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武器輸出三原則

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武器輸出三原則(ぶきゆしゅつさんげんそく)は日本政府による武器輸出規制の原則のことである。

経緯

佐藤首相の三原則提議

1967年昭和42年)4月21日に行われた佐藤栄作首相衆議院決算委員会における答弁[1]により、以下のような国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないこととした。

  • 共産圏諸国向けの場合
  • 国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
  • 国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合

三木首相による項目追加

1976年(昭和51年)2月27日に行われた三木武夫首相の衆議院予算委員会における答弁[2]により、佐藤首相の三原則にいくつかの項目が加えられた。

  • 三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。
  • 三原則対象地域以外の地域については憲法及び外国為替法及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
  • 武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。

また、武器輸出三原則における「武器」の定義を以下のようにした。

  • 軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの
  • 本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦戦闘機戦車のようなもの

後藤田官房長官の談話

1983年(昭和58年)1月14日に発せられた中曽根内閣後藤田正晴官房長官による談話では以下の解釈が付け加えられた。

1983年11月8日。対米武器技術供与を日米相互防衛援助協定の関連規定の下で行うという基本的枠組みを定めた「日本国とアメリカ合衆国との間の相互援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器技術の供与に関する交換公文」が締結。

対米武器技術供与

1984年11月。日米両国政府の協議機関として武器技術共同委員会(JMTC)が発足

1985年12月27日。対米武器技術供与を実施するための細目取り決めが締結。

日米間では武器技術供与は、技術ならびに技術の供与を実行あらしめるため必要な物品であって武器に該当するもの(試作品)に限定されており、その技術を用いてアメリカが生産した兵器を輸出することは許されていない。

概略

武器輸出三原則は、共産圏と国連決議による武器禁輸措置をとられた国、及び紛争地域への武器輸出を禁止したものであり、他の地域への武器輸出は「慎む」とされているため、武器輸出そのものを禁止しているわけではない。しかし、日本政府は三木首相の答弁を歴代内閣が堅持しており、基本的に武器および武器製造技術、武器への転用可能な物品の輸出をしていない。

しかしながら、近年では民生のエレクトロニクス技術向上によって汎用品が容易に軍需用途をみたすことから、汎用品と軍用品の境界が曖昧になっている。また、発展途上国では、民生品として輸出されたピックアップトラックや4WD車両、トラックなどの車輌が軍需物資輸送の兵站を支えるのに使用されたり、機関銃などを搭載してテクニカルと呼ばれる即席戦闘車輌に改造されたりするなど軍民両用が可能な民生品が輸出先で軍事目的に利用されたチャド内戦でのトヨタ戦争の例もある。

また、三原則は国際紛争に日本の技術が使用されないためとしているが、アメリカは湾岸戦争イラク戦争などで『国際紛争の当事国』となっており、後藤田長官談話の「米軍への武器技術供与」によって、日本の技術が軍事利用で戦争に使われている可能性があることは当時から問題になっている。

日本国内の防衛産業については、日本は自衛隊装備の大半を国内開発あるいはライセンス生産品でまかなう方針を採っているが、アメリカを除いて国際共同開発が行えなず、また生産数が限られている。今後の兵器開発において主流となると考えられる国際共同開発については集団的自衛権の否定とも絡み、出資、共同開発、生産分担などクリアすべき問題が山積している[3]

2007年10月18日に発足した「総合取得改革推進プロジェクトチーム」は、「効果的・効率的な研究開発に資する国際協力を推進するため、各国との技術交流をより活性化するとともに、国際共同研究・開発に係る背景や利点・問題点などについて一層の検討を深める必要がある」としており、これには日本経済団体連合会も賛成の意を表した提言を発表した。

2010年(平成22年)1月12日、鳩山内閣の北沢俊美防衛相が東京都内で行われた軍需企業の大多数が参加する日本防衛装備工業会主催の会合で「そろそろ基本的な考え方を見直すこともあってしかるべきだと思う。2010年末に取りまとめられる防衛計画の大綱(新防衛大綱)において武器輸出三原則の改定を検討する」と発言し、 見直しの内容としては「日本でライセンス生産した米国製装備品の部品の米国への輸出」や「途上国向けに武器を売却」をあげた。

2010年2月18日、鳩山首相が主催する「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の初会合が首相官邸で行われ、鳩山首相が冒頭の挨拶で「防衛体制の見直しには、継続と変化の両方が必要だ。タブーのない議論をしてほしい」と述べた。北沢防衛相は懇談会で「装備産業の基盤整備をどう図るか議論してほしいとお願いした」と述べ、武器輸出三原則の見直しを議題とするよう公式に求めたことを明らかにした。武器輸出三原則の見直しは新防衛大綱に反映される[4]

実際の運用

法について

武器輸出三原則によって原則に当てはまる武器輸出が禁止されているが、このことを直接規定した日本の法律は存在しない。外国為替及び外国貿易法と輸出貿易管理令が輸出の許可を司り、輸出貿易管理令別表第1が輸出許可品目名を規定している。輸出許可品目名は輸出に際して経済産業大臣の許可を必要とする品物を定めたもので、武器のみならず軍需転用可能な原子力、電子工学、通信、素材、加工技術等多岐にわたる。

別表の規制対象品目はワッセナーアレンジメントにおける規制対象とリンクしており、対象となる品目は適時追加されている。輸出貿易管理令別表第1

武器の不正輸出における罰則は外為法によって規程されていたが、その内容は5年以下、あるいは3年以下の懲役と科料で、それは取引額が40億円を超える東芝ココム事件においても同様で、法人への200万円の罰金と逮捕された社員への執行猶予付きの判決となった。罰則が軽いという指摘はなされ、現在ではとくに武器、大量破壊兵器、核関連設備の不正輸出に対しての罰則が強化されている。


外国為替及び外国貿易法 第六十九条の六

次の各号のいずれかに該当する者は、七年以下の懲役若しくは七百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該違反行為の目的物の価格の五倍が七百万円を超えるときは、罰金は、当該価格の五倍以下とする。

一  第二十五条第一項又は第四項の規定による許可を受けないでこれらの項の規定に基づく命令の規定で定める取引をした者

二  第四十八条第一項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める貨物の輸出をした者

2  次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該違反行為の目的物の価格の五倍が千万円を超えるときは、罰金は、当該価格の五倍以下とする。

一  特定技術であつて、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機のうち政令で定めるもの(以下この項において「核兵器等」という。)の設計、製造若しくは使用に係る技術又は核兵器等の開発、製造、使用若しくは貯蔵(次号において「開発等」という。)のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術として政令で定める技術について、第二十五条第一項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める取引をした者

二  第四十八条第一項の特定の種類の貨物であつて、核兵器等又はその開発等のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物として政令で定める貨物について、第二十五条第四項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める取引をした者又は第四十八条第一項の規定による許可を受けないで同項の規定に基づく命令の規定で定める輸出をした者

3  第一項第二号及び前項第二号(貨物の輸出に係る部分に限る。)の未遂罪は、罰する。

小型武器について

日本が軍事目的によらない武器を輸出していることはよく知られている。1972年にIRAがテロに使用した豊和工業製AR-180ライフルも、猟銃として輸出されたものである。スイスジュネーブ高等国際問題研究所が発表した2004年版の「小型武器概観」において、日本の小型武器輸出は世界第9位とされた。

進展実業ココム違反事件

ココム規制対象品であるゲルマニウムトランジスター製造設備一式をソビエトに不正に輸出したとして1966年10月に進展実業の専務取締役と第一事業部長が逮捕された。

兵庫県貿易ココム違反事件

ココム規制対象品である振動試験装置振動台付駆動コイルを中国に不正に輸出しようとしたとして、1969年7月に兵庫県貿易株式会社の輸出担当営業部長と株式会社国際機械振動研究所の取締役大阪製造部長が逮捕された。

堀田ハガネ事件

1981年に堀田ハガネが韓国の大韓重機工に砲身用鋼材を輸出し、輸出貿易管理令違反に問われた事件。関係者は不起訴。

国際交易ココム違反事件

ココム規制対象品である数値制御装置付工作機械用自動プログラミング装置のコンピュータ等をソ連に輸出したとして、1985年11月に国際交易株式会社の営業第一部長と営業第一部長代理が横浜税関に告発された。

東明貿易ココム違反事件

ココム規制対象品であるシグナル・ジェネレーター(信号発信機)等を中国に不正に輸出したとして、1987年3月に東明貿易株式会社の営業部長が逮捕された。

東明商事ココム違反事件

ココム規制対象品であるシンクロ・スコープ等を北朝鮮に不正に輸出したとして、1987年5月に東明商事株式会社東京支店の営業部長と穂高電子株式会社の営業部長が逮捕された。

東芝機械ココム違反事件

ココム規制対象品である、同時九軸制御プロペラ加工機である大型金属工作機械とその付属品をソ連向けに不正輸出するとともに、同工作機械の使用に係る技術の役務提供を行っていたとして、1987年5月に東芝機械株式会社の鋳造部長と第二技術部専任次長が逮捕された。

極東商会等ココム違反事件

ココム規制対象品であるサンプリング・オシロスコープ等を中国に不正に輸出したとして、1988年5月に株式会社極東商会の常務取締役と輸入特貨課長、新生交易株式会社の取締役貿易部長が逮捕された。

商工連幹部に係るココム違反事件

ココム規制対象品であるパーソナルコンピュータ、IC等を北朝鮮に不正に輸出したとして、1989年2月に在日朝鮮人の商工連幹部が逮捕された。

ダイキンエ業ココム違反事件

ココム規制対象品であるフロン液体の純度を偽ってソ連に不正に輸出したとして、1989年2月にダイキンエ業株式会社の営業企画部課長が逮捕された。

プロメトロンテクエクスココム違反事件

ココム規制対象品である半導体製造装置 「マスクアライナー」を東ドイツに不正に輸出したとして、1989年7月に株式会社プロメトロンテクエクスの代表取締役社長が逮捕された。

日本航空電子工業に係る武器部分品不正輸出事件

外国為替及び外国貿易管理法で輸出が規制されている空対空ミサイルの部分品であるローレロンを、シンガポール経由でイランに不正輸出していたとして、1991年8月に日本航空電子工業株式会社の代表取締役社長、相談役、専務取締役、取締役支配人が逮捕された。

トレーターズココム違反事件

ココム規制対象品である微量の光を増幅して画像処理する電子機器であるイメージ増強管を中国に不正輸出したとして、1994年3月に株式会社トレーターズの代表取締役と社員が逮捕された。

東亜技術工業外為法違反事件

外国為替及び外国貿易管理法で化学製剤として輸出規制されているフッ化水素酸及びフッ化ナトリウムを北朝鮮に不正輸出していたとして、1996年4月に東亜技術工業株式会社の社員が逮捕された。

菱光社等外為法違反事件

外同為替及び外国貿易管理法で核兵器の開発又は製造に用いられ得る工作機械その他の装置として全地域に対する輸出が規制されている測定装置を中国に不正輸出したとして、1999年2月に株式会社菱光社の代表取締役専務が逮捕された。

サンビームに係る武器部分品不正輸出事件

対戦車ロケット砲専用光学照準器の部分品である鏡内目盛板「レチクル」を複製製造し、イランに不正輸出したとして、2000年1月に株式会社サンビームの代表取締役2名が逮捕された。

ヤマハ発動機ヘリ不正輸出事件

外国為替及び外国貿易管理法で輸出が規制されている農薬などの噴霧や20リットル以上の液体の運搬などが可能な無人ヘリを中国に不正輸出したとして、2007年1月に社員3名が逮捕された。

脚注

関連項目