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'''字体'''(じたい form of character)とは、図形を一定の[[文字]]体系の一字と認識し、その他の字ではないとしうる範囲に対する概念、すなわち文字の骨格となる「抽象的な」概念のことである。例えば、図1は「トウ」という音と「かたな」という意味を持つ字である、図2は図1と類似した文字であるが筆画が一つ多いことで「ジン(ニン)」という音と「やいば」という意味を表す別個の字として認識される。このとき図1と図2は異なる字体をもっていることになる。
'''字体'''(じたい form of character)とは、図形を一定の[[文字]]体系の一字と認識し、その他の字ではないとしうる範囲に対する概念、すなわち文字の骨格となる「抽象的な」概念のことである。例えば、図1は「トウ」という音と「かたな」という意味を持つ字であるのに対し、図2は図1と類似した文字であるが筆画が一つ多いことで「ジン(ニン)」という音と「やいば」という意味を表す別個の字として認識される。このとき図1と図2は異なる字体をもっていることになる。


字体と似た用語に'''字形'''(design of character)があるが、これは個別具体の文字の形のことであり、線や点の組み合わさり方、線の太さやインクの濃淡、書き癖など、完全に同じ字形が生じることはない。こうした字形の違いにもかかわらず、小異を捨象してそれが同一の字であると認識する概念こそが字体なのである。逆に言えば、字形の違いが小異にとどまらず示差的特徴を示す時、両者の字体は異なるということができる。
字体と似た用語に'''字形'''(design of character)があるが、これは個別具体の文字の形のことであり、線や点の組み合わさり方、線の太さやインクの濃淡、書き癖など、完全に同じ字形が生じることはない。こうした字形の違いにもかかわらず、小異を捨象してそれが同一の字であると認識する概念こそが字体なのである。逆に言えば、字形の違いが小異にとどまらず示差的特徴を示す時、両者の字体は異なるということができる。

2006年12月21日 (木) 05:04時点における版

図1
図2
図3

字体(じたい form of character)とは、図形を一定の文字体系の一字と認識し、その他の字ではないとしうる範囲に対する概念、すなわち文字の骨格となる「抽象的な」概念のことである。例えば、図1は「トウ」という音と「かたな」という意味を持つ字であるのに対し、図2は図1と類似した文字であるが筆画が一つ多いことで「ジン(ニン)」という音と「やいば」という意味を表す別個の字として認識される。このとき図1と図2は異なる字体をもっていることになる。

字体と似た用語に字形(design of character)があるが、これは個別具体の文字の形のことであり、線や点の組み合わさり方、線の太さやインクの濃淡、書き癖など、完全に同じ字形が生じることはない。こうした字形の違いにもかかわらず、小異を捨象してそれが同一の字であると認識する概念こそが字体なのである。逆に言えば、字形の違いが小異にとどまらず示差的特徴を示す時、両者の字体は異なるということができる。

このような字体の要素を研究することは、個別言語の意味の弁別に関わる音素を研究する音韻論に相当し、視覚的に実現される字形を研究することは音素に対する音声がどのように調音されるかなどを調べる音声学に相当する。またソシュール言語を特定の話者や特定の場面で使われる具体的なパロールと、個人や場面に依らず言語話者が共通してもつ抽象的なラングに分け、言語学の対象をラングとした。ラングの共通性を文字において言及する場合の対象が字体であり、それがパロールとして実現されるのが字形である。

一方、書体(type face)といった場合、ある文字単独のかたちに関してではなく、文字体系全体に共通して指摘できる概念のことを示す。代表的なものでは、明朝体・ゴシック体などがあげられる。

字形の違いが、字体の異同と認められるかは、しばしば議論となる。図2と図3も中央の筆画に差異があるが、一般に字形設計上のデザインの違いについては、字体の異同とは見なされない。いっぽう、例えば「タイ」という音と「からだ」という意味を表す字には「体」「體」「躰」「軆」といった示差的に異なる字体が存在するが、そのいずれも同じ意味と音を表す同じ漢字と認識されている。このとき、これらの字体の関係を異体字と呼ぶ。異体字のなかで標準とされる字体は正字(正字体、正体(せいたい)とも)と呼ばれる。正字として選ばれる字体は歴史的・地理的に異なる場合があり、例えば現代日本では「体」が正字であるが、戦前は「體」が正字とされていた。

文字コードの策定に当たっては、グリフ(glyph)という類似概念が用いられることもある。

正字体

正字体とは、ある文字において、最も規範的な字体を言う。特に、いくつもの字体を有する漢字で問題になり、その選択のしかたについていくつかの正字の体系が言われる。正字として重要なのはその典拠であり、四書では、小篆隷書で示したものが正統の証でもあった。清代の『康煕字典』(1716年)以後は、康煕字典体(後述)が規範として尊重された。

康熙字典以前

  • 史籀篇(西周)
  • 説文解字(許慎、後漢
  • 釈名(劉熙、後漢)
  • 顔氏定本(顔師古、
  • 干禄字書(顔元孫、唐)
  • 開成石経(唐)

説文解字の親字として示されている小篆は、正字の規範として尊重されてきた。 干禄字書は科挙合格のための楷書の正字体を示した字書である。ここに示された楷書の正字体は四書五経に書かれた文字が拠り所になっている。このような正字字書は五経文字九経字様が引き続き作られた。

康熙字典体

康熙帝によって編纂が命じられた康熙字典による字体である。康熙字典の字体は、全般的には以前から字典に用いられてきた字体である字典体を踏襲しているが、先行する字典である『正字通』がやや過度にわたる規範意識を持って明朝体を説文解字などに示された小篆に由来する字形に改めたものも、多く採用している。字典体の字は、干禄字書系統の字や、それまで通用していた楷書体を無視して小篆の字形から楷書の字形を機械的に復元した字などが採用されているため、必ずしも伝統的に用いられてきた楷書に従っていない字形も多い。

康熙字典が広く流布されたため、これを楷書に由来する今までの明朝体の字形と区別して、「康熙字典体」などと呼ぶ。ただし、康熙字典では、皇帝の名を忌避して闕画をする字もあるなど(玄など)、必ずしも普遍的な正字とは云えず、それを訂正したものを「所謂康熙字典体」と呼ぶ。しかし金属活字開発において、正字の規範としてこの字典が用いられたため、年次が下るにつれて「所謂康熙字典体」或は「康熙字典体」に近づく傾向を見せる。

当用漢字・常用漢字

当用漢字1946年)は、1920年代から具体化してきた漢字略字化案(臨時国語調査会「常用漢字」(1923年)など)をもとに、日本の国語審議会が制定したもので、1850字を定め、このほかの字は使わないとしたものであった。当用漢字では字体については調査中であるとしたが、後に当用漢字字体表(1949年)が告示された。この際、楷書や草書などで行われていた字体や、康熙字典体に対する俗字や通用字をもとに、多数の新字体が採用された。後に人名用漢字ができ、字数制限は有耶無耶になった。さらに、1981年に制定された常用漢字は、目安であるとされ、漢字の使用を厳重に制限する意図はなくなったが、新聞、教育、官庁などでは、現在でも常用漢字以外の漢字の使用を事実上制限している。

主に日本で使用される。

旧字体

当用漢字で、新しい字体が標準とされ、それと対する形で生まれた概念。おおまかには康熙字典体と一致するが、そもそも戦前においては教科書などでも複数の字体が行われて統一がなされていなかったので、厳密に個別の文字について旧字体が何をさすのかといえば議論が生じる余地がある。下に示す繁体字と字形が一致するものが多いが、国字や異体字のために異なるものもある。対義語は新字体

簡体字

簡体字(かんたいじ、简体字)あるいは簡化字(かんかじ、简化字)と呼ばれ、1960年代中華人民共和国で制定された正字体系。 1960年代に中国大陸で広められ、中国本土及びシンガポールで使用されている。

詳細については簡体字を参照。

繁体字

繁体字(はんたいじ、繁體字)または正体字(せいたいじ、正體字)と呼ばれ、台湾香港マカオ華僑の間などで使用されている。また、韓国ではハングル専用政策により使用頻度は少ないが、漢字を使用する際には繁体字を使用する。

漢字繁体、正体、正体字、中文繁体、繁体、繁体漢字、繁体字、繁体中文、老字とも言う。

詳細については繁体字を参照。

新字形

中華人民共和国における康熙字典体に代わる標準印刷字体。より筆記体に近い字体が採用され、減画や異体字の整理がなされている。簡化字と混同されることがあるが、簡化字・繁体字を含めた字体体系である。新字形を参照。なお、中国の漢字学においては、字形と字体を一般に区別しない。

異体字

同一の文字観念を有する複数の字体であり、実際の使用される文章においては、異体字は相互に置換が可能である。正字体に対して異なる字体を異体字というのと同様に、正字体も別の字体にとっては異体字であり、その関係は相互的である。漢字はその字形のゆれが大きく、また、書体の変遷により、異なる字体を持つことが多い。複数の字体が同一の文字について許容されることもあるが、結果として、別の意味が割り当てられ、その用法が区別されるようになるともはや別字となる(「吊」と「弔」、「著」と「着」、「句」と「勾」、「笑」と「咲」など)。「協」と「叶」は本来、同字の別体であったが、意味が分化し、日本では「かなう」、中国の簡体字では「葉」の意になるなど、国ごとの分化さえ見られる。日本では、壬申戸籍1872年)の作成の際にあった誤字や書き癖が、戸籍にある字形を尊重した結果、当用漢字・常用漢字に対しての異体字として認知されるにいたる場合も多い。

古字(古文)は、始皇帝による漢字統一以前に各地方で使用されていた字や、大篆(籀文)などの隷書以前の字体を楷書化したものである。「一」に対する「弌」、「協」に対する「叶」など。

俗字通字とは、正字に対して通用(書写)に使われる字体という意味で、正字規範の高まりと共に認知されるにいたった。俗字には別の部品を当てるもの、同じ音をもつ部品を当てるもの、画数を減らすもの、別の部品を付け足すもの、異なる発想で会意字を作るものなどがある。

異体字の事例

異体字は次のようなものに分けられる。

  1. 字体の構成要素の位置が異なるもの。
    例.隣・鄰、和・咊、飄・飃、峰・峯、群・羣、鵝・鵞、鑑・鑒、慚・慙、晰・晳、稿・稾、雜・襍…
  2. 異なる音符を使ったもの。
    例.棲・栖、綫・線、麪・麺、卻・却、筍・笋、窯・窰…
  3. 異なる意符を用いたもの。
    例..効・效、秘・祕、嘆・歎、睹・覩、暖・煖、器・噐、収・收、詠・咏、唇・脣、罰・罸、考・攷…
  4. 一方が形声で作られ、一方が会意で作られたもの。
    例.涙・泪、巌・岩、渺・淼、拏・拿、逃・迯…
  5. 会意や形声の仕方が異なり、字体上の共通項がないもの。
    例.體・体、同・仝、奔・犇…
  6. 略体や書き癖、運筆の連綿によって生じたもの(※竹冠と草冠、「口」と「ム」、「ハ」と「ソ」などは頻繁に相互置換される)。
    例.著・着、吊・弔、亰・京、句・勾、曾・曽…

異体字の認定

一般に字義・字音が同じであり、同じ文脈で交換して使用可能なものを異体字と認定できる。すべての字義において交換可能なものもあるが、一部の字義にのみ通用される異体字もある。

ただし、特に中国では字義・字音の歴史的な変化により、認定に難しい問題がある。第1には、古代の字音が同じでないもの。例えば、寔(ショク、shi2)と實(実)(ジツ、shi2)は「まこと」という意味、置(チ)と寘(シ、zhi4)は「おく」という意味であり、同音同義語であるが、日本漢字音を見て分かるとおり、古代音においては異なっていた。第2に古代において本義を異にするもの。「修」と「脩」、「彫」と「雕」などは同音同義語であるが、古代において本義が異なる字であった。これらは現代語の観点から言えば、異体字と認定できるが、古語の観点から言えば、異体字と認めることができないものである。

逆に、古代において異体字であったものが、後には意味の棲み分けをして異体字関係でなくなったものがある。例えば、先秦・漢代の文献で「諭」と「喩」はともに「さとす・たとえる」の意味をもち、通用されているが、後には「さとす」は「諭」、「たとえる」には「喩」が使われるようになった。特に意符を異にする異体字間でこのような事例が多い。

なお異体字関係にある文字がすべて正字・俗字に分けられるわけではない。時代の流行、個人の趣向などにより同様に広く使われてきたものが多い。また「椀」や「碗」、「槍」や「鎗」、「鉱」や「砿」など同音同義語であるにもかかわらず、材質という細かなニュアンスの違いなどでも次々に異体字が作られる。これらを一概に整理統一することは非常に困難である。

文字集合と異体字

JIS X 0208などの文字集合では基本的に情報交換用の文字を示すのが目的であるため、異体字ごとにコードポイントを割り振ったりはしないことが原則である。(ただし固有名詞対応の必要性などから、複数の異体字に個別のコードが与えられているケースが多数見られる)。そのため、コンピュータ上で表示される文字は、フォントを作る場合にその一例として採用した文字にすぎない。符号上は正しい文字だがフォントの関係上意図していた字体と違う場合も多く、異体字を包摂(1つのコードポイントに異体字を統合)せずに別にできる方法が必要という声もある。例えば、所謂「髙=はしごだか」と「高=くちだか」では符号区点は1つしかないが、別のコードポイントを与えるべきだとの声もある。

Unicodeでも基本的に事情は同様であるが、その一方で、さまざまな既存の規格を取り込む際に「原規格分離(source code separation)の原則」によって異体字に別のコードポイントが与えられたものもあり(「髙=はしごだか」と「高=くちだか」もこれに該当)、さらに混沌としている。 Unicodeでは、漢字の異体字の問題については、「異体字タグ」(variant tag) の導入により包括的な解決を企図するとしていた。実際に、Unicode 3.2 では異体字タグは「異体字セレクタ(異体字選択子) Variation Selector」という名称で、16文字分(U+FE00〜U+FE0F)が、Unicode 4.0では240文字分(U+E0100〜U+E01EF)が追加された。規格書には「先行する1文字と組み合わせることによって、あらかじめ定義付けされた異なる字体を任意に選択できる」とあり、理屈の上では1文字につき256種類の異体字情報を持つことが出来るようになった。しかし、その後、実装に際しての議論は深まっておらず、グリフの対応表も未完成であり、OSやアプリケーションへの実装も具体化していないため、Unicodeの異体字セレクタを利用して漢字の異体字を表現できるようになるのはまだ当分先のことと思われる。

現状、文字コードに依存せず異体字を切り替えるには以下のような手法が取られている。

  1. フォント切り替え(裏フォント方式)
    同じコードポイントに異体字を収録したフォントを複数(異体字の種類分)用意し、それによって切り替えを行う。
  2. CIDフォントOpenTypeフォントによる字体切り替え
    CIDフォント、およびその後継であるOpenTypeフォントは、1つの文字コードに複数のグリフを関連付けさせたテーブルを内蔵しており、Adobe-Japan文字集合に対応したOS、アプリケーションで字体切り替えが可能となっている。

上記の手法はいずれもフォントに依存した異体字切り替えであり、異なった環境同士での情報交換にはフォント埋め込みなどの手段が必要とされる。フォント埋め込みが出来る文書フォーマットとしては「PDF」が代表として挙げられる。また、Adobe-Japan文字集合には未対応だが「MS Word」もフォント埋め込みに対応している。他に、Internet ExplorerとWindowsを使用する環境に限られるが「Web Embedding Fonts Tool (WEFT)」[1]を利用すればWEBページにフォントを埋め込むことも出来る。

参考文献

外部リンク