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「住血胞子虫」の版間の差分

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== 進化 ==
== 進化 ==
ミャンマーで採取された1億年前([[中生代]][[白亜紀]])の[[コハク]]中のヌカカから、ヘモプロテウスに似た生物{{snamei|Paleohaemoproteus burmacis}}が見出されており、これが住血胞子虫の最古の化石記録である<ref>{{cite journal|author=Poinar G Jr, Telford SR Jr|year=2005|title=''Paleohaemoproteus burmacis'' gen. n., sp. n. (Haemospororida: Plasmodiidae) from an Early Cretaceous biting midge (Diptera: Ceratopogonidae).|journal=Parasitology|volume=131|issue=1|pages=79-84|doi=10.1017/S0031182005007298}}</ref>。しかし分子系統解析による分岐年代推定によれば、現生の住血胞子虫の[[最近共通祖先]]は[[中新世]]、おおよそ1600万年前にいたと考えられている<ref>{{cite journal|author=Ricklefs RE, Outlaw DC|year=2010|title=A molecular clock for malaria parasites.|journal=Science|volume=329|issue=5988|pages=226-229|doi=10.1126/science.1188954}}</ref>。これはすでに現生陸上脊椎動物の多様性がほぼ出揃っている時期であることから、現生の住血胞子虫は[[中生代]]から宿主とともに多様化してきたのではなく、ある種がこの時期以降に宿主を爬虫類・鳥類・哺乳類と変えながら多様化し、それ以外の住血寄生虫は駆逐されたのだと考えられる<ref>{{cite journal|author=Bensch S., ''et al.''|year=2013|title=How can we determine the molecular clock of malaria parasites?|journal=Trends Parasitol.|volume=29|issue=8|pages=363-369|doi=10.1016/j.pt.2013.03.011}}</ref>。
ミャンマーで採取された1億年前([[中生代]][[白亜紀]])の[[コハク]]中のヌカカから、ヘモプロテウスに似た生物{{snamei|Paleohaemoproteus burmacis}}が見出されており、これが住血胞子虫の最古の化石記録である<ref>{{cite journal|author=Poinar G Jr, Telford SR Jr|year=2005|title=''Paleohaemoproteus burmacis'' gen. n., sp. n. (Haemospororida: Plasmodiidae) from an Early Cretaceous biting midge (Diptera: Ceratopogonidae).|journal=Parasitology|volume=131|issue=1|pages=79-84|doi=10.1017/S0031182005007298}}</ref>。しかし分子系統解析による分岐年代推定によれば、現生の住血胞子虫の[[最近共通祖先]]は[[中新世]]、おおよそ1600万年前にいたと考えられている<ref>{{cite journal|author=Ricklefs RE, Outlaw DC|year=2010|title=A molecular clock for malaria parasites.|journal=Science|volume=329|issue=5988|pages=226-229|doi=10.1126/science.1188954}}</ref>。これはすでに現生陸上脊椎動物の多様性がほぼ出揃っている時期であることから、現生の住血胞子虫は[[中生代]]から宿主とともに多様化してきたのではなく、ある種がこの時期以降に宿主を爬虫類・鳥類・哺乳類と変えながら多様化し、それ以外の住血胞子虫は駆逐されたのだと考えられる<ref>{{cite journal|author=Bensch S., ''et al.''|year=2013|title=How can we determine the molecular clock of malaria parasites?|journal=Trends Parasitol.|volume=29|issue=8|pages=363-369|doi=10.1016/j.pt.2013.03.011}}</ref>。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==

2015年3月24日 (火) 07:55時点における版

住血胞子虫
シチメンチョウ血液塗末中のLeucocytozoon smithi (P)。Nは宿主細胞核。
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
階級なし : ディアフォレティケス Diaphoretickes
階級なし : SARスーパーグループ Sar
上門 : アルベオラータ Alveolata
: アピコンプレックス門 Apicomplexa
: 無コノイド綱 Aconoidasida
: 住血胞子虫目 Haemosporida
学名
Haemosporida Danilewsky, 1885

住血胞子虫(じゅうけつほうしちゅう、haemosporidia)は、アピコンプレックス門に属し赤血球白血球に寄生する原生生物の一群で、代表的なものとしてマラリア原虫などがある。おもに陸上脊椎動物中間宿主吸血昆虫終宿主とする。分類学上は住血胞子虫目(Haemosporida)とし、これまでに400種以上が知られている。

生活環

基本的にはコクシジウム類と似た特徴を持っているが、常に宿主動物の体内に留まり環境中に出ることがないため、壁に包まれ環境耐性を示すいわゆる「胞子」の状態がない。カやハエなど媒介者の唾液とともに侵入したスポロゾイト(種虫、sporozoite)は、まず肝臓などの固定の組織の細胞内でシゾゴニー(増員生殖、schizogony)を行い数を増やす。そのあと血液中に移行して血球内に寄生するようになるが、ここにはさまざまな差異がある。媒介者が吸血することによって生殖母体 (gamont) が媒介者に移り、消化管内で配偶子を生じて有性生殖が行われる。接合子はオーキネートookinete、虫様体)と呼ばれ、運動能があってすぐに消化管上皮細胞に侵入してスポロゴニー (sporogony) が行われる。これは減数分裂を含む他のアピコンプレクサ類の胞子形成に対応した過程ではあるが、オーシスト (oocyst) は薄い膜に包まれているだけですぐに破裂してスポロゾイトを放出する。スポロゾイトは体腔液中を漂って唾液腺に集合し、吸血に際して動物の体内に侵入する。

分類

全てをプラスモジウム科にまとめる場合もあるが、現在はマラリア色素と血球中での増殖の有無に注目して以下の4科に分類する方法が主流である。[1]

プラスモジウム科 Plasmodiidae
マラリア色素を持ち、赤血球内で増殖する。陸上の脊椎動物に幅広く見られる。マラリア原虫 Plasmodiumが代表的で、肝細胞で増殖したあと赤血球内でも増殖して、宿主は周期的な発熱を繰り返すことになる。
ヘモプロテウス科 Haemoproteidae
マラリア色素を持った生殖母体が赤血球などに見られるが、血球中での増殖は行わない。鳥類においては Haemoproteus 属による疾病も鳥マラリアと称し、とっくにHeamoproteus mansoni家禽の病原体として注目される。旧世界ザルやコウモリにはヘパトシスティスHepatocystisが感染している。
ロイコチトゾーン科 Leucocytozoidae
血液中では赤芽球、赤血球、単球、リンパ球などに発育中の生殖母体が見られるが、マラリア色素を生じない。主として鳥類に寄生するロイコチトゾーンが代表的で、鶏ロイコチトゾーン Leucocytozoon caulleryi は日本を含む東南アジアの養鶏業における重要な病原体である。それ以外にアヒルなどに寄生する L. simondiシチメンチョウに寄生する L. smithi などが病原体として注目される。
Garniidae
赤血球に寄生することがなく、またマラリア色素を生じない。主として爬虫類に寄生し、Garnia 属、Fallisia 属などが知られている。

分子系統解析によると、マラリア色素を持ち赤血球中で増殖するPlasmodium属からそれ以外の様々な属が独立に生じたことが示されている[2]。したがって上記の4科に分類する体系では系統を反映することができず、とくにヘモプロテウス科は多系統群になってしまう。またPlasmodium属は側系統的であるため、将来的に亜属を属に昇格させるなどの分類学的整理が行われる可能性がある。

(哺乳類)
ヘモプロテウス科

Hepatocystis

Plasmodium霊長目

P. falciparum

Plasmodium齧歯目

(鳥類・爬虫類)

Plasmodium

Plasmodium

Plasmodium

ヘモプロテウス科

Polychromophilus翼手目

ヘモプロテウス科

Parahaemoproteus

Haemoproteus

ロイコチトゾーン科

Leucocytozoon

住血胞子虫の系統関係[2]。カッコ内は中間宿主を示す。

進化

ミャンマーで採取された1億年前(中生代白亜紀)のコハク中のヌカカから、ヘモプロテウスに似た生物Paleohaemoproteus burmacisが見出されており、これが住血胞子虫の最古の化石記録である[3]。しかし分子系統解析による分岐年代推定によれば、現生の住血胞子虫の最近共通祖先中新世、おおよそ1600万年前にいたと考えられている[4]。これはすでに現生陸上脊椎動物の多様性がほぼ出揃っている時期であることから、現生の住血胞子虫は中生代から宿主とともに多様化してきたのではなく、ある種がこの時期以降に宿主を爬虫類・鳥類・哺乳類と変えながら多様化し、それ以外の住血胞子虫は駆逐されたのだと考えられる[5]

参考文献

  1. ^ Susan L. Perkins (2014). “Malaria's many mates: past, present, and future of the systematics of the order Haemosporida”. J. Parasitol. 100 (1): 11-25. doi:10.1645/13-362.1. 
  2. ^ a b Outlaw and Ricklefs (2011). “Rerooting the evolutionary tree of malaria parasites” (pdf). PNAS 108: 13183-13187. http://www.pnas.org/content/108/32/13183.full.pdf. 
  3. ^ Poinar G Jr, Telford SR Jr (2005). “Paleohaemoproteus burmacis gen. n., sp. n. (Haemospororida: Plasmodiidae) from an Early Cretaceous biting midge (Diptera: Ceratopogonidae).”. Parasitology 131 (1): 79-84. doi:10.1017/S0031182005007298. 
  4. ^ Ricklefs RE, Outlaw DC (2010). “A molecular clock for malaria parasites.”. Science 329 (5988): 226-229. doi:10.1126/science.1188954. 
  5. ^ Bensch S., et al. (2013). “How can we determine the molecular clock of malaria parasites?”. Trends Parasitol. 29 (8): 363-369. doi:10.1016/j.pt.2013.03.011.