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「新幹線955形電車」の版間の差分

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そこで300系試作車が落成したばかりである1990年(平成2年)に、より良い鉄道サービスを提供するうえで間断のない技術開発が必要であるとの考えから、レール・車輪方式による理想的な高速鉄道の開発を行うために製作されたのが本形式である<ref name="RM138_46" />。
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営業運転に供することは当初から考えられていない、純然たる試験車として設計され、曲線や勾配で高速試験走行に向いていない東海道新幹線区間で高速走行試験を行うことから、加速力を増加させている<ref name="RM138_46" />。
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== 構造 ==
== 構造 ==
車体は[[アルミニウム合金]]製の[[ボディーマウント構造]]を採用しているが、次世代の車両製造時のデータ収集のため車両ごとに製造方法を変えて製作された。また、先頭車形状が[[東京駅|東京]]寄りと[[博多駅|博多]]寄りで異なり、それぞれラウンドウエッジ型、カスプ型と呼ばれ、比較のため入れ替えることができるようになっていた。
車体は[[アルミニウム合金]]製の[[ボディーマウント構造]]を採用しているが、次世代の車両製造時のデータ収集のため車両ごとに製造方法を変えて製作された。また、先頭車形状が[[東京駅|東京]]と[[博多駅|博多]]で異なり、それぞれラウンドウエッジ型、カスプ型と呼ばれ、比較のため入れ替えることができるようになっていた。


力行主回路は[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]で、[[半導体素子|素子]]は[[ゲートターンオフサイリスタ|GTOサイリスタ]]を採用し連続定格出力405kWの[[かご形三相誘導電動機|主電動機]]を駆動する。主[[変圧器]]は軽量化のためアルミニウム製のコイルを使用。6両編成で全車両[[動力車|電動車]]である。
力行主回路は[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]で、[[半導体素子|素子]]は[[ゲートターンオフサイリスタ|GTOサイリスタ]]を採用し連続定格出力405kWの[[かご形三相誘導電動機|主電動機]]を駆動する。主[[変圧器]]は軽量化のためアルミニウム製のコイルを使用。6両編成で全車両[[動力車|電動車]]である。
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== 仕様 ==
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; 955-1
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: 1号車。博多の[[制御車|制御]]電動車。空気抵抗を減少させるため、風洞実験とCFDによって先頭形状はカスプ型とされた<ref name="Mitsubishi TEC955">{{PDFlink|[http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/324/324293.pdf 300X試験車両]}} 三菱重工技報 第32巻第4号([[1995年]])、[[三菱重工業]]</ref>。車体は[[航空機]]の技術をベースとし、[[ジュラルミン]]を[[リベット]]結合で製作した<ref name="Mitsubishi TEC955" />。製造は[[三菱重工業]][[名古屋航空宇宙システム製作所]]が担当した<ref name="Mitsubishi TEC955" />。
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: 2号車。中間電動車でパンタグラフを搭載。車体はアルミ中空大型押出形材を使用(後に700系に採用)。[[ダブルスキン構造]]。4号車955-4とともに[[日本車輌製造]]が製造を担当。
: 2号車。中間電動車でパンタグラフを搭載。車体はアルミ中空大型押出形材を使用(後に700系に採用)。[[ダブルスキン構造]]。4号車955-4とともに[[日本車輌製造]]が製造を担当。
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: 5号車。中間電動車でパンタグラフを搭載。車体はアルミ[[ハニカム構造|ハニカムパネル]]を使用(=[[新幹線500系電車|500系]]と同じ)。955-6とともに[[日立製作所]]が製造。
: 5号車。中間電動車でパンタグラフを搭載。車体はアルミ[[ハニカム構造|ハニカムパネル]]を使用(=[[新幹線500系電車|500系]]と同じ)。955-6とともに[[日立製作所]]が製造。
; 955-6
; 955-6
: 6号車。東京寄りの制御電動車。先頭形状はラウンドウェッジ型。車体はろう付けアルミハニカムパネルを使用。
: 6号車。東京の制御電動車。先頭形状はラウンドウェッジ型。車体はろう付けアルミハニカムパネルを使用。


== 運用実績 ==
== 運用実績 ==
[[1996年]]([[平成]]8年)[[7月26日]]未明、[[東海道新幹線]][[米原駅]] - [[京都駅]]間で日本国内最速記録([[超電導リニア]]を除く)443.0km/hを記録している<ref>{{Cite news |title=JR7社14年のあゆみ |newspaper=[[交通新聞]] |publisher=交通新聞社 |date=2001-04-02 |page=9 }}</ref>(速度試験当時東京寄り955-6形ラウンドウェッジ型が進行した)。その後廃車予定だったが、700系や[[新幹線N700系電車|N700系]]関連の技術開発、[[自動列車制御装置#ATC-NS|デジタルATC]]の試験などに使用され[[2002年]](平成14年)1月に運用を終了し、同年[[2月1日]]付で[[廃車 (鉄道)|廃車]]となった。
[[1996年]]([[平成]]8年)[[7月26日]]未明、[[東海道新幹線]][[米原駅]] - [[京都駅]]間で日本国内最速記録([[超電導リニア]]を除く)443.0km/hを記録している<ref>{{Cite news |title=JR7社14年のあゆみ |newspaper=[[交通新聞]] |publisher=交通新聞社 |date=2001-04-02 |page=9 }}</ref>(速度試験当時東京955-6形ラウンドウェッジ型が進行した)。その後廃車予定だったが、700系や[[新幹線N700系電車|N700系]]関連の技術開発、[[自動列車制御装置#ATC-NS|デジタルATC]]の試験などに使用され[[2002年]](平成14年)1月に運用を終了し、同年[[2月1日]]付で[[廃車 (鉄道)|廃車]]となった。


スラブ軌道の走行試験を行うため、[[山陽新幹線]]に乗り入れたことがある。また[[分岐器]]通過時の評価試験を主目的として、[[新横浜駅|新横浜]][[東京駅|東京]]間の往復運行や、営業時間中に[[静岡駅]]で折り返す特殊な運用を実施したこともあった。
スラブ軌道の走行試験を行うため、[[山陽新幹線]]に乗り入れたことがある。また[[分岐器]]通過時の評価試験を主目的として、[[新横浜駅|新横浜]] - [[東京駅|東京]]間の往復運行や、営業時間中に[[静岡駅]]で折り返す特殊な運用を実施したこともあった。


== 保存状況 ==
== 保存状況 ==

2017年11月29日 (水) 13:25時点における版

新幹線955形電車
300X
日中走行試験中の955形 (300X)
(1999年7月14日 米原駅
基本情報
製造所 三菱重工業日本車輌製造川崎重工業日立製作所
主要諸元
編成 6両(全電動車
軌間 1,435mm
電気方式 交流25,000V 60Hz
全長 25,000mm
全幅 3,100mm
全高 3,300mm
主電動機 かご形三相誘導電動機
制御装置 GTO-VVVFインバータ制御
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955-6形 ラウンドウェッジ型先頭車の側面エンブレム(2006年7月23日)
955-6形 ラウンドウェッジ型先頭車の速度記録エンブレム(2006年7月23日)

新幹線955形電車(しんかんせん955がたでんしゃ)とは、東海旅客鉄道(JR東海)が300系に続く次世代の新幹線関連の技術を実験するために1995年平成7年)に製作した高速試験用電車である。通称は、300X編成記号A

背景

国鉄分割民営化から間もない1992年(平成4年)3月に東海道新幹線で最高速度を270km/hに向上させた300系が「のぞみ」として営業運転を開始し、翌年には営業区間を山陽新幹線博多駅まで延伸させた。この300系の開発の源流は国鉄時代から行われていたボルスタレス台車やVVVFインバータ制御の開発にまでさかのぼることができ、新しい車両の開発には膨大な時間が必要となる[1]

そこで300系試作車が落成したばかりである1990年(平成2年)に、より良い鉄道サービスを提供する上で間断のない技術開発が必要であるとの考えから、レール・車輪方式による理想的な高速鉄道の開発を行うために製作されたのが本形式である[1]

営業運転に供することは当初から考えられていない、純然たる試験車として設計され、曲線や勾配で高速試験走行に向いていない東海道新幹線区間で高速走行試験を行うことから、加速力を増加させている[1]

構造

車体はアルミニウム合金製のボディーマウント構造を採用しているが、次世代の車両製造時のデータ収集のため車両ごとに製造方法を変えて製作された。また、先頭車形状が東京方と博多方で異なり、それぞれラウンドウエッジ型、カスプ型と呼ばれ、比較のため入れ替えることができるようになっていた。

力行主回路はVVVFインバータ制御で、素子GTOサイリスタを採用し連続定格出力405kWの主電動機を駆動する。主変圧器は軽量化のためアルミニウム製のコイルを使用。6両編成で全車両電動車である。

台車セミアクティブサスペンション付きのボルスタレス台車を採用する。3・6号車の台車には鉄道総合技術研究所(鉄道総研)によって開発された油圧シリンダ式の車体傾斜装置(最大傾斜:3度)を搭載する[2]。なお、台車支持位置が高い(空気バネ支持高さ:レール面上1,700mm)ため車内床の一部が盛り上がっていた[1]軸距は300系比500mm延長である3,000mmとした[1]。これは、鉄道総研による台上試験の結果、蛇行動限界速度が大幅に拡大されたことを確認できたためである[1]

なお、パンタグラフから発生する騒音を低減するため、ワイングラス型の大型のパンタグラフカバーが装着されていた。このタイプのパンタグラフカバーは、700系9000番台で、「300X」で試作されたタイプから脚部を省いたタイプのカバーを採用したが、カバーが逆に騒音源となっていたことが試験の過程で判明し、量産車では不採用となった。955形の試験走行の過程ではシングルアームパンタグラフなども試され、その他様々な形状のカバーが試されている。

仕様

955-1
1号車。博多方の制御電動車。空気抵抗を減少させるため、風洞実験とCFDによって先頭形状はカスプ型とされた[3]。車体は航空機の技術をベースとし、ジュラルミンリベット結合で製作した[3]。製造は三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所が担当した[3]
955-2
2号車。中間電動車でパンタグラフを搭載。車体はアルミ中空大型押出形材を使用(後に700系に採用)。ダブルスキン構造。4号車955-4とともに日本車輌製造が製造を担当。
955-3
3号車。中間電動車。車体はアルミ大型押出形材をスポット溶接で製作(=300系と同じ)。シングルスキン構造。製造担当は川崎重工業
955-4
4号車。中間電動車。車体はアルミ中空大型押出形材を使用。ダブルスキン構造。
955-5
5号車。中間電動車でパンタグラフを搭載。車体はアルミハニカムパネルを使用(=500系と同じ)。955-6とともに日立製作所が製造。
955-6
6号車。東京方の制御電動車。先頭形状はラウンドウェッジ型。車体はろう付けアルミハニカムパネルを使用。

運用実績

1996年平成8年)7月26日未明、東海道新幹線米原駅 - 京都駅間で日本国内最速記録(超電導リニアを除く)443.0km/hを記録している[4](速度試験当時東京方955-6形ラウンドウェッジ型が進行した)。その後廃車予定だったが、700系やN700系関連の技術開発、デジタルATCの試験などに使用され2002年(平成14年)1月に運用を終了し、同年2月1日付で廃車となった。

スラブ軌道の走行試験を行うため、山陽新幹線に乗り入れたことがある。また分岐器通過時の評価試験を主目的として、新横浜 - 東京間の往復運行や、営業時間中に静岡駅で折り返す特殊な運用を実施したこともあった。

保存状況

中間車はすべて解体され現存しないが、先頭車2両が以下で静態保存されている。

脚注

  1. ^ a b c d e f 『レイルマガジン』通巻138号、p.46
  2. ^ 『レイルマガジン』通巻138号、p.47
  3. ^ a b c 300X試験車両 (PDF) 三菱重工技報 第32巻第4号(1995年)、三菱重工業
  4. ^ “JR7社14年のあゆみ”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 9. (2001年4月2日) 

参考文献

専門記事