「ヤシ」の版間の差分
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葉はふつう常緑で互生し大型のものが多く、羽状複葉か掌状、あるいは扇状に裂け、小葉はしばしば山型あるいは谷型に折りたたまれている{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。基部は茎を抱き、鞘が茎を包んだり、繊維を茎にまといつかせる。茎に沿って多数の葉を並べるものもあるが、茎の先端部に輪生状に葉が集まるものが多く、[[ソテツ類]]に似た独特の樹型を見せる。 |
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両性または単性の雌雄異株{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。花はふつう小型で、穂になって生じる。花序の基部には大型の鞘状の総包があり、多くは円錐状である{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。花びら(花被片)は6個あり、小さく目立たず、雄しべが6個ある{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。子房は上位につく{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。果実は液果または核果で、大型になるものがある{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。 |
両性または単性の雌雄異株{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。花はふつう小型で、穂になって生じる。花序の基部には大型の鞘状の総包があり、多くは円錐状である{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。花びら(花被片)は6個あり、小さく目立たず、雄しべが6個ある{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。子房は上位につく{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。果実は液果または核果で、大型になるものがある{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。なかでも[[オオミヤシ]](フタゴヤシ)は、種子の重さが25–30 [[キログラム|㎏]]にもなり、植物界最大のものとして知られており、成熟するまでに8–10年かかる{{sfn|土橋豊|1992|p=184}}。 |
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[[熱帯]]地方を中心に253属、約3333種がある。日本にもシュロなど6属6種が自生する{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。しかし、[[観葉植物]]としての栽培が多く、見かける種数は多い。 |
[[熱帯]]地方を中心に253属、約3333種がある。日本にもシュロなど6属6種が自生する{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。しかし、[[観葉植物]]としての栽培が多く、見かける種数は多い。 |
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== 利用 == |
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熱帯地域では資源植物として重要であり、古来より多くの種がさまざまな方法で利用されている{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。最も有名なのはココヤシで、ヤシ油をとって食用や石鹸に利用したり、果実の中心にある透明な液を飲料としたする{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。また、アブラヤシの実からはパーム油の採取したり、そのほかの種でも食用、デンプンや砂糖の採取、タバコ代わりの嗜好品、条虫駆除薬、繊維利用、屋根葺きの材料など利用法は多岐にわたる{{sfn|土橋豊|1992|p=184}}。また、ヤシ科植物は鑑賞用の植物として |
熱帯地域では資源植物として重要であり、古来より多くの種がさまざまな方法で利用されている{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。最も有名なのはココヤシで、ヤシ油をとって食用や石鹸に利用したり、果実の中心にある透明な液を飲料としたりする{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。また、アブラヤシの実からはパーム油の採取したり、そのほかの種でも食用、デンプンや砂糖の採取、タバコ代わりの嗜好品、条虫駆除薬、繊維利用、屋根葺きの材料など利用法は多岐にわたる{{sfn|土橋豊|1992|p=184}}。また、ヤシ科植物は鑑賞用の植物としてなくてはならないものとなっていて、庭園樹や室内観葉植物として利用されているものもたくさんある{{sfn|土橋豊|1992|p=184}}。 |
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=== 食用など === |
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* [[ココヤシ]]の果実内部に溜まった水(液状[[胚乳]])は飲用になる他{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}、[[ナタ・デ・ココ]]の原料となる。固形胚乳の層は[[ココナッツ]]として食用にする。水分とともに砕いて乳液状にしたものは[[ココナッツミルク]]と呼ばれる。乾燥させた固形胚乳([[コプラ]])からは[[ヤシ油]](ココナッツオイル)が抽出される。 |
* [[ココヤシ]]の果実内部に溜まった水(液状[[胚乳]])は飲用になる他{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}、[[ナタ・デ・ココ]]の原料となる。固形胚乳の層は[[ココナッツ]]として食用にする。水分とともに砕いて乳液状にしたものは[[ココナッツミルク]]と呼ばれる。乾燥させた固形胚乳([[コプラ]])からは[[ヤシ油]](ココナッツオイル)が抽出される。 |
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* [[ナツメヤシ]] |
* [[ナツメヤシ]]は、果実(デーツ)を食用とするほか{{sfn|土橋豊|1992|p=184}}。、[[ドライフルーツ]]や[[ジュース]]、[[蒸留酒]]の原料としてさまざまに利用される。日本で市販されている[[ウスターソース]]類には、デーツを原材料の一つとして使用する商品がある。 |
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* [[アサイー]]の果実はジュースや[[スムージー]]として利用される。 |
* [[アサイー]]の果実はジュースや[[スムージー]]として利用される。 |
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* [[サラク]]の果実は生食される他、砂糖煮などに加工される。 |
* [[サラク]]の果実は生食される他、砂糖煮などに加工される。 |
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* [[チョンタドゥーロ]]の果実は砂糖煮にする他、実野菜として茹でたり、[[スープ]]、[[キャセロール]]料理に用いられる。 |
* [[チョンタドゥーロ]]の果実は砂糖煮にする他、実野菜として茹でたり、[[スープ]]、[[キャセロール]]料理に用いられる。 |
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* [[サゴヤシ]]は幹の |
* [[サゴヤシ]]は幹の髄に[[でんぷん]]を貯蔵しており、これを採って食料として利用される{{sfn|土橋豊|1992|p=184}}。[[パプアニューギニア]]の[[サクサク (食品)|サクサク]]はその一例である。 |
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* [[アブラヤシ|アブラヤシ属]]、特に[[ギニアアブラヤシ]]は、果実から取れる油 |
* [[アブラヤシ|アブラヤシ属]]、特に[[ギニアアブラヤシ]]は、果実から取れる[[パーム油]]や[[パーム核油]]を工業原料、食用として用いる{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。 |
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* [[ババス]]の種子からは[[ババスオイル]]がとれる。 |
* [[ババス]]の種子からは[[ババスオイル]]がとれる。 |
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* [[ロウヤシ]]からは[[食品添加物]]の[[カルナウバワックス]]が採取される。 |
* [[ロウヤシ]]からは[[食品添加物]]の[[カルナウバワックス]]が採取される。 |
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* ココヤシやアサイーなどの成長点は[[ハート・オブ・パーム]](ヤシの芽、パルミート)と呼ばれ、野菜としてサラダなどに利用される。 |
* ココヤシやアサイーなどの成長点は[[ハート・オブ・パーム]](ヤシの芽、パルミート)と呼ばれ、野菜としてサラダなどに利用される。 |
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* ナツメヤシ、ココヤシ、サゴヤシなどの樹液を煮詰めると[[パームシュガー]]ができる。また、樹液を醗酵させて酒を作ることもできる。 |
* ナツメヤシ、ココヤシ、サゴヤシなどの樹液を煮詰めると[[パームシュガー]]ができる。また、樹液を醗酵させて酒を作ることもできる。 |
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=== 園芸 === |
=== 園芸 === |
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* ヤシの独特の樹型は熱帯的で、温暖な地方では[[街路樹]]として用いられる。本州南岸以南では、[[カナリーヤシ]](フェニックス)・シンノウヤシ・ワシントンヤシ(ワシントニアパーム)がよく街路樹として用いられ、特に観光地では南国ムードを高めるために頻繁に使用される。 |
* ヤシの独特の樹型は熱帯的で、温暖な地方では[[街路樹]]として用いられる。本州南岸以南では、[[カナリーヤシ]](フェニックス)・シンノウヤシ・ワシントンヤシ(ワシントニアパーム)がよく街路樹として用いられ、特に観光地では南国ムードを高めるために頻繁に使用される。 |
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* [[トウジュロ]]や[[ワシントンヤシモドキ]]は、戸外で庭園樹などに利用されている{{sfn|土橋豊|1992|p=184}}。 |
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* 小型種では[[チャメドレア属]]などが観葉植物として室内で栽培されるものが多い。[[カンノンチク]]、[[シュロチク]]は[[古典園芸植物]]として、江戸時代から様々な品種が栽培された。[[大正時代|大正]]・[[昭和時代|昭和]]期には投機の対象となり、何度かブームを起こしている。 |
* 小型種では[[チャメドレア属]]などが観葉植物として室内で栽培されるものが多い。[[カンノンチク]]、[[シュロチク]]は[[古典園芸植物]]として、江戸時代から様々な品種が栽培された。[[大正時代|大正]]・[[昭和時代|昭和]]期には投機の対象となり、何度かブームを起こしている。 |
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=== 薬用など === |
=== 薬用など === |
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* [[ビンロウ]]は果実を[[染料]]として利用するほか、[[キンマ]]の葉 |
* [[ビンロウ]](ビンロウジュ)は、果実を[[染料]]として利用するほか、コショウ科の[[キンマ]]の葉に包んでから口の中で噛む習慣があり、タバコに代わる嗜好品とする{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}。生薬の檳榔子(ビンロウジ)は熟した種子を乾燥したもので、条虫駆除薬として用いられており{{sfn|土橋豊|1992|p=183}}、[[中華人民共和国]][[湖南省]]では、煮て[[甘草]]などで味付けし、[[虫下し]]の効果がある嗜好品としている。 |
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* [[ノコギリパルメット]](ソー・パルメット)の果実は[[インディアン]]が強壮作用のある食料として用いていたが、エキスには[[前立腺]]肥大の抑制作用があることが知られている。 |
* [[ノコギリパルメット]](ソー・パルメット)の果実は[[インディアン]]が強壮作用のある食料として用いていたが、エキスには[[前立腺]]肥大の抑制作用があることが知られている。 |
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* [[キリンケツヤシ]](Daemonorops draco)の実を加工したものを[[麒麟竭]](きりんけつ)といい、漢方薬に用いるほか、民間薬としては外用にも用いるという。 |
* [[キリンケツヤシ]](Daemonorops draco)の実を加工したものを[[麒麟竭]](きりんけつ)といい、漢方薬に用いるほか、民間薬としては外用にも用いるという。 |
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=== 亜科・連<ref>[[DDBJ]] TXSearch、[[NCBI]] taxonomy database、[[UniProt]] Taxonomy による。</ref> === |
=== 亜科・連<ref>[[DDBJ]] TXSearch、[[NCBI]] taxonomy database、[[UniProt]] Taxonomy による。</ref> === |
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ヤシ科は5亜科に分かれ、それぞれがいくつかの[[族 (分類学)|連]]に分かれる。連によっては数十の属が属する。 |
ヤシ科は5亜科に分かれ、それぞれがいくつかの[[族 (分類学)|連]]に分かれる。連によっては数十の属が属する。 |
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** [[アレカ連]] {{sname|Areceae}} - [[ユスラヤシ]] {{snamei||Archontophoenix alexandrae}}、[[ババス]] {{snamei||Attalea speciosa}}、[[ノヤシ]] {{snamei||Clinostigma savoryanum}}、[[アレカヤシ]] {{snamei||Dypsis lutescens}}、[[ヤエヤマヤシ]] {{snamei||Satakentia liukiuensis}} など |
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* [[ナツメヤシ属]] (フェニックス){{snamei|Phoenix}} - 熱帯・亜熱帯のアフリカ・アジアに約17種が分布。自然交雑しやすく、変異がたくさんある。フェニックスの名の由来は諸説あるが、一説にはナツメヤシに対する古代ギリシア名とされる{{sfn|土橋豊|1992|p=186}}。 |
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** [[ワシントンヤシ]] {{snamei|W. filifera}} |
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2017年8月30日 (水) 14:29時点における版
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ヤシ目・ヤシ科 | |||||||||||||||
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![]() ココヤシ Cocos nucifera
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分類 | |||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||
Arecales Bromhead Arecaceae Schultz-Schultzenstein | |||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||
Palmaceae | |||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||
ヤシ(椰子) | |||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||
palm, palm tree | |||||||||||||||
亜科 | |||||||||||||||
ヤシ(椰子)は、単子葉植物ヤシ目 ヤシ科に属する植物の総称である。熱帯地方を中心に亜熱帯から温帯にかけて広く分布する植物で、独特の樹型で知られている。実用価値の高いものが多い。ヤシ科は英語でパルマエ (Palmae) といい、ラテン語のpalma(掌、シュロ)の複数形に由来する[1]。基準属Arecaに基づくArecaceaeも科名として用いられる[1]。
特徴
ヤシは、単子葉植物ヤシ科に属する植物を広く指して言う呼称である。単子葉植物としては珍しく木本であり、多くは幹は木質化して太くなるか、つる状となり、小型で草質の茎をもつものもある[1]。高木で大きいものでは30 mになるが、低木のものや茎が立ち上がらないもの、草本並みの大きさのものもある。
葉はふつう常緑で互生し大型のものが多く、羽状複葉か掌状、あるいは扇状に裂け、小葉はしばしば山型あるいは谷型に折りたたまれている[1]。基部は茎を抱き、鞘が茎を包んだり、繊維を茎にまといつかせる。茎に沿って多数の葉を並べるものもあるが、茎の先端部に輪生状に葉が集まるものが多く、ソテツ類に似た独特の樹型を見せる。
両性または単性の雌雄異株[1]。花はふつう小型で、穂になって生じる。花序の基部には大型の鞘状の総包があり、多くは円錐状である[1]。花びら(花被片)は6個あり、小さく目立たず、雄しべが6個ある[1]。子房は上位につく[1]。果実は液果または核果で、大型になるものがある[1]。なかでもオオミヤシ(フタゴヤシ)は、種子の重さが25–30 ㎏にもなり、植物界最大のものとして知られており、成熟するまでに8–10年かかる[2]。
熱帯地方を中心に253属、約3333種がある。日本にもシュロなど6属6種が自生する[1]。しかし、観葉植物としての栽培が多く、見かける種数は多い。
利用
熱帯地域では資源植物として重要であり、古来より多くの種がさまざまな方法で利用されている[1]。最も有名なのはココヤシで、ヤシ油をとって食用や石鹸に利用したり、果実の中心にある透明な液を飲料としたりする[1]。また、アブラヤシの実からはパーム油の採取したり、そのほかの種でも食用、デンプンや砂糖の採取、タバコ代わりの嗜好品、条虫駆除薬、繊維利用、屋根葺きの材料など利用法は多岐にわたる[2]。また、ヤシ科植物は鑑賞用の植物としてなくてはならないものとなっていて、庭園樹や室内観葉植物として利用されているものもたくさんある[2]。
食用など
- オウギヤシ(パルミラヤシ、ウチワヤシ)は「砂糖ヤシ」とも呼ばれ、果実の内側のゼリー状部分を生食やシロップ漬け、砂糖煮や缶詰などにする。また、花穂を切り落とした後に竹筒を挿し込み集めた花序液はそのままヤシジュースとして飲用する他、煮詰めて砂糖(パームシュガー)を生成する[1]、花序液を醗酵させて作る椰子酒(パルミラヤシワイン)やビールや蒸留酒、酢などの原料に利用する。
- ココヤシの果実内部に溜まった水(液状胚乳)は飲用になる他[1]、ナタ・デ・ココの原料となる。固形胚乳の層はココナッツとして食用にする。水分とともに砕いて乳液状にしたものはココナッツミルクと呼ばれる。乾燥させた固形胚乳(コプラ)からはヤシ油(ココナッツオイル)が抽出される。
- ナツメヤシは、果実(デーツ)を食用とするほか[2]。、ドライフルーツやジュース、蒸留酒の原料としてさまざまに利用される。日本で市販されているウスターソース類には、デーツを原材料の一つとして使用する商品がある。
- アサイーの果実はジュースやスムージーとして利用される。
- サラクの果実は生食される他、砂糖煮などに加工される。
- チョンタドゥーロの果実は砂糖煮にする他、実野菜として茹でたり、スープ、キャセロール料理に用いられる。
- サゴヤシは幹の髄にでんぷんを貯蔵しており、これを採って食料として利用される[2]。パプアニューギニアのサクサクはその一例である。
- アブラヤシ属、特にギニアアブラヤシは、果実から取れるパーム油やパーム核油を工業原料、食用として用いる[1]。
- ババスの種子からはババスオイルがとれる。
- ロウヤシからは食品添加物のカルナウバワックスが採取される。
- ココヤシやアサイーなどの成長点はハート・オブ・パーム(ヤシの芽、パルミート)と呼ばれ、野菜としてサラダなどに利用される。
- ナツメヤシ、ココヤシ、サゴヤシなどの樹液を煮詰めるとパームシュガーができる。また、樹液を醗酵させて酒を作ることもできる。
園芸
- ヤシの独特の樹型は熱帯的で、温暖な地方では街路樹として用いられる。本州南岸以南では、カナリーヤシ(フェニックス)・シンノウヤシ・ワシントンヤシ(ワシントニアパーム)がよく街路樹として用いられ、特に観光地では南国ムードを高めるために頻繁に使用される。
- トウジュロやワシントンヤシモドキは、戸外で庭園樹などに利用されている[2]。
- 小型種ではチャメドレア属などが観葉植物として室内で栽培されるものが多い。カンノンチク、シュロチクは古典園芸植物として、江戸時代から様々な品種が栽培された。大正・昭和期には投機の対象となり、何度かブームを起こしている。
薬用など
- ビンロウ(ビンロウジュ)は、果実を染料として利用するほか、コショウ科のキンマの葉に包んでから口の中で噛む習慣があり、タバコに代わる嗜好品とする[1]。生薬の檳榔子(ビンロウジ)は熟した種子を乾燥したもので、条虫駆除薬として用いられており[1]、中華人民共和国湖南省では、煮て甘草などで味付けし、虫下しの効果がある嗜好品としている。
- ノコギリパルメット(ソー・パルメット)の果実はインディアンが強壮作用のある食料として用いていたが、エキスには前立腺肥大の抑制作用があることが知られている。
- キリンケツヤシ(Daemonorops draco)の実を加工したものを麒麟竭(きりんけつ)といい、漢方薬に用いるほか、民間薬としては外用にも用いるという。
建材、工芸材料など
- 大きくなるものは、幹が建材等に利用される。また、ココヤシ、ニッパヤシなどの大型種の葉は、屋根を葺くのにも使われる[2]。そのほか、傘や帽子、団扇などに直接加工することも広く行われる。
- ラフィアヤシなど葉の丈夫な種では、引き裂いてひもや繊維とすることも行われる。シュロなどでは、葉の基部から生じる繊維状の毛を縄、ほうきなどの材料とする。
- ココヤシなどの果実の殻は調理器具などに加工される。
- つる性のトウ(籐)は籐細工として家具などにされる。
- オウギヤシ、タリポットヤシの葉は東南アジアや南アジアで仏教の写経をする際の紙代わりとして使われてきた歴史がある。また、仏教やヒンドゥー教、時にはイスラム王朝をテーマとした細密画が描かれることもあり、土産品としても流通している。貝多羅葉、略して貝葉と呼ばれる。
- ゾウゲヤシ(Phytelephas)の胚乳は非常に硬く、磨くと象牙に似ているためスーツのボタン等の装身具に用いられる。
木炭
- ココヤシなどの果実の殻を、水蒸気で賦活し、椰子殻(やしがら)活性炭が作られ、脱臭、タバコのタール等の除去、浄水、金の吸着分離などに用いられる。また、椰子殻を原料とした木炭であるヤシガラ炭は東南アジア全般で広く製造されている。ヤシ殻の丸まった形では燃料として扱いにくいため、木炭化したものを粉砕し、タピオカ澱粉などで固めてオガ炭のような薪状に成形されて販売されている。
その他
- ヤシの実を穿孔して土笛のようにし、楽器とされている。一例として兵庫県神戸市玉津田中遺跡から弥生時代のものが出土している。
- 天然ココナッツ繊維:この繊維をロープ状にして、ほぐして強度をつけ、ラテックスを塗布し固める。通気性が良く適度な硬さがあり、腰痛に良いとされる。
- キリンケツヤシから採った麒麟竭(上述)は赤い色をしており、各種塗料や紙の着色などに用いる。
- 日本においては、「台湾季語」として水牛と並んで特に人気の高い題材であったが、「椰子の花」は台湾では春をイメージさせるものであったのに対して[3]、島崎藤村が「名も知らぬ遠き島より流れよる椰子の実一つ 故郷の岸を離れて汝(なれ)はそも波に幾月」と詠んだように晩夏の季語のように使われることが多かった[4]。
分類・系統的位置づけ
ヤシ科はほとんどの分類体系で、単独でヤシ目を構成する。分類の難しい科で、研究者により種や属の捉え方に差があり、150属1500種から236属3400種と幅がある[1]。
新エングラー体系は、ヤシ科が単子葉植物の中で最初に分岐したという説から、ヤシ科が(単独で)属する目を Principes (直訳すると「第一」)と名づけた。
しかしAPGでは、ヤシ目より先にショウブ目、オモダカ目、キジカクシ目、ヤマノイモ目、ユリ目、タコノキ目が分岐しており、ヤシ目は進化した単子葉類であるツユクサ類に含まれる。
分類
亜科・連[5]
ヤシ科は5亜科に分かれ、それぞれがいくつかの連に分かれる。連によっては数十の属が属する。
- アレカヤシ亜科 Arecoideae
- アレカ連 Areceae - ユスラヤシ Archontophoenix alexandrae、ババス Attalea speciosa、ノヤシ Clinostigma savoryanum、アレカヤシ Dypsis lutescens、ヤエヤマヤシ Satakentia liukiuensis など
- ココヤシ連 Cocoeae - ココヤシ Cocos nucifera、アブラヤシ Elaeis、チョンタドゥーロ Bactris gasipaes など
- Euterpeae - アサイー Euterpe oleracea など
- Geonomeae
- Hyophorbeae - チャメドレア属 Chamaedorea など
- Iriarteeae - Socratea exorrhiza など
- Leopoldinieae - Leopoldinia pulchra のみ
- Manicarieae - Manicaria saccifera のみ
- Oranieae - Orania のみ
- Pelagodoxeae
- Podococceae - Podococcus barteri のみ
- Reinhardtieae - Reinhardtia のみ
- Roystoneeae - Roystonea のみ
- Sclerospermea - Sclerosperma mannii のみ
- ケロクシロン亜科 Ceroxyloideae
- Cyclospatheae - Pseudophoenix のみ
- Ceroxyleae
- Phytelepheae - 独立亜科 Phytelephantoideae とする説もある[6]。
- コウリバヤシ亜科 Coryphoideae
- パルミラヤシ連 Borasseae - オウギヤシ Borassus flabellifer など
- Caryoteae - クロツグ Arenga engleri など
- Chuniophoeniceae
- コウリバヤシ連 Corypheae - コウリバヤシ属 Coryphaのみ、コウリバヤシ Corypha umbraculiferaなど
- Cryosophileae - イタヤItaya amicorum など
- Livistoneae - ビロウ Livistona chinensis、カンノンチク Rhapis excelsa、シュロ Trachycarpus fortunei、ワシントンヤシ Washingtonia filifera など
- ナツメヤシ連 Phoeniceae - ナツメヤシ属 Phoenix のみ、ナツメヤシ Phoenix dactylifera、カナリーヤシ Phoenix canariensis、シンノウヤシ Phoenix roebeleniiなど
- サバル連 Sabaleae - サバル属 Sabal のみ
- Trachycarpeae - ノコギリパルメット Serenoa repens など
- トウ亜科 Calamoideae
- トウ連 Calameae - サゴヤシ Metroxylon sagu、サラク Salacca zalacca、ラフィアヤシ属Raphiaなど
- Eugeissoneae - Eugeissona のみ
- Lepidocaryeae
- ニッパヤシ亜科 Nypoideae - ニッパヤシ Nypa fruticans のみ
主な種
日本産
日本国内には以下のような種を産する。
- カンノンチク属 Rhapis
- クロツグ属 Arenga
- シュロ属 Trachycarpus
- シュロ T. fortunei(逸出・縄などの材料)
- ニッパヤシ属 Nypha(一属一種)
- ニッパヤシ N. fruticans(八重山以南・マングローブに)
- ビロウ属 Livistona
- ビロウ・オガサワラビロウ L. chinensis
- マガクチヤシ属 Clinostigma
- ノヤシ C. savoryanum(小笠原)
- ヤエヤマヤシ属 Satakentia
- ヤエヤマヤシ S. liukiuensis(八重山特産)
外国産
- アッタレア属 Attalea
- ババス A. speciosa
- アブラヤシ属 Elaeis(一属二種)
- イタヤ Itaya
- イタヤ I. amicorum
- エウテルペ属 Euterpe
- アサイー E. oleracea
- カンノンチク属 Rhapis
- クロツグ属 Arenga
- コウリバヤシ属 Corypha
- コウリバヤシ C. umbraculifera
- ココヤシ属 Cocos(一属一種)
- ココヤシ C. nucifera
- サバル属 Sabal
- サラカヤシ属 Salacca
- サラク S. zalacca
- シュロ属 Trachycarpus
- タケヤシ属 Dypsis
- アレカヤシ D. lutescens
- チャメドレア属 Chamaedorea
- テーブルヤシ属 Chamaedorea
- テーブルヤシ C. elegans
- トウ属 Calamus
- ナツメヤシ属 (フェニックス)Phoenix - 熱帯・亜熱帯のアフリカ・アジアに約17種が分布。自然交雑しやすく、変異がたくさんある。フェニックスの名の由来は諸説あるが、一説にはナツメヤシに対する古代ギリシア名とされる[7]。
- ノコギリパルメット属 Serenoa(一属一種)
- ノコギリパルメット S. repens
- バクトリス属 Bactris
- チョンタドゥーロ B. gasipaes
- パルミラヤシ属 Borassus
- オウギヤシ B. flabellifer
- ビンロウ属 Areca
- ビンロウ A. catechu
- メトロキシロン属 Metroxylon
- サゴヤシ M. sagu
- ユスラヤシ属 Archontophoenix
- ユスラヤシ A. alexandrae
- ラフィアヤシ属 Rhaphia
- ロウヤシ属 Copernicia
- ブラジルロウヤシ C. prunifera
- ワシントンヤシ属 Washingtonia
- ワシントンヤシ W. filifera
- ワシントンヤシモドキ W. robusta
他にも、有名なものが多々ある。
脚注
参考文献
- 土橋豊『観葉植物1000』八坂書房、1992年9月10日。ISBN 4-89694-611-1。