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「軍用機の塗装」の版間の差分

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[[Image:Canadian CF-18.jpg|right|thumb|200px|機首下面にフォールスキャノピーを塗装したCF-18]]
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現代では、対戦闘機戦闘を重視し、よりカモフラージュがかかった塗装を用いるようになった。そのため、第二次世界大戦期のような派手な塗装は、模擬戦闘や[[アグレッサー部隊]]、[[曲技飛行隊|アクロバット飛行]]を行う機体などを除き、ほとんど見られなくなった。[[ベトナム戦争]]に出現した超音速戦闘機以降、世界の軍用機の塗装は、それまでのものとは大きく変わった。
現代では、対戦闘機戦闘を重視し、よりカモフラージュがかかった塗装を用いるようになった。そのため、第二次世界大戦期のような派手な塗装は、模擬戦闘や[[アグレッサー部隊]]、[[曲技飛行隊|アクロバット飛行]]を行う機体などを除き、ほとんど見られなくなった。[[ベトナム戦争]]に出現した超音速戦闘機以降、世界の軍用機の塗装は、それまでのものとは大きく変わった。

なお、アメリカ海軍の艦載機はかなり長い間迷彩が用いられなかったが、現在ではロービジ迷彩が施されている。


以下は、現代における主要な塗装パターンである。
以下は、現代における主要な塗装パターンである。
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: 水色や青色といったブルーを用いた、[[海]]や空とのカモフラージュを目的とした迷彩塗装である。[[ロシア空軍]]では防空戦闘機を中心に多用されており、[[Su-27_(航空機)|Su-27]]系の戦闘機が代表的な存在である。イラン空軍の[[MiG-29]]や[[F-14]](一部機体)やルーマニア空軍の[[MiG-21]](機体下部を青一色で塗装)等、ロシアとのつながりが深い国の空軍でもブルー系の迷彩が見られる。また、[[日本]]の[[F-2 (航空機)|F-2]]や[[UH-60J (航空機)|UH-60J]]、[[US-2 (航空機)|US-2]]で、濃い青色を使用した塗装をしている。ロシアのブルー系迷彩が空との識別困難化を目指しているのに対し、日本では、海との識別困難化を想定している事から「洋上迷彩」などとも呼ばれる(洋上迷彩は別物として扱われることが多い)。アメリカでもブルー系迷彩の研究が行われ、迷彩として有効と認められたものの、事故や同士討ち防止といった理由から仮想敵部隊を除き、現在では用いられていない。
: 水色や青色といったブルーを用いた、[[海]]や空とのカモフラージュを目的とした迷彩塗装である。[[ロシア空軍]]では防空戦闘機を中心に多用されており、[[Su-27_(航空機)|Su-27]]系の戦闘機が代表的な存在である。イラン空軍の[[MiG-29]]や[[F-14]](一部機体)やルーマニア空軍の[[MiG-21]](機体下部を青一色で塗装)等、ロシアとのつながりが深い国の空軍でもブルー系の迷彩が見られる。また、[[日本]]の[[F-2 (航空機)|F-2]]や[[UH-60J (航空機)|UH-60J]]、[[US-2 (航空機)|US-2]]で、濃い青色を使用した塗装をしている。ロシアのブルー系迷彩が空との識別困難化を目指しているのに対し、日本では、海との識別困難化を想定している事から「洋上迷彩」などとも呼ばれる(洋上迷彩は別物として扱われることが多い)。アメリカでもブルー系迷彩の研究が行われ、迷彩として有効と認められたものの、事故や同士討ち防止といった理由から仮想敵部隊を除き、現在では用いられていない。
; グレー塗装
; グレー塗装
: 機体をグレーで塗装することにより、上空での見分けがつきにくくする事を目的として、戦闘機のみならず最近の機体ではほとんどの機種で使用される。[[ドッグファイト]]を主目的とする[[迎撃戦闘機]]に多用されている。アメリカ空軍の[[F-15_(戦闘機)|F-15]]、F-16、[[アメリカ海軍]]の[[F/A-18 (航空機)|F/A-18]]を始めとして、そのほかアメリカ以外の多くの国で使用されている。[[航空自衛隊]]でも、F-15、F-4、[[T-4 (練習機)|T-4]]などにグレーを使用した塗装を行っている。また、[[F-22_(戦闘機)|F-22]]のようにグレー2色で迷彩を施しているものも多く見られる。また、[[カナダ軍]]の[[CF-18 ホーネット|CF-18]]やアメリカ空軍の[[A-10 (航空機)|A-10]]など一部の機体は、空戦時に敵パイロットの判断を遅らせることを目的として、機首下面に[[キャノピー]]を模した形を塗装しており、フォールスキャノピーと呼ばれている。
: 機体をグレーで塗装することにより、上空での見分けがつきにくくする事を目的として、戦闘機のみならず最近の機体ではほとんどの機種で使用される。「ロービジ迷彩」と呼ばれる事が多い。[[ドッグファイト]]を主目的とする[[迎撃戦闘機]]に多用されている。アメリカ空軍の[[F-15_(戦闘機)|F-15]]、F-16、[[アメリカ海軍]]の[[F/A-18 (航空機)|F/A-18]]を始めとして、そのほかアメリカ以外の多くの国で使用されている。[[航空自衛隊]]でも、F-15、F-4、[[T-4 (練習機)|T-4]]などにグレーを使用した塗装を行っている。また、[[F-22_(戦闘機)|F-22]]のようにグレー2色で迷彩を施しているものも多く見られる。また、[[カナダ軍]]の[[CF-18 ホーネット|CF-18]]やアメリカ空軍の[[A-10 (航空機)|A-10]]など一部の機体は、空戦時に敵パイロットの判断を遅らせることを目的として、機首下面に[[キャノピー]]を模した形を塗装しており、フォールスキャノピーと呼ばれている。
; 黒・暗色塗装
; 黒・暗色塗装
: 黒色塗装は主に夜間活動を主とした戦闘機・攻撃機([[湾岸戦争]]で活躍した[[F-117_(航空機)|F-117]]や[[F-15E_(航空機)|F-15E]]など)で用いられる。また、光線の反射により、パイロットの視界を妨げられる事を防ぐため、キャノピー周辺部に艶の無い黒を使用する例もある。近年では[[UH-60]]や[[AH-64]]など、ヘリコプターでも使用されている。
: 黒色塗装は主に夜間活動を主とした戦闘機・攻撃機([[湾岸戦争]]で活躍した[[F-117_(航空機)|F-117]]や[[F-15E_(航空機)|F-15E]]など)で用いられる。また、光線の反射により、パイロットの視界を妨げられる事を防ぐため、キャノピー周辺部に艶の無い黒を使用する例もある(アンチグレア)。近年では[[UH-60]]や[[AH-64]]など、ヘリコプターでも使用されている。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

2013年11月18日 (月) 12:48時点における版

軍用機の塗装(ぐんようきのとそう)は、軍用機に行われる塗装のこと。主に機体外部の塗装について記述する。

特徴

塗装の基本的な目的は、部材(外皮)表面の保護による耐食性・耐候性や美観の維持である。航空機の場合はこれらに加えて燃費低減・ペイロード増大の要請からできるだけ軽量であることが求められる。

軍用機の場合はさらに、敵からの発見を防いだり遅らせることが要求されるため、色や塗装パターンに特に注意が払われている。20世紀末からはステルス性のうち特にレーダーによる探知の回避を目指した工夫もなされてきている。

こうして、被探知率の低下が目指される一方で、敵味方を識別して同士討ちを防ぐ必要から、かつては目立つ色や模様のマーキングが必ずなされていた。しかしながら現代では IFF(Identification Friend or Foe, 敵味方識別装置)の発達によって、派手な色彩の国籍マークラウンデルや部隊章、キルマークなどは影を潜めつつある。

民間航空機、とくに商用の旅客機貨物機の場合は、集客や運航コストの抑制が重視されるために、派手な色づかいが採用されたり、逆にアメリカン航空のように透明な保護膜のみでほぼ無塗装といったものが存在する。軍用機においても、第二次世界大戦ごろまでは派手な色彩の塗装がなされることがあった。しかしながら、とくに大戦終結後頃からは、その任務の性格上、被視認性の低さ(low visibiliry, 低視認性。ロービジとも)を重視した暗色や無彩色の塗装が多く見られるようになっている。
塗装パターン
塗装パターンについては、地上駐機時や地面・海面付近の低空飛行時の視認性低下を意図した、緑や茶色(地面用)・青や水色(海用)のカムフラージュがあるほか、逆に高高度での飛行中に視認されにくい薄いグレーなどが、その機体の用途に応じて使い分けられている。
電波吸収性塗料
レーダーが発達し、互いに目視する前に交戦を行なう BVR(Beyond Visual Range, 視程外距離)での戦闘が多くなるとともに、レーダーによる探知を避けることが強く求められるようになってきた。照射されたレーダー波の反射の度合いを示す指標を RCS(Radar Corss Section, レーダー反射断面積)と呼ぶが、RCS の低減のために第一には形状と構造に工夫がなされる。F-117B-2といった航空機のみならず、ヴィスビュー級コルベットシー・シャドウなどの艦船も、照射元へとレーダー波を返さないための特異な形状をしている。こうした形状における工夫が電波を「いかに反射させるか」を考えているのに対し、「いかに吸収するか」を考慮したのが RAM(Radar Absorbing/Absorbent Material, レーダー吸収材料)と呼ばれる塗料や材料であり、入射した電磁波の一部を熱に変えてしまう働きをもつ。フェライト系などの塗料が実用化されているが、21世紀初頭現在では広範な普及を見せるまでには至っていない。

塗装パターン

第二次世界大戦から朝鮮戦争(1930年代-1950年代)

P-51(アメリカ)
白黒の帯は欧州戦線用のインベイジョンストライプ
B-17(アメリカ)のノーズアート
Bf109(ドイツ)の塗装図

第二次世界大戦においては,世界で様々な塗装がなされていた。

日本
第二次世界大戦前から中盤には明灰白色と呼ばれる明るいグレー系主流だったが、南方に戦線が拡大すると明灰白色の上から格子やブチ状に暗緑色を塗る応急迷彩を施した機体が登場し、さらに劣勢に陥った大戦中盤からは工場出荷状態で既に腹面以外暗緑色の塗装をされた機体が納入された。いずれも腹面は明灰白色で塗装されたが末期には腹面未塗装の機体も多く見られた。国籍マーク日の丸は、白縁ありとなしの2種類があり、応急的に白縁を機体色や黒で塗りつぶしたものも存在した。いずれも現在の自衛隊機よりも大きく描かれていた。
アメリカ
F6F等海軍機は大戦前半は主に水色に近い青色を、中盤以降はネービーブルー(濃青色)の単色を主体に使用したが、P-38P-51等陸軍機は緑の単色あるいは無塗装が多かった。陸海軍ともに機体に様々な絵が描かれ、特にB-17B-29等爆撃機には、機首部にノーズアートと呼ばれる絵(セクシーな女性が描かれることも)が多く描かれた
イギリス
ほぼ全ての軍用機が大戦前半は緑と茶色の迷彩塗装を使用し、後半は暗めの水色と濃いグレーの塗装を主に使用した。しかし、爆撃機に関しては大戦終結まで緑と茶色を使用している。その一方で、極東地域に配備された機体には高温多湿による腐食を防止するために銀色が用いられる場合もあった。
ドイツ
戦域にあわせて塗装を変更する場合が多く、ヨーロッパで作戦する機体には主に緑系の塗装が、地中海アフリカで作戦する機体には茶系の塗装が施された。しかし、大戦中期以降はBf109Fw190を中心にグレー系迷彩が主流となった。また、大戦初期は鉤十字が大きく描かれるという特徴が見られ、冬季に通常の塗装の上から石灰を水で溶いたものを塗装した機体も多く見られる。

第二次世界大戦期には、アメリカを中心として無塗装が多く見られたが、日光の反射による前方の視界のまぶしさから、ボンネットだけを黒く塗装することもあった。現在ではほぼ採用されていない。

朝鮮戦争期においても、多くの国で、第二次世界大戦期と似たような塗装がなされた。しかし、アメリカ・イギリスではこの時期から1960年代にかけて、核攻撃を主任務とした爆撃機を中心に、核爆発の閃光から機体を守る事を目的とした、白単色の塗装も多く見られた。

1960年代以後

砂漠迷彩のクフィル(イスラエル空軍)
ベトナム迷彩のF-4
洋上迷彩のF-2
機首下面にフォールスキャノピーを塗装したCF-18

現代では、対戦闘機戦闘を重視し、よりカモフラージュがかかった塗装を用いるようになった。そのため、第二次世界大戦期のような派手な塗装は、模擬戦闘やアグレッサー部隊アクロバット飛行を行う機体などを除き、ほとんど見られなくなった。ベトナム戦争に出現した超音速戦闘機以降、世界の軍用機の塗装は、それまでのものとは大きく変わった。

なお、アメリカ海軍の艦載機はかなり長い間迷彩が用いられなかったが、現在ではロービジ迷彩が施されている。

以下は、現代における主要な塗装パターンである。

砂漠地帯の迷彩塗装(デザート迷彩)
攻撃機爆撃機など比較的低空を飛行し、上空より俯瞰する形で戦闘機に視認される機会が多い機種に採用されている。砂漠地帯に似せかけた、カモフラージュ迷彩塗装である。イラク軍やイスラエル国防軍など、中東諸国の砂漠が多い地帯の各国軍隊では多く実施されている。また、アメリカ空軍のアグレッサー部隊にも、砂漠迷彩を用いたF-16が運用されている。
森林地帯の迷彩塗装
上記と同様、上空より視認される機会が多い機種に用いられる。過去から多く実施されている塗装パターンである。ベトナム戦争期には、「東南アジア迷彩(SEA迷彩)」と呼ばれる、緑と黄緑と茶色の塗装が、センチュリーシリーズの戦闘機やF-4で行われていた。これに対し、ヨーロッパでは茶色は用いず、濃緑やオリーブ色を用いた迷彩(旧東側諸国との軍事衝突の最前線になると見られていた中欧の森林地帯をモチーフとしている)が用いられており、トーネードやベトナム戦争後に登場した初期のA-10等で用いられていた。現在では多様な地理的条件で使用されることを想定しているアメリカ空軍ではいずれの塗装も状況が変われば非常に目立つことになり見かけることは無い。しかし、想定飛行地域が限られている世界各国では多くの機体がこの塗装で運用されている。また、低空を飛行することの多い攻撃ヘリコプターは濃緑色の単色が多く使用されている。
ブルー系迷彩塗装
水色や青色といったブルーを用いた、や空とのカモフラージュを目的とした迷彩塗装である。ロシア空軍では防空戦闘機を中心に多用されており、Su-27系の戦闘機が代表的な存在である。イラン空軍のMiG-29F-14(一部機体)やルーマニア空軍のMiG-21(機体下部を青一色で塗装)等、ロシアとのつながりが深い国の空軍でもブルー系の迷彩が見られる。また、日本F-2UH-60JUS-2で、濃い青色を使用した塗装をしている。ロシアのブルー系迷彩が空との識別困難化を目指しているのに対し、日本では、海との識別困難化を想定している事から「洋上迷彩」などとも呼ばれる(洋上迷彩は別物として扱われることが多い)。アメリカでもブルー系迷彩の研究が行われ、迷彩として有効と認められたものの、事故や同士討ち防止といった理由から仮想敵部隊を除き、現在では用いられていない。
グレー塗装
機体をグレーで塗装することにより、上空での見分けがつきにくくする事を目的として、戦闘機のみならず最近の機体ではほとんどの機種で使用される。「ロービジ迷彩」と呼ばれる事が多い。ドッグファイトを主目的とする迎撃戦闘機に多用されている。アメリカ空軍のF-15、F-16、アメリカ海軍F/A-18を始めとして、そのほかアメリカ以外の多くの国で使用されている。航空自衛隊でも、F-15、F-4、T-4などにグレーを使用した塗装を行っている。また、F-22のようにグレー2色で迷彩を施しているものも多く見られる。また、カナダ軍CF-18やアメリカ空軍のA-10など一部の機体は、空戦時に敵パイロットの判断を遅らせることを目的として、機首下面にキャノピーを模した形を塗装しており、フォールスキャノピーと呼ばれている。
黒・暗色塗装
黒色塗装は主に夜間活動を主とした戦闘機・攻撃機(湾岸戦争で活躍したF-117F-15Eなど)で用いられる。また、光線の反射により、パイロットの視界を妨げられる事を防ぐため、キャノピー周辺部に艶の無い黒を使用する例もある(アンチグレア)。近年ではUH-60AH-64など、ヘリコプターでも使用されている。

参考文献

  • 野原 茂『世界の軍用機塗装・迷彩史 1914‐1945』(グリーンアロー出版社、2000年) ISBN 4-7663-3316-0

関連項目