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アトピー性皮膚炎

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アトピー性皮膚炎(アトピーせいひふえん、英語:atopic dermatitis)とは湿疹皮膚炎症)を伴うもののうち、アレルギー反応と関連があるもの。先天性の過敏症の一種。アトピーという名前は 「場所が不特定」 という意味のギリシャ語 「アトポス」 (atopos - a=不特定、 topos=場所) から由来し、1923年 コカ(coca) という学者が 「遺伝的素因を持った人に現れる即時型アレルギーに基づく病気」 に対して名づけた。

「アトピー性皮膚炎」 という言葉が医学用語として登場するのは、1933年である。アメリカ人のザルツバーガー皮膚科医が、皮膚炎と結びつけて 「アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis)」 という病名をはじめて使用した。医学用語としては気管支喘息鼻炎などのほかのアレルギー疾患にも冠されるが、日本においては慣用的に「アトピー」のみで皮膚炎のことを指すことが多い。

概要

日本皮膚科学会ガイドラインでは、アトピー性皮膚炎は表皮、なかでも角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる、慢性に経過する炎症と瘙痒をその病態とする湿疹・皮膚炎群の一疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。

アトピー素因とは
  1. 家族歴・既往歴(気管支喘息アレルギー性鼻炎結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)があること、または
  2. IgE 抗体を産生しやすい素因をさす。

また、一般に慢性に経過するも適切な治療により症状がコントロールされた状態に維持されると、自然寛解も期待される疾患である。と明記されている。

近年この動きとは別に、一つのパブメド基礎研究[1]を基として、各、皮膚科医[2]、免疫内科医(前橋賢ビオチン)などによって、異同問題は存在するが、アトピー性皮膚炎は免疫不全症の病態の一つにすぎないことを、解明しつつあり、厚生労働研究[3]など、各、研究機関[4]でも追認試験などをおこない、このことを確認している。

原因

原因は主にビオチンの欠乏であり、近年ではビオチンの投与と食事制限や断食療法でほぼ全ての患者が回復する[8][要出典]

  1. 腸内・表皮・肺・口腔内等による細菌叢
    体内に常在する細菌叢による、アトピーとの関連が解明されつつ。体内に常在しているとアトピー体質になりやすい細菌、なりにくい細菌について示唆した研究がアメリカで行われていた。更なる研究が待たれる[要出典]
  2. 遺伝的要因
    遺伝子の解析により、マスト細胞好酸球にIgE抗体を結合させるレセプターや、サイトカインのうちアレルギーの炎症に関与するものの遺伝子が集中している遺伝子座がアレルギーと関連していることが明らかになっている[5]
  3. 環境要因
    一般的にアトピー性皮膚炎では下記の生活指導が有用である[6]
    • 入浴、シャワーにより皮膚を清潔に保つ。
    • ナイロンタオルを中止する。
    • 室内を清潔に保ち、適温・適湿の環境を作る。
    • 規則正しい生活をおくり、暴飲・暴食は避ける。
    • 刺激の少ない衣服を着用する。
    • 爪は短く切り、掻破による皮膚障害を避ける。
    • 顔面の症状が高度な例では眼科医の診察を定期的に受ける、ステロイド外用薬の使用が原因ではなく、眼囲の皮疹を掻破、叩打することによって眼病変(白内障,網膜裂孔,網膜剥離)を生じうることに留意する。
    • 細菌・真菌・ウイルス性皮膚感染症を生じやすいので、皮膚をよい状態に保つよう留意する。
  4. ビオチン欠乏症
    ビオチン欠乏による発症機序は、脾臓細胞の免疫システム活性(免疫グロブリンAやGなど)がそれぞれ異常値になり、免疫不全症が発症することが確認されている[1]。 このときに、血中 IgE 値が増加した場合、レアギン(抗体)が異常に活性し、アレルギー体質になることを石坂公成(いしざか きみしげ)が解明している。
  5. 異同問題
    アトピー性皮膚炎では、皮疹において、異同問題が存在し、合成洗剤の成分内に在する界面活性剤により、接触皮膚障害がおきることが確認されている[7]、また新品の下着類によっても、同様の病気が発生する[8]
  6. その他の説
    アトピー性皮膚炎は血中IgE値増加によるアレルギーが一部の原因と定義されている[6]IgE(レアギン活性)の増加によるアレルギー石坂公成により解明されている、その他の説ではこの解明が難しいため、アトピー性皮膚炎の原因とはならない説。 しかし、アトピー性皮膚炎は、異同問題などで、血中IgE値が高値にならない場合もあり、IgEに関与していないこれらの説は、接触皮膚障害などの一部の要因となる可能性が高い。
    1. Dr.Corkの表皮バリア破綻説 ステロイド外用剤は、コルネオデスモゾームを破壊しバリア機能を低下させるため、英国の小児科医Corkによって、石けんと同様、アトピー性皮膚炎の環境系悪化因子と位置付けられている[9]
    2. アトピー性皮膚炎では脂肪酸合成酵素の低下がみられ、それに伴いセラミドの減少もみられる。 ビオチン欠乏の場合、ビオチンは脂肪酸合成酵素の補酵素になっているので、フリービオチン値が減少するとセラミドも減少する、このことにより接触皮膚障害がおこりやすくなる。(セラミドとビオチンの節)
    3. ビオチン欠乏症の場合、脂肪酸合成酵素低下により必須脂肪酸リノール酸リノレン酸アラキドン酸などの合成経路阻害により多価不飽和脂肪酸プロスタグランジンE2,E3などの減少がみられる、このことにより、体が炎症体質になってしまうといわれている。
  1. 金属アレルギー問題
    歯の治療で充てん剤として利用される水銀合金のアマルガムがアトピー性皮膚炎の要因になっているという調査結果がある。歯からアマルガムを取り除き、代わりに他の金属やプラスチックを詰めて経過を観察すると、一年後には約七〇%の患者で皮膚炎が改善、うち半数以上の約五八%は完全に治癒した[要出典]。ビオチンの投与はアマルガム除去と同等の効果がある。

皮膚炎の症状

  • 乳児湿疹と混同される場合もある。その炎症は頭部に始まり、次第に顔面に及ぶ。そして体幹、手足に下降状に広がる。
  • 幼児期-学童期には、関節の内側を中心に発症し、耳介の下部が裂けるような症状(耳切れ)を呈する。
  • 思春期以後は、広範囲にわたり乾いた慢性湿疹の症状を呈する。
  • 眉毛の外側が薄くなる(ヘルトゲ兆候)。
  • 発赤した皮膚をなぞると、しばらくしてなぞったあとが白くなる(白色皮膚描記)。
  • 乾燥して表面が白い粉を吹いたようになり、強い痒みを伴う
  • 赤い湿疹、結節などができ、激しい痒みを伴う。痒疹を伴うこともある。
  • 湿潤した局面から組織液が浸出することがある。
  • 慢性化すると、鳥肌だったようにザラザラしたものができ、皮膚が次第に厚くなる。
  • しこりのあるイボ状の痒疹ができることがあり、この場合難治性である。イボになることもある。
  • 思春期以降は、手指に症状が表れ易くなり、爪元から第二関節あたりが特に酷く荒れやすい
  • 児童期が湿潤型、思春期以降は乾燥型の皮膚炎を起こすのがアトピーの特徴である
  • 湿潤型は主に首周りや肘膝関節裏、乾燥型は頭皮、額、肩、内腿、内椀に発症し易いのが特徴である。また乾燥型に切り替わるとき、湿潤型の症状は軽快する傾向がある。
  • 思春期以降は、油脂分泌不足から頭皮に大量のフケが出るケースが多い

検査

血液検査
  • 好酸球・IgEなどの上昇がみられる。IgEは総IgEと特異的IgEがあり、特異的IgEではダニなどのアレルギーが悪化要因となっていないか、も調べられる。
  • TARC (Thymus and Activation-Regulated Chemokine)は、血清で測定するケモカインの一種である。病勢に比例して上昇する(健康保険適応あり)。
  • フリービオチン値(血中遊離型ビオチン量)[2]
VAS (visual analog scale)
主観的な掻痒の程度の指標。100%が最も痒みが強い時、0%がまったく痒みがない時として、何%かをみる。主観に頼るため一般的な指標になりにくいが、痒みの改善度をみるのには非常に有用である。また、掻痒だけでなく、掻痒によって生じる睡眠障害の程度もこの指標が利用される。
SCORAD (SCORing Atopic Dermatitis)
発疹の範囲(熱傷 9の法則に準じる)、紅斑・苔癬化などの発疹の多様性、VAS(掻痒・睡眠障害)を数値化し点数にし、重症度を評価する。合計108点満点。アメリカ等で普及している。

主な合併症

皮膚疾患

  • アトピー性皮膚炎体質の人は一般に皮膚が弱く、子供の頃におむつかぶれを起こしやすかったり、各種の化粧品、塗り薬、洗剤などによる接触性皮膚炎を起こしやすいことが知られている。
  • アレルギー反応が強い箇所を中心に、結節を伴う痒疹(結節性痒疹)を生じることがある。慢性化、難治化することもある。
  • 円形脱毛症の合併も知られている。

感染症

  • 合併症としては、免疫不全[1]による易感染性[4]状態になることが知られている、このため、細菌性の疾患に罹りやすい。
  • 細菌に関しては、重度の湿疹病変から進入した黄色ブドウ球菌などによる伝染性膿痂疹(とびひ)をとくに幼児において多く合併することで知られている[6]
  • 伝染性軟属腫(水いぼ)などのウイルスによる皮膚疾患に感染しやすく、アトピー性皮膚炎患者が単純ヘルペスを罹患すると重症化することが知られている(カポジ水痘様発疹症)。

眼科疾患

最近では白内障網膜剥離を合併するケースが増えてきている[6]。 。網膜剥離に関しては、特に顔面の症状が酷い際の掻破、顔をたたいてかゆみを紛らわせる行動などの物理的な刺激の連続により発生すると考えられている。白内障については原因は

  • 網膜剥離と同様、顔や瞼の痒みから強く擦ったり叩いたりするからではないか
  • 水晶体は発生学的に皮膚細胞と同じ分類に入るため、アトピー性皮膚炎と同様な病変が起こるのではないか

といった説がある。いずれにせよ、加齢に伴って発症する通常の老人性白内障とは異なる原因で発生すると考えられており、また水晶体が皮質からではなく核から濁ってゆく事が多いという症状のパターンの違いから、「アトピー性白内障」と呼ばれることもある。ステロイド内服の副作用として白内障があげられることから、原因としてステロイド外用剤の副作用が疑われたが、外用剤との因果関係は不明であること、内服薬の副作用として発生する際は、白内障ではなく緑内障の発生率のほうが高いにもかかわらず、外用剤のみで治療されているアトピー性皮膚炎患者では緑内障が少ないという矛盾があることから、ステロイド外用剤は直接白内障とは関連がないとの結論に至っている。

眼科疾患では、これらの説と違う説も存在[10] する、皮膚や粘膜、眼などは発生学的に同じ細胞でできているので、アトピーなどを発症する状態になった場合、網膜剥離、白内障なども発症しやすいという説である。

その他

  • 千葉大学大学院[11]は、ビオチンと病気の中で、酵素活性の低下により、各疾病がおきることをあげている、このことにより脂肪酸合成、アミノ酸合成、糖代謝などに関与しているビオチンは、その代謝経路に重要な役割があることを指摘している。
  • 重症化すると糖尿病[12]などの発症も考えられる。[13] [14]
  • アトピーは異同問題が存在するが、免疫不全による血中IgE値が高値になる疾患であると考えられているため、その他IgE型の疾患が合併しやすいといわれている[15]
  • ビオチン欠乏症の場合、精神障害もみられる、、神経炎、自閉症状など[4]。また、インビトロ・インビボにおいて、妊娠中ビオチン欠乏状態に陥った母体の胎児に、高い確率(-100%)で奇形が誘発されることが報告されている。主なものとしては、口蓋裂、小顎症、短肢症、内臓形成障害などがある。逆に、多量に摂取した場合でも、胎盤通過型のビオチンは、胎児にたまる性質があり、これもまた催奇性が確認されている。

医療機関の療法及び薬

対処療法薬

  1. ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)[16]
    ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)ステロイド外用剤は、副腎皮質ホルモン(ステロイド)により過剰になっている免疫反応を抑制し、症状を和らげる効果がある。外用剤にはランクがあり、「Weak(弱い)」「Medium(普通)」「Strong(やや強い)」「Very Strong(かなり強い)」「Strongest(最も強い)」に分けられ、症状の度合い・炎症の発生部位によって使い分ける。ステロイド外用剤の副作用には、皮膚萎縮、皮膚感染症の誘発、毛細血管拡張などがある。アトピー性皮膚炎治療におけるステロイド外用剤の効果と安全性に関して、ステロイド外用剤は一部の弱いものを除けば大半がプラセボとの間に有意な効果の差があり、アトピー性皮膚炎の治療に有効であった。ステロイド外用剤同士の比較は多いが、論文ごとに使用条件が異なっているため、臨床効果に基づくランキングは不可能であった。非常に強いステロイド外用剤では1日の塗布回数は1回でも複数回でも有意差はなかったが、中程度のものでは寛解率に差があった。連日塗布では皮膚萎縮などの副作用が生じるが、強いステロイド外用剤(0.1%betamethasone valerat, fluticasone propionate)でもおのおの1日2回週3日あるいは週2回以下の間欠塗布であれば副作用の回避が可能であった。またステロイド外用剤によるproactive療法(アトピー性皮膚炎が寛解している際でも週に1~2回ステロイドを外用することにより症状の増悪を予防する)は再発を予防する目的で各国で行われている新しい使用法である。TARC試験と合わせたアトピー性皮膚炎の皮膚症状のコントロールの方法として注目されている。ステロイド外用剤に抗生剤を添加してもアトピー性皮膚炎に対する治療効果は有意な改善はしなかったが、抗真菌剤の添加には効果が認められたという報告もある。ステロイド外用剤をウェットラップ法で使用した場合の前後改善率は有意であったが、ウェットラップ法自体の効果は有意とするものと疑問視するものがある。他の外用剤との比較では、タクロリムスを除けばステロイド外用剤に匹敵するような治療効果を確認できたものはなかった。保湿剤や行動療法の併用はステロイド外用剤の使用量を減らすことができる可能性があり、今後はより現実的な使用法に関する詳細なエビデンスを増やす必要がある。
  2. タクロリムス外用薬(プロトピック軟膏)[16]
    プロトピックとは、タクロリムスという免疫抑制剤を外用剤として製剤したものである。濃度は成人用では0.1%、小児用は0.03%である。1993年から治験として使われ始め1999年6月に認可された。ステロイドの「strong」の強さをもつ一方、正常な皮膚には作用せず、炎症が強く壊れた皮膚にのみ浸透していく性質があり、顔や首などステロイドによる副作用が強く現れやすい顔面や頸部に使われやすい。特にアトピー性皮膚炎で生じる頚部のさざなみ様沈着には効果が高いとされている。使用開始初期にヒリヒリとした刺激感や火照りを感じる人もいるが、徐々に治まってくる事が多い。妊娠中・授乳中は使用禁止となっている。また、胎児や新生児・乳児への影響については報告されていないが、日本では小児用は2歳以上16歳未満、成人用は16歳以上の適応となっている。外用後の強い日光浴は避けるべきとされている。現在アトピー性皮膚炎治療に広く使用されているタクロリムス外用薬の有効性および安全性について、ランダム化二重盲検などの臨床試験から本薬剤の短期および長期使用における有効性は十分に証明されており、同様に施行された大規模な安全性調査の結果から、現在までに本剤との因果関係が証明された全身性の重篤な副作用は無く、安全性に大きな問題はないものと考えられる。また皮膚癌やリンパ腫の発生リスクの問題に関しても、タクロリムス軟膏外用を行っても自然発生率を超えるものではないとの報告がみられるようになってきた。以上よりエビデンスのレベルは1、勧告のグレードはAに相当する。
  3. 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬[16]
    痒みが強い場合、必要に応じて抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬を使用する。アトピー性皮膚炎の患者では、発疹→痒み→掻破行為→発疹にて悪循環になっていることが多い。そのため、その悪循環を断つという意味で痒みを抑える効果のある抗アレルギー薬は有効である。2003年以降のアトピー性皮膚炎に対する抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬(抗ヒスタミン作用のあるもの)海外の文献はPubMedから、本邦の文献は医学中央雑誌のウェブ版から検索し、海外論文からは54文献、本邦論文からは680文献が抽出された。二重盲検法、ランダム化、対照群10例以上、比較群10例以上計20例以上等すべてを吟味し、エビデンスレベル1か2の論文を選別した。結果、海外で2文献、本邦で8文献を選出した。塩酸フェキソフェナジン、塩酸オロバタシンといった一部の薬剤が、EBMの観点から、アトピー性皮膚炎に極めて有効であることが証明された。しかし、他の薬剤では、まだEBM的観点からの充分な裏づけがなされていない。さらなるEBMを意識した検証が、より多くの抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬で、よりすすむことが望まれる。 その他、IPD(アイピーディー)というTh2活性阻害薬が使用されることがある。アトピー性皮膚炎では、Th2細胞の亢進・サイトカインの中のIL-4・IL-5(アレルギー症状を誘発するもの)の産生の増加がみられることがあるため、効果があるとされている。効果が現れるのには数週間ほど時間がかかるという特徴がある。その他、痒疹タイプの皮疹に対してトラニラストも使用される。
  4. スキンケア [16]
    アトピー性皮膚炎のスキンケアについては、2002年までは主に個々の保湿外用薬の有用性について報告されていた。実際の処方では、ワセリン、プラスチベース®等の油性のものや、適度に水分を含んだクリーム状の保湿剤(ヒルドイド®ソフト軟膏等)がよく処方されるが、医療機関で処方されるものだけでなく、薬局・薬店で購入できるスキンケア製品でも効果が期待できる。ただし患者の敏感な皮膚は製品によっては接触性皮膚炎を起こすこともあり、使用感がよく、かぶれを起こさない製品を選択することが重要である。いろいろ試して、自分に合う保湿剤を探索するのが良い。保湿外用剤の有用性に関する報告としては、今回2003年1月から2009年9月までに発表されたスキンケアに関する文献を網羅的に検索したところ、17例のRCTを含む25例の文献が該当した。これらの文献では、新たに数種類の保湿外用薬、入浴剤、石鹸等の有効性が報告されたほか、保湿外用薬がアトピー性皮膚炎の寛解を維持する効果について報告されていた。また小児アトピー性皮膚炎の治療に保湿外用薬を併用することで、ステロイド外用薬単剤を使用した場合に比べて少量のステロイド外用薬で同等の効果が得られたことが報告されていた。さらに学校でのシャワー浴の実施の仕方とエビデンスが報告されていた。今後さらに保湿外用薬の具体的な使用法やセルフケアについてのエビデンスの蓄積が期待される。
  5. 食物アレルゲン除去食療法[16]
    アトピー性皮膚炎(AD)における食物アレルゲン除去療法、および微生物製剤などの使用を含む食事療法についてのRCT(randomized controlled trial)を中心とした論文の評価をおこなった。これらの除去療法を含む食事療法は主に二つの目的、すなわち1) 既存のADに対する治療として、2) AD発症予防を目的として、行われていた。1) においては、ミルクアレルギーに伴うADにおけるミルク除去および代替ミルクの有効性が示された。一方、微生物製剤などのADに対する治療効果のエビデンスは確立されないと考えられた。2) 発症予防においては、アレルギー疾患発症ハイリスク児におけるミルク、鶏卵などの除去はAD発症を予防することができることが示された。AD発症予防に対する微生物製剤の効果は現時点では否定的である。
  6. 環境アレルゲン[16]
    アトピー性皮膚炎の治療について環境中のアレルゲンの除去療法と免疫療法を中心として研究報告の論文を検索した。Data base はPubMedと医学中央雑誌を検索し検索する年度は1991-2003年と2004年-2009年9月までとした。それぞれ14件、6件の論文を抽出した。アレルゲン除去療法に関する論文は8報と2報であった。除去療法に関する論文で大規模なDouble blindを行う事は困難であり、中規模から小規模のRCTを積み重ねて判定することが重要と考えられた。免疫療法に関する論文は6報と4報であり、2004-2009年の報告では有効であると報告する文献が多かった。投与方法、投与アレルゲンの加工などは各々の報告で異なっていた。今後舌下投与による免疫療法とアトピー性皮膚炎についての報告が期待される。
  7. 紫外線療法[16]
    アトピー性皮膚炎に対する紫外線療法のEBMによる評価を、過去報告された文献をMedlineおよび医中誌にて検索することにより検討した。その結果、1)PUVA療法は重症アトピー性皮膚炎に対してUVB療法より優れた効果を発揮すること、2)UVB療法は中等症アトピー性皮膚炎には有効であること、3)Narrow-band UVB療法は中等症から重症アトピー性皮膚炎に有効であること、4)Narrow-band UVB療法とUVA1療法は同等に有効な効果を示すこと、5)UVA/UVB混合照射単独群より外用併用群の方が効果が早く、UVBの照射量が減少すること、6)高照射量UVA1療法は急性増悪したアトピー性皮膚炎に対しステロイド外用薬と同等の効果を示すこと、7)中等度照射量UVA1療法は高照射量UVA1療法と同等に有効であること、8)紫外線療法には発癌性があり、特に有棘細胞癌とメラノーマの発症は照射回数、総照射量に依存すること、が示されている。しかし、EBMの観点から見るとその報告は十分とは言えず、今後の検討が必要である。
  8. シクロスポリン内服療法[16]
    シクロスポリン内服療法は、アトピー性皮膚炎治療の強力な選択肢として、本邦でも2008年に承認された(先発品のネオーラルのみ)。本研究では、本症治療に置けるシクロスポリン内服療法について2003年以降のエビデンスを検索した。国内外のエビデンスは、2003年以前のものを含めて、すべてがすぐれた有用性を示している。一方、長期使用の有効性と安全性については今後もエビデンスの集積が必要と考えられている。シクロスポリン内服療法にあたっては、適応、投与量、使用期間について添付文書やガイドラインを遵守すべきであり、患者またはその家族に有効性及び危険性を予めよく説明し理解を得た上で投与する必要がある。
  9. 漢方療法[16]
    アトピー性皮膚炎に対する漢方療法について,2003年から2009年9月までに報告された論文を対象としてEBMによる観点から評価を行い,前回のSRに追加した.結果,11編の論文を評価対象として採用したが,前回と同じく症例集積研究が9編と多数を占めていた(残り2編はRCT).いずれの報告においても使用された漢方方剤の有用性が示されおり,かつ重篤な有害事象は認められなかった.その中で,今までにない試みであるが,アンケート調査により患者を特定の「証」を持つ集団に限定し,漢方療法特有の随証治療に準じたといえるデザインでの臨床試験が報告された.質の高い大規模な臨床試験を行うにあたり克服すべき点の多い漢方療法であるが,その特性を生かすことによって,小規模であっても十分に質の高いエビデンスを得られる可能性が示唆された.
  10. 心身医学療法[16]
    アトピー性皮膚炎において心身症としての側面がみられることは多くの皮膚科医によって認識されている。その分類は「心身症診断・治療ガイドライン2006」によると3つの病態に分けられる。1.皮膚症状が心理社会的背景によって寛解・増悪する(狭義の心身症)、2.皮膚疾患を持つが故に、日常生活に障害を生じているもの(アトピー性皮膚炎による適応障害)、3.治療を受けているがよくならないというもの(アトピー性皮膚炎による管理の障害(治療遵守不良))である。後者の2つはどちらもアトピー性皮膚炎による適応障害になるが、特に治療の管理がうまくいかないものを別にしている(表1)(1)。これら3つのパターンは同一患者に複数存在していることが多い。しかし心身症のアトピー性皮膚炎に対する心身医学療法に関しては、実践している皮膚科医が少ないため日本での報告は比較的少ない。一方ヨーロッパではアトピー性皮膚炎に対する心身医学療法が盛んに行われており、その研究報告もいくつかみられる。ここでは上記3つの病態すべてを含めたアトピー性皮膚炎に対する心身医学療法の文献的考察を行う。
  11. 民間療法[16]
    アトピー性皮膚炎(AD)の民間療法に対するRCT臨床研究を中心とした論文の評価を行った。多くは症例報告、症例集積報告による臨床研究が多く認められた。RCT臨床研究を行った報告は国内海外を含めて13例であり、probioticsによる報告などが認められた。いっぽう民間療法においていわゆる不適切治療は数多く報告されている。今回の検討でも2003年以降35例が認められた。これまでの74報告例と合わせて109例の報告となった。不適切治療の多くはステロイド外用薬使用を禁止しているものが多く、不適切治療による皮疹が悪化する症例が多く認められた。民間療法の有用性を理解すると同時に、いわゆる不適切治療に関しては今後も注意が必要である。
  12. 合併症[16]
    アトピー性皮膚炎(AD)には様々な病原微生物感染症が合併しやすいことが知られている。ウイルス性疾患としては、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus; HSV)や伝染性軟属腫ウイルス(molluscum contagiosum virus; MCV)による皮膚感染症がよく知られている。いずれも、健常者においても日常的に認められる感染症であるが、ADを基盤として、重症化すると言われており、前者は広範囲に小水疱が波及する状態となり、カポジ水痘様発疹症、疱疹性湿疹と呼ばれる。伝染性軟属腫は、健康な小児では自然消退も認められるが、湿疹病変や乾燥した皮膚に合併しやすく、ADの患者では広範に拡大し難治化しやすいと言われている。

原因療法薬

ビオチン治療法
各ビタミンの相互作用により、血中ビオチン値の上昇を目的とし、脾臓細胞における、免疫不全症の改善治癒を行うための治療方法である
  1. ビオチン注1mg「フソー」[17]によれば、ビオチンの血中濃度半減期は3時間、5~6時間で体内より糞尿によって排出される。このため、血中濃度を健常者と同程度に上げるには、一日3回~4回、約6~8時間毎の服用が必要である。 服用量はビオチン散0.2%の多量摂取で 1日9mg~12mg、 約3年程度の服用が必要とされる。 ライナスポーリング微量元素研究所[18]によれば、1日10mg以上の摂取はパントテン酸との供用で過剰摂取障害がおきるため、1日10mg以上取る場合は、医者の指導の基に服用したほうが、リスクは少ない。
  2. シナール[19] ビタミンC(アスコルビン酸)とパントテン酸を配合した複合ビタミン剤です。通常、病気、妊娠中または授乳中など、ビタミンCやパントテン酸が不足している場合の補給に用いられます。また、メラニン色素の形成を抑え、皮膚の色素沈着(シミなど)の改善にも用いられます。 ビオチンと同時服用。
  3. ミヤBM細粒[20] 酪酸菌(宮入菌)製剤 腸内細菌叢の異常による諸症状の改善。 ビオチンと同時服用。
  4. 基本的には、上記で服用するが。皮膚患部の痕が残らないようにするには、ステロイド軟膏と白色ワセリンを50%ずつ混ぜて、顔以外の体に毎日2回ほど薄く塗り皮膚の改善とともにステロイドの量を少なくしてゆき、最後は白色ワセリンだけにする。 また、痒みを止めるためには、坑ヒスタミン剤のクラリチン錠なども服用する。
その他
糖尿病などの治療には基本的なビオチンの服用と、クロム(ビオチンとの相互作用はありませんがインスリンとの相互作用があり、ビオチンはインスリンと正の相関関係[21]にあるので、血中ビオチン値が上昇するとクロムインスリンとの相互作用により血糖値が下がるといわれています、注意することは、使用する前に医師、薬剤師に相談し定期的に血糖値を測定する必要があります、血糖値が下がりすぎるおそれがあります。)の服用があります。(ナチュラルメディシンデータベースより)
乳幼児などのビオチンの欠乏(乳幼児は成人に比べると皮疹が出やすい)には、母親から引き継いだ腸内細菌叢が関与している、医師の治療をうけ、一度フリービオチン値が上昇しても、そのままにしておくと、加齢や抗生物質の服用などのため、腸内細菌叢の構成の変化により、フリービオチン値が下がり病気が再発することが考えられる、このことによりフリービオチン値が下がらぬよう、何らかの対策が必要である。

オーダメイド医療

「個人の遺伝子情報に応じた医療の実現プロジェクト」(オーダメイド医療実現化プロジェクト)の対象疾患となっており、一部の大学病院において匿名で血液を提供することで間接的に参加することができる。

その他

  • IPD(アイピーディー)というTh2活性阻害薬が使用されることがある。花粉症でも使われる薬剤である。アトピー性皮膚炎では、Th2細胞の亢進・サイトカインの中のIL-4・IL-5(アレルギー症状を誘発するもの)の産生の増加がみられることがあるため、効果があるとされている。効果が現れるのには数週間ほど時間がかかるという特徴がある。
  • 痒みが強く睡眠がとれない場合、必要に応じて睡眠薬・抗うつ薬を使用することがある。
  • 掻破による傷がある場合、亜鉛華軟膏を使用することがある。
  • ステロイドは使用されていないとして販売された化粧用保湿クリームに、ベリーストロングのステロイドが少量混入されている事件が全国で数社、およそ数千個発覚し注意が促されている。ステロイドが入っていないと信じて赤ちゃんや顔に使用した人がいるため注意を呼びかけるニュースが流れた。これらのクリームを使用した人は、使用をやめると皮膚がカサカサし、それがリバウンド症状に似ていることから気づいて訴え、調査から相当時間がたって混入が発覚した。

差別問題

関連項目

脚注

  1. ^ a b c Báez-Saldaña A, Díaz G, Espinoza B, Ortega E(1998). “Biotin deficiency induces changes in subpopulations of spleen lymphocytes in mice.”. Am J Clin Nutr. 67 (3): 431-7. PMID 9497186
  2. ^ a b 西原修美「ビオチン欠乏症」、『Nutrition Support Journal』第6巻、2005年、18-20。PDF 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "exllk"が異なる内容で複数回定義されています
  3. ^ 柴田克己 他 『日本人の食事摂取基準(栄養所要量)の策定に関する基礎的研究』 平成16-18年度 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)PDF
  4. ^ a b c 渡邊敏明 『ビオチンの生理機能と健康影響』2003年1月 ビタミン広報センター (ニュースレター) No. 106 PDF
  5. ^ Ono SJ[Author] AND "Annu Rev Immunol"[Journal]2000;18:347-66.[1]
  6. ^ a b c d 日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」PDF
  7. ^ 内田恵美子・筏義人「培養皮膚モデルを用いた界面活性剤の皮膚一次刺激性の評価」、『日本家政学会誌』第58巻、2007年、197-202。PDF
  8. ^ 内田恵美子「三次元培養皮膚モデルを用いた衣服の安全性試験法」、『奈良教育大学紀要』第56巻、2007年、29-33。 PDF
  9. ^ "J Invest Dermatol"[Journal] AND 2009[PDAT] AND 129[VOL] AND 1892-1908[PAGE]2009 Aug;129(8):1892-908. Epub 2009 Jun 4.[2]
  10. ^ 前橋賢(アトピー性皮膚炎を理解していただくために)[3]
  11. ^ 千葉大学大学院公衆衛生学 (2010年)“ビオチンと病気”。 [4]
  12. ^ Sone H, Ito M, Sugiyama K, Ohneda M, Maebashi M, Furukawa Y (1999). “Biotin enhances glucose-stimulated insulin secretion in the isolated perfused pancreas of the rat.”. J Nutr Biochem. 10 (4): 237-43. PMID 15539296
  13. ^ 曽根英行、渡邊敏明、古川勇次「ビオチンによるインスリン分泌修飾に関する研究」、『Trace Nutrients Research』第24巻、2007年、163-170PDF
  14. ^ 渡辺敏明・福井徹 『糖尿病精密検査該当者における血清ビオチンと血糖との関連についての検討』 1995年 第12回 微量栄養素研究会シンポジウムPDF
  15. ^ 岡山大学病院 検査部/輸血部IgE[5]
  16. ^ a b c d e f g h i j k l 厚生労働省研究班(よりよい治療のためのEBMとデータ集)[6]
  17. ^ ビタミンH製剤PDF
  18. ^ Linus Pauling Institute at Oregon State University (オレゴン州立大学・ライナスポーリング微量栄養素情報センター)[7]
  19. ^ シナール配合錠/シナール配合顆粒 PDF
  20. ^ ミヤBM細粒(生菌製剤)PDF
  21. ^ Sone H, Ito M, Sugiyama K, Ohneda M, Maebashi M, Furukawa Y (1999). “Biotin enhances glucose-stimulated insulin secretion in the isolated perfused pancreas of the rat.”. J Nutr Biochem. 10 (4): 237-43. PMID 15539296

参考文献

  • 前橋賢 『免疫異常症としての掌蹠膿疱症性骨関節炎とビオチン欠乏』1998年 第95回日本内科学会
  • 早川享志 『ビタミンB2およびB6と生活習慣病』 岐阜大学応用生物科学部食品科学系 PDF
  • 柴田克己 他 平成17年度厚生労働科学研究費(循環器疾患等総合研究事業)日本人の食事摂取基準(栄養所要量)の策定に関する研究
    • 『日本人の母乳中の水溶性ビタミン含量についての検討』 PDF
    • 『ビタミンと健康』 PDF
    • 『ビオチンの大量摂取がラットに与える影響』 PDF
    • 『ビオチン欠乏状態における 3-hydroxyisovaleric acid の新規な指標としての有用性についての検討』 PDF
    • 『日本人におけるビオチン摂取量の推定についての検討』 PDF
  • 柴田克己 他 『水溶性ビオチンの食事摂取基準の妥当性の検討-ビオチン-』 厚生労働科学研究費(効果的医療技術の確立推進臨床研究事業)日本人の水溶性ビタミン必要量に関する基礎的研究 PDF
  • 柴田克己 他 『健常成人女性におけるビオチンの吸収と排泄についての検討』 平成18 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)日本人の食事摂取基準(栄養所要量)の策定に関する研究 PDF
  • 神田奈緒子「抗真菌薬はアトピー性皮膚炎の患者T細胞のIL-4、IL-5を抑制する」『日本医真菌学会』第45巻、2004年、137-142頁。  PDF

外部リンク

診断ガイドライン

治療ガイドライン

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