コンテンツにスキップ

ニート

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Sekiseiinko (会話 | 投稿記録) による 2011年2月3日 (木) 03:45個人設定で未設定ならUTC)時点の版であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

ニート(NEET)とは、教育を受けておらず、労働職業訓練もしていない若者を指した造語で、「Not in Education, Employment or Training」の頭文字を採っている[1]

ただし、この訳は日本におけるニートの定義・用法とは異なる。なお、以下では特に断り書きの無い限り、日本における(35歳未満の若年)無業者について解説をする。

経緯

1999年イギリスの内閣府社会的排除防止局(Social Exclusion Unit)が作成した調査報告書[注釈 1]に由来する言葉であり、ブレア政権で用いられた政策スローガンの一つ。そのため英国におけるニートの定義は、当該報告書に準じた「16〜18歳の教育機関に所属せず、雇用されておらず、職業訓練に参加していない者」とされている。但し、ニートという語は英国を始めとする諸外国では殆ど使用されておらず、類似した分類も普及していない。むしろ近年、欧米では「ニート」について「日本における若年無業者問題を指す語」として認知されつつある[注釈 2]

日本における「ニート」

普及過程

東京大学教授(当時助教授)の本田由紀によると、2004年に刊行された東京大学教授(当時助教授)玄田有史の著書『ニート-フリーターでもなく失業者でもなく』(幻冬舎)において、アルファベットの"NEET"が“ニート”と言い換えられたと指摘する[2]

また、評論家後藤和智は、同年6月に放送された『情報プレゼンター とくダネ!』(フジテレビ系列)で「ニート」として取り上げられた当時24歳の男性の「働いたら負けと思っている」という発言や、男性の変わった風貌がインターネット上で大きな反響があり、それ以降、マスメディアで扱われる「ニート」が今日のような本来の定義を歪曲したものになってしまったとの見方を示している[3]

現状

そもそもニートとは「○○をしていない」という“状態”を表す言葉だったが、現在では「○○をする意欲が無い」という意味で使われることが一般的となっている。例えば、TBSバラエティ番組ズバリ言うわよ!』において、当時再婚に消極的だった黒田アーサーに対して細木数子が「あんたはニート的なところがある」と発言したことがある。

政府の見解としては、第162回衆議院予算委員会第7号(2005年2月7日)において、尾辻秀久厚生労働大臣(当時)が、「働いておらず、教育も訓練も受けていない者」としており、「働く意欲のない者か?」という質問に対し、「ニートの定義は先ほど答えたとおり。若者にもさまざまいて、意欲のある者もいたりする。」と答えている。

しかし、ニートという語の用法は本来の定義を無視する形で拡大傾向にあり、家事をしない主婦を「ニート主婦」(AERA誌での猪瀬直樹の発言)と呼称したり、雇用されていながら仕事をせず(あるいは与えられず)、時間を潰しているような従業員を「社内ニート」と呼称するなど、なかば単なる怠け者として捉えられている(#派生語も参照)。

定義

ニートとは総務省が毎月実施する労働力調査において、月末の1週間に、主に家事も通学もしていなかった非労働力人口のうち、年齢が15-34歳までの層を指す語であり、後に厚生労働省が定めた定義は、これに準じるものである。しかし、その実態調査をおこなった内閣府は、就業構造基本調査から得た統計を基に「ニート」の再定義をおこなったことから、厚生労働省と内閣府の定義には若干の差異が生じることとなった。

厚生労働省の定義

「若者の人間力を高めるための国民会議資料」や平成17年以降の「労働経済白書(労働経済の分析)」では、ニートを「非労働力人口のうち、年齢15歳-34歳、通学・家事もしていない者」としており、平成16年「労働経済白書(労働経済の分析)」での定義(「年齢15-34歳、卒業者、未婚であって、家事・通学をしていない者」)に、

  • 学籍はあるが、実際は学校に行っていない人
  • 既婚者で家事をしていない人

が追加された。これにより推定数は2002年の48万人、2003年の52万人から、ともに64万人へと上方修正された。

内閣府の定義

内閣府の「青少年の就労に関する研究調査」で用いられる定義は、「高校や大学などの学校及び予備校・専修学校などに通学しておらず、配偶者のいない独身者であり、ふだん収入を伴う仕事をしていない15歳以上 34歳以下の個人である」としている。なおこの調査では、家事手伝いについてもニートに含めるとしている。

この定義に基づくニート人口の推定(5年に1度行われる「就業構造基本調査」)では、1992年(平成4年)66.8万人、1997年(平成9年)71.6万人、2002年(平成14年)84.7万人となっている[4]

この定義の差異が「二重基準である」との誤解を招き、平成18年3月22日参議院経済産業委員会においても、この問題が取り上げられた。しかし「政府として厚生労働省の定義を採用している」という旨の答弁がされ、現在は厚生労働省による定義が「政府の公式見解」とされている。なお「青少年の就労に関する調査」の報告書中では「内閣府政策統括官(共生社会政策担当)の公式見解を示すものではない」と記載されている。

家事手伝いの扱いについて

厚生労働省は、家事手伝いをニートに含まない理由について「自営業者の家族従業員が含まれるため」としているが、内閣府の青少年の就労に関する研究調査企画分析委員長玄田有史は、その実態を把握するため家事手伝いをニートに含め調査を実施している。

フリーターや失業者との相違点

この言葉はしばしばフリーターと混同されることがあるが、フリーターはアルバイトなどをしていれば、法的には一応労働者として扱われる。ただし、内閣府の定義ではフリーターの一部にニートが含まれており、厳密に区分けはされていない。

また失業者についても「就業に向けた活動をおこなっている」という点でニートとは区別される。

類型

内閣府の調査では、ニートを非求職型と非希望型に分類している。前者は、就業を希望するものの具体的な就職活動等行動を起こしていない者のことで、後者は就業自体を希望していない者のことである。

非求職型とは『無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明しながら、求職活動はしていない個人』であり、就業構造基本調査の調査項目において『無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、「何か収入になる仕事をしたいと思っているか」に「思っている」を選び「その仕事を探したり開業の準備をしたりしているか」には「何もしていない」を選んだ個人』としている。

非希望型とは『無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明していない個人』であり、『無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、「何か収入になる仕事をしたいと思っているか」に「思っていない」を選んだ個人』としている。

分類に関する誤解

ニートは「働く意欲が無い者」あるいは「ひきこもり」などと混同されている場合が多い、しかし前述の定義に該当する者であれば、理由の如何に関わらずニートに分類される、したがって進学留学準備、資格取得準備、家業手伝い、病気・怪我の療養、結婚準備、介護育児芸能芸術プロ準備、などの状態にあっても、定義上はニートに分類される。趣味娯楽、特に何もしていない場合も同様である[5]

実態に関する調査

ニートの人口を算出する調査としては、以下のものが使用されている。

労働力調査
労働力調査とは、毎月1回、およそ4万世帯を対象とした調査で、ニートは基礎調査票の5項「月末1週間(ただし12月は20〜26日)に仕事をしたかどうかの別」という設問の「仕事を少しもしなかった人のうち」「その他」に該当する人で、かつ15〜34歳までの人となり、2006年の各月の平均は約62万人と推計されている[6]
就業構造基本調査
就業構造基本調査とは、5年に1回、およそ44万世帯を対象(2002年)とする標本調査で、過去1年間の国民の就業状態を調査する目的で行われる。内閣府の平成17年青少年の就労に関する研究調査では、この就業構造基本調査を特別集計し、ニートの規模を推計している。

総人口と変遷

内閣府の定義によるニートの総人口は、1992年から2002年までに約18万人増加しているが、実はその内の大半は非求職型のニートであり、非希望型のニートについては殆ど増減が見られない。

失業者・非求職型・非希望型の推移(単位:千人)
失業者 ニート
非求職型 非希望型
1992 638.9 256.6 0.7% 411.7 1.2%
1997 993.3 291.1 0.8% 425.4 1.2%
2002 1,284.6 425.7 1.3% 421.5 1.2%

[7]

厚生労働省による統計

厚生労働省「ニート(若年無業者)の増加」(単位:万人)
1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
総数 40 42 45 40 42 46 48 44 49 64 64 64 64 62

この統計[8] ではニート人口は2002年に前年の49万人から64万人へと急増しているが、これは、ニートの定義「非労働力人口のうち、就業、就学、または職業訓練を受けていない15歳から35歳までの未婚者」に「不登校」や「家事を行わない者」が付加され定義変更されたためで、2002年とそれ以前の数値は接続しない。

年齢階層別の推移については以下のとおり、15〜19歳までの若年層が18万人から12万人に減少する一方、30〜34歳までの中年層のニート人口は12万人から23万人へと倍増している。

年齢別・推定人口(単位:千人)
年\年齢 15〜19歳 20〜24歳 25〜29歳 30〜34歳
1992 176.8 1.8% 215.6 2.2% 158.8 1.9% 117.2 1.5%
1997 149.2 1.8% 228.7 2.4% 211.2 2.2% 127.3 1.5%
2002 114.5 1.6% 240.9 3.0% 264.0 2.8% 227.9 2.4%

[7]

また、第一生命経済研究所は人口推移の推計値とニート比率の持続を前提に、「雇用対策が講じられなければ、2015年にニートは109.3万人に達する。一方雇用対策を講じれば、2005年をピークに、2015年には79.5万人と徐々に減っていく」としている[9]

なお厚生労働省の調査では、ニートは2002年以降4年連続で64万人という水準で推移しており増加傾向は見られない。また2006年には62万に減少している。

求職活動をしていない理由(非求職型)

非求職型のニートが「就業に向けた活動を行わない(行ない)理由」で最も多いのは「病気怪我の療養で活動を行ない」で全体の約4分の1を占め、傷病者もニートの範疇に含まれている。しかし「不況の影響で求人がない」「雇用のミスマッチ」など、社会的な要因によるものも多く、1992年から2002年まで一貫して増加傾向にある。

求職活動をしていない理由別・非求職型人口(単位:千人)
年\理由 求人がないため 希望の求人がない 能力に自信がない 病気や怪我のため 家事や育児のため 介護や看護のため 急ぐ必要がない それ以外の理由
1992 16.2 6.3% 22.7 8.9% 21.6 8.4% 64.0 25.0% 14.4 5.6% 8.5 3.3% 45.0 17.6% 63.7 24.9%
1997 26.7 9.2% 31.5 10.8% 27.9 9.6% 68.1 23.4% 16.5 5.7% 9.7 3.3% 37.5 12.9% 72.9 25.1%
2002 53.4 12.5% 40.8 9.6% 42.3 10.0% 104.0 24.5% 13.8 3.2% 9.5 2.2% 49.2 11.6% 112.1 26.4%

[10]

就労経験・意識

ニートは引きこもりと混同されやすいため、就労経験がないと思われることが多い。しかし内閣府の調査によると、就労経験がない者は非求職型の38.0%、非希望型の70.1%(いずれも2002年)という水準に止まっており、就労経験のある者も決して少なくない[11] 。

2002年 希望する仕事の種類別構成比(単位:千人)
性別\職業 製造・生産 建設・労務 運輸・通信 営業・販売 サービス業 専門・技術 管理的職業 事務的職業 その他の職 こだわらず
男性 12.2 7.4 4.7 4.7 16.9 36.1 1.2 8.8 11.7 102.8
女性 10.4 1.2 0.4 8.3 39.8 35.2 0.1 30.1 7.6 85.0
合計 22.6 8.6 5.1 13.0 56.7 71.3 1.3 38.9 19.3 187.8

[12]

ニート増加の原因を、若年層における職業観や就労観の低下に求める意見は多く、講じられる対策もそれを前提としたものが多い。しかし2002年現在の統計によると、ニート(非求職型)の約半数は具体的な職業に就くことを希望しており、44.2%は職業にこだわらず就労したいと回答している。

男女比

内閣府の調査(2002年)によると、ニートの男女比率は男性が48.4%(41万人)、女性が51.6%(43.7万人)とほぼ半々となっており、過去10年間の調査と比較しても大きな変化は見られない。ところが、男女比率はほぼ半々であるにもかかわらず、「ニートは男だけ」と見られがちなことが多い[13]

家庭環境

世帯収入別割合(年間所得)
非求職型 非希望型
300万円未満 1000万円以上 300万円未満 1000万円以上
1992 29.1% 15.3% 21.6% 21.5%
1997 27.0% 17.7% 28.1% 22.9%
2002 31.8% 12.9% 37.6% 14.4%

[14]

ニートは裕福な家庭に属していることが多いという意見があるが、この表の世帯の年収をみると、1997年までは所得1,000万円以上の世帯の中では、非希望型の世帯の割合が高かった。これが2002年になると状況が変わり、非希望型の割合は低くなっている。ここから、97年までは裕福であるがゆえ無理に就職を望む必要がなく非希望型を選択した個人も多かったが、2002年の時点では非希望型において経済的に裕福な世帯が抜きん出て多いという特徴はすでに消失していることがいえる[15]

年収300万円未満の世帯をみると、1992年時点では非求職型が多かったが、2002年には逆転して非希望型が急増した。非希望型は全体の割合と比べても2倍以上の値となっている。

なおニート本人の年収は100万円未満が約57%で半数以上を占め、100〜300万円は約31%、それ以上は約2.5%である。またとの同居率は、非求職型が83%、非希望型は73%となっている[15]

中年層ニート

ニートは若年者だけの問題と思われがちだが、35〜49歳の中年層のニート(正確には中年層の純粋無業者)は、増加率ではむしろ若年層を上回っており、状況はより深刻である。しかし定義上35歳以上はニートと見なされないために、支援策などは講じられておらず、自殺社会保障費の増加などが懸念されている[16]

家族に扶養されているニートの場合、扶養者である家族の高齢化や死去以降の生計手段が問題となってくる。遺産や貯蓄等が尽きしだい行政は生存権保証のために生活保護を行う必要があり、これによって福祉財政を圧迫すると指摘されている。

増加の要因

ニートが増加したとされる1990年代後半から2000年にかけて、バブル崩壊とそれにともなうリストラによる失業者の増加、さらに団塊ジュニア女性の社会進出など、人材供給が過剰となる要因が重なり、若者の就職は非常に困難な状況にあった。またこの頃から年功序列制度が崩壊し、代わって成果主義を導入する企業が増えたことから労働環境が悪化し、新入社員の離職率が高まったと言われている。こうした状況は2003年頃まで続き、ニート増加の一因になったと言われている。

発達障害との関わり

各種の統計によれば、子供の1割は何らかの発達障害を抱えており、ニートの場合、厚生労働省の調査によれば2割強が発達障害者であるとされる[17]。精神科医の星野仁彦は、自著において臨床的には8割とする統計データの方が実態に近いと指摘し、発達障害のある人は、自分を客観的に見つめる事が苦手で、基本的に目先の事しか考えられず、長期の目標に向かって長期間努力することができないため、自分の欠点ばかりが目立つような職業に就いて、仕事が上手くいかなかったり職場に馴染めなかったりして、転職を繰り返したりニートになったりするケースが多いと述べている[17]。星野は、発達障害者は小児期から学習障害や認知障害を持つケースが多いため、英語、数学、国語などの基礎的能力を必要とするような職種に就いてもなかなか熟練できないという問題も抱えていると分析している[17]

偏見と差別

本田由紀らは、「ニート」という語が大きな誤解を招き、偏見や差別を助長していると主張する。前述の通り玄田有史によってアルファベットの"NEET"が“ニート”と言い換えられただけではなく、玄田がイギリスのそれとは異なる「教育を受けておらず、労働職業訓練もしていない“15歳”から34歳の若者”」と定義したことや、評論家・教育関係者の持論(「働く意欲の無い若者が増えている」など)に基づいたマスメディアの報道などが寄与したと指摘し、「ニートという語を使用すべきではない」と強く訴えている[18]

マスメディアの報道姿勢

ニートという語が使用され始めた2004年以降、テレビ・新聞などのマスメディア上では一種のニートバッシングがなされ、「無気力」「怠け者」「ひ弱」といったイメージを持たれるようになり、ニートに対して憎悪が向けられるようになった。

しかし、こうしたニート像に懐疑的な見方があり、放送倫理・番組向上機構(BPO)には視聴者から「差別や偏見を助長する」旨の批判が一定数寄せられている。中には、「たとえ自らの意志で就労を拒否したとしても、それを他人が攻撃する資格も権利もない」という意見まであった[19][注釈 3]

また、やらせも指摘されており、2006年6月9日に日本テレビの『太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中。』に出演した自称ニートの男性は、「ニートスズキ」の名でその他のテレビ番組(同局の『報道特捜プロジェクト』など)やイベントに出演しているタレントのような立場にあった[20]。他にも、同年4月放送の『ズバリ言うわよ!』に「漫読屋(まんどくや)」を名乗り路上パフォーマンスをして生計を立てている東方力丸も「ニート代表」としてテレビ出演していたことがある。

企業の採用姿勢

2008年4月に横浜市が市内の企業に対して実施したアンケート(約1,000社中316社が回答)によると、83.3%の企業が若年無業者は就労困難であるという先入観を抱いており、「ニートや引きこもり状態にある若者を雇用する意向はない」と回答している[21]

対策・支援

詳細はリンク先を参照。

厚生労働省
経済産業省
文部科学省
内閣官房

対策・支援に関する問題点

利権問題

前述の本田由紀は、ニートの支援に関連する諸々の対策は利権の温床となっており、各省庁地方自治体、更には支援に携わるNPO法人等の民間団体や企業までもが、「ニートの自立支援」を名目とした予算の争奪戦を繰り広げていると指摘する。例えば、厚生労働省が民間団体に委託をして実施されている若者自立塾は、初年度(2005年)の予算がおよそ9.8億円だったが、大幅な定員割れを起こしていたにもかかわらず、翌年の予算は20億円に倍増され、その配分も極めて不明瞭な状態にあるという。これ以外にも、各省庁が「若者の就労支援」を名目にして上記のような支援施設やプロジェクトを立ち上げたり、同様の名目で新たに特殊法人を創設している。

本田は著書『「ニート」って言うな!』の中で、「これまで、『引きこもり』への支援を細々と行っていた様な(民間の)団体が、『ニート』への支援を謳い始めた途端に、お金が降りて来るというような現象が起きている。」と指摘し、従来はNPO法人等が行っていた引きこもり対策を「ニート対策」と改称するなどして利権を拡大させたと分析している。

本田はこれらを踏まえて、今日においてニートが「金づる」にされている現実を指摘、加えて、本来はその種の支援を希望、または必要としていない「非求職型のニート」までもが「集団生活の中で、生活訓練や労働体験等を通じて、勤労観の醸成を図り、働く自信と意欲を身に付けさせる」などといった、方向性を誤った“支援”の対象とされてしまっている事を危惧している[22]。同様の主旨の発言は、この書の共著者である内藤朝雄後藤和智も行っており[23]、また、引きこもり問題の第一人者である精神科医斎藤環は、「ニート支援は将来的にビジネスとして成立すると思う。」と予見していた[24]

諸外国の状況

欧米

欧米においても「教育機関に所属せず、雇用されておらず、職業訓練に参加していない者」は存在するが、日本語でいうような「ニート」あるいは類する語での分類・定義付けはされておらず、その概念も普及していない。その原因の一つは「ニート」という分類が1999年当時社会問題となっていた「社会参加困難者」(被社会的排除者)の一部に過ぎないものであることが挙げられる。欧米における「社会参加困難者」は人種宗教言語による差別・格差問題の色が濃く、日本での若年無業者問題と同列に扱うことは困難である。英国の「ニート」の定義付けは将来的な「社会参加困難者」を予測する分析としての意義はあったが、総合的な「社会的排除対策」が行われる中で「ニート」という分類自体は重要視されなかった。イタリアでは、2007年10月に当時経済・金融大臣の銀行家Tommaso Padoa-Schioppaが、20歳〜30歳の家族とともに生活している人々(該当する人々は全人口の内、相当の数)をbamboccioni(big dummy boys:大きなおしゃぶり坊やたち)と定義し[25]、イタリアの世論の大きな騒ぎを引き起こした。新聞社は、個人的に気分を害され侮辱と受け取った読者達からの大量の手紙を受け取り、イタリアの人口の内大変な数を占める「月約1000ユーロで生活していて、両親の家を離れるだけのお金を支払うことの出来ない20〜30歳」の状況を全く理解していないと彼を非難した[26]

韓国

OECD は、韓国の青年(15歳〜29歳)の6人に1人が「ニート」で、割合はOECD加盟国の平均を大きく上回っていると指摘。[1]。同国では前政権下、雇用安定を目的として法的に解雇が大きく制限された。このことによって企業が若者の新規採用を手控えるという意図せぬ結果を生み出してしまったとされる。

韓国とOECD加盟国平均の比較
韓国 OECD加盟国平均
「15〜24歳」の失業率 10.0%(2006年
6.3%(1996年
14.7%
就業率(2006年) 27.2% 43.0%
「15〜24歳」のニート占有率 11.7% 12.0%
「15〜29歳」のニート占有率 17.0% 12.0%

OECDは韓国にニートが多い理由について、「兵役で就職が遅れ、大学卒業後にも就職しない若者が多いため」と報告。ただし徴兵制は若者を強制的に社会参加に強いる制度であるが故、青少年期の「ひきこもり」状態からそのまま全く社会経験を経ずに家に閉じこもったまま「ニート」に移行していくパターンは日本より過小である。

中国

中国の通信社・新華社によると、2005年の時点で16歳から35歳の3.62%(およそ1216万人)がいわゆるニートになっているという。これらの若者が、自室やインターネットカフェに入り浸り、寝食を忘れてオンラインゲームに熱中し、死に至る事件が相次ぐなど、社会問題化している[27]

関連書籍

など、多数

脚注

注釈

出典

  1. ^ テレビ東京報道局 編「ニート85万人時代を打破せよ - 働かない若者…その理由は」『日経スペシャル ガイアの夜明け 終わりなき挑戦』(第8刷 (2007-06-11))日本経済新聞出版社〈日経ビジネス人文庫〉、2005年11月1日、315ページ頁。ISBN 978-4-532-19321-8 
  2. ^ 本田由紀、内藤朝雄・後藤和智『「ニート」って言うな!』光文社光文社新書)、2006年、第1章頁。 
  3. ^ 後藤和智、本田由紀・内藤朝雄『「ニート」って言うな!』光文社光文社新書)、2006年、第3章頁。 
  4. ^ 伊東雅之、社会労働課 (20060426). “ニートの現状とその対策、我が国と欧米主要国の若年雇用対策” (PDF). 国立国会図書館. 20090808閲覧。
  5. ^ 青少年の就労に関する研究調査 各タイプの現在の状況
  6. ^ 労働力調査 基礎調査票総務省
  7. ^ a b 青少年の就労に関する研究調査 表2-1-2(内閣府)
  8. ^ 人口減少下における雇用・労働政策の課題(厚生労働省)
  9. ^ 第一生計研究所 もっとも有効なニート対策は若年雇用のミスマッチ解消(2005年6月8日)
  10. ^ 青少年の就労に関する研究調査 求職活動をしていない理由別(内閣府)
  11. ^ 青少年の就労に関する研究調査 今までに何か仕事をしていたことがない割合
  12. ^ 青少年の就労に関する研究調査 資料
    希望する仕事の種類別構成比(内閣府)
  13. ^ “「ニートはどうして男だけなの?」 そんな疑問が正しくないワケ”. J-CASTニュース. (2008年7月12日). http://www.j-cast.com/2008/07/12023301.html 2010年6月14日閲覧。 
  14. ^ 内閣府 青少年の就労に関する研究調査 世帯年収(内閣府)
  15. ^ a b 青少年の就労に関する研究調査 4.所得階層との関連
  16. ^ 青少年の就労に関する研究調査 中年無業者の実情
  17. ^ a b c 星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち』祥伝社、2010年2月10日、18,242-246頁。ISBN 978-4-396-11190-8 
  18. ^ 現場にアタック 『「ニート』って言うな!』〜本田由紀さんインタビュー”. TBSラジオ森本毅郎・スタンバイ!』 (2006年1月9日). 6月14日閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  19. ^ 視聴者の意見(2006年4月分)”. BPO. 6月14日閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  20. ^ タレントプロフィール”. 3UP. 6月14日閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  21. ^ 就労希望者8割、採用消極的企業も8割/横浜市「ニート」調査”. カナロコ (2008年4月28日). 6月14日閲覧。accessdateの記入に不備があります。 [リンク切れ]
  22. ^ 本田由紀、内藤朝雄・後藤和智『「ニート」って言うな!』光文社光文社新書)、2006年、57-58ページ頁。 
  23. ^ 政府は大変な錯誤をしでかしていきました@「ニート“対策”」”. 後藤和智の雑記帳 (2007年9月24日). 1月11日閲覧。accessdateの記入に不備があります。
  24. ^ 斎藤環『「負けた」教の信者たち - ニート・ひきこもり社会論』中央公論新社中公新書ラクレ)、2005年、246-247ページ頁。 
  25. ^ «Mandiamo i bamboccioni fuori di casa» . Corriere della Sera
  26. ^ Il bamboccione
  27. ^ 『女たちの中国〜13億人のチカラ…美と権力と涙の物語〜』(日本テレビ)2008年2月11日放送

関連項目

派生語

関連人物

支援関係者

外部リンク