いがもち

いがもちは、粳米などの生地で餡を包み、上面にもち米を数粒付けて蒸した和菓子。毬もち、伊賀餅、稲花餅とも表記される。

名称の由来

以下の通り、名称の由来については複数の説とそれぞれの論拠がある。

• 地名の伊賀 - 三河地域の毬もちは伊賀から伝わった可能性が指摘されている。また、平安時代の嘉祥菓子に「伊賀餅」があり、京都では近世にこれが民間の菓子になった。
• 「飯の香りの餅」 - 炊飯した時の良い香りを餅に移そうとした、「飯の香りの餅」という意味の「いかもち」が三重県鈴鹿市に伝わっている。
• 上面のもち米が栗のイガに似ている - 大辞林などに記載がある。
• 稲花餅 - 上面のもち米を黄色く染め、稲の実りを表して豊作を願った。

製法

上新粉にぬるま湯を加え、耳たぶ程度の固さまで練る。こし餡や粒餡を包み、成形して上面に着色したもち米を乗せて、蒸し上げる。上新粉に白玉粉を加えて一度蒸してから臼でついたり、型に着色したもち米を付けてから団子を押し入れる方法などもある。

上に乗せるもち米は赤色、黄色、緑色など様々であるが、一色しか用いない地域もある。また、かつては麦やアワで生地を作り、貴重な米を数粒乗せる事でぜいたくな雰囲気を味わっていた地域もある。

形状と地域性

三重県や滋賀県では直径6 - 10cmの丸形、愛知県では大きさ5 - 6cmでハマグリや富士山のような形、島根県では梅の花や亀の形で、それぞれ作られる。

また、上面のもち米の乗せ方と地域の関係は以下の通り。

• 餅の上面に隙間なく乗せる - 石川県金沢市、輪島市、滋賀県日野町、永源寺町、八日市市、三重県多気町、愛知県岡崎市、安城市
• 米粒を集中して乗せる - 愛知県知立市、三重県鈴鹿市、滋賀県甲賀市
• 上面にバラバラに乗せる - 滋賀県土山町、三重県松阪市、京都府、広島県呉市
• 上面のうち、一面に乗せる - 愛知県蒲郡市、田原市、滋賀県愛荘町

分布

いがもちを食べる風習のある県。
黄色は上面のもち米が黄色のみ。青は祭りの日のみ販売。ピンクはひな祭りの時期を中心に販売。赤は通年販売。

いがもちは、東北地方から中国・四国地方にかけて存在している。形状以外の、地域ごとの特徴は以下の通り。

• 山形県 - 上面のもち米は黄色のみ。稲花餅と表記される。
• 石川県 - 同県の五色生菓子のいがらと同じく、もち米は黄色のみで五穀豊穣を願う。
• 愛知県、島根県 - 主にひな祭りの菓子として食べられる。
• 愛媛県 - 旧ひな祭り（4月）頃に食べられている。りんまんと表記される。
• 滋賀県 - 通年販売されている。湖東地域を中心に作られる。家庭のおやつとする他、慶弔時に配ったり、お盆の時期に川に流す事もある。もち米が鮮やかな事から、花餅とも呼ばれる。
• 三重県 - 通年販売されている。庄野宿や松阪市では江戸時代以前から作られている。まつかさ餅、けいらん等とも呼ばれる。
• 京都府 - 嘉祥菓子を原型とする。
• 福井県 - 祭の日のみ作られる。
• 広島県呉市 - 主に10月に行われる亀山神社の大祭や、11月の小際の時期に作られる。麦・粟で作った団子をルーツとしている書籍と、明治時代に松山から来た人物が、りんまんの名称を改めて販売したとする書籍がある。いが餅と表記される。

参考文献

• 岡野節子、堀田千津子「「毬もち」の考察」『日本調理科学会誌』第37巻第4号、日本調理科学会、2004年、429-434頁、NAID 110001171480。 
• 岡野節子、堀田千津子「滋賀県湖東地域における "毬もち"」『日本食生活学会誌』第10巻第1号、日本食生活学会、1999年、79-83頁、NAID 130004048699。 
• 岡野節子、岩崎ひろ子「鈴鹿における伝承食文化(第2報) : 庄野地区の食文化」『鈴鹿短期大学紀要』第18巻、鈴鹿大学短期大学部、1998年、63-70頁、NAID 110007042694。 
• 「日本の食生活全集島根」編集委員会 編『聞き書き島根の食事 日本の食生活全集32』農山漁村文化協会、1991年。ISBN 4540910027。 NCID BN06460723。 
• 「日本の食生活全集広島」編集委員会 編『聞き書き広島の食事 日本の食生活全集34』農山漁村文化協会、1987年。ISBN 4540870661。 NCID BN01385507。 
• 鈴木宗康『諸国名物菓子』河原書店、1941年。 NCID BN13177970。