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「Bluetooth Low Energy」の版間の差分

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'''Bluetooth Low Energy'''とは、[[無線PAN]]技術である[[Bluetooth]]の仕様における、バージョン4.0の呼称である。略称はBLE、他称にBluetooth 4.0やBluetooth SmartおよびBluetooth Smart Readyなどといったものがある<ref>Bluetooth仕様のバージョン4.0であることから単にそう呼称されることがある。また、BLEのみが実装されているBluetoothデバイスのことを「Bluetooth Smart」、3.0以前のBluetooth仕様と同居させたBluetoothデバイスのことを「Bluetooth Smart Ready」とそれぞれ呼称するため、このように記載される場合がある。</ref>。バージョン3.0までのBluetoothと比較して、省電力かつ省コストで行うことを意図している。3.0までに策定されている仕様から独立しており、後方互換性は持たないが、3.0までのBluetooth仕様との同居は可能である。'''Wibree'''という名称で2006年に[[ノキア|Nokia]]によって開発されたものであり<ref>[http://www.howstuffworks.com/wibree.htm HowStuffWorks.com: Wibree]</ref>、2010年にBluetooth 4.0として統合された。
'''Bluetooth Low Energy'''とは、[[無線PAN]]技術である[[Bluetooth]]の仕様における、バージョン4.0の呼称である。略称はBLE、他称にBluetooth 4.0やBluetooth SmartおよびBluetooth Smart Readyなどといったものがある<ref>Bluetooth仕様のバージョン4.0であることから単にそう呼称されることがある。また、BLEのみが実装されているBluetoothデバイスのことを「Bluetooth Smart」、3.0以前のBluetooth仕様と同居させたBluetoothデバイスのことを「Bluetooth Smart Ready」とそれぞれ呼称するため、このように記載される場合がある。</ref>。バージョン3.0までのBluetoothと比較して、省電力かつ省コストで行うことを意図して設計・実装されている。3.0までに策定されている仕様から独立しており、後方互換性は持たないが、3.0までのBluetooth仕様との同居は可能である。もとの仕様は'''Wibree'''という名称で2006年に[[ノキア|Nokia]]によって開発されたものであり<ref>[http://www.howstuffworks.com/wibree.htm HowStuffWorks.com: Wibree]</ref>、これが2010年にBluetooth 4.0として統合された。


ハードウェア・ソフトウェアの実装としては、[[OS X]]や[[Linux]]、[[Windows 8]]はもちろん、スマートデバイス端末OSである[[iOS (アップル)|iOS]]、[[Android]]、[[Windows Phone]]、[[BlackBerry]]も標準でBluetooth Low Energyに対応しており、広く普及している。また、Bluetooth SIGは2018年までにBluetoothが搭載された[[スマートフォン]]の90%以上がBluetooth Low Energyをサポートするものと見ている<ref>{{cite web |url=http://www.bluetooth.com/Pages/Mobile-Telephony-Market.aspx |title=Mobile Telephony Market |publisher=Bluetooth Special Interest Group |accessdate=January 16, 2014}}</ref>。健康管理、フィットネス、セキュリティ、エンターテインメントなど広く応用が期待される技術のひとつである<ref>[http://www.bluetooth.com/Pages/Bluetooth-Smart.aspx bluetooth.com: Bluetooth Smart]</ref>。
ハードウェア・ソフトウェアの実装としては、[[OS X]]や[[Linux]]、[[Windows 8]]はもちろん、スマートデバイス端末OSである[[iOS (アップル)|iOS]]、[[Android]]、[[Windows Phone]]、[[BlackBerry]]も標準でBluetooth Low Energyに対応しており、広く普及している。また、Bluetooth SIGは2018年までにBluetoothが搭載された[[スマートフォン]]の90%以上がBluetooth Low Energyをサポートするものと見ている<ref>{{cite web |url=http://www.bluetooth.com/Pages/Mobile-Telephony-Market.aspx |title=Mobile Telephony Market |publisher=Bluetooth Special Interest Group |accessdate=January 16, 2014}}</ref>。健康管理、フィットネス、セキュリティ、エンターテインメントなど広く応用が期待される技術のひとつである<ref>[http://www.bluetooth.com/Pages/Bluetooth-Smart.aspx bluetooth.com: Bluetooth Smart]</ref>。

2016年11月18日 (金) 06:59時点における版

Bluetooth Low Energyとは、無線PAN技術であるBluetoothの仕様における、バージョン4.0の呼称である。略称はBLE、他称にBluetooth 4.0やBluetooth SmartおよびBluetooth Smart Readyなどといったものがある[1]。バージョン3.0までのBluetoothと比較して、省電力かつ省コストで行うことを意図して設計・実装されている。3.0までに策定されている仕様からは独立しており、後方互換性は持たないが、3.0までのBluetooth仕様との同居は可能である。もとの仕様はWibreeという名称で2006年にNokiaによって開発されたものであり[2]、これが2010年にBluetooth 4.0として統合された。

ハードウェア・ソフトウェアの実装としては、OS XLinuxWindows 8はもちろん、スマートデバイス端末OSであるiOSAndroidWindows PhoneBlackBerryも標準でBluetooth Low Energyに対応しており、広く普及している。また、Bluetooth SIGは2018年までにBluetoothが搭載されたスマートフォンの90%以上がBluetooth Low Energyをサポートするものと見ている[3]。健康管理、フィットネス、セキュリティ、エンターテインメントなど広く応用が期待される技術のひとつである[4]

以下、記事中ではBluetooth Low EnergyをBLE、3.0以前のBluetooth仕様をクラシックBluetooth(あるいは単にクラシック)と呼称する。

概要

BLEの基礎となったのは、Nokiaによって制定された「Wibree」という仕様である。その後、Bluetooth SIGに引き継がれ、2010年にBluetooth 4.0としてリリースされたものが、最初のBLEである。2013年にはそのアップデート版となるBluetooth 4.1、2014年に4.2がそれぞれ策定され、2016年現在これが最新のBLE仕様である[5][6]

このように、BLEはクラシックBluetoothのメジャー・バージョンアップ版としてではなく、そもそも別個の規格として策定された仕様である。クラシックと比較して「省エネルギーであること」「複雑でないこと」「低コストであること」などを謳っており、その特徴を獲得することに仕様策定の目的が絞られている[7][8]。事実、安価なハードウェア、簡素で拡張性のあるデータモデルが実現されており、BLE普及の原動力となっている[9]

機能

クラシックBluetoothとの後方互換

BLEはクラシックBluetoothとは異なる規格であるため、バージョン番号が連続していながら、後方互換性を持たない。しかしながら、Bluetooth 4.0の仕様書 (英語)においては、BLEとクラシックのどちらか、あるいは両方の実装をすることが許可されている。一般に、クラシックのみが実装されたものを「Bluetooth」、BLEのみが実装されたものを「Bluetooth Smart」、BLEおよびクラシックの両方が実装されたものを「Bluetooth Smart Ready」と呼称する[10]。また、これらの互換性をわかりやすくするため、Bluetooth SIGはロゴ策定の計画を発表している[11]

また、BLEはクラシックと同様の2.4 GHzの周波数帯を利用している。これによりBluetooth Smart Readyをサポートするデバイスでは、ハードウェアとしては一つのアンテナを共有することができる。

互換性について、Bluetooth SIGによってデバイスリストが公開されている。

通信速度と到達距離

BLEにおける通信速度の規格値は、1Mbpsである[12]。ただし、様々な制約により、現実的な通信速度は10kbps程度にとどまる[12][13]。これは、BLEが「省エネルギー」を主眼に置いており、「通信速度を最低限に抑えれば消費エネルギーも少ない」というトレードオフの結果である。

また、到達距離についても、30メートル以上の距離を設定することは可能ではあるが、実際には5メートル程度にまで短くされる。これも通信速度と同様の理由による。

ネットワーク構成

BLEでは、デバイスとデバイスが通信をおこなう方法として、ブロードキャスト[14]コネクション[15]という2つの方法を定義している[16]。なお、あるBLEネットワーク内において、これらの方法が混合して存在し、通信をおこなっていてもかまわない[17]

ブロードキャスト

ブロードキャストは、あるBLEデバイスから別のBLEデバイスに対して、一方的にデータを送信するための通信方法である。あるBLEデバイスが、一定周期でデータを発信し続け、別のBLEデバイスがそれをスキャン・受信することによって、データのやり取りをおこなう。

この通信方法において、データを発信するデバイスをブロードキャスター、データを受信するデバイスをオブザーバーと呼ぶ。また、ブロードキャスターが発信しているデータのことをアドバタイズパケットと呼ぶ。アドバタイズパケットには、仕様に定められた範囲内で、自由なデータを設定することができる。

あるひとつのブロードキャスターが、不特定多数のオブザーバーに対して、同時に同じデータを発信できることが特徴で、よって機密性を要求されるようなデータのやり取りには不適である。例えば、「測定した温度データを一定周期に発信し続ける温度計(ブロードキャスター)」と、「受信した温度データを利用者に通知するアプリケーション(オブザーバー)」といったような利用法がある。

現実に利用されている例にAppleによって策定されているiBeaconがある[18]

コネクション

コネクションは、あるBLEデバイスと別のBLEデバイスとの間で、相互にデータを送受信するための通信方法である。ブロードキャストとことなり、データの送受信は、コネクションに参加したデバイス間のみで、プライベートにおこなわれる。

この通信方法において、通信のホスト(コネクションを開始する側)となるデバイスをセントラルもしくはマスター、セントラルからのコネクション開始要求を受け付け、以降セントラルによって定められたタイミングでデータの送受信をおこなうデバイスをペリフェラルもしくはスレーブと呼ぶ。一般にセントラルはスマートフォンやタブレット、PCが担当する。ペリフェラルは、それらのデバイスが利用する周辺機器が担当する[19]。意図的に、セントラルよりもペリフェラルのほうが実装要件が安易・安価となるよう設計されており、これはペリフェラルデバイス(BLEに対応した周辺機器)が多く開発される理由にもなっている[19]

通信には汎用属性プロファイル(汎用アトリビュートプロファイル Generic Attribute Profile、GATT)というデータ構造定義を用いており、GATTは広範な拡張性をもつため、各種デバイスは様々な目的のためにコネクションという通信方法を利用することができる。

プロトコルとプロファイル

BLEには、クラシックBluetoothと同様に、プロトコルプロファイルというふたつの仕様定義が存在している[20]

プロトコル

プロトコルには、「あらゆるBLEデバイスが利用する」定義が含まれる。以下のようなものである[21]。なお、先に示すものほど機械的には低レベルな定義であり、後に示すものほどプログラム的な仕様定義となる。

  • コントローラー
    • 物理層(PHY)
    • リンク層(LL)
    • ホストコントローラーインターフェイス(HCI)
  • ホスト
    • ホストコントローラーインターフェイス
    • セキュリティ・マネージャ(SM)
    • 属性プロトコル(アトリビュート・プロトコル ATT)
    • 論理リンク制御及びアダプテーションプロトコル(Logical Link Control Adaptation Protocol L2CAP)
    • 汎用属性プロファイル(汎用アトリビュートプロファイル Generic Attribute Profile GATT)
    • 汎用アクセスプロファイル(Generic Access Profile GAP)
  • アプリケーション

これらの定義には、デバイス間のペアリング[22]コネクション実施やデータ送受信の方法、また通信周波数定義・制御などのハードウェア的定義が含まれている[23]

プロファイル

プロファイルには、「あるBLEデバイスにおいて用いられる、データの送受信定義やユースケースなど」が含まれる。プロファイルのうち、GATTとGAPはプロトコルに含まれる特殊なプロファイルであり、そのほかのプロファイルとは区別される。また、クラシックBluetoothにおけるプロファイルとは全くの別物であり、定義などに互換性はない。

GAPとGATT

GAP(Generic Access Profile 汎用アクセスプロファイル)に定義されているのは、ブロードキャストや検索の方法、コネクションの確立・管理方法などである。BLE仕様においては最上位となる定義であり、すべてのBLEデバイスがこの定義に準拠、またサポート・実装していなければならない。

GATT(Generic Attribute Profile 汎用属性(アトリビュート)プロファイル)に定義されているのは、あるデバイスが保持しているデータ要素の検索方法や、書き込み・読み出し・プッシュをおこなうための基本的なデータモデル[24]を定義している。すべてのBLEデバイスは、GATTで定義されている仕様のもとにデータのやり取りをおこなう[25]。そのほかのプロファイルでおこなわれるデータ定義の基底となっており、データ層の最上位となる定義である。

そのほかのプロファイル

GAPおよびGATT以外のプロファイルは、あるユースケースにおいて、各デバイスの振る舞いやデータ構成などを定めた、仕様セットである。Bluetooth SIG自身によって策定されたプロファイルには以下のようなものがある[26]

  • Find Me Profile - あるデバイスの位置を特定するためのプロファイル
  • HID over GATT Profile - クラシックBluetoothにおけるHuman Interface Device Profileにあたるプロファイル。マウス、キーボードなどに用いる
  • Health Thermometer Profile - 体温計プロファイル

すべての策定済みのプロファイルについては、Bluetooth SIG Adopted Specificationsにリストがある[27]

また、Bluetooth SIGが策定していないユースケースのために、メーカーが独自にプロファイルを策定することも認められている。iBeaconは、そのようなプロファイルのひとつである。

ハードウェア実装

チップ

2009年の後半以降、Bluetooth SmartのICチップの製造が多くの製造業者からアナウンスされた。実装にはソフトウェア無線が広く用いられるため、仕様のアップデートはファームウェアのアップグレードによって適用することができる。

対応OS

ターゲット市場

Bluetooth SIGは省電力技術の市場としてスマートホーム、健康、スポーツ、フィットネスをはじめとするたくさんの市場があるとしている[34]。例えば以下のようなものが挙げられる。

  • ボタン電池で月単位や年単位で動く機器(必要とする電力が少ないため)
  • サイズが小さく、低価格な機器
  • 市場シェアの大きい携帯電話、タブレット、パソコン機器などへの対応

参考・出典

  1. ^ Bluetooth仕様のバージョン4.0であることから単にそう呼称されることがある。また、BLEのみが実装されているBluetoothデバイスのことを「Bluetooth Smart」、3.0以前のBluetooth仕様と同居させたBluetoothデバイスのことを「Bluetooth Smart Ready」とそれぞれ呼称するため、このように記載される場合がある。
  2. ^ HowStuffWorks.com: Wibree
  3. ^ Mobile Telephony Market”. Bluetooth Special Interest Group. 2014年1月16日閲覧。
  4. ^ bluetooth.com: Bluetooth Smart
  5. ^ Adopted Specifications”. Bluetooth Special Interest Group. 2016年1月12日閲覧。
  6. ^ なお、BLE 4.0および4.1、4.2の間には後方互換性が保証されている。
  7. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p1
  8. ^ Bluetooth Smart (Low Energy) Technology - Bluetooth Developers Portal”. Bluetooth Special Interest Group. 2016年1月12日閲覧。
  9. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p2
  10. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p4-5
  11. ^ Bluetooth SMART marks, Bluetooth SIG press release
  12. ^ a b Bluetooth Low Energyをはじめよう p7
  13. ^ ものになるモノ、ならないモノ(53) スルー防止も? BLEがもたらすビジネスチャンス”. ITmedia. 2016年1月12日閲覧。
  14. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p9-11
  15. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p11-12
  16. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p9
  17. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p12-13
  18. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p133
  19. ^ a b Bluetooth Low Energyをはじめよう p41
  20. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p13
  21. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p17-18
  22. ^ あるデバイスA-B間でコネクションを実施するための一連の手順のこと。通信内容の暗号化などがおこなわれる。
  23. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう 2.プロトコルの基本 p17-37
  24. ^ これはデータ片(属性、アトリビュート)の集合体である。
  25. ^ 例えば、体温計プロファイルの場合、「温度」というデータ属性が定義されており、この属性をやりとりすることによって、データの送受信をおこなう。
  26. ^ Bluetooth Low Energyをはじめよう p14-16
  27. ^ Adopted Bluetooth Profiles, Services, Protocols and Transports - GATT-Based Specification節。
  28. ^ https://developer.apple.com/library/ios/releasenotes/General/WhatsNewIniOS/Articles/iOS5.html#//apple_ref/doc/uid/TP30915195-SW1
  29. ^ Brynte (2014年5月4日). “Windows Phone 8.1 for Developers–Introducing Bluetooth LE”. MSDN Blogs. 2014年5月18日閲覧。
  30. ^ http://msdn.microsoft.com/en-us/library/windows/hardware/dn423914(v=vs.85).aspx
  31. ^ http://developer.android.com/guide/topics/connectivity/bluetooth-le.html
  32. ^ http://press.blackberry.com/press/2013/blackberry-supports-bluetooth-smart-ready-to-drive-m2m-applicati.html
  33. ^ Gustavo Padovan (2013年2月22日). “The big changes of BlueZ 5”. 2014年9月7日閲覧。 “As the MGMT interface is the only one to support the new Bluetooth Low Energy devices, BlueZ developers decided to drop support for the old interface once MGMT was completed. As a result, you need to be running Linux Kernel 3.4 or newer to use BlueZ 5.”
  34. ^ Bluetooth SIG 'Markets' pages

参考文献

  • 「Bluetooth Low Energyをはじめよう」 Kebin Townsend、Carles Cufi、Akiba、Robert Davidson著、水原文訳、オライリー・ジャパン、2015年。 ISBN 978-4-87311-713-3

関連項目