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「トリカブト」の版間の差分

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'''トリカブト'''(鳥兜・草鳥頭、学名:{{snamei|Aconitum}})は、[[キンポウゲ科]]トリカブト属の総称である。有毒植物の一種として知られる。[[スミレ]]と同じ「菫」と漢字で表記することもある。[[ニリンソウ]]、[[ゲンノショウコ]]、[[ヨモギ]]、[[モミジガサ]]などと外見が似ているため誤食事故に注意を要する。
'''トリカブト'''(鳥兜・草鳥頭、学名:{{snamei|Aconitum}})は、[[キンポウゲ科]]トリカブト属の総称である。有毒植物の一種として知られる。[[スミレ]]と同じ「菫」と漢字で表記することもある。[[ニリンソウ]]、[[ゲンノショウコ]]、[[ヨモギ]]、[[モミジガサ]]などと外見が似ているため誤食事故に注意を要する。


== 概要 ==
== 形態 ==
果実は袋果、種子は翼を持たない
[[ドクウツギ]]や[[ドクゼリ]]と並んで日本三大[[有毒植物]]の一つとされ<ref>{{Cite web|和書|author=古泉秀夫|url=http://www.drugsinfo.jp/2007/08/17-174500|title=毒芹(water-hemlok)の毒性|date=2007-08-17|work=医薬品情報21|publisher=|accessdate=2014-08-31|ref=}}</ref>、トリカブトの仲間は日本は約30種が自生している。沢筋などの比較的湿気の多い場所を好む。トリカブトの名の由来は、[[花]]が古来の衣装である[[鳥兜]]・[[烏帽子]]に似ているからとも、[[ニワトリ|鶏]]の鶏冠(とか)に似いるからとも言われる。英名の "{{lang|en|monkshood}}" は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意味


== 生態 ==
多くは[[多年生植物|多年草]]である。草丈は80 -120センチメートルほどある{{sfn|金田初代|2010|p=184}}。葉は深く3裂から5裂して、夏から秋に紫色のほか、白、黄色、ピンク色などの花を咲かせる{{sfn|金田初代|2010|p=184}}。茎葉を傷つけても、特別な臭いや汁液が出るわけではない{{sfn|金田初代|2010|p=184}}。
草本が多いが一部につる植物が知られ、中間な性質を持つものも知られる。キンポウゲ科の中では塊茎がよく発達する。レイジンソウ亜属 Subgen. {{Snamei|Lycoctonum}} に属する種は[[多年草]]であるが、トリカブト亜属 Subgen. {{Snamei|Aconitum}} に属する種は、多年草のなかの疑似一年草に分類される。地上部と地下の母根([[塊根]]、「烏頭(うず)」)はその年の秋に枯死するが、母根から伸びた[[地下茎]]の先に子根(嬢根、「附子(ぶし、ぶす)」)ができ、その子根が母根から分離して越冬芽をもち、翌年に発芽し開花する。地上部と地下の母根から見れば[[一年草]]であるが、子根が翌年にも生存するため、擬似一年草のカテゴリーにはいる<ref name="H.Ohashi" />。分離型地中植物とも呼ばれる<ref name="Shimizu">清水建美 (2001) 「草本」『図説 植物用語事典』pp. 20-21</ref>。繁殖はこの[[栄養繁殖]]の他に受粉して種子を作ることも併用する


湿地を好みしばしば沢沿いに群落を形成する種が多い。
[[根|塊根]]を乾燥させたものは[[漢方薬]]や[[毒]]として用いられ、'''烏頭'''(うず)または'''[[#漢方薬|附子]]'''([[生薬]]名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来、「附子」は球根の周りに付いている「子ども」の部分。中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。俗に不美人のことを「ブス」というが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある<ref name="mystery">{{Cite |和書|author=山崎,昶 |title=ミステリーの毒を科学する : 毒とは何かを知るために |date=1992 |publisher=[[講談社]] |isbn=4061329197 |series=[[ブルーバックス]] |ref=harv}}</ref>。


== 毒性 ==
== 人間との関わり ==
種にもよるが致命的な毒性を持ち、[[ドクウツギ]]や[[ドクゼリ]]と並んで日本三大[[有毒植物]]の一つとされ<ref>{{Cite web|和書|author=古泉秀夫|url=http://www.drugsinfo.jp/2007/08/17-174500|title=毒芹(water-hemlok)の毒性|date=2007-08-17|work=医薬品情報21|publisher=|accessdate=2014-08-31|ref=}}</ref>、狩猟や薬用利用きた
[[File:Aconitine.svg|thumb|right|200px|トリカブトの毒の一つであるアコニチン]]
全草、特に根に致死性の高い猛毒を持つことで知られる{{sfn|金田初代|2010|p=184}}。主な毒成分は[[ジテルペン]]系[[アルカロイド]]の[[アコニチン]]で、他に[[メサコニチン]]、[[アコニン]]、[[ヒパコニチン]]、低毒性成分の[[アチシン]]のほか、[[ソンゴリン]]など<ref name="drug">[http://www.drugsinfo.jp/2007/12/04-232420 トリカブトの毒性 (2007/12/04) 医薬品情報21]</ref>を全草、特に根に含む。採集時期および地域によって、毒の強さが異なることがある<ref name="wada122">{{Cite journal|和書|author=和田浩二 |title=トリカブト属ジテルペンアルカロイドのLC-APCI-MSによる構造解析と末梢血流量増加作用について |url=https://doi.org/10.1248/yakushi.122.929 |date=2002-11-01 |publisher=日本薬学会 |journal=藥學雜誌|volume=122 |number=11 |naid=10010204168 |doi=10.1248/yakushi.122.929 |pages=929-956 |ref=harv}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=坂井進一郎 |author2=高山広光 |author3=岡本敏彦 |title=高尾(東京都)産トリカブト塩基成分について |url=https://doi.org/10.1248/yakushi1947.99.6_647 |date=1979-06-25 |publisher=日本薬学会 |journal=藥學雜誌 |volume=99 |number=6 |naid=110003653012 |pages=647-656 |ref=harv}}</ref>。


=== 薬 ===
誤食すると[[嘔吐]]、呼吸困難、[[臓器不全]]、[[痙攣]]などによる中毒症状を起こし、[[心室細動]]ないし[[心停止]]で死に至ることもある{{sfn|金田初代|2010|p=184}}。毒は即効性があり、摂取量によっては経口後数十秒で死亡することもある。半数致死量は0.2gから1g。[[経皮吸収]]および[[経粘膜吸収]]されるため、口に含んだり、素手で触っただけでも中毒に至ることがある。[[蜜]]や[[花粉]]にも毒性があるため、[[養蜂]]家はトリカブトが自生している地域では[[蜂蜜]]を採集しないか、開花期を避けるようにしている。また、天然蜂蜜による中毒例も報告されている<ref>高田清己、「[https://doi.org/10.3358/shokueishi.34.443 はちみつによる食中毒]」『食品衛生学雑誌』 Vol.34 (1993) No.5 p.443-444, {{doi|10.3358/shokueishi.34.443}}。</ref>。特異的療法および[[解毒剤]]はないが、各地の医療機関で中毒の治療研究が行われている<ref>[http://ccm.iwate-med.ac.jp/tori/tori.html 岩手医科大学医学部-救急救命情報](トリカブト)</ref>。
[[根|塊根]]を乾燥させたものは[[漢方薬]]や[[毒]]として用いられ、'''烏頭'''(うず)または'''[[#漢方薬|附子]]'''([[生薬]]名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来、「附子」は球根の周りに付いている「子ども」の部分。中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。俗に不美人のことを「ブス」というが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある<ref name="mystery">{{Cite |和書|author=山崎,昶 |title=ミステリーの毒を科学する : 毒とは何かを知るために |date=1992 |publisher=[[講談社]] |isbn=4061329197 |series=[[ブルーバックス]] |ref=harv}}</ref>。


芽吹きの頃には[[ニリンソウ]]、[[ゲンノショウコ]]、[[ヨモギ]]、[[モミジガサ]]などと外見が似ているため間違えやすく、誤食による中毒事故がしばしば報道されている{{sfn|金田初代|2010|p=184}}。

株によって葉の切れ込み具合が異なる(参考画像参照)。

=== 利用 ===
古来、[[毒矢|矢毒]]として塗布するなどの方法で、狩猟・軍事目的で北東アジア・[[シベリア]]文化圏を中心に利用されてきた。[[北アメリカ]]の[[エスキモー]]もトリカブトの毒矢を使用したことが報告されている<ref>{{Cite book|和書|author=L・ベルグ|authorlink=レフ・ベルグ|year=1942|title=カムチャツカ発見とベーリング探検|publisher=龍吟社|page=133}}</ref>。
[[アイヌ]]はトリカブトとその根を「スㇽク」と呼び、[[アマッポ]]に使用した<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.yasei.com/ainutotorikabuto.html|title=アイヌとトリカブト|date=2005-07|publisher=|accessdate=2022-04-20|ref=}}</ref>。

== 医療用 ==
強毒を持つものの、[[漢方医学|漢方]]や[[アーユルヴェーダ]]などの伝統医療で薬として使用される。
=== 漢方薬 ===
[[File:Bushi2012.jpg|thumb|200px|right|附子(生薬)]]
漢方ではトリカブト属の[[球根|塊根]]を'''附子'''(ぶし)と称して薬用にする。本来は、塊根の子根(しこん)を附子と称するほか、「親」の部分は烏頭(うず)、また、子根の付かない単体の塊根を天雄(てんゆう)と称し、それぞれ運用法が違う。強心作用や鎮痛作用があるほか、牛車腎気丸及び桂枝加朮附湯では皮膚温上昇作用、末梢血管拡張作用により血液循環の改善に有効である<ref name="wada122"/>。
漢方ではトリカブト属の[[球根|塊根]]を'''附子'''(ぶし)と称して薬用にする。本来は、塊根の子根(しこん)を附子と称するほか、「親」の部分は烏頭(うず)、また、子根の付かない単体の塊根を天雄(てんゆう)と称し、それぞれ運用法が違う。強心作用や鎮痛作用があるほか、牛車腎気丸及び桂枝加朮附湯では皮膚温上昇作用、末梢血管拡張作用により血液循環の改善に有効である<ref name="wada122"/>。


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2021年4月16日、[[キルギス]]政府のアリムカディル・ベイシェナリエフ保険大臣は、トリカブトの塊根からの抽出物に[[新型コロナウイルス感染症 (2019年)|新型コロナウイルス感染症]]への治療効果があると発表した。既に何百人かの患者に同意の元で処方されたとしており、記者会見の場で同じものを飲んで安全性をアピールした<ref>{{Cite web|url=https://www.rferl.org/a/kyrgyzstan-toxic-root-president-four-patients-hospital-poisoning/31215533.html|title=Four Patients Being Treated In Kyrgyz Hospitals For Poisoning With Toxic Root Promoted By President|website=RadioFreeEurope/RadioLiberty|accessdate=2022-04-20|ref=}}</ref><ref>{{Cite web|和書|author=日高奈緒|url=https://www.asahi.com/articles/ASP4K6645P4KUHBI039.html|title=トリカブトの溶液でコロナ治療? WHO「勧めないで」|date=2022-04-17|work=|publisher=朝日新聞|accessdate=2022-04-20|ref=}}</ref>。
2021年4月16日、[[キルギス]]政府のアリムカディル・ベイシェナリエフ保険大臣は、トリカブトの塊根からの抽出物に[[新型コロナウイルス感染症 (2019年)|新型コロナウイルス感染症]]への治療効果があると発表した。既に何百人かの患者に同意の元で処方されたとしており、記者会見の場で同じものを飲んで安全性をアピールした<ref>{{Cite web|url=https://www.rferl.org/a/kyrgyzstan-toxic-root-president-four-patients-hospital-poisoning/31215533.html|title=Four Patients Being Treated In Kyrgyz Hospitals For Poisoning With Toxic Root Promoted By President|website=RadioFreeEurope/RadioLiberty|accessdate=2022-04-20|ref=}}</ref><ref>{{Cite web|和書|author=日高奈緒|url=https://www.asahi.com/articles/ASP4K6645P4KUHBI039.html|title=トリカブトの溶液でコロナ治療? WHO「勧めないで」|date=2022-04-17|work=|publisher=朝日新聞|accessdate=2022-04-20|ref=}}</ref>。


== 主な種 ==
=== ===
[[File:Aconitine.svg|thumb|right|200px|トリカブトの毒の一つであるアコニチン]]
全草、特に根に致死性の高い猛毒を持つことで知られる{{sfn|金田初代|2010|p=184}}。主な毒成分は[[ジテルペン]]系[[アルカロイド]]の[[アコニチン]]で、他に[[メサコニチン]]、[[アコニン]]、[[ヒパコニチン]]、低毒性成分の[[アチシン]]のほか、[[ソンゴリン]]など<ref name="drug">[http://www.drugsinfo.jp/2007/12/04-232420 トリカブトの毒性 (2007/12/04) 医薬品情報21]</ref>を全草、特に根に含む。採集時期および地域によって、毒の強さが異なることがある<ref name="wada122">{{Cite journal|和書|author=和田浩二 |title=トリカブト属ジテルペンアルカロイドのLC-APCI-MSによる構造解析と末梢血流量増加作用について |url=https://doi.org/10.1248/yakushi.122.929 |date=2002-11-01 |publisher=日本薬学会 |journal=藥學雜誌|volume=122 |number=11 |naid=10010204168 |doi=10.1248/yakushi.122.929 |pages=929-956 |ref=harv}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=坂井進一郎 |author2=高山広光 |author3=岡本敏彦 |title=高尾(東京都)産トリカブト塩基成分について |url=https://doi.org/10.1248/yakushi1947.99.6_647 |date=1979-06-25 |publisher=日本薬学会 |journal=藥學雜誌 |volume=99 |number=6 |naid=110003653012 |pages=647-656 |ref=harv}}</ref>。

誤食すると[[嘔吐]]、呼吸困難、[[臓器不全]]、[[痙攣]]などによる中毒症状を起こし、[[心室細動]]ないし[[心停止]]で死に至ることもある{{sfn|金田初代|2010|p=184}}。毒は即効性があり、摂取量によっては経口後数十秒で死亡することもある。半数致死量は0.2gから1g。[[経皮吸収]]および[[経粘膜吸収]]されるため、口に含んだり、素手で触っただけでも中毒に至ることがある。[[蜜]]や[[花粉]]にも毒性があるため、[[養蜂]]家はトリカブトが自生している地域では[[蜂蜜]]を採集しないか、開花期を避けるようにしている。また、天然蜂蜜による中毒例も報告されている<ref>高田清己、「[https://doi.org/10.3358/shokueishi.34.443 はちみつによる食中毒]」『食品衛生学雑誌』 Vol.34 (1993) No.5 p.443-444, {{doi|10.3358/shokueishi.34.443}}。</ref>。特異的療法および[[解毒剤]]はないが、各地の医療機関で中毒の治療研究が行われている<ref>[http://ccm.iwate-med.ac.jp/tori/tori.html 岩手医科大学医学部-救急救命情報](トリカブト)</ref>。

古来、[[毒矢|矢毒]]として塗布するなどの方法で、狩猟・軍事目的で北東アジア・[[シベリア]]文化圏を中心に利用されてきた。[[北アメリカ]]の[[エスキモー]]もトリカブトの毒矢を使用したことが報告されている<ref>{{Cite book|和書|author=L・ベルグ|authorlink=レフ・ベルグ|year=1942|title=カムチャツカ発見とベーリング探検|publisher=龍吟社|page=133}}</ref>。
[[アイヌ]]はトリカブトとその根を「スㇽク」と呼び、[[アマッポ]]に使用した<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.yasei.com/ainutotorikabuto.html|title=アイヌとトリカブト|date=2005-07|publisher=|accessdate=2022-04-20|ref=}}</ref>。
=== 類似種 ===
芽吹きの頃には[[ニリンソウ]]、[[ゲンノショウコ]]、[[ヨモギ]]、[[モミジガサ]]などと外見が似ているため間違えやすく、誤食による中毒事故がしばしば報道されている{{sfn|金田初代|2010|p=184}}。

=== 園芸 ===
花を目的にいくつかの園芸品種が作出されている。

== 分類 ==
=== 上位分類 ===
ヒエンソウ属(''Consolida'')、[[デルフィニウム属|オオヒエンソウ属]](''Delphinium'')などと共にヒエンソウ連(Tribe Delphinieae)に入れられることが多い。トリカブト属とこれら2属の違いは距を持つ花弁が有柄か無柄かである<ref name="田村道夫(1990)">田村道夫. (1990) キンポウゲ科の分類1. 植物分類地理41, p.91-100. {{doi|10.18942/bunruichiri.KJ00002594282}}</ref>

=== 下位分類 ===
トリカブト属は分類が非常に難しい種類であり、別種とされている種でも形態的には僅かな違いしか出ないことも多い。理由として有性生殖と無性生殖を併用すること、現在が分化していく途上にあることなどが指摘されている<ref>岡田博(1994)トリカブト属植物の集団の変異. 植物分類地理45(1), p.79. {{doi|10.18942/bunruichiri.KJ00001079035}}</ref>。トリカブト亜属(Subgen, ''Aconitum'')とレイジンソウ亜属(Subgen. Lyctonum'')に分けるのは多くの研究者から支持されている。

[http://ylist.info/index.html YList]および門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』による<ref name="H.Ohashi">門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』pp.120-131</ref>。
[http://ylist.info/index.html YList]および門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』による<ref name="H.Ohashi">門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』pp.120-131</ref>。
;レイジンソウ亜属 subgen. {{Snamei|Lycoctonum}}
;レイジンソウ亜属 subgen. {{Snamei|Lycoctonum}}
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<!--化学成分からみて妥当な分類としてトリカブト属が30種、変種が22種、計52種という多くの種類が存在する<ref name="drug" />。-->
<!--化学成分からみて妥当な分類としてトリカブト属が30種、変種が22種、計52種という多くの種類が存在する<ref name="drug" />。-->


=== 疑似一年草 ===
== 名前 ==
トリカブトの名の由来は、[[花]]が古来の衣装である[[鳥兜]]・[[烏帽子]]に似ているからとも、[[ニワトリ|鶏]]の鶏冠(とさか)に似ているからとも言われる。英名の "{{lang|en|monkshood}}" は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意味で和名と同じく花の形に由来する。
トリカブト属のうち、レイジンソウ亜属 Subgen. {{Snamei|Lycoctonum}} に属する種は[[多年草]]であるが、トリカブト亜属 Subgen. {{Snamei|Aconitum}} に属する種は、多年草のなかの疑似一年草に分類される。地上部と地下の母根([[塊根]]、「烏頭(うず)」)はその年の秋に枯死するが、母根から伸びた[[地下茎]]の先に子根(嬢根、「附子(ぶし、ぶす)」)ができ、その子根が母根から分離して越冬芽をもち、翌年に発芽し開花する。地上部と地下の母根から見れば[[一年草]]であるが、子根が翌年にも生存するため、擬似一年草のカテゴリーにはいる<ref name="H.Ohashi" />。分離型地中植物とも呼ばれる<ref name="Shimizu">清水建美 (2001) 「草本」『図説 植物用語事典』pp. 20-21</ref>。

=== 観賞用のトリカブト ===
[[ハナトリカブト]]は観賞用として栽培され、切花の状態で販売されている。しかし、その全草に毒性の強い[[メサコニチン]]が含まれて取り扱いには危険が伴うことから、子供やペットが触ったり口に入れたりするなどによる事故が起こらないよう、注意が必要になる。

== 参考画像 ==
<gallery>
Image:Aconitum japonicum var. montanum 01.jpg|ヤマトリカブト
Image:Aconitum kitadakense.jpg|キタダケトリカブト
Image:Aconitum anthora.jpg|{{snamei|Aconitum anthora}}
Image:Aconitum carmichaelli 'arendsii' 27-10-2005 16.09.36.JPG|{{snamei|Aconitum carmichaelii}}
Image:Aconitum_Shoots.jpg|沢筋に生える若い株(長野県菅平)
ファイル: Aconitum umbrosum 1.JPG|[[オオレイジンソウ]]
ファイル:Aconitum pterocaule 2.JPG|[[アズマレイジンソウ]]
</gallery>


== 附子・トリカブトが出てくる作品 ==
== 附子・トリカブトが出てくる作品 ==

2024年5月11日 (土) 12:22時点における版

トリカブト属
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: キンポウゲ目 Ranunculales
: キンポウゲ科 Ranunculaceae
: トリカブト属 Aconitum L., 1753
英名
monkshood
  • 本文参照

トリカブト(鳥兜・草鳥頭、学名:Aconitum)は、キンポウゲ科トリカブト属の総称である。有毒植物の一種として知られる。スミレと同じ「菫」と漢字で表記することもある。ニリンソウゲンノショウコヨモギモミジガサなどと外見が似ているため誤食事故に注意を要する。

形態

果実は袋果、種子は翼を持たない

生態

草本が多いが一部につる植物が知られ、中間のような性質を持つものも知られる。キンポウゲ科の中では塊茎がよく発達する。レイジンソウ亜属 Subgen. Lycoctonum に属する種は多年草であるが、トリカブト亜属 Subgen. Aconitum に属する種は、多年草のなかの疑似一年草に分類される。地上部と地下の母根(塊根、「烏頭(うず)」)はその年の秋に枯死するが、母根から伸びた地下茎の先に子根(嬢根、「附子(ぶし、ぶす)」)ができ、その子根が母根から分離して越冬芽をもち、翌年に発芽し開花する。地上部と地下の母根から見れば一年草であるが、子根が翌年にも生存するため、擬似一年草のカテゴリーにはいる[1]。分離型地中植物とも呼ばれる[2]。繁殖はこの栄養繁殖の他に受粉して種子を作ることも併用する。

湿地を好みしばしば沢沿いに群落を形成する種が多い。

人間との関わり

種にもよるが致命的な毒性を持ち、ドクウツギドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされ[3]、狩猟や薬用に利用されてきた。

薬用

塊根を乾燥させたものは漢方薬として用いられ、烏頭(うず)または附子生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来、「附子」は球根の周りに付いている「子ども」の部分。中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。俗に不美人のことを「ブス」というが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある[4]

漢方ではトリカブト属の塊根附子(ぶし)と称して薬用にする。本来は、塊根の子根(しこん)を附子と称するほか、「親」の部分は烏頭(うず)、また、子根の付かない単体の塊根を天雄(てんゆう)と称し、それぞれ運用法が違う。強心作用や鎮痛作用があるほか、牛車腎気丸及び桂枝加朮附湯では皮膚温上昇作用、末梢血管拡張作用により血液循環の改善に有効である[5]

しかし、毒性が強いため、附子をそのまま生薬として用いることはほとんどなく、修治と呼ばれる弱毒処理が行われる[6]

附子が配合されている漢方方剤の例

新型コロナウイルスの治療薬として

2021年4月16日、キルギス政府のアリムカディル・ベイシェナリエフ保険大臣は、トリカブトの塊根からの抽出物に新型コロナウイルス感染症への治療効果があると発表した。既に何百人かの患者に同意の元で処方されたとしており、記者会見の場で同じものを飲んで安全性をアピールした[7][8]

トリカブトの毒の一つであるアコニチン

全草、特に根に致死性の高い猛毒を持つことで知られる[9]。主な毒成分はジテルペンアルカロイドアコニチンで、他にメサコニチンアコニンヒパコニチン、低毒性成分のアチシンのほか、ソンゴリンなど[10]を全草、特に根に含む。採集時期および地域によって、毒の強さが異なることがある[5][11]

誤食すると嘔吐、呼吸困難、臓器不全痙攣などによる中毒症状を起こし、心室細動ないし心停止で死に至ることもある[9]。毒は即効性があり、摂取量によっては経口後数十秒で死亡することもある。半数致死量は0.2gから1g。経皮吸収および経粘膜吸収されるため、口に含んだり、素手で触っただけでも中毒に至ることがある。花粉にも毒性があるため、養蜂家はトリカブトが自生している地域では蜂蜜を採集しないか、開花期を避けるようにしている。また、天然蜂蜜による中毒例も報告されている[12]。特異的療法および解毒剤はないが、各地の医療機関で中毒の治療研究が行われている[13]

古来、矢毒として塗布するなどの方法で、狩猟・軍事目的で北東アジア・シベリア文化圏を中心に利用されてきた。北アメリカエスキモーもトリカブトの毒矢を使用したことが報告されている[14]アイヌはトリカブトとその根を「スㇽク」と呼び、アマッポに使用した[15]

類似種

芽吹きの頃にはニリンソウゲンノショウコヨモギモミジガサなどと外見が似ているため間違えやすく、誤食による中毒事故がしばしば報道されている[9]

園芸

花を目的にいくつかの園芸品種が作出されている。

分類

上位分類

ヒエンソウ属(Consolida)、オオヒエンソウ属Delphinium)などと共にヒエンソウ連(Tribe Delphinieae)に入れられることが多い。トリカブト属とこれら2属の違いは距を持つ花弁が有柄か無柄かである[16]

下位分類

トリカブト属は分類が非常に難しい種類であり、別種とされている種でも形態的には僅かな違いしか出ないことも多い。理由として有性生殖と無性生殖を併用すること、現在が分化していく途上にあることなどが指摘されている[17]。トリカブト亜属(Subgen, Aconitum)とレイジンソウ亜属(Subgen. Lyctonum)に分けるのは多くの研究者から支持されている。

YListおよび門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』による[1]

レイジンソウ亜属 subgen. Lycoctonum
トリカブト亜属 subgen. Aconitum

なお、日本においては2018年以降、次の種が新種記載されている。

北半球の寒帯から暖温帯に300種以上が分布し、日華植物区系区に多くの種がみられる[1]

名前

トリカブトの名の由来は、が古来の衣装である鳥兜烏帽子に似ているからとも、の鶏冠(とさか)に似ているからとも言われる。英名の "monkshood" は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意味で和名と同じく花の形に由来する。

附子・トリカブトが出てくる作品

致死性の強毒を持つことから、創作では定番のアイテムである。

  • 東海道四谷怪談』 - お岩が飲まされた毒は附子であるとされている[4]
  • 『修道士の頭巾』 - イギリスの歴史ミステリー『修道士カドフェル』シリーズの一つ。主人公が痛み止めの塗薬として調合したものが登場。タイトルの「MONK'S-HOOD」はトリカブトの英名である。
  • 附子』の名は小名狂言の演目名としても知られる。
  • 八つ墓村』 - 作中で金田一耕助は、八つ墓村に群生しているカブトニクが連続殺人に用いられたと推理した。
  • ゴールデンカムイ』 - アイヌ民族の武器として登場。作中では矢じりにトリカブトの根を固めたものを装填して使っていた。
  • 琥珀色の遺言』 - 事件の発端となった影谷洸太郎氏殺害事件で、影谷氏がトリカブトの入った薬草茶を飲んで死亡した。
  • 魔人ドラキュラ』 - 吸血鬼の嫌がるものとしてトリカブトが登場する。
  • 百姓貴族』 -夏休みの自由研究で提出した植物採集の中にトリカブトが含まれており、押し花の貼られたページには牛の誤食について言及がある[19]。同じ場面では、植物採集を受け取った教師が捨てろと命じ、採取が禁じられている希少種であることも伝えている[19]

脚注

  1. ^ a b c 門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』pp.120-131
  2. ^ 清水建美 (2001) 「草本」『図説 植物用語事典』pp. 20-21
  3. ^ 古泉秀夫 (2007年8月17日). “毒芹(water-hemlok)の毒性”. 医薬品情報21. 2014年8月31日閲覧。
  4. ^ a b 山崎,昶『ミステリーの毒を科学する : 毒とは何かを知るために』講談社ブルーバックス〉、1992年。ISBN 4061329197 
  5. ^ a b 和田浩二「トリカブト属ジテルペンアルカロイドのLC-APCI-MSによる構造解析と末梢血流量増加作用について」『藥學雜誌』第122巻第11号、日本薬学会、2002年11月1日、929-956頁、doi:10.1248/yakushi.122.929NAID 10010204168 
  6. ^ 鹿野美弘、縦青、小松健一「漢方エキス製剤の品質評価について(第6報)呉茱萸の修治によるアルカロイド成分含量変化について」『藥學雜誌』第111巻第1号、日本薬学会、1991年1月25日、32-35頁、doi:10.1248/yakushi1947.111.1_32NAID 110003649175 
  7. ^ Four Patients Being Treated In Kyrgyz Hospitals For Poisoning With Toxic Root Promoted By President”. RadioFreeEurope/RadioLiberty. 2022年4月20日閲覧。
  8. ^ 日高奈緒 (2022年4月17日). “トリカブトの溶液でコロナ治療? WHO「勧めないで」”. 朝日新聞. 2022年4月20日閲覧。
  9. ^ a b c 金田初代 2010, p. 184.
  10. ^ トリカブトの毒性 (2007/12/04) 医薬品情報21
  11. ^ 坂井進一郎、高山広光、岡本敏彦「高尾(東京都)産トリカブト塩基成分について」『藥學雜誌』第99巻第6号、日本薬学会、1979年6月25日、647-656頁、NAID 110003653012 
  12. ^ 高田清己、「はちみつによる食中毒」『食品衛生学雑誌』 Vol.34 (1993) No.5 p.443-444, doi:10.3358/shokueishi.34.443
  13. ^ 岩手医科大学医学部-救急救命情報(トリカブト)
  14. ^ L・ベルグ『カムチャツカ発見とベーリング探検』龍吟社、1942年、133頁。 
  15. ^ アイヌとトリカブト” (2005年7月). 2022年4月20日閲覧。
  16. ^ 田村道夫. (1990) キンポウゲ科の分類1. 植物分類地理41, p.91-100. doi:10.18942/bunruichiri.KJ00002594282
  17. ^ 岡田博(1994)トリカブト属植物の集団の変異. 植物分類地理45(1), p.79. doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001079035
  18. ^ 門崎允昭『アイヌの矢毒トリカブト』北海道出版企画センター、2002年。ISBN 4832802089 
  19. ^ a b 荒川弘 (wa). 百姓貴族, vol. 4, p. 90. 新書館

参考文献

  • 金田初代、金田洋一郎(写真)『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、184頁。ISBN 978-4-569-79145-6 

関連項目

外部リンク