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東京メトロ16000系電車

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うぃきp


東京地下鉄16000系電車
16000系 第3編成 小田急線内試運転の様子
(2010年11月17日 小田急多摩センター駅
基本情報
製造所 川崎重工業
主要諸元
編成 10両編成
軌間 1,067mm
電気方式 直流1,500V(架空電車線方式)
最高運転速度 千代田線80km/h
常磐緩行線90km/h
小田急線100km/h
設計最高速度 110km/h
起動加速度 3.3km/h/s
減速度(常用) 3.7km/h/s
減速度(非常) 4.7km/h/s
編成定員 1,518人
車両定員 先頭車143人(座席定員…48人)
中間車154人(座席定員…54人または51人)
自重 26.5 - 36.5t
編成重量 299.8t
全長 先頭車20,470mm
中間車20,000mm
全幅 車体基準幅:2,800mm
全高 パンタグラフ設置車両 4,080mm
それ以外 4,075mm
台車 モノリンク式ボルスタ付き台車
FS779形
主電動機 永久磁石同期電動機 205kW
駆動方式 WN平行カルダン駆動方式
歯車比 109:14 (7.79)
編成出力 3,280kW
制御装置 東芝IGBTVVVFインバータ制御
制動装置 ATC連動電気指令式空気ブレーキ回生ブレーキ併用)純電気ブレーキ
保安装置 千代田線・JR線用新CS-ATC(ATC-10型)
小田急線用D-ATS-P(OM-ATS切換機能付)
備考 車両性能(加減速度)はレールアンドテック出版「鉄道車両と技術」No.169号参照。
第51回(2011年
ローレル賞受賞車両

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東京地下鉄16000系電車(とうきょうちかてつ16000けいでんしゃ)は、東京地下鉄(東京メトロ)千代田線用の通勤形電車2010年平成22年)11月4日から営業運転を開始した[1]。2011年鉄道友の会ローレル賞選定車両[2][3]

概要

千代田線において1971年(昭和46年)から使用を開始した6000系は、1990年代以降各種更新工事を実施してきたが、機器の老朽化や、初期の車両が当初想定した耐用年数の40年に近づきつつあることから、同系の代替車両として導入を進めることとなった。

本形式は列車運行にともなうエネルギーのより効率的な使用を目指したもので、千代田線の6000系に代わる環境配慮型の車両として開発された。東京地下鉄では従来から省エネルギー化・安全性の向上・快適性の向上・バリアフリー化の促進等を重視した車両を製作しているが、本系列では新たに環境をコンセプトに設計を実施した。デザインはフェラーリのデザインで知られる奥山清行が監修した[4]

本系列は2010年平成22年)5月から運用開始された東西線用の15000系と同様に、従来車の代替目的で導入された車両であり、10000系以降の新しい付番方法に則った形式称号にも、2世代にわたって千代田線用車両の形式に使われた「6」[5]が含まれている。

車体

車体はアルミニウム合金を使用したダブルスキン構造を採用し、側構体の接合には摩擦攪拌接合(FSW)を使用し、精度の高い仕上がりとした。また、廃車時におけるリサイクル性を向上させるため、各部材のアルミ合金材質の統一を図っている。車体構造には衝突事故時の安全性を高めるため、車端部の隅柱は厚肉化した三角形断面構造を持つ衝突柱とし、側構体とは強固に接合する構造を採用している。

前面デザインは、第1 - 5編成が有楽町線副都心線で運用されている10000系同様に中央貫通構造プラグドア)を採用したものの、第6編成以降では非常用貫通扉をやや左側にした左右非対称前面を採用している[6]。前面窓の下には千代田線のラインカラーである緑色を基調とし、白のラインを配している。側面は側窓下と屋根肩部に緑色のラインカラーを基本に、白色とライトグリーンを配している(屋根肩部は白色なし)。

全長(連結面間距離)は中間車では基準となる20,000mm(20m)だが、先頭車乗務員室スペースを確保するために20,470mm(20.47m・47cm長い)とした。床面高さについてはバリアフリーの観点から1,140mmとして、プラットホームとの段差を極力低減させた。

16000系 第7編成(2011年7月4日 代々木上原駅
第6編成以降は、貫通扉の位置が左寄りに変更された。

内装

客室内は白色の内張りを基本とし、妻面や袖仕切の一部、床敷物には紺色を採り入れている。本系列の天井部は乗客が広く感じられるように側天井部を曲面形状としたものとし、中央天井部は補助送風機(ラインデリア)の収納された整風板、ラインフロー(冷房吹出口)の一体となったパネル構造を採用した。

座席はドア間が7人がけ、車端部が3人がけのロングシートで、1人分の掛け幅は460mm、モケットを紺色としたバケットシートを採用した。座席部には上部の荷棚からゆるやかな弧を描いてつながるスタンションポール(縦握り棒)を配置し、ユニバーサルデザインにも配慮したものとしている。7人がけ席のスタンションポールの内側2本は、2・3・2の着席区分を兼ねている。側窓はドア間の2連窓は開閉可能な下降窓、車端部には固定窓を配置するもので、遮光用にロールアップカーテンを設置する。

10000系に引き続いて荷棚はアルミ製のフレームに強化ガラスの底板をはめ込んだものを、連結面貫通扉には強化ガラス製の扉を採用している。さらに本系列では袖仕切部の一部にも強化ガラスを取り入れて、車内を開放感のあるものとしている。

優先席部においては座席表地をライトブルーとして区別し、つり革を一般席の白色からオレンジ色とし、袖仕切握り棒にもオレンジ色を配置した。なお、優先席を考慮した車端部においては荷棚高さは一般席の1,750mmから1,700mm(50mm低下)とし、つり革高さも一般席の1,640mmから1,580mm(60mm低下)として使いやすさの向上を図っている。

バリアフリーの向上のため、各出入口部では床面に黄色の「出入口識別表示板」を配置し、ドア開閉時(または乗降促進スイッチ使用時)に連動して赤く点滅する「ドア開閉表示灯」を設置した。車椅子スペースは編成中の2号車と9号車の車端部に設置している。

冷房装置には近年の新造車と同様の集中形で能力58.0kW (50,000kcal/h) の装置を搭載している。

旅客案内機器
LCD車内案内モニター
LED式方向幕

車内の各ドア上部には17インチ液晶ディスプレイ (LCD・TVIS) を用いた車内案内表示器を設置した。LCD画面は2台が設置され、左側をTokyo Metro ビジョン広告動画用として、右側を行先案内・乗り換え案内等の旅客案内用として使用する。ドア点検蓋を兼ねるこの部分もアルミ押出材であるが、冷たい感じを与えないよう周囲の内張りに合わせて白色に塗装されている。右側のディスプレイの駅名表示は、漢字→ひらがな→ローマ字→漢字…を回転させながらアニメーションのような表示をする。ホーム案内も、進行方向から向かうような感じで表示している。

放送装置には自動放送装置(乗り入れ路線も含め対応)を搭載しているほか、車外案内用に車外スピーカーを設置している。ただし、常磐線内では自動放送は使用していない。

車外の前面・側面に設置する行先表示器には15000系に引き続き種別表示フルカラーLED、行先表示(と運行番号表示)には白色LEDを採用し、視認性の向上を図っている。従来車とは違い、取手方面行きの場合は代々木上原から取手間および代々木上原方面行きの場合は取手から綾瀬間で「各駅停車」を表示する。

乗務員室
運転台

第1 - 5編成の乗務員室は中央貫通構造のため、正面パネル部は狭く、また右斜めにも機器を設置する構造である。運転台には、千代田線用の自社車両では初めての採用となる左手操作式ワンハンドルマスコンと、速度計・圧力計等の計器類を液晶モニタに集約したグラスコックピット構造を採用した。

この液晶画面は正面パネルに2画面が設置され、通常は左側を計器表示用、右側を車両制御情報管理装置(TIS)用として使用するが、故障時には相互でバックアップできる機能を設けている。右側部には運転士放送操作器と列車無線ハンドセット(東京地下鉄/小田急用とJR線デジタル無線用)とJR線用デジタル無線簡易モニター表示器を設置する。

走行機器など

主電動機には1時間定格出力205kWの東芝製の永久磁石同期電動機[7]PMSM・東京地下鉄形式MM-S5A形・メーカー形式SEA-535形)を採用した。永久磁石は信越化学工業製の「レア・アースマグネット」を使用している[8]。PMSMを採用することで従来の三相誘導電動機よりもエネルギー効率を高くすることができ(従来の92%を96%まで向上)、さらには全密閉構造とすることで低騒音も実現させた。PMSMを採用することで、従来の三相誘導電動機を使用する10000系と比較して消費電力を10%削減できるものとしている。

このPMSMは、日本国内の新製車両としては東日本旅客鉄道(JR東日本)のE331系に続いて2例目の採用となるが、同車は車軸直接駆動 (DDM) 方式を採用しており、歯車減速式駆動方式における同電動機の採用は本系列が日本初となる。なお、東京地下鉄では銀座線01系01-238号車においてPMSMの実用試験が行われており、既に丸ノ内線02系大規模改修車において正式に採用されている。

制御装置には02系大規模改修車と同じ東芝製のIGBT素子を使用した2レベルVVVFインバータ制御純電気ブレーキ対応)を採用した。歯車比は109:14 (7.79) と高くとり、制御方式は各軸個別方式の1C1M4群制御としており、編成形態は10両編成で4M6T構成としている。個別制御の場合には制御装置本体は大形化が予想されるが、本形式では2群分の素子冷却フィンを1台に集約した「2in1形」を採用することで装置本体の小型化図った。

この主電動機出力や歯車比を含め、編成形態は千代田線06系東西線05系6・7次車07系と同様の編成形態である。ただし、これらの車両の主電動機は通常のかご形三相誘導電動機を使用している点が異なる。

ブレーキ制御は06系などの4M6T車で採用した1M1.5T遅れ込め制御ではコスト面等で不利なことから、各MT車構成を基本とした回生ブレンディング制御を採用した。これは車両制御情報管理装置 (TIS) の機能の一部として、各MT車単位を基本しながら、これに除外されるT車2両分も遅れ込め制御も行い、編成全体を「編成統括ブレンディング制御」するものである。

この編成統括ブレンディング制御の採用による回生性能の向上(従来の回生率約35%を約60%まで向上)や主回路面における各種省エネルギー化目的の改良により、同様の編成形態である06系と比較して、車両重量差を考慮しても約41%の消費電力削減が達成されている[9]

台車は10000系以降の新製車で採用したモノリンク式軸箱支持構造のボルスタ構造台車(FS779形)を採用した。この台車は走行安全性の向上や輪重調整作業等の保守性の向上を目的に採用を進めているものである。電動台車はFS779M形、付随台車はFS779T形、先頭車前位寄りはFS779CT形と称する。

補助電源装置にはIGBT素子を使用した240kVA出力の富士電機システムズ静止形インバータ (SIV) を編成で2台搭載している。電源出力は三相交流440Vとしており、故障時には編成で電源供給を行う受給電箱を16600形に設置している。

空気圧縮機は実績のあるスクロール式コンプレッサ(MBU1600YG-2形・吐出量1,600L/min)が採用されている。この装置は周辺機器を含め一体の箱に収めたもので、騒音低減やメンテナンス性に優れたものである。

保安装置は千代田線とJR常磐緩行線用として車内信号現示による新CS-ATC装置(ATC-10型)を搭載するほか、小田急電鉄用としてD-ATS-P装置(OM-ATS切換機能付)を搭載している。

編成表

 
形式 16100形
(CT1)
16200形
(M')
16300形
(T)
16400形
(M)
16500形
(Tc1)
16600形
(Tc2)
16700形
(M)
16800形
(T')
16900形
(M')
16000形
(CT2)
機器配置   VVVF BT,CP VVVF SIV,CP SIV VVVF BT,CP,IR VVVF  
車内設備   [車]             [車]  
車両番号 16101
:
16116
16201
:
16216
16301
:
16316
16401
:
16416
16501
:
16516
16601
:
16616
16701
:
16716
16801
:
16816
16901
:
16916
16001
:
16016
凡例
  • CT -(付随制御車
  • Mc - 簡易運転台付き電動車
  • Tc - 簡易運転台付き付随車
  • M - 中間電動車
  • T - 中間付随車
  • VVVF - 主制御装置
  • SIV - 静止形インバータ
  • BT - 蓄電池
  • CP - 空気圧縮機
  • IR - 誘導無線アンテナ
  • [車] - 車椅子スペース

運用

千代田線(綾瀬 - 代々木上原)を中心に、乗り入れ先のJR常磐緩行線、小田急小田原線・多摩線でも運用される。

小田急線との直通種別は多摩線唐木田駅発着の急行多摩急行のみで、小田原線本厚木駅発着の準急2003年(平成15年)3月29日改正以後すべて小田急の車両に限定されているため、東京メトロの車両による運用はない。また、ダイヤが乱れて小田急線と千代田線の相互直通運転が中止されると、通常は東京メトロの車両が走らない代々木上原駅 - 小田急線新宿駅の区間を運転することもある。この場合、従来の6000系・06系にはなかった「新宿」の行先が表示される。

今後の予定

2010年平成22年)度から2012年平成24年)度にかけて10両編成16本が順次導入される予定[10]で、2011年(平成23年度)度は10両編成9本が導入される[11]。これに伴い6000系チョッパ制御車を中心に置き換えを進める予定である[10]

2010年7月29日に第1編成が川崎重工業から出場し、綾瀬車両基地まで甲種輸送された[12]

営業運転は同年11月4日に04S運用にて開始され、当初メトロ線内の限定で運用された後、24日よりJR線で、26日からは小田急線でも運用が開始された[13]

脚注

  1. ^ 東京メトロ16000系が営業運転を開始」交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース、2010年11月5日
  2. ^ ブルーリボン・ローレル賞2011年 - 鉄道友の会 2011年5月24日
  3. ^ 東京メトロ千代田線新型車両16000系が「ローレル賞」を受賞 (PDF) - 東京地下鉄ニュースリリース 2011年5月24日
  4. ^ 『週刊東洋経済』2011年7月8日臨時増刊号P112
  5. ^ 6000系と06系
  6. ^ 「東京地下鉄16000系第6編成が甲種輸送される」 - 交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース、2011年4月2日(2011年4月3日閲覧)
  7. ^ 端子電圧880V・電流168A・周波数115Hz・定格回転数2,300rpm。
  8. ^ TECHNO-FRONTIER 2011 第29回モータ技術展 信越化学工業展示ブース 製品説明パネルより
  9. ^ レールアンドテック出版「鉄道車両と技術」No.178記事「東京メトロにおける省エネルギー技術」参照。
  10. ^ a b “新車ガイド2 東京地下鉄16000系”, 鉄道ファン (交友社): pp. 66, (2010年11月1日) 
  11. ^ 平成23年度(第8期)事業計画(東京地下鉄株式会社)(2011年3月30日閲覧) (PDF)
  12. ^ 東京メトロ16000系が甲種輸送される」『鉄道ファン交友社 railf.jp鉄道ニュース 2010年8月1日
  13. ^ 東京メトロ16000系 直通運用開始」 - ネコ・パブリッシング『鉄道ホビダス』RMニュース、2010年11月29日

参考文献

  • 交友社鉄道ファン」2010年11月号新車ガイド「東京地下鉄16000系」(東京地下鉄(株) 鉄道本部車両部設計課 砥上 靖弘 著 )
  • 鉄道図書刊行会鉄道ピクトリアル」2010年12月号New model「東京地下鉄16000系」(東京地下鉄(株) 鉄道本部車両部設計課 世木 智博 著 )

関連項目

外部リンク