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== 研究対象 ==
== 研究対象 ==
'''量子化学'''はその黎明期において、[[分子構造]]と[[化学結合]]の成り立ちについて理論的解明と分子構造に起因する分光学的物性の理解に重要な寄与を与えている。実際の分子を'''量子化学'''で理解することは、多数の[[電子]]と[[原子核]]とから構成される ''N'' 体問題の[[波動方程式]]の解を求めることに相当する。[[計算化学]]が発達していない当時としては、量子化学の学問領域を展開する為に、分子構造モデルを簡素化する多種多様の近似法が模索された。また波動方程式の解を求める場面においても、[[摂動論]]と[[変分法]]による近似を利用した。したがって当時の'''量子化学'''は定性的な予測をするのにとどまっていた。とは言うものの、'''量子化学'''によりそれまでは理論的説明付けが困難であった、[[分光学|分子分光学]]の[[紫外可視分光法|電子スペクトル]]、[[振動スペクトル]]、[[回転スペクトル]]、[[核磁気共鳴|核磁気共鳴スペクトル]]などの性質と分子構造と関連付け、[[共有結合]]や[[分子間力]]の原理の解明、[[フロンティア軌道理論]]を代表とする半定性的な化学反応の理解など、他の化学分野への貢献は大きなものがあった。
'''量子化学'''はその黎明期において、[[分子構造]]と[[化学結合]]の成り立ちについて理論的解明と分子構造に起因する分光学的物性の理解に重要な寄与を与えている。実際の分子を'''量子化学'''で理解することは、多数の[[電子]]と[[原子核]]とから構成される [[N体問題|''N'' 体問題]]の[[波動方程式]]の解を求めることに相当する。[[計算化学]]が発達していない当時としては、量子化学の学問領域を展開する為に、分子構造モデルを簡素化する多種多様の近似法が模索された。また波動方程式の解を求める場面においても、[[摂動論]]と[[変分法]]による近似を利用した。したがって当時の'''量子化学'''は定性的な予測をするのにとどまっていた。とは言うものの、'''量子化学'''によりそれまでは理論的説明付けが困難であった、[[分光学|分子分光学]]の[[紫外可視分光法|電子スペクトル]]、[[振動スペクトル]]、[[回転スペクトル]]、[[核磁気共鳴|核磁気共鳴スペクトル]]などの性質と分子構造と関連付け、[[共有結合]]や[[分子間力]]の原理の解明、[[フロンティア軌道理論]]を代表とする半定性的な化学反応の理解など、他の化学分野への貢献は大きなものがあった。


[[1980年代]]以降の急速な[[コンピュータ]]の処理速度の増大と[[情報工学|計算機科学]]の発展とは[[計算化学]]にも波及し、変分法より発展した[[第一原理計算]]法により精密な解を求めることを可能にした。近年においては'''量子化学'''により化学結合と分子の微細構造との関連、分子間相互作用や励起状態の解明、反応のポテンシャルエネルギー面を予測することで化学反応の特性を予測するなど定量的な予測が可能になった。同時に'''量子化学'''の適用対象も簡単なモデル化した分子だけではなく、実際の[[有機化合物]]、錯体化合物、[[高分子]]・生体関連物質、固体表面での[[界面化学]]の解析など多種多様の化学分野に及んでいる。
[[1980年代]]以降の急速な[[コンピュータ]]の処理速度の増大と[[情報工学|計算機科学]]の発展とは[[計算化学]]にも波及し、変分法より発展した[[第一原理計算]]法により精密な解を求めることを可能にした。近年においては'''量子化学'''により化学結合と分子の微細構造との関連、分子間相互作用や励起状態の解明、反応のポテンシャルエネルギー面を予測することで化学反応の特性を予測するなど定量的な予測が可能になった。同時に'''量子化学'''の適用対象も簡単なモデル化した分子だけではなく、実際の[[有機化合物]]、錯体化合物、[[高分子]]・生体関連物質、固体表面での[[界面化学]]の解析など多種多様の化学分野に及んでいる。

2009年7月20日 (月) 15:14時点における版

量子化学(りょうしかがく、quantum chemistry)とは理論化学物理化学)の一分野で、量子力学の諸原理を化学の諸問題に適用し、原子電子の振る舞いから分子構造物性あるいは反応性を理論的に説明づける学問分野である。

研究対象

量子化学はその黎明期において、分子構造化学結合の成り立ちについて理論的解明と分子構造に起因する分光学的物性の理解に重要な寄与を与えている。実際の分子を量子化学で理解することは、多数の電子原子核とから構成される N 体問題波動方程式の解を求めることに相当する。計算化学が発達していない当時としては、量子化学の学問領域を展開する為に、分子構造モデルを簡素化する多種多様の近似法が模索された。また波動方程式の解を求める場面においても、摂動論変分法による近似を利用した。したがって当時の量子化学は定性的な予測をするのにとどまっていた。とは言うものの、量子化学によりそれまでは理論的説明付けが困難であった、分子分光学電子スペクトル振動スペクトル回転スペクトル核磁気共鳴スペクトルなどの性質と分子構造と関連付け、共有結合分子間力の原理の解明、フロンティア軌道理論を代表とする半定性的な化学反応の理解など、他の化学分野への貢献は大きなものがあった。

1980年代以降の急速なコンピュータの処理速度の増大と計算機科学の発展とは計算化学にも波及し、変分法より発展した第一原理計算法により精密な解を求めることを可能にした。近年においては量子化学により化学結合と分子の微細構造との関連、分子間相互作用や励起状態の解明、反応のポテンシャルエネルギー面を予測することで化学反応の特性を予測するなど定量的な予測が可能になった。同時に量子化学の適用対象も簡単なモデル化した分子だけではなく、実際の有機化合物、錯体化合物、高分子・生体関連物質、固体表面での界面化学の解析など多種多様の化学分野に及んでいる。

歴史

その発展の歴史を、量子力学の発展の歴史と切り離して述べることはできない。なぜなら化学は原子・分子といったミクロな粒子を取り扱う学問であり、そのような粒子を取り扱うことができる学問として量子力学が誕生したからである。

1926年エルヴィン・シュレーディンガーシュレーディンガー方程式を発表すると、翌1927年ヴァルター・ハイトラーフリッツ・ロンドンらはそれを水素分子へ適用し共有結合の説明に成功した1。 このハイトラー-ロンドン理論はその後ジョン・スレーターライナス・ポーリングらによって原子価結合法(valence bond, VB 法)へと発展する。

化学結合を取り扱う別の方法として、フリードリッヒ・フントロバート・マリケンらにより分子軌道法(molecular orbital, MO 法)が生み出された。

VB法とMO法を改良したものには、それぞれGVB法とCI法が知られている。これらの改良した形式では、VB法はMO法を、MO法はVB法を陰に含んでいる。したがって真の波動関数に対する近似として、両者はスタート地点が異なるものの、相補的といえる関係になっている。ただし計算精度と扱いの簡便さから、現在では VB 法よりも MO 法がよく用いられる。

基本的な問題

量子化学者にとっての基本的な問題は、自分が研究対象としているに対するシュレーディンガー方程式を解くことである。 すなわち、系を記述するハミルトニアン期待値波動関数を手に入れることである。 しかし、これはそのままの形では解くことが難しい。 そこで考え出されたのが、ハートリー-フォック方程式であり、その後の分子軌道法は大きく発展することとなる。簡約密度関数によるアプローチも試みられている。

「物理の大部分と化学の全体を数学的に取り扱うために必要な基本的法則は完全にわかっている。これらの法則を適用すると複雑すぎて解くことのできない方程式に行き着いてしまうことだけが困難なのである。」— Proc. Roy. Soc. (London), A123, 714 (1929)

"The fundamental laws necessary for the mathematical treatment of large parts of physics and the whole chemistry are thus fully known, and the difficulty lies only in the fact that application of these laws leads to equations that are too complex to be solved."

計算化学の誕生

近年の計算機の速度の向上によって、計算化学という新しい学問分野をも生み出した。

関連項目

参考文献

  1. Heitler, W. and London, F., Zeit. Physik, 44, 455 (1927).
  2. 原田 義也, 「量子化学(上)(下)」, 裳華房, (2007).