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「埋没費用」の版間の差分

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'''埋没費用'''(まいぼつひよう、{{lang-en-short|sunk cost}} 〈'''サンクコスト'''〉)とは、事業や行為に投下した[[資金]]・労力のうち、事業や行為の撤退・縮小・中止をしても戻って来ない資金や労力のこと。
'''埋没費用'''(まいぼつひよう、{{lang-en-short|sunk cost}} 〈'''サンクコスト'''〉)とは、事業や行為に投下したコストうち、事業や行為の撤退・縮小・中止をしても戻って来ないの部分こと。


例えば、100万円の自動車を購入、運転したものを、その後40万円で売却したとする。この場合、購入価格と売却価格の差額60万円が埋没費用となる。この場合の埋没費用は、初期投資の3千万と回収できた1千万の差額、2千万円である。
== 概要 ==

初期投資が大きく他に転用ができない事業ほど埋没費用は大きくなるので、投資も新規企業の参入も慎重になる。[[寡占]]論では、埋没費用の多寡が参入障壁の高さを決める要因の一つであるとされる。
基本的に購入した物品、設備は購入後の時間経過、使用回数に応じて売却価格が減少するし、支払った人件費、光熱費等は回収不可能である。初期投資が大きく他に転用ができない事業ほど埋没費用は大きくなるので、投資も新規企業の参入も慎重になる。[[寡占]]論では、埋没費用の多寡が参入障壁の高さを決める要因の一つであるとされる。


これに対し[[ウィリアム・ボーモル]]は[[1982年]]に、埋没費用がゼロならば競争の潜在的可能性が高いので、たとえ[[独占]]であっても参入可能性が価格を正常に維持するという[[コンテスタビリティ理論]]を提示し、[[1980年代]]以後の[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の航空輸送産業や[[貨物自動車|トラック]]輸送産業における[[規制緩和]]の流れを作り出した。つまり、市場がどれだけ競争的または寡占的であるかは、実際に市場に参加している企業の多寡によってだけでは判断できず、潜在的な新規参入の容易さによっても左右されることが重要であると主張した。
これに対し[[ウィリアム・ボーモル]]は[[1982年]]に、埋没費用がゼロならば競争の潜在的可能性が高いので、たとえ[[独占]]であっても参入可能性が価格を正常に維持するという[[コンテスタビリティ理論]]を提示し、[[1980年代]]以後の[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の航空輸送産業や[[貨物自動車|トラック]]輸送産業における[[規制緩和]]の流れを作り出した。つまり、市場がどれだけ競争的または寡占的であるかは、実際に市場に参加している企業の多寡によってだけでは判断できず、潜在的な新規参入の容易さによっても左右されることが重要であると主張した。

=== 例1:つまらない映画を観賞し続けるべきか ===
2時間の映画のチケットを1800円で購入したとする。映画館に入場し映画を観始めた。10分後に映画が余りにもつまらないことが判明した場合にその映画を観続けるべきか、それとも途中で映画館を退出して残りの時間を有効に使うべきかが問題となる。

* 映画を観続けた場合:チケット料金1800円と上映時間の2時間を失う。
* 映画を観るのを途中でやめた場合:チケット代1800円と退出までの上映時間の10分間は失うが、残った時間の1時間50分をより有効に使うことができる。

この場合、チケット代1800円とつまらないと感じるまでの10分が埋没費用である。この埋没費用は、'''上記のどちらの選択肢を選んだとしても回収できない費用'''である。したがって、時間を浪費してまで、つまらないと感じる映画を観続けることは経済学的に合理的な選択ではない。途中で退出して残りの時間を有効に使うことが経済学的に合理的な選択である。しかし、多くの人は「払った1800円がもったいない。元を取らなければ」などと考え、つまらない映画を観続けることによって時間を浪費してしまいがちである。

=== 例2:チケットを紛失した場合 ===
ある映画のチケットを1800円で購入しこのチケットを紛失してしまった場合に、再度チケットを購入してでも映画を観るべきか否か。

チケットを購入したということは、その映画を見ることに少なくとも代金1800円と同等以上の価値があると感じていたからのはずである。一方で紛失してしまったチケットの代金は前述の埋没費用にあたるものだから、2度目の選択においてはこれを判断材料に入れないことが合理的である。

ならば、再度1800円のチケットを購入してでも1800円以上の価値がある映画を観るのが経済学的には合理的な選択となる<ref>[[グレゴリー・マンキュー]]著、足立英之ほか訳『マンキュー経済学』1、ミクロ編、東洋経済新報社、2000年。</ref>。しかし、人は「その映画に3600円分の価値があるか」という基準で考えてしまいがちである。

==脚注==
{{Reflist}}


==参考文献==
==参考文献==

2017年5月5日 (金) 05:41時点における版

埋没費用(まいぼつひよう、: sunk costサンクコスト〉)とは、事業や行為に投下したコストうち、事業や行為の撤退・縮小・中止をしても戻って来ないの部分こと。

例えば、100万円の自動車を購入、運転したものを、その後40万円で売却したとする。この場合、購入価格と売却価格の差額60万円が埋没費用となる。この場合の埋没費用は、初期投資の3千万と回収できた1千万の差額、2千万円である。

基本的に購入した物品、設備は購入後の時間経過、使用回数に応じて売却価格が減少するし、支払った人件費、光熱費等は回収不可能である。初期投資が大きく他に転用ができない事業ほど埋没費用は大きくなるので、投資も新規企業の参入も慎重になる。寡占論では、埋没費用の多寡が参入障壁の高さを決める要因の一つであるとされる。

これに対しウィリアム・ボーモル1982年に、埋没費用がゼロならば競争の潜在的可能性が高いので、たとえ独占であっても参入可能性が価格を正常に維持するというコンテスタビリティ理論を提示し、1980年代以後のアメリカの航空輸送産業やトラック輸送産業における規制緩和の流れを作り出した。つまり、市場がどれだけ競争的または寡占的であるかは、実際に市場に参加している企業の多寡によってだけでは判断できず、潜在的な新規参入の容易さによっても左右されることが重要であると主張した。

参考文献

  • Sutton, John (1991). Sunk Costs and Market Structure. Cambridge, Massachusetts: The MIT Press. ISBN 9780262193054 

関連項目

外部リンク