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旋光

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旋光(せんこう)とは、直線偏光がある物質中を通過した際に回転する現象である。この性質を示す物質や化合物は旋光性あるいは光学活性を持つ、と言われる。不斉な分子(など)の溶液や、偏極面を持つ結晶(水晶)などの固体、編極したスピンをもつ気体原子・分子で起こる。糖化学ではシロップの濃度を求めるのに、光学では偏光の操作に、化学では溶液中の基質の性質を検討するのに、医学においては糖尿病患者の血中糖濃度を測定するのに用いられる。

歴史

直線偏光の向きが回転する現象は、1800年代初頭、分子の性質が理解される前に既に観測されていた。ジャン=バティスト・ビオは初期の研究者の1人である。その頃からグルコースなど単純な糖の溶液の濃度を測定するのに簡単な旋光計が用いられていた。実際、グルコースの1つであるブドウ糖(右旋糖、dextrose)の名称は、直線偏光を右 (dexter) 側に回転させる性質に由来する。同様に、フルクトース(左旋糖、levulose)は左 (levo) 側に回転させる事から命名された。フルクトースの左旋性はグルコースの右旋性よりもずっと強く、フルクトースをグルコースの溶液に加える事によって得られる転化糖の名称は、反応によって旋光の向きが逆転することが元になっている。

理論

光学活性は複屈折の一種である。直線偏光は右円偏光 (right-hand circularly, RHC) と左円偏光(left-hand circularly, LHC) の和によって表わされる

ここで E は光の電場である。2つの円偏光の位相差 2θ0 から、直線偏光の向きは θ0 となる。光学活性な物質中では2つの円偏光の屈折率が異なり、この差が光学活性の強さとなって現れる

屈折率の差はその物質固有のものであり、溶液の場合は比旋光度 (specific rotation) として定義される。距離 L の物質を通過したあと、2つの偏光の位相差は次のようになる

ここで λ は真空中での光の波長である。結局、偏光は角度 θ0 + Δθ だけ回転する。

一般的に、屈折率は波長に依存する(分散を参照)。光の波長変化に伴う偏光の回転量変化は旋光分散 (optical rotatory dispersion, ORD) と呼ばれる。ORD スペクトルと円二色性 (CD) スペクトルはクラマース・クローニッヒの関係式 (Kramers-Kronig relation) によって関連付けられる。片方のスペクトルについて完全な情報が得られれば、もう一方は計算によって求めることができる。

まとめると、旋光度は光の色(ナトリウム D 線の波長 589 nm 付近の黄色い光が一般的な測定に用いられる)、経路長 L、および物質の性質(比旋光度 Δn および濃度)に依存する。

利用される分野

溶液中の純物質の場合、色と経路長が一定で比旋光度が分かっているならば、観測された旋光度から濃度を求めることができる。このため旋光計は糖シロップの商業取引の際の重要な装置となっている。また、化学においては、光学活性な化合物を不斉合成した際、得られた生成物の光学純度を決定するための方法の1つとして用いられる。

磁場中では全ての分子は光学活性を持つ。ある物質中を伝播する光の向きに配向した磁場は、直線偏光の偏光面を回転させる。これはファラデー効果と呼ばれ、光と電磁場の影響を関連付ける最初の発見の1つである。

光学活性や旋光現象を円偏光と混同してはならない。しばしば、円偏光は直線偏光が伝播に伴って回転するものだと表わされる。しかし、この考え方では、偏光は波長に等しい長さ(およそ 1 マイクロメートル)だけ進んだ時にちょうど1周することになり、これは真空中でも起こり得る。これに対し、旋光は物質中でのみ現れるものであり、物質によって異なるが大体数ミリメートルから数メートルの長さを進んだ時に1周する。

関連項目