騎士道
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/ee/19-v_2h_Vasnetsov.jpg/280px-19-v_2h_Vasnetsov.jpg)
騎士道(きしどう、英: Chivalry)は、中世ヨーロッパで成立した行動規範。
騎士たる者が従うべきとされたもので、決して現実の騎士の行動が常に騎士道に適っていたわけではない。むしろ(ブルフィンチなどが指摘するように)剣等の武器、鎧を独占する荘園領主などの支配層は、しばしば逆の行動、つまり裏切り、貪欲、略奪、強姦、残虐行為などを行う事を常としていた。だからこそ彼等の暴力を抑止するため、倫理規範、無私の勇気、優しさ、慈悲の心といったものを「騎士道」という形で生み出したとも言える。通常の騎士であれば遵守する事は難しく、騎士道に従って行動する騎士は周囲から賞賛され、騎士もそれを栄誉と考えた。
騎士に似た階級としては日本の武士が挙げられ、彼らが持っていた武士道と良く対比される。
概要
騎士が身分として成立し、次第に宮廷文化の影響を受けて洗練された行動規範を持つようになった。騎士として、武勲を立てることや、忠節を尽くすことは当然であるが、弱者を保護すること、信仰を守ること、貴婦人への献身などが徳目とされた。
特に貴婦人への献身は多くの騎士道物語にも取上げられた。宮廷的愛(courtly love)とは騎士が貴婦人を崇拝し、奉仕を行うことであった。相手の貴婦人は主君の妻など既婚者の場合もあり、肉体的な愛ではなく、精神的な結びつきが重要とされた。かくて騎士側の非姦通的崇拝は騎士道的愛だが、一方、貴婦人側からの導きを求めつつ崇拝するのが宮廷的至純愛。
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b2/Reconstitution_d%27armures_de_chevaliers_et_de_destriers%2C_XVIe_si%C3%A8cle%2C_Metropolitan_Museum_of_Art%2C_New_York.jpg/300px-Reconstitution_d%27armures_de_chevaliers_et_de_destriers%2C_XVIe_si%C3%A8cle%2C_Metropolitan_Museum_of_Art%2C_New_York.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9a/Edmund_blair_leighton_accolade.jpg/200px-Edmund_blair_leighton_accolade.jpg)
騎士が守り倣うべき「騎士の十戒」(教会を守る、弱者を守るなど)がある。
- PROWESS 優れた戦闘能力 (fighting skills)
- COURAGE 勇気
- HONESTY 正直さ 高潔さ (no weaseling)
- LOYALTY 誠実<忠誠心> (true to your leaders and your friends)
- GENEROSITY 寛大さ (open handedness)
- FAITH 信念 (commitment to ideals)
- COURTESY 礼儀正しさ、親切心(dignified and mannerly behavior)
- FRANCHISE 崇高な行い、統率力 (noble behavior and leadership)
これらが代表的な美徳とされるが、それ以外にも清貧、気前のよさ 信心、弱者の保護、などがある。
また、フランスの騎士道文学の研究者レオン・ゴーティエの掲げる『十戒』は、以下の通り。
- 不動の信仰と教会の教えへの服従。
- 社会正義の精神的支柱であるべき“腐敗無き”教会擁護の気構え。
- 社会的、経済的弱者への敬意と慈愛。また、彼らと共に生き、彼らを手助けし、擁護する気構え。
- 自らの生活の場、糧である故国への愛国心。
- 共同体の皆と共に生き、苦楽を分かつ為、敵前からの退却の拒否。
- 我らの信仰心と良心を抑圧・滅失しようとする異教徒に対する不屈の戦い。
- 封主に対する厳格な服従。ただし、封主に対して負う義務が神に対する義務と争わない限り。
- 真実と誓言に忠実であること。
- 惜しみなく与えること。
- 悪の力に対抗して、いついかなる時も、どんな場所でも、正義を守ること。
-軍事的栄光と勇気は、結果であって、それ自体が問題ではなく、価値ある目的の為に発揮されてこそ意味のあるものであり、そうでないものは、悪であり蛮勇である。
テンプル騎士団に対して聖ベルナールは、こう記している。「キリストの兵士が剣を持ち歩くのは、故ないことではありません。それは邪悪を懲らしめ、正しい者の栄光のためなのです。」
また、シャルトル大聖堂に刻まれる騎士の祈りには、こうある。「この上なく聖なる主、全能の父よ・・・あなたは邪まな者の悪意を砕き正義を守るために剣を使うのを、我々にお許しになりました・・・どうか貴方の前にいるこの下僕の心を善に向けさせ、この剣であろうと他の剣であろうと、不正に他人を傷つけるためには決して使わせないようになさって下さい。この下僕に、常に正義と善を守るために剣を抜かせて下さい。」
ちなみに、武士道の徳目、仁、義、礼、智、信の5常は
- 仁 上の立場にありながらおごらず下に居て慈愛にて善事を行うこと。木。
- 義 善悪を分別判断し善に従い悪を退ける順理を尊ぶこと。金。
- 礼 尊と卑を分別し謙虚にて上を敬い下を侮らない心。火。
- 智 よく物事を観察して万物の前兆を予知して善悪を見抜き、策略を練ること。水。
- 信 人を欺かず誠実で温厚篤実なこと。土。
最後尾は、五行との関係。
関連書籍
- アンドレア・ホプキンス著『西洋騎士道大全』東洋書林(2005/11/10)
- トマス・ブルフィンチ著 野上 弥生子訳 『中世騎士道物語』岩波書店
- グランド・オーディン著 堀越孝一監訳『西洋騎士道事典』原書房
- 武士道 新渡戸 稲造 著 矢内原 忠雄 訳 岩波文庫
- 「武士道」解題―ノーブレス・オブリージュとは 李 登輝(著, 原著) 小学館
関連項目
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/20/Don_Quijote_and_Sancho_Panza.jpg/200px-Don_Quijote_and_Sancho_Panza.jpg)
脚注
- ^ レディーファーストが道徳心の発露では無く、『ダ・ヴィンチ・コード』著者が挙げる「魔女狩りや迫害から、救世主の末裔を擁護する事を存在意義とする騎士団の行動規範より始まった」という推論もある。