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「マシュマロ実験」の版間の差分

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==内容、および結果==
==内容、および結果==
「自制心」「セルフコントロール」などと呼ばれている「将来のより大きな成果ために、自己の衝動や感情をコントロールし、目先の欲求を辛抱する能力」が、人の社会における成功に重要であることはよく知られている。この実験の本来の目的は、この能力の幼児期における発達を調査するためであった。
「自制心」「セルフコントロール」などと呼ばれている「将来のより大きな成果ために、自己の衝動や感情をコントロールし、目先の欲求を辛抱する能力」が、人の社会における成功に重要であることはよく知られている。この実験の本来の目的は、この能力の幼児期における発達を調査するためであった。


職員の子どもたちが通う、学内の付属幼稚園の4才の子ども186人が実験に参加した。被験者である子どもは、気が散るようなものが何もない机と椅子だけの部屋に通され、椅子に坐るよう言われる。机の上には皿があり、[[マシュマロ]]が一個載っている。実験者は「私はちょっと用がある。それはキミにあげるけど、私が戻ってくるまで15分の間食べるのを我慢してたら、マシュマロをもうひとつあげる。私がいない間にそれを食べたら、ふたつ目はなしだよ」と言って部屋を出ていく。
職員の子どもたちが通う、学内の付属幼稚園の4才の子ども186人が実験に参加した。被験者である子どもは、気が散るようなものが何もない机と椅子だけの部屋に通され、椅子に坐るよう言われる。机の上には皿があり、[[マシュマロ]]が一個載っている。実験者は「私はちょっと用がある。それはキミにあげるけど、私が戻ってくるまで15分の間食べるのを我慢してたら、マシュマロをもうひとつあげる。私がいない間にそれを食べたら、ふたつ目はなしだよ」と言って部屋を出ていく。


子どもたちの行動は、隠しカメラで記録された。1人だけ部屋に残された子どもたちは、自分のお下げを引っ張ったり、机を蹴ったりして目の前の誘惑に抵抗した。小さな縫いぐるみののようにマシュマロをなでたり、匂いをかぐものもいた。目をふさいだり、椅子を後ろ向きにしてマシュマロを見ないようにするものもいた。映像を分析した結果、マシュマロを見つめたり、触ったりする子どもは結局食べてしまう率が高いこと、我慢できた子どもは目をそらしたり、後ろを向いたりして、むしろマシュマロから注意を逸らそうとする傾向があることが観察された。実験に参加した者のうち、我慢しきれずにマシュマロを食べた子どもは1/3ほどであった。
子どもたちの行動は、隠しカメラで記録された。1人だけ部屋に残された子どもたちは、自分のお下げを引っ張ったり、机を蹴ったりして目の前の誘惑に抵抗した。小さな縫いぐるみののようにマシュマロをなでたり、匂いをかぐものもいた。目をふさいだり、椅子を後ろ向きにしてマシュマロを見ないようにするものもいた。映像を分析した結果、マシュマロを見つめたり、触ったりする子どもは結局食べてしまう率が高いこと、我慢できた子どもは目をそらしたり、後ろを向いたりして、むしろマシュマロから注意を逸らそうとする傾向があることが観察された。実験に参加した者のうち、我慢しマシュマロを食べずにいられた子どもは1/3ほどであった。


ウォルター・ミシェルの娘も実験に参加した一人だったが、娘の成長につれ、ミシェルは実験結果と、児童の成長後の社会的な成功度の間に、当初予期していなかった興味深い相関性があることに気がついた。そして1988年に追跡調査が実施された。その結果は、就学前における自制心の有無は10数年を経た後も持続していること、またマシュマロを食べなかった子どもと食べた子どもをグループにした場合、マシュマロを食べなかったグループが周囲からより優秀と評価されていること、さらに両グループ間では、大学進学適性試験(SAT)の点数には明確な相違が認められるというものであった。2011年にはさらに追跡調査が行われ、この傾向が生涯のずっと後まで継続していることが明らかにされた。
ウォルター・ミシェルの娘も実験に参加した一人だったが、娘の成長につれ、ミシェルは実験結果と、児童の成長後の社会的な成功度の間に、当初予期していなかった興味深い相関性があることに気がついた。そして1988年に追跡調査が実施された。その結果は、就学前における自制心の有無は10数年を経た後も持続していること、またマシュマロを食べなかった子どもと食べた子どもをグループにした場合、マシュマロを食べなかったグループが周囲からより優秀と評価されていること、さらに両グループ間では、大学進学適性試験(SAT)の点数には、トータル・スコアで平均210ポイントの相違が認められるというものであった。ウォルター・ミシェルはこの実験から、幼児期においては[[IQ]]より、自制心の強さのほうが将来のSATの点数にはるかに大きく影響すると結論した。2011年にはさらに追跡調査が行われ、この傾向が生涯のずっと後まで継続していることが明らかにされた。


また被験者の大脳を撮影した結果、両グループには、集中力に関係するとされる腹側[[線条体]]と[[前頭前皮質]]の活発度において、重要な差異が認められた<ref name="Science Daily">{{cite news|url=http://www.sciencedaily.com/releases/2011/08/110831160220.htm|title=Marshmallow Test Points to Biological Basis for Delayed Gratification|date=September 1, 2011|work=[[Science Daily]]|accessdate=October 4, 2011|archiveurl=http://www.webcitation.org/62C1F65DW|archivedate=October 4, 2011}}</ref>。同実験は、スタンフォード大で「人間行動に関する、最も成功した実験のうちの1つ」とされた。<ref name="Camber">{{cite news|url=http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-1082430/Marshmallow-test--resisting-sweet-lead-better-life.html|title=Marshmallow test - how resisting a sweet can lead to a better life|last=Camber|first=Rebecca|date=November 2, 2008|work=[[Daily Mail]]|accessdate=October 4, 2011|archiveurl=http://www.webcitation.org/62Bm6R1Uw|archivedate=October 4, 2011}}</ref>
また被験者の大脳を撮影した結果、両グループには、集中力に関係するとされる腹側[[線条体]]と[[前頭前皮質]]の活発度において、重要な差異が認められた<ref name="Science Daily">{{cite news|url=http://www.sciencedaily.com/releases/2011/08/110831160220.htm|title=Marshmallow Test Points to Biological Basis for Delayed Gratification|date=September 1, 2011|work=[[Science Daily]]|accessdate=October 4, 2011|archiveurl=http://www.webcitation.org/62C1F65DW|archivedate=October 4, 2011}}</ref>。同実験は、スタンフォード大で「人間行動に関する、最も成功した実験のうちの1つ」とされた。<ref name="Camber">{{cite news|url=http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-1082430/Marshmallow-test--resisting-sweet-lead-better-life.html|title=Marshmallow test - how resisting a sweet can lead to a better life|last=Camber|first=Rebecca|date=November 2, 2008|work=[[Daily Mail]]|accessdate=October 4, 2011|archiveurl=http://www.webcitation.org/62Bm6R1Uw|archivedate=October 4, 2011}}</ref>

2012年1月5日 (木) 00:52時点における版

マシュマロ実験、またはマシュマロ・テストとは、子ども時代の自制心と、将来の社会的成果の関連性を調査した著名な実験。スタンフォード大学の心理学者・ウォルター・ミシェルが1972年に実施した。

内容、および結果

「自制心」「セルフコントロール」などと呼ばれている「将来のより大きな成果のために、自己の衝動や感情をコントロールし、目先の欲求を辛抱する能力」が、人の社会における成功に重要であることはよく知られている。この実験の本来の目的は、この能力の幼児期における発達を調査するためであった。

職員の子どもたちが通う、学内の付属幼稚園の4才の子ども186人が実験に参加した。被験者である子どもは、気が散るようなものが何もない机と椅子だけの部屋に通され、椅子に坐るよう言われる。机の上には皿があり、マシュマロが一個載っている。実験者は「私はちょっと用がある。それはキミにあげるけど、私が戻ってくるまで15分の間食べるのを我慢してたら、マシュマロをもうひとつあげる。私がいない間にそれを食べたら、ふたつ目はなしだよ」と言って部屋を出ていく。

子どもたちの行動は、隠しカメラで記録された。1人だけ部屋に残された子どもたちは、自分のお下げを引っ張ったり、机を蹴ったりして目の前の誘惑に抵抗した。小さな縫いぐるみののようにマシュマロをなでたり、匂いをかぐものもいた。目をふさいだり、椅子を後ろ向きにしてマシュマロを見ないようにするものもいた。映像を分析した結果、マシュマロを見つめたり、触ったりする子どもは結局食べてしまう率が高いこと、我慢できた子どもは目をそらしたり、後ろを向いたりして、むしろマシュマロから注意を逸らそうとする傾向があることが観察された。実験に参加した者のうち、我慢してマシュマロを食べずにいられた子どもは1/3ほどであった。

ウォルター・ミシェルの娘も実験に参加した一人だったが、娘の成長につれ、ミシェルは実験結果と、児童の成長後の社会的な成功度の間に、当初予期していなかった興味深い相関性があることに気がついた。そして1988年に追跡調査が実施された。その結果は、就学前における自制心の有無は10数年を経た後も持続していること、またマシュマロを食べなかった子どもと食べた子どもをグループにした場合、マシュマロを食べなかったグループが周囲からより優秀と評価されていること、さらに両グループ間では、大学進学適性試験(SAT)の点数には、トータル・スコアで平均210ポイントの相違が認められるというものであった。ウォルター・ミシェルはこの実験から、幼児期においてはIQより、自制心の強さのほうが将来のSATの点数にはるかに大きく影響すると結論した。2011年にはさらに追跡調査が行われ、この傾向が生涯のずっと後まで継続していることが明らかにされた。

また被験者の大脳を撮影した結果、両グループには、集中力に関係するとされる腹側線条体前頭前皮質の活発度において、重要な差異が認められた[1]。同実験は、スタンフォード大で「人間行動に関する、最も成功した実験のうちの1つ」とされた。[2]

脚注

  1. ^ “Marshmallow Test Points to Biological Basis for Delayed Gratification”. Science Daily. (September 1, 2011). オリジナルのOctober 4, 2011時点におけるアーカイブ。. http://www.webcitation.org/62C1F65DW October 4, 2011閲覧。 
  2. ^ Camber, Rebecca (November 2, 2008). “Marshmallow test - how resisting a sweet can lead to a better life”. Daily Mail. オリジナルのOctober 4, 2011時点におけるアーカイブ。. http://www.webcitation.org/62Bm6R1Uw October 4, 2011閲覧。 

外部リンク

  • 実験の映像。 - YouTube
  • 1972 article – Mischel, Walter; Ebbe B. Ebbesen, Antonette Raskoff Zeiss (1972). “Cognitive and attentional mechanisms in delay of gratification.”. Journal of Personality and Social Psychology 21 (2): 204–218. doi:10.1037/h0032198. ISSN 0022-3514. http://psycnet.apa.org/journals/psp/21/2/204/.