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2023年3月1日 (水) 04:45時点における版
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新冷戦(しんれいせん、英: New Cold War)または第二次冷戦(だいにじれいせん、英: Second Cold War、Cold War II[1])とは、かつての米ソ冷戦終結後の世界において東方への拡大を続ける北大西洋条約機構(NATO)と、ソ連崩壊後に結成された上海協力機構(SCO)との間で発生している軍事的な対立・緊張関係を表したものである。
世界情勢的には冷戦終結直後は特に大きな緊張も無く平和的な状況であったが、その後唯一の超大国となったアメリカ合衆国と新興勢力として政治的な力を強めてきたロシア連邦や中華人民共和国は互いに異なる政治体制をしているため潜在的に対立構造が存在した。新冷戦における一勢力の盟主国を兼ねるアメリカ合衆国とロシア連邦・中華人民共和国は、この対立に対抗すべく同盟国や友好国を増やす努力をし続けた結果、NATOとSCOといった軍事的な緊張に発展した。アメリカ合衆国とロシア連邦・中華人民共和国の三カ国の直接的な武力衝突は回避しているが、経済・技術・軍事など多方面に渡る競争の過激化、あるいは南オセチア紛争や2022年ロシアのウクライナ侵攻などの代理戦争に近い武力衝突が勃発している。こうした状況が米ソ冷戦と類似することに準えて、米中露及び両陣営に関連する対立構造を総じて「新冷戦」または「第二次冷戦」と呼称されるが、正式な総称ではない。
名称と定義
20世紀後半に半世紀に渡って続いた米ソ冷戦をふまえ、既に終わった米ソ冷戦を第一次冷戦[1]と呼んだり、この記事で扱う冷戦は観点の相違によって第二次冷戦[2][3]・米中冷戦[4][5][6]・米中新冷戦[7]・米露新冷戦[8][9]などと呼んだりすることもある。
その定義や対立軸は使用者により様々であり、また米ソ冷戦ほど単純ではないが、ほとんどの場合には「米中対立あるいは米露対立」を中心とし、民主政治を行う西側諸国と、事実上の独裁政治を行う東側諸国の国際関係で対立している。米中露以外のヨーロッパ諸国(欧州連合や北大西洋条約機構)・日本・オーストラリア・インド・台湾・ニュージーランド等の国も取り捲き、国々の利害の絡み合うことになっている。
2021年3月25日、アメリカ大統領のジョー・バイデンは記者会見で米中関係について「21世紀における民主主義と専制主義との闘いだ」と発言した[10]。
歴史
ソ連崩壊と米ソ冷戦の終わり
新冷戦(Cold War II)は、元々は1970年代後半に時のアメリカ大統領であるリチャード・ニクソンの訪中や米ソデタントなどで再編された世界の勢力図を表す言葉として生まれたが[1][11]、ソ連は1980年代後半からペレストロイカやグラスノスチと呼ばれる国内改革と共に対米融和政策に転換し、東欧革命やベルリンの壁崩壊後、それまで冷戦と呼ばれていたアメリカ及びソ連の対立構図は変化していった。また、共産主義国家での民主化革命やソ連崩壊により構成諸国はそれぞれ独立後、ロシアと共に資本主義体制に移行した一方、改革開放で市場経済を取り入れていた中国は六四天安門事件で民主化の動きを封じた。
米ソ冷戦が終結して、1992年にフランシス・フクヤマが『歴史の終わり』を著し、1993年には藤原帰一が「米中冷戦の終わりと東南アジア」という論文を著した。
旧冷戦から米中新冷戦へ
しかしその後も、米中両国の間にあって台湾海峡や朝鮮半島をめぐる緊張状態は収まってはいない。1996年に政治学者の李鍾元が「東アジアでは冷戦は終わっていない」として「東アジア冷戦」について議論し[12]、日本では1996年に中川昭一(自民党)らが「米中“新冷戦”」と議論した[13]。日本では「米中新冷戦」「米中冷戦」という言葉が用いられるようになっていった。米ソ冷戦をアメリカの勝利に導いた立役者として長らく国防総省総合評価局長を務めたアンドリュー・マーシャルは米中冷戦の到来を冷戦終結後から予測していた[14]。
21世紀に入ると、アメリカによる一極体制に綻びが見え始め、中国が台頭したことで、世界の
- 経済(ガバナンスやコーポレート・ガバナンス、コンプライアンスや企業コンプライアンス、貿易摩擦、経済制裁、新型コロナウイルス感染症による経済的影響、ロシアのウクライナ侵攻による経済的影響など)
- 金融(ファイナンスやコーポレート・ファイナンス、フィンテック、暗号通貨、デジタル通貨、世界金融危機、リーマン・ショック、コロナ・ショックなど)
- 科学技術・産業・文化産業(超音速技術、知的財産権、ビッグ・テック、暗号技術、材料工学と3Dプリンター、カーボンニュートラル、第四次産業革命、技術的特異点、人間拡張・トランスヒューマニズム、DIYバイオ、ハッカー文化、誹謗中傷、ジャパンバッシング、オタクバッシングなど)
- 軍事(超音速兵器、レーザー兵器、ドローン兵器、ロボット兵器、拡張兵士、サイバー戦争、超限戦、ハイブリッド戦争など)
- 情報・通信(スパイ、プロパガンダ、フェイクニュース、海底ケーブル、データセンター、ブロックチェーン、サイバー犯罪、サイバー攻撃など)
- 宇宙(宇宙開発、スペースデブリ、宇宙移民、惑星の居住可能性など)
- 環境問題(水不足、地球温暖化、マイクロプラスチック、脱炭素、環境に及ぼす人類の影響など)
- エネルギー・天然ガス(サハリン2、サウス・ストリーム、ロシア・ウクライナガス紛争、世界的エネルギー危機など)
- パンデミック(新型インフルエンザの世界的流行、新型コロナウイルスの世界的流行、サル痘流行など)
などの法の支配に問いかけるような諸分野において様々な問題が生じ、その現象を「新冷戦」と呼ぶようになった。
NATO対ロシア
一方、1990年代前半から米露関係は良好な方向に向かっていたが、1999年のユーゴスラビアでのコソボ紛争からは大使館を誤爆された中国と共にNATOをめぐって対立するようになった[15][16][17]。21世紀に入り、一部の旧ソ連諸国がEUやNATOなど旧西側諸国の国際機関に加盟する動きを見せ、米欧主導の対テロ戦争に同調して暫く蜜月関係にあった中国とロシアも一部の旧ソ連諸国と上海協力機構(SCO)やユーラシア経済連合(EEU)を結成し、自らの影響力確保のためにEUの東方拡大やNATOによるアフガニスタンへの介入を警戒する動きも見せていた。
中露接近
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b8/Vice_President_Biden_Raises_a_Toast_in_Honor_of_Chinese_President_Xi_at_a_State_Luncheon_at_the_State_Department_%2821723827681%29.jpg/220px-Vice_President_Biden_Raises_a_Toast_in_Honor_of_Chinese_President_Xi_at_a_State_Luncheon_at_the_State_Department_%2821723827681%29.jpg)
2007年からは中国とロシアが連携して国連安保理におけるミャンマー、シリア、ジンバブエなどに対する非難決議で拒否権を度々行使したことで冷戦時代のような新たな対立構図が懸念されるようになった[18]。
2010年代に入ると中露両国は対米緊張状態が続くイランとオマーン湾で合同演習を行い[19]、「アメリカの裏庭」である中南米では反米を掲げるベネズエラに航空機を派遣して物資を支援し[20][21][22]、ソ連最大の軍事演習であった「ザーパド81」を超える冷戦後最大の軍事演習「ボストーク2018」も共同で行ってアメリカを牽制するようになった[23][24]。
対中包囲網
西側諸国は近年増加する中国の脅威に対抗するため、日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、オーストラリア、インド、韓国など、中国と政治的に対立する国々をG7、クアッド、ANZUS、AUKUS(オーカス)、ファイブ・アイズ、D10などで重層的に組み合わせて「対中包囲網」を構築した[7]。
- G7(政治・経済):日本,アメリカ,カナダ,フランス,イギリス,ドイツ,イタリア
- クアッド(Quadrilateral Security Dialogue、Quad)(気候変動・感染症対策など広範囲):日本,アメリカ,オーストラリア,インド
- ANZUS(防衛・軍事):アメリカ,オーストラリア,ニュージーランド
- AUKUS(防衛・軍事):アメリカ,イギリス,オーストラリア
- ファイブ・アイズ(情報):アメリカ,カナダ,イギリス,オーストラリア,ニュージーランド
- D10(Democracy 10、民主主義10ヶ国):G7+オーストラリア・インド・韓国[7]
経緯
- 米中露盟主国間のデータ比較
米露対立
ロシアによるグルジア戦争(2008年)
2008年のジョージア(当時のグルジア)とロシア・南オセチア・アブハジア間の南オセチア紛争の際、アメリカは2008年8月20日に予定されていたアメリカ・カナダ・ロシアの3ヶ国合同軍事演習を中止した。アメリカ国防総省は「今後はロシアの行動次第で、軍事関係を大きく変更する」とコメントし、ロシア側を牽制した[25]。当時北京五輪の開会式に共に出席したアメリカ大統領のブッシュや五輪開催国である中国国家主席の胡錦濤とこのことを協議[26]したロシア首相のウラジーミル・プーチンは帰国後、アメリカCNNに対し「大統領選挙で対露タカ派のマケイン共和党候補を有利にすべくブッシュ政権が煽動した」と厳しくアメリカを批判した[27]。
ロシアはアメリカがポーランドにMDを配備する事について懸念を示している[28]もし、ポーランド(もしくはリトアニア)にMDが配備されたならば、ロシアはミサイルの照準をヨーロッパに向けざるを得ないとロシア側は表明した[要出典]。
ただ、グルジア紛争が起きた当時は、プーチンが冷戦再来を否定したこともあり、米露両国が冷戦状態という見方はあまり広がらなかった。ところが、2014年3月にウクライナ情勢が悪化し、ロシアが一方的に軍事介入したことで米欧諸国とロシアの対立が決定的となった。
2008年8月26日にロシア大統領のドミートリー・メドヴェージェフはアブハジアと南オセチアの独立を承認する大統領令に署名した。同日のマスコミのインタビューでメドベージェフは「冷戦再来の展望も含め、何も我々を恐れさせることはできない」と述べ、冷戦再来を恐れていない考えを示した[29]。一方、首相のウラジーミル・プーチンは9月11日に官僚や専門家を集めた会合の中で新冷戦を否定している[30]。
プーチン政権の独裁化(2009年‐2010年)
2009年9月17日には、アメリカが米露関係の最大の懸案であった東欧ミサイル防衛構想の中止を決定、ロシア側はこれを歓迎し、対抗ミサイルの配備中止を決定した。これにより、「新冷戦」とも形容された米露関係は改善された。しかし、ロシアが昨今の世界同時不況などでアメリカに対して批判的なスタンスを取っていることに変わりはなく、また、一部の反米諸国の首脳が反米国家同士の連帯を呼びかける動きも見られる。
2010年2月5日、メドヴェージェフが、2020年までの国防方針となる新軍事ドクトリンを承認した。「核戦争の回避」を最重要課題としているものの、核兵器をロシアの国防の中核と位置づけることに変化はなく、NATOの東方拡大およびアメリカのミサイル防衛を軍事的脅威とし、アメリカを牽制する内容となっている[31]。
2010年6月に、アメリカでFSB(ロシア連邦保安庁)のスパイとされる10人が逮捕された。プーチンは、「一般市民を投獄しており、(アメリカの)警察当局は制御不能になっている」とアメリカを批判、ロシア外務省も非難声明を発表した。これに対しアメリカ側は「米露関係に影響は及ぼさない」とし、対立解消に努めた。オバマ政権発足以降、改善に向かっていた米露関係が再び冷え込むと思われた[32]。ただ、プーチンは批判のトーンを抑えており、さほど大きな悪影響は及ぼさないと言う見方もあった[33]。最終的には10日あまりで両国がスパイ交換を行い、関係悪化は回避された[34]。
2010年11月30日、メドベージェフは、年次教書演説で「(欧州MDの協力で)合意できなければ軍拡競争の新たな段階が始まり、新たな攻撃システム配備を決断せざるを得ない」と述べ、米欧諸国を牽制し、NATOとの対等な関係の構築を強く主張した[35][36]。また、プーチンは同年12月1日にCNNの番組のインタビューで、もしアメリカとの新START(新戦略核兵器削減条約)の批准に失敗した場合には、ロシアは核戦力を強化せざるを得ないと言う旨の発言をし、更に「それを選んだのは我々ではない。我々が望んでいるわけではない。だが、これは我々側にとっての脅威ではない」「協調的な取り組みで合意できなければこうなることは、我々全員が予想していた」と述べた。オバマは批准に積極的な姿勢を示しているが、野党の共和党内ではロシアの増長に対する警戒感から、議会での採決を遅らせる動きが出ており、先行きは不透明である[37]。
アメリカ・東欧ミサイル防衛構想(2010年‐2013年)
大統領のバラク・オバマは「ロシアとの関係をゼロから構築しなおす」と宣言した。2010年12月17日、ロシア首相のウラジーミル・プーチンは、2015年までにロシア政府が使用しているコンピュータのソフトウェア(OS含む)をフリーソフトウェアに置換するよう命じた。ソフトウェアをアメリカ企業であるマイクロソフト社に依存している現状からの脱却を目指しているとされる[38]。また、プーチンは周辺の国々から構成されるユーラシア連合構想を打ち出している。
2011年5月18日、メドベージェフはアメリカが推進する欧州ミサイル防衛構想について、「これは非常に悪いシナリオだろう。われわれを冷戦時代に逆戻りさせるシナリオだ」と語った[39]。また、これに先立って2011年5月16日には、ロシア外務次官のセルゲイ・リャブコフが2011年2月に発効したばかりの新STARTからの脱退もあり得る旨も表明し、アメリカ側を強くけん制した[40]。
ロシアによるクリミア併合 (2014年)
2014年2月にウクライナで起きた反政府運動によって親露派のヤヌコーヴィチ政権が事実上崩壊して親米欧派による暫定政権及び大統領選挙の繰り上げ実施が発表されたが、ロシアがウクライナ南部のクリミア自治共和国に軍隊を進駐させてロシア領に編入したり[41]、ウクライナ東部のドンバス地区で結成されたノヴォロシア人民共和国連邦(ドネツク人民共和国・ルガンスク人民共和国)で軍事衝突が起こった。さらに2022年にロシアがウクライナに全面侵攻しアメリカやEUなどが金融制裁を科し、米欧とロシアとの間の緊張が一気に高まってきている。
米中対立
中国の軍備拡張(2011年‐2014年)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5f/Dmitry_Medvedev_in_China_23-24_May_2008-1.jpg/220px-Dmitry_Medvedev_in_China_23-24_May_2008-1.jpg)
2011年11月9日、アメリカ国防総省は「エア・シーバトル」(空・海戦闘)と呼ばれる特別部局の創設、中国の軍拡に対する新たな対中戦略の構築に乗り出していることが明らかとなった。この構想には中国以外の国々は対象に入っていないとアメリカ側は事実上認めており、あるアメリカ政府高官は「この新戦略はアメリカの対中軍事態勢を東西冷戦スタイルへと変える重大な転換点となる」と述べた[42]。
2012年11月15日、中国共産党では総書記(中国最高指導者の役職)が胡錦濤から習近平に変わり、2013年に入ると元NSA職員のエドワード・スノーデンが香港からロシアに亡命した(理由はスノーデンの項目を参照)ことなどから米露関係はさらに冷え込み、オバマは「両国関係の一時停止が適切」「ロシア側で反米的な言動が増えた。ロシアは古くさい冷戦時代の固定観念に陥ってしまった」などと批判、ロシア側もアメリカを強く批判しており、米露関係に暗雲が垂れ込めている[43]。
中露の同盟化(2015年-2017年)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f2/Vladimir_Putin_and_Xi_Jinping%2C_26_july_2018_%281%29.jpg/220px-Vladimir_Putin_and_Xi_Jinping%2C_26_july_2018_%281%29.jpg)
2015年12月31日にロシアのプーチン政権が安全保障政策の指針として発表した「ロシアの新安全保障戦略」では「西側」という表現で新冷戦を匂わせて日米両国のミサイル防衛を批判して中国との関係を重視するとし[44][45]、2016年5月には初の中露合同ミサイル防衛演習を行い[46][47]、ロシア最新鋭の地対空ミサイルであるS-400やSu-35が中国側に供与された。また、中露両国は歴史問題における対日・対独協調を深め[48][49]、2015年のモスクワの対独戦勝70周年記念パレードと北京の中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年記念式典の何れも中国共産党総書記の習近平とロシアのプーチンは互いに隣に座って赤の広場と天安門広場に中国軍とロシア軍の儀仗隊を行進させた[50][51]。
2017年12月18日にアメリカのトランプ政権が安全保障政策の指針として初めて発表した国家安全保障戦略では「原則ある現実主義」「力による平和」を掲げて中国とロシアをアメリカや既存の国際秩序に挑戦する「修正主義国家」「競争相手」と位置付ける一方、中露両国とは「アメリカの国益を守る前提で協力を目指す」として冷戦時代の競争と協調のように硬軟両様で対応することを述べた [52][53][54][55][56][57][58][59][60][61]。
米中貿易戦争と習近平政権の台頭(2018年-現在)
2018年から始まった米中貿易戦争以降の米中両国の緊張・対立状態を、「米中新冷戦」とみなされている[7]。2019年4月29日、米中貿易摩擦の激化を受け、アメリカの中長期的な外交戦略を担うアメリカ国務省政策企画本部長のキロン・スキナーは「米ソ冷戦時代、我々の戦いは謂わば西側の家族間の争いのようなものだった。しかし、今後アメリカは史上初めて白人(コーカサス人種、Caucasian)文明ではない中国文明との偉大なる対決に備えていく」と表明して米中冷戦を文明衝突にも位置付けた[62][63][64][65]。
中国の習近平政権は、「中国は覇権を求めない。アメリカを敵視し、とってかわろうという意思も無い」と発言しながらも、建国100年を迎える2049年までに「社会主義の現代化強国を築く」という目標を掲げており[7]、「総合国力で世界の先頭に立つ」と、それまでにアメリカを追い抜くことを目標としている[66]。
欧米 vs 中露 対立本格化
中国による新型コロナ拡散(2020年-現在)
2020年代に入り、中国・湖北省の武漢から発生した新型コロナウイルスの世界的流行[67]や香港国家安全維持法制定による香港における一国二制度の事実上の崩壊[68]、台湾“解放”とそれへの対抗を想定していると思われる過去最大の軍事演習合戦が行われるなど米中対立は激化しており、2021年1月に習は同盟・友好関係重視を掲げるバイデン新政権を意識して「新冷戦を仕掛ければ、世界の分裂を招くだろう」と述べた[69]。
2021年3月に発表されたバイデン政権発足後初の国家安全保障戦略では気候変動や医療など「国益に適う場合の協力」も行うとする一方でトランプ前政権下での国家安全保障戦略よりさらに踏み込んで中国を「唯一の競争相手」に格上げした[70]。
ロシアによるウクライナ侵攻(2022年-現在)
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻したことで「アメリカ対中露」の新冷戦は本格的に幕を開け、中露両国も141ヶ国が採決する国連総会の非難を受けて、親露派指導者が政権を握るシリアやベラルーシなど5ヶ国が反対を投じた。日本・アメリカ・EU・イギリス・オーストラリア・シンガポール・台湾などの西側諸国に加え、永世中立国であるスイス、冷戦下も中立の立場を守ってきたフィンランドやスウェーデンも過去最大規模の対露制裁を科した。一方のロシアは、ウクライナ侵攻後に自国に対して経済制裁を科した48の国々と地域を非友好国に指定して対抗している。前述のようにこれまで中立の立場を崩さなかったフィンランド、スウェーデンの北欧2ヶ国は、ウクライナ侵攻を受けてNATOへの加盟を申請した。
陣営の構築
西側諸国の結束
2020年の新型コロナウイルス感染拡大や香港・台湾を巡る中国政府への懸念、2022年のロシアによるウクライナ侵攻により、西側諸国と中露の対立は激化した。米ソ冷戦終結以来、NATOの戦略概念でパートナーシップに位置付けていたロシアを最大の脅威に書き換え、中国に関しても秩序への挑戦として初めて明記した。西側諸国は、G7、OECD、Quad、IPEF、ANZU、AUKU、EU、NATO、D10などの対中露を睨んだ経済・軍事協力機構の新規構築、及び既存の機関における機能強化を図った。
中露の接近
中露両国は、米国を中心とした西側諸国との対立で利害関係が一致するため、協力関係を構築しようと両国首脳が急接近した。ロシアは、中国が世界経済で主導権を掌握しようと画策した一帯一路や上海条約機構に加盟している。
世界の動き
日本
日本はアメリカの同盟国として、尖閣諸島を国有化したり迎撃ミサイルシステムを整える等国防を担う自衛隊は中露を意識した配置や規模となっている。米中・米露対立が深まった2010年代には中露両国は日本海で初の島嶼上陸訓練を行い[71]、爆撃機などで日本海上空で初の共同警戒監視活動も行われ[72][73]、日本の航空自衛隊が尖閣諸島上空を領空侵犯する90km手前の中露両国軍機に針路変更を促す事態にもなった[74][75]。また、中国が南シナ海に進出している事について元内閣総理大臣の安倍晋三は中国側を強く牽制した[76]。
2020年、尖閣諸島問題において中国側が武器使用を認められる海警法[77][78]を独断で制定し、日本政府は「尖閣諸島に中国軍が上陸すれば日本側も中国に射撃する」などと猛烈に反論[79]するなど、安全保障面で日中対立が深まっている[80]。2021年、元総理の安倍は台湾問題に言及し「台湾有事は日本有事でもある」、「(尖閣諸島などの)日本の領土は日本自身で守る」と中国を批判し、国家主席である習近平を名指しで批判した[81]。
数日後、中国外交部は「中国人民のレッドラインを超えたら、頭に血を流す」と厳しく日本政府を批判した[82][83]。その後も安倍は中国に対する批判を続け、「一国会議員の発言が中国政府に注目されるとは大変光栄であり、感謝する」と発言[84]し「中国による領土拡大や軍事的増強は中国自身の自殺行為」と批判[85][86]した。中国外務省は「台湾は日本の一部ではない」と反論した[87]。
ヨーロッパ
EUなど欧州諸国は、経済的には中露と密接な関係にありながらも軍事的にはNATOに加盟するなどアメリカの影響力が強い。クリミア危機やウクライナ侵攻により欧露間の対立が激化した。またトルコの場合は、2016年トルコクーデター未遂事件をきっかけに欧米と対立するようになり、NATO加盟国でありながらもロシアに接近し、ロシア製兵器の購入をするなりの親露姿勢を強調していたため、欧米から経済制裁が出されるなどし、対立が一時期激しい時もあり、アラブ諸国からカタールを巡って見離されることもあったため、イランとの関係も強化していた(ただロシアとは、ナゴルノ・カラバフ戦争やシリア内戦・リビア内戦・ウクライナ問題では両者は対立している)。2021年頃から中東諸国と関係改善に乗り出し、更には対立していた欧米との関係改善にも乗り出した。ウクライナ侵攻では、ロシアとウクライナとの友好関係を活かし仲介役を務めたり、ウクライナ産穀物の輸出再開の仲介役を国連と合同でするなりの大活躍を果たしたため、現在は欧米・ウクライナとロシアの架け橋である。
旧ソ連諸国
ソ連崩壊に伴いソ連からの独立を果たした中央アジア諸国は独立以来、中国やロシアと友好関係を築いていた。しかし、アフガニスタン紛争や対テロ戦争以降アメリカへ接近する国々が相次ぎ、中露の反対していたイラク戦争を支持・派兵したカザフスタンを初めアメリカ軍の駐留を認めるなどの傾向が見られた。しかし、キルギスのチューリップ革命やウズベキスタンでの反政府運動といった民主化運動にアメリカの影響がちらついた事で、非民主的政権の多い中央アジア諸国ではアメリカと距離を置く国々が続出し、中露主導の上海協力機構の影響力が高まった。2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナと同様、ロシアとの国境問題、あるいはロシア政府の後援を受ける親ロシア派勢力やロシア語話者と政府の対立を抱える旧ソ連諸国の一部では、ロシアと距離を置く動きを見せている。
南アジア
インドとパキスタンは双方がアメリカと軍事的に密接な関係にありながら、中国製・ロシア製の軍事兵器も多く輸入して上海協力機構に参加している。
中南米
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中米・南米諸国においては21世紀に入ってベネズエラのウゴ・チャベス政権発足以降、中露両国と関係を強化して左傾化が進み、アメリカの勢力圏から離脱していた。一時は、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル、ニカラグア、ホンジュラス、エルサルバドルでは反米左派の指導者による政権が誕生。また、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、パナマ、コスタリカ、ペルー、チリにおいてはアメリカとは友好関係を継続しつつも一定の距離を置く左派指導者による政権が誕生した。しかし、2009年にホンジュラスでクーデターが起き、親米右派の指導者による政権へ回帰、2012年にパラグアイではクーデターにより4年間務めた左派指導者による政権が失脚して親米右派の指導者による政権へと回帰。2014年にパナマで5年ぶりに右派指導者による政権が誕生、2015年にアルゼンチンで12年ぶりに親米右派の指導者による政権が誕生、エクアドルでは2017年に誕生した左派系大統領はアメリカとの関係を修復等の軌道修正を行い、2019年にブラジルでも16年ぶりに左派指導者による政権から親米右派の指導者による政権へと回帰するなどベネズエラの経済政策の失敗に影響されて親米右派への回帰が進む。一方、メキシコでは2018年に初の本格的な左派指導者による政権が誕生。このように、南米はかつてのようなブラジルやアルゼンチンに代表されるアメリカの裏庭の時代へ回帰する国々とベネズエラやボリビア、ニカラグアのようなそうでない国々に二分しつつあり双方の対立は激化している。一方、左翼ゲリラとの戦いから歴史的にアメリカが深く支援を行ってきたコロンビアにおいては一貫して親米右派の指導者による政権であったが、2022年に初の左派政権が誕生。チリは左右の政権交代が何度もあっても政策的には極端にぶれずに中道路線と安定的な政情を歩んでいたが、2022年に左派政権が誕生した。一方反米左派の国家であっても、ニカラグアはロシア軍の基地があったりし、同じく反米国家である中国と国交を結ぶため台湾と断交し、反対派を弾圧したりするのが顕著である。ベネズエラは、かつては親米政権であったが、チャベス政権以降反米に転じ、現在のマドゥロ政権に引き継がれロシアと協力していたり経済破綻があったため、アメリカからの制裁を受けている。キューバは、革命以降共産党政権であるため、一貫して反米左派であり、2015年にアメリカと国交を回復をしたものの、トランプ政権以降は再び制裁を出されるほど関係が悪化し、2021年に再びテロ支援国家に指定されている。これらの反米左派政権の国は、バイデン政権によって米州機構の会合に独裁者を招待しない方針を示したため、メキシコやアルゼンチンなどから反発が相次いだ。
関連するフィクション
書籍および映像作品
- 小説『宇宙の戦士』(作:ロバート・A・ハインライン) - 米中戦争後の世界が描かれている。1959年12月
- 小説『米中戦争』(作:ハンフリー・ホークスリーとサイモン・ホルバートン、訳:山本光伸、二見書房) - 1998年5月
- 小説『ジャック・ライアン』シリーズ(作:トム・クランシー著、新潮文庫) - 下記4作品。
- 日米開戦 - 日印中陣営 vs 米露陣営という作品世界観となっている。1994年
- 合衆国崩壊 - 1997年11月、ISBN 978-4102472071
- 大戦勃発 - 2002年2月、ISBN 978-4102472217
- 米中開戦 - 2012年12月4日、ISBN 978-0399160455
- 小説『新世紀日米大戦』(作:大石英司) - 日中陣営 vs 米露陣営という作品世界観となっている。
- ドラマ『ハワイ5-0』 - 1968年~1980年。(米中冷戦が殆ど取り沙汰されなかった)米ソ冷戦時代、本作品世界においては米中対立が描かれていた。
- 映画『007 ジェームズ・ボンド』シリーズ
- 『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』 - 1997年
- 映画『レッド・ドーン』 - 2012年。当初の脚本では敵国は中国だったが、政治的配慮で北朝鮮に差し替えられた[88]。
- 映画『エンド・オブ・ザ・ワールド』 - 2000年。台湾をめぐる米中核戦争後の世界が描かれている。
- 漫画『MOONLIGHT MILE』(作:太田垣康、小学館) - 2001年5月
- 漫画『狂四郎2030』(作:徳弘正也、集英社) - 1997年~2004年
- 漫画『ぼくらの』(作:鬼頭莫宏、小学館) - 2004年~2009年
- アニメ『ザ・シンプソンズ』シリーズ シーズン22 第12回(全シーズン通算 第476回)『バイクが欲しい!』(原題:"Homer the Father"、専門チャンネルFOX) - 2011年1月23日
- アニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ
- 『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』 - 2004年。米中冷戦下の日本が舞台。
ゲームソフト
- FPS『バトルフィールド』シリーズ(エレクトロニック・アーツ)
- FPS『CoD』シリーズ(アクティビジョン)
- FPS『Operation Flashpoint: Dragon Rising』 - 2009年10月6日発売。
- FPS『HOMEFRONT』 - 2011年3月9日発売。当初の脚本では敵国は中国だったが、政治的配慮で北朝鮮に差し替えられた[89]。
- TPS『マーセナリーズ』シリーズ(エレクトロニック・アーツ)
- RPG『Fallout』シリーズ(ベセスダ・ソフトワークス)
脚注
注釈
- ^ 実際には中国の国政を動かすのは中国共産党であり、共産党の最高指導集団である中央政治局常務委員会が権力を掌握する構造となっている、実権は中国共産党中央委員会総書記が握っていた、中華人民共和国主席(国家主席)の権限は儀礼的・名誉的なもので、彼らの権力の源泉は支配政党である共産党の総書記職であった。
出典
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関連項目
- 一極体制
- 両極体制
- 多極体制
- 米中関係
- 米中二極体制
- 超大国
- アメリカ帝国
- パクス・アメリカーナ
- 第三次世界大戦
- ヨルダン川西岸地区の分離壁 - 親米・イスラエルと反米・パレスチナ自治区を隔てる高さ10メートルの壁
- 南オセチア紛争 (2008年)
- ウクライナ危機
- オレンジ革命
- ユーロマイダン
- 2014年ウクライナ騒乱
- ウクライナ紛争 (2014年-)
- 2014年クリミア危機
- ロシアによるクリミアの併合
- 2014年ウクライナでの親ロシア派騒乱
- ドンバス戦争
- ロシア・ウクライナ危機 (2021年-2022年)
- 2022年ロシアのウクライナ侵攻
- 台湾海峡危機
- 台湾有事
- ナンシー・ペロシの台湾訪問
- 2022年中国人民解放軍による台湾周辺での軍事演習
- 朝鮮戦争 - 米・中ソ両軍が交戦した例
- ベトナム戦争 - 米・中ソ両軍が交戦した例
- 米中貿易戦争
- 中国脅威論
- 2019年5月ホルムズ海峡タンカー攻撃事件
- 2019年6月ホルムズ海峡タンカー攻撃事件
- バグダード国際空港攻撃事件 (2020年)
- 2020年1月のイランによる在イラク米軍基地攻撃
- 色の革命
- アラブの春
- リビア内戦
- シリア内戦
- コソボ地位問題
- 今日の香港、明日の台湾、明後日の沖縄 - 新冷戦を背景として登場した用語。今日の香港、明日の台湾が語源。
- G7
- 主要国首脳会議
- G20
- 経済協力開発機構(OECD)
- 欧州連合(EU)
- 北大西洋条約機構(NATO)
- 日米豪印戦略対話(Quad)
- 民主主義サミット
- ANZUS
- AUKUS
- UKUSA協定
- D10構想
- インド太平洋経済枠組み(IPEF)
- 上海協力機構(SCO)
- ユーラシア経済連合(EEU)
- 77ヶ国グループ(G77)
- 経済協力機構(ECO、中洋版EU)