コンテンツにスキップ

「屠畜場」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
m →‎日本: と畜場での動物福祉問題を追加。飲水設備や移動・係留手段と国際基準についてなど。
29行目: 29行目:


なお、牛についてはBSEの遡り調査や偽装防止のため[[トレーサビリティ (流通)|トレーサビリティ]]システム対応を行なっている。
なお、牛についてはBSEの遡り調査や偽装防止のため[[トレーサビリティ (流通)|トレーサビリティ]]システム対応を行なっている。

=== 歴史 ===
1960年には全国に875の屠場があったが、大資本の進出により小規模屠場が次々と閉鎖され、1986年には429に減少した<ref>[https://www.kansai-u.ac.jp/nenshi/sys_img/article_10_77.pdf 第5回部落問題フィールドワーク]関西大学通信205号、1992年1月10日</ref>。


== 日本での動物福祉問題 ==
== 日本での動物福祉問題 ==

2020年11月7日 (土) 15:56時点における版

USDA inspection of pig

屠畜場(とちくじょう、漢字制限により「と畜場」とも)は、などの家畜を殺して(屠殺して)解体し、食肉に加工する施設の名称である。食肉解体施設、食肉処理場[1]、食肉工場などともいう。

日本

日本と畜場法においては、生後1年以上の牛若しくは馬又は1日に10頭を超える獣畜をと殺し、又は解体する規模を有すると畜場を 一般と畜場、それ以外のと畜場を 簡易と畜場 として区別している。と畜場は、全国に195か所(うち、一般と畜場は183か所、簡易と畜場は12か所)ある(2017年〈平成29年〉4月現在)。

初期の屠畜場法では獣医師によって家畜の病気を発見排除し、健康な肉を提供することが主要な目的であったため、屠畜場はいわば検査施設であった。 しかし、近年サルモネラO157など家畜由来の食中毒に対する社会関心が高まってきたことにより、屠畜場法が衛生面に軸足を置いた内容に大きく改訂され、単なる検査施設から食品工場としての性格が強まった[2]

このため、現在、各施設の具体的名称は、「食肉処理場」「食肉センター」などの名称が付されているものが多い。 これらの施設は主に、食肉加工会社や第三セクター、または自治体によって設置される。 政令市など大都市が運営する屠畜場では、枝肉のセリを行う食肉市場が設置され、国産肉の価格形成を担っている。

と畜場法に基づく食肉用動物である家畜(日本では緬羊山羊の5種類の家畜のみで鹿は法の対象外)は、搬入された後シャワーで汚れを洗い流してから食肉衛生検査所あるいは保健所に所属する獣医師である「と畜検査員(地方自治体の職員)」による病気等外観の検査(生体検査)を受ける。

屠殺は、前頭部への打撃、あるいは電撃や二酸化炭素によって昏倒させたあと、大動脈を切開し放血殺する方法で行われる。 昏倒させてから放血殺する方法が採用されるのは、安楽殺という動物福祉の観点からでもあるが、速やかに死に至らしめられなかった場合、ストレスによる筋変性や放血不良によって肉質が悪くなったり、恐怖した家畜が暴れ自ら筋肉や骨を損傷したりするなど、枝肉の商品価値を損なわないためという側面が大きい。

切開後、両後肢の飛節に通した鉄棒をフックで吊り上げ、失血させながら施設の天井に取り付けたレールに沿って各作業配置を順に廻り、解体されていく(オンライン方式)。牛では昏倒させる場所を施設の階上に設けるか、あるいは吊るした体を動力で階上へと引き上げてから自重と人力だけで容易に各作業場所間を移動できるようになっている。その途中で適宜屠畜検査員により病変組織のサンプリングと検査(解体後検査)が実施される。

解体順序はごくおおざっぱに言って、頭部切断・剥皮・内臓の摘出・背割り・枝肉検査などと続き、半頭分の肉の塊(半丸枝肉)となる。 たいていは解体ラインの階下に白モツ(胃腸など)、赤物(肝臓・心臓など胸腔臓器)などの内臓を分別・洗浄・パッキングするための作業場があり、ラインで切り離された臓器をシュートに投入することにより下の内臓処理作業場に送られる仕組みになっている。

食肉市場で取引された枝肉は食肉加工場で大分割されブロック肉となる。そこからさらに精肉店や、スーパーマーケットなどに搬送され、ももやヒレなどの部位に小分割され、一般消費者に市販される。

前述の法改正が行われた際、O157BSE対策のための設備投資が行えなかった小規模施設の多くは廃業した。残った中・大規模施設も衛生対策のため施設の改築等を行なっており、現在ほとんど全ての屠畜場が旧来のベッド方式(家畜を台の上で剥皮解体する方式)を廃止し、オンライン方式(フックで吊して剥皮解体する方式)で運営されている。

なお、牛についてはBSEの遡り調査や偽装防止のためトレーサビリティシステム対応を行なっている。

歴史

1960年には全国に875の屠場があったが、大資本の進出により小規模屠場が次々と閉鎖され、1986年には429に減少した[3]

日本での動物福祉問題

日本のと畜場では家畜の飲水設備が設置されていないところが多く、2011年の北海道帯広食肉衛生検査所などの調査によると牛では50.4%、豚では86.4%で設置されていないことがわかっている[4]。これに関しては厚生労働省から都道府県へ「と畜場の施設及び設備に関するガイドライン」が通知されており、新設及び改築等が行われる場合には獣畜の飲用水設備が設定されていること[5]との記載があるが、達成時期は未定である。

搬入時など家畜は何らかの要因により動くことをためらうが日本では家畜の移動に、蹴る、スタンガンを何度も当てる、牛の尾を捻り上げるなどで対応することが多い。また前日搬入による豚の過密収容や牛の短い紐での係留もあり、問題は多い。飲水設備の不備含めこれらは日本も批准しているOIE(国際獣疫事務局)の動物福祉基準に反しており、改善が求められる。この動物福祉基準のと殺の章には

「哺乳動物をと殺場に搬入後、すぐにと殺しない場合は、給水されなければならない」

「と殺場に到着後12時間以内にと殺しない場合は適宜、食べ物を与えること」

「電気式追い立て道具や刺し棒は、非常時のみ使用し、動物を移動するため日常的に使用しないこと。その使用は、動物の移動を補助する必要があり、動物の移動先に空間があるときのみ限定的に使われること。追い立て道具やその他の補助道具は、その動物が応答せず移動しない時には、繰り返し使用しないこと」

などが書かれてあり、動物の移動に使ってはいけない痛みを伴う手順のなかに「蹴る」も含まれている[6]

米国

アメリカ合衆国では肉牛のままの状態で精肉店(小売業者)が買い付け、精肉店(小売業者)が自らの施設で牛肉の食肉解体を行うことが一般的である[1]

脚注

  1. ^ a b 田辺晋太郎『牛肉論』ポプラ新書、2016年。ISBN 978-4-591-15246-1 
  2. ^ 厚労省食品衛生調査会乳肉水産食品部会(1999年〈平成11年〉8月31日)
  3. ^ 第5回部落問題フィールドワーク関西大学通信205号、1992年1月10日
  4. ^ と畜場の繋留所における家畜の飲用水設備の設置状況”. 2020年10月11日閲覧。
  5. ^ と畜場の施設及び設備に関するガイドライン”. 2020年10月11日閲覧。
  6. ^ Access online: OIE - World Organisation for Animal Health” (英語). www.oie.int. 2020年10月11日閲覧。

関連項目

外部リンク