コンテンツにスキップ

「対称双線型形式」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
Emstyle (会話 | 投稿記録)
+refs
5行目: 5行目:


== 定義 ==
== 定義 ==
{{math|''V''}} を体 {{math|''K''}} 上の {{math|''n''}}-次元ベクトル空間とする。[[写像]] {{math|''B'': ''V'' × ''V'' → ''K''; (''u'',''v'') ↦ ''B''(''u'',''v'')}} が、{{math|''V''}} 上で対称双線型形式とは、次の条件を満たすことである。
{{math|''V''}} を体 {{math|''K''}} 上の有限次元ベクトル空間とする。[[写像]] {{math|''B'': ''V'' × ''V'' → ''K''; (''u'',''v'') ↦ ''B''(''u'',''v'')}} が、{{math|''V''}} 上で対称双線型形式とは、次の条件を満たすことである{{sfn|Scharlau|1985|loc={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=1|Definition 1.1}}}}
* [[対称函数|対称性]]: <math>B(u,v)=B(v,u) \quad(\forall u,v \in V)</math>
* [[対称函数|対称性]]: <math>B(u,v)=B(v,u) \quad(\forall u,v \in V)</math>
* 第一引数に関する[[加法的函数|加法性]]: <math>B(u+v,w)=B(u,w)+B(v,w)\quad (\forall u,v,w \in V)</math>
* 第一引数に関する[[加法的函数|加法性]]: <math>B(u+v,w)=B(u,w)+B(v,w)\quad (\forall u,v,w \in V)</math>
24行目: 24行目:
対称双線型形式は、常に[[反射的双線型形式|反射的]]である。二つのベクトル {{math|''v''}} と {{math|''w''}} が双線型形式 {{math|''B''}} に関して直交するとは、{{math|1=''B''(''v'', ''w'') = 0}} となること(反射性によりこれは {{math|1=''B''(''w'', ''v'') = 0}} と同値)と定義される。
対称双線型形式は、常に[[反射的双線型形式|反射的]]である。二つのベクトル {{math|''v''}} と {{math|''w''}} が双線型形式 {{math|''B''}} に関して直交するとは、{{math|1=''B''(''v'', ''w'') = 0}} となること(反射性によりこれは {{math|1=''B''(''w'', ''v'') = 0}} と同値)と定義される。


双線型形式 {{math|''B''}} の'''根基''' (''radical'') とは、{{math|''V''}} に属する全てのベクトルと({{math|''B''}} に関して)直交するベクトル全体の成す集合を言う。これが {{math|''V''}} の部分空間となることは、{{math|''B''}} がその各引数に関して線型であることから従う。適当な基底に関する行列表現 {{math|''A''}} を用いて述べれば、ベクトル {{math|''v''}} が根基に属するための必要十分条件は、{{math|''v''}} をこの基底に関して表現する行列を {{math|''x''}} として
双線型形式 {{math|''B''}} の'''根基''' (''radical'') とは、{{math|''V''}} に属する全てのベクトルと({{math|''B''}} に関して)直交するベクトル全体の成す集合 {{math|''V''<sup>&perp;</sup>}} を言う{{sfn|Scharlau|1985|p={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=7|7}}}}。これが {{math|''V''}} の部分空間となることは、{{math|''B''}} がその各引数に関して線型であることから従う。適当な基底に関する行列表現 {{math|''A''}} を用いて述べれば、ベクトル {{math|''v''}} が根基に属するための必要十分条件は、{{math|''v''}} をこの基底に関して表現する行列を {{math|''x''}} として
: <math>A x = 0 \implies x^{\top} A = 0</math>
: <math>A x = 0 \implies x^{\top} A = 0</math>
が成り立つことである。
が成り立つことである。
行列 {{math|''A''}} が'''特異''' (''singular'') であるとは、その根基が非自明であることを言う。
行列 {{math|''A''}} が'''特異''' (''singular'') であるとは、その根基が非自明であることを言う。


{{math|''V''}} の部分集合 {{math|''W''}} に対し、その'''[[直交補空間]]''' {{math|''W''<sup>⊥</sup>}} は {{math|''W''}} の全てのベクトルと直交する {{math|''V''}} のベクトル全てからなる集合である(これは {{math|''V''}} の部分空間になる)。{{math|''B''}} が非退化ならば {{math|''B''}} の根基は自明である。また {{math|''W''<sup>⊥</sup>}} の次元は {{math|1=dim(''W''<sup>⊥</sup>) = dim(''V'') − dim(''W'')}} である。
{{math|''V''}} の部分集合 {{math|''W''}} に対し、その'''[[直交補空間]]''' {{math|''W''<sup>⊥</sup>}} は {{math|''W''}} の全てのベクトルと直交する {{math|''V''}} のベクトル全てからなる集合である(これは {{math|''V''}} の部分空間になる)。{{math|''B''}} が非退化ならば {{math|''B''}} の根基は自明である。また {{math|''W''<sup>⊥</sup>}} の次元は {{math|1=dim(''W''<sup>⊥</sup>) = dim(''V'') − dim(''W'')}} である{{sfn|Scharlau|1985|loc={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=9|Lemma 3.11}}}}


== 直交基底 ==
== 直交基底 ==
基底 {{math|''C'' {{=}} {''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}} が {{math|''B''}} に関して直交するとは、
基底 {{math|''C'' {{=}} {''e''<sub>1</sub>, …, ''e''<sub>''n''</sub>}}} が {{math|''B''}} に関して直交するとは、
: <math>B(e_{i},e_{j}) = 0\quad (\forall i \neq j)</math>
: <math>B(e_{i},e_{j}) = 0\quad (\forall i \neq j)</math>
が成り立つことを言う。基礎体の[[標数]]が {{math|2}} でないとき、{{math|''V''}} は常に直交基底を持つ。このことの証明は[[数学的帰納法]]による。
が成り立つことを言う。基礎体の[[標数]]が {{math|2}} でないとき、{{math|''V''}} は常に直交基底を持つ{{sfn|Milnor|Husemoller|1973|loc={{google books quote|id=vGPyCAAAQBAJ|page=6|Corollary 3.4}}}}{{sfn|Scharlau|1985|loc={{google books quote|id=c27pCAAAQBAJ|page=7|Theorem 3.5}}}}。このことの証明は[[数学的帰納法]]による。


基底 {{math|''C''}} が直交であるための必要十分条件は、その行列表現 {{math|''A''}} が[[対角行列]]となることである。
基底 {{math|''C''}} が直交であるための必要十分条件は、その行列表現 {{math|''A''}} が[[対角行列]]となることである。
67行目: 67行目:


== 直交偏極 ==
== 直交偏極 ==
[[標数]]が {{math|2}} でない体 {{math|''K''}} の上のベクトル空間 {{math|''V''}} 上で定義される、自明な根基を持つ対称双線型形式 {{math|''B''}} に対し、{{math|''V''}} の部分空間全体の成す集合 {{math|D(''V'')}} からそれ自身への写像
[[標数]]が {{math|2}} でない体 {{math|''K''}} の上のベクトル空間 {{math|''V''}} 上で定義される、自明な根基を持つ対称双線型形式 {{math|''B''}} に対し、{{math|''V''}} の部分空間全体の成す集合 {{math|''D''(''V'')}} からそれ自身への写像
: <math>\alpha\colon D(V)\to D(V) ;\; W\mapsto W^{\perp}</math>
: <math>\alpha\colon D(V)\to D(V) ;\; W\mapsto W^{\perp}</math>
を定義することができる。この写像は[[射影空間]] {{math|PG(''W'')}} 上の'''直交極性''' (orthogonal polarity) である。逆に、全ての直交極性はこの方法により得られる、自明な根基を持つ二つの対称双線型形式が同じ極性を持つための必要十分条件は、それらがスカラー倍の違いを除いて一致することである。
を定義することができる。この写像は[[射影空間]] {{math|PG(''W'')}} 上の'''直交極性''' (orthogonal polarity) である。逆に、全ての直交極性はこの方法により得られる、自明な根基を持つ二つの対称双線型形式が同じ極性を持つための必要十分条件は、それらがスカラー倍の違いを除いて一致することである。

== 出典 ==
{{reflist|2}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{cite book | last1=Adkins | first1=William A. | last2=Weintraub | first2=Steven H. | title=Algebra: An Approach via Module Theory | series=[[Graduate Texts in Mathematics]] | volume=136 | publisher=[[Springer-Verlag]] | year=1992 | isbn=3-540-97839-9 | zbl=0768.00003 }}
* {{cite book | last1=Adkins | first1=William A. | last2=Weintraub | first2=Steven H. | title=Algebra: An Approach via Module Theory | series=[[Graduate Texts in Mathematics]] | volume=136 | publisher=[[Springer-Verlag]] | year=1992 | isbn=3-540-97839-9 | zbl=0768.00003 }}
* {{cite book | first1=J. | last1=Milnor | author1-link=John Milnor| first2=D. | last2=Husemoller | title=Symmetric Bilinear Forms | series=[[Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete]] | volume=73 | publisher=[[Springer-Verlag]] | year=1973 | isbn=3-540-06009-X | zbl=0292.10016 }}
* {{cite book | first1=J. | last1=Milnor | author1-link=John Milnor| first2=D. | last2=Husemoller | title=Symmetric Bilinear Forms | url={{google books|vGPyCAAAQBAJ|plainurl=yes}} | series=Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete | volume=73 | publisher=[[Springer-Verlag]] | year=1973 | isbn=3-540-06009-X | doi=10.1007/978-3-642-88330-9 | mr=0506372 | zbl=0292.10016 }}
* {{cite book
|last1 = Scharlau
|first1 = W.
|year = 1985
|title = Quadratic and Hermitian Forms
|series = Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften
|volume = 270
|url = {{google books|c27pCAAAQBAJ|plainurl=yes}}
|publisher = Springer-Verlag
|isbn = 3-540-13724-6
|mr = 0770063
|zbl = 0584.10010
|doi = 10.1007/978-3-642-69971-9
|ref = harv
}}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

2017年7月18日 (火) 12:20時点における版

線型代数学における対称双線型形式(たいしょうそうせんけいけいしき、: symmetric bilinear form)は、ベクトル空間上の対称な双線型形式を言う。より簡単な言い方をすれば、ベクトル空間の元の対をその係数体の元へ写すような写像であって、その対の成分を並べる順番がその対がどの元へ写るかに影響を及ぼさないようなものである。対称な双線型形式は、直交極性や二次曲面の研究に非常に重要である。

文脈上、双線型形式について述べていると明らかな場合は、単に短く対称形式と呼ぶこともある。対称双線型形式は二次形式と近しい関係にあり、この両者の差異に関する詳細はε-二次形式英語版の項目を参照。

定義

V を体 K 上の有限次元ベクトル空間とする。写像 B: V × VK; (u,v) ↦ B(u,v) が、V 上で対称双線型形式とは、次の条件を満たすことである[1]

  • 対称性:
  • 第一引数に関する加法性:
  • 第一引数に関する斉次性:

後ろ二つの条件は、B が第一引数に関して線型であることを言うものでしかないが、最初の条件より直ちに第二引数に関する線型性も従う。すなわち、対称双線型形式 B双線型写像(特に双線型形式)である。

行列表現

C = {e1, …, en} を V の基底とし、対称双線型形式 B に対して n × n 行列 A = (aij)

で定義するとき、A は基底 C に関して双線型形式 B表現する行列という。この行列 A は、双線型形式 B が対称であるというまさにそのことを以って、対称行列である。n × 1 行列 x がこの基底に関してベクトル v を表し、同じく yw を表すならば、B(v,w) は、

により与えられる。C'V の別な基底として、正則行列 S(e1' … en') = (e1en)S を満たすもの(基底変換)とすれば、対称双線型形式 B のこの新たな基底 C に関する行列表現は

で与えられる。

直交性と特異性

対称双線型形式は、常に反射的である。二つのベクトル vw が双線型形式 B に関して直交するとは、B(v, w) = 0 となること(反射性によりこれは B(w, v) = 0 と同値)と定義される。

双線型形式 B根基 (radical) とは、V に属する全てのベクトルと(B に関して)直交するベクトル全体の成す集合 V を言う[2]。これが V の部分空間となることは、B がその各引数に関して線型であることから従う。適当な基底に関する行列表現 A を用いて述べれば、ベクトル v が根基に属するための必要十分条件は、v をこの基底に関して表現する行列を x として

が成り立つことである。 行列 A特異 (singular) であるとは、その根基が非自明であることを言う。

V の部分集合 W に対し、その直交補空間 WW の全てのベクトルと直交する V のベクトル全てからなる集合である(これは V の部分空間になる)。B が非退化ならば B の根基は自明である。また W の次元は dim(W) = dim(V) − dim(W) である[3]

直交基底

基底 C = {e1, …, en} が B に関して直交するとは、

が成り立つことを言う。基礎体の標数2 でないとき、V は常に直交基底を持つ[4][5]。このことの証明は数学的帰納法による。

基底 C が直交であるための必要十分条件は、その行列表現 A対角行列となることである。

符号数とシルベスターの慣性法則

最も一般の場合にシルベスターの慣性法則の主張は順序体 K 上で意味を持ち、表現行列の対角成分の 0 である個数、正である個数、負である個数が、直交基底の選択には依存しないことを主張する。これらの 3つの数値は、双線型形式の符号数と呼ばれる。

実係数の場合

実数体上の空間を考える場合には、もう少し詳しく述べることができる。C = {e1, …, en} を直交基底とする。

新たな直交基底 (e1', …, en')

で定義すると、新たな行列表現 A は対角線上に 0, 1, −1 のみを成分に持つ対角行列になる。0 が現れるのは、根基が非自明となるときであり、かつそのときに限る。

複素係数の場合

複素数体上の空間を扱う場合も、同様に詳しくしかもより平易な形に述べることができる。C = {e1, …, en} を直交基底とする。

新たな基底 (e1', …, en')

で定義すると、新たな行列表現 A は対角線上に 01 のみを成分に持つ対角行列となる。0 が現れるのは根基が非自明なときであり、かつそのときに限る。

直交偏極

標数2 でない体 K の上のベクトル空間 V 上で定義される、自明な根基を持つ対称双線型形式 B に対し、V の部分空間全体の成す集合 D(V) からそれ自身への写像

を定義することができる。この写像は射影空間 PG(W) 上の直交極性 (orthogonal polarity) である。逆に、全ての直交極性はこの方法により得られる、自明な根基を持つ二つの対称双線型形式が同じ極性を持つための必要十分条件は、それらがスカラー倍の違いを除いて一致することである。

出典

参考文献

  • Adkins, William A.; Weintraub, Steven H. (1992). Algebra: An Approach via Module Theory. Graduate Texts in Mathematics. 136. Springer-Verlag. ISBN 3-540-97839-9. Zbl 0768.00003 
  • Milnor, J.; Husemoller, D. (1973). Symmetric Bilinear Forms. Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete. 73. Springer-Verlag. doi:10.1007/978-3-642-88330-9. ISBN 3-540-06009-X. MR0506372. Zbl 0292.10016. https://books.google.co.jp/books?id=vGPyCAAAQBAJ 
  • Scharlau, W. (1985). Quadratic and Hermitian Forms. Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften. 270. Springer-Verlag. doi:10.1007/978-3-642-69971-9. ISBN 3-540-13724-6. MR0770063. Zbl 0584.10010. https://books.google.co.jp/books?id=c27pCAAAQBAJ 

外部リンク