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敬語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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敬語(けいご)は、言葉で表現する主体(書き手、話し手など)と客体(読み手、聞き手)やその話題中の対象となる人との上下関係、話題中の人物同士の上下関係などを言葉の内に表現するために用いられる語法。

概要

ここでいう上下関係とは年齢や地位といった社会的な関係に固定されたものではなく、相手が商売上の客であったり見知らぬ人であったりする場合にも使われ、場面によって変化する。親しさ・疎遠さとも関係している。また、暗に相手を見下したりするために用いられることもある。話者の他者への敬意の有無・程度をそのまま反映しているとは限らないが、言葉とは敬語に限らず話者の本意を表しているとは限らぬものである。

日本語などで発達しているが、ヨーロッパ近代語では日本語ほど体系的には発達していない。ヨーロッパ近代語に敬語があるかないかは敬語の定義次第である。敬語を広く「人物間の上下関係や親疎関係を反映した言語表現」と定義すれば、英語で丁寧な命令文に please を付けることなど英語を学習し始めた者でも知っている例を始め、学校や軍隊で生徒や兵士の教師や上官に対する応答の文末に sir/madam を付ける例、大陸語における2人称代名詞の敬称(動詞の活用も3人称など本来の二人称形と異なる形を用いる)が存在する例などヨーロッパ近代語にも敬語があるといえる。英語の二人称代名詞である you も、もともとは敬称であったものが、敬称でない thou が全くといっていいほど使われなくなった結果、敬称として意味を成さなくなったものである。つまり、かつての英語話者が家族であろうと親しい友人であろうと常に敬称のみを使っていたために、敬称でない形の thou が忘れ去られるに至ったわけである。しかし、日本語のように「人物間の上下関係を反映した言語表現が体系的に文法化された形式」をもつものに限って定義すればヨーロッパ近代語には敬語はないことになる。また、敬語は現代においては主に第三者等との会話で使用され、見知らぬ相手との円滑なコミュニケーションを促す役割も持つ。

敬語の用法は文化によって異なる上下関係に依存しているため、非母語話者にとっては学習上の難点となることがある。日本語の場合は、外国人でも教科書を丸暗記すれば「正しい敬語」が使えるので、むしろ学習が容易だとする意見もある。日本語ほど体系立った敬語を持たない言語では敬意を表す上で抑揚、発音、表情、態度、話の運び方など表面上の言語表現以外に頼る部分が日本語より大きく、活字化しにくいこれらの要素のほうが非母語話者にとっては学習が難しいというわけである。

近年、敬語という語は、差別的なものに関わるという批判や、目上に対するものだけを意識したもので目下に対する言語表現が無視されているという批判から、待遇表現という人間同士の様々なつきあいの中で見られる言語形式の一部として取り上げられることがある。

昔は親に対して敬語を使うのが基本とされていたが、現在だと親に対しての敬語は距離感の象徴(継子が継母を名前+“さん”付けで呼び「お母さん」と呼ばなかったり)と受け取られる。

日本語における敬語表現

一般的には敬語を尊敬語謙譲語丁寧語の三つに分類する。日本語学においてはさらに丁重語・美化語を立てた5分類が多く使われている。文部科学大臣及び文化庁長官の諮問機関である文化審議会も、2007年に、尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ(丁重語)・丁寧語・美化語の5分類にするという敬語の指針[1]を答申した。

敬語にはその性質上、話題中の人物を高めるもの(素材敬語)と話し手が対面している聞き手を高めるもの(対者敬語)があるが、5分類は、従来の3分類を元に、両者を区別することで定義されたものである。また美化語は「敬語」からは外されることが多い。

3分類 5分類 特徴
尊敬語 尊敬語 素材敬語 話題中の動作の主体が話し手よりも上位であることを表す語
謙譲語 謙譲語 話題中の動作の客体が話題中の動作の主体よりも上位であることを表す語
丁重語 対者敬語 聞き手が話し手よりも上位であることを表す語
丁寧語 丁寧語 聞き手が話し手よりも上位であることを表す語尾の「です」「ます」「ございます」など
美化語 - 上品とされる言い回し・言葉遣い

尊敬語

話題中の動作や状態の主体が話者よりも上位である場合に使われる。動詞助動詞 (国文法)形容詞の語形変化を指すが、名詞の語彙を変えることも尊敬語に含む場合がある(例:だれ→どなた)。普段の会話ではあまり使われず、接遇の際に用いられることが多い。

動詞の語形変化には以下のような方法がある。

  1. 語彙自体を変える - 例:いる・行く→いらっしゃる。食べる→召し上がる。見る→ご覧になる。する→なさる。
  2. お/ご~(i)になる - 例:待つ→お待ちになる。掛ける→お掛けになる。
  3. お/ご~(i)です - 例:待つ→お待ちです。掛ける→お掛けです。
  4. a-れ/られ - 例:待つ→待たれる。掛ける→掛けられる。

形容詞・形容動詞の語形変化には語の前に「お/ご」を付ける。

  • 忙しい→お忙しい。多忙→ご多忙。

人名には後に「様」「さん」「殿」「陛下」「先生」「先輩」「閣下」「社長」「部長」などをつける。

名詞には前に「お」「ご」「御(おん)」「み」「尊」「貴」「玉」などをつける。通常大和言葉には「お」を、漢語には「ご」を付けることが多い。「お」「ご」の2つは美化語としても用いられる。「み」以降は付けられる名詞が決まっており、造語力が低い。

  • 車→お車
  • 亭主→ご亭主
  • 心→お心、み心(表記は「御心」で同一)
  • 父→ご尊父
  • 会社→貴社
  • 原稿→玉稿

尊敬語はその昔、階級によりその用い方が決められていたものがある。今日においても皇室典範などや慣習によって、それらの用い方も残っているケースもある。ただ、日常ではあまり耳慣れない言葉のため、崩御なども単に「死去」や「お亡くなりになる」などと表現することもある。

  • 誕生
    • ご誕生が一般的だが、古くは皇族の誕生を降誕といった。
  • 死亡
    • 法皇・上皇・天皇・三后の死去 - 崩御
    • 親王・大臣の死去 - 薨御
    • 皇族・三位以上の公卿の死去 - 薨去
    • 五位以上の貴族の死去 - 卒去
    • それ以下の人物の死去 - 逝去

謙譲語

話題中の動作の客体(間接的である場合もある)が話題中の動作の主体よりも上位である場合に使われる。そのため謙譲語は話題中に2人以上の人物が登場しなければならない。動作の主体を謙(へりくだ)す言い方であり、主体=話し手の場合には自分が謙ることになる。

動作の客体となる人物は聞き手でも第三者でもよく、動作の主体は話し手・聞き手・第三者の誰でもよいのであるが、会話の場にいない人物への敬語が使われなくなってきたため、動作の客体が聞き手、動作の主体が話し手である場合が多くなっている。これを受けて謙譲語の一部は、動作の客体がいない場合でも使え、聞き手に対する敬意を表す丁重語としても使われるようになった。各種日本語の調査において誤用がもっとも多いとされ、現在ではやや衰退しているといえる。「やる」の謙譲語の「あげる」のように、謙譲の意味が薄れている語もある。

語形変化には以下のような方法がある。

  1. 語彙自体を変える - 行く→伺う。見る→拝見する。する→致す。
  2. お/ご~(i)する - 待つ→お待ちする。掛ける→お掛けする。相談する→ご相談する。
  3. お/ご~いただく・申し上げる - 買ってもらう→お買いいただく。辞退する→ご辞退申し上げる。

名詞に関しては規則的に謙譲語を生成することができないが、下記のような例がある。

  • 茶→粗茶
  • 品→粗品
  • 贈り物→つまらない物
  • 妻→愚妻(同様に愚息、愚兄、愚弟、愚妹)
  • 著作→拙著
  • 理論→拙論
  • 当社→弊社

なお、物を贈る際に「つまらないもの」と称することが日本語独特の表現のように言われることがあるが、英語でも"This is my little gift to you."(小さな贈り物です)のように、自らの贈り物について謙遜する表現は珍しくない。

また、向かう先のある名詞に関しては接頭語「お/ご」を付けた形も謙譲語として用いられる。

  • 手紙→お手紙を差し上げる。辞退→ご辞退を申し上げる。ご連絡を差し上げる。

これらは同じ語形で尊敬語とも謙譲語ともなるので、注意が必要である。

  • 先生へのお手紙。お客様へのご連絡。- 謙譲語
  • 先生からのお手紙。お客様からのご連絡。- 尊敬語

丁重語

“ていちょうご”。聞き手が、話し手よりも上位であることを表す動詞の語彙をいう。必ず丁寧語「ます」を伴うことが特徴である。また話し手は、話題中の動作主であるか動作主と同じグループに属する。従来、謙譲語として扱われてきたものであるが、謙譲語と違って動作の受け手が存在しなくてもよい。その多くは謙譲語を兼ねているが、丁重語だけに使われるものに「おる(おります)」がある。たんに丁寧語「ます」だけを使うよりもより丁寧である印象を相手に与える。このため自分を上品に見せるための美化語に分類する人もいる。

  • 今、自宅にいる→今、自宅にいます→今、自宅におります
  • 出張で大阪に行った→出張で大阪に行きました→出張で大阪に参りました
  • 山田と言う→山田と言います→山田と申します

丁寧語

聞き手が話し手よりも上位である場合に使われる語をいう。広義として聞き手に対する配慮を表すもろもろの語を含める場合があるが、文法的に語末に使われる現代語の「です」「ます」「ございます」、古語の「はべり」「候ふ」などを指す。日常会話で単に「敬語」といった場合、この丁寧語を指すことが多い。

聞き手が上位の場合の「です・ます」で終わる文体を敬体、同等や下位にある場合に使われる「だ」や動詞・形容詞の終止形で終わる文体を常体と呼ぶ。

丁寧を表す語形変化は以下の通りであるが、文法カテゴリーに応じて語彙を変える場合があり、文法的には丁寧語というよりも丁寧体として分析される。

  1. ます - 見る→見ます(意志)/見た→見ました(過去)/見ない→見ません(否定)/見よう→見ましょう(勧誘)…
  2. です
    1. 形容詞 - 忙しい→忙しいです(現在)/忙しかった→忙しかったです(過去)/忙しくない→忙しくありません(否定)/忙しいだろう→忙しいでしょう(推測)…
      • ウ音便を用いて「ございます」に接続させる形(例:忙しゅうございます)が正しい丁寧体とされてきたが、現在は非主流となりつつある。
    2. 形容動詞 - きれいだ→きれいです(現在)/きれいだった→きれいでした(過去)/きれいではない→きれいではありません(否定)/きれいだろう→きれいでしょう(推測)…
    3. 名詞+コピュラ - 学生だ→学生です(現在)/学生だった→学生でした(過去)/学生ではない→学生ではありません/学生だろう→学生でしょう(推測)…

美化語

美化語とは話者が聞き手に上品な印象を与えるために使う語のことである。文法的に見て敬語とは言えないが、聞き手に対する配慮を示しているということで敬語に準じるものとされることが多い。これを丁寧語に分類する人もいる。名詞に「お」や「ご」を付けたり、語彙を変えたりして作られる。これには普通に使われるもの、男女に差があるもの、たまに使われるものなどレベルが分けられる。また丁重語を美化語に入れる人もいる。美化語の中には女房言葉に由来するものも多い。

  • 「お/ご」をつける - 店→お店/茶→お茶/菓子→お菓子/食事→お食事/飲み物→お飲み物/下劣→お下劣/下品→お下品…
  • 語彙を変える - めし→ごはん/腹→おなか/便所→お手洗い

不規則動詞一覧

以下は「お~になる」「~れる・られる」「お~する」ではなく、補充形が用いられる動詞である。

一般 尊敬語 謙譲語 丁重語
ある     ございます
いる
いらっしゃる
おいでになる
見える・お見えになる(来る)
  おります
行く 伺う
参る
参ります
来る
もらう   いただく
頂戴する
拝領する
 
あげる   さしあげる  
くれる くださる    
する なさる いたす いたします
言う おっしゃる 申し上げる
申す
お耳に入れる
申します
聞く (お耳に入る) 伺う
うけたまわる
拝聴する
 
見る ご覧になる 拝見する  
会う   お目にかかる  
知る ご存じだ 存じ上げる 存じています
思う 思し召す 存じる 存じます
着る お召しになる    
食べる 召しあがる   いただきます
飲む
寝る お休みになる    
死ぬ お亡くなりになる    
借りる   拝借する  

敬語以外の待遇表現

敬語以外の待遇表現も話題中の人物に関する素材待遇表現と、聞き手に対する対者待遇表現に分けられる。素材待遇表現には、尊大語・侮蔑語がある。対者待遇表現は丁寧語である「です・ます」をつけないぞんざいな語を用いることで聞き手が同等あるいは下位であることが表現される。また、特に聞き手を卑下し、罵倒する表現を卑罵語として分類することがある。

尊大語

通常の敬語表現とは逆に、相手の側に謙譲語を、自分の側に尊敬語を使う表現。万葉集の頃から見られる表現だが、絶対的な身分の違いを前提とした表現なので、そのような身分関係のない近年では日常会話に冗談以外で用いられることは無い。

「正しい敬語」が体系づけられる前からあるものなので昔の人はそのようには意識していなかっただろうが、現代の学校教育を受けた者にとっては、敬語の使い方をわざと間違えることで相手に対する軽蔑や自らの身分の高さを表すものだと考えると分かりやすいかもしれない。

今日、尊大語が見られるのはフィクションの中が主である。時代劇においてお殿様が使ったり、ファンタジーの魔王クラスの悪役やSFにおいて人類を見下す悪魔のような存在が使ったりする。キャラの強さや魅力の演出、あるいは一種のギャグとして使われることも多い。

  • 貴様を倒すのはこの○○だ。(自らに尊敬語の「様」を付加)
  • 呼ぶまでそこで待っておれ(「居(い)る」の謙譲語「おる」を相手に対して使用)
  • 車を用意致せ(時代劇に現れそうな例)
  • 人間どもよ、崇め奉るがよい(ファンタジーやSFに現れそうな例。私どもに見られる謙譲語の「ども」を相手への呼びかけに用いると同時に、謙譲語「奉る」を相手の動作に付している)

また天皇家は現代の日本において唯一絶対的な身分の違いを有していると(歴史的経緯から)みなされることも少なくないため、自敬表現が用いられることがある。

  • (かぐや姫を帝の妃として入内させたなら)翁に冠を、などか賜はせざらん(竹取物語五、帝の求婚。帝が自ら尊敬語の「賜はす」を用いている)

尊大語が通常の尊敬語と謙譲語を逆用することによって話題中の人物が下位であることを示すものであるのに対し、尊敬語とは逆の機能をもち、話題中の人物が話し手よりも下位であることを示すために用いられる語彙や言語形式がある。これを侮蔑語あるいは軽卑語という。ある種の下品な表現のためあまり注目されないが、日本語の待遇表現の一角を成すものではある。

謙譲語とは動作の主を低めるという機能は同じだが、謙譲語が動作の受け手を相対的に高めることに主眼があるのに対し、侮蔑語はもっぱら動作主を低めるために用いられる。

動詞には「~やがる」「~くさる」「~よる」など侮蔑の助動詞を接続するほか、「死ぬ-くたばる」「食べる-食らう」「言う-ぬかす/ほざく/こく」など、特別の形をもつものもある。

名詞には「糞」「腐れ」などを前置する。

人名に関しては、呼び捨てにすること自体が軽蔑表現になる他、「~の野郎」「~のガキ」のような表現がある。

方言における敬語表現

敬語(あるいは待遇表現)の運用に関しては、地域差が存在する。西日本の多くの方言では、尊敬語・謙譲語・丁寧語あるいは素材敬語・対者敬語ともに発達している。特に京都などでは、第三者(身内含む)の話題をする際には第三者の動作に必ず敬語・待遇表現が伴うなど、現代共通語とは異なった敬語・待遇表現の発展が見られる。

一方、東日本では西日本ほど敬語が発達せず、対者敬語だけの方言がほとんどである。特に西関東(東京を除く)と山梨・静岡では尊敬語が、福島東部・栃木・茨城では敬語そのものが発達しなかった。共通語の基となった江戸・東京方言の敬語も、敬語が未発達だった関東のなかにあって、中世から近世にかけて京都方言の敬語が接ぎ木されて成立したものである。共通語の敬語において「お寒くございます」「ありませない」とは言わず、「お寒ございます」「ありませ」のような西日本的な語形が使われるのはその名残である。

各地方特有の敬語表現は、旧来の身分制度の変化や共通語の敬語の普及から、軽い敬語表現を除き、高齢層以外ではほとんど廃れている。しかし、共通語の敬語を用いる場合でも地域差は存在し、例えば東日本(特に関東地方)では「お…になる」を、西日本(特に中国地方)では「…れる」を多用する傾向がある。

参考文献

朝鮮語における敬語表現

朝鮮語にも日本語と同様に尊敬語・謙譲語・丁寧語の3種類が用言文法範疇として存在する。

尊敬語

用言の尊敬語は語幹に尊敬を表す接尾辞(日本語の助動詞に相当する要素) -- -si- を付けることによって形づくられる。また、- it-(いる)、- meok-(食べる)、- ja-(寝る)など一部の用言は語彙自体を尊敬語彙に入れ替えて尊敬語を作り、日本語とよく似ている。ただし、語彙自体を入れ替える尊敬語の場合にも、尊敬を表す接尾辞 -- -si- を語形内部に含んでいる。

  • - bo- 「見る」― - bosi- 「ご覧になる」
  • - it- 「いる」― - gyesi- 「いらっしゃる」(語彙を入れ替える例)

朝鮮語では日本語のようにウチとソトで尊敬語の使用を変えるということはなく、親や兄姉・先輩など身内の動作・状態に言及する場合も尊敬語を使う(絶対敬語)。

  • 아버지는 지금 안 계십니다 abeojineun jigeum an gyesimnida 「父は今いません」(逐語訳:父は今いらっしゃいません)

ただし、上下関係に関して相対的な敬語も用いられうる。例えば、父親に関する話を祖父にするときには父親が主語となる動作であっても尊敬語を用いない。

一部の助詞に尊敬形がある。

  • 동생 dongsaengi 「弟が」 ― 아버지께서 abeojiggeseo 「父が」
  • 동생에게 dongsaengege 「弟に」 ― 아버지 abeojigge 「父に」

名詞の中には尊敬形を持つものもあるが、名詞の尊敬形は文法化されておらず、一部の語彙に散発的に見られるのみである。

  • bap 「ご飯」 ― 진지 jinji 「お食事」
  • 나이 nai 「とし」 ― 연세 yeonse 「ご年齢」
  • mom 「体」 ― 옥체 okche 「お体」

謙譲語

もともと朝鮮語には謙譲を表す接尾辞 -- -op-、-- -sap-、-- -jap- があったが、現代においては老人がいかめしい文語調の手紙文などで稀に用いるだけで、日常生活ではほとんど用いられない。

  • 소식을 듣 sosigeul deutjapgo 「知らせをお聞きし」

現代朝鮮語では、いくつかの用言に謙譲語が存在するだけで、文法的な手段で個々の用言から謙譲形を作ることはない。

  • - ju- 「やる」 ― 드리- deuri- 「差し上げる」
  • - mut- 「尋ねる」 ― 여쭙- yeojjup- 「伺う」
  • - bo- 「会う」 ― - boep- 「お会いする」

上記の謙譲語の例のうち、드리- deuri-(差し上げる)は補助動詞「(…して)差し上げる」としても用いられる。この場合の謙譲形は極めて生産的である。

  • 봐 드리- bwa deuri- 「見て差し上げる」
  • 읽어 드리- irgeo deuri- 「読んで差し上げる」

丁寧語

朝鮮語学では待遇法あるいは階称と呼ぶ場合が多い。丁寧―ぞんざいのレベルは上称・中称・等称・下称・略待上称(親しい上称)・略待(半言)の6種類があり、日本語より複雑である。6種類の待遇表現は話し手と聞き手の社会的関係などによって使い分けられる。- ha- (する)を例にとると、以下のように使い分けられる。

  • 합니다 hamnida(上称):主に演説・放送のアナウンスなど公的な場で用いるいかめしい丁寧語。
  • 하오 hao(中称):老年層の夫婦間などで用い、若い世代では用いられない。本来は丁寧語であったようだが、現代の語感では非丁寧語として扱われる。
  • 하네 hane(等称):主に大学教授などの年配者が学生などの若者に対して用いる非丁寧語。近年、使用が減りつつある。
  • 한다 handa(下称):目下に対して用いる非丁寧語。新聞・雑誌などの書き言葉としても用いる。
  • 해요 haeyo(略待上称):日常生活で一般的に用いる丁寧語。
  • hae(略待):主に親しい間柄で用いる非丁寧語。

中国語における敬語表現

用言の丁寧形があるのはアルタイ語族的特徴である。アルタイ語族ではなくシナ・チベット語族に属し、孤立語である中国語は、丁寧語は発達しておらず、「です・ます」に相当する丁寧形の体系は存在しない。しかし、名詞における敬語が発達しており、尊敬表現としての貴・尊・令と謙譲表現としての敝・拙などの接頭辞がある。例としては、貴姓(お名前)、貴庚(ご年齢)、貴體(お体)、貴名(お名前)、貴府(お宅)、尊夫人(奥方)、令尊(お父様)、令堂(お母様)、令郎(お子さん)、敝國(自分の国の謙称)、敝眷(自分の家族の謙称)、敝公司(弊社)、拙作(自分の作品の謙称)、拙見(自分の意見の謙称)、拙夫(自分の夫の謙称)、寒舍(自分の家の謙称)などがある。

他には、「您貴姓?」(あなたの)の「您」[1]、「歓迎光臨」(いらっしゃいませ)の「光臨」(「来」の尊敬語)などがある。また、市場経済導入後の大陸において、「何かを依頼する/働きかける」ときに「…してください/したい」よりも「…することができますか/してもいいですか」という丁寧なニュアンスをもたせるために、英語の "Can you ~ ?" または "May I ~ ?" に相当する「能不能」 (neng bu neng)、可不可以 (ke bu ke yi) を使った疑問文を用いることが多くなっている。

その他の言語における敬語表現

西欧の言語ではフランス語のvous(vouvoyer)、イタリア語のlei (dare del lei)、ドイツ語のSieなど、二人称複数主格代名詞を用いる事により、敬語を表す。敬語ではない友達言葉の場合は、フランス語のtu(tutoyer)、イタリア語のtu (dare del tu)、ドイツ語のDuなど二人称単数形になる。複数形になる事により語尾の変化などにも(主として動詞の)各単語ごとに相違が現れる。

英語では#概要でも述べられているようにかつては二人称単数形thouという単語があり、それに対しての二人称複数形youがあったが、現在は二人称には全てyouを用いている。よって語尾変化による敬称と友達言葉の差異はないが、言い回しの変化や直接的表現を避ける事による丁寧語は存在する。つまり、その場に相応しい話し方をするには、日本語のように尊敬語・謙譲語・丁寧語などと分類してしまえるような単純化・形式化されたもので済ますわけにはいかず、抑揚や態度、話の運び方を含めた総合的な配慮が重要である。 、

注釈

  1. ^ 「你好」(ニイハオ)で使われる二人称の你 (ni3)(ニイ)の敬語形が您(nin2)(ニン)。なお、「你好吗?」という挨拶は英語の "How are you?" に由来し、米中・日中の国交回復以前には常用されていない(典拠:司馬遼太郎・陳舜臣『対談 中国を考える』文春文庫)。

関連項目

外部リンク