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「クローニッヒ・ペニーのモデル」の版間の差分

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{{出典の明記|date=2015年9月}}
{{出典の明記|date=2015年9月}}
[[File:Periodic square potential 130707.png|thumb|400px|alt=its a graph]]
'''クローニッヒ・ペニーのモデル'''({{Lang-en-short|Kronig-Penney model}})は[[結晶]]内での[[電子]]の挙動を[[近似]]的に記述する[[量子力学]]的なモデルの1つである。周期的な[[井戸型ポテンシャル]]型の一次元のモデルであり、狭義には周期的に[[ディラックのデルタ関数|デルタ関数]]型のポテンシャルを持つモデルを指すこともある。1931年に[[ラルフ・クローニッヒ]]とウィリアム・ペニーによって提出された。[[バンド理論]]の基本的な枠組みをこのモデルで説明することができる。
'''クローニッヒ・ペニーのモデル'''({{Lang-en-short|Kronig-Penney model}})は[[結晶]]内での[[電子]]の挙動を[[近似]]的に記述する[[量子力学]]的なモデルの1つである。周期的な[[井戸型ポテンシャル]]型の一次元のモデルであり、狭義には周期的に[[ディラックのデルタ関数|デルタ関数]]型のポテンシャルを持つモデルを指すこともある。1931年に[[ラルフ・クローニッヒ]]とウィリアム・ペニーによって提出された。[[バンド理論]]の基本的な枠組みをこのモデルで説明することができる。


== クローニッヒ・ペニー・ポテンシャル ==
== クローニッヒ・ペニー・ポテンシャル ==
[[File:Periodic square potential 130707.png|thumb|400px|alt=its a graph]]
クローニッヒ・ペニーのモデルの[[ポテンシャル]] {{Mvar|V}} は {{Mvar|n}} を任意の[[整数]]として以下のように表される。
クローニッヒ・ペニーのモデルの[[ポテンシャル]] {{Mvar|V}} は {{Mvar|n}} を任意の[[整数]]として以下のように表される。
:<math>
:<math>
V(x) =
V(x) =
\begin{cases}
\begin{cases}
0 \quad ( n(a+b) \le x < n(a+b)+a ) \\
0 \quad ( na \le x < (n+1)a-b ) \\
U_0 \quad ( n(a+b)+a \le x < (n+1)(a+b) )
V_0 \quad ( (n+1)a-b \le x < (n+1)a )
\end{cases}
\end{cases}
</math>
</math>
このポテンシャルは[[周期]] {{Math|''a''+''b''}} を持っている。
このポテンシャルは[[周期]] {{Math|''a''}} を持っている。


特に重要なのは {{Math|''b''→0}} かつ {{Math|''U''<sub>0</sub>→∞}} の極限を取ったモデルでこれはディラックのデルタ関数を用いて以下のよう表される。
特に重要なのは {{Math|''b''→0}} かつ {{Math|''U''<sub>0</sub>→∞}} の極限を取ったモデルでこれはディラックのデルタ関数を用いて以下のような[[くし型関数]](comb関数)で表される。
:<math>
:<math>
V(x) = \sum_{n} \delta(x-na)
V(x) = \sum_{n} \delta(x-na)
</math>
</math>
これは間隔 {{Mvar|a}} で一次元に配列している原子によるポテンシャルを荒く近似したものと考えることができる。
これは間隔 {{Mvar|a}} で一次元に配列している原子によるポテンシャルを荒く近似したものと考えることができる。

== ブロッホの定理・周期的境界条件 ==
ポテンシャルが周期的な場合、[[ブロッホの定理]]<ref>F. Bloch, Z. Physik 52 (1928) 555</ref>よりシュレーディンガー方程式の固有関数は次を満たさなければならない。
:<math> \psi (x) = e^{ikx} u(x)</math>
ここで{{math|''u''(''x'')}}は、{{math|''u''(''x'' + ''a'') {{=}} ''u''(''x'')}}を満たす[[周期関数]]である。数学において<math> k</math>はフロケ指数と呼ばれる。

格子の両端付近では、境界条件が問題となる。ここで[[ボルン=フォン・カルマン境界条件]]を課す。
:<math> \psi (0)=\psi (L)</math>
ただし格子の長さ{{mvar|L}}は{{math|''L'' ≫ ''a''}}であるとする。格子中のイオン(つまりポテンシャル井戸)の数を{{mvar|N}}とすると、{{math|''aN'' {{=}} ''L''}}である。

ブロッホの定理を適用すると、{{mvar|k}}が量子化される。
:<math> \psi (0) = e^{ik \cdot 0} u(0) = e^{ikL} u(L) = \psi (L)</math>
:<math> \Rightarrow u(0) = e^{ikL} u(L)=e^{ikL} u(N a) </math>
:<math> \Rightarrow e^{ikL} = 1</math>
:<math> \Rightarrow kL = 2\pi n </math>
:<math> \Rightarrow k = {2\pi \over L} n \qquad \left( n=0, \pm 1, \cdots, \pm {N \over 2} \right)</math>


== シュレーディンガー方程式の解 ==
== シュレーディンガー方程式の解 ==
ブロッホの定理を用いると、1周期での解だけを見つければ良いことになる。
ポテンシャルの1周期の中には2つの領域があり、それぞれを独立に解く。

本来シュレーディンガー方程式はエネルギーについての[[固有値方程式]]であるが、ここでは一先ずエネルギー固有値Eは求めるものではないと見なす。
するとシュレーディンガー方程式は微分方程式となる。
そして微分方程式の解を固有値問題に代入してEを求め、解としての妥当性を検証する。

まず''E''が井戸の高さより高い(E>0)として、2つの領域の解を求める。

<math> 0 < x <a-b</math>でのシュレーディンガー方程式は、
:<math>{-\hbar^2 \over 2m} \psi_{xx} = E \psi</math>
この微分方程式の解は、ある{{Math|''α''}}を用いて次のように表される。
:<math> \psi = A e^{i \alpha x} + A' e^{-i \alpha x}</math>
:<math> \quad = e^{ikx} \cdot \left( A e^{i (\alpha-k) x} + A' e^{-i (\alpha+k) x} \right) \,\! </math>
ブロッホの定理より、
:<math> u(x)=A e^{i (\alpha-k) x} + A' e^{-i (\alpha+k) x} \,\! </math>
固有値方程式に代入することで、エネルギーは{{Math|''α''}}を用いて次のように求められる。
:<math> \alpha^2 \equiv {2mE \over \hbar^2} </math>

同様に、<math> -b <x < 0 </math> でのシュレーディンガー方程式は、
:<math>{-\hbar^2 \over 2m} \psi_{xx} = (E+V_0)\psi</math>
この微分方程式の解は、ある{{Math|''β''}}を用いて次のように表される。
:<math>\psi = B e^{i \beta x} + B' e^{-i \beta x} \quad \left( \beta^2 \equiv {2m(E+V_0) \over \hbar^2} \right).</math>
ブロッホの定理より、
:<math>u(x)=B e^{i (\beta-k) x} + B' e^{-i (\beta+k) x}</math>

== 解の存在条件 ==
以下、{{Math|''α''}}と{{Math|''β''}}(または{{Math|''E''}})と{{Math|''k''}}が満たすべき条件について考える。

クローニッヒ・ペニーのモデルの[[シュレーディンガー方程式]]の解の存在条件は、以下の2つの条件から導出される[[永年方程式]]を解くことで導出される。
クローニッヒ・ペニーのモデルの[[シュレーディンガー方程式]]の解の存在条件は、以下の2つの条件から導出される[[永年方程式]]を解くことで導出される。
* 周期的ポテンシャルに対する波動関数が[[ブロッホの定理]]を満たさなければならない。
* [[波動関数]] {{Mvar|ψ}} とその一次微分が {{Math|1=''x'' = 0}} および {{Math|1=''x'' = ''a''}} で連続でなくてはならない(接続条件)。
* [[波動関数]] {{Mvar|ψ}} とその一次微分が {{Math|1=''x'' = 0}} および {{Math|1=''x'' = ''a''}} で連続でなくてはならない(接続条件)。
::<math> \psi(0^{-})=\psi(0^{+}) \qquad \psi'(0^{-})=\psi'(0^{+})</math>
{{Math|''b''→0}} かつ {{Math|''U''<sub>0</sub>→∞}} の極限を取ったモデルにおいて、[[エネルギー]][[固有値]] {{Mvar|E}} をブロッホ関数 {{Math|1=''ψ''<sub>''k''</sub>(''x'') = ''u''(''x'')exp(''ikx'')}} で状態を指定する[[波数]] {{Mvar|k}} の関数と見ると、{{Math|1=''k'' = ''nπ''/''a''}} ({{Mvar|n}} は整数)以外の点では連続であり、{{Mvar|k}} の絶対値の増加につれて {{Mvar|E}} も増加する関数となる。重要な特徴としては {{Math|1=''k'' = ''nπ''/''a''}} においてエネルギー値が不連続に変化し、シュレーディンガー方程式の解が存在しない {{Mvar|E}} が現れることである。すなわち、以下の2つの区間が存在することになる。
* 周期的ポテンシャルに対する波動関数が[[ブロッホの定理]]を満たさなければならない。
::<math> u(-b)=u(a-b) \qquad u'(-b)=u'(a-b)</math>
これらの条件により、次の行列が得られる。
:<math> \begin{pmatrix} 1 & 1 & -1 & -1 \\ \alpha & -\alpha & -\beta & \beta \\ e^{i(\alpha-k)(a-b)} & e^{-i(\alpha+k)(a-b)} & -e^{-i(\beta-k)b} & -e^{i(\beta+k)b} \\ (\alpha-k)e^{i(\alpha-k)(a-b)} & -(\alpha+k)e^{-i(\alpha+k)(a-b)} & -(\beta-k)e^{-i(\beta-k)b} & (\beta+k)e^{i(\beta+k)b} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} A \\ A' \\ B \\ B' \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix}.</math>
自明でない解を得るためには、この行列の行列式は0でなければならない。よって{{Math|''α''}}と{{Math|''β''}}(つまり{{Math|''E''}})と{{Math|''k''}}は次式を満たさなければならない。
:<math> \cos(k a) = \cos(\beta b) \cos[\alpha(a-b)]-{\alpha^2+\beta^2 \over 2\alpha \beta} \sin(\beta b) \sin[\alpha(a-b)]</math>
ここで簡単のため次の近似を行い、ポテンシャルをデルタ関数型にして考える。
:<math> b \to 0, \quad V_0 \to \infty, \quad V_0 b = \mathrm{constant}</math>
:<math> \Rightarrow \beta^2 b = \mathrm{constant}, \quad \alpha^2 b \to 0</math>
:<math> \Rightarrow \beta b \to 0,; \quad \sin(\beta b) \to \beta b, \quad \cos(\beta b) \to 1</math>
すると、{{Math|''α''}}(つまり{{Math|''E''}})と{{Math|''k''}}は次式を満たさなければならない。
:<math> \cos(k a) = \cos(\alpha a)-P \frac{\sin(\alpha a)}{\alpha a} \qquad \left( P\equiv \frac{m V_0 ba}{\hbar^2}\right)</math>

次に''E''が井戸の高さより低い場合(E>0)を考える。この場合、{{Math|''α''}}と{{Math|''β''}}と{{Math|''k''}}は次式を満たさなければならない。
:<math> \cos(k a) = \cos(\beta b) \cosh[\alpha(a-b)]+{\beta^2-\alpha^2 \over 2\alpha \beta} \sin(\beta b) \sinh[\alpha(a-b)]\quad\left(\alpha^2 \equiv {2 m |E| \over \hbar^2},\quad\beta^2 \equiv {2 m (V_0-|E|) \over \hbar^2}\right)</math>

先ほどと同じ近似(<math> b \to 0, \quad V_0 \to \infty, \quad V_0 b = \mathrm{constant}</math>)により、{{Math|''α''}}と{{Math|''k''}}は次式を満たさなければならない。
:<math> \cos(k a) = \cos(\alpha a) + P \frac{\sin(\alpha a)}{\alpha a}</math>

==バンドギャップ==
[[File:Penney-Kronig Allowed Energy.svg|thumb|P = 1.5をもつ、分散関係におけるcos(k a)に等しい式の値。黒線は k が計算できる<math>\alpha a</math>の領域。]]
[[File:Penney-Kronig Dispersion.svg|thumb|P = 1.5をもつクローニッヒペニー模型の分散関係。]]
これまでの議論により、エネルギー固有値{{Math|''E''}}とブロッホ関数 {{Math|1=''ψ''<sub>''k''</sub>(''x'') = ''u''(''x'')exp(''ikx'')}} で状態を指定する[[波数]]([[結晶波数]]){{Math|''k''}}が満たさなければならない条件が得られた。
ある{{Math|''E''}}の値を選べば{{Math|''α''}}と{{Math|''β''}}が求まり、{{Math|cos(ka)}}を計算することができる。そして両辺の<math>\arccos</math>をとることで{{Math|''k''}}を計算でき、{{Math|''E''}}と{{Math|''k''}}の関係([[分散関係]])が得られる。

ただし電子が束縛されている場合({{Math|''E'' < 0}})、{{Math|cos(ka)}}が1以上または-1以下になる{{Math|''E''}}が存在し、その時この方程式を満たす{{Math|''k''}}は存在しない。
逆に、{{Math|1=''k'' = ''nπ''/''a''}} においてエネルギー値が不連続に変化し、シュレーディンガー方程式の解が存在しない {{Mvar|E}} が現れる。
このことは、ポテンシャルが周期的になったことである特別な波数(結晶波数){{Math|''k''}}ではシュレーディンガー方程式の固有関数が存在しない{{Math|''E''}}が存在することを意味している。

すなわち、以下の2つの区間が存在することになる。
* {{Mvar|E}} について解が存在する = その {{Mvar|E}} の値をとることが許容された区間。これを[[エネルギーバンド]]と呼ぶ。
* {{Mvar|E}} について解が存在する = その {{Mvar|E}} の値をとることが許容された区間。これを[[エネルギーバンド]]と呼ぶ。
* {{Mvar|E}} について解が存在しない = その {{Mvar|E}} の値をとることが禁止された区間。これを[[バンドギャップ]]と呼ぶ。
* {{Mvar|E}} について解が存在しない = その {{Mvar|E}} の値をとることが禁止された区間。これを[[バンドギャップ]]と呼ぶ。
また {{Mvar|k}} に対して {{Mvar|E}} が連続な一つの区間は[[ブリュアン領域]]に当たる。
また {{Mvar|k}} に対して {{Mvar|E}} が連続な一つの区間は[[ブリュアン領域]]に当たる。

クローニッヒ・ペニーモデルは、バンドギャップを示す最も単純な周期的ポテンシャルの1つである。

{{Math|''b''→0}} かつ {{Math|''U''<sub>0</sub>→∞}} の極限を取ったモデルにおける分散関係は、{{Math|1=''k'' = ''nπ''/''a''}} ({{Mvar|n}} は整数)以外の点では連続であり、{{Mvar|k}} の絶対値の増加につれて {{Mvar|E}} も増加する関数となる。


== バンドギャップの生じる理由 ==
== バンドギャップの生じる理由 ==
47行目: 125行目:
:<math>\psi_k(x) = c_0 e^{ikx} + c_0 e^{-ikx}</math>
:<math>\psi_k(x) = c_0 e^{ikx} + c_0 e^{-ikx}</math>
がある。差の形式の解においては波動関数はポテンシャルが値を持つ {{Math|1=''x'' = ''na''}} の位置で {{Math|0}} となりポテンシャルの影響を受けず、自由電子モデルの場合と同じエネルギー固有値を持つ。一方、和の形式の解においては、{{Math|1=''x'' = ''na''}} の位置で波動関数は値を持つのでポテンシャルの影響を受けた分だけ高いエネルギー固有値を持つ。これにより {{Math|1=''k'' = ''nπ''/''a''}} においてエネルギーが不連続にジャンプすることになり、バンドギャップが生じることになる。
がある。差の形式の解においては波動関数はポテンシャルが値を持つ {{Math|1=''x'' = ''na''}} の位置で {{Math|0}} となりポテンシャルの影響を受けず、自由電子モデルの場合と同じエネルギー固有値を持つ。一方、和の形式の解においては、{{Math|1=''x'' = ''na''}} の位置で波動関数は値を持つのでポテンシャルの影響を受けた分だけ高いエネルギー固有値を持つ。これにより {{Math|1=''k'' = ''nπ''/''a''}} においてエネルギーが不連続にジャンプすることになり、バンドギャップが生じることになる。
==問題の定義==
固体材料では、結晶(周期的な格子)を主に議論する。
ここで陽イオンの1次元格子を議論する。
2つのイオン間隔が{{mvar|a}}であると仮定し、格子中のポテンシャルは次のようなものであったとする。
<center>[[Image:Potential-actual.PNG]]</center>
数学的にはポテンシャルは周期{{mvar|a}}をもつ周期関数である。
ポテンシャルが周期的な場合、[[ブロッホの定理]]<ref>F. Bloch, Z. Physik 52 (1928) 555</ref>よりシュレーディンガー方程式の固有関数は次のように書ける。
:<math> \psi (x) = e^{ikx} u(x),</math>
ここで{{math|''u''(''x'')}}は、{{math|''u''(''x'' + ''a'') {{=}} ''u''(''x'')}}を満たす[[周期関数]]である。
数学において<math> k</math>はフロケ指数と呼ばれる。

格子の両端付近では、境界条件が問題となる。
よってイオン結晶を[[ボルン=フォン・カルマン境界条件]]に従うリングとして表す。
格子の長さ{{mvar|L}}が{{math|''L'' ≫ ''a''}}を満たすとする。
:<math> \psi (0)=\psi (L).</math>
格子中のイオンの数を{{mvar|N}}とすると、{{math|''aN'' {{=}} ''L''}}である。
これを境界条件に代入し、ブロッホの定理を適用すると、{{mvar|k}}が量子化される。

:<math> \psi (0) = e^{ik \cdot 0} u(0) = e^{ikL} u(L) = \psi (L)</math>
:<math> u(0) = e^{ikL} u(L)=e^{ikL} u(N a) \to e^{ikL} = 1</math>
:<math> \Rightarrow kL = 2\pi n \to k = {2\pi \over L} n \qquad \left( n=0, \pm 1, \cdots, \pm {N \over 2} \right).</math>

== クローニッヒ・ペニー模型 ==
クローニッヒ・ペニー模型([[ラルフ・クローニッヒ]]、[[ウィリアム・ペニー]]に由来)は周期的に配列した無限個の[[長方形ポテンシャル障壁]]からなる。
[[File:Periodic square potential 130707.png|centre|600px|left|alt=its a graph|here is the caption]]

ブロッホの定理を用いると、1周期での解だけを見つければよく、解は連続でなめらかで、関数{{math|''u''(''x'')}}も連続でなめらかである。

ポテンシャルの1周期を考える。
ここで2つの領域があり、それぞれを独立に解く。

まず''E''が井戸以上のエネルギー値である場合(E>0)を考える。

<math> 0 < x <(a-b)</math>では、
:<math>{-\hbar^2 \over 2m} \psi_{xx} = E \psi</math>
:<math>\Rightarrow \psi = A e^{i \alpha x} + A' e^{-i \alpha x} \quad \left( \alpha^2 = {2mE \over \hbar^2} \right)</math>
:<math> = A e^{i \alpha x} + A' e^{-i \alpha x} = e^{ikx} \cdot \left( A e^{i (\alpha-k) x} + A' e^{-i (\alpha+k) x} \right) \,\! </math>
:<math> \Rightarrow u(0<x<a-b)=A e^{i (\alpha-k) x} + A' e^{-i (\alpha+k) x}. \,\! </math>

<math> -b <x < 0 </math> では、
:<math>{-\hbar^2 \over 2m} \psi_{xx} = (E+V_0)\psi</math>
:<math>\Rightarrow \psi = B e^{i \beta x} + B' e^{-i \beta x} \quad \left( \beta^2 = {2m(E+V_0) \over \hbar^2} \right).</math>
:<math>\Rightarrow u(-b<x<0)=B e^{i (\beta-k) x} + B' e^{-i (\beta+k) x}.</math>

解を完全に求めるために、2つの領域の境界で波動関数が連続でなめらかであることを確認する必要がある。つまり、
:<math> \psi(0^{-})=\psi(0^{+}) \qquad \psi'(0^{-})=\psi'(0^{+}).</math>
また、{{math|''u''(''x'')}}と{{math|''u′''(''x'')}}は周期的である。
:<math> u(-b)=u(a-b) \qquad u'(-b)=u'(a-b).</math>
これらの条件により、次の行列が得られる。
:<math> \begin{pmatrix} 1 & 1 & -1 & -1 \\ \alpha & -\alpha & -\beta & \beta \\ e^{i(\alpha-k)(a-b)} & e^{-i(\alpha+k)(a-b)} & -e^{-i(\beta-k)b} & -e^{i(\beta+k)b} \\ (\alpha-k)e^{i(\alpha-k)(a-b)} & -(\alpha+k)e^{-i(\alpha+k)(a-b)} & -(\beta-k)e^{-i(\beta-k)b} & (\beta+k)e^{i(\beta+k)b} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} A \\ A' \\ B \\ B' \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix}.</math>
自明でない解を得るためには、この行列の行列式は0でなければならない。よって、
:<math> \cos(k a) = \cos(\beta b) \cos[\alpha(a-b)]-{\alpha^2+\beta^2 \over 2\alpha \beta} \sin(\beta b) \sin[\alpha(a-b)].</math>
式をより簡単にするため、次の近似を行う。
:<math> b \to 0; \quad V_0 \to \infty; \quad V_0 b = \mathrm{constant}</math>
:<math> \Rightarrow \beta^2 b = \mathrm{constant}; \quad \alpha^2 b \to 0</math>
:<math> \Rightarrow \beta b \to 0; \quad \sin(\beta b) \to \beta b; \quad \cos(\beta b) \to 1.</math>
よって、
:<math> \cos(k a) = \cos(\alpha a)-P \frac{\sin(\alpha a)}{\alpha a}, \qquad P= \frac{m V_0 ba}{\hbar^2}.</math>
次に井戸中のエネルギー値について(E<0)を考える。この場合、次を得る。
:<math> \cos(k a) = \cos(\beta b) \cosh[\alpha(a-b)]+{\beta^2-\alpha^2 \over 2\alpha \beta} \sin(\beta b) \sinh[\alpha(a-b)],</math>
ここで<math>\alpha^2 = {2 m |E| \over \hbar^2}</math> 、<math>\beta^2 = {2 m (V_0-|E|) \over \hbar^2}</math>.

上記と同じ近似(<math> b \to 0; \quad V_0 \to \infty; \quad V_0 b = \mathrm{constant}</math>)により、次が結論付けられる。
:<math> \cos(k a) = \cos(\alpha a) + P \frac{\sin(\alpha a)}{\alpha a}</math>
前の場合(<math>P = \frac{m V_0 b a}{\hbar^2}</math>)と同じPについての公式である。

==クローニッヒ・ペニーモデルのバンドギャップ==

[[File:Penney-Kronig Allowed Energy.svg|thumb|P = 1.5をもつ、分散関係におけるcos(k a)に等しい表現の値。黒線は k が計算できる<math>\alpha a</math>の領域。]]

[[File:Penney-Kronig Dispersion.svg|thumb|P = 1.5をもつクローニッヒペニー模型の分散関係。]]
前のパラグラフでは、物理系のパラメータによって決まらない変数はエネルギーEと結晶運動量kだけである。
Eの値を選んだとき、右側を計算することができ、そして両側の<math>\arccos</math>をとることでkを計算できる。
こうして、表現は[[分散関係]]を生じさせる。

境界の場合(E < 0)、上記の最後の表現の左側は、しばしば1以上または-1以下になり得、その場合、方程式を満たすkの値は存在しない。
<math>\alpha a \propto \sqrt{E}</math>であるため、このことはシュレーディンガー方程式の固有関数が存在しないあるEの値が存在することを意味している。
これらの値は[[バンドギャップ]]を構成する。

このようにクローニッヒ・ペニーモデルは、バンドギャップを示す最も単純な周期的ポテンシャルの1つである。


==クローニッヒ・ペニーモデル: 別解==
==クローニッヒ・ペニーモデル: 別解==
ここでデルタ型の周期ポテンシャルを考える。
同様な問題への別の扱いが与えられてる。
ここで「デルタ」周期ポテンシャルを考える。
:<math>V(x) = A\cdot\sum_{n=-\infty}^{\infty}\delta(x-n\cdot a).</math>
:<math>V(x) = A\cdot\sum_{n=-\infty}^{\infty}\delta(x-n\cdot a).</math>
{{mvar|A}}はある定数で、{{mvar|a}}は格子定数(各サイト間の間隔)。
{{mvar|A}}はある定数で、{{mvar|a}}は格子定数(各サイト間の間隔)。
137行目: 134行目:
ここで
ここで
:<math>\tilde{V}(K) = \frac{1}{a}\int_{-a/2}^{a/2}dx\,V(x)\,e^{-i\cdot K\cdot x} = \frac{1}{a}\int_{-a/2}^{a/2}dx\sum_{n=-\infty}^{\infty}A\cdot \delta(x-na)\,e^{-i\,K\,x} = \frac{A}{a}</math>.
:<math>\tilde{V}(K) = \frac{1}{a}\int_{-a/2}^{a/2}dx\,V(x)\,e^{-i\cdot K\cdot x} = \frac{1}{a}\int_{-a/2}^{a/2}dx\sum_{n=-\infty}^{\infty}A\cdot \delta(x-na)\,e^{-i\,K\,x} = \frac{A}{a}</math>.
ブロッホの定理を用いると波動関数は<math>\psi_k(x) = e^{i k x} u_k(x)</math>に等しく、<math>u_k(x)</math>は格子の周期性を持つ関数である。
ブロッホの定理によると波動関数は<math>\psi_k(x) = e^{i k x} u_k(x)</math>と表せ、<math>u_k(x)</math>は格子の周期性を持つ関数である。
このことは、これもフーリエ級数として展開できる。
このことは、<math>u_k(x)</math>もフーリエ級数として展開できることを意味する。
:<math>u_k(x)=\sum_{K} \tilde{u}_k(K)e^{i K x}.</math>
:<math>u_k(x)=\sum_{K} \tilde{u}_k(K)e^{i K x}.</math>
よって波動関数は、
よって波動関数は、
152行目: 149行目:
これを<math>\tilde{u}_k(K)</math>について解くと、
これを<math>\tilde{u}_k(K)</math>について解くと、
:<math>\tilde{u}_k(K)=\frac{\frac{2m}{\hbar^2}\frac{A}{a}f(k)}{\frac{2mE_k}{\hbar^2}-(k+K)^2}=\frac{\frac{2m}{\hbar^2}\frac{A}{a}}{\frac{2mE_k}{\hbar^2}-(k+K)^2}\,f(k)</math>
:<math>\tilde{u}_k(K)=\frac{\frac{2m}{\hbar^2}\frac{A}{a}f(k)}{\frac{2mE_k}{\hbar^2}-(k+K)^2}=\frac{\frac{2m}{\hbar^2}\frac{A}{a}}{\frac{2mE_k}{\hbar^2}-(k+K)^2}\,f(k)</math>
全ての{{mvar|K}}について最後の式を足し合わせると、
全ての{{mvar|K}}についての式を足し合わせると、
:<math>\sum_{K}\tilde{u}_k(K)=\sum_{K}\frac{\frac{2m}{\hbar^2}\frac{A}{a}}{\frac{2mE_k}{\hbar^2}-(k+K)^2}\,f(k)</math>
:<math>\sum_{K}\tilde{u}_k(K)=\sum_{K}\frac{\frac{2m}{\hbar^2}\frac{A}{a}}{\frac{2mE_k}{\hbar^2}-(k+K)^2}\,f(k)</math>
または、
または、
160行目: 157行目:
または、
または、
:<math>\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A}=\sum_{K}\frac{1}{\frac{2mE_k}{\hbar^2}-(k+K)^2}</math>
:<math>\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A}=\sum_{K}\frac{1}{\frac{2mE_k}{\hbar^2}-(k+K)^2}</math>
不必要な記法解決するため、新しい変数を定義する。
ここで式簡単にするため、新しい変数を定義する。
:<math>\alpha^2:=\frac{2mE_k}{\hbar^2}</math>
:<math>\alpha^2:=\frac{2mE_k}{\hbar^2}</math>
これを用いると、
最終的に、
:<math>\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A}=\sum_{K}\frac{1}{\alpha^2-(k+K)^2}</math>
:<math>\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A}=\sum_{K}\frac{1}{\alpha^2-(k+K)^2}</math>
ここで{{mvar|K}}は逆格子ベクトルである。このことは{{mvar|K}}にわたるが実際<math>\frac{2\pi}{a}</math>の整数倍にわたる和であることを意味する。
ここで{{mvar|K}}は逆格子ベクトルである。つまり{{mvar|K}}についてのは、<math>\frac{2\pi}{a}</math>の整数倍にわたる和である。よって、
:<math>\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A}=\sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{\alpha^2-(k+\frac{2\pi n}{a})^2}</math>
:<math>\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A}=\sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{\alpha^2-(k+\frac{2\pi n}{a})^2}</math>
より示唆的にするためにの式を少し変形する([[部分分数分解]]を用いる)。
こで[[部分分数分解]]を用いて式を変形すと、
:<math>\begin{align}
:<math>\begin{align}
\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A} &= \sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{\alpha^2-(k+\frac{2\pi n}{a})^2} \\
\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A} &= \sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{\alpha^2-(k+\frac{2\pi n}{a})^2} \\
173行目: 170行目:
&=-\frac{a}{4\alpha}\left[\sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{\pi n + \frac{k a}{2}-\frac{\alpha a}{2}} - \sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{\pi n +\frac{k a}{2}+\frac{\alpha a}{2}} \right]
&=-\frac{a}{4\alpha}\left[\sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{\pi n + \frac{k a}{2}-\frac{\alpha a}{2}} - \sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{\pi n +\frac{k a}{2}+\frac{\alpha a}{2}} \right]
\end{align}</math>
\end{align}</math>
cot関数の和の良い恒等式を使えば ([http://mathworld.wolfram.com/Cotangent.html Equation 18])、つまり、
cot関数の和の良い恒等式 ([http://mathworld.wolfram.com/Cotangent.html Equation 18])
:<math>\cot(x)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{n\pi+x}</math>
:<math>\cot(x)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}\frac{1}{n\pi+x}</math>
これを代入すると、
を代入すると、
:<math>\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A}=-\frac{a}{4\alpha}\left[\cot\left(\tfrac{k a}{2}-\tfrac{\alpha a}{2}\right)-\cot\left(\tfrac{k a}{2}+\tfrac{\alpha a}{2}\right)\right]</math>
:<math>\frac{\hbar^2}{2m}\frac{a}{A}=-\frac{a}{4\alpha}\left[\cot\left(\tfrac{k a}{2}-\tfrac{\alpha a}{2}\right)-\cot\left(\tfrac{k a}{2}+\tfrac{\alpha a}{2}\right)\right]</math>
{{math|cot}}の和を用い、{{math|sin}}の積({{math|cot}}の和の公式の一部)
{{math|cot}}の和を用い、{{math|sin}}の積({{math|cot}}の和の公式の一部)
:<math>\cos(k a)=\cos(\alpha a)+\frac{m A}{\hbar^2 \alpha}\sin(\alpha a)</math>
:<math>\cos(k a)=\cos(\alpha a)+\frac{m A}{\hbar^2 \alpha}\sin(\alpha a)</math>
この式はエネルギー({{mvar|α}}を通して)と波数ベクトル{{mvar|k}}の関係を示し、見てわかるように、この式の右辺は{{math|?1}}から{{math|1}}の範囲のみであるため、{{mvar|α}}(よってエネルギー)がとれる値に制限があり、つまりエネルギーの値に範囲があり、これらの式の解が存在せず、系がそれらのエネルギーをとエネルギーギャップ
この式は{{mvar|α}}を通じたエネルギーと波数ベクトル{{mvar|k}}の関係を示す。見てわかるように、この式の右辺は{{math|-1}}から{{math|1}}の範囲のみであるため、これらの式の解が存在しない{mvar|α}}がある。つまり系がとることができないある範囲のエネルギーがある(エネルギーギャップ)。こわゆるエネルギーギャップで、デルタ型または長方形型の障壁だけでなく全ての形の周期ポテンシャルで存在する

これらはいわゆるエネルギーギャップで、全ての形の周期ポテンシャル(デルタ型または長方形障壁だけでなく)で存在することを見ることができる。
バンド間のギャップについての別の詳細な計算について、また1次元シュレーディンガー方程式の固有値の準位分裂については文献<ref>Harald J. W. Muller-Kirsten, Introduction to Quantum Mechanics: Schrodinger Equation and Path Integral, 2nd ed., World Scientific (Singapore, 2012), 325?329, 458?477.</ref> を参照。コサイン型ポテンシャル(マシュー方程式)での結果についても、文献で詳細に与えられている。


== 参考文献 ==
ギャップ公式の異なる詳細な計算について(つまりバンド間のギャップについて)、また1次元シュレーディンガー方程式の固有値の準位分裂についてはMuller-Kirstenを参照。
<references />
<ref>Harald J. W. Muller-Kirsten, Introduction to Quantum Mechanics: Schrodinger Equation and Path Integral, 2nd ed., World Scientific (Singapore, 2012), 325?329, 458?477.</ref>
コサインポテンシャル(マシュー方程式)での対応する結果についても、この参考文献で詳細に与えられている。


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2018年2月24日 (土) 04:03時点における版

クローニッヒ・ペニーのモデル(: Kronig-Penney model)は結晶内での電子の挙動を近似的に記述する量子力学的なモデルの1つである。周期的な井戸型ポテンシャル型の一次元のモデルであり、狭義には周期的にデルタ関数型のポテンシャルを持つモデルを指すこともある。1931年にラルフ・クローニッヒとウィリアム・ペニーによって提出された。バンド理論の基本的な枠組みをこのモデルで説明することができる。

クローニッヒ・ペニー・ポテンシャル

its a graph

クローニッヒ・ペニーのモデルのポテンシャル Vn を任意の整数として以下のように表される。

このポテンシャルは周期 a を持っている。

特に重要なのは b→0 かつ U0→∞ の極限を取ったモデルでこれはディラックのデルタ関数を用いて以下のようなくし型関数(comb関数)で表される。

これは間隔 a で一次元に配列している原子によるポテンシャルを荒く近似したものと考えることができる。

ブロッホの定理・周期的境界条件

ポテンシャルが周期的な場合、ブロッホの定理[1]よりシュレーディンガー方程式の固有関数は次を満たさなければならない。

ここでu(x)は、u(x + a) = u(x)を満たす周期関数である。数学においてはフロケ指数と呼ばれる。

格子の両端付近では、境界条件が問題となる。ここでボルン=フォン・カルマン境界条件を課す。

ただし格子の長さLLaであるとする。格子中のイオン(つまりポテンシャル井戸)の数をNとすると、aN = Lである。

ブロッホの定理を適用すると、kが量子化される。

シュレーディンガー方程式の解

ブロッホの定理を用いると、1周期での解だけを見つければ良いことになる。 ポテンシャルの1周期の中には2つの領域があり、それぞれを独立に解く。

本来シュレーディンガー方程式はエネルギーについての固有値方程式であるが、ここでは一先ずエネルギー固有値Eは求めるものではないと見なす。 するとシュレーディンガー方程式は微分方程式となる。 そして微分方程式の解を固有値問題に代入してEを求め、解としての妥当性を検証する。

まずEが井戸の高さより高い(E>0)として、2つの領域の解を求める。

でのシュレーディンガー方程式は、

この微分方程式の解は、あるαを用いて次のように表される。

ブロッホの定理より、

固有値方程式に代入することで、エネルギーはαを用いて次のように求められる。

同様に、 でのシュレーディンガー方程式は、

この微分方程式の解は、あるβを用いて次のように表される。

ブロッホの定理より、

解の存在条件

以下、αβ(またはE)とkが満たすべき条件について考える。

クローニッヒ・ペニーのモデルのシュレーディンガー方程式の解の存在条件は、以下の2つの条件から導出される永年方程式を解くことで導出される。

  • 波動関数 ψ とその一次微分が x = 0 および x = a で連続でなくてはならない(接続条件)。
  • 周期的ポテンシャルに対する波動関数がブロッホの定理を満たさなければならない。

これらの条件により、次の行列が得られる。

自明でない解を得るためには、この行列の行列式は0でなければならない。よってαβ(つまりE)とkは次式を満たさなければならない。

ここで簡単のため次の近似を行い、ポテンシャルをデルタ関数型にして考える。

すると、α(つまりE)とkは次式を満たさなければならない。

次にEが井戸の高さより低い場合(E>0)を考える。この場合、αβkは次式を満たさなければならない。

先ほどと同じ近似()により、αkは次式を満たさなければならない。

バンドギャップ

P = 1.5をもつ、分散関係におけるcos(k a)に等しい式の値。黒線は k が計算できるの領域。
P = 1.5をもつクローニッヒペニー模型の分散関係。

これまでの議論により、エネルギー固有値Eとブロッホ関数 ψk(x) = u(x)exp(ikx) で状態を指定する波数結晶波数kが満たさなければならない条件が得られた。 あるEの値を選べばαβが求まり、cos(ka)を計算することができる。そして両辺のをとることでkを計算でき、Ekの関係(分散関係)が得られる。

ただし電子が束縛されている場合(E < 0)、cos(ka)が1以上または-1以下になるEが存在し、その時この方程式を満たすkは存在しない。 逆に、k = /a においてエネルギー値が不連続に変化し、シュレーディンガー方程式の解が存在しない E が現れる。 このことは、ポテンシャルが周期的になったことである特別な波数(結晶波数)kではシュレーディンガー方程式の固有関数が存在しないEが存在することを意味している。

すなわち、以下の2つの区間が存在することになる。

  • E について解が存在する = その E の値をとることが許容された区間。これをエネルギーバンドと呼ぶ。
  • E について解が存在しない = その E の値をとることが禁止された区間。これをバンドギャップと呼ぶ。

また k に対して E が連続な一つの区間はブリュアン領域に当たる。

クローニッヒ・ペニーモデルは、バンドギャップを示す最も単純な周期的ポテンシャルの1つである。

b→0 かつ U0→∞ の極限を取ったモデルにおける分散関係は、k = /a (n は整数)以外の点では連続であり、k の絶対値の増加につれて E も増加する関数となる。

バンドギャップの生じる理由

ポテンシャルの無い自由電子モデルにおいては波動関数は ψk(x) = u(x)exp(ikx) の形を持つ。一方、周期 a のポテンシャルを持つモデルにおいては、これに対応する波動関数はブロッホの定理より波動関数は

の形を持つ。各項の係数 cm の絶対値(その2乗が波動関数への寄与と考えられる)は m = 0 が最大である。

クローニッヒ・ペニーのデルタ関数型のポテンシャルでは係数 cm は大雑把には (k−2πm/a)2k2 の絶対値が小さいほど大きくなる。もっとも大きい係数 c0 の項と二番目に大きい絶対値を持つ項 cm の2項を用いて波動関数を

と近似できる。

k>0, U0 > 0 の条件を前提とすると、0 < k < π/a においては、c0cm (m=1) は反符号であり、cm の絶対値は 0 から k が増加するにつれて増加し、π/ac0 と等しくなる。π/a < k < (5/3)π/a においては、c0cm (m=1) は同符号であり、cm (m=1) の絶対値は 2(n+1)π/a において c0 と等しく、k が増加するにつれて減少する。k = (5/3)π/a において (k−2πm/a)2k2 の絶対値が m=1m=2 で等しくなり、これより k が大きくなると m=2 の項の寄与の方が大きくなる。 (5/3)π/a < k < 2π/a においては c0cm (m=2) は反符号であり、cm (m=2) の絶対値は k が増加するにつれて増加し、2π/ac0 と等しくなる。

2π/a < k < (13/5)π/a においては c0cm (m=2) は同符号であり、cm (m=2) の絶対値は 2(n+1)π/a において c0 と等しく、k が増加するにつれて減少する。k = (13/5)π/aにおいて (k−2πm/a)2k2 の絶対値が m=2m=3 で等しくなり、これより k が大きくなると m=3 の項の寄与の方が大きくなる。(13/5)π/a < k < 3π/a においては c0cm (m=3) は反符号であり、cm (m=2) の絶対値は k が増加するにつれて増加し、3π/ac0 と等しくなる。3π/a < k < (25/7)π/a においては c0cm (m=3) は同符号であり、cm (m=1) の絶対値は 2(n+1)π/a において c0 と等しく、k が増加するにつれて減少する。

以上のように波動関数は変化していくが、k = /a においては2つの波動関数が解となっている。すなわち k を小さい側から k/a に近づけた場合の解

k を大きい側から k/a に近づけた場合の解

がある。差の形式の解においては波動関数はポテンシャルが値を持つ x = na の位置で 0 となりポテンシャルの影響を受けず、自由電子モデルの場合と同じエネルギー固有値を持つ。一方、和の形式の解においては、x = na の位置で波動関数は値を持つのでポテンシャルの影響を受けた分だけ高いエネルギー固有値を持つ。これにより k = /a においてエネルギーが不連続にジャンプすることになり、バンドギャップが生じることになる。

クローニッヒ・ペニーモデル: 別解

ここでデルタ型の周期ポテンシャルを考える。

Aはある定数で、aは格子定数(各サイト間の間隔)。 このポテンシャルは周期的であるため、これをフーリエ級数として展開できる。

ここで

.

ブロッホの定理によると波動関数はと表せ、は格子の周期性を持つ関数である。 このことは、もフーリエ級数として展開できることを意味する。

よって波動関数は、

これをシュレーディンガー方程式に代入すると、

または、

ここで新しい関数を定義する。

これをシュレーディンガー方程式に代入すると、

これをについて解くと、

全てのKについてこの式を足し合わせると、

または、

都合がよいことに、は打ち消しあい、

または、

ここで式を簡単にするため、新しい変数を定義する。

これを用いると、

ここでKは逆格子ベクトルである。つまりKについての和は、の整数倍にわたる和である。よって、

ここで部分分数分解を用いて式を変形すると、

cot関数の和の良い恒等式 (Equation 18)

を代入すると、

cotの和を用い、sinの積(cotの和の公式の一部)

この式は、αを通じたエネルギーと波数ベクトルkの関係を示す。見てわかるように、この式の右辺は-1から1の範囲のみであるため、これらの式の解が存在しない{mvar|α}}がある。つまり系がとることができないある範囲のエネルギーがある(エネルギーギャップ)。これがいわゆるエネルギーギャップで、デルタ型または長方形型の障壁だけでなく全ての形の周期ポテンシャルで存在する。

バンド間のギャップについての別の詳細な計算について、また1次元シュレーディンガー方程式の固有値の準位分裂については文献[2] を参照。コサイン型ポテンシャル(マシュー方程式)での結果についても、文献で詳細に与えられている。

参考文献

  1. ^ F. Bloch, Z. Physik 52 (1928) 555
  2. ^ Harald J. W. Muller-Kirsten, Introduction to Quantum Mechanics: Schrodinger Equation and Path Integral, 2nd ed., World Scientific (Singapore, 2012), 325?329, 458?477.