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「ツキミソウ」の版間の差分

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|学名 = ''Oenothera tetraptera''<br />[[:w:Antonio José Cavanilles|Cav.]] [[1796年|1796]]
|学名 = ''Oenothera tetraptera''<br />[[:w:Antonio José Cavanilles|Cav.]] [[1796年|1796]]
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[[ファイル:ツキミソウの開花状況.jpg|代替文=ツキミソウの開花状況|サムネイル|写真1 写真左の花に注目。この花のメシベが左側に倒れているが、これは時間が経つと中央(右側)に移動するのが観察できる。
[[ファイル:ツキミソウの開花状況.jpg|代替文=ツキミソウの開花状況|サムネイル|写真左の花に注目。この花のメシベが左側に倒れているが、これは時間が経つと中央(右側)に移動するのが観察できる。
これは、ツキミソウが虫媒花であるが、自家受粉をするためである。しかし、虫による受粉がなされない場合、じかんの推移とともメシベはは、中央に移動し、直立する。そして、オシベも伸びて花粉を放出し、自家受粉を完了させる。(写真右)]]
これは、ツキミソウが虫媒花であるが、自家受粉をするためである。しかし、虫による受粉がなされない場合、じかんの推移とともメシベはは、中央に移動し、直立する。そして、オシベも伸びて花粉を放出し、自家受粉を完了させる。(写真右)]]
[[ファイル:ツキミソウ02.jpg|サムネイル|写真2 水に浸すと1分でサヤは開くが、タネはまだこぼれない。]]
[[ファイル:写真3.jpg|サムネイル|写真3 サヤからこぼれたが、途中で葉に留まっているタネ。]]
'''ツキミソウ'''(月見草、''Oenothera tetraptera''、つきみぐさ)は、[[アカバナ科]]マツヨイグサ属に属する[[二年草]]または[[多年草]]。
'''ツキミソウ'''(月見草、''Oenothera tetraptera''、つきみぐさ)は、[[アカバナ科]]マツヨイグサ属に属する[[二年草]]または[[多年草]]。


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[[神奈川県]][[大和市]]にあり、[[東急田園都市線]]の駅名にもなった「[[つきみ野]]」の地名は、開発以前、周囲に月見草が生い茂っていたことに由来する。
[[神奈川県]][[大和市]]にあり、[[東急田園都市線]]の駅名にもなった「[[つきみ野]]」の地名は、開発以前、周囲に月見草が生い茂っていたことに由来する。

'''<big>幻の花ツキミソウ</big>'''

'''【ツキミソウの命名】'''

 ツキミソウはアカバナ科マツヨイグサ属で、学名Oenothera tetraptera と言い、ギリシャ語のoinos(酒)とther(野獣)に由来し、根がぶどう酒のような香りがあり、これを野獣が好むと『花の名前事典』(長岡求)にあり、tetrapteraについては記載がなかった。

英語辞書ではTetraとは「4」の意味を表す連結形、とあった。ツキミソウの花は、花弁4、花柱の先端は大きく4裂、オシベは8本、果実は大きなヒレが4、小さなヒレが4で、4数性であることからtetrapteraとなったものであろう。
[[ファイル:写真4 .jpg|サムネイル|写真4 ヒメシャガの鉢に侵入し、旺盛な生育を示すツキミソウの苗。ヒメシャガは全滅してしまった。]]
 「ツキミソウの渡来は、嘉永4(1851)年頃、オランダ船によってもたらされたという。

 このころ、飯沼慾斎が著した『草木図説』に、マツヨイグサはマツヨヒグサ、ツキミソウはツキミグサとして図示、学名も付けて紹介されている。

 その説明に、マツヨイグサについて、「その産地、称名は未詳、世人はマツヨヒグサ或はヤハズキンバイと呼ぶ」とあり、その強い繁殖力で多くの人の目に触れていることがわかる。

一方のツキミソウは、「前条と同時の舶来で、産地名前は未詳、満にツキミグサと称す」と名前がないので、飯沼慾斎が命名したことがうかがえる。また、補足として牧野富太郎が

「此品世間に多からず、また前者の如く自生の姿を呈することなし」書かれており、性質の弱いツキミソウが日本では普及しなかったことがわかる。

  '''【ツキミソウの産地】'''

 ツキミソウの原産地は、『草木図説』では未詳となっているが、『植物の世界』(朝日百科)によると、メキシコ北東部~米国テキサス州南部となっている。私は、産地はこの周辺の

「砂漠地帯」で、その分布域は広くないと想像している。

 '''【ツキミソウは「可変的二年草」】'''

 ツキミソウ(Oenotera tetoraptera)はアカバナ科マツヨイグサ属の2年草、または多年草、と書かれた本が多い。私が栽培・観察したものは、次のような生育様式を示した。

 [二年草] 9月にタネを播くと、発芽して本葉5~10枚ほどに生長し、寒くなるとロゼット状になり冬越しをする。ロゼット葉は紅色となり、寒さには強いが、乾燥には弱い。3~4月頃、葉数の多いものほど成長が速く、茎を伸ばし、4月中頃から、夕刻白い花を開き、翌朝紅紫色となり閉花し、1カ月後には結実する。

 [一年草] 3月にタネを播いたものが、4月に発芽し、9月には開花、10月に結実する。
[[ファイル:写真5.jpg|サムネイル|写真5 バラの鉢に侵入したツキミソウは、9月を過ぎても枯れることなく、伸び続けて、12月と1月に白い花を咲かせた。
 根もとには新しい芽が見られる。
]]
 [多年草] 開花結実すると、ほとんどの株は枯れてしまうが、中に、いつまでも葉が

      が枯れることなく、枝を伸ばす株がある。この株の根元には、芽が4~5個ついていた。これを根分けして育てると5月には開花・結実する。この株は毎年枯れることなく、根元に芽をつけるかどうか、観察を続けないとわからない。

 このように、ツキミソウの生態を見ていると、1年草なのか、2年草なのか、はたまた多年草なのか、わからないが、 そんな矢先、『野に咲く花の生態図鑑』(多田多恵子)によると、「可変的二年草」なる文が目についた。それによると、

 「マツヨイグサ類は環境条件により、開花までの年数が変動するのである。必ず2年で咲く植物と区別する意味で「可変的二年草」と呼ぶ場合もある。繁殖への切り替えは年齢ではなくサイズで決まる。ロゼットの葉面積があるレベルに達すると、成長モードに切り替わり、繁殖という後戻りできない[死のダイビング]に向けて火ぶたが切られたのである」

「可変的二年草」なる言葉は初めて聞いたが、マツヨイグサ類はそんな特性があったのかと納得し、ツキミソウは可変的二年草というのであろう。

【'''ツキミソウは砂漠の花】'''

 ツキミソウの原産地は、米国テキサス州南部~メキシコ北東部、周辺の砂漠地帯ではないかと考えた。その理由は、『植物の私生活』(デービット・アッテンポロー・手塚勲,小堀民恵訳)「身軽な種子は旅の達人」に出会ったからである。

「身軽な旅の達人は、アカバナ科マツヨイグサ属の2年草。直径5~8センチの白い花を咲かせる。高さは5~25センチと小型だが、茎の基部から長さ1メートルになる、長いほふく性の枝を伸ばす。米国カリフォルニア、アリゾナ両州に分布」と出ている。学名があれば間違いなくツキミソウと断定できるのだが、白い花や、その生態からみてツキミソウであろう。バードゲージ・プラントという別名があったが、それはこの草が枯れると、四方に広がった茎を巻き上げて、オレンジくらいのボール状のカゴとなる。

このカゴは風によってコロコロと砂漠の上を転がり、中の枝についた果実にはタネを包んで移動し、風の届かない場所に腰をおちつける。そしてこの果実は、雨季になるとたっぷりと水分を吸いこみ裂開し、タネは地上に落ちて発芽し、短い期間に開花・結実して一生を終える。

乾燥して生育に適さない乾季は、硬く乾燥に強い果実(サヤ)の中でタネという形で過ごし、新しい繁殖地を求めて移動し、生育に適した場所と、適した時期に繁殖をするのだ。

 この種子繁殖の状況や、タネの様子をみると、ツキミソウに当てはまる点が多いので、私が観察したツキミソウと比べてみた。

[[ファイル:ツキミソウ02.jpg|左|サムネイル|325x325ピクセル|写真6 水に浸すと1分でサヤは開くが、タネはまだこぼれない。]]
  '''【ツキミソウの果実】'''

''' ''' ツキミソウの花は4~5月頃に開花し、1ケ月で4角形の果実に成熟する。そして雨が降ると、サヤは花が開くように杯状に開き、たっぷりと雨水を溜める。タネは水が溢れてもすぐに流れ出ることはない。それは、タネの表面は強い糊状の物質に覆われていて、お互いにくっつき合って塊になっているからだ。雨が続けば、やがて水に溶けて少し塊はほぐれて、タネはカップから流れ出す。そして、葉や茎を伝って流れ出て、最終的には地上に落ちるのだ。雨がたっぷりと降れば、タネは流れ出してカップは空になるが、雨が止むと、カップに残っていたり、途中で葉や茎にしがみつて留まるっているタネを見ることもある。

 サヤが乾燥しているときには、先端が少し開くことがあるが、これは水を吸収しやすくするためだろうか。堅く閉じているサヤも、水に浸すと1分で完全に開くが、タネは中央に集まって、

[[ファイル:ツキミソウ.jpg|左|サムネイル|325x325ピクセル|写真7 雨により流れ出したタネ。]]

塊のままでなかなかほぐれない。

これは砂漠で、少しの雨でタネが流れ出し、発芽しても生育に必要な水を得られないで、枯れてしまうことになる。雨季になって生育に必要な多量の雨が降れば、タネの表面の糊がゆるみ、バラバラになってタネが散布され、確実に発芽して、安全に生育することができる。糊は確実に雨季になったこと確認する、役割を果たしているのだ。

 デービットは「カゴのなかには次の世代の生命が宿っているのです。それはサヤの中にある種子です。長い旅の間にはこぼれ落ちてしまった種子もあります。それらは多分死んでしまったはずです。でも、たくさんの種子が避難所までたどり着き、サヤが太陽に温められて裂けると、サヤから転がり落ちます。ここなら、芽を出し、生きていけるチャンスがあります」と述べている。しかし、ツキミソウの果実は、堅いサヤに包まれ、カゴが乾いて転がるときには開かないし、中のタネは糊でしっかりと固まっているから、移動中にこぼれ落ちることはない。また、温められてサヤが裂けるのではなく、雨でサヤが開いて、さらに十分な水が得られたときに、タネは地上に流れ落ちて発芽するのだ。

      '''【ツキミソウのタネ】'''

 2015年5月開花、6月に結実した果実、4個のタネの数を調べた。

   ①果 225個   ②果 238個   ③果 269個   4果 336個 

 4果の合計は1,068で、1果の大きさは1ミリ未満、ゴマ粒を小さくしたような形だ。

 この結果からみると、1果実中には200~300のタネがあり、ツキミソウ1株に10個の花が咲くとしても、2000~3000個のタネがつくられることになる。バード・ゲージ1個は、これだけのタネを運んでいることになる。

 そこで、バード・ゲージを作ってみたいと思い、花が終って果実がついている鉢植えの株15鉢を、そのままにして冬越しをさせることにした。しかし、枯れた株はバード・ゲージになることもなく、枯れた枝はいつの間にか姿を消し、ガード・ゲージは作れなかった。
{| class="wikitable"
|発芽(本)
| 0
|1~5
|6~10
|11~14
| 計
|-
|鉢  数
| 5
| 2
|  4
|  4
|15鉢
|}
 鉢にはときどき灌水をしていたが、鉢には越冬したいくつかの芽が確認できた。翌年の春、15鉢の発芽数を数えたら、上記のとおりであったが、1株の結実数を考えると、鉢は実生苗でいっぱいになるのではないかと考えていたが、上記の結果は意外であった。また苗も大きなもので、葉を広げた直径が60ミリ、小さな葉が40枚くらい。小さな苗は、直径10~15ミリ、葉の数は5~6枚であり、発芽と生育状況はあまりよくない。

 これは、タネの表面についている糊に、発芽を抑制する物質が含まれているからだろう。

ツキミソウの鉢を他の鉢と並べて置いたら、脇から伸びた枝はとなりのヒメシャガの鉢まで伸びた枝は、ここで花を咲かせて、タネを落としたのである。ところが、ここで発芽し、生育した苗は鉢を占領して、宿主を枯らして立派な苗に生長した。

 また、バラの鉢に侵入した株は、バラと同生し、9月に花を咲かせていたが、寒くなっても緑を失わず、枝には幾つかのツボミが残っていた。この鉢を南向きの陽だまりに置いたら、12月28日と、1月22日に白い花を開き、株もとには新しく発芽した芽がみられた。

 この結果は、ツキミソウのタネを包んでいる糊状の物質に、生育を阻害する物質が含まれているのであろう。糊は雨に流されてはがれるが、少しの雨ではがれてはその後の生育に支障がある。生育に必要な大量の雨が降ることを知る雨量計の役目をしているのである。

 株の周囲には多くのタネが落ちているので、鉢は糊の阻害物質が多く含まれていて、タネも発芽しにくいし、その後の生育も阻害されるのであろう。

 ところが、隣のヒメシャガやバラの鉢は、ツキミソウにとっては阻害物質のない、バード・ゲージに頼らないで得られた新天地で、のびのびと生育できたのである。

以上が、「ツキミソウが砂漠の植物である」と考える根拠であるが、砂漠についての知識に乏しく、メキシコの砂漠地帯でツキミソウが生育しているのかの確認は得られていない。


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2017年3月31日 (金) 09:08時点における版

ツキミソウ
Oenothera tetraptera ツキミソウ
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : バラ亜綱 Rosidae
: フトモモ目 Myrtales
: アカバナ科 Onagraceae
: マツヨイグサ属 Oenothera
: ツキミソウ O. tetraptera
学名
Oenothera tetraptera
Cav. 1796
ツキミソウの開花状況
写真左の花に注目。この花のメシベが左側に倒れているが、これは時間が経つと中央(右側)に移動するのが観察できる。 これは、ツキミソウが虫媒花であるが、自家受粉をするためである。しかし、虫による受粉がなされない場合、じかんの推移とともメシベはは、中央に移動し、直立する。そして、オシベも伸びて花粉を放出し、自家受粉を完了させる。(写真右)

ツキミソウ(月見草、Oenothera tetraptera、つきみぐさ)は、アカバナ科マツヨイグサ属に属する二年草または多年草

解説

メキシコ原産で江戸時代に鑑賞用として渡来した。花期は6 - 9月ごろで、花は夕方の咲き始めは白色であるが、翌朝のしぼむ頃には薄いピンク色となる。

同属種であるオオマツヨイグサマツヨイグサメマツヨイグサなどのことを「月見草」と呼ぶこともある。

太宰治著『富嶽百景』にあらわれる月見草は、実際はマツヨイグサであったとされる。古来からの名家である植月家は「"月"見草を"植"える」から由来する。

神奈川県大和市にあり、東急田園都市線の駅名にもなった「つきみ野」の地名は、開発以前、周囲に月見草が生い茂っていたことに由来する。