「訓民正音」の版間の差分
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<p>國之語音 |
<p>原文:國之語音、異乎中國、與文字不相流通、故愚民、有所欲言、而終不得伸其情者多矣。予爲此憫然、新制二十八字。欲使人人易習、便於日用耳。</p> |
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<p>諺解(ハングルによる漢文の解説、ここでは近代的な表記に直したものを示す):{{lang|ko|나랏 말싸미 듕국에 달아 문짜와로 서로 사맛디 아니할쌔 이런 전차로 어린 백셩이 이르고져 할 배 이셔도 마참내 제 뜻을 시러펴지 못할 노미 하니라 내 이랄 위하야 어엿비 너겨 새로 스물여덜 자를 맹가노니 사람마다 해여 수비 니겨 날로 쑤메 편한케 하고져 할 따라미니라}}</p> |
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<p>「國ノ語音、中國ニ異ナリ、文字ト相ヒ流通セズ、故ニ愚民、言ハント欲スル所有レドモ、終ニ其ノ情ヲ伸ブルヲ得ザル者多シ。予此ガ爲ニ憫然タリテ、新タニ二十八字ヲ制リ、人人ヲシテ易ク習ヒ、日用ニ便タラシメント欲スルノミ。」</p> |
<p>書き下し文:「國ノ語音、中國ニ異ナリ、文字ト相ヒ流通セズ、故ニ愚民、言ハント欲スル所有レドモ、終ニ其ノ情ヲ伸ブルヲ得ザル者多シ。予此ガ爲ニ憫然タリテ、新タニ二十八字ヲ制リ、人人ヲシテ易ク習ヒ、日用ニ便タラシメント欲スルノミ。」</p> |
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<p>訳文:わが国の語音は中国とは異なり、漢字と噛み合ってないので、愚かな民たちは言いたいことがあっても書き表せずに終わることが多い。予(世宗)はそれを哀れに思い、新たに28文字を制定した。人々が簡単に学習でき、また日々の用に便利なようにさせることを願ってのことである。</p> |
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2006年10月6日 (金) 11:10時点における版
訓民正音 (くんみんせいおん、훈민정음)とは、李氏朝鮮の世宗が制定した文字体系ハングルの古称、あるいはそれについて解説した書物のことをいう。ここでは主として書物のことについて説明する。1900年代中期以前以降の朝鮮では、この文字を訓民正音と呼んでいた。現在、この文字を新規に作成した造語でハングルと呼んでいるので、これを参照されたい。[1]
歴史
訓民正音とは「民を教える正しい音」という意味である。世宗はそれまで使用されてきた漢字が朝鮮語とは構造が異なる中国語表記のための文字体系であるため、多くの民衆たちが学び使うことができない事実を鑑み、世宗25年(1443年)に朝鮮語固有の表記にふさわしい文字体系を完成させ、これを訓民正音と呼んだと現在は解釈されている。世宗28年(1446年)に鄭麟趾らが世宗の命を受けてこの新しい文字について説明した漢文解説書を刊行したが、その本の名称が『訓民正音』である。『訓民正音』は、例義篇と鄭麟趾序を記載した『朝鮮王朝実録』(世宗28年9月の条)や朝鮮語訳つきの例義篇(これを諺解本という)を記載した『月印釈譜』などによって一部残存していたが、1940年、慶尚北道の安東郡臥龍面周下洞の民家から注釈部分の解例篇を含んだ「解例本」が発見されたことにより、その全貌が明らかになった。この『訓民正音解例本』は1962年、韓国の国宝第70号に指定され、1997年にはユネスコの世界の記憶に登録されている。
内容
『訓民正音』は、世宗の書いた序と本文の部分である「例義」篇、集賢殿の学者達が書いた解説部分である「解例」篇、「鄭麟趾序」の3つの部分に分けられる。
例義
例義の内容は、ハングルを制作した目的を明らかにした序文、28の字母の音価を五音や漢字例によって初声17字・中声11字の順番で説明した部分、連書・並書・附書(複合字母の合成法)や成音(字母を合わせて1つの音節を表すこと)・加点(声調符号を加えること)といった運用法についての部分に分けられる。なお諺解本ではこれに朝鮮語にはない中国語の歯頭音と正歯音を表記するための字を設けた部分が加えられている。
以下に序文(世宗序とも言われる)のみを示す。
原文:國之語音、異乎中國、與文字不相流通、故愚民、有所欲言、而終不得伸其情者多矣。予爲此憫然、新制二十八字。欲使人人易習、便於日用耳。
諺解(ハングルによる漢文の解説、ここでは近代的な表記に直したものを示す):나랏 말싸미 듕국에 달아 문짜와로 서로 사맛디 아니할쌔 이런 전차로 어린 백셩이 이르고져 할 배 이셔도 마참내 제 뜻을 시러펴지 못할 노미 하니라 내 이랄 위하야 어엿비 너겨 새로 스물여덜 자를 맹가노니 사람마다 해여 수비 니겨 날로 쑤메 편한케 하고져 할 따라미니라
書き下し文:「國ノ語音、中國ニ異ナリ、文字ト相ヒ流通セズ、故ニ愚民、言ハント欲スル所有レドモ、終ニ其ノ情ヲ伸ブルヲ得ザル者多シ。予此ガ爲ニ憫然タリテ、新タニ二十八字ヲ制リ、人人ヲシテ易ク習ヒ、日用ニ便タラシメント欲スルノミ。」
訳文:わが国の語音は中国とは異なり、漢字と噛み合ってないので、愚かな民たちは言いたいことがあっても書き表せずに終わることが多い。予(世宗)はそれを哀れに思い、新たに28文字を制定した。人々が簡単に学習でき、また日々の用に便利なようにさせることを願ってのことである。
解例
解例は世宗の命令に従って学者たちが書いた例義についての注釈である。これは字母の制作原理を説明した「制字解」、音節頭子音を表記する17字を説明した「初声解」、母音11字を説明した「中声解」、音節末子音を説明する「終声解」、初声・中声・終声が結合して音節を表記する方法を説明した「合字解」、ハングルによって単語を表記した例を載せた「用字例」の6つに分けることができる。
鄭麟趾序
鄭麟趾の書いた『訓民正音』の序文。ここで執筆に携わった人物の名前が載せられており、鄭麟趾・崔恒・朴彭年・申叔舟・成三問・姜希顔・李塏・李善老がいたことが分かる。
制字原理
訓民正音では音節構造を3つの部分に分けて分析する。すなわち音節初めの頭子音を表す部分を初声、音節の中心となる母音部分を中声、音節末子音を表す部分を終声という。各部分にそれぞれ字母が設けられ、初・中・終の字母を組み合わせることによって1つの音節を表す1つの文字が作られた。字母は17の初声字と11の中声字が設けられているが、その運用によってより多くの音を表した。
なお初声字の基本17字とそれを並書した6字を合わせた23字は中国音韻学の五音三十六字母の体系と符合するように作られており、『東国正韻』(1448年)での漢字音表記と対応している。
初声
五音 | 象形 | 基本字 | 加画字 | 異体字 | |
---|---|---|---|---|---|
牙音 | 舌根が喉を閉じる形 | ㄱ | ㅋ | ㆁ | |
舌音 | 下が上あごに付く形 | ㄴ | ㄷ | ㅌ | ㄹ(半舌) |
唇音 | 唇の形 | ㅁ | ㅂ | ㅍ | |
歯音 | 歯の形 | ㅅ | ㅈ | ㅊ | ㅿ(半歯) |
喉音 | 喉の形 | ㅇ | ㆆ | ㅎ |
- 並書 - 初声字母を組み合わせて複合字母を作ること。
- 連書 - 唇音字の下に喉音字ㅇを連ねること。唇が軽くしか触れずに発音される音を表す。実際の朝鮮語音の表記に使われたのはㅸのみであり、後は漢字音表記にしか使われなかった。また合字解には舌が軽くしか触れないᄛが設けられているが、実際に使われた例は見あたらない。
- 唇軽音字 - ㅸ ㆄ ㅹ ㅱ
- (半舌軽音字 - ᄛ)
中声
陰陽 | 象形 | 基本字 | 初出字 | 再出字 |
---|---|---|---|---|
陽性 | 天 | ㆍ | ㅗ, ㅏ | ㅛ, ㅑ |
陰性 | 地 | ㅡ | ㅜ, ㅓ | ㅠ, ㅕ |
中性 | 人 | ㅣ |
このうちㆇ, ㆊ, ㆈ, ㆋ の四字は『東国正韻』の漢字音表記に使われただけで、朝鮮語音の表記には使われなかった。また合字解にᆝ[jʌ], ᆜ[jɯ]が設けられているが、国語で用いられることはなく、方言や子供の言葉に現れる場合があると書かれている。
終声
終声のためだけに別に字母が作られることはなく初声字がそのまま運用された。終声への字母の運用には以下の2つの相反する原則がある。
- 終声復用初声 - 例義篇に書かれている。2つの意味があり、制字上は初声字をそのまま用いて別に字母を作ることがないという原則であり、運用上はすべての初声字を終声に用いることができるという原則である。現在のハングル正書法はこれに従う。
- 8終声可足用 - 解例篇の終声解に書かれている。終声に用いる字母はㄱ, ㄴ, ㄷ, ㄹ, ㅁ, ㅂ, ㅅ, ㆁの8つで足りるという運用上の原則である。終声の音価に対して表音主義的な表記法であり、朝鮮語綴字法統一案(1933年)以前はこちらが使われることが多かった。
なお合用並書には、ㄳ, ㅧ, ㄺ, ㄻ, ㄼ, ㅭが当時の文献に現れている。
合字
- 附書 - 初声字への中声字の付け方をいう。
- 下書法 - ㆍ, ㅡ, ㅗ, ㅜ, ㅛ, ㅠは初声字の下に付す。
- 右書法 - ㅣ, ㅏ, ㅓ, ㅑ, ㅕは初声字の右に付す。
- 成音 - 1音節を表す1つの文字として組み立てること。
- 加点 - 傍点と呼ばれる点を字の左横につけ、声調(中国音韻学からの借用語であるが、中国語と違って中期朝鮮語においては高低アクセントを表したと考えられる)を表す。
声調 傍点 訓民正音 性質 合字解の例 平声 なし 安而和、春、万物舒泰 低調 활(弓) 上声 二点 和而挙、夏、万物漸盛 低高調 :돌(石) 去声 一点 挙而荘、秋、万物成熟 高調 ・갈(刀) 入声 一定せず 促而塞、冬、万物閉蔵 /ㄱ, ㄷ, ㅂ, ㅅ/で短く終わる音節 긷(柱) : 낟(穀) ・몯(針)
歯頭音・正歯音 を表す特殊字母
中国語漢字音の歯音には朝鮮語にない歯頭音(舌先と上歯茎で調音される歯音)と正歯音(舌先を下歯茎につけたまま盛り上げた舌と上歯茎で調音される歯音)の区別があった。『訓民正音』では歯音字の字形に差異を持たせることでこれを表記しようとした。この部分は諺解本にのみ言及があり、解例本には記載されていない。これらの字母は崔世珍の『四声通解』(1517年)で使用されている。
- 歯頭音 - ᅎ, ᅔ, ᅏ, ᄼ, ᄽ
- 正歯音 - ᅐ, ᅕ, ᅑ, ᄾ, ᄿ
特殊字母
方言音や外来音を表記する場合には、以上のような制字原理に従わずに字母が組み合わされることがあった。中声字(母音)において陽母音と陰母音を組み合わせたり、短棒の数がちがうものを組み合わせることはできないが、その原則に反してᅶ, ᅷ, ᅸ, ᅹ, ᅺ, ᅻ, ᅼ, ᅽ, ᅾ, ᅿ, ᆀ, ᆁ, ᆂ, ᆃ, ᆆ, ᆇ, ᆉ, ᆊ, ᆋ, ᆌ, ᆍ, ᆎ, ᆏ, ᆐ, ᆓ, ᆕ, ᆖ, ᆗ, ᆚ, ᆛ, ᆜ, ᆝ, ᆟ, ᆠ, ᆢといったものが使われることがあった。また外来語の子音表記において特殊な字母の組み合わせが作られる場合があり、古くは満州語の表記にᅒが使われたり、近代では英語の[f]や[v]を表すためにᅋやᅄが使われたりした。
版本
- 解例本 - 全33張1冊/木版本/縦32.3cm×横20cm/板匡 縦16.8cm×横23.3cm/例義7行11字、解例8行13字。1940年慶尚北道安東郡臥龍面周下洞李漢杰家で発見された。故全鎣弼氏旧蔵。全氏本とも呼ばれた。現在は澗松美術館所蔵。