光度 Δn および濃度)に依存する。

利用される分野

溶液中の純物質の場合、色と経路長が一定で比旋光度が分かっているならば、観測された旋光度から濃度を求めることができる。このため旋光計は糖シロップの商業取引の際の重要な装置となっている。また、化学においては、光学活性な化合物を不斉合成した際、得られた生成物の光学純度を決定するための方法の1つとして用いられる。

磁場中では全ての分子は光学活性を持つ。ある物質中を伝播する光の向きに配向した磁場は、直線偏光の偏光面を回転させる。これはファラデー効果と呼ばれ、光と電磁場の影響を関連付ける最初の発見の1つである。

光学活性や旋光現象を円偏光と混同してはならない。しばしば、円偏光は直線偏光が伝播に伴って回転するものだと表わされる。しかし、この考え方では、偏光は波長に等しい長さ(およそ 1 マイクロメートル)だけ進んだ時にちょうど1周することになり、これは真空中でも起こり得る。これに対し、旋光は物質中でのみ現れるものであり、物質によって異なるが大体数ミリメートルから数メートルの長さを進んだ時に1周する。

歴史

直線偏光の向きが回転する現象は、1800年代初頭、分子の性質が理解される前に既に観測されていた。ジャン=バティスト・ビオは初期の研究者の1人である。その頃からグルコースなど単純な糖の溶液の濃度を測定するのに簡単な旋光計が用いられていた。実際、グルコースの1つであるブドウ糖(右旋糖、dextrose)の名称は、直線偏光を右 (dexter) 側に回転させる性質に由来する。同様に、フルクトース(左旋糖、levulose)は左 (levo) 側に回転させる事から命名された。フルクトースの左旋性はグルコースの右旋性よりもずっと強く、フルクトースをグルコースの溶液に加える事によって得られる転化糖の名称は、反応によって旋光の向きが逆転することが元になっている。

脚注

  1. ^ 光は、進行方向に対し互いに直行する2つの面内を電場と磁場が同位相で正弦曲線を描いて進行している。今電場のみを考えると、自然光線では電場の進行波が進行方向を含むあらゆる方向の面に対称的に分布している。もし分布が対称的でない場合には、その光は偏光しているという
  2. ^ 進行方向を時間に依存しない偏光
  3. ^ 平面偏光は電場の振幅が右回りの螺旋状に変化しながら進行する光(右円偏光)と、それと同じ振幅を有する左回りの螺旋状に進行する光(左円偏光)で構成されていると見て扱うことができる
  4. ^ 光のベクトルは電場ベクトルと磁場ベクトルの外積であるが、偏光の方向は電場の方向で表現される。このページでは光の進行方向と磁場ベクトルを含む面を偏光面、電場ベクトルを含む面を振動面と呼ぶ
  5. ^ 位相に差があるとき、偏光面は入射前に比べて左右いずれかに傾く。2つの円偏光の位相が異になるとは、それぞれの進行速度に差があるということである。左右の円偏光が媒質中を等しい速度で進行するときは、2つの円偏光は(入射前の進行方向と重なる直線、円変更の図での上に向かって伸びる矢印上の任意の点から)等しい距離を進行する。その結果、媒質を通過後の2つの円偏光は位相が同じで、それらを合成して得られる平面偏光は媒質に入射する前の面と一致している
  6. ^ 入射前の偏光において、測定媒質通過後に偏光が左または右に傾いたなら、その測定媒質をそれぞれ左旋光性、右旋光性と呼ぶ。左旋光性と右旋光性の化合物を区別するときは、右旋光性化合物名の前に(+)あるいはd、左旋光製化合物の前に(-)あるいはlをおく

関連項目