後天性免疫不全症候群
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後天性免疫不全症候群(こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん、Acquired Immune Deficiency Syndrome; AIDS)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が免疫細胞に感染し、免疫細胞を破壊して後天的に免疫不全を起こす免疫不全症のことである。
一般にエイズ(AIDS)の略称で知られている。
歴史
HIVの起源はカメルーンのチンパンジーという説が有力であり、そこから人に感染して世界中に広まっていったと考えられている。1981年にアメリカのロサンゼルスに住む同性愛男性(ゲイ)に初めて発見され症例報告された。ただし、これはエイズと正式に認定できる初めての例で、疑わしき症例は1950年代から報告されており、「やせ病」(slimming disease)という疾患群が中部アフリカ各地で報告されていた。1981年の症例報告後、わずか10年程度で感染者は世界中に100万人にまで広がっていった。
当初、アメリカでエイズが広がり始めたころ、原因不明の死の病に対する恐怖感に加えて、感染者にゲイや麻薬の常習者が多かったことから感染者に対して社会的な偏見が持たれたことがあった。現在は病原体としてHIVが同定され、異性間性行為による感染や出産時の母子感染も起こり得ることが知られるようになり、広く一般的な問題として受け止められている[1]。
疫学
世界
現在全世界でのヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者は5千万人に達すると言われている。その拡大のほとんどがアジア、アフリカ地域の開発途上国において見られる。サハラ以南のアフリカには全世界の60%近くのエイズ患者がいるといわれ[1]、増加傾向にある。また一部の開発途上国では上昇していた平均寿命が低下しているという現状がある。近年では中国、インド、インドネシアにおいて急速に感染の拡大が生じて社会問題化している。
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日本
1985年、初めてAIDS患者が確認され、1989年2月17日、「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」が施行。当初は大半が凝固因子製剤による感染症例(薬害エイズ事件)だった。
新規HIV感染者数は世界でも特に少ない水準にあるが、先進国の中で唯一増加傾向にある。日本人患者・感染者の現状は、同性間性的接触(男性同性愛)による感染が多く、ついで異性間性行為による感染がと続いている。静注薬物濫用や母子感染によるものは少ない。
臨床像
急性感染期
HIVの初期感染像はCDC分類にでは以下がある。いずれも感染後2-4週で起こるといわれ、多くの場合、数日~10週間程度で症状は軽くなり、長期の無症候性感染期に入るため、感染には気付きにくい。
- 急性感染 (Acute seroconversion) - 伝染性単核球症様あるいはインフルエンザ様症状
- 無症候性感染
- 持続性全身性リンパ節腫脹 (PGL)
- その他の疾患合併
上記以外にも、突然の全身性の斑状丘疹状の発疹(maculopapular rash)や、ウイルス量が急激に増加し重症化する例では、多発性神経炎、無菌性髄膜炎、脳炎症状などの急性症状を示す場合もある。しかしながら、これらの症状はHIV感染症特有のものではなく、他の感染症や疾病においても起こり得る症状であることから、症状だけで判断することは困難である。
感染後、数週間から1か月程度で抗体が産生され、ウイルス濃度は激減する。一般のHIV感染検査はこの産生される抗体の有無を検査するため、感染後数週間、人によっては1ヶ月程度経過してからでないと十分な抗体が測定されないため、検査結果が陰性となる場合がある(ウィンドウ期間 ※詳しくは下記項目:検査を参照)。
無症候期
多くの人は急性感染期を過ぎて症状が軽快し、だいたい5~10年は無症状で過ごす。この間、見た目は健康そのものに見えるものの、体内でHIVが盛んに増殖を繰り返す一方で、免疫担当細胞であるCD4陽性T細胞がそれに見合うだけ作られ、ウイルスがCD4陽性T細胞に感染し破壊するプロセスが繰り返されるため、見かけ上の血中ウイルス濃度が低く抑えられているという動的な平衡状態にある。無症候期を通じてCD4陽性T細胞数は徐々に減少していってしまう。無症候期にある感染者は無症候性キャリア(AC)とも呼ばれる。
またこの期間に、自己免疫性疾患に似た症状を呈することが多いことも報告されている。他にも帯状疱疹を繰り返し発症する場合も多い。
発病期
血液中のCD4陽性T細胞がある程度まで減少していくと、身体的に免疫力低下症状を呈するようになる。
多くの場合、最初は全身倦怠感、体重の急激な減少、慢性的な下痢、極度の過労、帯状疱疹、過呼吸、めまい、発疹、口内炎、発熱、喉炎症、咳など、風邪によく似た症状のエイズ関連症状を呈する。また、顔面から全身にかけての脂漏性皮膚炎などもこの時期に見られる。大抵これらの症状によって医療機関を訪れ、検査結果からHIV感染が判明してくる。
その後、免疫担当細胞であるCD4陽性T細胞の減少と同時に、普通の人間生活ではかからないような多くの日和見感染を生じ、ニューモシスチス肺炎(旧 カリニ肺炎)やカポジ肉腫、悪性リンパ腫、皮膚ガンなどの悪性腫瘍、サイトメガロウイルスによる身体の異常等、生命に危険が及ぶ症状を呈してくる。また、HIV感染細胞が中枢神経系組織へ浸潤し、脳の神経細胞が冒されるとHIV脳症と呼ばれ、精神障害や認知症、ひどい場合は記憶喪失を引き起こすこともある。
通常感染してから長期間経過した後に以下の23の疾患のいずれかを発症した場合にAIDS発症と判断される。
- カンジダ症
- クリプトコッカス症
- ニューモシスチス肺炎(PC肺炎=旧カリニ肺炎)
- コクシジオイデス症
- ヒストプラズマ症
- クリプトスポリジウム症
- トキソプラズマ脳症
- イソスポラ症
- サルモネラ菌血症
- サイトメガロウイルス感染症
- 化膿性細菌感染症
- 帯状疱疹/単純ヘルペスウイルスなどヘルペスウイルス感染症
- 活動性結核 (active tuberculosis)
- 非定型抗酸菌症
- 反復性肺炎
- リンパ性間質性肺炎・肺リンパ過形成
- カポジ肉腫
- 原発性脳リンパ腫
- 非ホジキンリンパ腫
- 浸潤性子宮頸癌
- 進行性多巣性白質脳症
- HIV脳症
- HIV消耗性症候群
感染経路
HIVは通常の環境では非常に弱いウイルスであり、一般に普通の社会生活をしている分には感染者と暮らしたとしてもまず感染することは無い。
一般に感染源となりうるだけのウイルスの濃度をもっている体液は血液・精液・膣分泌液・母乳が挙げられる。一般に感染しやすい部位としては粘膜(腸粘膜、膣粘膜など)、切創(せっそう)や刺創(しそう)などの血管に達するような深い傷などがあり、通常の傷のない皮膚からは侵入する事はない。その為、主な感染経路は以下の3つに限られている。
性的感染
性交による感染では、性分泌液に接触する事が最大の原因である。通常の性交では、女性は精液が膣粘膜に直接接触し血液中にHIVが侵入する事で感染する。男性は性交によって亀頭に目に見えない細かい傷ができ、そこに膣分泌液が直接接触し血液中にHIVが侵入する事で感染する。その為、性交でなくても性器同士を擦り合わせるような行為でもHIV感染が起こる恐れがある。また肛門性交では腸粘膜に精液が接触しそこから感染するとされている。腸の粘膜は一層の為に薄く、HIVが侵入しやすい為、膣性交よりも感染リスクが高い。 コンドームの着用がHIVの性的感染の予防措置として有効である。ただし使用中に破れたり、劣化した物を気付かずに使用する場合があるため、完全に感染を防ぐことができるとは言えない。コンドームの使用に際しては、信頼できる製品を使用期限内に正しい用法で用いることが推奨される。 また割礼によって感染リスクが低減するという研究結果が複数ある。傷つきやすく、免疫関連細胞の多い包皮を切除することで、HIVの侵入・感染が抑えられる為だと考えられている。 なお口腔で性器を愛撫する場合も、口腔内に歯磨きなどで微小な傷が生じていることが多く、そこに性液が接触することで、血液中にウイルスが侵入する恐れがある。
血液感染
感染者の血液が、傷、輸血、麻薬まわし打ち等によって、血液中に侵入する事で感染が成立する。特に麻薬・覚醒剤中毒者間の注射器・注射針の使い回しは感染率が際立って高い。以前は輸血や血液製剤からの感染があったが、現在では全ての血液が事前にHIV感染の有無を検査され、感染のリスクは非常に低くなっている。医療現場においては、針刺し事故等の医療事故による感染が懸念され、十分な注意が必要である。
母子感染
母子感染の経路としては三つの経路がある。出産時の産道感染、母乳の授乳による感染、妊娠中に胎児が感染する経路である。 産道感染は子供が産まれてくる際、産道出血による血液を子供が浴びる事で起こる。感染を避ける方法として、帝王切開を行い母親の血液を付着させない方法があり、効果を上げている。母乳による感染が報告されており、HIVに感染した母親の母乳を与える事は危険とされている。この場合は子供に粉ミルクを与える事によって、感染を回避する事が出来る。胎内感染は、胎盤を通じ子宮内で子供がHIVに感染する事で起こる。物理的な遮断が出来ない為、感染を回避する事が難しい。感染を避ける方法として、妊娠中に母親がHAART療法により血中のウイルス量を下げ、子供に感染する確率を減らす方法がとられている。
検査
日本での検査方法は、日本エイズ学会による「HIV-1/2 感染症の診断ガイドライン」が広く用いられている。
種類
- 血清抗体検査
- PA法(粒子凝集法)
- ELISA法(酵素抗体法)
- CLEIA法(化学発光酵素免疫法)
- IC法(免疫クロマトグラフィー法)
- IFA法(間接蛍光抗体法)
- Western Blot法
- 血清抗原検査
- 抗原抗体法(HIV-1 p24抗原検査)
- 核酸増幅検査
- HIV-1 PCR法(リアルタイムPCR法:RT-PCR法)
- HIV-1 proviral DNA法
- NAT(Nucleic acid Amplification Test)
方法
- スクリーニング
- 一般にスクリーニング用検査キットとして様々なものが市販されているが、ELISA法またはPA法によるHIV-1抗体・HIV-2抗体・HIV-1 p24抗原が同時測定が可能な第4世代キットが広く用いられるようになってきている。検査時期としては、「感染の機会があってから3ヶ月以上経過した後」での検査が推奨され、これはHIVの感染初期においては抗体が十分に作られず、血液検査では検出できない期間があるためであり、この期間を「ウインドウ期間(ウインドウピリオド・空白期間)」と呼んでおり、この間に検査を行った場合、HIVに感染していても陰性(感染なし)と判断されてしまうこともある。
- 確定診断
- 上記検査にて陽性となった場合、「Western Blot法によるHIV-1抗体・HIV-2抗体検査」と「HIV-1 PCR法検査」を施行し診断していく。
- 感染後経過
- HIV-1 PCR法によるウイルス量測定と、フローサイトメトリー法によるCD4陽性細胞数検査が行われる。CD4数は現在の病態を反映する数値である。正常ならば800~1200個/μlであるが、HIVに感染すると徐々に低下していく。500個/μl程度では帯状疱疹、結核、カポジ肉腫、非ホジキンリンパ腫、200個/μl程度ではカリニ肺炎、トキソプラズマ脳症、100個/μlではクリプトコッカス髄膜炎、50個/μlではサイトメガロウイルス、非定型抗酸菌症を起こしやすいとされている。
献血での検査
献血で採取された血液からHIVやその他のウイルスの感染の有無を調べるため、日本赤十字社による献血では現在、抗体検査やNAT検査が行われている。
献血においては安全性の面から上述の検査を行っているが、HIVの感染においては陽性であってもその結果は献血者本人に知らせる事はない[5]。「陽性であっても、その結果は献血者本人に知らせることは無い、と公表しているが、実際のところ告知を行っているかどうかは不明(場合によっては告知する場合がある)である」などという言説がよくあるが、これは全くの誤りであり、悪質なデマである。それは感染リスクのある人間が、検査目的で献血することを防ぐためである。一方で、通知しないことにより感染者が再び献血をしてしまう懸念もある。ウイルスが検出できないウインドウ期間があり、この期間に献血をしてしまうと、汚染血液が検査をすり抜けて輸血患者にウイルスを感染させてしまう。その為、決して検査目的で献血を行ってはならない[6]。
HIVの感染後に抗体を検出できないウインドウ期間はおよそ1ヶ月~3ヶ月ほどであり、ウイルスの遺伝子を特別な方法で検出するため通常の抗体検査より感度の高い核酸増幅試験(NAT検査)[7]では、感染初期の体内でウイルスが増加するウイルス血症に陥ってから(感染後~最大1ヶ月ほどと個人差がある)、平均11日から22日後に検出可能であり、NATより時間はかかるが平均22日以降では抗体によって検出が可能となる[8]。NATで検出が出来ない期間を「NATウインドウ期間」、抗体による検出が出来ない期間を「血清学的ウインドウ期間」という。感染が疑われる機会があった場合は、それから最低でも1ヶ月半以上経過の後に血液検査を行ってから献血を行うことが望まれる。
現在、NATは試薬が大変高価で検査費用が高い事、完全自動化されておらず一度に大量の検査ができない為、20検体を1つにプールしてNATを実施し(ミニプールNATと呼ばれている)、あるプール検体が陽性となった場合はプールされている20検体に対し、個別に再検査を実施し[9](個別NATと呼ばれている)、陽性の検体を特定して、その検体に対応する血液のみを輸血に使用しないという方法をとっている。
治療
現在、抗HIV薬は様々なものが開発され著しい発展を遂げてきている。基本的に多剤併用療法(Highly Active Anti-Retroviral Therapy:HAART療法)にて治療は行われる。ただ完治・治癒に至ることは現在でも困難なため抗ウイルス薬治療は開始すれば一生継続する必要がある。
ガイドライン
一般に、アメリカ保健社会福祉省(US DHHS)の治療ガイドラインが世界的に広く用いられている。 主なガイドラインには以下が存在する。
- US DHHS Guidelines:アメリカ保健社会福祉省(US DHHS)による 成人・妊婦・小児と別れて存在する
- Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents-1-Infected
- Recommendations for Use of Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1-Infected Women for Maternal Health and Interventions to Reduce Perinatal HIV Transmission
- Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection
- Guidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescents
- Guidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in Children Guidelines
- HIV感染症治療の手引き:日本のHIV感染症治療研究会による
- Antiretroviral Treatment of Adult HIV Infection:英国HIV学会(BHIVA)による
- Antiretroviral Treatment of Adult HIV Infection:アメリカ国際エイズ学会(International AIDS Society–USA)による
- HIV GUIDE:ジョン・ホプキンス大学エイズサービス(Johns Hopkins AIDS Service)による
治療開始
- アメリカ保健社会福祉省(US DHHS)の治療ガイドラインでは以下とされている。
- ※US DHHS Adult and Adolescent Guidelinesによる
治療薬
現在以下のような種類のHIVに対する抗ウイルス薬が存在する。
治療方法
基本的に、世界的に広く感染しているHIV-1に対する治療について主に記述する。HIV-2に関しては同じような治療であるがNNRTIは効果が薄い等の違いがある。
アメリカ保健社会福祉省(US DHHS)の治療ガイドラインにおける推奨レジメンは以下の通りである
推奨レジメン(Preferred Regimens) | |
NNRTIを基本としたレジメン | EFV/TDF/FTC1 |
PIを基本としたレジメン | ATV/r+TDF/FTC1 DRV/r+TDF/FTC1 |
INSTIを基本としたレジメン | RAL+TDF/FTC1 |
妊婦に対するレジメン | LPV/r+ZDV/3TC1 |
代替レジメン(Alternative Regimens) | |
NNRTIを基本としたレジメン | EFV+(ABC or ZDV)/3TC1 NVP+ZDV/3TC1 |
PIを基本としたレジメン | ATV/r+(ABC or ZDV)/3TC1 FPV/r+[(ABC or ZDV)/3TC1] or TDF/FTC1 LPV/r+[(ABC or ZDV)/3TC1] or TDF/FTC1 SQV/r + TDF/FTC1 |
許容レジメン(Acceptable Regimens) | |
NNRTIを基本としたレジメン | EFV+ddI+(3TC or FTC) |
PIを基本としたレジメン | ATV+(ABC or ZDV)/3TC1 |
許容されるがデータが必要なレジメン (Regimens that may be acceptable but more definitive data are needed) | |
CCR5拮抗薬を基本としたレジメン | EFV+ddI+(3TC or FTC) |
INSTIを基本としたレジメン | RAL+(ABC or ZDV)/3TC1 |
注意して使用するレジメン(Regimens to be Used with Caution) | |
NNRTIを基本としたレジメン | NVP+ABC/3TC1 NVP+TDF/FTC1 |
PIを基本としたレジメン | FPV+[(ABC or ZDV)/3TC1 or TDF/FTC1] |
HIV感染症治療研究会によるHIV感染症治療の手引きにおける推奨レジメンは以下の通りである
- キードラッグ(NNRTI or PI)とバックボーンドラッグ(2-NRTI)から1つずつ選択し併用する。
キードラッグ | ||
NNRTI | 好ましい薬剤 | EFV |
その他の薬剤 | NVP | |
PI | 好ましい薬剤 | ATV+RTV DRV+RTV FPV+RTV LPV/RTV |
その他の薬剤 | ATV FPV+RTV FPV SQV+RTV |
バックボーンドラッグ | ||
2-NRTI | 好ましい薬剤 | ABC/3TC TDF/FTC |
その他の薬剤 | AZT/3TC ddI+3TC |
免疫機能障害ということで都道府県に申請することにより身体障害者手帳が交付される。
免疫不全の患者は、感染量に比べると炎症は実は軽度であり、日和見感染症治療中に、HAART療法を開始すると免疫が賦活化することによって、日和見感染症が悪化することがある。これが「免疫再構築症候群(IRIS アイリス)」言い、そのようなことから、HAART療法は日和見感染症治療後に、開始することとなっている。
HAART療法は、安定期まで持っていければ、殆どAIDSで死亡することはなくなった。ガイドラインで用いられているデータも、10年生存率まで記載されており、おそらく平均余命まで行くであろうというのが、大方の予想である(HIVの発見が1981年ということを考えると、ここまでデータがあれば十分である)。
現在のHIV療法である多剤併用療法は、決して根治的な療法ではなく、血中のウイルス量が検出限界以下となっても、依然としてリンパ節や、中枢神経系などにウイルスが駆逐されずに残存(Latent Reservoir)していることが知られており、服薬を中止すると直ちにウイルスのリバウンドが起こってくる等の問題がある。基本的にHAART療法は、一生継続しなければならない。
有名な副作用としては、開始直後から出現し徐々に軽快する胃腸障害や精神障害、開始後1~3週で一過性に生じる皮疹、開始後1カ月以上経過してから生じ、持続する高脂血症、リポアトロフィー(脂肪分布の変化)、糖代謝異常(高脂血症と併せて年間30%リスクで虚血性心疾患のリスクが高まる、かつ、PIとNNRTIはスタチン系と併用禁忌)、末梢神経障害、稀だが重篤な乳酸アシドーシス(NRTIにてミトコンドリアDNA合成を阻害するため)などが知られている。
社会意識とエイズ
エイズに関する意識調査は、医学、歯学、社会学などさまざまな分野の研究者により行われており、エイズに対する社会意識の現状を報告している。研究報告の中には、依然としてエイズに対する恐怖感的・差別感的意識を持つ割合が多いとの報告や、社会的認知度の増加、正しい知識を持つなどの肯定的意見の報告などさまざまな内容である。今後、更なる社会意識を把握することにより、身体的・精神的・社会的にエイズを撲滅できる施策を講ずることが望まれている。以下に主な意識調査報告を挙げる[2]。
- 企業従業員
- 橋本浩一、茂田士郎「AIDSに関する県内一企業における従業員の意識調査」福島医学雑誌第46巻1号,p.47-55,1996.
- 黒田真理子「新入社員のエイズに対する意識調査と健康教育の必要性について」環境感染(日本環境感染学会)第11巻2号,p.147-155,1996.
- 池田京子、松崎加寿子「新入社員のエイズに対する意識調査について」日本エイズ学会誌第3巻4号,p.344,2001.
- 看護師
- 森下利子、水谷成子、富田泰子「三重県の看護者におけるエイズに関する意識調査」日本公衆衛生雑誌(日本公衆衛生学会)第40巻4号,p.323-329,1993.
- 鶴田明美、渡部節子、臼井雅美「看護師のエイズに対する知識と偏見的態度との関連」日本看護科学学会学術集会講演集23号,p.561,2003.
- 大村梨奈、倉田理恵、佐藤久美子、平山真純、布施由香梨、池田すみ子「HIVに対する看護師の意識」東京医科大学病院看護研究集録第25回,p.95-99,2005.
- 杉田美佳、金沢小百合、白石彩子、小野瀬友子、西岡みどり「「HIV患者のケアに対する看護師の不安」に関連する因子の検討 HIV患者入院数調査および看護師意識調査」日本エイズ学会誌第7巻4号,p.335.2005.
- 歯科医療従事者
- 医療系職員
- 神田浩路、ChowdhuryA.B.M.A.、EskandariehSharareh、宇佐美香織、廣岡憲造、増地あゆみ、五十嵐学、玉城英彦「札幌市における若者の性感染症に対する意識調査」日本エイズ学会誌第7巻4号,p.354,2005.
- 大学生
- 薩田清明、坂入和彦、井上節子「大学生におけるエイズ意識について」公衆衛生第61巻1号,p.44-49,1997.
- 與古田孝夫、宇良俊二、石津宏「AIDS・HIV感染に対する大学生の意識」日本性科学会雑誌第16巻2号,p.124-125,1998.
- 渡部節子、臼井雅美「大学生のエイズに対する知識と偏見的態度との関連」日本看護研究学会雑誌第28巻3号,p.202,2005.
- 大学生保護者
- 武富弥栄子、尾崎岩太、井上悦子、濱野香苗、佐野雅之「大学生保護者のHIV/STDに関する意識調査の結果」日本エイズ学会誌第3巻4号,p.343,2001.
- 医学部生
- 武富弥栄子、尾崎岩太、武市昌士、竹熊麻子、濱野香苗、井上悦子、佐野雅之、只野壽太郎「医学系学生のHIV感染症及びその診療に関する意識とその問題点」日本エイズ学会誌第2巻2号,p.103-110,2000.
- 歯学部生
- 廣瀬晃子、小澤亨司、石津恵津子、磯崎篤則、可児徳子「歯学部学生のエイズ意識に関する追跡調査」岐阜歯科学会雑誌第29巻3号,p.164-172,2003.
- 鈴木基之、長谷川紘司「歯学部学生のHIV/AIDSに対する意識調査」日本歯科医学教育学会雑誌第19巻2号,p.304-307,2004.
- 佐藤法仁、渡辺朱理、苔口進、福井一博「感染防止と歯科医療受診行動II~歯科学生、歯科衛生士学生、非医療系大学生におけるHIV/AIDSに対する意識調査~」医学と生物学((財)緒方医学化学研究所医学生物学速報会)第150巻第6号,p.216-228,2006.
- 看護学生
- 岡田耕輔、小寺良成、安田誠史「看護学生の持つHIV/AIDSに関する知識と意識・態度との関連」日本公衆衛生雑誌第41巻6号,p.538-548,1994.
- 歯科衛生士学生
- 石津恵津子、小澤亨司、廣瀬晃子、可児徳子「歯科衛生士学校生のHIV/AIDSに対する意識の解析」民族衛生(日本民族衛生学会)第66巻5号,p.190-201,2000.
- 廣瀬晃子、石津恵津子、小澤亨司、可児徳子「歯科衛生士専門学校生のエイズに関する意識調査 3年間の断面観察」日本歯科医療管理学会雑誌第36巻4号,p.294-303,2002.
- 高校生
- 中学生
- 高校教師(理科教師)
- 地域住民
- 喜多博子、永野良子、天野晴美「兵庫県下、T市を中心とした住民の年齢区分別エイズ意識調査」公衆衛生研究第44巻4号,p.511-517,1995.
- 日本国外での調査
脚注
- ^ エイズ情報net:疫学
- ^ 報告は、調査された年や地域、集団により変化するものであり、これらの意見が全ての集団や地域の意識ではないことを認識しておく必要がある。あくまでも広い社会意識の中の一例に過ぎない。
参考文献
- Ridzon R, Gallagher K, Ciesielski C, Ginsberg MB, Robertson BJ, Luo CC, DeMaria A Jr.(1997). Simultaneous Transmission of Human Immunodeficiency Virus and Hepatitis C Virus from a Needle-Stick Injury. N Engl J Med.336:919-22.
- Kahn JO, Walker BD.(1998). Acute human immunodeficiency virus type 1 infection.N Engl J Med. 339:33-9.
関連項目
- 猫後天性免疫不全症候群(猫エイズ)
- レッドリボン/世界エイズデー
- 感染症/性感染症
- エイズ予防財団/国立感染症研究所
- エイズ治療拠点病院
- 国際連合エイズ合同計画(UNAIDS)
- 薬害エイズ事件
- World Community Grid
- アクト・アゲインスト・エイズ(AAA)
外部リンク
- エイズ/STI関連データベース(AIDS/STI-related database Japan)
- HIV検査・相談マップ:エイズ検査・性感染症検査の情報検索ページ
- エイズ予防情報ネット
- エイズ研究センター
- HIV感染症治療研究会
- 厚生労働省 エイズ動向委員会報告ホームページ
- 厚生省・エイズ治療研究班ホームページ
- 国立感染症研究所感染症情報センター「感染症の話:後天性免疫不全症候群」のページ(前編)・(後編)
- 国立国際医療センター/エイズ治療・研究開発センター
- 国連合同エイズ計画(UNAIDS)ホームページ(英語)
- wAds2006 -World AIDS Day Series 2006-(日本語)
- 人獣共通感染症連続講座第91回「エイズの起源は生ポリオワクチン?」
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