コンテンツにスキップ

「武器輸出三原則」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
経済準学士 (会話 | 投稿記録)
編集の要約なし
1行目: 1行目:
'''武器輸出三原則'''(ぶきゆしゅつさんげんそく)は[[日本]][[政府]]による[[武器]][[輸出]]規制の原則のことである。
'''武器輸出三原則'''(ぶきゆしゅつさんげんそく)は[[日本]][[政府]]による[[武器]][[輸出]]規制の原則のことである。


== 概要 ==
== 経緯 ==
=== 佐藤首相の三原則提議 ===
=== 佐藤首相の三原則提議 ===
[[1967年]]([[昭和]]42年)[[4月21日]]に行われた[[佐藤栄作]][[内閣総理大臣|首相]]の[[衆議院]]決算委員会における答弁<ref>[http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/055/0106/05504210106005a.html 衆議院決算委員会1967年4月21日議事録]</ref>により、以下のような国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないこととした。
[[1967年]]([[昭和]]42年)[[4月21日]]に行われた[[佐藤栄作]][[内閣総理大臣|首相]]の[[衆議院]]決算委員会における答弁<ref>[http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/055/0106/05504210106005a.html 衆議院決算委員会1967年4月21日議事録]</ref>により、以下のような国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないこととした。
21行目: 21行目:
[[1983年]](昭和58年)[[1月14日]]に発せられた[[第1次中曽根内閣|中曽根内閣]]の[[後藤田正晴]][[内閣官房長官|官房長官]]による談話では以下の解釈が付け加えられた。
[[1983年]](昭和58年)[[1月14日]]に発せられた[[第1次中曽根内閣|中曽根内閣]]の[[後藤田正晴]][[内閣官房長官|官房長官]]による談話では以下の解釈が付け加えられた。
* [[日米安全保障条約]]の観点から[[アメリカ軍|米軍]]向けの武器技術供与を緩和することを武器輸出三原則の例外とする。
* [[日米安全保障条約]]の観点から[[アメリカ軍|米軍]]向けの武器技術供与を緩和することを武器輸出三原則の例外とする。

1983年11月8日。対米武器技術供与を日米相互防衛援助協定の関連規定の下で行うという基本的枠組みを定めた「日本国とアメリカ合衆国との間の相互援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器技術の供与に関する交換公文」が締結。

=== 対米武器技術供与 ===
1984年11月。日米両国政府の協議機関として武器技術共同委員会(JMTC)が発足

1985年12月27日。対米武器技術供与を実施するための細目取り決めが締結。

日米間では武器技術供与は、技術ならびに技術の供与を実行あらしめるため必要な物品であって武器に該当するもの(試作品)に限定されており、その技術を用いてアメリカが生産した兵器を輸出することは許されていない。


== 実際の運用 ==
== 実際の運用 ==

2010年3月30日 (火) 17:05時点における版

武器輸出三原則(ぶきゆしゅつさんげんそく)は日本政府による武器輸出規制の原則のことである。

経緯

佐藤首相の三原則提議

1967年昭和42年)4月21日に行われた佐藤栄作首相衆議院決算委員会における答弁[1]により、以下のような国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないこととした。

  • 共産圏諸国向けの場合
  • 国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
  • 国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合

三木首相による項目追加

1976年(昭和51年)2月27日に行われた三木武夫首相の衆議院予算委員会における答弁[2]により、佐藤首相の三原則にいくつかの項目が加えられた。

  • 三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。
  • 三原則対象地域以外の地域については憲法及び外国為替法及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
  • 武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。

また、武器輸出三原則における「武器」の定義を以下のようにした。

  • 軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの
  • 本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦戦闘機戦車のようなもの

後藤田官房長官の談話

1983年(昭和58年)1月14日に発せられた中曽根内閣後藤田正晴官房長官による談話では以下の解釈が付け加えられた。

1983年11月8日。対米武器技術供与を日米相互防衛援助協定の関連規定の下で行うという基本的枠組みを定めた「日本国とアメリカ合衆国との間の相互援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器技術の供与に関する交換公文」が締結。

対米武器技術供与

1984年11月。日米両国政府の協議機関として武器技術共同委員会(JMTC)が発足

1985年12月27日。対米武器技術供与を実施するための細目取り決めが締結。

日米間では武器技術供与は、技術ならびに技術の供与を実行あらしめるため必要な物品であって武器に該当するもの(試作品)に限定されており、その技術を用いてアメリカが生産した兵器を輸出することは許されていない。

実際の運用

武器輸出三原則は、共産圏と国連決議による武器禁輸措置をとられた国、及び紛争地域への武器輸出を禁止したものであり、他の地域への武器輸出は「慎む」とされているため、武器輸出そのものを禁止しているわけではない。しかし、日本政府は三木首相の答弁を歴代内閣が堅持しており、基本的に武器および武器製造技術、武器への転用可能な物品の輸出をしていない。

しかしながら、近年では民生のエレクトロニクス技術向上によって一般製品が簡単に軍用物品へ転換されることとなり、一般製品と軍用品の境界が曖昧になっている。特に、近年の戦争では直接殺傷能力を持たないエレクトロニクス部門が重視され、日本政府の武器の定義が合わなくなっている。また、発展途上国では、民生品として輸出されたピックアップトラックや4WD車両、トラックなどの車輌が軍需物資輸送の兵站を支えるのに使用されたり、機関銃などを搭載してテクニカルと呼ばれる即席戦闘車輌に改造されたりするなど軍民両用が可能な民生品が輸出先で軍事目的に利用される事例もある。

特に、チャド内戦においては、同国の政府軍がトヨタ製のピックアップトラックに対戦車ミサイルなどを搭載して、反政府軍を支援していたリビアの戦車隊を迎え撃つことに成功した。報道写真にピックアップトラックの荷台後部に大きく書かれたTOYOTAのロゴから、日本国外ではこの戦いにトヨタ戦争という呼び名をつけた。

また、三原則は国際紛争に日本の技術が使用されないためとしているが、アメリカは湾岸戦争イラク戦争などで『国際紛争の当事国』となっており、後藤田長官談話の「米軍への武器技術供与」によって、日本の技術が軍事利用で戦争に使われている可能性があることは当時から問題になっている。

日本国内の防衛産業については、日本は自衛隊装備の大半を国産品でまかなう方針を取っているが、アメリカを除いて国際共同開発が行えず、また、自衛隊の発注分しか生産できないために武器単価が高騰していることも問題になっている。特に、簡単な改造で軍事転用できる航空機は三木首相答弁によって自衛隊が採用したものについては輸出が難しくなり、開発費やライセンス費用が上昇する世界情勢の中で、国内向けの少量生産によって価格高騰に歯止めがかからなくなっている。次世代戦闘機F35の日米共同開発などの障害となっている[3]

巨額の開発コストを国際共同開発によって賄う趨勢においては現状の武器三原則等の運用では技術移転や分担生産にも制約を受ける。防衛省は山田洋行事件など装備品調達をめぐる問題を受け、2007年10月18日に発足した「総合取得改革推進プロジェクトチーム」は、「効果的・効率的な研究開発に資する国際協力を推進するため、各国との技術交流をより活性化するとともに、国際共同研究・開発に係る背景や利点・問題点などについて一層の検討を深める必要がある」としており、これには日本経済団体連合会も賛成の意を表した提言を発表した。

2010年(平成22年)1月12日、鳩山内閣の北沢俊美防衛相が東京都内で行われた軍需企業の大多数が参加する日本防衛装備工業会主催の会合で「そろそろ基本的な考え方を見直すこともあってしかるべきだと思う。2010年末に取りまとめられる防衛計画の大綱(新防衛大綱)において武器輸出三原則の改定を検討する」と発言し、 見直しの内容としては「日本でライセンス生産した米国製装備品の部品の米国への輸出」や「途上国向けに武器を売却」をあげた。

2010年2月18日、鳩山首相が主催する「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の初会合が首相官邸で行われ、鳩山首相が冒頭の挨拶で「防衛体制の見直しには、継続と変化の両方が必要だ。タブーのない議論をしてほしい」と述べた。北沢防衛相は懇談会で「装備産業の基盤整備をどう図るか議論してほしいとお願いした」と述べ、武器輸出三原則の見直しを議題とするよう公式に求めたことを明らかにした。武器輸出三原則の見直しは新防衛大綱に反映される[4]

盲点

法について

武器輸出三原則によって原則に当てはまる武器輸出が禁止されているが、このことを直接規定した日本の法律は存在しない。日本では武器輸出は外国為替及び外国貿易法と輸出貿易管理令によって管理されており、武器輸出三原則に該当する場合は輸出貿易管理令で対象国への武器輸出を不許可とし、許可されない武器輸出をした場合は外国為替及び外国貿易法で処罰される。

しかし、政府がどこまで刑事事件として立件するかの線引きが曖昧な上、刑罰も武器の不正輸出という行為を取り締まる他国の法律と比較しても軽いものである。これらのことから、2010年現在、武器輸出緩和が討論される中、武器輸出に関する法の作成と明記もまた望まれている。

小型武器について

日本は軍事目的によらない武器は多数輸出している。猟銃弾薬など非軍事目的の小型武器アメリカベルギーフランスに輸出している事が、スイスジュネーブ高等国際問題研究所が発表した2004年版の「小型武器概観」で判明した。その規模は世界第9位である。

また完成された武器の形状をとらないもの、つまり分解したものを個別に輸出するという抜け道を用いて部品の輸出は行われている。この中には非常に高度なテクノロジーを必要とする物も多い。日本の防衛機密上危険であるにも拘らず、武器は基本的に輸出しないという原則があるが故に、一目では分からない部品という状態で輸出を行い、規制が出来ない状況が生起している。

脚注

関連項目