「松江相銀米子支店強奪事件」の版間の差分
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2008年12月14日 (日) 02:10時点における版
最高裁判所判例 | |
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事件名 | 爆発物取締罰則違反、殺人未遂、強盗被告事件 |
事件番号 | 昭和52(あ)1435 |
1978年(昭和53年)6月20日 | |
判例集 | 刑集32巻4号670頁 |
裁判要旨 | |
| |
第三小法廷 | |
裁判長 | 江里口清雄 |
陪席裁判官 | 天野武一 高辻正己 服部高顯 環昌一 |
意見 | |
多数意見 | 全員一致 |
意見 | なし |
反対意見 | なし |
参照法条 | |
憲法35条、警察官職務執行法2条1項、刑訴法211条、220条1項 |
松江相銀米子支店強奪事件(まつえそうぎんよなごしてんごうだつじけん)は、1971年(昭和46年)7月23日に鳥取県米子市で発生した銀行強盗事件。
概要
また、この事件の判決は、日本の最高裁判所の判例(最高裁昭和53年6月20日第三小法廷判決、刑集32巻4号670頁)となっており、職務質問に附随して行う所持品検査は所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があることを判示したものである。
本件においては、強盗事件として重大な犯罪であり所持品検査をする必要性緊急性が極めて高かったこと、鍵のかかっていないボウリングケースのチャックを開けて一瞥したに過ぎず、中身を取り出したりする等して捜索に至らない行為であったこと等の事情を考慮して、明示の拒否がありかつ警職法に明文の規定がなくても所持品検査を行うことを認めた判例である。
事件の概要
- 昭和46年7月23日松江相互銀行(現・島根銀行)米子支店において、日本の新左翼の赤軍派4人組の強盗が入り、猟銃及び登山用ナイフをもって、犯人は銀行から600万円をもって逃走した。翌午前0時ころタクシー運転手から不審な男がいたが乗車させなかったという通報があり、午前0時10分ころ緊急配備中だった翌24日午前0時ころ、タクシーの運転手から、「伯備線広瀬駅附近で若い二人連れの男から乗車を求められたが乗せなかった。後続の白い車に乗ったかも知れない。」という通報があり、間もなく同日午前0時10分ころ、その方向から来た白い乗用車に運転者のほか手配人相のうちの二人に似た若い男が二人(被告人とA)乗っていたので、職務質問を始めたが、その乗用車の後部座席にアタッシュケースとボウリングバッグがあった
- タクシー運転者の供述から被告人とAとを前記広瀬駅附近で乗せ倉敷に向う途中であることがわかったが、被告人とAとは職務質問に対し黙秘したので容疑を深めた警察官らは、前記営業所内の事務所を借り受け、両名を強く促して下車させ事務所内に連れて行き、住所、氏名を質問したが返答を拒まれたので、持つていたボウリングバッグとアタッシュケースの開披を求めたが、両名にこれを拒否され、その後30分くらい、警察官らは両名に対し繰り返しバッグとケースの開披を要求し、両名はこれを拒み続けるという状況が続いた
- 同日午前0時45分ころ、容疑を一層深めた警察官らは、継続して質問を続ける必要があると判断し、被告人については三人くらいの警察官が取り囲み、Aについては数人の警察官が引張るようにして事務所を連れ出し、警察用自動車に乗車させて総社警察署に同行したうえ、同署において、引き続いて、C巡査部長らが被告人を質問し、B巡査長らがAを質問したが、両名は依然として黙秘を続けた。
- B巡査長は、右質問の過程で、Aに対してボウリングバッグとアタッシュケースを開けるよう何回も求めたが、Aがこれを拒み続けたので、同日午前1時40分ころ、Aの承諾のないまま、その場にあつたボウリングバッグのチャックを開けると大量の紙幣が無造作にはいつているのが見え、引き続いてアタツシユケースを開けようとしたが鍵の部分が開かず、ドライバーを差し込んで右部分をこじ開けると中に大量の紙幣がはいつており、被害銀行の帯封のしてある札束も見えた
- そこで、B巡査長はAを強盗被疑事件で緊急逮捕し、その場でボウリングバック、アタッシュケース、帯封一枚、現金等を差し押えた
- C巡査部長は、大量の札束が発見されたことの連絡を受け、職務質問中の被告人を同じく強盗被疑事件で緊急逮捕した、というのである。
- 警察官職務執行法は、その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品検査に関する規定はない(現在でもない)。
- そこで、被告人側は、Aの明示の拒否があったにもかかわらず、ボウリングケースを開けて捜査したのは違法捜査であり、かつアタッシュケースをこじ開けたのは令状なく捜索をしたものである等として、憲法35条1項、31条等に違反するなどとして争ったが第1審、控訴審ともこうした主張を認めなかったので、最高裁に上告した。
判旨
上告棄却(全員一致)。
職務質問に附随して行う所持品検査は所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合がある。警察官が、猟銃及び登山用のナイフを使用しての銀行強盗の容疑が濃厚な者を深夜に検問の現場から警察署に同行して職務質問中、その者が職務質問に対し黙秘し再三にわたる所持品の開披要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため、容疑を確かめる緊急の必要上、承諾がないままその者の所持品であるバッグの施錠されていないチャックを開披し内部を一べつしたにすぎない行為は、職務質問に附随して行う所持品検査において許容される限度内の行為であり、このことによって、アタッシュケースをこじ開けたことはAの緊急逮捕手続に時間的場所的に接着しており、違法でなく、また、これらの行為によって得られた証拠の証拠能力はを認めることができる。
その他、明治公園爆弾事件における爆発物取締罰則の合憲性などについて従来の判例を踏襲し合憲としている。