シブリー・アールキスト鳥類分類
シブリー・アールキスト鳥類分類(Sibley-Ahlquist taxonomy of birds)は、1990年代に チャールズ・シブリー、ジョン・アールクィスト、バート・モンローによって発表された鳥類の分類体系である[1] [2] [3] [4] [5]。
骨格などの形態データーを元に行われていた従来の分類方法とは大きく異なり、DNA - DNA分子交雑法という分子生物学的手法を初めて導入し、鳥類全体を同一の基準で包括的に分類した唯一の分類体系である。
鳥類分類の課題
鳥類の古典的な分類方法では形態的特徴を元に分類がなされており普及しているものの、分類に恣意性があること、進化を考慮した分類ではないこと、すなわち各目の単系統性や目間の類縁関係など不明点が多いこと、など課題が多く指摘されていた。 しかし鳥類の系統分類は以前は困難とされた。その理由は、各系統間の関係を明らかにするような化石記録があまり残されていない等である。
1990年代、チャールズ・シブリー、ジョン・アールクィスト、バート・L・モンロー (Burt L. Monroe) の共同研究者たちは、シブリー・アールキスト鳥類分類として知られる、いくつかの項目で、これまでの分類とは大きく異なる系統関係を提示した[6]。 この分類体系は形態分類にたよる従来の伝統的な分類を改革するマイルストーンとなった。その後の研究では、形態による分類手法との矛盾、ミトコンドリアDNAやRNAの塩基配列に基づいた他の分子生物学的手法との不一致も指摘されており、この分類法がそのまま現時点では鳥類学者や学会に広く受け入れられているわけではない。しかしながら、その影響は随所に浸透しているし、彼等に続いて分子生物学的手法を用いた様々な鳥類分類の試みがなされている。
現在のところ、シブリー・アールキスト分類法の登場の後、これを乗り越え、鳥類全体を網羅する分類は未だ登場していない。今後は形態学的手法、分子生物学的手法、また近年注目されている比較生物地理学や系統地理学などを包含した新しい鳥類分類へ発展することが期待されている。
※ Wikipedia日本語版では、シブリーとアールキストによる分類の項目を「記事名 (Sibley)」とすることで、他の分類系統から区別できるようにしている。
従来の分類との主な相違
Template:鳥類分類 伝統的な形態分類に比べ、シブリー・アールキスト鳥類分類は劇的に異なる分類を行っている。 目レベルでの主な相違点は以下の通り。
- コウノトリ目に、ペンギン目、タカ目、チドリ目、カイツブリ目、ペリカン目、アビ目、ミズナギドリ目を内包させた。
- アマツバメ目から、ハチドリ目を独立させた。
- ブッポウソウ目から、ヤツガシラ目とサイチョウ目に分割した。
- キツツキ目から、キリハシ目を独立させた。
- キジ目から、ホウカンチョウ目を独立させた。
- ツル目から、ミフウズラ目を独立させた。
- カッコウ目から、エボシドリ目を独立させた。
このシブリー・アールキスト鳥類分類体系に対する異論も多いが、「ミズナギドリ目とペリカン目の一部(カツオドリ、ネッタイチョウ、ペリカンなど)が近縁関係にあること」、「ペンギン目とアビ目が共通の祖先を持っていること」など、形態学的手法による分類方法でも支持されてきていた。
系統から見た評価
シブリーらが目指したのは系統分類だったが、DNA - DNA分子交雑法は、現在使われるシーケンス分析などと違い、表形分類学的であり系統分類とは相性が悪い。そのため、DNA - DNA分子交雑法による系統は、実際の系統から見ると不十分な点が多かった。
より最近の系統研究(Hackett,2008)の視点[7]から、目レベルの変更を評価すると、次のようになる。
- シブリーの拡大されたコウノトリ目は、現在「water birds」系統と呼ばれる大きな単系統を含むが、他にも多くの雑多な系統を含んだ側系統であった。根からの遺伝子距離が短いグループがまとめられるという、表形分類で予想される間違いが起こっていた(表形分類としては適切な結果とも言える)。
- アマツバメ目については、従来の分類もシブリーの分類も単系統で、分類群名と階級を変えただけにとどまった。
- 従来のブッポウソウ目は側系統だったが、離れた系統のヤツガシラ目とサイチョウ目を分離することで、改善はされていた。ただし、オオブッポウソウ科も離れた系統だったがブッポウソウ目に残されていた。
- キツツキ目については、従来の分類もシブリーの分類も単系統であった。ただし、シブリーのキツツキ目とキリハシ目は、実際は姉妹群だが別の上目に分類された。
- 従来のキジ目は単系統だったが、分割したホウカンチョウ目は側系統になってしまった。
- 従来のツル目は多系統で、分割したミフウズラ目は別系統だった。ただし、他にも多くの別系統の科が残っていた。
- 従来のカッコウ目は多系統で、分割したエボシドリ目は別系統だった。ただし、やはり別系統のツメバケイ科は残されていた。
目より上の分類では、シブリーらが新たに提唱したブッポウソウ小綱、スズメ小綱、フクロウ上目、ブッポウソウ小目、スズメ上目は、いずれも単系統ではなかった。ただし、キジカモ小綱は単系統であり、現在広く受け入れられている。
新鳥類 Neornithes の分類
Sibleyによる分類体系における目-科の一覧を以下に示す。分類の詳細構造は各目の記事を参照。 化石鳥類も含めた鳥綱 Aves 中の新鳥亜綱 Neornithes の分類体系である。
古顎下綱 Eoaves (Palaeognathae)
平胸小綱 Ratitae | ダチョウ目 Struthioniformes | |
---|---|---|
シギダチョウ目 Tinamiformes |
新顎下綱 Neoaves (Neognathae)
キジカモ小綱 Galloanserae
キジカモ小綱 Galloanserae | キジ上目 Gallomorphae | ホウカンチョウ目 Craciformes | |
---|---|---|---|
キジ目 Galliformes | |||
カモ上目 Anserimorphae | カモ目 Anseriformes |
ミフウズラ小綱 Turnicae
ミフウズラ小綱 Turnicae | ミフウズラ目 Turniciformes |
---|
キツツキ小綱 Picae
キツツキ小綱 Picae | キツツキ目 Piciformes |
---|
ブッポウソウ小綱 Coraciae
ブッポウソウ小綱 Coraciae | キリハシ上目 Galbulimorphae | キリハシ目 Galbuliformes | |
---|---|---|---|
サイチョウ上目 Bucerotimorphae | サイチョウ目 Bucerotiformes | ||
ヤツガシラ目 Upupiformes | |||
ブッポウソウ上目 Coraciimorphae | キヌバネドリ目 Trogoniformes | ||
ブッポウソウ目 Coraciiformes |
ネズミドリ小綱 Coliae
ネズミドリ小綱 Coliae | ネズミドリ目 Coliiformes |
|
---|
スズメ小綱 Passerae
鳥類進化系統図
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/28/Avesboom2.jpg)
- 近年の研究では現生鳥類の分岐はK-T境界以前にはじまることが示され、少なくとも平胸類の分岐・キジカモ類の分岐はK-T境界以前であることはほぼ確実である。従い、上図の赤線はさらに上に移動する可能性が高い。
外部リンク
the Integrated Taxonomic Information System
- 生物多様性の環境問題課題に対して、生物分類上の情報提供を行う米国政府の機関。
- シブリー・アールキスト鳥類分類を採用している。
- 近年新発見された鳥種もカバーしているため、レファレンスに便利なサイトである。
- ITIS Standard Report Page: Aves - 鳥類の分類
- ITIS Standard Report Page: Ciconiiformes - Sibley分類に特徴的なコウノトリ目の分類
資料
- On The Phylogeny and Classification of Living Birds
- Sibley & Monroe World List of Bird Names
- Sibley/A WORLD CHECKLIST OF BIRDS - book reviews
- 4Reference || Tannin/Sibley-Ahlquist taxonomy
関連
地域別野鳥一覧
8つの生物地理区(Ecozone)および、区内の地域の野鳥一覧。
他の鳥類関連項目
- シブリー・アールキスト鳥類分類
- Clements鳥類分類
- 環境省の鳥類レッドリスト
- 鳥類用語
- 鳥類の体の構造
- 鶏肉
- 潜水性鳥類、樹洞営巣性鳥類
- 鳥類の一覧(カテゴリ:鳥類古典分類)
- 鳥類の一覧の一覧 (地域別)(カテゴリ:地域別野鳥一覧)
- 鳥類学者の一覧(カテゴリ:鳥類学者)
- Bird Names for Birds - 人の名前にちなんだ名前の鳥を別の名前に変えようという2020年に始まったムーブメント。
- 日本野鳥の会(公式ページ)
- 日本鳥類保護連盟(公式ページ)
- 山階鳥類研究所(公式ページ)
- 日本鳥学会(公式ページ)
参照・脚注
- ^ Charles Sibley, Jon Edward Ahlquist and Burt L. Monroe, Jr., "A classification of the living birds of the world based on DNA-DNA hybridization studies", Auk 105, (1988), pp. 409-423.
- ^ Charles G. Sibley and Jon E. Ahlquist, Phylogeny and Classification of Birds: A Study in Molecular Evolution, Yale University Press, New Haven and London, (1990), pp. 976, ISBN 978-0300040852
- ^ Charles G. Sibley and Burt L. Monroe, Jr., Distribution and Taxonomy of Birds of the World, Yale University Press, New Haven and London, (1990), pp. 1111, ISBN 978-0300049695
- ^ Charles G. Sibley and Burt L. Monroe, Jr., Supplement to Distribution and Taxonomy of Birds of the World, Yale University Press, New Haven and London, (1993), pp. 108, ISBN 0-300-05549-8
- ^ Burt L. Monroe, Jr and Charles G. Sibley, A World Checklist of Birds, Yale University Press, (1993), pp. 400, ISBN 978-0300070835
- ^ Charles G. Sibley, On the Phylogeny and Classification of Living Birds
- ^ Hackett, SJ.; et al. (2008), “A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History”, Science 320: 1763-1768
- ^ 別名ワライカワセミ科
- ^ 別名インコ科
- ^ 別名アジアガマグチヨタカ科
- ^ 別名ミミヨタカ科
- ^ 絶滅のドードー1種のみ
- ^ 別名シロガシラ科
- ^ 別名ミミグロレンジャクモドキ科
- ^ 別名ルリノジコ科